説明

複合材料から部品を製造する方法および装置

母材と複数の補強要素(CNTs)とを備える複合材料から部品を加法的に製造する方法であり、各層が前の層の上に形成されるように複合材料の一連の層を形成し、複合材料に対し、次の層が上に形成される前に、補強要素の少なくとも一部を回転させる電磁場を印加する。構造プラットフォームと、構造プラットフォーム上に複合材料の一連の層を形成するためのシステムと、電磁場を印加するための電極とを備えた装置もまた開示される。CNTsおよび母材からなる複合粉体とその製造方法は、本出願の第2の目的として開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料から部品を製造する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液状の複合材料母材中でカーボンナノチューブ(CNTs)を配列するために電磁場を利用することはよく知られている。例えば、「電界を用いて配列させた単層カーボンナノチューブポリマー複合体」C.パーク、J.ウィルキンソン、S.バンダ、Z.ウナイエス、K.E.ワイズ、G.サウティ、P.T.リルハイ、J.S.ハリソン、ジャーナルオブポリマーサイエンス:ポリマーフィジックス2006年、44巻、1751−1762頁(“Aligned Single Wall Carbon Nanotube Polymer Composite Using an Electric Field” C. park, J. Wilkinson, S. Banda, Z. Ounaies, K.E. Wise, G. Sauti, P.T. Lillehei, J.S. Harrison, Journal of Polymer Science Part B: Polymer Science 2006, 44, 1751-1762)では、交流電界を様々な強度や周波数で印加している。
【0003】
こうした技術の問題は、電磁場は、CNTsを比較的薄い層の内部でしか配列できないことである。CNTsをバルク材中で配列するには、十分強い電磁場を用い、その体積内にわたって複合材料マトリクスの粘性を克服しなければならず、極めて困難である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第一の態様によれば、母材および複数の補強要素を備える複合材料から部品を加法的に製造する方法であって、各層を前の層の上に形成するように複合材料の一連の層を形成し、複合材料に対し、次の層が上に形成される前に、補強要素の少なくとも一部を回転させる電磁場を印加する方法が提供される。
【0005】
各層は、その上に次の層を形成する前に、層の選択された部分へエネルギーを照射することによって、固結および/または硬化されてもよい。例えば、本発明の好適な実施形態における“粉体層(powder bed)”の形態では、複合材料は粉体で構成され、各粉体粒子は母材内に含まれた複数の補強要素を備える。エネルギーは、母材を溶かすことにより、各層の選択された部分を固結する。この際、電磁場は、補強要素の少なくとも一部を回転させる。
【0006】
典型的には、複合材料は、電磁場が印加されている状態で例えばかき混ぜる、あるいは、超音波撹拌によって撹拌される。
【0007】
補強要素は電磁場が印加される前に整列してもよく、その際に、まとまって回転してもよい。例えば、電磁場は、垂直配向から傾斜配向へとこれら要素をまとまって回転させてもよい。ただし、要素の少なくとも一部を互いに回転させることが好ましく、無秩序状態から共に配列された状態となる。
【0008】
少なくとも2つの層に対して相異なる電磁場を印加することにより、複合材料の性質を制御してもよい。例えば、印加する電磁場の方向、パターン、強度および/または周波数を層間で変化させればよい。
【0009】
典型的には、この方法は、少なくとも2つの層の相異なる形状、寸法、パターンで形成することを含む。この方法は、所望の網目形状のコンピュータモデルの制御下で各層を形成することにより、複合材料をいわゆる“網目状”に形成できるようにする。
【0010】
補強要素は、典型的には、管状、繊維状、または平板状等の細長い形状を有する。補強要素を、中実又は中空としてもよい。例えば、補強要素は、単層のナノチューブ(CNTs)備えてもよく、複層CNTs、カーボンナノファイバ、または、アモルファスカーボンないし金属で被覆されたCNTsを備えてもよい。
【0011】
典型的には、少なくとも一つの補強要素の縦横比は、100以上、好ましくは1000以上、より好ましくは106以上である。
【0012】
補強要素は、炭化ケイ素やアルミナ等のいずれの材料で形成されてもよいが、炭素から形成されることが好ましい。これは、炭素間結合の強度や剛性、および、炭素材料に見い出される電気的性質による。
【0013】
本発明の第二の態様によれば、母材と複数の補強要素を備える複合材料から部品を加法的に製造する装置であって、構造プラットフォームと、このプラットフォーム上に、各層を前の層の上に形成するようにして複合材料の一連の層を形成するためのシステムと、次の層が上に形成される前に、前記複合材料に対して補強要素の少なくとも一部を回転させる電磁場を印加するための電極とを備える装置が提供される。
【0014】
本発明の第三の態様によれば、粉体粒子の各々が母材中に含まれる複数の補強要素を備える複合粉体が提供される。
【0015】
本発明の第四の態様によれば、母材中に含まれる複数の補強要素を備える繊維を、それぞれが粉体粒子となる一連の長さに寸断する、複合粉体の製造方法が提供される。
【0016】
典型的には、繊維中の補強要素は、少なくとも部分的には互いに配列されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の実施形態を、以下の図を示しながら説明する。
【図1】繊維の断面図である。
【図2】一連の長さに寸断された繊維を示す図である。
【図3】不規則に3次元配列される粒子を含むポリマー粉末層を示す図である。
【図4】粉体層の加法的製造システムを示す図である。
【図5】電磁場によって配列される層を示す図である。
【図6】ポリマー粉末を溶融して固結層とするエネルギー源を示す図である。
【図7】3層からなる複合材料を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、繊維1の一部を示す。繊維1は、ポリマー母材内に含まれる複数の単層カーボンナノチューブ(SWNTs)2を備える。これらSWNTs2は、繊維1の長さ方向に平行に配列されている。
【0019】
繊維1は、電界紡糸や溶融紡糸を含んだ多くの方法で形成することができる。電界紡糸の場合、溶液の液滴に(ほとんどの場合、金属の針先に)電界を印加することによって、繊維1が粘着性のあるポリマー溶液から引き伸ばされる。溶液には、無秩序に配列されるSWNTsが含まれているものの、これらSWNTsは、電界紡糸の過程において少なくとも部分的に整列された状態になる。例えば、以下の文献を参照されたい。
1.「電界紡糸カーボンナノチューブ−ポリマー複合材料の性質」;ヘイディ・スクルーダー‐ギブソン、クリス・セネカル、マイケル・セネット、ジョンピン・ホァン、ジャングオ・ウェン、ウェンジャ・リー、ドゥージャー・ワン、シャオシエン・ヤン、イ・トゥル、ジャーファン・レン、チャンモア・スン;オンライン入手先:http://lib.store.yahoo.net/lib/nanolab2000/Composites.pdf
(CHARACTERISTICS OF ELECTROSPUN CARBON NANOTUBE-POLYMER COMPOSITES; Heidei Schreuder-Gibson, Wenzhi Li, Dezhi Wangl, Shaoxian Yang, Yi Tul, Zhifeng Ren & Changmo Sung)
2.「カーボンナノチューブ‐ポリマーナノ複合材料の電界紡糸ファイバーに対する事前処理と特性評価」と題する論文の概要;ヴィヴェーカーナンダ・スンダラィ;オンライン入手先:http://www.physics.iitm.ac.in/research_files/synopsis/bibek.pdf
【0020】
図2に示すように、その後、繊維1は一連の短い長さ3に細断される。各長さ3は、粉体粒子としての性質を有している。
【0021】
この粉体は、図3ないし図6に示す粉体層の加法的製造過程における供給原料として用いられる。なお、図3ないし図6では、粉体粒子3は細長い円柱の代わりに球形で概略的に示される。
【0022】
図3に示すように、粉体粒子3は、当初、3次元的に無秩序に配列されている。
【0023】
図4は、粉体層の加法的製造システムを示す。ローラ(図示せず)は、一対の供給容器(図示せず)の一方から粉体の供給原料を受け取り、構造プラットフォーム10の上で、途切れなく連続する粉体層を転動させる。ローラは、図4に示すように、ある程度隣接するポリマー粉体粒子の充填に寄与する。
【0024】
加法的製造システムに組み込まれるのは、強電磁場の供給源(すなわち電極11、12)、および、超音波ホーン14のような撹拌用超音波供給源である。
【0025】
超音波撹拌の下では、粒子3は各自の軸周りに自由に回転できる。しかし、一旦電磁場が印加されれば、図5に示すように、粒子は回転して電磁場の印加方向に対し互いに整列する。
【0026】
なお、電磁場は、多様な形式で印加することができる。例えば、電磁場は直流(AC)でも交流(DC)でもよいし、電界成分または磁界成分のいずれが優勢であってもよい。適当な電磁場の例は、以下の文献に記載されている。
1.http://www.tmmag.com/Stories/2004/042104/Magnets_align_nanotubes_in_resin_Brief_042104.html. 本論文は、単層ナノチューブがチキソトロピック樹脂と混合された過程について記載している。混合物が15テスラ以上の磁場中に曝されると、ナノチューブは磁界方向に整列した。
2.「電界を用いて配列させた単層カーボンナノチューブポリマー複合体」C.パーク、J.ウィルキンソン、S.バンダ、Z.ウナイエス、K.E.ワイズ、G.サウティ、P.T.リルハイ、J.S.ハリソン、ジャーナルオブポリマーサイエンス:ポリマーフィジックス2006年、44巻、1751−1762頁(“Aligned Single Wall Carbon Nanotube Polymer Composite Using an Electric Field” C. park, J. Wilkinson, S. Banda, Z. Ounaies, K.E. Wise, G. Sauti, P.T. Lillehei, J.S. Harrison, Journal of Polymer Science Part B: Polymer Science 2006, 44, 1751-1762) 本論文では、CNTsを配列させるために、交流電界を様々な強度や周波数で印加している。
【0027】
こうして電磁場がかけられたままの状態で、ポリマーマトリクス複合体を溶融して固結層16を形成するため、図6に示した熱源を作動する。ただし、溶融されてもCNTs全体の配向は保たれる。熱源15は、例えば、ビームを構造プラットフォームを横切って走査し、層の選択された部分にエネルギーを照射するレーザであってよい。層の選択部分は、熱せられて溶融し、固結する。溶融されない粉体は、工程終了後に取り除くことができる。
【0028】
この工程を繰り返すことによって、図7に示す一連の層16、21、および22を有する部品20が形成される。レーザビームは、各層を個別に所望の網目形状に形成するようにコンピュータモデルの制御下で走査、調節される。ここで、層16および層21内のCNTsは、その上に次の層が形成される前に配列される。こうした漸進的ないし逐次的な手法でCNTsを配列することにより(全ての層のCNTsを全部一度に配列しようとする代わりに)、所望の度合いで配列させるのに比較的小さなエネルギーで済む。
【0029】
なお、構成層のうちの少なくとも2つについて、それらの原料に対し相異なる電磁場を印加することにより、部品の性質を制御してもよい。例えば、図7において、SWNTsは、構造プラットフォームに対して層16では90度、層21では−45度、層22では+45度でそれぞれ配列している。このように配向方向を変化させるのと同様、印加電磁場のパターン、強度、または周波数を層によって変えるようにしてもよい。
【0030】
以上のように、本発明は一以上の好適な実施例によって説明されるが、特許請求の範囲で定義する本発明から逸脱することなく種々の変更や変形がなされてもよい。
【0031】
例えば、第一の変形例として、複合材料をタンクに収容された光硬化性溶液で構成してもよい。タンク内には、溶液の薄膜層を形成するように液面からわずかに持ち上げられた状態で構造プラットフォームが収容されている。薄膜層は、選択された形状にレーザで走査され、選択的に溶液が硬化する。
【0032】
第2の変形例として、複合材料を、供給端から組み立て領域の選択部分に付着させるようにしてもよい。このような工程は“粉体供給”工程と呼ばれ、粉末原料がノズルから放出されるが、粉末原料はノズルから離れる際に溶融する。ノズルは構造プラットフォームを横断するように走査され、溶融した粉体流の放出・停止は、要求に応じて切り替えられる。その際、補強要素は、供給端より離れる際に、あるいは構造プラットフォームに付着した後にその上で回転するようにしてよい。上述の方法と同様に、部品は一連の層から組み立てられるが、この際に、複合体を非平面状および/または非水平状としても構わない。
【符号の説明】
【0033】
1 繊維
2 単層カーボンナノチューブ(SWNTs)
3 粉体粒子
10 構造プラットフォーム
11、12 電極
14 超音波ホーン
15 熱源
16、21、22 固結層
20 部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と複数の補強要素とを備える複合材料から部品を加法的に製造する方法であって、
各層が前の層の上に形成されるように複合材料の一連の層を形成し、
複合材料に対して、次の層が上に形成される前に、補強要素の少なくとも一部を回転させる電磁場を印加することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
各層の選択された部分に対し、次の層が上に形成される前にエネルギーを照射して、エネルギーが、各層の選択された部分を硬化および/または固結することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
複合材料は粉体で構成され、各粉体粒子は母材中に含まれる複数の補強要素を備えると共に、エネルギーが母材を溶融して粉体の層の選択部分を固結することを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
電磁場は粉体粒子の少なくとも一部を回転させることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
複合材料を電磁場を印加中に撹拌することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
複合材料を超音波により撹拌することを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
補強要素の少なくとも一部が互いに対して回転することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
少なくとも2つの層に対して、相異なる電磁場を印加することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
少なくとも2つの層を、相異なる形状、寸法、またはパターンで形成することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
補強要素が、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバを備えることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
補強要素が単層カーボンナノチューブを備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする複合部品。
【請求項13】
母材と複数の補強要素とを備える複合材料から部品を加法的に製造する装置であって、
構造プラットフォームと、
構造プラットフォーム上に、各層を前の層の上に形成するようにして複合材料の一連の層を形成するためのシステムと、
複合材料に対して、次の層が上に形成される前に、補強要素の少なくとも一部を回転させる電磁場を印加するための電極と、
を備えたことを特徴とする装置。
【請求項14】
粉体粒子の各々が、母材中に含まれる複数の補強要素を備えることを特徴とする複合粉体。
【請求項15】
補強要素がカーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバを備えることを特徴とする請求項14に記載の複合粉体。
【請求項16】
補強要素が単層カーボンナノチューブを備えることを特徴とする請求項14または15に記載の複合粉体。
【請求項17】
各粉体粒子内に含まれる補強要素が少なくとも一部が互いに配列されることを特徴とする請求項14から16のいずれか一項に記載の複合粉体。
【請求項18】
母材中に含まれる複数の補強要素を有する繊維を、それぞれが粉体粒子となる一連の長さに細断することを特徴とする複合粉体の製造方法。
【請求項19】
繊維中の補強要素は、少なくとも一部が互いに配列されることを特徴とする請求項18に記載の複合粉体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−538861(P2010−538861A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520632(P2010−520632)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【国際出願番号】PCT/GB2008/050682
【国際公開番号】WO2009/022167
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(508305926)エアバス オペレーションズ リミティド (38)
【Fターム(参考)】