説明

複合材料の製造方法

【課題】本発明の目的は、弾性材料前駆体にコイル状炭素繊維を混ぜた場合のように不溶状態において、コイル状炭素繊維の高次構造を損なうことなく均一な混合・分散を行い、かつ元々コイル状炭素繊維に包含されている気泡および混合時に発生する泡を効果的に除去する方法を提供することである。
【解決手段】容器内の弾性材料前駆体に、コイル状炭素繊維が1.0〜20.0重量%の割合になるように添加し、前記容器を自転運動させるとともに公転運動させて、15秒以内の時間混合し、0.1〜50kPaの減圧下で、さらに30秒〜5分間混合して、得られる混合物を所望の鋳型に充填して固化することにより、弾性材料内にコイル状炭素繊維が固定されてなる複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性材料内にコイル状炭素繊維を分散させて固定した複合材料の製造方法に係り、近接・接触情報を高精度に検出することが可能なセンサであって、例えば、人型ロボットや義手・義足の代替皮膚、医療用診断装置の触診や接触・衝突事故防止、乗用・エレベータ用ドアや回転ドアの安全センサ、各種工業の表面性状検査用センサなどに利用可能な複合材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人の指は、対象物の形状、温度、表面状態などを認識するための感覚器であり、接触によって様々な情報を収集する。この人間の皮膚感覚は、裸眼では捉えることのできない表面粗さ、柔軟性、質感などを高感度で知覚し、視覚による情報に加えて対象物を認識する際に、重要な情報源としているのである。その皮膚感覚の構造は、表面より、表皮、真皮、皮下脂肪から成り、真皮乳頭の先端にマイスナー小体が、真皮乳頭の付け根にメルケル盤が,真皮内部にルフィニ終末が、皮下脂肪内部にパチニ小体がそれぞれ配置され、種々の外部刺激を感受・識別している。中でも機械的な変形・触圧を検出する機械触覚受容器として重要なのはマイスナー小体で、らせん状軸索構造を有している。
【0003】
これはコイル状炭素繊維(カーボンマイクロコイル)の構造と類似している。本発明者らは、前記皮膚の高度な構造に習って、弾性材料中にコイル状炭素繊維を添加・複合化した高感度触覚センサについて既に提案している(特許文献1、2、3)。これらのセンサは、コイル状炭素繊維を樹脂中に均一に分散複合化させただけの簡単な構造であり、線状や面状の構造をしているので、医療用診断装置やドアなどの所望の部位に配置可能で、死角がなく、高感度で、センシング範囲が広いという特徴がある。
【0004】
前記弾性材料にコイル状炭素繊維を分散させる方法としては、例えばシリコーン樹脂前駆体(本発明では固化前の液状物質を前駆体という)にコイル状炭素繊維を添加し、撹拌して均一に分散させた後、脱泡し、鋳型に充填する方法や、ポリスチレンや熱可塑性エラストマーのペレットを加熱溶融し、それにコイル状炭素繊維を添加し、撹拌して均一に分散させた後、鋳型に流し込み、加圧成形する方法などがある。コイル状炭素繊維は前駆体やエラストマーを加熱溶融したものに完全に溶解するものではなく、不溶状態で単に分散されるだけであるので両者を均一に混合することが、得られるセンサの検出感度を向上させる上で重要である。
【0005】
一般に粘性液体に他の物質を混錬する方法には、攪拌棒、攪拌子や、攪拌羽根を用いて中の流体を直接攪拌するものがある。しかしこれらの方法は、棒や羽根に粘性液体が付着するので液体の損失がでてしまい、全体量が少ない場合にはその影響は無視できない。しかも、コイル状炭素繊維のように螺旋構造を保持したままで、かつ所定の長さを維持して分散させるような場合には尚更好ましい方法ではない。また、コイル状炭素繊維は幾何学的に特異な構造を有しているために、通常の炭素繊維(アクリル繊維またはピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を原料に高温で炭化して作った繊維で、アクリル繊維を使った炭素繊維はPAN(Polyacrylonitrile)、ピッチを使った炭素繊維はPITCHと区分される)と比較して、複合材にしたときに気泡が残留しやすいという問題がある。この気泡は当然前駆体が固化する前に除去する必要があるが、泡の浮力よりも粘性の方がまさるので、自然放置では抜くことができない。
【0006】
脱泡方法としては、真空脱泡と遠心脱泡がある。但し本発明のような浮遊状態のコイル状炭素繊維は遠心力によって沈殿し分離してしまうために遠心脱泡は事実上採用できない。真空脱泡として、例えば、被攪拌液を収容した容器に攪拌子を入れて真空室内に載置し、攪拌子を磁気力で回転させつつ真空室内を真空にする真空攪拌装置(特許文献4)、真空容器蓋体と真空容器本体とが上下に開割、閉合可能にされた真空容器と、真空容器蓋体に真空シールドされた回転攪拌手段とを備えた真空攪拌装置であって、真空容器本体内に、流動体収納容器が、流動体の攪拌が可能なように配置されてなることを特徴とする真空攪拌装置(特許文献5)などがある。
【0007】
前記真空攪拌装置は、いずれも脱泡という目的のために大変優れたものであるが、被脱泡液中に存在する物質の幾何学的構造の維持までをも考慮してなされたものではない。前記の通り、弾性材料に分散されるコイル状炭素繊維は、一重または二重の螺旋構造を有しこの構造を利用してセンサとしての優れた機能を発揮するように構成されたものである。従って、コイル状炭素繊維の構造を保持しつつ均一に混合・分散させ、固化させる前に気泡などを除去する方法が求められているのである。
【特許文献1】特許第2721557号
【特許文献2】特許第4023619号
【特許文献3】特開2007−201641号
【特許文献4】特開平5−161839号
【特許文献5】特開2004−73965号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決するために成されたもので、その目的とするところは、弾性材料前駆体にコイル状炭素繊維を混ぜた場合のように不溶状態において、コイル状炭素繊維の高次構造を損なうことなく均一な混合・分散を行い、かつ元々コイル状炭素繊維に包含されている気泡および混合時に発生する泡を効果的に除去する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の複合材料の製造方法としては、容器内の弾性材料前駆体に、コイル状炭素繊維が1.0〜20.0重量%の割合になるように添加し、前記容器を自転運動させるとともに公転運動させて、15秒以内の時間混合し、0.1〜50kPaの減圧下で、さらに30秒〜5分間混合して、得られる混合物を所望の鋳型に充填して固化することにより、弾性材料内に、コイル状炭素繊維が均一に分散した状態で固定されることを特徴とする。
【0010】
前記のように弾性材料前駆体とコイル状炭素繊維とを混合するための容器を自転・公転運動させることが重要である。一般の攪拌子、攪拌棒などにより物理的に混合すると先に述べたようにコイル状炭素繊維の構造が破壊されるおそれがある。また、混合時に余分な気泡を巻き込むことを回避することができるからである。本発明においては減圧する前に、15秒以内の時間を混合のみに充てる。コイル状炭素繊維は比重が軽いためにいきなり減圧すると、容器内に生じる空気流によってコイル状炭素繊維が舞い散るおそれがある。従って弾性材料前駆体とある程度混和してから減圧することが好ましい。
【0011】
減圧条件は、0.1〜50kPaの範囲である。好ましくは1〜20kPa。減圧条件を上げれば脱泡効率は上がると思われるが、減圧度を上げすぎると必要以上に気泡が発生し、これらを全て除去するためには長時間を必要とするからである。
【0012】
本発明は、前記コイル状炭素繊維が、繊維径1nm〜10μm、コイル直径が2nm〜100μmであることを特徴とする。複合材料をセンサとして利用する場合に所望の機能を発揮するためである。
【0013】
また、前記弾性材料が、シリコーン系、ポリウレタン系またはエポキシ系のエラストマーであることを特徴とする。コイル状炭素繊維との混合、製品加工が容易である上に、複合材としたときの多様な用途に対応できるからである。さらに、前記複合材料が、センサとして利用されることも特徴の一つである。なお、前記複合材料はコイル状炭素繊維を含むために、電磁波吸収剤、水素吸蔵材、生物活性触媒などの用途に展開することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、コイル状炭素繊維の高次構造を破壊することなく弾性材料前駆体中に均一に混合することができるので、量産を考慮した場合でもロット内のみならずロット間でも一定品質の複合材料が得られる。しかも、混合しながら脱泡を行うので製造時間を短縮できコストの低減が図れる。また本発明の製造方法によれば混合物中の気泡を短時間で効率よく除去することができるので、多少粘性が高い場合でも成形後に気泡が残存することがない。そして得られるコイル状炭素繊維を含む複合材料は、その特質を生かして各種用途に用いることができるが、特に高感度、多機能(接触および近接の両方を検知可能)、電気的特性の安定したセンサ素子として好適である。
【0015】
さらに、コイル状炭素繊維は弾性材料前駆体中に均一に分散した状態で得られるので、そのまま所望の鋳型に充填して固化させるだけで良く、成形性、加工性に優れ、用途に応じて微小化、薄膜化、大容量化、線状化、多角形化、円・球形化などが可能であり、表面に凹凸を設けたり、縞状に模様を形成することによりデザイン性の高い複合材料を提供することもできるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明について具体的に説明する。
本発明は弾性材料前駆体に、コイル状炭素繊維を混合し、該混合物から気泡を除くことによって均質な複合材料を製造しようとするものである。弾性材料前駆体とは、コイル状炭素繊維との混合に際しては液状であるが、室温放置または加熱することにより固化し弾性材料となるものであり、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、スチレンと熱可塑性エラストマーとの共重合樹脂等が用いられる。具体的には、シリコーン樹脂として、信越化学(株)製の商品名、KE103〔JISK6301に規定されるJIS−A硬度(以下、同様)18〕、KE106(JIS−A硬度50)、KE1202(JIS−A硬度65)等が挙げられる。スチレンと熱可塑性エラストマーとの共重合樹脂として、(株)クラレの商品名、セプトン樹脂#4033(JIS−A硬度76)、#8104(JIS−A硬度98)等が挙げられる。液状エポキシ樹脂として大日本インキ化学工業(株)の商品名、EXA−5850−150等が挙げられる。ゲル状形態をなすゲル樹脂として、大場機工(株)の商品名、ゲル−OK−パッキング等が挙げられる。ウレタン樹脂として日本ポリウレタン(株)の商品名、コロネート4387等が挙げられる。
【0017】
複合材料をセンサ素子として用いる場合には、弾性材料の硬さは感度を向上させる上で非常に重要であり、弾性材料として弾性力の優れたシリコーン系またはウレタン系樹脂等を用いた場合には、微小な圧力でも伸縮してその圧力を高感度で検出することができる。
【0018】
前記弾性材料にはコイル状炭素繊維が分散されるが、そのコイル状炭素繊維としては一重巻きのコイル状炭素繊維、二重巻きのコイル状炭素繊維、超弾性コイル又はそれらの混合物等が用いられる。コイル状炭素繊維は伸縮性(弾力性)があり、その伸縮により電気特性であるインダクタンス(L)、静電容量(C)及び電気抵抗(R)が変化するため、それらの変化量に基づいて圧力を検出することができる。例えば、コイル状炭素繊維を伸ばすと上記L、C及びRが増加し、収縮させるとL、C及びRが減少する。具体的には、所定のコイル状炭素繊維を例えば4mm伸ばすと、Lは0.1mH増加し、Cは600pF増加し、Rは4.5kΩ増加する。そして、コイル状炭素繊維を収縮させて元の長さに戻すと、L、C及びRは元の値まで再現性良く戻る。
【0019】
前記一重巻きのコイル状炭素繊維としては、1本のコイルの直径が2nm〜100μm、コイルのピッチが0.01〜10μm及びコイルの長さが0.01〜50mmであり、繊維径が1nm〜10μmであるものが好ましい。製造の容易性等の観点から、コイルの直径は0.1〜10μmであることが好ましく、ピッチは0.1〜10μmであることが好ましい。このコイル状炭素繊維は、一定の太さを有するコイルが一定のピッチ(間隔)をおいて一重巻きで螺旋状に延びるように形成されている。このため、一重巻きのコイル状炭素繊維は、弾力性に優れ、あらゆる方向からの圧力に対して容易に変形し、従ってあらゆる方向からの圧力を高感度で検出することができる。
【0020】
一方、二重巻きのコイル状炭素繊維の場合には、2本のコイルが交互に密接した状態で螺旋状に延び、従って全体としてほぼ円筒状をなし、中心には空洞が形成されている。二重巻きのコイル状炭素繊維としては、直径が2nm〜100μm、ピッチがほぼ0及び長さが0.01〜50mmであるものが好ましい。二重巻きのコイル状炭素繊維は一重巻きのコイル状炭素繊維に比べて弾力性が乏しく、圧力を受けたときに変位しにくいという性質がある。
【0021】
また、超弾性コイルはコイルの直径が大きく、線径が小さいものをいい、弾力性がより大きいコイルのことをいう。具体的には、超弾性コイルは、コイルの直径が5〜100μm、コイルのピッチが0.1〜10μm及びコイルの長さが0.3〜50mmであるものが好ましい。なお、コイル状炭素繊維の巻き方向は、コイルの軸線を中心として時計方向(右巻き)又は反時計方向(左巻き)のいずれであってもよい。上述のようにコイル状炭素繊維の有する幾何学的に特異な構造故に、弾性材料中に固定して複合材料を製造する場合に気泡の混入が大きな課題となるのである。
【0022】
ところでコイル状炭素繊維は、どのような製法で製造されたものであってもよいが、例えば触媒活性化CVD(化学気相成長)法等により得られる。この気相成長法は、Ni粉末触媒を塗布したグラファイト基板上に、チオフェンおよび硫化水素を不純物として含有するアセチレン、水素ガス、アルゴンを流入させ、600〜3000℃に加熱して、気相中でアセチレンを分解してコイル状炭素繊維を得る方法である。この方法により得られるコイル状炭素繊維は非晶質であり、その大半が繊維の中心部分まで微細な炭素粒が詰まった状態で形成されている。また、一部には中空状に形成されたものも観察される。
【0023】
さらに、加熱処理を施すことにより、非晶質のコイル状炭素繊維をグラファイト化(六方晶系)することができる。加熱条件としては、ヘリウム又はアルゴンなどの不活性雰囲気下で、処理温度を700〜3000℃、好ましくは1500〜3000℃、最も好ましくは2000〜3000℃である。また処理時間は、0.1〜100時間、好ましくは1〜20時間、最も好ましくは3〜10時間である。このような処理を経ることにより、グラファイト層において炭素繊維を構成する炭素粒が規則正しく配列されることにより磁場の変動などを検知する際に生じる電気抵抗の変動が著しくなるために、共振特性が顕著となる。すなわちLCR共振回路におけるR成分などの変動が顕著となるので、センサの検出感度を向上させることができる。
【0024】
上記のような各種のコイル状炭素繊維は、その長さがより好ましくは90〜1000μmであり、コイルの直径がより好ましくは1〜30μmである。このようなコイル状炭素繊維を使用することにより、圧力センサとして使用した場合の検出感度を一層向上させることができる。また、コイル状炭素繊維の線径は通常1mm以下である。コイルの長さが1mmを超えると弾性材料前駆体中での混合中にコイル状炭素繊維が相互に交絡して、材料内での分散性を欠くので好ましくない。
【0025】
コイル状炭素繊維の含有量は、弾性材料中に0.1〜20.0重量%であることが好ましく、2.0〜15.0重量%であることがより好ましく、さらに好ましくは2.0〜10重量%である。この含有量が0.1重量%未満の場合には、弾性材料中におけるコイル状炭素繊維の割合が少なく、コイル状炭素繊維に基づく特性、特にセンサ素子としての感度が低下する。一方、含有量が20.0重量%を越える場合には、弾性材料中におけるコイル状炭素繊維の割合が多くなり過ぎて硬くなり、混合後に鋳型に充填する際などの成形性が悪くなる傾向を示す。
【0026】
本発明では、容器内で前記弾性材料前駆体とコイル状炭素繊維を混合するのであるが、混合操作は容器自体を自転運動させるとともに公転運動させて行う。この操作において使用される混合装置は一例として、旋回駆動する公転軸に取り付けられて旋回する支持部(公転運動部)と、公転軸と離反した位置で前記支持部に設けられ、公転軸の軸線に対して平行または接近する方向に傾斜して配置される自転軸に取り付けられて旋回するホルダー(自転運動部)と、上部が自転軸に接近し下部が自転軸から離反する方向に傾斜するように配置されて前記ホルダーに固定される容器とを有する。
【0027】
このような容器は、自転軸を回転中心とし、公転軸を中心軸として対称の位置に固定される。また自転軸は、公転軸に対して平行か、好ましくは公転軸方向に20°〜40°の角度で傾斜しており、ホルダーは公転軸を中心軸として対称の位置に取り付けられている(具体的には図4参照)。このような対称配置は回転させる際のバランスと装置の安定性のために必須であるが、回転させる重量が軽い場合や回転数が遅い場合には必ずしも考慮する必要はない。なお、公転による遠心力で複合材が容器の底に押しつけられるのを自転にて循環させることができるので、より効果的に攪拌を行うには自転軸を公転軸方向に傾斜させる方が好ましい。そして、自転回転数:公転回転数の回転比率は1:0.5〜15、好ましくは1:2〜1:3である。このような回転比率を採用することにより、混合効率が向上するからである。また回転数は自転が200〜1500rpm、好ましくは400〜1000rpmであり、公転が100〜3000rpm、好ましくは800〜2500rpmである。
【0028】
なお、容器内には容器の容積に対して前駆体混合物の体積が5〜70%の範囲内にて包含することが好ましい。混合工程および後の減圧工程において内容物が溢れることを防止するためである。特に、減圧当初は気泡が大量に発生するため前駆体混合物の体積が一時的に膨張することがあり、その場合でも容器内に前記混合物を確実に保持しておくことができるからである。
【0029】
本発明の製造方法にあっては、減圧する前に、自転・公転運動によって15秒以内の時間の間に混合のみを行う工程を有する。この工程はコイル状炭素繊維が、その比重が軽いためにいきなり減圧することにより生じる空気の流れにより、飛散することを防止するためである。また、この自転・公転運動における旋回速度は、後の減圧時よりも遅いことが望ましい。なお、これは飛散防止のためであるが、容器内に秤取る際に、初めにコイル状炭素繊維を、次いでシリコーン樹脂などの弾性材料前駆体の順に添加することによって、コイル状炭素繊維が弾性材料前駆体中に充分浸漬された状態になっている場合には、特に旋回速度に留意する必要はない。
【0030】
容器内に包含される弾性材料前駆体に、コイル状炭素繊維が充分浸漬された状態とした後、旋回運動する容器内または容器を含む周囲環境を0.1〜50kPa、好ましくは1〜20kPaに減圧する。圧力を0.1kPaより低くしても気泡の除去効率は特に向上するものではなく、高真空状態にするために余分な設備費がかかることがあり、圧力が50kPaより高いと充分な気泡除去効果が得がたいからである。このような減圧状態にして30秒〜5分間混合を継続する。混合時間が30秒より少ない場合には均一な分散状態にすることが困難であり、5分を超えて混合するとコイル状炭素繊維と弾性材料前駆体との摩擦によって、コイル状炭素繊維が切断されるおそれがあり、センサ素子としての充分な感度が得られなくなる。また、摩擦により生じた熱で弾性材料の固化が進行し、成形困難に成りうる。なお、この混合時間中に圧力は一定の減圧度である必要はなく、周期的あるいは不定期に減圧度を上下させることもできる。このような圧力変動は、気泡の体積変化をもたらすので前駆体混合物中からより早く気泡を除去することができるからである。
【0031】
こうして得られた脱泡後の混合物を所望の鋳型に充填して固化することにより、弾性材料内にコイル状炭素繊維が固定されてなる複合材料が製造できる。鋳型は目的に応じて種々のものを選択することができ、用途に応じて微小化、薄膜化、大容量化、線状化、多角形化、円・球径化などが可能であり、表面に凹凸を設けたり、縞状に模様を形成することによりデザイン性の高い複合材料を提供することもできるのである。
【0032】
なお、弾性材料中には、コイル状炭素繊維以外に気相成長繊維(VGCF)、カーボンナノファイバー、炭素粉末、金属粉末、誘電体粉末、圧電体粉末等を配合することもできる。また、コイル状炭素繊維の表面には、導電性を高めるために、金、銅等の金属薄膜を形成することにより、センサ素子の感度及び安定性を向上させることができる。
【0033】
(実施例)以下、実施例及び比較例により、前記実施形態をさらに具体的に説明する。
コイル状炭素繊維として、コイル長さが90〜150μm、コイル径が3〜8μmのものを二液型RTVゴム(商品名:KE103;信越シリコン製)中に(1.0、2.0、3.0、5.0の各重量%)を添加して、この混合容器を旋回速度800rpmの自転、旋回速度2000rpmの公転運動により15秒間混合した。次いで容器を含む周囲環境を1Paの圧力まで減圧し、前記同様の自転・公転運度をさせつつ1分間混合した。こうして得られた脱泡後の混合物を幅75mm、奥行き75mm、高さ3mmの寸法を有する鋳型に充填し固化することにより、平板状のセンサを成形した。一方、同様の比率で混合し、減圧しないで鋳型に充填したものを比較例として成形した。
【0034】
このセンサをそれぞれ図1に示すように試験装置にセットし、40×40mmの銅板をセンサから50mm離したところから1mmのところまで近づけた時のインピーダンスの値を計測した。また、インピーダンスの変化量を近接信号増幅率(Gp:下式1で示す)で表すことで近接センサとしての感度を示す指標とした。その結果を図2に示す。なお近接信号増幅率は前記両者の位置に銅板を配置したときのインピーダンスを測定し、その比率を算出したものであり、この値が高い程大きな信号として検出されることを意味する。
【0035】
【数1】

【0036】
図2に示す結果より、同じ濃度のコイル状炭素繊維を含むものであっても本発明の製造方法により得られるセンサの方が格段に感度が向上していることが判る。なお、成形後に得られたセンサ素子表面の状態を観察すると、減圧処理を施していないものは気泡が残留してくぼみが形成された結果となった。
【0037】
次にセンサに荷重(0〜300g)を複数回(4回)加えたときの出力インピーダンスを計測した。荷重とインピーダンスとの関係を図3に示す。また、このときの、荷重に対するインピーダンスの直線性について相関係数を用いて評価し、サンプル数10個の測定値から相関係数の標準偏差を求め、これを表1にまとめた。なお、相関係数が1に近いほど荷重に対するインピーダンスの直線性が高く、標準偏差の値が小さいほどセンサ素子間のばらつきが小さいことを示している。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果より、本発明の製造方法によれば均質なセンサが得られることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の製造方法によれば、コイル状炭素繊維の高次構造を破壊することなく弾性材料前駆体中に均一に混合することができるので、量産を考慮した場合でもロット内のみならずロット間でも一定品質の複合材料が得られる。しかも、混合しながら脱泡を行うので製造時間を短縮できコストの低減が図れる。また本発明の製造方法によれば混合物中の気泡を短時間で効率よく除去することができるので、多少粘性が高い場合でも成形後に気泡が残存することがない。そして得られるコイル状炭素繊維を含む複合材料は、その特質を生かして各種用途に用いることができるが、特にセンサとして、人型ロボットや義手・義足の代替皮膚、医療用診断装置の触診や接触・衝突事故防止、乗用・エレベータ用ドアや回転ドアの安全センサ、各種工業の表面性状検査用センサなどに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の製造方法により得られた近接センサの近接信号を測定する試験装置の概略図である。
【図2】本発明の製造方法により得られた近接センサの信号増幅率と、コイル状炭素繊維の含有量との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の製造方法により得られたセンサの荷重とインピーダンスとの関係を示すグラフである。
【図4】本発明の混合方法を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内の弾性材料前駆体に、コイル状炭素繊維が1.0〜20.0重量%の割合になるように添加し、
前記容器を自転運動させるとともに公転運動させて、15秒以内の時間混合し、
0.1〜50kPaの減圧下で、さらに30秒〜5分間混合して、
得られる混合物を所望の鋳型に充填して固化することにより、
弾性材料内にコイル状炭素繊維が均一に分散した状態で固定されてなる複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記コイル状炭素繊維が、繊維径1nm〜10μm、コイル直径が21nm〜100μmであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記弾性材料が、シリコーン系、ポリウレタン系またはエポキシ系のエラストマーであることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記複合材料が、センサ素子である請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−227828(P2009−227828A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75446(P2008−75446)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(399054000)シーエムシー技術開発 株式会社 (23)
【Fターム(参考)】