説明

複合樹脂ペレット、成形品、および、複合樹脂ペレットの製造方法

【課題】高速の引抜成形によって製造した場合でも溶融樹脂の植物由来繊維への含浸が十分な複合樹脂ペレット、これを用いた成形品、および、複合樹脂ペレットの製造方法を提供する。
【解決手段】1質量%以上59質量%以下のポリオレフィンワックスと、1質量%以上20質量%以下の無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、20質量%以上78質量%以下のポリオレフィン樹脂と、20質量%以上78質量%以下の植物由来繊維と、を含有していることを特徴とする複合樹脂ペレット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合樹脂ペレット、これを用いた成形品、および、複合樹脂ペレットの製造方法に関する。特に、植物由来繊維の含浸状態を向上した複合樹脂ペレット、これを用いた成形品、および、複合樹脂ペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケナフやジュートなどの植物由来繊維は、環境問題に配慮した材料として注目されており、このような植物由来繊維を用いて強化された熱可塑性樹脂の開発が、国内外で盛んに進められている。例えば、植物由来繊維からなるマットと熱可塑性樹脂のシートとを圧縮成形した部材が自動車などに用いられている。
【0003】
ところが、植物由来繊維を強化繊維として用いた場合、従来から熱可塑性樹脂の強化繊維として用いられてきたガラス繊維などと比べ、樹脂ペレットの製造が困難である。
例えば、ガラス繊維を強化繊維として用いる場合には、連続した長繊維であるガラス繊維を、溶融樹脂浴に連続的に含浸させて引き抜き、樹脂を冷却、固化させてから任意の長さに切断する。このような引抜成形により、ガラス繊維で強化した樹脂ペレットを連続的に生産性よく製造することができる。
【0004】
これに対し、植物由来繊維は、非連続の繊維を撚り合わせて紡績糸状にしたものであるため、引抜成形において、溶融樹脂を繊維束中に含浸させることが非常に困難である。
含浸性を高めるために、引き抜きの張力を上げて繊維束を開き、溶融樹脂の含浸性を向上する方法が一般に知られているが、植物由来繊維は繊維自体の強度が低いので、引き抜きの張力を上げると繊維が切断するおそれがある。
また、引き抜きを低速にして含浸時間を延ばせば、溶融樹脂の繊維への含浸を図ることができるが、植物由来繊維は分解開始温度が低いので、繊維強度の低下や繊維の変色などが発生するおそれがある。引き抜きを低速にすれば、樹脂ペレットの生産性も低下する。
【0005】
このような問題点を解決するため、種々の検討が為されており、例えば、特許文献1には、天然繊維に撚りをかけながら引き抜くことで、溶融樹脂の天然繊維への含浸性を向上する方法が提案されている。この方法によれば、溶融樹脂浴中において部分的に切断した植物由来繊維を撚りに巻き込むので、繊維の切断を防ぎ、連続的な樹脂ペレットの生産を達成することもできる。
【0006】
【特許文献1】特開2001−261844号公報
【0007】
特許文献1に記載の従来技術によれば、たしかに、溶融樹脂の天然繊維への含浸性が向上され、連続的な樹脂ペレットの製造が可能となる。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、十分な含浸を達成するためには、引き抜きを低速度(15m/min)で実施する必要があり、樹脂ペレットの生産性が低いという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、植物由来繊維を強化用繊維として用いる複合樹脂ペレットに注目し、複合樹脂ペレット製造時に指摘される問題、特に前述したような高速引抜き成形時に、溶融樹脂の植物由来繊維への含浸が十分な複合樹脂ペレットの連続生産が困難である点を解決する。従って本発明の課題は、成形材料における強化繊維の十分な分散性を有する樹脂ペレットの連続生産性、成形品としての強度特性などをすべて満たし得る複合樹脂ペレットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究したところ、ポリオレフィンワックスを用いることで、植物由来繊維への溶融樹脂の含浸性を向上することができ、高速での引抜成形が可能となることを見出した。また、ポリオレフィンワックスを配合した複合樹脂ペレットを射出成形に用いた場合、ポリオレフィンワックスと、樹脂と、の高い相溶性から植物由来繊維の分散性が向上し、樹脂中に植物由来繊維が良好に分散した成形品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の複合樹脂ペレットは、ポリオレフィンワックスと、無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、前記ポリオレフィンワックスおよび前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィン樹脂と、植物由来繊維と、を含有していることを特徴とする。
【0011】
このような本発明では、植物由来繊維への含浸性の低いポリオレフィン樹脂に、無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、ポリオレフィンワックスを添加している。
ポリオレフィンワックスの添加によれば、ポリオレフィン樹脂の植物由来繊維への含浸性を向上することができ、高速(例えば、40m/min)での引抜成形も可能となる。また、複合樹脂ペレットを射出成形に用いた場合の、植物由来繊維の分散性を向上することができる。
無水マレイン酸変性ポリオレフィンの添加によれば、ポリオレフィン樹脂と植物由来繊維との間の接着性を向上し、複合樹脂ペレットの物性(引張強度、曲げ強度、熱変形温度など)を向上することができる。また、複合ペレットを射出成形に用いた場合、成形品としての物性を向上することができる。
【0012】
本発明において、ワックスとは、融点が50℃以上160℃以下で、常温で固体であり、かつ、融点より10℃高い温度での溶融粘度が200000mPa・s以下の物質を言う。
無水マレイン酸変性ポリオレフィンとしては、無水マレイン酸によるポリオレフィンの酸変性度が、1%以上15%以下であることが好ましい。
酸変性度が1%未満であると、ポリオレフィン樹脂と植物由来繊維との間の接着性を向上する効果が低く、酸変性度が15%を超えると、複合樹脂ペレットの物性に悪影響を与える。
【0013】
複合樹脂ペレットに配合するポリオレフィン樹脂としては、特に制限はないが、例えば、ポリオレフィンのホモポリマー、もしくはコポリマー(ブロックコポリマーあるいはランダムコポリマー)を主成分とし、これらに1種以上のゴム弾性体を配合したものであってもよい。
植物由来繊維としては、特に制限はないが、例えば、ジュート、ケナフ、綿糸、再生セルロース繊維、亜麻、苧麻、大麻、マニラ麻、サイザル麻、竹繊維などが挙げられる。
【0014】
本発明の複合樹脂ペレットにおいて、前記ポリオレフィンワックスの配合量は、1質量%以上59質量%以下であり、前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンの配合量は、1質量%以上20質量%以下であり、前記ポリオレフィン樹脂の配合量は、20質量%以上78質量%以下であり、前記植物由来繊維の含有量は、20質量%以上78質量%以下であることが好ましい。
このような構成によれば、複合樹脂ペレットとしての物性を確保しつつ、ポリオレフィン樹脂の植物由来繊維への含浸性の向上、射出成形における植物由来繊維の分散性の向上、および、ポリオレフィン樹脂と植物由来繊維との接着性の向上を達成することができる。
【0015】
ここで、ポリオレフィンワックスの配合量が1質量%未満だと、植物由来繊維への含浸性および、植物由来繊維の分散性で十分な向上を図ることができない。一方、ポリオレフィンワックスの配合量が59質量%を超えると、複合樹脂ペレットの表面の粘着性が高くなり、射出成形用のペレットとして使用することができない。
無水マレイン酸変性ポリオレフィンの配合量が1質量%未満だと、接着性の向上が図れず複合樹脂ペレットの物性が低下する。一方、無水マレイン酸変性ポリオレフィンの配合量が20質量%を超えても、複合樹脂ペレットの物性が低下する。
【0016】
ポリオレフィン樹脂の配合量が20質量%未満だと、複合樹脂ペレットの物性が低下する。一方、ポリオレフィン樹脂の配合量が78質量%を超えると、複合樹脂ペレットの製造時にストランドの強度が下がり、植物由来繊維の破断が起こりやすくなり、ペレット化が困難となる。
植物由来繊維の含有量が20質量%未満だと、複合樹脂ペレットの製造時にストランドの強度が下がり、植物由来繊維の破断が起こりやすくなる。一方、植物由来繊維の含有量が78質量%を超えると、樹脂が少なくなるためストランドとしてまとまらず、複合樹脂ペレットを製造できない。
【0017】
本発明の複合樹脂ペレットにおいて、前記ポリオレフィンワックスは、溶融粘度が120mPa・s以上100000mPa・s以下のメタロセンポリプロピレンワックスを含むことが好ましい。
このような構成によれば、ポリオレフィン樹脂の植物由来繊維への含浸性、および、射出成形における植物由来繊維の分散性の向上効果を、確実かつ十分に得ることができる。
なお、メタロセンポリプロピレンワックスとは、メタロセン触媒を用いて製造されたポリプロピレンワックスを言う。
【0018】
ここで、ポリプロピレンワックスの溶融粘度が120mPa・s未満だと、ペレットおよび成形品の物性が低下する恐れがあるので好ましくない。一方、溶融粘度が100000mPa・sを超えると、ポリオレフィンワックスが繊維に浸み込まなくなり、複合樹脂ペレットの縦割れ、繊維間の空隙が発生し、ペレット内の水分量が増大するため好ましくない。
なお、ここでいう溶融粘度は、例えば、B型粘度計を用いて190℃の条件で測定した値である。
【0019】
本発明の複合樹脂ペレットにおいて、前記植物由来繊維は、ジュート、ケナフ、綿糸、再生セルロース繊維のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
ジュート、ケナフ、綿糸、再生セルロース繊維を植物由来繊維として複合樹脂ペレットに含有させた場合、ポリオレフィンワックスによる、ポリオレフィン樹脂の含浸性、および、射出成形における植物由来繊維の分散性の向上効果が大きくなる。
【0020】
本発明の複合樹脂ペレットにおいて、前記植物由来繊維は、複合樹脂ペレットの長手方向に配列されていることが好ましい。
このような構成によれば、繊維の配列の方向に従い、効率的に繊維補強することができる。
【0021】
本発明の複合樹脂ペレットにおいて、前記植物由来繊維は、撚られていることが好ましい。
このような構成によれば、非連続繊維の紡績糸の複数本が適度に撚りかけられた状態で、効率的に繊維補強することができる。
ここで、撚り回数は、10回/m以上200回/m以下であることが好ましい。
撚り回数が9回/m以下の場合、植物由来繊維の切断不良が発生し、201回/m以上の場合、植物由来繊維が絞られすぎて、成形時の繊維解繊が悪くなり効率的な繊維補強ができなくなる。
【0022】
本発明の成形品は、上述の複合樹脂ペレットを用いて射出成形により形成されることを特徴とする。
上述の複合樹脂ペレットは、ポリオレフィン樹脂と親和性の高いポリオレフィンワックスが植物由来繊維に十分に含侵しているため、射出成形時の植物由来繊維の分散性が高い。したがって、これを用いて射出成形により形成した本発明の成形品は、植物由来繊維が均一に分布しており、強度や剛性にムラが無く、表面の美観に優れたものとなる。
【0023】
本発明の複合樹脂ペレットの製造方法は、ポリオレフィンワックスと、無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、前記ポリオレフィンワックスおよび前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィン樹脂と、を含む溶融樹脂に、植物由来繊維を含浸しストランドとして引き抜く含浸引抜工程と、前記含浸引抜工程で得られた前記ストランドを冷却する冷却工程と、前記冷却工程で冷却された前記ストランドを切断する切断工程と、を備えることを特徴とする。
【0024】
このような本発明によれば、植物由来繊維への含浸性の低いポリオレフィン樹脂に、無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、ポリオレフィンワックスを添加したものを溶融樹脂とし、含浸引抜工程、冷却工程、切断工程を経て複合樹脂ペレットが製造される。
溶融樹脂に配合したポリオレフィンワックスによれば、ポリオレフィン樹脂の植物由来繊維への含浸性を向上することができ、含浸引抜工程を高速(例えば、40m/min)で実施することが可能となる。また、製造した複合樹脂ペレットを射出成形に用いた場合の、植物由来繊維の分散性を向上することができる。
溶融樹脂に配合した無水マレイン酸変性ポリオレフィンによれば、ポリオレフィン樹脂と植物由来繊維との間の接着性を向上し、複合樹脂ペレットの物性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[複合樹脂ペレット]
本発明の複合樹脂ペレットは、少なくとも、ポリオレフィンワックスと、無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、ポリオレフィンワックスおよび無水マレイン酸変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィン樹脂と、植物由来繊維と、を含有している。
特に、ポリオレフィンワックスの配合量は1質量%以上59質量%以下であり、無水マレイン酸変性ポリオレフィンの配合量は1質量%以上20質量%以下であり、ポリオレフィン樹脂の配合量は20質量%以上78質量%以下であり、植物由来繊維の含有量は20質量%以上78質量%以下であることが好ましい。
【0026】
ポリオレフィンワックスの配合量が1質量%以上であれば、含浸性および分散性の十分な向上を図ることができ、配合量が59質量%以下であれば、表面の粘着性が低く、射出成形に適用可能な複合樹脂ペレットとなる。
ポリオレフィンワックスの配合量は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
無水マレイン酸変性ポリオレフィンの配合量が1質量%以上であれば、接着性の向上が図ることができ、配合量が20質量%以下であれば、複合樹脂ペレットとしての物性を確保することができる。
【0027】
ポリオレフィン樹脂の配合量が20質量%以上であれば、複合樹脂ペレットとしての物性を確保することができ、配合量が78質量%以下であれば、複合樹脂ペレットの製造時におけるストランド強度を高め、植物由来繊維の破断を防止することができる。
ポリオレフィン樹脂の配合量は、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上48質量%以下であることがさらに好ましい。
植物由来繊維の含有量が20質量%以上であれば、複合樹脂ペレットの製造時におけるストランド強度を高め、植物由来繊維の破断を防止することができ、含有量が78質量%以下であれば、ストランドを形成することができ複合樹脂ペレットの製造が可能となる。
植物由来繊維の含有量は、30質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
ポリオレフィンワックスは、溶融粘度が120mPa・s以上100000mPa・s以下のメタロセンポリプロピレンワックスを含むことが好ましい。
本発明において、ワックスとは、融点が50℃以上160℃以下で、常温で固体であり、かつ、融点より10℃高い温度での溶融粘度が200000mPa・s以下の物質を言う。メタロセンポリプロピレンワックスとは、メタロセン触媒を用いて製造されたポリプロピレンワックスを言う。
【0029】
ここで、ポリプロピレンワックスの溶融粘度が120mPa・s未満だと、ペレットおよび成形品の物性が低下する恐れがあるので好ましくない。一方、溶融粘度が100000mPa・sを超えると、ポリオレフィンワックスが繊維に浸み込まなくなりペレット内の水分量が増大するで好ましくない。
ポリプロピレンワックスの溶融粘度は、120mPa・s以上5000mPa・s以下であることがより好ましい。
【0030】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンは、無水マレイン酸によるポリオレフィンの酸変性度が、1%以上15%以下であることが好ましい。
酸変性度が1%以上であれば、ポリオレフィン樹脂と植物由来繊維との間の接着性を向上する効果が得られ、酸変性度が15%以下であれば、複合樹脂ペレットとしての物性を確保することができる。
【0031】
複合樹脂ペレットに配合するポリオレフィン樹脂としては、特に制限はないが、例えば、ポリオレフィンのホモポリマー、もしくはコポリマー(ブロックコポリマーあるいはランダムコポリマー)を主成分とし、これらに1種以上のゴム弾性体を配合したものであってもよい。
ゴム弾性体としては、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エチレンーα−オレフィン系エラストマー、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ポリエステル・エステルゴムなどが挙げられる。
【0032】
植物由来繊維は、特に制限はないが、例えば、ジュート、ケナフ、綿糸、再生セルロース繊維、亜麻、苧麻、大麻、マニラ麻、サイザル麻、竹繊維などが挙げられる。
特に、植物由来繊維は、ジュート、ケナフ、綿糸、再生セルロース繊維のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
また、植物由来繊維は、複合樹脂ペレットの長手方向に配列されていることが好ましく、撚られていることが好ましい。
ここで、撚り回数は、10回/m以上200回/m以下であることが好ましい。
撚り回数が10回/m以上であれば、植物由来繊維の切断不良を防止でき、200回/m以下であれば、植物由来繊維が絞られすぎて成形時の繊維解繊が悪くなることを防ぎ、効率的な繊維補強を確保することができる。
【0033】
[成形品]
本発明の成形品は、上述の複合樹脂ペレットを用いて射出成形により形成される。
成形品の材料としては、複合樹脂ペレットのみを用いてもよく、他の樹脂で複合樹脂ペレットを希釈してもよい。希釈用の樹脂としては、例えば、ポリオレフィンなどが挙げられ、特に、生産性などの理由によりポリプロピレン系樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
[複合樹脂ペレットの製造方法]
本発明の複合樹脂ペレットは、ポリオレフィンワックスと、無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、その他のポリオレフィン樹脂と、を含む溶融樹脂に、植物由来繊維を含浸しストランドとして引き抜く含浸引抜工程と、含浸引抜工程で得られたストランドを冷却する冷却工程と、冷却工程で冷却されたストランドを切断する切断工程と、を順次実施することにより製造される。
【0035】
[実施形態の作用効果]
本実施形態によれば、例えば、以下に示すような効果がある。
【0036】
植物由来繊維への含浸性の低いポリオレフィン樹脂に、無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、ポリオレフィンワックスを添加することにより、以下のような効果が得られる。
ポリオレフィンワックスの添加によれば、ポリオレフィン樹脂の植物由来繊維への含浸性を向上することができ、高速(例えば、40m/min)での引抜成形も可能となる。また、複合樹脂ペレットを射出成形に用いた場合の、植物由来繊維の分散性を向上することができる。
無水マレイン酸変性ポリオレフィンの添加によれば、ポリオレフィン樹脂と植物由来繊維との間の接着性を向上し、複合樹脂ペレットおよび成形品の物性を向上することができる。
また、複合樹脂ペレットに含まれる各種材料の比率を所定範囲に限定したので、複合樹脂ペレットとしての物性を確保しつつ、ポリオレフィン樹脂の植物由来繊維への含浸性の向上、射出成形における植物由来繊維の分散性の向上、および、ポリオレフィン樹脂と植物由来繊維との接着性の向上を達成することができる。
【0037】
ポリオレフィンワックスが、溶融粘度が120mPa・s以上100000mPa・s以下のメタロセンポリプロピレンワックスを含むので、ポリオレフィン樹脂の植物由来繊維への含浸性、および、射出成形における植物由来繊維の分散性の向上効果を、確実かつ十分に得ることができる。
無水マレイン酸によるポリオレフィンの酸変性度が、1%以上15%以下である無水マレイン酸変性ポリオレフィンを配合したので、複合樹脂ペレットとしての物性を確保しつつ、ポリオレフィン樹脂と植物由来繊維との接着性の向上を達成することができる。
植物由来繊維が、ジュート、ケナフ、綿糸、再生セルロース繊維のうちの少なくとも1つを含む場合、ポリオレフィンワックスによる、ポリオレフィン樹脂の含浸性、および、射出成形における植物由来繊維の分散性の向上効果が大きくなる。
【0038】
植物由来繊維が複合樹脂ペレットの長手方向に配列されているので、繊維の配列方向に従い、効率的に繊維補強することができ、射出成形における植物由来繊維の分散性が高くなる。
植物由来繊維が撚られているので、効率的に繊維補強することができる。
上述の複合樹脂ペレットは、射出成形時の植物由来繊維の分散性が高いので、これを用いて射出成形により形成した成形品は、植物由来繊維が均一に分布しており、強度や剛性にムラが無く、表面の美観に優れたものとなる。
【0039】
[変形例]
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、例えば、以下に示すような変形なども本発明に含まれる。
例えば、複合樹脂ペレットには、本発明の目的を損なわない範囲で、無機充填材、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、滑剤などを添加してもよい。
【0040】
[実施例]
本発明を詳しく説明するため以下に実施例および比較例を挙げるが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
ポリプロピレンワックス(クラリアント社製“PP1602”、溶融粘度3700mPa・s)6質量%、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(東洋化成工業株式会社製“H−1100P”)11質量%、ポリプロピレンペレット(株式会社プライムポリマー製“J707G”)43質量%、合計60質量%を、二軸混練押出し機(東芝機械株式会社製“TEM26SS”)を用いて設定温度280℃で溶融し、溶融樹脂を樹脂浴(神戸製鋼所製“長繊維ペレット製造装置、含浸ヘッド”)に流し込んだ。
ジュート繊維(ロービング)を溶融樹脂に含浸し、40m/minの速度で引き抜いた(含浸引抜工程)。樹脂/繊維含有比率は、質量比で60/40とした。
引き抜いたストランドに15回/mの撚りをかけながら水冷却を施した後(冷却工程)、長さ5mmのペレットに切断した(切断工程)。
【0042】
[実施例2〜実施例4]
ポリプロピレンワックスを以下の表1に示す様に変更した以外は、実施例1と同様にして複合樹脂ペレットを作製した。
【0043】
表1中のポリプロピレンワックスの詳細は以下の通りである。
PP1602:クラリアント社製“PP1602”、溶融粘度3700mPa・s、融点65℃
PP1502:クラリアント社製“PP1502”、溶融粘度1200mPa・s、融点75℃
PP1302:クラリアント社製“PP1302”、溶融粘度120mPa・s、融点70℃
Sample A:下記の製造例により製造したプロピレンホモポリマー(Mw:4.5×10)、溶融粘度100000mPa・s、融点80℃
Sample B:下記の製造例により製造したプロピレンホモポリマー(Mw:7.0×10)、溶融粘度43000mPa・s、融点80℃
Sample C:下記の製造例により製造したプロピレンホモポリマー(Mw:11.0×10)、溶融粘度6800mPa・s、融点80℃
溶融粘度は、B型粘度計を用いて190℃の条件で測定した。
融点(Tm−D)は示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC−7)を用いて測定した。試料10mgを窒素雰囲気下、−10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させる。このとき得られる融解吸熱カーブの、最も高温側に観測されるピークのピークトップの温度を融点:Tm−Dとした。
【0044】
[製造例]
WO2003/091289号公報に記載の方法により、重量平均分子量(Mw)の異なる3種類のポリプロピレンホモポリマーを製造した。
【0045】
[比較例1]
ポリプロピレンワックスを配合せず、無水マレイン酸変性ポリプロピレンの配合量を12質量%、ポリプロピレンペレットの配合量を48質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして複合樹脂ペレットを作製した。
【0046】
[水分量の評価]
三菱化学株式会社製“電量方式水分測定装置CA−06型”を用いて、各実施例、比較例の複合樹脂ペレットの水分量を評価した。試験は赤外線式で実施し、試験温度は120℃である。
[成形品外観の評価]
各実施例、比較例の複合樹脂ペレットのいずれか50質量%、ポリプロピレンペレット(株式会社プライムポリマー製“J707G”)50質量%をブレンドし、日精樹脂工業株式会社製“FS120S”を用いて射出成形により80mm×80mm×3.2mmの角板を5枚作製した。この角板を電光板で透かして目視で確認し、未分散の繊維が合計10個以上見られた場合を×(外観不良)、9個以下の場合を○(外観良)とした。
これらの評価の結果を、以下の表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1によると、本発明の要件を満たす実施例1〜実施例6の複合樹脂ペレットは、低い水分量を示した。一方、比較例1の複合樹脂ペレットは、高い水分量を示した。
実施例1〜実施例6の複合樹脂ペレットでは、含浸性が向上したことにより、繊維の脱落やペレットの縦割れ、繊維間の空隙が減少し、水分量が低くなったものと考えられる。
比較例1の複合樹脂ペレットでは、含浸性が不足していることにより繊維の切断や繊維間の空隙が発生し、ここに冷却水が侵入するため水分量が高いものと考えられる。
また、実施例1〜実施例6の複合樹脂ペレットを用いた成形品は、繊維の分散性が良く、良好な外観を有していたが、比較例1の複合樹脂ペレットを用いた成形品は、繊維の分散が不足するため、表面に繊維の塊が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、植物由来繊維の含浸状態を向上した複合樹脂ペレット、これを用いた成形品、および、複合樹脂ペレットの製造方法として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンワックスと、
無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、
前記ポリオレフィンワックスおよび前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィン樹脂と、
植物由来繊維と、
を含有している
ことを特徴とした複合樹脂ペレット。
【請求項2】
請求項1に記載の複合樹脂ペレットであって、
前記ポリオレフィンワックスの配合量は、1質量%以上59質量%以下であり、
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンの配合量は、1質量%以上20質量%以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂の配合量は、20質量%以上78質量%以下であり、
前記植物由来繊維の含有量は、20質量%以上78質量%以下である
ことを特徴とした複合樹脂ペレット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の複合樹脂ペレットであって、
前記ポリオレフィンワックスは、
溶融粘度が120mPa・s以上100000mPa・s以下のメタロセンポリプロピレンワックスを含む
ことを特徴とした複合樹脂ペレット。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の複合樹脂ペレットであって、
前記植物由来繊維は、ジュート、ケナフ、綿糸、再生セルロース繊維のうちの少なくとも1つを含む
ことを特徴とした複合樹脂ペレット。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の複合樹脂ペレットであって、
前記植物由来繊維は、複合樹脂ペレットの長手方向に配列されている
ことを特徴とした複合樹脂ペレット。
【請求項6】
請求項5に記載の複合樹脂ペレットであって、
前記植物由来繊維は、撚られている
ことを特徴とした複合樹脂ペレット。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の複合樹脂ペレットを用いて射出成形により形成される
ことを特徴とした成形品。
【請求項8】
ポリオレフィンワックスと、無水マレイン酸変性ポリオレフィンと、前記ポリオレフィンワックスおよび前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィン樹脂と、を含む溶融樹脂に、植物由来繊維を含浸しストランドとして引き抜く含浸引抜工程と、
前記含浸引抜工程で得られた前記ストランドを冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で冷却された前記ストランドを切断する切断工程と、
を備える
ことを特徴とする複合樹脂ペレットの製造方法。

【公開番号】特開2009−120714(P2009−120714A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295869(P2007−295869)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(000104364)カルプ工業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】