説明

複合系プラスチック廃棄物の分離回収方法及びそれに用いる分離回収装置

【課題】多種多様な複合系廃棄物に対し広く適用できる万能型分離回収方法および装置の提供
【解決手段】内部には金網メッシュの回転ドラム11がモータで回転駆動される回転軸12に軸支されて横置きされ、低速及び高速の2段階で回転可能となっている一方、溶媒加熱手段13を備え、反応槽10内に加熱した分離溶剤を供給できるようになっており、前記回転ドラム中攪拌下に分離溶剤で被処理物を処理する反応槽10内で溶剤としてトリエチレングリコールを用い、各種プラスチックP1とP2を分離回収する。他方、回収される溶剤を前記反応槽10に供給して再利用する溶剤再生循環型で万能な分離回収方法及び装置にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種複合系プラスチック廃棄物、金属とプラスチックとの複合系電気製品、医療廃棄物、合成繊維と天然繊維との混紡品、FRP等の複合系プラスチック廃棄物から各有効成分に分離回収することができる分離回収方法及びそれに用いる万能型分離回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチックの種類としては熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とがあり、これらを比重分離する方法は古くから行われている。ただ、熱可塑性樹脂は広くリサイクルが行われているが、PVCは熱焼却処理すると塩素ガスを排出するのでこれを回収する必要があり(特許文献1)、処理が面倒である一方、焼却処理は省資源の目的に添わない。他方、PET樹脂は触媒として苛性ソーダを用いないとジエチレングリコールでの分解反応が難しい(特許文献2)が、苛性ソーダを用いると解重合してテレフタール酸塩等を生じ、再利用には水洗して再生する必要があり、後処理が面倒である。他方、熱硬化性樹脂のリサイクルは難しい。例えば、エポキシ樹脂硬化物は、電気特性、耐熱性、接着性に優れているため、絶縁材、接着剤、塗料などの広い分野で利用されているが、熱分解が難しいため、リサイクルは難しい。他方、繊維強化プラスチック(以下、FRPという)は一般に強化繊維としてガラス繊維を使用するものが軽量性や耐久性という点で優れていることから、自動車、航空機、スポーツ用品、その他の分野で広く採用されているが、強化繊維に起因してリサイクルが困難となっている。そこで、不飽和ポリエステルをマトリックス樹脂とし、ガラス繊維以外の有機繊維を強化繊維とするFRP製品についてはグリコールを用いてこれを分解し、得られた分解生成物を二塩基酸と縮合反応させてリサイクルする方法が提案されている(特許文献3)。他方、FRPのリサイクルする方法としてジエチレングリコールモノメチルエーテルを溶剤とし、触媒としてリン酸三カリウム水和物を用いて常圧溶解法が提案されている(非特許文献1及び2)。
【0003】
また、医療廃棄物では腎透析セット、点滴セットの廃棄物は、血液等の体液、注射針を含むために感染性である可能性が高い上、材質中に塩化ビニル樹脂、金属を多く含むため、最も処理が困難な廃棄物の一つである。そのため、従来から、腎透析セットの廃棄物は塩化水素ガスやダイオキシンの発生という問題がありながら熱殺菌処理の関係上焼却処分されてきたのが実情である。ところが、特に感染性廃棄物を大型の焼却炉で処理する場合、該焼却炉まで搬送する時の危険性や該焼却炉が故障して大量の廃棄物が感染性廃棄物によって汚染された場合の危険性等を考えれば、感染性廃棄物が発生した場所で、小規模に処理することが望ましい。このため、排ガス中の塩化水素ガスを中和処理できる小型焼却炉の開発も試みられているが、大量の排ガスを処理する必要がある難点がある。特に、バッチ的に操業する焼却炉の場合、燃焼が不安定になると大量のダイオキシンを発生するという問題がある。そこで、廃棄物を圧縮した後に熱分解する方法は既に試みられているが、これらの方法は連続押出装置による炭化方式あるいはトンネル炉加熱方式によるものであり、装置が大掛かりになる(特許文献4、5)。また、感染性廃棄物には圧縮不能の金属製品や石膏製品を含むことがあるため、実際に適用するにはかなりの制約がある。
【0004】
さらに、金属材料等を備えたプラスチック製品、例えばOA機器、携帯端末、携帯電話、テレビ、掃除機、冷蔵庫などの各種電気製品、特にこれらの制御部に用いられているプリント配線基盤、更には溶融管継手、樹脂被覆電線、光ケーブル、繊維強化プラスチックなど、金属材料と一体に形成される。これら金属含有プラスチック製品においては、廃棄処理、或いは製造過程において成形不良となった製品の再利用処理においては、金属材料とプラスチック材料とをきれいに、しかも効率良く分離することが求められる。そこで従来、処理方法として、金属含有プラスチック製品のプラスチック材料を加熱溶解させて金属材料等と分離させる処理方法が各種提案されてきた。例えば、特許文献6は、食用廃油を170〜175℃に加温し、この食用廃油中に金属含有プラスチック製品を投入すると共に食用廃油を攪拌してプラスチックを溶解させ、金属素材が剥き出しになったところで食用廃油の加熱を中止して自然冷却させ、その後、食用廃油中から金属素材を取り出すというプラスチック廃棄物の金属素材選別方法を提案している。また、特許文献7は、プラスチック材が軟化溶融する温度に加熱されたてんぷら油などの植物性油内に、OA機器や家電製品などの電気製品の廃棄物を投入し、軟化溶融して植物性油の上部に浮上した溶解プラスチック材を取り出し、その後、油槽内に残留する金属材を取り出す電気製品の廃棄物の処理方法を提案している。しかしながら、加熱媒体としての油中に金属含有プラスチック製品、例えば携帯電話などを投入すると、食品を油で揚げる如くプラスチック材料が加熱溶解して塊となって油上に浮上する一方、その他の金属材料等は油底に沈降するが、同時に、油中にプラスチック材料を投入すると、プラスチック材料が溶融した際に発火する場合があり、危険である。そこで、金属含有プラスチック製品の処理において、プラスチック材料を油層中で安全かつ効率良く加熱溶解させることができる金属含有プラスチック製品の処理方法が提案されている(特許文献8)。しかしながら、近年電気部品ではエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂基板上に半導体回路等の電気回路を形成する場合が多いにも拘わらず、かかる熱硬化性樹脂の場合に、油加熱処理を適用しても金属材料および樹脂材料を有効に分別回収することは困難であり、エポキシ樹脂など熱硬化性樹脂を使用する多くの電気製品には適用できないという難点がある。
【0005】
その他、現状では各種の複合系プラスチック廃棄物がリサイクル困難な廃棄物として出現しているが、製品として、アルミ/PP/PET三層シート、PE/PETカーペット、銀層/PETシート積層X線フィルム、ナイロン/PETボトル、PET/綿/ナイロン/アクリル混紡衣料、FRP製ボートおよび浴槽、炭素繊維系配管および部品、電線、PVC用紙など各種各様で焼却が困難なもの、焼却可能であるが材料を再利用できるように分離回収したい材料が多いが分離回収が困難なため、焼却されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−55583号公報
【特許文献2】特開2006−110531号公報
【特許文献3】特許第4096000号公報
【特許文献4】特開平2−229588号公報
【特許文献5】特開平11−218313号公報
【特許文献6】特開平5−147041号公報
【特許文献7】特開昭10−137734号公報
【特許文献8】特開2008−213480号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日立化成テクニカルレポートNo.42(2004.1)
【非特許文献2】常圧溶解法によるエポキシCFRPリサイクル
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
医療廃棄物、FRPを含め、かかる複合系プラスチック廃棄物を焼却処理することなく、回収再利用できるプラスチック及び金属などの有効成分を分離回収して有効利用できる方法および装置を提供すべく鋭意研究の結果、複合系プラスチック廃棄物は多種多岐にわたるので、それぞれの複合系廃棄物に適合する方法及び装置をそれぞれ構成すると、設備コストおよびランニングコストが増大する。そこで、本発明は、複合系プラスチック廃棄物に対して広く適用可能な万能型分離回収方法および装置を提供することを課題とする。
【0009】
本発明は、溶剤としてトリエチレングリコールを用い、沸点近傍に加熱すると、医療廃棄物に必要な殺菌、熱可塑性樹脂の溶融に十分な温度処理が可能である一方、熱硬化性樹脂に対して解重合等の反応溶剤として機能するので、これを分離溶剤として各種被処理物を投入して攪拌すると、各種処理物は溶融物と非溶融物とに分かれ、そして非溶融物は残留固形物と反応生成物又は解離物とに別れるので、かかる各種プラスチックの分離態様を利用すると、各成分をその物性に応じて分別回収できる一方、溶剤は真空蒸発させると、再生して再利用することができ、ランニングコストが安く、多種多様な複合系廃棄物に対し広く適用できる万能型分離回収方法および装置とすることができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、各種熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチックおよび非プラスチック成分とが複合化してなる複合系廃棄物を処理して各成分を分別回収する方法であって、分離溶剤としてトリエチレングリコールを用い、触媒としてアルカリ金属水酸化物を触媒として添加し、トリエチレングリコールを200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱し、トリエチレングリコール中で溶融可能な成分P1を溶融処理する工程と、熱溶融が困難な成分P2を250〜280℃に加熱したトリエチレングリコール中で攪拌下に溶解又は解重合処理して溶剤とともに排出する工程と、残留する溶融可能な成分P1と強化繊維F又は金属成分Mを回収する工程と、非溶融成分P2と分離溶剤とを回収し、分離溶剤を減圧下に蒸留して非溶融成分P2と分離するとともに精製し再利用する工程からなることを特徴とするプラスチック系複合廃棄物の分別回収方法にある。
【0011】
本発明において、特に、廃プラスチックがエポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂等のFRPであるときは、アルカリ金属水酸化物の存在下で加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱されたトリエチレングリコールによる解重合処理により強化繊維と分離するのがよい。
【0012】
本発明において、廃プラスチックがPVCであるときは、苛性ソーダの存在下で加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱されたトリエチレングリコール中で脱塩処理するとともに溶融するのがよい。
【0013】
本発明において、廃プラスチック製品が金属成分を含む場合は、加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱したトリエチレングリコールでの熱溶融、熱分解および解重合処理により金属成分と樹脂成分とを分離するのがよい。
【0014】
本発明において、廃プラスチック製品が医療廃棄物である場合は、アルカリ金属水酸化物の存在下で加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱したトリエチレングリコールでの熱処理により殺菌処理とともに熱溶融、熱分解及び/又は解重合処理により金属成分と分離するのがよい。
【0015】
本発明において、廃プラスチックがPET樹脂成分である場合は、触媒添加なしで加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱したトリエチレングリコールでの溶解処理により解重合させることなく溶解して樹脂成分を回収するのがよい。
【0016】
本発明は、上記方法を実施する装置として、内部には金網メッシュの回転ドラム11がモータで回転駆動される回転軸12に軸支されて横置きされ、回転可能となっている一方、溶媒加熱手段13を備え、反応槽10内に加熱した分離溶剤を供給できるようになっており、前記回転ドラム中攪拌下に分離溶剤で被処理物を処理する反応槽10と、該反応槽10の底部に接続し、溶融プラスチックP1と非溶融プラスチックP2とともに分離溶剤Sを回収する第1溶剤受槽20と、前記第1溶剤受槽20から分離溶剤Sを受け、減圧下に溶剤を沸点以上に加熱して回収する一方、溶剤中に含有する触媒等の反応物質を分離する溶剤蒸発槽30と、溶解反応槽10での洗浄水Wを受け、水を蒸発させて溶剤を回収する水蒸発槽40と、前記溶剤蒸発層30に連結し、蒸発する溶剤を未凝集ガスを排気して減圧下に溶剤を凝集回収する第2溶剤受槽50と、前記廃水蒸発層40に連結し、蒸発する水を凝縮して回収する廃水受槽60とからなり、前記廃水蒸発槽40および前記第2溶剤受槽50で回収される溶剤を前記反応槽10に供給して再利用することを特徴とする溶剤再生循環型万能分離回収装置を提供するものでもある。
【0017】
本発明においては、前記回転ドラムの金網メッシュサイズが反応槽中に投入される粗破砕した溶融するプラスチックP1片が溶融して浸出しないで残留する大きさに設定されているのが好ましく、回転ドラムの回転が反応時の溶剤攪拌のための低速と水洗後の水遠心分離のための高速に2段階に調節されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、廃プラスチック中のPE,PP及びPS成分を加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱されたトリエチレングリコール中で溶融後固化させ、金網で形成された回転ドラム中に残留させ、分別回収できる。
【0019】
また、本発明は廃プラスチック中のPVCを苛性ソーダの存在下で加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱されたトリエチレングリコール中で脱塩処理とともに溶融し、金網で形成された回転ドラム中に残留させることができる。
【0020】
さらに、本発明は廃プラスチック中のエポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂等のFRPを、アルカリ金属水酸化物の存在下で加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱されたトリエチレングリコールによる解重合処理により強化繊維と分離するとともに、エポキシ樹脂とポリエステル樹脂を分離することができる。
【0021】
さらにまた、本発明は廃プラスチック製品が金属成分を含み、加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱したトリエチレングリコールでの熱溶融および解重合処理により金属成分と樹脂成分とを分離することができる。
【0022】
また、本発明は廃プラスチック製品が医療廃棄物であって、加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱したトリエチレングリコールでの熱処理により殺菌処理と熱溶融及び/又は解重合処理により金属成分と分離することができる。
【0023】
さらに、本発明は廃プラスチック中のPET樹脂成分を加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱したトリエチレングリコールでの溶解処理により解重合させることなく粉末状のPET樹脂として回収することができる。
【0024】
したがって、本発明は、各種熱可塑性及び熱硬化性樹脂からなる複合系廃プラスチック製品を各成分に分別回収する方法として有用である。すなわち、廃プラスチック製品をトリエチレングリコール中でPE,PP、PS及びABS等からなる溶融成分とPVC、PET及びFRP成分等からなる非溶融成分とに分離することができる。しかも、溶融成分はトリエチレングリコール中でPE,PP、PS及びABS等は樹脂同士融合せず、分離することができる。他方、非溶融成分の内PET複合系は触媒なしのトリエチレングリコールとの溶解反応で分別回収することができ、PVCは苛性ソーダの存在下で加圧又は常圧下沸点付近に加熱されたトリエチレングリコールと接触させて脱塩処理とともに溶融処理して分別することができるからである。FRPのエポキシ樹脂と不飽和ポリエチレン樹脂は、触媒としてアルカリ金属水酸化物、特に苛性ソーダの存在下で加圧又は常圧下沸点付近に加熱されたトリエチレングリコールと接触させて解重合することができるだけでなく、双方の解重合時間差を利用すれば解重合成分を分別することができる。特に、PVCは分離しなくても脱塩処理され、しかもトリエチレングリコールを用いると、エチレングリコールを用いる場合に比して脱塩率は高く、略完全に脱塩されるので本発明の適用が好ましい。他方、FRP中のマトリックス樹脂であるエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂は解重合時間差があり、順にこれらを分別回収することができる。解重合処理後は、トリエチレングリコールを沸点以上に加熱して触媒等を分離し回収することができる。解重合させた非浮遊成分はそのまま、再利用してもよいが、アルカリ性化合物、例えば消石灰の存在下に熱分解させて回収することも可能である。
【0025】
また、電気製品においては金属成分と熱硬化性樹脂が複合される場合、樹脂と金属成分の分離には解重合処理が有効であって、しかもグリコール溶媒の内トリエチレングリコールは沸点が高く、アルカリ金属水酸化物、特に苛性ソーダの存在下に加圧又は常圧下沸点近くに加熱する場合、不飽和ポリエステルだけでなく、エポキシ樹脂も同時に解重合することができる。そのため、本発明では金属材料等を含む各種プラスチック製品を分別することなく、トリエチレングリコールを加圧又は常圧下で沸点近くに加熱して熱可塑性樹脂は溶融分離する一方、熱硬化性樹脂はアルカリ金属水酸化物の存在下に溶解又は解重合させて金属材料を分別することができる。すなわち、本発明によれば、トリエチレングリコールを用いるので、発火事故をなくし、また、事前に熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを分別し、又は分別することなく、トリエチレングリコールに投入し、熱可塑性樹脂は溶融分離させる一方、熱硬化性樹脂を溶解又は解重合させ、プラスチックの分別とともに金属材料を分別回収することができる。したがって、各種金属含有プラスチック製品の分別回収に優れている。特に、PVCなどを含む場合上述したように、トリエチレングリコールに苛性ソーダを添加しておくことにより脱塩処理を同時に行うことができ、また、熱硬化性樹脂における解重合性を向上させることができる。
【0026】
さらに、本発明によれば、医療廃棄物においても、熱焼却法でなく、溶媒中で高温加熱処理することにより排ガス処理の問題もなく、殺菌処理が可能な上、プラスチック成分と金属成分とが分別され、回収できる。すなわち、本発明によれば、塩素含有、金属含有プラスチックを含む医療廃棄物を殺菌(無害化)とともにプラスチック等を分別回収できる。
【0027】
さらにまた、本発明によれば、混在する廃FRPにおいては、共通溶媒としてトリエチレングリコールを用い、アルカリ金属水酸化物、特に苛性ソーダを触媒とし、沸点以下で接触させると、エチレングリコールでは解重合できなかったエポキシ樹脂が解重合される。熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂として使用したFRP製品を解体処理するに当たり、廃FRP製品を分別せずそのまま又は粉砕してアルカリ金属水酸化物の存在下で加圧又は常圧下沸点付近に加熱されたトリエチレングリコールと接触させて解重合処理し、マトリックス樹脂と強化繊維とを分別することができる。他方、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂は解重合時間差があるので、順にこれらを分別回収することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明方法を適用するバッチ式分別回収システムの左側概要図である。
【図2】本発明方法を適用するバッチ式分別回収システムの右側概要図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
(実施例1)
本発明に係る万能型分離回収装置は、回転ドラム11を備える反応槽10と、該反応槽10の底部に接続し、溶融プラスチックP1と沈降解重合プラスチックP2とともに分離溶剤Sを回収する第1溶剤受槽20と、溶剤受槽20から分離溶剤Sを受け、減圧下に溶剤を沸点以上に加熱して回収する溶剤蒸発槽30と、溶解反応槽10での洗浄水Wを受け、水を蒸発させて溶剤を回収する廃水蒸発槽40と、前記溶剤蒸発層30に連結し、蒸発する溶剤を未凝集ガスを排気して減圧下に溶剤を凝集回収する第2溶剤受槽50と、前記水蒸発層40に連結し、蒸発する水を凝縮して回収する水受槽60と、真空ポンプ70とからなる。
【0031】
前記反応槽10は加熱した分離溶剤中攪拌下に被処理物を処理する槽であって、内部には金網メッシュの回転ドラム11がモータで回転駆動される回転軸12に軸支されて横置きされ、電動モータMで低速及び高速の2段階で回転可能となっている。金網メッシュサイズは溶融プラスチックが粗破砕(10cm角)して投入され、溶融されるが、溶融したプラスチックがドラムの低速回転時にドラム系外に浸出しないように設計される。プラスチックの処理時は低速で回転させ、反応後の洗浄時には水を放射させ、高速回転による遠心力でドラム外に廃水するようになっている。一方、上方は開放されて原料を槽内に供給できるようになっているとともに、下方には溶媒加熱手段13を備え、三方弁14を介して反応槽10内に加熱した分離溶剤を供給できるようになっている。また、該反応槽10の底部には三方弁14を介して第1溶剤受槽20が接続し、溶融プラスチックP1と分別して溶解又は解重合したプラスチックP2とともに分離溶剤Sを回収する。15はオーバーフロー弁で、反応槽10での液位を保つもので第1溶剤受槽20で受け、回収できるようにもなっている。溶剤受槽20では非溶融プラスチックP2の溶解又は解重合物とともに分離溶剤Sを受け、プラスチックP2と溶剤Sとを分離する。溶剤受槽20には上層の溶剤を循環ポンプ21でバルブ22を介して回収し、ヒータ13に送り、加熱されて反応槽10に再送する一方、下層の溶剤Sは循環ポンプ21でバルブ23を介して溶剤蒸発槽30に送られ、減圧下に溶剤を沸点以上に加熱して回収するようになっている。分離溶剤Sは、溶剤中に含有する触媒等を含むが、溶剤蒸発槽30で溶剤Sと分離され、回収される。
【0032】
該溶剤蒸発層30は、第2溶剤受槽50に連結され、第2溶剤受槽50を真空ポンプ70により吸引することにより溶剤蒸発槽30を減圧し、分離溶剤Sを減圧下に蒸発させるようになっている。溶剤が蒸発すると、溶剤中の反応物質や触媒等が底部に残留するのでこれを分離する一方、蒸発した溶剤Sは第2溶剤受槽50に送られ、その上部に位置するコンデンサ51で凝集され、回収される一方未凝集ガスを排気して減圧下に溶剤を回収する。回収された溶剤Sは精製された状態となっているので、これは新規な溶剤を5%程度追加して再利用される。
【0033】
前記反応槽10には加熱溶融又は加熱解重合したプラスチック成分は溶剤とともに第1溶剤受槽20に回収されるので、反応槽10の回転ドラム11内には熱溶融して固化したプラスチック粒子及び解重合等で反応しないFRPの強化繊維、電気製品の金属成分、医療用廃棄物の注射針等、混紡衣料では合成繊維を除いた天然繊維が残留するのでこれらは水洗後回収される。廃水蒸発槽40は反応槽10でのこの洗浄水Wを受け、水を蒸発させて溶剤を回収する。水は本件溶剤トリエチレングリコールより沸点が低いので、前記廃水蒸発層40には溶剤が残留し、蒸発する水は廃水受槽60に送出し、上部コンデンサ61で凝縮して回収する。水蒸発槽40および前記第2溶剤受槽50で回収される溶剤を前記反応槽10に供給して再利用する。なお、コンデンサ51、61には冷却水が循環され、冷却が行われる。
【0034】
(処理例1)
1)PET/PE/アルミ複合系をT−EG(トリエチレングリコール)液に、250℃、10分で接触させ冷却、水洗することによりPET樹脂、アルミ、PE樹脂に分離することができる。
詳しく説明すると:
PET溶解が終了すると、PET樹脂粉末は溶媒とともに溶剤受槽に移送される。回転ドラムの金網の中には未溶解のアルミ、溶融PEが残留する。それらには溶媒が付着しているので水で散水洗浄と冷却を行う。溶媒を含む水溶液は廃水蒸発槽に移送される。金網の中の洗浄され分離されたアルミ、PE樹脂は系外に排出される。2物質は全く溶着していない。
溶剤受槽に移送された溶液は時間を与える事により比重差でPET樹脂が沈殿する。その槽底液は溶剤蒸発槽での加熱真空蒸発で、溶媒であるT−EG(トリエチレングリコール)は蒸発され、コンデンサ−で凝縮され溶剤受槽に回収され再循環使用する。
T−EGを含む水溶液は廃水蒸発槽で加熱し水分を蒸発、凝縮し廃水受槽に回収し再使用する。
T−EGの溶解温度はヒ−タで加熱コントロ−ルする。
【0035】
(処理例2)
「複合材を含む混合廃プラ」=PE,PP,PS,PVC、基板、FRP,PET混合物の分別回収
T−EG溶媒に苛性ソーダを触媒として投入し、一緒に280℃に加熱し回転ドラムを低速で回転すると一定時間後各樹脂は溶融⇒溶解⇒解重合の順序で溶媒トリエチレングリコールと反応する。
1)PE,PP,PS樹脂は溶融固化し金網反応槽に残るが樹脂同士は溶着しないで分離できる状態で残留する。トリエチレングリコールの特質に基づくものであり、分別回収できる利点である。
2)PVCは脱塩素反応し、発生HCLとNaOHが中和反応しNaCLとなり、溶媒中に粉末として残る。他方、脱塩素した樹脂は金網反応槽に残る。高い脱塩率が得られるので、PVCを事前に分別しておく必要がなくなる。
3)基板は基板の接着部が溶解する。充填材は溶媒に残り、金属、ガラス繊維は金網内に残留し、容易に手分離できる状態になる。
4)FRPはT−EG溶媒に少しNaOHを添加し280℃、15時間接触することによりガラス繊維、充填材、FRP溶解液に分かれ、ガラス繊維は金網の反応槽に残り、充填材、FRP溶解液は金網を潜り抜けて溶媒中に存在する。
5)PET樹脂は230〜285℃、10〜20分でT−EGに溶解され溶媒中に粉末樹脂として存在する。トリエチレングリコール中で解重合を受けないので再利用に便利である。
以上の溶媒中に存在する各物質は溶剤受槽に移送され、時間を与えて比重差で分離する。底部に溜まった固体を含む溶液は溶剤蒸発槽に移送し加熱真空蒸発でT−EGは蒸発し、コンデンサ−で凝縮され溶剤受槽に回収され、再循環使用する。PET樹脂等は溶剤蒸発器底部に溜まるので、スクリュ−で系外に排出する。T−EGを含む水溶液は廃水蒸発槽で加熱し水分を蒸発、凝縮し廃水受槽に回収し再使用する。金網の槽に残ったガラス繊維、金属、プラスチックは水洗され高速で水分を除去して系外に排出し手分離で分離する。
【0036】
以下に各廃棄物原料と上部排出物、下部排出物を例示して表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
特に、本発明を利用する時の利点は次の2点が挙げられる。
1)T−EG/NaOHを使用したPVC100%の脱塩素効果
PVC樹脂100%をT−EG液にNaOHと伴に浸し温度270〜280℃で20分間維持すると脱塩素率94wt%が得られ、また系外に気化する蒸気のPHは8で装置の腐食なく環境に影響なく脱塩素が行えることがわかった。
2)従来のエチレングリコールを用い、苛性ソーダを触媒とするとPETは解重合してテレフタ−ル酸塩が生成するが、テレフタ−ル酸塩の利用先はPET樹脂に戻すしかない。その為には多量の硫酸を使用してテレフタ−ル酸にし、更に重合しなければならなかった。また副製品として多量のぼう硝が生成し多くの工程と費用を要していた。これに対し、本発明によれば、エチレングリコール/NaOHでなくトリエチレングリコール(T−EG)のみでT−EGの沸点近くでPET樹脂を接触させることにより粉末状のPET樹脂又はオリゴマーとして回収できることになり、これを用い、PET樹脂製品を製造することができるので、リサイクルコストが極めて低額となる。この技術を応用してPET/アルミ/PEフイルム等の複合系プラスチック(金属も含む)の分離ができ且つ解重合しないので工程が大幅に省略できる。
【符号の説明】
【0039】
10 溶解反応槽
11 回転ドラム
20 第1溶剤受槽
30 溶剤蒸発槽
40 水蒸発槽
50 第2溶剤受槽
60 廃水受槽
70 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種熱可塑性プラスチック、熱硬化性フラスチックおよび非プラスチック成分とが複合化してなる複合系廃棄物を処理して各成分を分別回収する方法であって、分離溶剤としてトリエチレングリコールを用い、触媒としてアルカリ金属水酸化物を触媒として添加し、トリエチレングリコールを200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱し、トリエチレングリコール中で溶融可能な成分P1を溶融処理する工程と、熱溶融が困難な成分P2を250〜280℃に加熱したトリエチレングリコール中で攪拌下に溶解又は解重合処理して溶剤とともに排出する工程と、残留する溶融可能な成分P1と強化繊維F又は金属成分Mを回収する工程と、非溶融成分P2と分離溶剤とを回収し、分離溶剤を減圧下に蒸留して非溶融成分P2と分離するとともに精製し再利用する工程からなることを特徴とするプラスチック系複合廃棄物の分別回収方法。
【請求項2】
廃プラスチックがエポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂等のFRPであって、アルカリ金属水酸化物の存在下で加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱されたトリエチレングリコールによる解重合処理により強化繊維と分離する請求項1に記載の分別回収方法。
【請求項3】
廃プラスチックがPVCであって、苛性ソーダの存在下で加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱されたトリエチレングリコール中で脱塩処理するとともに溶融する請求項1に記載の分別回収方法。
【請求項4】
廃プラスチック製品が金属成分を含み、加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱したトリエチレングリコールでの熱溶融、熱分解および解重合処理により金属成分と樹脂成分とを分離する請求項1に記載の分別回収方法。
【請求項5】
廃プラスチック製品が医療廃棄物であって、アルカリ金属水酸化物の存在下で加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱したトリエチレングリコールでの熱処理により殺菌処理とともに熱溶融、熱分解及び/又は解重合処理により金属成分と分離する請求項1に記載の分別回収方法。
【請求項6】
廃プラスチックがPET樹脂成分であって、触媒添加なしで加圧又は常圧下200℃以上沸点近く250〜280℃に加熱したトリエチレングリコールでの溶解処理により解重合させることなく溶解して樹脂成分を回収することを特徴とするPET樹脂の分別回収方法。
【請求項7】
内部には金網メッシュの回転ドラム11がモータで回転駆動される回転軸12に軸支されて横置きされ、回転可能となっている一方、溶媒加熱手段13を備え、反応槽10内に加熱した分離溶剤を供給できるようになっており、前記回転ドラム中攪拌下に分離溶剤で被処理物を処理し、回転ドラム内に溶融プラスチックP1及び強化繊維Fならびに金属成分Mを残留させ、回収する反応槽10と、該反応槽10の底部に接続し、非溶融プラスチックP2の反応物とともに分離溶剤Sを回収する第1溶剤受槽20と、前記第1溶剤受槽20から分離溶剤Sを受け、減圧下に溶剤を沸点以上に加熱して回収する一方、溶剤中に含有する触媒等の反応物質を分離する溶剤蒸発槽30と、溶解反応槽10での洗浄水Wを受け、水を蒸発させて溶剤を回収する廃水蒸発槽40と、前記溶剤蒸発層30に連結し、蒸発する溶剤を未凝集ガスを排気して減圧下に溶剤を凝集回収する第2溶剤受槽50と、前記廃水蒸発層40に連結し、蒸発する水を凝縮して回収する廃水受槽60とからなり、前記廃水蒸発槽40および前記第2溶剤受槽50で回収される溶剤を前記反応槽10に供給して再利用することを特徴とする溶剤再生循環型分離回収装置。
【請求項8】
前記回転ドラムの金網メッシュサイズが反応槽中に投入される粗破砕した溶融するプラスチックP1片が溶融して浸出しないで残留する大きさに設定されている請求項1記載の分離回収装置。
【請求項9】
回転ドラムの回転が反応時の溶剤攪拌のための低速と水洗後の水遠心分離のための高速に2段階に調節される請求項1記載の分離回収装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−6948(P2013−6948A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140141(P2011−140141)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(597104916)アースリサイクル株式会社 (9)
【Fターム(参考)】