説明

複合電子部品

【課題】静電容量が小さく且つ放電特性、耐熱性及び耐候性に優れた静電気対策素子とコモンモードフィルタとを組み合わせて構成された小型で高性能な複合電子部品を提供する。
【解決手段】複合電子部品100は、第1及び第2の磁性基体11a、11bに挟まれたコモンモードフィルタ層12a及び静電気対策素子層12bを備え、静電気対策素子層12bは、下地絶縁層27の表面に形成されたギャップ電極28〜31と、ギャップ電極28〜31を覆う静電気吸収層33とを備えている。ギャップ28G〜31Gは、スパイラル導体17,18の最外周よりも外側に配置されている。磁性コア36は磁性粉及びカーボンを含有する樹脂からなり、ギャップ電極28〜31の上方を覆う保護層として機能する。静電気吸収層33は低電圧放電タイプの静電気保護材料として機能し、静電気などの過電圧が印加された際に静電気吸収層33を介して電極間で初期放電が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合電子部品に関し、特に、インダクタ素子と静電気対策素子とを組み合わせて構成された複合電子部品の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高速な信号伝送インターフェースとしてUSB2.0やHDMIなどの規格が広く普及し、パーソナルコンピュータやデジタルハイビジョンテレビなど数多くのデジタル機器に用いられている。これらのインターフェースは、古くから一般的であったシングルエンド伝送方式とは異なり、一対の信号ラインを用いて差動信号(ディファレンシャルモード信号)を伝送する差動信号方式が採用されている。
【0003】
差動伝送方式は、シングルエンド伝送方式と比べて信号ラインから発生する放射電磁界が少ないだけでなく、外来ノイズの影響を受けにくいという優れた特徴を有している。このため、信号の小振幅化が容易であり、小振幅化による立ち上がり時間及び立ち下がり時間の短縮によって、シングルエンド伝送方式よりも高速な信号伝送を行うことが可能となる。
【0004】
図12は、一般的な差動伝送回路の回路図である。
【0005】
図12に示す差動伝送回路は、一対の信号ライン1,2と、信号ライン1,2にディファレンシャルモード信号を供給する出力バッファ3と、信号ライン1,2からのディファレンシャルモード信号を受ける入力バッファ4とを備えている。かかる構成により、出力バッファ3に与えられる入力信号INは、一対の信号ライン1,2を経由して入力バッファ4へ伝えられ、出力信号OUTとして再生される。このような差動伝送回路は、上述の通り、信号ライン1,2から発生する放射電磁界が少ないという特徴を有しているが、信号ライン1,2に共通のノイズ(コモンモードノイズ)が重畳した場合には比較的大きな放射電磁界を発生させてしまう。コモンモードノイズによって発生する放射電磁界を低減するためには、図12に示すように、信号ライン1,2にコモンモードフィルタ(コモンモードチョークコイル)5を挿入することが有効である。
【0006】
コモンモードフィルタ5は、信号ライン1,2を伝わる差動成分(ディファレンシャルモード信号)に対するインピーダンスが低く、同相成分(コモンモードノイズ)に対するインピーダンスが高いという特性を有している。このため、信号ライン1,2にコモンモードチョークコイル5を挿入することにより、ディファレンシャルモード信号を実質的に減衰させることなく、一対の信号ライン1,2を伝わるコモンモードノイズを遮断することができる。
【0007】
HDMIのような最新の高速デジタルインターフェースでは、高転送レートの微小信号を取り扱うため、静電気に対して非常に敏感なICが使用され、静電気が大きな問題となる。静電気によるICの破壊を防止するため、信号ラインとグランドとの間に静電気対策部品としてのバリスタが使用されている。しかし、バリスタを使用すると信号波形が鈍り、信号品質が劣化することから、より低容量の静電気対策部品が求められている。例えば、特許文献1では、図13に示すように、IC6に接続された信号ライン7,7上にコイル部品8を直列接続すると共に、各信号ライン7とグランドとの間に静電気対策部品9を接続し、静電気対策部品9の静電容量を0.3pF以下とした静電気対策回路が提案されている(特許文献1図9参照)。
【0008】
また、特許文献2には、コモンモードノイズフィルタと静電気保護機能をワンパッケージに収めた複合電子部品において、静電気保護機能を有する電圧依存性抵抗材料を最上部に設けた構造が開示されている。この構造によれば、多数の絶縁層を含む積層体の焼成後に電圧依存性抵抗材料を設けることができ、これにより、焼成時に電圧依存性抵抗材料の酸化、分解などにより静電気保護機能が低下してしまうことを防止でき、その結果、静電気保護機能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−28214号公報
【特許文献2】特開2007−214166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載されたコモンモードフィルタにおいては、静電気対策素子を構成する電圧依存性抵抗材料に樹脂が含まれているため、製造工程上の制約から静電気対策素子を最上部に設けなければならならず、設計上の制約が大きいという問題があった。また、電圧依存性抵抗材料は10μm程度の非常に微細なギャップ間に充填されるが、最上部においては、導体パターンが形成された絶縁層の多数積層する構造に起因して平面の凹凸が大きいため、非常に微細なギャップを安定的に形成することは極めて困難である。さらに、その最上層に静電気対策素子を形成する場合には、製造工程も複雑化し、製造コストも増加するという問題があった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、静電容量が小さく且つ放電特性、耐熱性及び耐候性に優れた静電気対策素子とコモンモードフィルタとを組み合わせて構成された小型で高性能な複合電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明による複合電子部品は、2つの磁性基体の間にインダクタ素子と静電気対策素子とを有する複合電子部品であって、前記インダクタ素子は、樹脂からなる絶縁層と、前記絶縁層上に形成されたコイル導体パターンとを備え、前記静電気対策素子は、下地絶縁層と、前記下地絶縁層上においてギャップを介して相互に対向配置された電極と、少なくとも前記電極間に配置された静電気吸収層と、前記ギャップの上方及び下方の少なくとも一方に設けられた保護層とを備え、前記静電気吸収層は、絶縁性無機材料のマトリックス中に導電性無機材料が不連続に分散したコンポジットであり、前記保護層は、磁性粉及びカーボンを含有する樹脂からなることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、静電容量が非常に小さく、放電開始電圧が低く、且つ、放電耐性に優れた低電圧放電タイプの静電気対策素子を備えるので、静電気対策を行っていない場合の信号と同等の信号を伝送することができ、特性インピーダンスの低下を抑制することができる。しかも、静電気保護材料として絶縁性無機材料と導電性無機材料とのコンポジットを構成しているので、耐圧性が格段に高められるとともに、温度や湿度等の外部環境への耐候性が格段に高められる。また、インダクタ素子と静電気対策素子がワンチップ化されていることから、非常に小型で高機能な電子部品を提供することができる。
【0014】
さらに本発明によれば、静電気対策素子が静電気を吸収する際に部分的に破損、変形し、静電気吸収層の上方又は下方に設けられた保護層に穴が空くようなことがあっても、保護層に含まれる磁性粉及びカーボンが穴に入り込んで穴が修復されるので、静電気対策素子のインピーダンスの低下を防止することができる。さらに、保護層に含まれる微量のカーボンが穴に入り込んで凝集し、カーボンが導電性粒子として有効に機能し、静電気による過電圧が印加されたときにその放電ルートとして作用することから、静電気保護機能の低下を防止して製品の長寿命化を実現することができる。
【0015】
なお、本明細書において、「コンポジット」とは、絶縁性無機材料のマトリックス中に導電性無機材料が分散した状態を意味し、絶縁性無機材料のマトリックス中に導電性無機材料が一様に或いはランダムに分散した状態のみならず、絶縁性無機材料のマトリックス中に導電性無機材料の集合体が分散した状態、すなわち一般に海島構造と呼ばれる状態を含む概念である。また、本明細書において「絶縁性」とは、0.1Ωcm以上を、「導電性」とは、0.1Ωcm未満を意味し、所謂「半導電性」は、その比抵抗が0.1Ωcm以上である限り、前者の絶縁性に含まれる。
【0016】
本発明において、前記保護層は、積層方向に延びる略柱状の磁性コアとして構成されていることが好ましい。この構成によれば、インダクタ素子の特性を高めるための磁性コアを保護層として兼用することができ、磁性コアを用いて静電気対策素子のインピーダンスの低下を防止することができる。
【0017】
本発明において、前記保護層は、前記インダクタ素子と前記静電気対策素子との間に設けられた層であることが好ましい。これによれば、インダクタ素子と静電気対策素子とを磁気的に分離することができ、インダクタ素子の特性を向上させることができる。
【0018】
本発明において、前記保護層は、下地面の全面に設けられていることが好ましい。この構成によれば、保護層を選択的に形成する必要がないことから、保護層を容易に形成することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0019】
本発明において、前記コイル導体パターンが円形スパイラルであり、前記ギャップが前記円形スパイラルの外側に設けられていることが好ましい。この構成によれば、静電気保護機能の低下を防止して製品の長寿命化を図ることができるだけでなく、コイル導体パターンの外側に磁性コアを設けることができ、インダクタ素子の特性をさらに向上させることができる。
【0020】
本発明において、インダクタ素子は、積層方向と垂直な平面にそれぞれ形成された第1及び第2のスパイラル導体を含み、第1及び第2のスパイラル導体は、互いに磁気結合するコモンモードフィルタを構成していることが好ましい。これによれば、静電気を防止しながらコモンモードノイズを除去することができるので、静電気対策が必要な高速デジタル信号ラインのノイズ除去に好ましく使用することができる。
【0021】
本発明においては、静電気対策素子の静電容量の値が0.35pF以下であることが好ましい。静電気対策素子の静電容量が0.35pF以下であれば、DVIやHDMIなどの高速差動伝送ラインの差動伝送インピーダンス規格(100±15Ω)を満足することができる。したがって、信号品質に実質的な影響を与えることなく、静電気によるICの破壊を確実に防止することができる。
【0022】
本発明において、樹脂の材料はポリイミド樹脂又はエポキシ樹脂であり、絶縁性無機材料は、Al23、TiO2、SiO2、ZnO、In23、NiO、CoO、SnO2、V25、CuO、MgO、ZrO2、AlN、BN及びSiCよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの金属酸化物は、絶縁性、耐熱性及び耐候性に優れるので、コンポジットの絶縁性マトリックスを構成する素材として有効に機能し、その結果、放電特性、耐熱性及び耐候性に優れる高機能な静電気対策素子を実現することができる。その上さらに、これらの金属酸化物は、低コストで入手可能であり、しかも、スパッタリング法の適用が可能なので、生産性及び経済性も高められる。
【0023】
本発明において、導電性無機材料は、C、Ni、Cu、Au、Ti、Cr、Ag、Pd及びPtよりなる群から選択される少なくとも1種の金属又はこれらの金属化合物であることが好ましい。絶縁性無機材料のマトリックス中にこれらの金属又は金属化合物を不連続に分散した状態で配合することにより、放電特性、耐熱性及び耐候性に優れる高性能な静電気対策素子を実現することができる。
【0024】
本発明において、静電気吸収層は、絶縁性無機材料と導電性無機材料とを逐次スパッタリングして形成されたコンポジットであるか、これらを同時スパッタリングして形成されたコンポジットであることが好ましい。このようにすると、絶縁性無機材料のマトリックス中に導電性無機材料を不連続に分散した状態で含むコンポジットを、再現性よく簡便に得ることができ、生産性及び経済性が高められる。
【0025】
また、本発明による複合電子部品は、2つの磁性基体の間に設けられたコモンモードフィルタ層及び静電気対策素子層とを備え、コモンモードフィルタ層は、樹脂からなる第1及び第2の絶縁層と、第1の絶縁層上に形成された第1のスパイラル導体と、第2の絶縁層上に形成された第2のスパイラル導体とを備え、静電気対策素子層は、第1のスパイラル導体の一端に接続された第1の静電気対策素子と、第2のスパイラル導体の一端に接続された第2の静電気対策素子と、前記第1及び第2の静電気対策素子の上方及び下方の少なくとも一方に配置された保護層を備え、第1及び第2のスパイラル導体は、積層方向と垂直な平面方向に形成され、互いに磁気結合するように配置され、第1及び第2の静電気対策素子は、下地絶縁層と、下地絶縁層上においてギャップを介して相互に対向配置された電極と、少なくとも電極間に配置された静電気吸収層とを備え、静電気吸収層は、絶縁性無機材料のマトリックス中に導電性無機材料が不連続に分散したコンポジットであり、前記保護層は、磁性材料及びカーボンを含む樹脂からなることを特徴としている。
【0026】
本発明による複合電子部品は、第1のスパイラル導体の他端に接続された第3の静電気対策素子と、第2のスパイラル導体の他端に接続された第4の静電気対策素子とをさらに備え、前記保護層は、前記第3及び第4の静電気対策素子の上方及び下方の少なくとも一方にも配置されていることが好ましい。これによれば、複合電子部品の一対の入力端と出力端の両方に静電気対策素子が接続されているので、一対の信号ラインに対する接続の向きを意識することなく複合電子部品を実装することができ、製造時の取り扱いを容易にすることができる。
【発明の効果】
【0027】
このように、本発明によれば、静電容量が小さく且つ放電特性、耐熱性及び耐候性に優れた静電気対策素子とコモンモードフィルタとを組み合わせて構成された小型で高性能な複合電子部品を提供することができる。特に、本発明による複合電子部品は、信号伝送量が大きく伝送速度も非常に高速なHDMI等の高速信号インターフェースに対して顕著な効果を有するものである。さらに、本発明によれば、多数回の静電気吸収を繰り返しても性能が低下することがなく耐久性に優れた静電気対策素子を有する複合電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態による複合電子部品100の外観構成を示す略斜視図である。
【図2】複合電子部品100の構成を示す回路図である。
【図3】複合電子部品100の層構造の一例を示す略分解斜視図である。
【図4】ギャップ電極28〜31、保護層36及び他の導体パターン(スパイラル導体17,18等)の位置関係を示す略平面図であり、(a)はギャップ電極28〜31及び保護層36のみを示し、(b)はギャップ電極28〜31、保護層36及び他の導体パターンを示している。
【図5】図4(a)のX−X'線に沿った複合電子部品100の側面断面図である。
【図6】静電気対策素子層12bにおける第1のギャップ電極28付近の層構造の一例を示す図であって、(a)は略平面図、(b)は略断面図である。
【図7】静電気対策素子の原理を説明するための模式図である。
【図8】複合電子部品100の製造工程を示すフローチャートである。
【図9】本発明の他の実施形態による複合電子部品200〜400の層構造を示す略側面断面図である。
【図10】複合電子部品300の構造を示す略分解斜視図である。
【図11】過電圧印加した静電気対策素子のインピーダンスの変化を示すグラフであり、(a)は実施例、(b)は比較例である。
【図12】一般的な差動伝送回路の回路図である。
【図13】従来の静電気対策回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の第1の実施形態による複合電子部品の外観構成を示す略斜視図である。
【0031】
図1に示すように、本実施形態による複合電子部品100は、静電気保護機能を備えた薄膜コモンモードフィルタであって、第1及び第2の磁性基体11a、11bと、第1の磁性基体11aと第2の磁性基体11bに挟まれた機能層12とを備えている。また、第1の磁性基体11a、機能層12及び第2の磁性基体11bからなる積層体の外周面には、第1〜第6の端子電極13a〜13fが形成されている。このうち、第1及び第2の端子電極13a,13bは積層体の長手方向と直交する第1の側面10aに形成され、第3及び第4の端子電極13c、13dは第1の側面10aと対向する第2の側面10bに形成され、第5の端子電極13eは第1及び第2の側面10a,10bと直交する第3の側面10cに形成され、第6の端子電極13fは第3の側面と対向する第4の側面10dに形成されている。
【0032】
第1及び第2の磁性基体11a,11bは、機能層12を物理的に保護すると共に、コモンモードフィルタの閉磁路としての役割を果たすものである。第1及び第2の磁性基体11a,11bの材料としては、焼結フェライト、複合フェライト(フェライト粉含有樹脂)等を用いることができるが、機械的強度が高く磁気特性に優れた焼結フェライトを用いることが特に好ましい。
【0033】
図2は、複合電子部品100の構成を示す回路図である。
【0034】
図2に示すように、複合電子部品100は、コモンモードチョークコイルとして機能するインダクタ素子14a、14bと、静電気対策素子15a〜15dとを備えており、インダクタ素子14a、14bの一端は第1及び第2の端子電極13a,13bにそれぞれ接続され、他端は第3及び第4の端子電極13c、13dにそれぞれ接続されている。また、静電気対策素子15a,15bの一端は第1及び第2の端子電極13a,13bにそれぞれ接続され、他端は第5及び第6の端子電極13e,13fにそれぞれ接続されている。静電気対策素子15c,15dの一端は第3及び第4の端子電極13c,13dにそれぞれ接続され、他端は第5及び第6の端子電極13e,13fにそれぞれ接続されている。つまり、第5の端子電極13eは静電気対策素子15a,15cに共通の端子電極であり、第5の端子電極13fは静電気対策素子15b,15dに共通の端子電極である。
【0035】
図12に示したように、複合電子部品100は一対の信号ライン上に実装されるが、このとき第1及び第2の端子電極13a,13bは信号ラインの入力側に接続され、第3及び第4の端子電極13c,13dは信号ラインの出力側に接続される。また、第5及び第6の端子電極13e,13fはグランドラインに接続される。本実施形態による複合電子部品100は、一対の静電気対策素子が入力側と出力側の両方に設けられた対称型の回路であることから、第1及び第2の端子電極13a,13bを信号ラインの入力側に接続しても出力側に接続しても回路構成は同じになる。
【0036】
図3は、複合電子部品100の層構造の一例を示す略分解斜視図である。
【0037】
図3に示すように、複合電子部品100は、第1及び第2の磁性基体11a、11bと、第1及び第2の磁性基体11a、11bに挟まれた機能層12とを備えており、機能層12はコモンモードフィルタ層12aと静電気対策素子層12bによって構成されている。
【0038】
コモンモードフィルタ層12aは、静電気対策素子層12b側から第2の磁性基体11b側に向かって順に積層された絶縁層16a〜16dと、磁性層16eと、接着層16fと、絶縁層16b上に形成された第1のスパイラル導体17と、絶縁層16c上に形成された第2のスパイラル導体18と、絶縁層16a上に形成された第1及び第2の引き出し導体19、20とを備えている。
【0039】
絶縁層16a〜16dは、各導体パターン間、或いは導体パターンと磁性層16eとを絶縁すると共に、導体パターンが形成される下地面の平坦性を確保する役割を果たす。絶縁層16a〜16dの材料としては、電気的及び磁気的な絶縁性に優れ、加工性のよい樹脂を用いることが好ましく、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂を用いることが好ましい。導体パターンとしては、導電性及び加工性に優れたCu、Al等を用いることが好ましい。導体パターンの形成は、フォトリソグラフィーを用いたエッチング法やアディティブ法(めっき)により行うことができる。
【0040】
絶縁層16a〜16dの中央領域であって第1及び第2のスパイラル導体17,18の内側には、絶縁層16a〜16dを貫通する開口25aが形成されており、開口25aの内部には、磁路を形成するための磁性コア26が設けられている。また、第1及び第2のスパイラル導体17,18の外側には、絶縁層16a〜16dを貫通する開口25bが形成されており、開口25bの内部には、磁性コア26と共に磁路を形成するための磁性コア36が設けられている。磁性コア26,36の材料としてはフェライト粉含有樹脂(複合フェライト)を用いることが好ましい。
【0041】
絶縁層16dの表面には磁性層16eが形成されている。開口25a,25b内の磁性コア26,36は、複合フェライトのペーストを硬化させて形成しているが、硬化時に樹脂の収縮が発生し、開口部分に凹凸が生じる。この凹凸をできるだけ少なくするためには、開口の内部のみならず絶縁層16dの表面全体にもペーストを塗布することが好ましく、磁性層16eはそのような平坦性の確保を目的として形成される。
【0042】
接着層16fは磁性基体11bを磁性層16e上に貼り付けるために必要な層である。また、磁性基体11b及び磁性層16eの表面の凹凸を緩和し、密着性を高める役割を果たす。特に限定されるものではないが、接着層16fの材料としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等を用いることができる。
【0043】
第1のスパイラル導体17は、図2に示したインダクタ素子14aに対応するものである。第1のスパイラル導体17の内周端は、絶縁層16bを貫通する第1のコンタクトホール導体21及び第1の引き出し導体19を介して第1の端子電極13aに接続されている。また、第1のスパイラル導体17の外周端は、第3の引き出し導体23を介して第3の端子電極13cに接続されている。
【0044】
第2のスパイラル導体18は、図2に示したインダクタ素子14bに対応するものである。第2のスパイラル導体18の内周端は、絶縁層16c,16bを貫通する第2のコンタクトホール導体22及び第2の引き出し導体20を介して第2の端子電極13bに接続されている。また、第2のスパイラル導体18の外周端は、第4の引き出し導体24を介して第4の端子電極13dに接続されている。本実施形態においては第2の引き出し導体20が第1の引き出し導体19と共通の絶縁層16a上に設けられているが、第1の引き出し導体19と異なる絶縁層上に設けられていてもよい。
【0045】
第1及び第2のスパイラル導体17,18は共に同一の平面形状を有しており、しかも平面視で同じ位置に設けられている。第1及び第2のスパイラル導体17,18は完全に重なり合っていることから、両者の間には強い磁気結合が生じている。以上の構成により、コモンモードフィルタ層12a内の導体パターンはコモンモードフィルタを構成している。
【0046】
第1及び第2のスパイラル導体17,18の外形は共に円形スパイラルである。円形スパイラル導体は高周波での減衰特性が少ないため、高周波用インダクタンスとして好ましく用いることができるが、矩形スパイラルに比べるとループサイズが小さく、矩形状の実装領域を効率良く利用することができないという欠点もある。
【0047】
以上がコモンモードフィルタ層12aの説明である。次に静電気対策素子層12bについて説明する。
【0048】
静電気対策素子層12bは、下地絶縁層27と、下地絶縁層27の表面に形成された第1乃至第4のギャップ電極28〜31と、第1乃至第4のギャップ電極28〜31を覆う静電気吸収層33とを備えている。
【0049】
図4(a)及び(b)は、ギャップ電極28〜31、磁性コア36及び導体パターン(スパイラル導体17,18等)の位置関係を示す略平面図である。特に、図4(a)はギャップ電極28〜31及び磁性コア36のみを示し、図4(b)はギャップ電極28〜31、保護層36及び他の導体パターンを示している。また、図5は、図4(a)のX−X'線に沿った複合電子部品100の側面断面図である。
【0050】
図4(a)に示すように、第1のギャップ電極28付近の層構造は、図2に示した第1の静電気対策素子15aとして機能する部分であり、第2のギャップ電極29付近の層構造は、第2の静電気対策素子15bとして機能する部分である。また、第3のギャップ電極30付近の層構造は、図2に示した第3の静電気対策素子15cとして機能する部分であり、第4のギャップ電極31付近の層構造は、第4の静電気対策素子15dとして機能する部分である。
【0051】
そのため、第1のギャップ電極28の一方の電極28aは第1の端子電極13aに接続されており、他方の電極28bは短絡配線パターン32a,32cを介して第5の端子電極13eに接続されている。また、第2のギャップ電極29の一方の電極29aは第2の端子電極13bに接続されており、他方の電極29bは、短絡配線パターン32b,32cを介して第6の端子電極13fに接続されている。第3のギャップ電極30の一方の電極30aは第3の端子電極13cに接続されており、他方の電極30bは短絡配線パターン32a,32cを介して第5の端子電極13eに接続されている。また、第4のギャップ電極31の一方の電極31aは第4の端子電極13dに接続されており、他方の電極31bは短絡配線パターン32b,32cを介して第6の端子電極13fに接続されている。
【0052】
本実施形態においては、各ギャップ電極の他方の電極28b,29b,30b,31bは、短絡配線パターン32a〜32cを介して相互に電気的に接続されている。特に限定されるものではないが、短絡配線パターン32a〜32cの幅は、第1及び第2の引き出し導体19,20と略等しいことが好ましい。短絡配線パターンは、矩形状の実装領域の長辺方向に延びる第1及び第2の短絡配線パターン32a,32bと、矩形状の実装領域の短辺方向に延びる第3の短絡配線パターン32cからなり、第1の短絡配線パターン32aによって第1ギャップ電極28と第3ギャップ電極30とが接続され、第2の短絡配線パターン32bによって第2ギャップ電極29と第4ギャップ電極31とが接続され、さらに円形スパイラルの中央部を通過する第3の短絡配線パターン32cによって第1短絡配線パターン32aと第2短絡配線パターン32bとの間のみならず、第5端子電極13eと第6端子電極13fとの間までもが短絡されている。このような配線構造により、ギャップ電極間の短絡状態を確保できるだけでなく、加工中の導体パターンの剥離を防止することができ、さらには複合電子部品100の機械的強度を確保することもできる。
【0053】
図4(b)に示すように、ギャップ電極28〜31は、スパイラル導体17,18の中心から見て右斜め上方、右斜め下方、左斜め上方、左斜め下方にそれぞれ設けられている。ここにいう「斜め」とは、矩形状の実装領域の長辺又はこれと直交する短辺に対して斜めの方向である。このように、ギャップ電極28〜31が斜め4方向に設けられていることにより、スパイラル導体17,18や引き出し導体19、20と重なることなくギャップを効率的に配置することができる。
【0054】
ギャップ電極28〜31が有するギャップ28G〜31Gは、スパイラル導体17,18の外側であって、第1及び第2のスパイラル導体17,18及び第1及び第2の引き出し導体19,20と平面的に重ならない位置に設けられている。詳細は後述するが、静電気対策素子は静電気の吸収によって部分的に破損、変形するため、静電気対策素子と重なる位置に導体パターンが配置されている場合には一緒に破損するおそれがある。しかし、静電気対策素子のギャップ28G〜31Gが導体パターンを避けた位置に設けられていることから、静電気によって破壊されたときの上下層の影響を抑えることができ、より信頼性の高い複合電子部品を実現することができる。
【0055】
ギャップ28G〜31Gがスパイラル導体17,18の外側に配置されている点は重要である。円形スパイラル導体の場合、内側の余白領域が小さい反面、外側の余白領域が大きくなるからである。このとき、円弧状のギャップを含めたギャップ電極28〜31の大部分がスパイラル導体と重ならない位置に配置されることにより、第1及び第2のスパイラル導体17,18の軸方向に延びる略柱状の磁性コア36をギャップ電極の直上に設けることができる。なお円弧状のギャップの曲率はスパイラル導体の曲率と必ずしも一致する必要はなく、スパイラル導体よりも大きな曲率であってもよく、さらには直線状であっても構わない。
【0056】
上述したように、ギャップ電極の数は4つであり、インダクタ素子の端子電極の数と一致している。すなわち、ギャップ電極は4端子回路であるコモンモードフィルタの各入出力端子に設けられている。4つのギャップ電極は斜め4方向にそれぞれ設けられているが、本実施形態においては、円弧状のギャップ28G〜31Gの長さ方向の中点は、円形スパイラル導体の中心から見て斜め45度の方向に配置されていることが好ましい。換言すれば、ギャップの長さ方向の中点は、円形スパイラル導体の中心から見て(2n−1)π/4の方向に配置されていることが好ましい。このように配置された円弧状のギャップは、その長さをできるだけ長く確保することができるので、多数の電流経路を形成することができ、多数回の静電気吸収が可能となる。したがって、静電気対策素子の耐久性を高めることができる。
【0057】
図4(b)及び図5に示すように、磁性コア36は各ギャップ電極28〜31の上方に設けられている。本実施形態による磁性コア36は、微量のカーボンを含有する複合フェライトからなり、少なくともギャップ溝の直上を含むギャップ電極28〜31の上方を覆っている。これにより、磁性コア36は、静電気対策素子に対する保護層としても機能する。上記のように静電対策素子は静電気の吸収によって部分的に破損、変質、又は変形し、これにより静電気対策素子の特性は低下する。しかし、磁性コア36がその上方を覆うことにより、静電気対策素子の破損等を修復させることができ、静電気対策素子の特性の低下を抑制することができる。
【0058】
スパイラル導体17,18の内側に設けられた磁性コア26及び磁性層16eの材料は、カーボンを含有しない複合フェライトであってもよいが、磁性コア26,36及び磁性層16eを同時に形成することを考慮すれば、これらは磁性コア36と同一材料からなることが好ましい。磁性コア26,36及び磁性層16eに含まれる磁性材料はフェライト粉に限定されるものではなく、他の磁性粉を用いてもよい。すなわち、磁性コア26,36及び磁性層16eの材料にはカーボンを含有する磁性粉含有樹脂を用いることができる。
【0059】
このように、本実施形態の磁性コア36は、静電気対策素子に対しては、ギャップ電極28〜31の上方に選択的に設けられた略柱状の保護層であり、磁性コア36の周囲には、磁性粉及びカーボンを含まない樹脂が存在している。この樹脂は、絶縁層16a〜16dを構成する樹脂である。また、磁性コア36は実装面の長手方向に沿った側面から露出しているが、これは、一枚の基板上に多数の複合電子部品を形成した後、ダイシングによって個片化する工程に起因するものであり、左右に隣接する素子に共通の磁性コア36を形成した後、その中央を通過する位置で切断することにより得られた形状だからである。
【0060】
図6(a)及び(b)は、静電気対策素子層12bにおける第1のギャップ電極28付近の層構造の一例を示す図であって、(a)は略平面図、(b)は略断面図である。なお、第2〜第4のギャップ電極29〜31の構成は第1のギャップ電極28と同一であるため、重複する説明を省略する。
【0061】
静電気対策素子層12bは、磁性基体11aの表面に形成された下地絶縁層27と、第1のギャップ電極28を構成する一対の電極28a,28bと、これらの電極28a,28bの間に配設された静電気吸収層33とを備えている。この静電気対策素子層12bにおいて、静電気吸収層33は低電圧放電タイプの静電気保護材料として機能し、静電気などの過電圧が印加された際に、この静電気吸収層33を介して電極28a,28b間で初期放電が確保されるように設計されている。
【0062】
下地絶縁層27は絶縁性材料からなり、本実施形態においては製造上の容易さから磁性基体11aの全面を覆っているが、少なくとも電極28a,28b及び静電気吸収層33の下地となっていればよく、必ずしも全面を覆う必要はない。
【0063】
下地絶縁層27の具体例としては、例えば、第1の磁性基体11aの表面に、NiZnフェライトやアルミナ、シリカ、マグネシア、窒化アルミ等の誘電率が50以下、好ましくは20以下の低誘電率材料からなる絶縁膜を形成したものも、好適に用いることができる。なお、下地絶縁層27の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法、反応性蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVDやPVD等の気相法等の公知の手法を適用できる。また、下地絶縁層27の膜厚は、適宜設定可能である。
【0064】
下地絶縁層27の表面には、一対の電極28a,28bが相互に離間して配設されている。本実施形態では、一対の電極28a,28bは、下地絶縁層27上の所定の位置にギャップ距離△Gを置いて、対向配置されている。
【0065】
電極28a,28bを構成する素材としては、例えば、Ni、Cr、Al、Pd、Ti、Cu、Ag、Au及びPtなどから選ばれた少なくとも一種類の金属、或いはこれらの合金等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、本実施形態では、電極28a,28bは、平面視で矩形状に形成されているが、その形状は特に制限されず、例えば、櫛歯状、或いは、鋸状に形成されていてもよい。
【0066】
電極28a,28b間のギャップ距離△Gは、所望の放電特性を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、通常、0.1〜50μm程度であり、低電圧初期放電を確保するという観点から、より好ましくは0.1〜20μm程度、さらに好ましくは0.1〜10μm程度である。なお、電極28a,28bの厚みは、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常、0.05〜10μm程度である。
【0067】
上記の電極28a,28b間には、静電気吸収層33が配設されている。本実施形態では、上述した下地絶縁層27の表面及び電極28a,28b上に、静電気吸収層33が積層された構成となっている。この静電気吸収層33の寸法形状及びその配設位置は、過電圧が印加された際に自身を介して電極28a,28b間で初期放電が確保されるように設計されている限り、特に限定されない。
【0068】
静電気吸収層33は、絶縁性無機材料34のマトリックス中に島状の導電性無機材料35の集合体が不連続に点在した海島構造のコンポジットである。本実施形態では、静電気吸収層33は、逐次スパッタリングを行うことにより形成されている。より具体的には、下地絶縁層27の絶縁性表面上及び/又は電極28a,28b上に、導電性無機材料35をスパッタリングして部分的に(不完全に)成膜した後、引き続き絶縁性無機材料34をスパッタリングすることにより、謂わば、島状に点在した導電性無機材料35の層とこれを覆う絶縁性無機材料34の層との積層構造のコンポジットが形成されている。
【0069】
マトリックスを構成する絶縁性無機材料34の具体例としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。絶縁性やコスト面を考慮すると、Al、TiO、SiO2、ZnO、In23、NiO、CoO、SnO2、V25、CuO、MgO、ZrO2、AlN、BN及びSiCが好ましい。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、絶縁性マトリックスに高度の絶縁性を付与する観点からは、Al23やSiO2等を用いることがより好ましい。一方、絶縁性マトリックスに半導体性を付与する観点からは、TiO2やZnOを用いることがより好ましい。絶縁性マトリックスに半導体性を付与することで、放電開始電圧及びクランプ電圧に優れる静電気対策素子を得ることができる。絶縁性マトリックスに半導体性を付与する方法は、特に限定されないが、例えば、これらTiO2やZnOを単独で用いたり、これらを他の絶縁性無機材料34と併用すればよい。特に、TiO2は、アルゴン雰囲気中でスパッタリングする際に酸素が欠損し易く、電気伝導度が高くなる傾向にあるので、絶縁性マトリックスに半導体性を付与するにはTiO2を用いることが特に好ましい。絶縁性無機材料34は、上層に位置する任意の層(例えば絶縁層16a)から一対の電極28a,28bや導電性無機材料35を保護する保護層としても機能するものである。
【0070】
導電性無機材料35の具体例としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。導電性を考慮すると、C、Ni、Cu、Au、Ti、Cr、Ag、Pd及びPt、或いは、これらの合金が好ましい。
【0071】
電極28、絶縁性無機材料34及び導電性無機材料35の組み合わせとしては、Cu、SiO及びAuの組み合わせが特に好ましい。これらの材料で構成された静電気対策素子は電気的特性に優れるだけでなく、加工性やコスト面でも極めて有利である。特に、島状の導電性無機材料35の集合体が不連続に点在した海島構造のコンポジットを高精度且つ容易に形成することができる。
【0072】
静電気吸収層33の総厚みは、特に限定されるものではなく、適宜設定することができるが、より一層の薄膜化を達成する観点から、10nm〜10μmであることが好ましく、15nm〜1μmであることがより好ましく、15〜500nmであることがより好ましい。本実施形態の如く、謂わば、不連続に点在した島状の導電性無機材料35の層と絶縁性無機材料34のマトリックスの層とを形成する場合、導電性無機材料35の層の厚みは、1〜10nmであることが好ましく、絶縁性無機材料34の層の厚みは、10nm〜10μmであることが好ましく、より好ましくは10nm〜1μmであり、より好ましくは10〜500nmである。
【0073】
静電気吸収層33の形成方法は、上述したスパッタリング法に限定されるものではない。下地絶縁層27の絶縁性表面上及び/又は電極28a,28b上に、公知の薄膜形成方法を適用して、上述した絶縁性無機材料34及び導電性無機材料35を付与することにより、静電気吸収層33を形成することができる。
【0074】
本実施形態の静電気対策素子層12bにおいては、絶縁性無機材料34のマトリックス中に不連続に点在した島状の導電性無機材料35を含む静電気吸収層33が、低電圧放電タイプの静電気保護材料として機能する。そして、かかる構成を採用することにより、静電容量が小さく、放電開始電圧が低く、且つ、放電耐性に優れる、高性能な静電気対策素子が実現される。しかも、低電圧放電タイプの静電気保護材料として機能する静電気吸収層33として、少なくとも絶縁性無機材料34と導電性無機材料35とから構成されるコンポジットが採用されている。そのため、上記従来の有機−無機複合膜のものに比して、耐熱性が高められ、また、温度や湿度等の外部環境により特性が変動し難いものとなり、その結果、信頼性が高められる。その上さらに、スパッタリング法により静電気吸収層33が形成可能であり、これにより、生産性及び経済性がより一層高められる。なお、本実施形態の静電気対策素子は、電極28a,28b間に電圧を印加することにより静電気吸収層33中へ電極28a,28bの一部が飛散した結果、静電気吸収層33が電極28a,28bを構成する素材を含む構成であってもよい。
【0075】
磁性コア36は、静電気による過電圧の印加によって静電気吸収層33が破損、変質、変形した際、磁性コア36よりも上方への放電破壊の影響を抑え、静電気吸収層33の特性低下を補償する。磁性コア36の材料にはフェライト粉及びカーボンを含有する樹脂(カーボン含有複合フェライト)を用いる。カーボンの含有率はフェライト粉や樹脂に比べて僅かでよく、1〜3wt%程度でよい。1wt%未満ではカーボンを含有することによる効果が得られず、3wt%を超えるとカーボンが原因で磁性コア36のインピーダンスが低下し、保護層としての本来の機能が低下するからである。フェライト粉の含有率は求める磁気特性によっても異なるが、50〜85wt%程度であればよい。
【0076】
静電気吸収層33の上面に樹脂のみが存在する場合、静電気の吸収時に樹脂に穴が空いたときにこの穴が静電気対策素子のインピーダンス低下の原因となる。しかし、本実施形態のようにカーボン含有複合フェライトからなる磁性コア36がギャップの直上に存在する場合には、これらカーボン及び磁性粉がこの穴に入り込んで穴を埋めるので、静電気対策素子のインピーダンスの低下を防止することができる。さらに、フェライト粉と共に導電性を有する微量のカーボンが穴に入り込み、これが静電気吸収層33内の導電性無機材料35と似たような働きをし、修復箇所は補助的な静電気吸収部材として機能する。つまり、静電気による過電圧が印加されたときに穴に充填されたカーボン及び磁性粉を経由して放電するルートが形成されるため、従来の構成であれば十回程度の使用(静電気吸収)で消耗するが、十数回以上の使用が可能となり、静電気対策素子の寿命を引き延ばすことができる。
【0077】
図7は、静電気対策素子の原理を説明するための模式図である。
【0078】
図7に示すように、一対の電極28a,28b間に静電気による放電電圧が印加されたとき、放電電流は、矢印で示すように、絶縁性無機材料34のマトリックス中に不連続に点在した島状の導電性無機材料35によって構成される任意の経路を通って電極28aから電極28b(グランド)に向かって流れる。このとき、電流経路中のエネルギー集中が大きかった地点の導電性無機材料35は絶縁性無機材料34と共に破壊され、静電気の放電エネルギーは吸収される。破壊された経路は非導通となるが、図示のように、不連続に点在した島状に導電性無機材料35によって多数の電流経路が形成されているため、多数回の静電気吸収が可能である。
【0079】
以上説明したように、本実施形態による複合電子部品100は、静電容量が小さく、放電開始電圧が低く、且つ、放電耐性、耐熱性及び耐候性に優れた低電圧タイプの静電気対策素子を内蔵しているので、高性能な静電気保護機能を備えたコモンモードフィルタとして機能する複合電子部品を実現することができる。
【0080】
また、本実施形態によれば、静電気対策素子層12bの材料として絶縁性無機材料34及び導電性無機材料35が使用され、静電気対策素子層12bを構成する各種材料に樹脂が含まれていないことから、磁性基体11a上に静電気対策素子層12bを形成し、さらにその上にコモンモードフィルタ層12aを形成することができる。コモンモードフィルタ層12aをいわゆる薄膜工法で形成する場合には350℃以上、導体パターンが形成されたセラミックシートを順次積層するいわゆる積層工法で形成する場合には800℃の熱処理工程が必要となるが、静電気対策素子層の材料として絶縁性無機材料34及び導電性無機材料35を使用した場合には、熱処理工程に耐えることができ、正常に機能する静電気対策素子を確実に形成することができる。さらに、磁性基板上の十分に平坦な面に静電気対策素子を形成することができ、ギャップ電極の微小なギャップを安定的に形成することができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、ギャップの形成位置がコモンモードフィルタの最外周よりも外側であって、コモンモードフィルタを構成する第1及び第2のスパイラル導体等と平面的に重ならず、それらの導体パターンを避けた位置に設けられていることから、静電気対策素子が静電気によって部分的に破壊されたときの上下方向の影響を抑えることができ、より信頼性の高い複合電子部品を実現することができる。特に、ギャップをスパイラル導体の最外周に近接させると共にスパイラル導体の最外周に沿った形状とすることで、矩形状の実装面のできるだけ内側にギャップを形成することができ、十分な長さを有する円弧状のギャップを形成することができる。ギャップが十分な長さを有する場合、多数の電流経路を確保することができるので、静電気吸収回数を増加させることができる。したがって、静電気対策素子の耐久性を高めることができる。
【0082】
また、本実施形態では、各絶縁層16a〜16dを貫通する磁性コアがスパイラル導体17,18の内側のみならず外側にも設けられているので、コモンモードフィルタの磁気特性をさらに高めることができる。
【0083】
また、本実施形態によれば、静電気吸収層の上面であってギャップ電極の上方にカーボン含有複合フェライトからなる磁性コア36が設けられているので、静電気対策素子の特性低下を防止することができる。すなわち、磁性コア36の下面が各ギャップ電極28〜31の上方に位置し、各ギャップ電極の上方を覆う保護層として機能することから、静電気の放電エネルギー吸収時に静電気吸収層が破損等したとしても静電気対策素子のインピーダンスの低下を抑制することができる。また、微量のカーボンが上記静電気吸収層33内の導電性無機材料35と似たような働きをすることで修復箇所を補助的な静電気吸収部材として機能させることができる。そのため、十数回以上の静電気吸収が可能となり、静電気対策素子の寿命を引き延ばすことができる。
【0084】
さらに、本実施形態によれば、図2に示したように、複合電子部品100は一対の信号ライン上に実装され、静電気対策素子15a,15bは、コモンモードフィルタを構成するインダクタ素子14a,14bよりも信号ラインの入力側に設けられていることから、静電気対策素子による過電圧の吸収効率を高めることができる。通常、静電気による過電圧は、インピーダンス整合のとれていない異常な電圧であるため、コモンモードフィルタの入力端で一回反射する。この反射信号は元の信号波形に重畳され、電圧が上昇した信号は、静電気対策素子で一気に吸収される。すなわち、静電気対策素子の後段にあるコモンモードフィルタが元波形よりも大きい波形にしてくれるので、電圧レベルが低い状態から吸収する場合よりも静電気対策素子で吸収されやすい状態を作り出すことができる。こうして、一回吸収した信号をコモンモードフィルタに入力することにより、細かいノイズを除去することができる。
【0085】
さらに、本実施形態による複合電子部品100は、入力側と出力側の両方に一対の静電気対策素子が設けられた対称型の回路であることから、実装方向の制約がないチップ部品として提供することができる。
【0086】
次に、本実施形態による複合電子部品100の製造方法について詳細に説明する。
【0087】
図8は、複合電子部品100の製造工程を示すフローチャートである。
【0088】
複合電子部品100の製造では、まず第1の磁性基体11aを用意し(ステップS101)、第1の磁性基体11aの表面に静電気対策素子層12bを形成し(ステップS102〜S105)、静電気対策素子層12bの表面にコモンモードフィルタ層12aを形成した後(ステップS106〜S111)、第2の磁性基体11bを積層する(ステップS112)。その後、外周面に端子電極13a〜13fを形成することにより(ステップS113)、第1及び第2の磁性基体11a,11bに挟まれたコモンモードフィルタ層12a及び静電気対策素子層12bを有する複合電子部品100が完成する。
【0089】
本実施形態による複合電子部品100の製造方法は、コモンモードフィルタ層12a及び静電気対策素子層12bをいわゆる薄膜工法で一貫して形成することを特徴としている。ここで、薄膜工法とは、感光性樹脂を塗布し、これを露光及び現像して絶縁層を形成した後、絶縁層の表面に導体パターンを形成する工程を繰り返すことにより、絶縁層及び導体層が交互に形成された多層膜を形成する方法である。以下、静電気対策素子層12b及びコモンモードフィルタ層12aの形成工程について詳細に説明する。
【0090】
静電気対策素子層12bの形成では、まず磁性基体11aの表面に下地絶縁層27(ステップS102)を形成する。下地絶縁層27の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法、反応性蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVDやPVD等の気相法等の公知の手法を適用できる。また、下地絶縁層27の層厚は、適宜設定可能である。
【0091】
次に、下地絶縁層27の表面にギャップ電極28〜31及び短絡配線パターン32a〜32cを形成する(ステップS103)。ギャップ電極28〜31及び短絡配線パターン32a〜32cは、下地絶縁層27の全面に電極材料を成膜した後、電極材料をパターニングすることにより形成することができる。一対の電極間のギャップ距離ΔGは0.1〜50μm程度と非常に微細であることから、高精度なパターニングが要求され、下地面の平坦性も要求される。ここで、下地絶縁層27は平坦性の高い磁性基体11a上に形成され、下地絶縁層27の平坦性も高いことから、微細なギャップ幅を高精度に制御することができる。
【0092】
次に、ギャップ電極28〜31及び短絡配線パターン32a〜32cが形成された下地絶縁層27の表面に静電気吸収層33を形成する(ステップS104)。詳細には、下地絶縁層27の絶縁性表面上及び/又は電極28上に、導電性無機材料35をスパッタリングして部分的に(不完全に)成膜した後、引き続き絶縁性無機材料34をスパッタリングすることにより、謂わば、島状に点在した導電性無機材料35の層とこれを覆う絶縁性無機材料34の層との積層構造のコンポジットを形成する。以上により、静電気対策素子層12bが完成する。
【0093】
コモンモードフィルタ層12aの形成では、絶縁層及び導体パターンを交互に形成することにより、絶縁層16a〜16d、第1及び第2のスパイラル導体17,18、第1及び第2の引き出し導体19,20等を形成する(ステップS105〜S108)。詳細には、静電気対策素子層12b上にまず絶縁層16aを形成した後、絶縁層16a上に第1及び第2の引き出し導体19,20を形成する(ステップS105)。次に、絶縁層16a上に絶縁層16bを形成した後、絶縁層16b上に第1のスパイラル導体17、引き出し導体23を形成すると共に、絶縁層16bを貫通するコンタクトホール導体21を形成する(ステップS106)。次に、絶縁層16b上に絶縁層16cを形成した後、絶縁層16c上に第2のスパイラル導体18、引き出し導体24を形成すると共に、絶縁層16c,16bを貫通するコンタクトホール導体22を形成する(ステップS107)。次に、絶縁層16c上に絶縁層16dを形成する(ステップS108)。
【0094】
ここで、各絶縁層16a〜16dは、下地面に感光性樹脂をスピンコートし、これを露光及び現像することにより形成することができる。特に、絶縁層16b〜16dは開口25a,25bを有する絶縁層として形成される。また、スパイラル導体等の導体パターンは、蒸着法又はスパッタリング法により導体層を形成した後、パターニングを行うことにより形成することができる。
【0095】
次に、開口25a,25b内にカーボン含有複合フェライトのペーストを充填し、さらに絶縁層16dの表面にもカーボン含有複合フェライトのペーストを均一に塗布することにより、内側の磁性コア26,外側の磁性コア36及び磁性層16eを同時に形成する(ステップS109)。その後、接着層16fを形成し(ステップS110)、接着層16fを介して第2の磁性基体11bを貼り合わせた後(ステップS111)、積層体の外周面に端子電極13a〜13fを形成することにより(ステップS112)、複合電子部品100が完成する。
【0096】
以上説明したように、本実施形態による複合電子部品の製造方法は、静電気対策素子層12b及びコモンモードフィルタ層12aを一貫して薄膜工法で形成するので、特別な製造工程を経由することなく複合電子部品を製造することができる。また、本実施形態による複合電子部品の製造方法は、磁性基体11a上に静電気対策素子層12bを形成し、静電気対策素子層12b上にコモンモードフィルタ層12aを形成するので、静電気対策素子を比較的平坦な磁性基体11aの表面に形成することができ、高品質な静電気対策素子とコモンモードフィルタとを組み合わせた複合電子部品を製造することができる。
【0097】
次に、本発明の他の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0098】
図9(a)〜(c)は、本発明の他の好ましい実施形態による複合電子部品200〜400の層構造の一例を示す略分解斜視図である。
【0099】
図9(a)に示す複合電子部品200は、カーボン含有複合フェライトからなる磁性層16gが下地面である静電気吸収層33の全面に形成されていることを特徴としている。磁性層16gは、静電気対策素子層12b(静電気吸収層33)とコモンモードフィルタ層12aとの間に介在し、両者を絶縁分離するための層である。磁性層16gがこのように設けられている場合には、コモンモードフィルタ層12aと静電気対策素子層12bとを磁気的に絶縁分離することができ、コモンモードフィルタの特性をさらに向上させることができる。また、磁性コア26と磁性コア36の上端同士が磁性層16eを介して磁気的に接続されるのみならず、下端同士も磁性層16gを介して磁気的に接続されるので、複合フェライトによる完全な閉磁路を形成することができ、コモンモードフィルタの特性をさらに向上させることができる。また磁性層16gをギャップ電極の上方に選択的に形成する必要がないので、製造工程を簡素化することができ、低コストで製造することができる。なお、磁性層16g中のカーボンは微量であることから、ギャップ電極28〜31の上方以外の領域にカーボン含有複合フェライトが設けられていたとしても特に問題はない。
【0100】
なお、本実施形態においては、磁性層16gのみならず磁性コア26,36及び磁性層16eにカーボン含有複合フェライトを用いてもよく、磁性層16gにのみカーボン含有複合フェライトを用い、それ以外の磁性コア26,36及び磁性層16eにはカーボンを含有しない通常の複合フェライトを用いてもよい。ただし、製造の効率性を考慮すれば、これらすべてをカーボン含有複合フェライトで構成した方が合理的である。カーボン含有複合フェライト中のカーボンは微量であることから、磁性コア26,36及び磁性層16eにカーボン含有複合フェライトを用いたとしても特に問題はない。
【0101】
次に、図9(b)に示す複合電子部品300は、図9(a)の構成において磁性コア36が省略されたものであり、カーボン含有複合フェライトからなる磁性層16gのみを備えることを特徴としている。図9(b)に示す複合電子部品300の分解斜視図を図10に示す。磁性層16gはギャップ電極28〜31の上方のみならず静電気吸収層33の全面を覆っていることから、静電気吸収時の破損によるインピーダンス低下を防止するだけでなく、コモンモードフィルタ層12aと静電気対策素子層12bとを磁気的に絶縁分離することができ、コモンモードフィルタの特性をさらに向上させることができる。また磁性層16gをギャップ電極の上方に選択的に形成する必要がないので、製造工程を簡素化することができ、低コストで製造することができる。
【0102】
次に、図9(c)に示す複合電子部品400は、図9(b)の構成において磁性層16gが各ギャップ電極28〜31の上方に選択的に設けられていることを特徴としている。この磁性層16gは、コモンモードフィルタ層12aを貫通する略柱状体の磁性コア36と異なり、コモンモードフィルタの外側の磁路として有効に機能するものではないが、静電気吸収時の破損によるインピーダンス低下を防止する機能を有している。磁性層16gの周囲には絶縁層16aを構成する樹脂が充填されている。
【0103】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明に包含されるものであることは言うまでもない。
【0104】
例えば、上記実施形態においては、静電気対策素子層12bを下層、コモンモードフィルタ層12aを上層としているが、静電気対策素子層12bを上層、コモンモードフィルタ層12aを下層としてもよい。この場合、静電気対策素子層12bがコモンモードフィルタ層12aの上面に形成されることから、コモンモードフィルタ層の上面が十分な平坦性を有することが必要となる。また、静電気吸収層33の上面に形成された保護層16gは磁性基板11bと静電気吸収層33との間に介在することになるが、このような構成であっても静電気対策素子の特性低下を抑制する層としての効果を発揮することができる。
【0105】
また、上記実施形態においては、略円形状のスパイラル導体(曲線によって形作られる丸パターン)を用いているが、略矩形状のスパイラル導体(直線によって形作られる角パターン)を用いて構成してもよい。
【0106】
また、上記実施形態においては、静電気対策素子層12bが4つのギャップ電極28〜31を含む場合について説明したが、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、例えば端子電極13a,13bにそれぞれ接続された2つのギャップ電極28、29のみを有する構成であってもよく、端子電極13c,13dにそれぞれ接続された2つのギャップ電極30、31のみを有する構成であってもよい。
【実施例】
【0107】
カーボン含有複合フェライトからなる保護層を有する静電気対策素子とコモンモードフィルタ素子とを組み合わせて構成された複合電子部品の実施例サンプルを用意した。このサンプルは、図10に示すように、焼結フェライトからなる磁性基体11a,11bと、磁性基体11a上に形成されたAlからなる厚さ約3μmの絶縁層27と、絶縁層27上に形成された静電気吸収層33と、静電気吸収層33上に形成されたカーボン含有複合フェライトからなる保護層16gと備えたものであり、静電気吸収層33は、Alの絶縁層上に形成された厚さ約4000ÅのCr/Cu膜からなるギャップ電極28〜31と、ギャップ電極28〜31上に形成されたAuからなる導電性無機材料35と、導電性無機材料35上に設けられたAlからなる絶縁性無機材料34とで構成されたものであった。さらに、カーボン含有複合フェライト樹脂としては、フェライト粉約60wt%と、Tg=90〜100℃の樹脂約39wt%と、ケッチェンブラック約1.0wt%を含むものを用いた。
【0108】
次に、このサンプルに4kV、150pF、330Ωの接触放電電圧を印加した後、静電気対策素子の絶縁抵抗を測定した。そして、このような電圧印加を繰り返し行ったときの絶縁抵抗の変化を調べた。その結果を図11(a)のグラフに示す。
【0109】
図11(a)に示すように、電圧印加前(試験前)の絶縁抵抗Rは1×1011Ω程度であり、放電電圧の印加を繰り返しても絶縁抵抗はほとんど変化しなかった。
【0110】
比較例として、カーボンを含有しない複合フェライトからなる保護層16gを有する静電気対策素子とコモンモードフィルタ素子とを組み合わせて構成された複合電子部品の比較例サンプルを用意した。このサンプルは、保護層の材料としてカーボン非含有複合フェライトを用いた点以外は実施例サンプルと同一の構成を有するものであった。カーボン非含有複合フェライトとしては、フェライト粉約81wt%と、Tg=90〜100℃の樹脂約19wt%を含むものを用いた。
【0111】
次に、このサンプルに上記実施例と同様の条件で接触放電電圧を繰り返し印加したときの絶縁抵抗の変化を調べた。その結果を図11(b)のグラフに示す。
【0112】
図11(b)に示すように、電圧印加前(試験前)の絶縁抵抗は実施例サンプルとほぼ等しく、1×1011Ω程度であったが、放電電圧の印加を繰り返すと絶縁抵抗は低下した。特に、絶縁抵抗は10回目の電圧印加から低下し始め、放電電圧の印加が25回繰り返された後の比較例サンプルの絶縁抵抗は1×10Ω程度まで低下した。
【符号の説明】
【0113】
1,2 信号ライン
3 出力バッファ
4 入力バッファ
5 コモンモードチョークコイル
6 IC
7 信号ライン
8 コイル部品
9 静電気対策部品
10a 第1の側面
10b 第2の側面
10c 第3の側面
10d 第4の側面
11a 第1の磁性基体
11b 第2の磁性基体
12 機能層
12a コモンモードフィルタ層
12b 静電気対策素子層
13a〜13f 端子電極
14a,14b インダクタ素子
15a〜15d 静電気対策素子
16a〜16d 絶縁層
16e 磁性層
16f 接着層
16g 磁性層
17 第1のスパイラル導体
18 第2のスパイラル導体
19 第1の引き出し導体
20 第2の引き出し導体
21 第1のコンタクトホール導体
22 第2のコンタクトホール導体
23 第3の引き出し導体
24 第4の引き出し導体
25 開口
26 磁性コア
27 下地絶縁層
28〜31 ギャップ電極
28G,29G,30G,31G ギャップ
28a,28b 電極
29a,29b 電極
30a,30b 電極
31a,31b 電極
32a〜32c 短絡配線パターン
33 静電気吸収層
34 絶縁性無機材料
35 導電性無機材料
36 保護層
100 複合電子部品
200 複合電子部品
300 複合電子部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの磁性基体の間にインダクタ素子と静電気対策素子とを有する複合電子部品であって、
前記インダクタ素子は、樹脂からなる絶縁層と、前記絶縁層上に形成されたコイル導体パターンとを備え、
前記静電気対策素子は、下地絶縁層と、前記下地絶縁層上においてギャップを介して相互に対向配置された電極と、少なくとも前記電極間に配置された静電気吸収層と、前記ギャップの上方及び下方の少なくとも一方に設けられた保護層とを備え、
前記静電気吸収層は、絶縁性無機材料のマトリックス中に導電性無機材料が不連続に分散したコンポジットであり、
前記保護層は、磁性粉及びカーボンを含有する樹脂からなることを特徴とする複合電子部品。
【請求項2】
前記保護層は、積層方向に延びる略柱状の磁性コアとして構成されていることを特徴とする請求項1に記載の複合電子部品。
【請求項3】
前記保護層は、前記インダクタ素子と前記静電気対策素子との間に設けられた層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合電子部品。
【請求項4】
前記保護層は、下地面の全面に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の複合電子部品。
【請求項5】
前記コイル導体パターンが円形スパイラルであり、前記ギャップが前記円形スパイラルの外側に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の複合電子部品。
【請求項6】
前記インダクタ素子は、積層方向と垂直な平面にそれぞれ形成された第1及び第2のスパイラル導体を含み、
前記第1及び第2のスパイラル導体は、互いに磁気結合するコモンモードフィルタを構成していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の複合電子部品。
【請求項7】
前記静電気対策素子の静電容量の値が0.35pF以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の複合電子部品。
【請求項8】
前記樹脂の材料がポリイミド樹脂又はエポキシ樹脂であり、
前記絶縁性無機材料は、Al23、TiO2、SiO2、ZnO、In23、NiO、CoO、SnO2、V25、CuO、MgO、ZrO2、AlN、BN及びSiCよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の複合電子部品。
【請求項9】
前記導電性無機材料は、C、Ni、Cu、Au、Ti、Cr、Ag、Pd及びPtよりなる群から選択される少なくとも1種の金属又はこれらの金属化合物であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の複合電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−18756(P2011−18756A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162003(P2009−162003)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】