説明

複層シート、エンドレスベルトならびにその製造方法

【課題】耐熱性、非粘着性、耐磨耗性、グリップ性が優れた複層シート及びこの複層シートからなるエンドレスベルト並びにその製造方法の提供。
【解決手段】フッ素樹脂2aと耐熱性繊維織布2bからなる少なくとも1層の複合材層2とポリイミド系樹脂またはシリコーンゴムからなる表面層3aとを有する複層シート10であって、前記表面層3aが、前記複合材層2に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面を介して形成されていることを特徴とする複層シート、及びエンドレスベルト並びにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層シート、エンドレスベルトならびにその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、例えば工業関連に用いることができる耐熱性、非粘着性および耐磨耗性、グリップ性が優れた複層シートおよびこの複層シートからなるエンドレスベルトならびにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性および引張強度等に優れた耐熱性繊維織布に、耐熱性や非粘着性に優れた耐熱性樹脂を複合した耐熱性複合シートが知られており、これら耐熱性複合シートは工業関連の耐熱非粘着性シートや耐熱非粘着性搬送ベルト等として使用されている。
【0003】
上記耐熱性複合シートに用いられる耐熱性繊維織布としては、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維等を平織、綾織等とした織布が用いられている。
【0004】
また、上記耐熱性複合シートに用いられる耐熱性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等のフッ素樹脂が用いられている。
【0005】
しかし、一般的に、フッ素樹脂は、耐熱性、耐寒性、非粘着性、耐薬品性、耐燃焼性、耐候性、電気絶縁性、低摩擦性等に優れているが、耐摩耗性に乏しいことと低摩擦性に優れるためスリップし易いという問題点がある。
フッ素樹脂よりも耐摩耗性に優れる耐熱性樹脂としてポリイミド系樹脂等が挙げられる。また、フッ素樹脂よりも低摩擦性に劣り、グリップ性に優れ、スリップし難い耐熱性材料としてシリコーンゴム、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。
【0006】
耐摩耗性を向上させたシートの製造方法としては、例えば、ポリイミド系樹脂をフッ素樹脂水性懸濁液に分散させた混合液に耐熱性繊維織布を含浸し付着させて、乾燥した後、焼成する方法(特開2006−21403号公報(特許文献1))が提案されている。
【0007】
しかし、上記の特許文献1に記載のシートは、ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂の混合材であることから双方の性能が平均化されていて、ポリイミド系樹脂本来の優れた耐摩耗性を得ることは困難なようである。搬送用のエンドレスベルトにおいては、駆動ロールとの接触面であるベルトの内側面が適度なグリップ性と耐磨耗性を有していることが重要となるが、ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂の混合材ではこれらを両立させることは困難なようである。
【0008】
ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂の混合材ではない、ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂の層を形成する管状エンドレスベルト(特開平7−110632号公報(特許文献2)、特開平7−178741号公報(特許文献3)、特開2002−178422号公報(特許文献4))も提案されている。しかし、製造方法が円筒状金型での成型であり、様々な寸法に対応するためには、設備費が増大するようである。
【0009】
グリップ性に優れるシリコーンゴムの表面層を有するエンドレスベルトの製造方法としては、特開2006−305946号公報(特許文献5)が提案されている。しかし、フッ素樹脂層とシリコーンゴム表面層との複層ベルトについては記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−21403号公報
【特許文献2】特開平7−110632号公報
【特許文献3】特開平7−178741号公報
【特許文献4】特開2002−178422号公報
【特許文献5】特開2006−305946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記の事情を考慮し、検討したものであって、優れた耐熱性、非粘着性と共に必要な耐摩耗性やグリップ性を有したシートを得て、これを必要寸法に裁断してエンドレス化することで、型を使用せず様々な寸法のエンドレスベルトが製造可能な複層シート、およびこの複層シートからなるエンドレスベルトならびにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による複層シートは、フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる少なくとも1層の複合材層とポリイミド系樹脂またはシリコーンゴムからなる表面層とを有する複層シートであって、前記表面層が、前記複合材層に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面を介して形成されていること、を特徴とするものである。
【0013】
このような本発明による複層シートは、好ましい態様として、前記の表面活性化処理が、シリカ粒子付着焼成処理、金属ナトリウムエッチング処理、プラズマ放電処理またはコロナ放電処理であるもの、を包含する。
【0014】
また、本発明によるエンドレスベルトは、上記の複層シートから形成されたベルト状物の環状体からなること、を特徴とするものである。
【0015】
そして、本発明によるエンドレスベルトの製造方法は、上記の複層シートをベルト状に裁断し、この複層シートのベルト状物の対向する二つの端部を接合して環状体を得ること、を特徴とするものである。
【0016】
また、本発明によるもう一つのエンドレスベルトの製造方法は、上記の複層シートと他のシートとが積層されたベルト状物を、このベルト状物の前記複層シートについての対向する二つの端部およびこのベルト状物の前記他のシートについての対向する二つの端部をそれぞれ接合ないし近接配置させて環状体を得ること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた耐熱性、非粘着性および耐摩耗性、グリップ性を有する複層シートを得ることができる。
【0018】
この複層シートは、その表面層がポリイミド系樹脂またはシリコーンゴムであることから、所望の用途、要求性能等に適合した非粘着性、耐摩耗性ないしグリップ性等を得ることが出来る。
【0019】
そして、本発明によれば、この複層シートをそのままあるいは他のシートを積層した後に、所望とする幅および長さのエンドレスベルトが形成できるように、この複層シートあるいは他のシートの積層物をベルト状に切断し、これからエンドレスベルトを得ることができるので、用途に応じた所望の幅、長さ、層構成のエンドレスベルトを容易に製造することができる。また、積層に先だって、所望の幅、長さを有する各層を用意し、これらを積層の後、エンドレスベルトを製造することができる。
【0020】
また、場合により、同一の複層シートを切断することなしに幅広のエンドレスベルトを一旦形成させた後に、この幅広のエンドレスベルトを所望の幅に切断することによって、長さが同一のエンドレスベルトを同時に複数製造することが可能になる。また、前記の幅広のエンドレスベルトを切断する際の幅を調整することによって、幅が異なるエンドレスベルトを作り分けることも容易である。
【0021】
そして、複層シートの表面層の形成をポリイミド系樹脂またはシリコーンゴムの塗布によって行うことができるので、予め表面層部分をシート状で得ておいてこれを接着剤等によって積層する場合に比べて、表面層の接合強度が高いことから強度および耐久性が優れた複層シートおよびエンドレスベルトを得ることができ、かつ複層シートやエンドレスベルトの製造を容易かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による複層シートの構造を示す断面図。
【図2】本発明による複層シートの構造を示す断面図。
【図3】本発明による複層シートの構造を示す断面図。
【図4】本発明による複層シートの構造を示す断面図。
【図5】本発明による複層シートの構造を示す断面図。
【図6】本発明によるエンドレスベルトの構造を示す断面図。
【図7】本発明によるエンドレスベルトの構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明による複層シートは、フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる少なくとも1層の複合材層とポリイミド系樹脂またはシリコーンゴムからなる表面層とを有する複層シートであって、前記表面層が、前記複合材層に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面を介して形成されていること、を特徴とするものである。
【0024】
このような本発明による複層シートの好ましい具体例としては、例えば図1〜5に記載されたものを挙げることができる。
【0025】
図1に示される本発明による複層シート10は、フッ素樹脂2aと耐熱性繊維織布2bからなる1層の複合材層2とポリイミド系樹脂からなる表面層3aとを有する複層シートであって、前記表面層3aが、前記複合材層2に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面4を介して形成されているものである。
【0026】
図2に示される本発明による複層シート11は、フッ素樹脂2aと耐熱性繊維織布2bからなる1層の複合材層2とシリコーンゴムからなる表面層3bとを有する複層シートであって、前記表面層3bが、前記複合材層2に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面4を介して形成されているものである。
【0027】
図3に示される本発明による複層シート12は、この複層シートの両面にポリイミド系樹脂からなる表面層を有するものであって、フッ素樹脂2aと耐熱性繊維織布2bからなる1層の複合材層2と、ポリイミド系樹脂からなる表面層3aとを有する複層シートであって、前記表面層3aが、前記複合材層2に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面4を介して形成されているものである。
【0028】
図4に示される本発明による複層シート13は、 この複層シートの両面にシリコーンゴムからなる表面層を有するものであって、フッ素樹脂2aと耐熱性繊維織布2bからなる1層の複合材層2とシリコーンゴムからなる表面層3bとを有する複層シートであって、前記表面層3bが、前記複合材層2に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面4を介して形成されているものである。
【0029】
図5に示される本発明による複層シート14は、 この複層シートの片面にポリイミド系樹脂からなる表面層を、シートの残りの片面にシリコーンゴムからなる表面層を有するものであって、フッ素樹脂2aと耐熱性繊維織布2bからなる1層の複合材層2と、ポリイミド系樹脂からなる表面層3aおよびシリコーンゴムからなる表面層3bとを有する複層シートであって、前記表面層3aおよび3bが、前記複合材層2に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面4を介して形成されているものである。
【0030】
<複合材層>
本発明による複層シートにおける複合材層は、フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなるものである。
【0031】
本発明におけるフッ素樹脂としては、限定するものではないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる群から選ばれた耐熱性樹脂が挙げられる。この中では、特にポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0032】
前記フッ素樹脂には、必要に応じて導電性粉を配合することができる。これによって、導電性の付与ないし向上ならびに耐摩耗性の向上等を図ることができる。導電性粉の好ましい具体例としては、カーボンブラックおよび酸化チタンを挙げることができる。その配合量は、フッ素樹脂に対して1〜20質量部が好ましい。
【0033】
本発明において、前記耐熱性繊維織布としては、限定するものではないが、ガラス繊維、アラミド繊維が挙げられる。耐熱性繊維織布の厚さは、一般的に30〜1000μm、特に30〜700μmが好ましい。
【0034】
このような複合材層は、好ましくは、例えば、前記のフッ素樹脂の粒子の水性懸濁液を前記の耐熱性繊維織布に含浸させ、乾燥した後、焼成することによって形成することができる。水性懸濁液を調製する際の溶媒としては、例えば水、特に純水、が好ましい。水性懸濁液中のフッ素樹脂の粒子の量は、溶媒100質量部に対して20〜60質量部、特に30〜60質量部が好ましい。
【0035】
本発明における複合材層は、フッ素樹脂が耐熱性繊維織布の内部にまで充分浸透し、かつ耐熱性繊維織布の表面がフッ素樹脂に覆われていることが好ましい。従って、フッ素樹脂の施用量は、耐熱性繊維織布とフッ素樹脂との総量を100質量部として、30〜70質量部、特に40〜60質量部、が好ましい。
【0036】
<表面層>
本発明による複層シートは、ポリイミド系樹脂またはシリコーンゴムからなる表面層を有するものである。
【0037】
本発明において、ポリイミド系樹脂は、限定されるものではないが、例えばポリイミドおよびポリアミドイミドが好ましく、特にポリイミドが好ましい。
【0038】
本発明において表面層を塗工により形成させる際は、その塗工を容易にするために液状のポリイミドワニスを用いることができ、必要に応じて溶剤を配合することができる。これによって、粘度を低減して塗工性の向上を図ることができる。
【0039】
また、ポリイミド樹脂には、必要に応じて導電性粉を配合することができる。これによって、例えば導電性や熱伝導性の付与ないし向上ならびに耐摩耗性の向上等を図ることができる。
【0040】
本発明において、シリコーンゴムは限定されるものではないが、特に液状シリコーンゴムが好ましい。
【0041】
本発明では、シリコーンゴムに、必要に応じて溶剤を配合することができる。これによって、粘度を低減して塗工性の向上を図ることができる。
【0042】
また、シリコーンゴムには、必要に応じて金属粉を配合することができる。これによって、例えば導電性や熱伝導性の付与ないし向上ならびに耐摩耗性の向上等を図ることができる。さらに、シリコーンゴムには、必要に応じて硬化促進剤、硬化遅延剤を添加することができる。
【0043】
上記の表面層の形成は、上記のポリイミド系樹脂またはシリコーンゴムを、複合材層の表面活性化処理面に塗工し、乾燥した後、焼成することによって行うことができる。ポリイミド系樹脂の焼成温度は、300〜400℃が好ましく、特に330〜370℃が好ましい。シリコーンゴムの焼成温度は、50〜100℃が好ましく、特に50〜90℃が好ましい。焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜決定することができる。
【0044】
表面層の厚さは、本発明による複層シートおよびエンドレスベルトの具体的用途や目的等によって適宜定めることができる。例えば、搬送用途に特に適したエンドレスベルト製造用の複層シートについて示せば、ポリイミド樹脂表面層の厚さは1〜50μmが好ましく、特に5〜20μmが特に好ましく、シリコーンゴム表面層の厚さは50〜500μm好ましく、特に100〜200μmが好ましい。
【0045】
<表面活性化処理>
本発明による複層シートにおいては、前記表面層が前記複合材層に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面を介して形成されている。ここで、表面活性化処理とは、前述の本発明による複合材層の表面のフッ素樹脂を処理することによって、その表面張力を低下させて、複合材層のフッ素樹脂と複層シートの表面層として形成されるポリイミド系樹脂またはシリコーンゴムとの接合を可能にし、かつ充分な接合強度を発現させる処理を言う。この表面活性化処理が行なわれない場合には、前記の複合材に、ポリイミド系樹脂またはシリコーンゴムからなる表面層を形成することができず、本発明の目的を達成することができない。
【0046】
本発明における好ましい表面活性化処理としては、例えばシリカ粒子付着焼成処理、金属ナトリウムエッチング表面処理、プラズマ放電処理、コロナ放電処理を挙げることができる。この中では、シリカ粒子付着焼成処理が特に好ましい。
【0047】
ここで、本発明における表面活性化処理の詳細を下記に示す。
【0048】
シリカ粒子付着焼成処理:フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる複合材に、シリカ粒子とフッ素樹脂粒子との混合水性懸濁液を塗布した後、焼成処理を行うことにより複合材表面の親水性を向上させる処理。
【0049】
金属ナトリウムエッチング表面処理:フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる複合材に、金属ナトリウム溶液を塗布することにより、複合材表面の親水性を向上させる処理。
【0050】
プラズマ放電処理:フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる複合材の表面にグロー放電処理を施して、複合材表面の親水性を向上させる処理。
【0051】
コロナ放電処理:フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる前記の複合材の表面にコロナ放電処理を施し、複合材の表面の親水性を向上させる処理。
【0052】
表面活性化処理は、上記複合材層の上記の表面層が形成される部位の全面に対して行うことが好ましいが、上記の複合材層の表面層が形成される部位の一部分に対して行うこともできる。
【0053】
このような表面活性化処理を施すことによって、複合材層表面のフッ素樹脂面上に純水を滴下した際の接触角(JIS K6768)が有意に低下する。表面活性化処理前では106°程度であった接触角が、シリカ粒子付着焼成処理によって80〜90°に、金属ナトリウムエッチング表面処理では、50〜60°に、プラズマ放電処理によって、50〜60°にまで低下する。
【0054】
<エンドレスベルト>
本発明によるエンドレスベルトは、上記の複層シートから形成されたベルト状物の環状体からなることを特徴とするものである。したがって、本発明によるエンドレスベルトは、上記複層シートの優れた特性、例えば、主としてフッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる複合材層に基づく優れた耐熱性、形状安定性、非粘着性および耐久性と、主として表面層であるポリイミド系樹脂に基づく諸特性(例えば、耐摩耗性、耐熱性、耐久性)、シリコーンゴムに基づく諸特性(例えば、耐熱性、非粘着性、グリップ性等)を具備するものである。
【0055】
そして、本発明によるエンドレスベルトの製造方法は、上記の複層シートをベルト状に裁断し、この複層シートのベルト状物の対向する二つの端部を接合して環状体を得ることを特徴とする。なお、この環状体は、例えば、(イ)複層シートのベルト状物の一方の端部の周辺域に他方の端部を重ね合わせて接合することにより(図6A)、(ロ)複層シートのベルト状物の二つの端部をその端部断面にて強固に接合することにより(図6B)、(ハ)複層シートのベルト状物の二つの端部の双方を同一の連結用シートに接合することによって(図6C)、得ることができる。なお、二つの端部の接合は、熱融着あるいは接着剤を用いることによって行うことができる。
【0056】
また、本発明によるもう一つのエンドレスベルトの製造方法は、上記の複層シートと他のシートとが積層されたベルト状物を、このベルト状物の前記複層シートについての対向する二つの端部およびこのベルト状物の前記他のシートについての対向する二つの端部をそれぞれ接合ないし近接配置させて環状体を得ることを特徴とする。ここで、上記の複層シートと積層する他のシートとしては、単層または複数の層からなるシートを挙げることができる。なお、この他のシートとしては、単層および複層シートを用いることができる。そのような他のシートには、例えば上記の複合材2および複層シート10〜14等も包含される。
【0057】
図7は、このような本発明によるエンドレスベルトの好ましい具体例を示すものである。図7に示される本発明によるエンドレスベルト15は、図1に示された複層シート10を外周側に、他のシート5を内周側にするものであって、この他のシート5として上記の複合材層2と同一内容のシートを用いたものである。この本発明によるエンドレスベルト15では、複層シート10についての対向する二つの端部およびこのベルト状物の前記他のシート5についての対向する二つの端部を、6、7の位置にて、それぞれ接合あるいは近接配置させて環状体を得て、エンドレスベルトとしている。
【0058】
このような本発明では、従来の型等によって作製したシームレス管状物を利用してエンドレスベルトを製造する方法と異なって、用途に応じた所望の幅、長さ、層構成のエンドレスベルトを容易に製造することができる。
【0059】
また、場合により、同一の複層シートを切断することなしに幅広のエンドレスベルトを一旦形成させた後に、この幅広のエンドレスベルトを所望の幅に切断することによって、長さが同一のエンドレスベルトを同時に複数製造することが可能になる。また、前記の幅広のエンドレスベルトを切断する際の幅を調整することによって、幅が異なるエンドレスベルトを作り分けることも容易である。
【0060】
本発明による複層シートと他のシートとの積層シートは、複層シートと他のシートとを熱融着させることによって得ることが好ましいが、接着剤によって複層シートと他のシートとを接着させて積層シートを得ることもできる。
【実施例】
【0061】
<実施例A1>
(1)複合材の片面にポリイミド樹脂表面層を形成した複層シート
まず、フッ素樹脂とガラス繊維の複合材を得るため、連続塗工装置で平織のガラス繊維布厚み(95μm)にフッ素樹脂(PTFE)の水性懸濁液を含浸し付着させて、80℃で乾燥した後、350℃の温度で焼成して、フッ素樹脂とガラス繊維の複合材(厚み135μm)を得た。
【0062】
次に、フッ素樹脂とガラス繊維の複合材へ表面活性化処理を行なうため、シリカの水性懸濁液100質量部へPTFE樹脂の水性懸濁液100質量部を混合して、表面活性化処理液を得た。
【0063】
次に、連続塗工装置でフッ素樹脂とガラス繊維の複合材の片面に、表面活性化処理液を塗布し付着させて、80℃で乾燥した後、350℃の温度で焼成し、シリカを付着焼成させて表面活性化処理層を得た。
【0064】
次に、液状ポリイミドワニスを得るために、市販の(東レ社製 「トレニース#3000」(商品名))100質量部へ、溶剤(ジメチルアセトアミド(DMAC))を100質量部混合し、粘度が50Cpの液状ポリイミドワニスを得た。
【0065】
次に、連続塗工装置で前記のフッ素樹脂とガラス繊維の複合材(厚み135μm)の表面活性化処理した面へ前記の液状ポリイミドワニスを塗工し付着させ、80℃で乾燥した後、350℃の温度で焼成して、フッ素樹脂とガラス繊維複合材の片面にポリイミド樹脂表面層を形成した複層シート(厚み140μm)を得た(図1)。
【0066】
上記のようにして得られた複合材のフッ素樹脂層面と、複層シートのポリイミド樹脂層面を下記の評価方法で比較した。評価結果を表1に示す。
【0067】
1)磨耗試験:JIS H8682−1に準拠して実施した。(スガ摩耗試験機を用い、速度2.4m/分、荷重350gf、試験回数1000回、相手材として摩耗輪(直径50mm、幅12mm)、#4000耐水フィルムの条件にて測定。)
2)摩擦係数:JIS K7218に準拠して実施した。(オリエンテック社製 摩擦摩耗試験機を用い、滑り速度50mm/S、荷重20N(0.1MPa)、試験時間30分、相手材としてSUS304リングを使用して測定。)
3)接触角:JIS K6768に準拠して実施した。(協和界面化学社製の接触角計 CA−D型を用い、試験液として蒸留水を使用して測定。)
【表1】

【0068】
上記の評価結果より、ポリイミド樹脂はフッ素樹脂よりも、耐磨耗性に優れ、非粘着性、低摩擦性に劣る。この結果より、ポリイミド樹脂はフッ素樹脂よりも、磨耗、スリップし難いことが分かった。
【0069】
実施例A1の構造は、非粘着性が重要で、グリップ性を重要としないワーク側へフッ素樹脂面を、耐磨耗性、グリップ性が重要なワーク非接触側へポリイミド樹脂面を使用すると好適であるが、限定するものではない。
【0070】
<実施例A2>
(2)複合材の両面にポリイミド樹脂表面層を形成した複層シート
実施例A1と同様にして複層シートを得た。この複層シートのポリイミド樹脂表面層が形成されていない面に、実施例A1と同様の操作にて、表面活性化処理およびポリイミド樹脂表面層の形成を行って、複合材の両面にポリイミド樹脂表面層が形成された複層シート(厚み145μm)を得た(図3)。
【0071】
実施例A2の構造は、耐磨耗性、グリップ性が重要で、非粘着性が重要でない用途へ使用すると好適であるが、限定するものではない。
【0072】
<実施例A3>
(3)複合材の片方の面にポリイミド樹脂表面層が、もう片面の面にシリコーンゴム表面層が形成された複層シート
実施例A1と同様にして複層シートを得た。この複層シートのポリイミド樹脂表面層が形成されていない面に、実施例A1と同様の操作にて表面活性化処理を行った。
【0073】
別途、液状シリコーンゴムを得るために市販の液状シリコーン(信越社製 「KE1300」(商品名))100質量部へ有機溶剤(トルエン)を10質量部混合し、市販の硬化剤(信越社製 「CAT1300」(商品名))を10質量部混合して粘度が50000Cpの液状シリコーンを得た。
【0074】
次に、連続塗工装置で、複合材へ表面活性化処理した面に、前記の液状シリコーンを塗工し付着させ、90℃の温度で硬化させ、フッ素樹脂とガラス繊維と片面ポリイミド樹脂と片面シリコーンゴムの複合シート(厚み240μm)を得た(図5)。
【0075】
上記のようにして得られた実施例A3の複層シートのポリイミド樹脂面とシリコーンゴム層面を比較した。評価結果を表2に示す。
【表2】

【0076】
上記の評価結果より、シリコーンゴムはポリイミド樹脂よりも、非粘着性に優れ、耐磨耗性、低摩擦性に劣る。この結果より、シリコーンゴムはポリイミド樹脂よりも、スリップし難いことが分かった。
【0077】
実施例A3の構造は、耐磨耗性、グリップ性が重要で、非粘着性が重要でないワーク側へポリイミド樹脂面を使用すると好適であり、グリップ性が非常に高いシリコーンゴム面をワーク非接触側へ使用すると固定が容易であるが、限定するものではない。
【0078】
<実施例A4>
(4)実施例A1の複層シートと他のシートとの積層シートおよびエンドレスベルト
実施例A1の複層シート(厚み140μm)とフッ素樹脂とガラス繊維複合材(厚み135μm)を積層して、エンドレスになるようフッ素樹脂層面同士を重ね、加熱プレス機で350℃の温度でこれらを熱融着して、片面にフッ素樹脂表面層が、もう片面にポリイミド樹脂表面層が形成されたエンドレスベルト(厚み275μm)を得た(図7)。
【0079】
この実施例A4のエンドレスベルトの構造は、非粘着性が重要で、スリップを重要としないワーク側へフッ素樹脂面を、耐磨耗性、グリップ性が重要なワーク非接触側の駆動ロール側へポリイミド樹脂面を使用すると好適であるが、限定するものではない。
【0080】
<実施例A5>
(5)実施例A1の複層シート2枚を積層した両面ポリイミド樹脂のエンドレスベルト
実施例A1の複層シート(厚み140μm)のベルトを2つ用意し、これらをエンドレスになるようフッ素樹脂層面同士を重ね、加熱プレス機で350℃の温度で熱融着して、積層して、両面にポリイミド樹脂表面層が形成されたエンドレスベルト(厚み280μm)を得た(図7)。
【0081】
この実施例A5のエンドレスベルトの構造は、耐磨耗性、グリップ性が重要で、非粘着性が重要でない用途へ使用すると好適であるが、限定するものではない。
【0082】
上記の実施例A1〜A5の様に、必要に応じた非粘着性、耐摩耗性、グリップ性を付与し、かつ必要寸法に裁断し、エンドレスすることで型等を使用せず、様々な寸法に対応できるエンドレスベルトが製造可能な、耐熱性、耐摩耗性、非粘着性およびグリップ性を有する高機能な複層シート、この複層シートからなる搬送ベルトを提供することができる。
【0083】
<比較例A1>
実施例A1の複層シートに、表面活性化処理を行わずに液状ポリイミドワニスを塗工したが、接合できず、使用可能な十分な接合強度を有する複層シートを得ることはできなかった。
【0084】
<実施例B1>
(6)フッ素樹脂とガラス繊維複合材とシリコーンゴムのエンドレスベルト
フッ素樹脂とガラス繊維の複合材を得るため、連続塗工装置で平織のガラス繊維にフッ素樹脂(PTFE)の水性懸濁液を含浸し付着させて、80℃で乾燥した後、350℃の温度で焼成しフッ素樹脂とガラス繊維の複合材を得た。
【0085】
次に、フッ素樹脂とガラス繊維の複合材へ表面活性化処理を行なうため、シリカの水性懸濁液100質量部へPTFE樹脂の水性懸濁液100質量部を混合し表面活性化処理液を得た。
【0086】
次に、連続塗工装置でフッ素樹脂とガラス繊維の複合材の片面に表面活性化処理液を塗布し付着させて、80℃で乾燥した後、350℃の温度で焼成し、シリカを付着焼成させて表面活性化処理層を得た。
【0087】
次に、液状シリコーンゴムを得るために市販の液状シリコーン(信越社製 「KE1300」(商品名))100質量部へ有機溶剤(トルエン)を10質量部混合し、市販の硬化剤(信越社製 「CAT1300」(商品名))を10質量部混合して、粘度が50000Cpの液状シリコーンを得た。
【0088】
次に、連続塗工装置で前記フッ素樹脂とガラス繊維の複合材の表面活性化処理した面へ前記の液状シリコーンを塗工し付着させ、90℃の温度で硬化させて、フッ素樹脂とガラス繊維と片面シリコーンゴムの複層シート(厚み235μm)を得た(図2)。
【0089】
次に、この複層シート(厚み235μm)と、フッ素樹脂とガラス繊維複合材(厚み135μm)を、エンドレスになるよう、フッ素樹脂層面同士を重ね、加熱プレス機で350℃の温度で熱融着して、片面にフッ素樹脂表面層が、もう片面にシリコーンゴム表面層が形成されたエンドレスベルト(厚み370μm)を得た(図7)。
【0090】
上記のようにして得られた実施例B1のフッ素樹脂層面とシリコーンゴム層面を比較した。評価結果を表3に示す。
【表3】

【0091】
上記の評価結果より、シリコーンゴムはフッ素樹脂よりも、低摩擦性に劣る。この結果より、シリコーンゴムはフッ素樹脂よりも、スリップし難いことが分かった。
【0092】
この実施例B1のエンドレスベルトの構造は、低摩擦性が重要で、グリップ性を重要としないワーク側へフッ素樹脂面を、グリップ性が重要なワーク非接触側の駆動ロール側へシリコーンゴム面を使用すると好適であるが、限定するものではない。
【0093】
<実施例B2>
(7)実施例B1の複層シート2枚を積層した両面シリコーンゴム層のエンドレスベルト
実施例B1の複層シート(厚み235μm)のベルトを2つ用意し、エンドレスになるよう、フッ素樹脂層面同士を重ね、加熱プレス機で350℃の温度で熱融着し、両面にシリコーンゴム層が形成されたエンドレスベルト(厚み470μm)を得た(図7)。
【0094】
この実施例B2のエンドレスベルトの構造は、ワーク側とワーク非接触側の駆動ロール側の双方へグリップ性が重要な用途へ使用すると好適であるが、限定するものではない。
【0095】
上記の実施例B1〜B2の様に、必要に応じた、低摩擦性、グリップ性を付与し、かつ必要寸法に裁断し、エンドレスすることで型等を使用せず、様々な寸法に対応できるエンドレスベルトが製造可能な耐熱グリップ性複合搬送ベルトを提供することができる。
【0096】
<比較例B1>
実施例B1の複層シートに、表面活性化処理を行わずに液状シリコーンを塗工したが、接合できず、使用可能な十分な接合強度を有する複層シートを得ることはできなかった。
【0097】
<実施例C1〜C7>
実施例A1〜A5において、シリカ付着焼成処理の代わりに金属ナトリウムエッチング処理を行うことによって表面活性化処理層を形成させた以外は実施例A1〜A5と同様にして、本発明による複層シートC1〜C3およびエンドレスベルトC4〜C5を得た。
【0098】
実施例B1〜B2において、シリカ付着焼成処理の代わりに金属ナトリウムエッチング処理を行うことによって表面活性化処理層を形成させた以外は実施例B1〜B2と同様にして、本発明によるエンドレスベルトC6〜C7を得た。
【0099】
<実施例D1〜D7>
実施例A1〜A5において、シリカ付着焼成処理の代わりにプラズマ処理を行うことによって表面活性化処理層を形成させた以外は実施例A1〜A5と同様にして、本発明による複層シートD1〜D3およびエンドレスベルトD4〜D5を得た。
【0100】
実施例B1〜B2において、シリカ付着焼成処理の代わりに金属ナトリウムエッチング処理を行うことによって表面活性化処理層を形成させた以外は実施例B1〜B2と同様にして、本発明によるエンドレスベルトD6〜D7を得た。
【0101】
接合強度試験
上記の実施例A1〜A5、実施例B1〜B2、実施例C1〜C7および実施例D1〜D7によって得られた各複層シートのポリイミド表面層あるいはシリコーンゴム表面層に対して、JIS H5400に準拠して碁盤目試験(1mm×100升)を実施したが、複層シートから剥がれた升目の数はいずれの複層シートにおいても0個であった。一方、表面活性化処理層を行わない比較例A1およびB1では、剥がれた升目の数は100個であった。
【表4】

【符号の説明】
【0102】
10、11、12、13、14 複層シート
2 複合材層
2a フッ素樹脂
2b 耐熱性繊維織布
3a ポリイミド系樹脂からなる表面層
3b シリコーンゴムからなる表面層
4 処理面
5 他のシート
15 エンドレスベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる少なくとも1層の複合材層とポリイミド系樹脂またはシリコーンゴムからなる表面層とを有する複層シートであって、前記表面層が、前記複合材層に対してなされた表面活性化処理により形成された処理面を介して形成されていることを特徴とする、複層シート。
【請求項2】
前記の表面活性化処理が、無機粒子付着焼成処理、金属ナトリウムエッチング処理、プラズマ放電処理またはコロナ放電処理である、請求項1に記載の複層シート。
【請求項3】
請求項1に記載の複層シートから形成されたベルト状物の環状体からなることを特徴とする、エンドレスベルト。
【請求項4】
請求項1に記載の複層シートをベルト状に裁断し、この複層シートのベルト状物の対向する二つ端部を接合して環状体を得ることを特徴とする、エンドレスベルトの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の複層シートと他のシートとが積層されたベルト状物を、このベルト状物の前記複層シートについての対向する二つ端部およびこのベルト状物の前記他のシートについての対向する二つ端部をそれぞれ接合ないし近接配置させて環状体を得ることを特徴とする、エンドレスベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−31572(P2011−31572A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182458(P2009−182458)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000243331)本多産業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】