説明

複数モータ連装スピンドル装置

【課題】 高出力で高精度を実現でき小型化が可能な複数モータ連装スピンドル装置を提供する。
【解決手段】 この複数連装スピンドル装置は、同一回転軸1上に複数個の直流ブラシレスモータ7A,7Bと制御用センサ11を有する同期型モータシステムを搭載したものである。複数個の直流ブラシレスモータ7A,7Bは互いに同等の外形と性能を有するものとする。制御用センサ10は前記回転軸1上に1個設けられて前記回転軸1の速度または回転位置を検出するものとする。個々の直流ブラシレスモータ7A,7Bの回転磁界の位相を電子回路で補正する位相合わせ手段13A,13Bを設ける。前記1個の制御用センサ10の出力のフィードバックにより前記複数の直流ブラシレスモータ7A,7Bを共通して駆動する1系統の制御ループ12を設ける。この1系統の制御ループ12にオフセット・ゲイン・位相補償の各制御手段12b,12cを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、同一回転軸上に複数個の直流ブラシレスモータと制御用センサを有する同期型モータシステムを搭載した複数モータ連装スピンドル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の複数モータ連装スピンドル装置の一例として、同一回転軸上に2個の直流ブラシレスモータを有する同期型モータシステムを搭載したものが提案されている(例えば特許文献1,2)。同等の複数個のモータを同一軸上に設置することで、径方向の大型化が避けられ、また従来型のモータを使用することで、特別に設計したモータを用意することなく、高出力を得ることができる。また、上記各提案例では、いずれもモータのステータコア(モータ鉄心)の取付位相を最適にすることにより、モータの振動要因であるコギングを低減するようにしている。
【特許文献1】特開2003−125566号公報
【特許文献2】特表2005−505224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記各提案例は、いずれも同期型モータシステムの制御方法までは言及していない。複数のモータを同軸に用いた場合、個々のモータ制御では生じない問題を解決する必要がある。すなわち、複数モータ連装スピンドル装置では、モータの制御ループをモータの個数に合わせて個々に設定すると、個々のモータ制御が互いに干渉し合い、力率が低下し、発熱も増加するという問題が生じる。また、制御ループの干渉で、回転精度に影響が現れ、高精度なシステムの構築を妨げる。
制御ループの干渉とは、個々の制御ループは各々最適状態を保とうとするが、それぞれの最適状態には必ず少しずつの相違があるため(例えば、個々のモータ性能の公差、制御用センサからの距離の違い)、一方のモータAが最適であれば他方のモータBは未最適となり、このとき制御ループ上、モータBを最適にしようと試みるため、今度はモータAが未最適になることを言う。この繰り返しにより、同期型モータシステムの全体の力率の悪化を招き、電流の増加、精度の悪化に至る。そのため、高出力で高精度のシステムを構築できない。また、電流の増加により発熱も増加するため、冷却機構を増設しなければならず、装置が大型化する。
【0004】
この発明の目的は、高出力で高精度を実現でき、小型化が可能な複数モータ連装スピンドル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の複数モータ連装スピンドル装置は、同一回転軸上に複数個の直流ブラシレスモータと制御用センサを有する同期型モータシステムを搭載したスピンドル装置であり、前記複数個の直流ブラシレスモータは互いに同等の外形と性能を有するものとする。前記制御用センサは、回転軸上に1個設けられて前記回転軸の速度または回転位置を検出するものとする。個々の直流ブラシレスモータの回転磁界の位相を電子回路で補正する位相合わせ手段を設け、前記1個の制御用センサの出力のフィードバックにより前記複数の直流ブラシレスモータを共通して駆動する1系統の制御ループを設ける。この1系統の制御ループにオフセット・ゲイン・位相補償の各制御手段を設ける。
この構成によると、同一回転軸上に複数個の直流ブラシレスモータを設けたものであるため、径方向の大型化を回避しながら、高出力が得られる。個々の直流ブラシレスモータの回転磁界の位相合わせは、個々の位相合わせ手段で行い、また各モータを互いに同等の外形と性能を有するものとして、1系統の制御ループで各モータの回転制御が行われるようにしたため、互いのモータが干渉しないように回転制御できる。そのため、損失なく高出力を得ることができ、かつ高精度化が実現できる。これらにより、小型化が可能で、高出力で高精度な複数モータ連装スピンドル装置を実現できる。
【0006】
このスピンドル装置は、回転軸を静圧気体軸受で支持する静圧気体軸受スピンドル装置としても良い。静圧気体軸受を用いると、上記の1系統の制御ループによる制御と相まって、高い回転および振れ精度を得ることができる。
【0007】
この発明において、前記複数の直流ブラシレスモータ間に、これらモータ間の磁気的干渉を防止する磁性体材料の磁気遮蔽部材を設けても良い。
上記磁気遮蔽部材を設けた場合、個々のモータから発生した主磁束と漏れ磁束が、連装する他のモータに影響を与えることを防止することができる。また、磁気遮蔽部材として磁性体材料を使用することにより、磁気遮蔽部材と一方のモータから発生する磁束がその系で閉じ、他に影響を与えることがない。
【発明の効果】
【0008】
この発明の複数モータ連装スピンドル装置は、同一回転軸上に複数個の直流ブラシレスモータと制御用センサを有する同期型モータシステムを搭載したスピンドル装置であって、前記複数個の直流ブラシレスモータは互いに同等の外形と性能を有するものとし、前記制御用センサは前記回転軸上に1個設けられて前記回転軸の速度または回転位置を検出するものとし、個々の直流ブラシレスモータの回転磁界の位相を電子回路で補正する位相合わせ手段を設け、前記1個の制御用センサの出力のフィードバックにより前記複数の直流ブラシレスモータを共通して駆動する1系統の制御ループを設け、この1系統の制御ループにオフセット・ゲイン・位相補償の各制御手段を設けたため、小型化が可能で、高出力で高精度な複数モータ連装スピンドル装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。図1は、この実施形態の複数モータ連装スピンドル装置の断面図を示す。この複数モータ連装スピンドル装置は、同一回転軸1上に複数個のモータ7A,7Bと制御用センサ10を有する同期型モータシステムを搭載したスピンドル装置である。この複数モータ連装スピンドル装置は、例えば磁気ディスクや光ディスクの製造工程や検査工程で使用される。回転軸1は、ハウジング2内において静圧気体軸受3により非接触で支持され、ハウジング2に内蔵の2個のモータ7A,7Bによって回転駆動される。
【0010】
静圧気体軸受3は、静圧気体ジャーナル軸受3aおよび静圧気体スラスト軸受3bからなり、回転軸1を軸方向の略半部で片持ち状に支持する。これら静圧気体ジャーナル軸受3aおよび静圧気体スラスト軸受3bは、それぞれハウジング2の内周に嵌合された軸受スリーブ4A,4Bと回転軸1との間の半径方向および軸方向の軸受隙間に軸受スリーブ4A,4B内のノズル5a,5bから圧縮空気を噴出することにより、非接触で回転軸1を支持するものである。回転軸1はその軸方向中間位置にフランジ状のスラスト板1aを有していて、静圧気体スラスト軸受3bは、このスラスト板1aの両面の軸受隙間に圧縮気体を噴出するものとされている。ノズル5a,5bは、ハウジング2から軸受スリーブ4A,4Bにわたって形成される給気路6を介して圧縮気体供給源(図示せず)に接続されている。
【0011】
2個のモータ7A,7Bは互いに同等の外形と性能を有する直流ブラシレスモータであって、ハウジング2内の静圧気体軸受3の配置側とは反対側の軸方向の略半部において、軸方向に並べて連装配置される。これら各モータ7A,7Bは、同じ回転軸1上に設けられたロータ7aと、ハウジング2における前記ロータ7aに対向する位置に設けられたステータ7bとで構成される。前記各モータロータ7aは、回転軸1の周方向に永久磁石7aaを並べて構成される。
【0012】
軸方向に並べて配置される両モータ7A,7Bの間には、個々のモータ7A,7Bが磁気力学的に干渉しないように、磁性体材料からなる磁気遮蔽部材8が設けられている。磁気遮蔽部材8は、プレートまたはカバーとして形成されている。
【0013】
回転軸1の前記静圧気体軸受3で支持される側の端部には回転テーブル9が設けられ、その中央面部に磁気ディスク等のワークが真空チャック等の取付手段(いずれも図示せず)によって取付けられる。なお、図では回転軸1を横向きに示しているが、この複数モータ連装スピンドル装置は、回転テーブル9を上側として、回転軸1が縦向きとなるように使用してもよい。
回転軸1の各モータ7A,7Bが連装される側の端部には1個のモータ制御用センサ10が設けられる。このモータ制御用センサ10は、回転軸1の軸端に回転軸1と同心に設けられたパルス円板10aと、このパルス円板10aと径方向に対向してハウジング2側に設けられパルス円板10aの回転速度または回転位置を検出する検出ヘッド10bとで構成されるロータリエンコーダである。すなわち、このモータ制御用センサ10は回転軸1の回転速度または回転位置を検出する。
【0014】
このモータ制御用センサ10の出力はモータ駆動装置11に入力される。このモータ駆動装置11、前記各モータ7A,7B、および前記1個のモータ制御用センサ10により同期型モータシステムが構成される。
【0015】
図3は、前記同期型モータシステム2連装の場合の概略構成を示すブロック図である。モータ駆動装置11は、モータ制御用センサ10の出力のフィードバックにより前記両モータ7A,7Bを共通して駆動する1系統の制御ループ12を有する。
モータ駆動装置11には、前記1系統の制御ループ12の他に、個々のモータ7A,7Bの回転磁界の位相を補正する電子回路である位相合わせ手段13A,13Bや、各モータ7A,7Bに対応する駆動電流増幅アンプ部14A,14B等が設けられる。1個のモータ制御用センサ10からの出力(フィードバック信号)は、1系統の制御ループ12と、前記各位相合わせ手段13A,13Bとにそれぞれ入力される。
【0016】
1系統の制御ループ12では、モータ制御用センサ10から入力されるセンサ信号を、パルス演算部12a、オフセット/ゲイン処理部12b、位相補償部12cにより各処理を施すことで、モータ駆動指令電圧に変換し、このモータ駆動指令電圧を各モータ7A,7Bに対応するSIN変換部15A,15Bに出力する。
一方、各位相合わせ手段13A,13Bでは、モータ制御用センサ10から入力されるセンサ信号を、方向判別/逓倍処理部13a、ロータ位置検出部13b、位相調整/位相データ処理部13cにより各処理を施して、各モータ7A,7Bに対応するSIN変換部15A,15Bに出力する。
各SIN変換部15A,15Bは、1系統の制御ループ12から入力されるモータ駆動指令電圧を、回転磁界を形成するSIN波の駆動電流に変換し、駆動電流増幅アンプ部14A,14Bに出力する。各駆動電流増幅アンプ部14A,14Bは、各SIN変換部15A,15Bから出力された2相の駆動電流を、各モータ7A,7Bの3相(U,V,W相)の駆動電流に変換し、増幅して各モータ7A,7Bのステータ7bに供給する。
【0017】
この構成の複数モータ連装スピンドル装置によると、同期型モータ7A,7Bを駆動するモータ駆動装置11において必要な回転磁界の位相合わせが、個々の位相合わせ手段13A,13Bで行われ、調整時に低速・低出力(無負荷運転)で個々に設定される。
個々のモータ7A,7Bの位相データは、各位相合わせ手段13A,13Bにおける位相調整/位相データ処理部13cに予めメモリされており、この同期型モータシステムを運転する際、電源投入と同時に位相合わせ運転を自動的に行い、各位相合わせ手段13A,13Bの位相調整/位相データ処理部13cから個々の位相データが読み出され、互いのモータ7A,7Bの回転に干渉しないように回転制御に用いられる。位相合わせ運転とは、適当な電流をモータに印加して回転軸1をオープン制御にて低速で回転させ、モータ制御用センサからの信号を基準にし、位相調整/位相データ処理部13cから個々の位相データを読み出す。これにより、特別に設計したモータを用意しなくても、モータ7A,7Bとして従来型のモータを使用することで、損失なく高出力を発生させることができ、高精度を実現できる。また、2つのモータ7A,7Bを同一回転軸1上に連装するので、径方向の大型化が避けられ、小型化が可能である。
【0018】
また、この同期型モータシステムを機械組み立てする際、ステータ7bの位相を精密に機械的位置合わせする手間が省略されるため、工数の削減につながる。さらに、位相合わせ手段13A,13Bを構成する電子回路でモータ制御用センサ10の分解能まで精密に位相合わせが可能なため、スピンドル装置全体として、モータ7A,7Bの力率が向上して電流が少なくなり、発熱も低減できる。発熱を低減できることで、冷却機構の増設が不要となり、さらに小型化できる。
【0019】
さらに、この実施形態では、両モータ7A,7Bの間に、磁性体材料からなる磁気遮蔽部材8が設けられているため、モータ7A,7Bの間の磁気力学的な干渉も回避される。 直流ブラシレスモータでは、ステータとロータとで構成されて1対1の関係になっている。モータが1個の通常の場合は、他からの強度な磁界により影響されないため、ステータで発生した回転磁界(磁束)のほとんどが、ロータ(永久磁石)に影響し、回転するために費やされる。しかし、近傍に強度な回転磁界を発生するモータがあった場合、お互いに干渉し、力率が低下して規定の回転速度・トルクを出力させるには必要以上の電流を要することになる。そのため発熱する。また、個々のモータの位置関係によってはそのシステムの制御性が損なわれ、十分な精度を確保できない。
そこで、上記したように、両モータ7A,7B間に磁気遮蔽部材8を介在させて、両モータ7A,7Bが互いに干渉しないように磁界を絶縁している。これにより、個々のモータ7A,7Bから発生した主磁束と漏れ磁束が連装する他のモータに影響を与えるのを防止することができる。
【0020】
磁気遮蔽部材8として磁性体材料を使用する理由は、磁気遮蔽部材8と一方のモータから発生する磁束がその系で閉じ、他に影響を与えないからである。つまり、個々のモータ7A,7Bは磁気遮蔽部材8と干渉し、個々のモータ7A,7B同士にまで干渉することがなくなるためである。ただし、特性上、磁気遮蔽部材8から各モータ7A,7Bに対しては影響を与えることはない。
【0021】
上述では静圧気体軸受について述べているが、それ以外のベアリングまたはすべり軸受支持の軸にも対応でき、その場合、小型・高出力が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の一実施形態にかかる複数モータ連装スピンドル装置の断面図である。
【図2】同スピンル装置の部分拡大断面図である。
【図3】同スピンドル装置におけるモータ制御系のブロック図である。
【符号の説明】
【0023】
1…回転軸
3…静圧気体軸受
7A,7B…直流ブラシレスモータ
8…磁気遮蔽部材
10…モータ制御用センサ
12…1系統の制御ループ
12b…オフセット/ゲイン処理部
12c…位相補償部
13A,13B…位相合わせ手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一回転軸上に複数個の直流ブラシレスモータと制御用センサを有する同期型モータシステムを搭載したスピンドル装置であって、
前記複数個の直流ブラシレスモータは互いに同等の外形と性能を有するものとし、前記制御用センサは前記回転軸上に1個設けられて前記回転軸の速度または回転位置を検出するものとし、個々の直流ブラシレスモータの回転磁界の位相を電子回路で補正する位相合わせ手段を設け、前記1個の制御用センサの出力のフィードバックにより前記複数の直流ブラシレスモータを共通して駆動する1系統の制御ループを設け、この1系統の制御ループにオフセット・ゲイン・位相補償の各制御手段を設けたことを特徴とする複数モータ連装スピンドル装置。
【請求項2】
請求項1において、前記複数の直流ブラシレスモータ間に、これらモータ間の磁気的干渉を防止する磁性体材料の磁気遮蔽部材を設けた複数モータ連装スピンドル装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記回転軸を静圧気体軸受で支持する静圧気体軸受スピンドル装置とした複数モータ連装スピンドル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−129831(P2007−129831A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320342(P2005−320342)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】