説明

覚醒誘導装置

【課題】対象者の覚醒度を正常な状態に適切に誘導することができる覚醒誘導装置を提供する。
【解決手段】覚醒誘導装置10は、運転者の覚醒度を判定する覚醒度判定部16と、運転者のストレス度を判定するストレス度判定部17と、運転者の手を冷却又は加温する空調システム6と、覚醒度判定部16の判定結果とストレス度判定部17の判定結果とに基づいて、空調システム6を制御する温度制御部18と、を備えており、温度制御部18は、末梢血管の収縮に伴って放熱を抑制し又は末梢血管の拡張に伴って放熱を促す生体メカニズムに基づいて、運転者の手の温度を周期的に変化させるように、空調システム6を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の覚醒度を正常な状態に誘導する覚醒誘導装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転者が眠気を感じている場合に、ステアリングホイールに設けられたペルチェ素子によって、運転者の手に冷感或いは温感を与える技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−50888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の技術では、運転者の覚醒度が低い状態において、単に運転者が冷たさを感じることで注意喚起を受けて眠気を覚醒させるので、却って運転者に不快感を与えかねず、運転者の覚醒度を正常な状態に適切に誘導できない場合がある。
【0005】
また、上記の技術では、運転者が眠気を感じている低覚醒の状態についてしか検討されておらず、高い覚醒状態(例えばイライラしたり、怒っている状態など)からの覚醒度の誘導については検討されていない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、対象者の覚醒度を正常な状態に適切に誘導することができる覚醒誘導装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、温度刺激による末梢血管の収縮に伴って放熱を抑制する生体メカニズム、或いは、温度刺激による末梢血管の拡張に伴って放熱を促すという生体メカニズムに基づいて、対象者の末梢部の温度を周期的に変化させることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、対象者の生体メカニズムを利用して覚醒度を誘導するので、対象者の覚醒度を正常な状態に適切に誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態における覚醒誘導装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態における運転者の状態の分類を示すマップである。
【図3】図3は、本発明の第1実施形態における操舵振幅と操舵周波数による覚醒度判定マップである。
【図4】図4(a)及び(b)は、本発明の第1実施形態における覚醒誘導装置によって運転者の手に付与される温度刺激の制御パターンであり、図4(c)はその運転者の手の末梢血管の収縮/拡張度合の変化を示すグラフである。
【図5】図5(a)及び図5(b)は、本発明の第1実施形態における覚醒誘導装置によって運転者の手に付与される温度刺激の制御パターンの変形例である。
【図6】図6は、本発明の第2実施形態における覚醒誘導装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
<<第1実施形態>>
図1は本実施形態における覚醒誘導装置の構成を示す図、図2は本実施形態における運転者の状態の分類を示すマップ、図3は本実施形態における操舵振幅と操舵周波数による覚醒度判定マップ、図4(a)〜図4(c)は本実施形態における温度刺激の制御パターンとその時の末梢血管の収縮/拡張度合の変化を示すグラフ、図5(a)及び図5(b)は本実施形態における温度刺激の制御パターンの変形例である。
【0012】
本実施形態における覚醒誘導装置10は、図1に示すように、撮像カメラ11と、制御コンピュータ15と、を備えており、自動車1の運転者の状態を、眠気を感じている状態(低覚醒状態)や、怒っていたりイライラしている状態(高覚醒状態)から正常な状態に誘導する装置である。
【0013】
本実施形態では、図2に示すように、運転者の覚醒度を三段階(「高い」、「正常」、「低い」)に区分すると共に、運転者のストレス度も三段階(「大」、「中」、「小」)に区分し、この覚醒度とストレス度に応じて、運転者の状態を「疲労状態」、「アクティブ状態」、「葛藤状態」、「イライラ状態」、「正常状態」の5つに分類している。
【0014】
なお、図2における「葛藤状態」(ストレス度が「大」且つ覚醒度が「低い」状態)とは、例えば、運転者が覚醒低下に意識的又は無意識に気が付き、眠気に意識的又は無意識に逆らっているような状態である。本実施形態の分類上では、この「葛藤状態」が、上述の「眠気を感じている状態(低覚醒状態))」に対応する。
【0015】
一方、同図において、「イライラ状態」(ストレス度が「大」且つ覚醒度が「高い」状態)とは、例えば、何かしらの外部要因によって運転者が怒り、イライラを感じているような状態である。本実施形態の分類上では、この「イライラ状態」が、上述の「怒っていたりイライラしている状態(高覚醒状態)」に対応する。
【0016】
因みに、図2における「疲労状態」(ストレス度が「小」且つ覚醒度が「低い」状態)とは、例えば、運転者が覚醒低下しているにもかかわらず逆らおうとしない状態にある。また、同図における「アクティブ状態」(ストレス度が「小」且つ覚醒度が「高い」状態)とは、例えば、運転者が自動車の操作を楽しんでいるような状態である。
【0017】
また、本実施形態における覚醒誘導装置10では、自動車1に搭載された空調システム6を、運転者の手の皮膚を冷却又は加温する手段として利用する。空調システム6は、特に図示しないが、エバポレータやヒータコア等を有しており、制御コンピュータ15からの指示に基づいて、コンビネーションメータ4の両側に配置された吹出口61,62から、運転者の手に向かって冷風或いは温風を吹き出すことが可能となっている。
【0018】
この空調システム6は、左側の吹出口61を介して、運転者の左手に向かって冷風又は温風を吹き付け、右側の吹出口62を介して、運転者の右手に向かって冷風又は温風を吹き付ける。なお、この空調システム6によって冷風又は温風が吹き付けられる運転者の手の部位としては、例えば、指、甲、掌などを例示することができる。
【0019】
撮像カメラ11は、例えば、二次元CCDイメージセンサ、MOSセンサ、又はCID等の複数の光電変換素子が二次元に配列された光電変換モジュールを備えており、例えばダッシュボード3上に設けられている。この撮像カメラ11は、運転席シート2に着座した運転者(不図示)の顔画像(又は上半身)の画像を撮像して、当該画像信号を制御コンピュータ15に送信することが可能となっている。なお、撮像カメラ11の設置位置は、運転者の顔(又は上半身)を撮像可能であれば特に限定されず、例えば、撮像カメラ11をコンビネーションメータ4の前方に設けてもよい。
【0020】
制御コンピュータ15は、例えば、CPUと、プログラムや制御マップ等を記憶するプログラムROMと、作業用RAMと、入出力インタフェースと、をICチップ化した所謂ワンチップマイクロコンピュータで構成されている。
【0021】
本実施形態では、この制御コンピュータ15は、運転者の覚醒度を判定する覚醒度判定部16と、運転者のストレス度を判定するストレス度判定部17と、それぞれの判定部16,17の判定結果に基づいて空調システム6を制御する温度制御部18と、を備えている。なお、覚醒度判定部16、ストレス度判定部17、及び温度制御部18は、制御コンピュータ15のプログラムによって、それぞれの機能が実現されている。
【0022】
覚醒度判定部16は、操舵角センサ51によって検出された自動車1の操舵角に基づいて、図3に示す覚醒度判定マップを用いて運転者の覚醒度を判定する。なお、操舵角センサ51は、ステアリングホイール5の回転角度及び回転方向を示す符号付き数値である操舵角を検出して、当該操舵角を制御コンピュータ15に送信する。
【0023】
具体的には、覚醒度判定部16は、下記の(1)式が満たされる場合には、運転者の覚醒度が「低い」と判定する。
【0024】
〔SFMin<F<SFL〕、且つ、〔SMH<FFT(F.steerSingnal)<SMMax〕 …(1)
【0025】
但し、上記の(1)式において、steerSignalは、操舵角センサ51の操舵角信号である。また、一定時間でのsteerSignalの周波数解析を行う関数を次のように定義する。
【0026】
FFT(F.steerSignal)は、Fという操舵周波数でのsteerSignalの操舵振幅とする。
【0027】
なお、図4中のSFMin,SFL,SMH,SMMaxは、予め統計解析により設定された閾値であり、固定値でもよいし、個人によって可変させてもよい。
【0028】
一方、覚醒度判定部16は、下記の(2)式が満たされる場合には、運転者の覚醒度が「高い」と判定し、上記の(1)式及び下記の(2)式の何れも満たされない場合には、運転者の覚醒度が「正常」と判定する。
【0029】
〔SFH<F<SFMax〕、且つ、〔SMMin<FFT(F.steerSignal)<SML〕 …(2)
【0030】
なお、図4中のSFH,SFMax,SMMin,SMLは、予め統計解析により設定された閾値であり、固定値でもよいし、個人によって可変させてもよい。
【0031】
なお、運転者の覚醒度を判定する方法は、上述した操舵角に基づいた方法に限定されない。例えば、アクセル開度センサにより検出されるアクセルペダル7の開度に基づいて、運転者の覚醒度を判定してもよい。この場合には、例えば、アクセルペダル7を勢いよく踏み込む頻度が所定値よりも大きくなった場合に、運転者の覚醒度が「高い」と判定する。
【0032】
ストレス度判定部17は、運転者の顔を撮像した画像を撮像カメラ11から取得して、当該画像に対して表情認識を行うことで運転者のストレス度を判定し、当該判定結果を温度制御部18に送信する。例えば、運転者の顔が起こっている場合には、運転者のストレス度が「大」であると判断する。
【0033】
なお、ストレス度判定部17が、運転者の顔を撮像した画像から、顔を手で触る、あくび、瞬き、大きな息をする等の運転者行動を認識し、その行動の変化から覚醒低下に対するストレス度を判定してもよい。
【0034】
或いは、撮像カメラ11に代えて、運転席シート2に圧力センサを埋設し、その圧力センサが通常よりも高い圧力を検出した場合に、ストレス度判定部17が、運転者のストレス度が「高い」と判定してもよい。
【0035】
温度制御部18は、覚醒度判定部16の判定結果と、ストレス度判定部17の判定結果とに基づいて運転者の状態を判定し、当該判定結果に基づいて空調システム6を制御する。
【0036】
具体的には、先ず、図2に示すように、運転者のストレス度が第1の閾値TH1よりも大きく、且つ、運転者の覚醒度が第2の閾値TH2よりも低い場合には、温度制御部18は、運転者の状態が「葛藤状態」にあると判定して、運転者の状態を「葛藤状態」から「正常な状態」に誘導するように空調システム6を制御する。
【0037】
ところで、人間の体温調節と睡眠・覚醒とは、脳の視床下部の同じ部位でコントロールされているといわれている。覚醒度が高まる場合には、放熱を抑制するために末梢血管を収縮させ、高い熱産生を起こす指令が視床下部から出され、深部体温が上昇する。
【0038】
本実施形態では、この生体メカニズムを利用することで、対象者の覚醒度を低い状態から正常な状態に誘導する。すなわち、本実施形態では、運転者の手等の末梢部を適度に冷却して、拡張していた末梢血管を収縮させて放熱を抑制し、低覚醒な状態によって低くなっていた深部体温を正常な範囲に戻すことで、運転者の覚醒度を正常な状態に誘導する。
【0039】
このように、本実施形態では、単に運転者に冷感を付与することで注意喚起するのではなく、温度刺激によって運転者の自律神経系に直接働きかけるので、運転者の覚醒度を正常な状態に適切に誘導することができる。
【0040】
具体的には、運転者の状態が「葛藤状態」であると判定されると、温度制御部18は、図4(a)及び図4(b)に示す制御パターンに従って、運転者の両手に温度刺激(冷風)を付与するように、空調システム6を制御する。この制御パターンは、同図に示すように、運転者の手に冷風を供給する第1の期間(同図において符号tanで示す。但し、nは自然数。)と、運転者の手への冷風の供給を中止する第2の期間(同図において符号tbnで示す。)と、から構成されるサイクルを周期的に実行するように設定されている。なお、同図では、第1〜第3サイクルしか図示していないが、4回以上のサイクルを繰り返してもよい。
【0041】
例えば、第1のサイクルの第1の期間ta1では、温度制御部18は、吹出口61,62を介して運転者の両手に冷風を吹き付けるように、空調システム6を制御する。この際に吹き付けられる冷風の温度と風量は、運転者の手における末梢血管の収縮を引き起こすように設定されており、図4(c)に示すように、第1の期間tan中に、拡張していた末梢血管がこの冷風によって収縮する。なお、末梢血管の収縮を引き起こす温度刺激の温度は、個人差や外部環境等に依存するため特に限定されないが、例えば、運転者の手の体表面温(31℃〜33℃程度)よりも5〜10℃程度低い温度である。
【0042】
末梢血管が収縮すると、第2の期間tb1において、温度制御部18は、運転者の手への冷風の供給を中止するように、空調システム6を制御する。これにより、図4(c)に示すように、末梢血管が収縮している状態が暫く維持されるが、次第に末梢血管が拡張し始める。
【0043】
次いで、第2のサイクルの第1の期間ta2において、温度制御部18は、運転者の両手に冷風を再度吹き付けるように、空調システム6を制御する。この際、2回目以降のサイクルにおける第1の期間ta2〜tanでは、末梢血管が再び拡張してしまう前に、冷風の供給を再開するように設定されている。
【0044】
本実施形態では、第1サイクルにおいて、第1の期間ta1の長さと第2の期間tb1の長さとが実質的に同一に設定されている(ta1=tb1)。また、運転者の手に冷風を吹き付ける程、末梢血管は収縮し易くなるので、本実施形態では、サイクル回数が増加するにつれて第1の期間tanが短くなるように設定されている(ta1>ta2>ta3>・・・)。
【0045】
なお、全てのサイクルにおいて、第1の期間tanの長さと、第2の期間tbnの長さと、を実質的に同一としてもよい。これにより、温度制御部18の制御の簡略化を図ることができる。
【0046】
また、図5(a)及び図5(b)に示すように、運転者の右手と左手に対して、冷風を交互に吹き付けてもよい。この場合には、空調システム6からは冷風を連続的に(即ちオン/オフすることなく)供給しつつ、左側の吹出口61と右側の吹出口62とを交互に開閉すればよいので、温度制御部18の制御の簡略化を図ることができる。
【0047】
一方、図2に示すように、運転者のストレス度が第1の閾値TH1よりも大きく、且つ、運転者の覚醒度が第3の閾値TH3よりも高い場合には、温度制御部18は、運転者の状態が「イライラ状態」にあると判定して、運転者の状態を「イライラ状態」か「正常状態」に誘導するように空調システム6を制御する。
【0048】
本実施形態では、上述した覚醒度を高める場合の生体メカニズムとは逆のプロセスを実行することで、運転者の覚醒度を高い状態から正常な状態に誘導する。すなわち、本実施形態では、運転者の手等の末梢部を適度に加温して、収縮していた末梢血管を拡張させて放熱を促し、イライラ状態によって高くなっていた深部体温を正常な範囲に戻すことで、運転者の覚醒度を正常な状態に誘導する。
【0049】
このように、本実施形態では、温度刺激によって運転者の自律神経系に直接働きかけるので、運転者の覚醒度を高い状態から正常な状態に適切に誘導することができる。
【0050】
具体的には、運転者の状態が「イライラ状態」であると判定されると、温度制御部18は、特に図示しない制御パターンに従って、運転者の両手に温度刺激(温風)を付与するように空調システム6を制御する。この制御パターンは、上述の冷風を吹き付ける場合と同様に、運転者の手に温風を供給する第1の期間と、運転者の手への温風の供給を中止する第2の期間と、から構成されるサイクルを周期的に実行するように設定されている。
【0051】
例えば、第1のサイクルの第1の期間では、温度制御部18は、吹出口61,62を介して運転者の両手に温風を吹き付けるように、空調システム6を制御する。なお、この温風の温度と風量は、運転者の手における末梢血管の拡張を引き起こすように設定されており、この温風が運転者の手に吹き付けられると、収縮していた末梢血管が拡張する。なお、末梢血管の拡張を引き起こす温度刺激の温度は、個人差や外部環境等に依存するため特に限定されないが、例えば、運転者の手の体表面温(31℃〜33℃程度)よりも5〜10℃程度高い温度である。
【0052】
末梢血管が拡張すると、第2の期間において、温度制御部18は、運転者の手への温風の供給を中止するように、空調システム6を制御する。これにより、末梢血管が拡張している状態が暫く維持されるが、次第に末梢血管が収縮し始める。そのため、2回目以降の第1の期間において、温度制御部18は、運転者の両手に温風を再度吹き付けるように、空調システム6を制御する。この際、2回目以降のサイクルにおける第1の期間では、末梢血管が再び拡張してしまう前に、温風の供給を再開するように設定されている。
【0053】
本実施形態では、上述の冷風を吹き付ける場合と同様に、第1サイクルにおいて、第1の期間の長さと第2の期間の長さとが実質的に同一に設定されていると共に、サイクル回数が増加するにつれて第1の期間が短くなるように設定されている。
【0054】
本実施形態では、冷風供給及び温風供給のいずれについても、上述のようなサイクルを周期的に繰り返す制御パターンが、温度制御部18に予め設定されている。なお、複数の制御パターンを有するデータベースを制御コンピュータ15に記憶させておき、運転者の年齢や体重等に応じた最適な制御パターンを、温度制御部18が当該データベースから読み込んでもよい。
【0055】
以上のように、本実施形態では、温度刺激による末梢血管の収縮に伴って放熱を抑制する生体メカニズム、或いは、温度刺激による末梢血管の拡張に伴って放熱を促す生体メカニズムに基づいて、運転者の手の温度を周期的に変化させる。このように、本実施形態では、運転者の生体メカニズムを利用して覚醒度を誘導するので、運転者の覚醒度を低い状態或いは高い状態から正常な状態に適切に誘導することができる。
【0056】
また、本実施形態では、第2の期間において温度刺激の付与を中止するので、覚醒誘導のエネルギー効率を高めることができる。因みに、ペルチェ素子を用いて運転者の手の温度を周期的に変化させる場合には、冷却と加温を交互に繰り返す必要があり、温度刺激の付与を中止することはできないので、覚醒誘導のエネルギー効率を高めることはできない。
【0057】
また、本実施形態では、サイクル回数が増加するにつれて第1の期間を短くするので、覚醒誘導のエネルギー効率を更に高めることができる。
【0058】
また、本実施形態では、空調システム6によって運転者の両手に対して実質的に同時に温度刺激を付与するので、運転者の覚醒度を効果的に誘導することができる。
【0059】
また、本実施形態では、空調システム6による冷風又は温風を温度刺激として利用するので、温度刺激の付与を一時的に中止することができ、覚醒誘導のエネルギー効率を一層高めることができる。さらに、既存の空調システム6を利用することで、覚醒誘導装置10の低コスト化を図ることができる。
【0060】
<<第2実施形態>>
図6は本実施形態における覚醒誘導装置の構成を示す図である。本実施形態では、ステアリングホイール5に脈波センサ12が設けられている点、及び、制御コンピュータ15に収縮拡張検出部19が追加されている点で、第1実施形態と相違するが、それ以外の構成は第1実施形態と同様である。以下に、第2実施形態における覚醒誘導装置10Bについて第1実施形態との相違点についてのみ説明し、第1実施形態と同様の構成である部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
本実施形態では、ステアリングホイール5に脈波センサ12が設けられている。この脈波センサ12は、例えば、ステアリングホイール5において車輌直進状態で左右の端部となる領域に配置されており、ステアリングホイール5を握る運転者の指から脈波を計測することが可能となっている。この脈波センサ12の具体例としては、例えば光電容量脈波計測装置等を挙げることができる。
【0062】
この脈波センサ12は、制御コンピュータ15の収縮拡張検出部19に接続されている。収縮拡張検出部19は、脈波センサ12によって計測された脈波の振幅から末梢血管の収縮及び拡張の度合い(以下単に、収縮/拡張度合と称する。)を検出することが可能となっている。
【0063】
温度制御部18は、第1実施形態と同様に、覚醒度判定部16の判定結果と、ストレス度判定部17の判定結果とに基づいて運転者の状態を判定し、当該判定結果に基づいて空調システム6を制御する。さらに、本実施形態では、空調システム6を制御する際に、収縮拡張検出部19の検出結果に基づいて、運転者の手への温度刺激の付与を開始したり中止したりする。
【0064】
具体的には、運転者の状態が「葛藤状態」であると判定された場合には、温度制御部18は、運転者の手への冷風の供給を開始するように空調システム6を制御する(1回目のサイクルの第1の期間)。
【0065】
そして、収縮拡張検出部19によって検出された収縮/拡張度合が第1の所定値以下となった場合には、末梢血管が収縮したので、温度制御部18は、冷風の供給を停止するように空調システム6を制御する(第2の期間)。
【0066】
次いで、収縮拡張検出部19によって検出された収縮/拡張度合が第2の所定値以上となった場合には、末梢血管が拡張状態に近付いているので、温度制御部18は、冷風の供給を再開するように空調システム6を制御する(2回目以降のサイクルの第1の期間)。
【0067】
本実施形態では、末梢血管の拡張と収縮が検出される毎に冷風の供給(第1の期間)とその中止(第2の期間)とを交互に実行するこうした制御が、運転者の覚醒度が正常になるまで継続して行われる。
【0068】
また、運転者の状態が「イライラ状態」であると判定された場合には、温度制御部18は、運転者の手に温風を供給するように空調システム6を制御する(1回目のサイクルの第1の期間)。
【0069】
そして、収縮拡張検出部19によって検出された収縮/拡張度合が第3の所定値以上となった場合には、末梢血管が拡張したので、温度制御部18は、温風の供給を停止するように空調システム6を制御する(第2の期間)。
【0070】
次いで、収縮拡張検出部19によって検出された収縮/拡張度合が第4の所定値以下となった場合には、末梢血管が収縮状態に近づいているので、温度制御部18は、温風の供給を再開するように空調システム6を制御する(2回目以降のサイクルの第1の期間)。
【0071】
本実施形態では、末梢血管の収縮と拡張が検出される毎に温風の供給(第1の期間)とその中止(第2の期間)とを交互に実行するこうした制御が、運転者の覚醒度が正常になるまで継続して行われる。
【0072】
以上のように、本実施形態では、第1実施形態と同様に、温度刺激による末梢血管の収縮に伴って放熱を抑制する生体メカニズム、又は、温度刺激による末梢血管の拡張に伴って放熱を促す生体メカニズムに基づいて、運転者の手の温度を周期的に変化させる。このように、本実施形態では、運転者の生体メカニズムを利用して覚醒度を誘導するので、運転者の覚醒度を低い状態或いは高い状態から正常な状態に適切に誘導することができる。
【0073】
また、本実施形態では、第1実施形態と同様に、第2の期間において温度刺激の付与を中止するので、覚醒誘導のエネルギー効率を高めることができる。因みに、ペルチェ素子を用いて運転者の手の温度を周期的に変化させる場合には、冷却と加温を交互に繰り返す必要があり、温度刺激の付与を中止することはできないので、覚醒誘導のエネルギー効率を高めることはできない。
【0074】
また、本実施形態では、末梢血管の収縮及び拡張の度合いに応じて、第1の期間の長さと第2の期間の長さを調整するので、空調システム6により冷風又は温風を供給している時間を必要最小限にすることができるので、覚醒誘導のエネルギー効率を更に高めることができる。
【0075】
また、本実施形態では、第1実施形態と同様に、空調システム6によって運転者の両手に対して実質的に同時に温度刺激を付与するので、運転者の覚醒度を効果的に誘導することができる。
【0076】
また、本実施形態では、第1実施形態と同様に、空調システム6による冷風又は温風を温度刺激として利用するので、温度刺激の付与を一時的に中止することができ、覚醒誘導のエネルギー効率を一層高めることができる。さらに、既存の空調システム6を利用することで、覚醒誘導装置10Bの低コスト化を図ることができる。
【0077】
上述した実施形態における覚醒度判定部16が本発明における覚醒度判定手段の一例に相当し、上述した実施形態におけるストレス度判定部17が本発明におけるストレス度判定手段の一例に相当し、上述の実施形態における空調システム6が、本発明における冷却加温手段の一例に相当し、上述した実施形態における温度制御部18が本発明における温度制御手段の一例に相当し、上述した実施形態における収縮拡張検出部19が本発明における収縮拡張検出手段の一例に相当する。
【0078】
なお、以上に説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0079】
1…自動車
2…運転席シート
3…ダッシュボード
4…コンビネーションメータ
5…ステアリングホイール
51…操舵角センサ
6…空調システム
61,62…吹出口
7…アクセルペダル
10…覚醒誘導装置
11…撮像カメラ
12…脈波センサ
15…制御コンピュータ
16…覚醒度判定部
17…ストレス度判定部
18…温度制御部
19…収縮拡張検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の覚醒度を判定する覚醒度判定手段と、
前記対象者のストレス度を判定するストレス度判定手段と、
前記対象者の末梢部を冷却又は加温する冷却加温手段と、
前記覚醒度判定手段の判定結果と前記ストレス度判定手段の判定結果とに基づいて、前記冷却加温手段を制御する温度制御手段と、を備えた覚醒誘導装置であって、
前記温度制御手段は、温度刺激による末梢血管の収縮に伴って放熱を抑制する生体メカニズム、又は、温度刺激による前記末梢血管の拡張に伴って放熱を促す生体メカニズムに基づいて、前記対象者の末梢部の温度を周期的に変化させるように、前記冷却加温手段を制御することを特徴とする覚醒誘導装置。
【請求項2】
請求項1に記載の覚醒誘導装置であって、
前記温度制御手段は、
前記末梢血管が収縮又は拡張するまで、前記末梢部に温度刺激を付与する第1の期間と、
前記末梢血管が収縮又は拡張したら前記末梢部への前記温度刺激の付与を中止する第2の期間と、を有するサイクルを周期的に繰り返すように、前記冷却加温手段を制御し、
2回目以降の前記第1の期間において、前記末梢血管が拡張又は収縮する前に前記末梢部への前記温度刺激の付与を再開することを特徴とする覚醒誘導装置。
【請求項3】
請求項2に記載の覚醒誘導装置であって、
前記温度制御手段は、前記第1の期間の長さと、前記第2の期間の長さと、が実質的に同一となるように、前記冷却加温手段を制御することを特徴とする覚醒誘導装置。
【請求項4】
請求項2に記載の覚醒誘導装置であって、
前記温度制御手段は、前記温度刺激の付与回数に応じて、一回の前記サイクルにおける前記第1の期間と前記第2の期間との配分を変化させるように、前記冷却加温手段を制御することを特徴とする覚醒誘導装置。
【請求項5】
請求項4に記載の覚醒誘導装置であって、
前記温度制御手段は、
前記温度刺激の付与開始時に、前記第1の期間の長さと、前記第2の期間の長さと、が実質的に同一となるように、前記冷却加温手段を制御し、
前記温度刺激の付与回数が増加するにつれて、前記サイクルにおける前記第1の期間を短くするように、前記冷却加温手段を制御することを特徴とする覚醒誘導装置。
【請求項6】
請求項2に記載の覚醒誘導装置であって、
前記末梢血管の収縮及び拡張の度合いを検出する収縮拡張検出手段をさらに備えており、
前記温度制御手段は、前記末梢血管の収縮及び拡張の度合いに応じて、前記第1の期間の長さと、前記第2の期間の長さと、を調整するように、前記冷却加温手段を制御することを特徴とする覚醒誘導装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の覚醒誘導装置であって、
前記冷却加温手段は、前記温度刺激を前記対象者の両手に対して、実質的に同時に、又は交互に付与し、
前記対象者の両手において前記温度刺激が付与される部位は、掌、甲、又は指の少なくとも一つを含むことを特徴とする覚醒誘導装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の覚醒誘導装置であって、
前記冷却加温手段は、車輛に搭載された空調システムであることを特徴とする覚醒誘導装置。
【請求項9】
請求項8に記載の覚醒誘導装置であって、
前記温度制御手段は、前記末梢部に付与する前記温度刺激の温度が、前記末梢血管の収縮又は拡張を引き起こす温度となるように、前記冷却加温手段を制御することを特徴とする覚醒誘導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−12029(P2013−12029A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144203(P2011−144203)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(300071579)学校法人立教学院 (42)
【Fターム(参考)】