説明

親油性成分含有粉末

【課題】 賦形剤含有状態であっても、親油性成分を容易に安定で且つ微小な乳化油滴とすることができる親油性成分含有粉末の製造方法及び親油性成分含有粉末の提供。
【解決手段】 (A)親油性成分、(B)陰イオン界面活性剤、(C)ポリオキシアルキレン(アルキレン基の炭素数2〜3)系非イオン界面活性剤、(D)賦形剤及び水を含有するO/W型乳化物を乾燥させて得られる親油性成分含有粉末、並びにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親油性成分含有粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
親油性成分を賦形剤(水溶性壁材物質)含有の乳化物とした後、該乳化物を乾燥することで得られる親油性成分含有粉末は、該粉末中で親油性成分が水溶性壁材のマトリクス中に保持/カプセル化されているため、香料に代表される揮発性の高い親油性成分であっても保存時の揮散が少なく香味の持続性に優れている。また、圧密/成型などの外力負荷をかけても、親油性成分は染み出しにくく、粉末加工に優れている。更には、該粉末を水に溶解すると乳化状態となるため、農薬に代表される農薬活性成分の散布時にも非常に利便性を兼ね備えたものである。この様な特長があるため、近年盛んに本手法による親油性成分の粉末化は研究されており、その中から乳化物を調製する際、親油性成分を微小乳化油滴にすることで、有益な特性が得られることが判ってきている。例えば、親油性成分が香料の場合、乳化油滴径を1μm以下にすることで、香味を持続した粉末を得ることができる(特許文献1)。また、農業分野においては、殺虫剤や殺菌剤を微小乳化油滴にすることで、散布時にクリーミング等を引き起こさない安定な分散液を調合でき且つ主要部位への活性成分の浸透性を高め、効果を持続させることができる。
【0003】
また、特許文献2には農薬活性成分を含有する固形乳剤及びその製造法が開示され、特許文献3及び特許文献4には、親油性成分を含むナノ分散物が開示されている。
【特許文献1】特開2001−152179号公報
【特許文献2】特開平10−1404号公報
【特許文献3】特開平11−335261号公報
【特許文献4】特開平11−335266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に代表されるように、親油性成分を賦形剤(水溶性壁材物質)含有の微小乳化油滴にするには、予備乳化後に高圧処理を施す必要があった。また、農業分野では親油性成分にポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤を相溶させたものを自己乳化させて微小乳化油滴を得ているが、後述する比較参考例1に示すようにポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤は賦形剤含有乳化物中ではその界面活性能を失い、微小乳化油滴が得られないことが新たに判った。
【0005】
また、特許文献2,特許文献3,特許文献4には、使用する乳化剤/界面活性剤が羅列的に列挙されているが、ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤のような単独では使用できないものを含んでおり、また、その組合せにより微小乳化油滴を得る利点を見出していないのが現状である。
以上の様に、微小乳化油滴が容易に得られた上で、親油性成分を粉末化する技術は未だ見出されていない。
【0006】
本発明の課題は、賦形剤含有状態であっても、親油性成分を容易に安定で且つ微小な乳化油滴とすることができる親油性成分含有粉末の製造方法及び親油性成分含有粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、賦形剤含有乳化物中ではその界面活性能を失い、微小乳化油滴が得られ ないポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤に対し、陰イオン界面活性剤を併用することで、賦形剤含有状態であっても、安定で且つ微小な乳化油滴が得られ、それを乾燥することで溶解性が良好な親油性成分含有粉末を得ることができることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、(A)親油性成分、(B)陰イオン界面活性剤、(C)ポリオキシアルキレン(アルキレン基の炭素数2〜3)系非イオン界面活性剤、(D)賦形剤及び水を含有するO/W型乳化物を乾燥させて得られる親油性成分含有粉末、更に、(E)乳化補助剤を含有する親油性成分含有粉末、並びにその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、乾燥前の乳化物を調製するに当たり、同一の機械力を与えても、従来の界面活性剤を使用した場合より、微小な乳化油滴を得ることができ、この親油性成分を微小油滴として含む乳化物を乾燥すると、水への溶解・分散性に優れ、且つ取扱い性及び形状加工性に優れる工業的に好ましい親油性成分含有粉末が得られる。また、本発明の製造法は製造工程もシンプルであり工業的に有利である。
また本発明によれば、ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤を併用することで、賦形剤存在下において親油性成分を容易に微小油滴にすることができる。親油性成分が香料などの揮発し易い場合、噴霧乾燥時の揮散を抑制することができる。また、親油性成分が化粧用油性成分や農薬活性成分の場合、溶解時に親油性成分が微小油滴となるため、透明な外観を呈することやその効能を高めることも可能となる。又、得られた粉末は圧密に対しても親油性成分の染み出しが無く、加工性に優れた粉末である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[(A)成分]
(A)成分は本発明により粉末化される親油性成分であり、親油性成分とは、25℃における水への溶解度が10重量%未満のものを指す。親油性成分としては、特に制限されるものではないが、例えば、香料、農薬活性剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、油性薬効成分、シリコーン油類等が挙げられる。
【0011】
香料としては、メントール、ワニリン等の単品香料、オレンジ、レモン、グレープフルーツ等のシトラス系、アップル等のフルーツ系、紅茶、緑茶等の茶系、コーヒー等のビーンズ系、ブラックペッパー、カレー等のスパイス系、ペパーミント、スペアミント等のミント系、デイリー系、ワニラ系、コーラナッツ等の調合香料や精油、抽出物の各種が挙げられる。
【0012】
農薬活性剤としては、フェンチオン(fenthion)、フェニトロチオン(fenitrothion)、プロパホス(propaphos)、シアノホス(cyanophos)、プロチオホス(prothiofos)、スルプロホス(sulprofos)、EPN、シアノフェンホス(cyanofenphos)、オキシデプロホス(oxydeprofos)、ジスルホトン(disulfoton)、チオメトン(thiometon)、マラソン(malathion)、メカルバム(mecalbam)、ピリミホスメチル(pirimiphosmethyl)、ダイアジノン(diazinon)、エトリムホス(etrimfos)、イソキサチオン(isoxathion)、ピラクロホス(pyraclophos)、クロルチオホス(chlorthiophos)、イソフェンホス(isofenphos)、EDDP、シフルスリン(cyfluthrin)、パーメスリン(permethrin)、シハロスリン(cyhalothrin)、フェンバレレート(fenvalerate)、フルシトリネート(flucythrinate)、エトフェンプロックス(ethofenprox)、シラネオファン(silaneophane)、シクロプロトリン(cycloprothrin)、IBP、エジフェンホス(edifenphos)、プロピコナゾール(propiconazole)、イマザリル(imazalil)、トリデモルフ(tridemorph)、エタゾール(ethazol)、ピリフェノックス(pyrifenox)、ブタクロール(butachlor)、メトラクロール(metolachlor)、チオベンカルブ(thiobencarb)、ブチレート(butylate)、EPTC、モリネート(molinate)、セトキシジム(sethoxydim)、フルアジホップーブチル(fluazifop-butyl)、ラクトフェン(lactofen)、ピペロホス(piperophos)、エスプロカルブ(esprocarb)、ピリブチカルブ(pyributicarb)、ベノキサゾール(benoxazol)などが挙げられる。
【0013】
油脂類としては、例えば大豆油、ヌカ油、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ脂、ごま油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂 、また、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸グリセリド等の合成トリグリセリドなどが挙げられる。ロウ類としては、例えばカルナウバロウ、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン等が挙げられる。炭化水素類としては、例えば流動パラフィン、セラミド、レチノイド、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、プリスタン等が挙げられる。高級脂肪酸類としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。高級アルコール類としては、例えばラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、2−ヘキシルデカノール等が挙げられる。エステル類としては、例えばオクタン酸セチル、乳酸ミリスチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸イソステアリル等が挙げられる。油性薬効成分としては、下記式(I)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R1は水酸基又はメトキシ基、R2はアルキル基を示す。)
で表されるフタリド誘導体、ニコチン酸メチル、ニコチン酸トコフェロール、トコフェロール、L−メントール、グアイアズレン等が挙げられる。シリコーン油類としては、例えばジメチルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アクリル酸アルキル共重合体メチルポリシロキサンエステル等が挙げられる。
【0016】
これらの(A)成分の中では、香料、農薬活性剤や、セラミド、流動パラフィン、エステル油、高級アルコール、油性薬効成分等の化粧用油性成分、シリコーン油が好ましい。これらの(A)成分は、必要に応じ2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0017】
本発明の粉末中の、(A)成分の含有量は、経済性,同量の親油性成分を配合するための必要量、製品形態の自由度の観点から、1重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。又、油保持性(油の染み出し防止)の観点から、80重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましい。従って、経済性、摂取の容易性、油保持性の観点から、(A)成分の含有量は本発明の粉末中、1〜80重量%が好ましく、10〜70重量%がより好ましい。
【0018】
[(B)成分]
(B)成分は、(C)成分と共に(A)成分を微小油滴に乳化させる為の乳化剤である。
【0019】
(B)成分としては、例えば、アルキル基の炭素数が8〜24のアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン、アルキル硫酸アンモニウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミンや、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、β−ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、特殊芳香族スルフォン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、脂肪酸石鹸、モノアルキルリン酸塩、N-アシルグルタミン酸塩、N-アシルザルコシン、N-アシルメチルタウリン塩、スルホコハク酸モノエステル塩などが挙げられる。これらは用途によって適切なものを使用すればよい。特に、炭酸ガス発生型の入浴剤に、本粉末を使用する場合、湯浴が弱酸性(pH4.5〜6.5)になることを利用し、溶解後、弱酸基を持つ陰イオン界面活性剤は弱酸性により中和され、その陰イオン活性を失い、肌に刺激性の無い物質へと変わる為、より好ましい。具体的には脂肪酸石鹸やN-アシルグルタミン酸塩、N-アシルザルコシンなどが挙げられる。又、(B)成分は、必要に応じ2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0020】
本発明の粉末中の、(B)成分の含有量は、乳化安定性の観点から、0.01重量%以上が好ましく、0.05重量%以上がより好ましい。又、コスト、配合の自由度及び乳化安定性の観点から、5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。従って、乳化安定性、配合の自由度及びコストの観点から、(B)成分の含有量は粉末中、0.01〜5重量%が好ましく、0.05〜3重量%がより好ましい。
【0021】
[(C)成分]
(C)成分は、(B)成分と共に、(A)成分を微小油滴に乳化させる為の乳化剤であり、ポリオキシアルキレン鎖(アルキレン基の炭素数2〜3)を持つ非イオン界面活性剤である。ポリオキシアルキレン鎖は、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、あるいはオキシエチレン基とオキシプロピレン基が混合したポリオキシアルキレン鎖でもよく、その場合オキシエチレン基とオキシプロピレン基はランダムでもブロックでもかまわない。
【0022】
(C)成分としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキレート、ポリオキシエチレンソルビタントリアルキレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン(アルキレン基の炭素数2〜3)アルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどが挙げられる。特に、(A)成分への分散/溶解の観点よりHLBが20以下のものが好ましく、17以下のものがより好ましい。又、(C)成分は、必要に応じ2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0023】
本発明の粉末中の、(C)成分の含有量は、乳化安定性の観点から、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。又、コスト、配合の自由度及び乳化安定性の観点から、40重量%以下が好ましく、35重量%以下がより好ましい。従って、乳化安定性、配合の自由度及びコストの観点から、(C)成分の含有量は粉末中、0.5〜40重量%が好ましく、1〜35重量%がより好ましい。
【0024】
[(D)成分]
(D)成分は、(A)成分を固定化し粒子を形成させる為の賦形剤として用いられる水溶性壁材物質である。(D)成分としては、グルコース、果糖、乳糖、麦芽糖、蔗糖、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、マルトース、フルクトース、トレハロースなどの単糖及び多糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクトース、マルトトリイトール、キシリトール、多価アルコールなどの糖アルコール;塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機塩;アラビアガム、グアーガム、ペクチン、プルラン、アルギン酸ナトリウムなどの増粘多糖類;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体;澱粉にエステル化、エーテル化処理、末端還元処理を施した澱粉誘導体;その他に加工澱粉、ゼラチン分解物、寒天、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。この中でも、溶解性の面から単糖、多糖類、糖アルコール、無機塩が好ましく、吸湿性、粒子形成性の観点から、デキストリン、糖アルコール、無機塩が更に好ましく、デキストリンが特に好ましい。又、(D)成分は、必要に応じ2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0025】
本発明の粉末中の、(D)成分の含有量は、親油性成分の染み出し防止の観点から、20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。又、コスト及び配合の自由度の観点から、95重量%以下が好ましく、85重量%以下がより好ましい。従って、配合の自由度及びコストの観点から、(D)成分の含有量は粉末中、20〜95重量%が好ましく、30〜85重量%がより好ましい。
【0026】
[(E)成分]
(E)成分は乳化を補助する乳化補助剤であり、一般には単独では乳化作用を示さない成分である。中でも(B)成分と油滴界面にて錯化合物を形成するものが好ましい。
【0027】
(E)成分としては、例えば、炭素数8〜24のアルキル基又はアルケニル基を有するアルコール(ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、2-ヘキシルデカノールなど)、炭素数8〜24のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸など)、炭素数8〜24のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アミン(ラウリルアミン,ステアリルアミン,オレイルアミンなど)などが挙げられる。これらの中でも、(B)成分と油滴界面にて錯化合物を形成するものが好ましい。例えば、(B)成分が脂肪酸石鹸である場合は、炭素数8〜24のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸の組み合わせが良く、(B)成分がアルキル基の炭素数が8〜24のアルキル硫酸ナトリウムである場合、炭素数8〜24のアルキル基又はアルケニル基を有するアルコールの組み合わせが良い。又、(E)成分は、必要に応じ2種以上組み合わせて使用しても良い。尚、(E)成分は(A)成分と重なる化合物となる場合があるが、ここでの、(E)成分は油滴界面の改質を目的に配合されるため、(A)成分とは異なる扱いとして問題ない。
【0028】
本発明の粉末中の、(E)成分の含有量は、乳化安定性の観点から、0重量%以上が好ましく、0.01重量%以上がより好ましく、0.05重量%以上が更に好ましい。又、コスト、配合の自由度及び乳化安定性の観点から、5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。従って、乳化安定性、配合の自由度及びコストの観点から、(E)成分の含有量は粉末中、0〜5重量%が好ましく、0.01〜5重量%がより好ましく、0.05〜3重量%が更に好ましい。尚、(E)成分が(A)成分と重なる化合物の場合、その使用量は各成分にて規定した使用量範囲の合計を適応して問題なく、1.01〜85重量%が好ましく、10.05〜73重量%がより好ましい。
【0029】
[その他の成分]
本発明の粉末には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分以外にも、必要に応じ他の物質が含まれていても良い。例えば、増粘剤、防腐剤、着色剤、崩壊又は酸化防止剤等が挙げられる。又、使用する原料及び製造プロセス由来の水分を含有しても良い。これらは、本発明の粉末中に配合されても、別途配合されても良い。
【0030】
[親油性成分含有粉末の製造法]
本発明の親油性成分含有粉末の製造法は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び水、更に必要により(E)成分を含有するO/W型乳化物を調製する工程、該乳化物を乾燥させて親油性成分含有粉末を得る工程を含む。
【0031】
O/W型乳化物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び水、更に必要により(E)成分を混合することによって調製される。この際、温度は(A)成分及び(C)成分を別々に配合する場合は、個々の融点以上で行い、予め混合して配合する場合は混合物の融点以上で行うことが望ましい。
【0032】
O/W型乳化物を調製する場合の各成分の混合方法は特に限定されないが、例えば、下記の方法が微細な油滴を得る面でより好ましい。
【0033】
水に(B)成分と(D)成分を溶解させた水相を形成する成分と、(A)成分に(C)成分、更に必要により(E)成分を溶解または分散させた油相を形成する成分を別々に調製し、攪拌下にこれら水相成分と油相成分を混合する方法。この場合、水相側を攪拌しておき、そこに油相成分を添加しても、油相側を攪拌しておき、そこに水相成分を添加してもいずれでも良い。又、水相成分と油相成分を同時に添加し混合しても良い。更に、(A)成分が酸化しやすい物質の場合、窒素などの不活性ガスを通気しながら行っても良い。
【0034】
乳化を行う場合に使用する乳化機としては、静止型乳化・分散機、一般的な攪拌機、ホモミキサー等の攪拌型乳化機、ホモジナイザー等の高圧乳化機を使用することが好ましい。
【0035】
本発明に係わる乳化物の平均乳化油滴径は、弱い機械的シェアをかけても乳化油滴径は微細になるため、0.01〜5μmが好ましく、0.03〜1μmが更に好ましい。
【0036】
この様にして得られたO/W型乳化物を、乾燥することによって、溶解性に優れる親油性成分含有粉末が得られる。乾燥法は、一般的な方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、ベルト乾燥、棚乾燥、ドラム乾燥等が挙げられる。噴霧乾燥以外の方法で乾燥した場合には、所望の粒径の粒子を得る為に粉砕を行う。これらの乾燥法の中では、生産性、熱履歴、粒子形状等の観点から、噴霧乾燥法を用いるのが特に好ましい。
【0037】
尚、噴霧乾燥法で親油性成分含有粉末を形成させる場合、その粒径は、使用する噴霧ノズルにより任意に調整できるが、必要に応じ、更に得られた粒子を凝集させ凝集粒子とすることもできる。
【0038】
本発明の方法は、乳化工程において、(B)成分と(C)成分を併用することで、(A)成分を(D)成分含有水溶液中で容易に微小油滴にすることが可能である。この様な(A)成分を微小油滴として含む乳化物を乾燥すると、良好なカプセル化粉末が得られる。更に、(E)成分を加えることで、より良好なカプセル化粉末が得られる。
【0039】
[親油性成分含有粉末]
本発明の親油性成分含有粉末は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分、更に必要により(E)成分を含有し、前記製造法により製造された溶解性に優れる粉末である。本発明での粉末の溶解性は、後述する沈降時間にて評価した。沈降時間がより短いほど溶解性に優れるといえる。
【0040】
本発明の親油性成分含有粉末の平均粒径は、流動性及び溶解性の観点から10〜1000μmが好ましく、10〜300μmがより好ましい。尚、この平均粒径は、実施例に示す方法で測定することができる。又、本発明の親油性成分含有粉末は、単一粒子であっても凝集粒子であっても粉砕粒子であっても良い。
【0041】
本発明の親油性成分含有粉末は、荷重を加えても成分が染み出し難いので、押出造粒、ブリケット、打錠等により、顆粒や錠剤とすることも可能である。
【0042】
本発明の親油性成分含有粉末は、例えば親油性成分が揮散し易い香料の場合、製造時の揮散を抑えることで香料ロスが少なく、香気持続性に大変優れたものとなり、衣料用洗剤、自動食器洗い用洗剤、入浴剤等のトイレタリー製品への添加に適したものである。また、親油性成分が農薬活性剤の場合、単独又は肥料等と混合することで、溶解・分散性に優れた散布液を容易に得ることできる。更には、本発明の親油性成分含有粉末は、親油性成分が染み出し難いので、顆粒化や錠剤化することも容易であり、製品形態の多様化への対応性が高い。例示すると、化粧品としてのファンデーション、農薬製剤としてペレット型肥料やジャンボ剤、固形成型入浴剤等が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下の例では、O/W型乳化物の製造例を参考例とし、親油性成分含有粉末の製造例を実施例として示した。例中で用いられる%は、特記しない限り重量%である。また、乳化物中の平均乳化油滴径、粉末の平均粒径、親油性成分の残存率及び粉末の沈降時間は以下の方法で測定した。
【0044】
<乳化物の平均乳化油滴径、親油性成分含有粉末の平均粒径>
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(堀場製作所(株)製)を用いて測定したメジアン径を乳化物の平均乳化油滴径又は粉末の平均粒径とした。分散溶媒には、乳化物の平均乳化油滴径を測定する場合には水、粉末の平均粒径を測定する場合にはアセトンを使用した。測定においては、攪拌を中位(具体的には、測定装置LA-920の7段階の4)とし、サンプルを添加して所定濃度に調整後、粉末測定時のみ中位レベル(具体的には、測定装置LA-920の7段階の4)の超音波を1分間照射し、各々の径を測定した。
【0045】
<乳化液の吸光度>
作製した乳化物を直接セル(GLサイエンス(株)製 AB10−UV1.0)に入れ、UV計(島津製作所(株)製 UV−1700)にて600nmでの吸光度を測定した。尚、対照は同一のセルにイオン交換水を入れたものとした。吸光度が低いほど、乳化油滴が微細で光散乱による光透過の阻害が少ないことを示している。
【0046】
<親油性成分残存率>
100gのイオン交換水に親油性成分として理論2gとなる量のサンプルを溶かし、再溶解液を調整する。同液から水蒸気蒸留およびガスクロマトグラフィー分析により含有親油性成分量を算出する。一方、噴霧乾燥を行っていない乳化液で同様の操作を行い、その値から以下の式により抽出率を計算し、残存率を補正する。
【0047】
抽出率=乳化液から抽出された親油性成分量/乳化液中理論親油性成分量×100
残存率=サンプルから抽出された親油性成分量/サンプル中理論親油性成分量/(抽出率/100)×100
なお、抽出率が80%未満の場合には、乳化剤が水蒸気蒸留の阻害物質となっているものと考えられることから、適切な解乳化剤(酵素、アルカリ等)を添加混合した後に、上記操作を行う。
【0048】
<粉末の沈降時間>
2Lシリンダーに水を2000cc入れ、これに作製粉末1gを静かに投入する。試料を投入し終わってから底面に到達するまでの時間を測定する。
【0049】
<打錠試験>
作製した粉末が顆粒化や錠剤化といった加工性が高いことを示すための試験として、粉末30gを打錠機((株)理研商会製)のセルに入れ、20MPaの圧力で圧縮した際の親油性成分の染み出し具合を目視で観察した。油の染み出しが観測されない場合、顆粒化や錠剤化といった工程で、杵に親油性成分と粉の付着で生ずるプリンティング等のトラブルから回避できることが示される。
【0050】
<浴槽溶解試験>
作製粉末5.0gを、炭酸ナトリウム(セントラル硝子(株)製)15.0g、炭酸水素ナトリウム(東ソー(株)製)15.0g、フマル酸(日本触媒(株)製)31.0g、ポリエチレングリコール6000(花王(株)製)6.5g、柑橘系香料0.5g、黄色4号0.015g、青色1号0.005gと混合し、20MPaの圧力にて打錠した。本打錠物を、40℃の湯を満たした150L浴槽に投入して、溶解後の外観を観察した。
【0051】
参考例1
水360gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)161.64g及びエマール10パウダー(花王(株)製 ラウリル硫酸ナトリウム)0.3 6gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gにエマルゲン106(花王(株)製 ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB10.5)6gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相522gに、油相78gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行い乳化物を得た。平均乳化油滴径は約2.03μmであった。又、本乳化物をラボ用ホモミキサー(特殊機化製)を用い、10000r/minにて、10分間処理して、更に微小油滴含有乳化物を得た。平均乳化油滴径は約0.28μmであった。
【0052】
参考例2
水358.11gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)161.64g及びOSソープ(花王(株)製 オレイン酸カリ石けん、有効成分16%)2.25gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gにエマルゲン106(花王(株)製 ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB10.5)6gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相522gに、油相78gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行い乳化物を得た。平均乳化油滴径は約1.83μmであった。又、本乳化物をラボ用ホモミキサー(特殊機化製)を用い、10000r/minにて、10分間処理して、更に微小油滴含有乳化物を得た。平均乳化油滴径は約0.31μmであった。
【0053】
参考例3
水359.85gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)161.64g及びエレクトロストリッパーF(花王(株)製 アルキルリン酸カリウム塩、有効成分70%)0.51gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gにエマルゲン106(花王(株)製 ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB10.5)6gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相522gに、油相78gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行い乳化物を得た。平均乳化油滴径は約2.13μmであった。又、本乳化物をラボ用ホモミキサー(特殊機化製)を用い、10000r/minにて、10分間処理して、更に微小油滴含有乳化物を得た。平均乳化油滴径は約0.32μmであった。
【0054】
参考例4
水359.03gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)155.64g及びエマール27C(花王(株)製 ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、有効成分27%)1.33gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてエキセパールODM(花王(株)製 ミリスチン酸オクチルドデシル)72gにレオドール430(花王(株)製 テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、HLB10.5)12gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相506gに、油相84gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行い乳化物を得た。平均乳化油滴径は約0.30μmであった。又、本乳化物をラボ用ホモミキサー(特殊機化製)を用い、10000r/minにて、10分間処理して、更に微小油滴含有乳化物を得た。平均乳化油滴径は約0.29μmであった。
【0055】
比較参考例1
水360gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)162gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gにエマルゲン106(花王(株)製 ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB10.5)6gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相52 2gに、油相78gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行ったところ、攪拌をとめた瞬間から油相と水相の分離が始まり、安定な乳化物が得られなかった。
【0056】
比較参考例2
水360gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)167.64g及びエマール10パウダー(花王(株)製 ラウリル硫酸ナトリウム)0.36gを投入して分散/溶解して水相を調製した。得られた水相528gに、親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行ったところ、オイルオフを生じて安定な乳化物が得られなかった。
【0057】
比較参考例3
水360gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)161.64g及びエマール10パウダー(花王(株)製 ラウリル硫酸ナトリウム)0.36gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gにリョートーポリグリエステルHS11(三菱化学フーズ(株)製 ポリグリセリンステアリン酸エステル、HLB11)6gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相522gに、油相78gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行い乳化物を得た。平均乳化油滴径は約23.44μmであった。又、本乳化物をラボ用ホモミキサー(特殊機化製)を用い、10000r/minにて、10分間処理して、更に微小油滴含有乳化物を得た。平均乳化油滴径は約0.91μmであった。
【0058】
比較参考例4
水360gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)161.64g及びエマール10パウダー(花王(株)製 ラウリル硫酸ナトリウム)0.36gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gにレオドールSP−O10(花王(株)製 ソルビタンモノオレエート、HLB4.3)6gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相522gに、油相78gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行い乳化物を得た。平均乳化油滴径は約5.55μmであった。又、本乳化物をラボ用ホモミキサー(特殊機化製)を用い、10000r/minにて、10分間処理して、更に微小油滴含有乳化物を得た。平均乳化油滴径は約1.09μmであった。
【0059】
比較参考例5
水360gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)161.64g及びエマール10パウダー(花王(株)製 ラウリル硫酸ナトリウム)0.36g及びリョートーシュガーエステルS−570(三菱化学フーズ(株)製 ショ糖ステアリン酸エステル、HLB5)6gを投入して分散/溶解して水相を調製した。得られた水相528gに、親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行い乳化物を得た。平均乳化油滴径は約16.54μmであった。又、本乳化物をラボ用ホモミキサー(特殊機化製)を用い、10000r/minにて、10分間処理して、更に微小油滴含有乳化物を得た。平均乳化油滴径は約1.14μmであった。
【0060】
比較参考例6
水359.03gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)161.64g及びコータミン24P(花王(株)製 ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、有効成分27%)1.33gを投入して分散/溶解して水相を調製した。 親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gにエマルゲン106(花王(株)製 ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB10.5)6gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相522gに、油相78gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行ったところ、攪拌をとめた瞬間から油相と水相の分離が始まり、安定な乳化物が得られなかった。
【0061】
比較参考例7
水358.98gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)161.64g及びアンヒトール24B(花王(株)製 ラウリルベタイン、有効成分26%)1.38gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gにエマルゲン106(花王(株)製 ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB10.5)6gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相522gに、油相78gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行ったところ、攪拌をとめた瞬間から油相と水相の分離が始まり、安定な乳化物が得られなかった。
【0062】
比較参考例8
水360gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)156g及びリョートーポリグリエステルO−15D(三菱化学フーズ(株)製 デカグリセリンオレイン酸エステル、HLB15)6gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)72gにエマルゲン106(花王(株)製 ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB10.5)6gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相522gに、油相78gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行ったところ、攪拌をとめた瞬間から油相と水相の分離が始まり、安定な乳化物が得られなかった。
【0063】
比較参考例9
水360gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)156gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてエキセパールODM(花王(株)製 ミリスチン酸オクチルドデシル)72gにレオドール430(花王(株)製 テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、HLB10.5)12gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相516gに、油相84gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて1400r/minにて、10分間攪拌操作を行ったところ、攪拌をとめた瞬間から油相と水相の分離が始まり、安定な乳化物が得られなかった。
【0064】
参考例1〜4及び比較参考例1〜9の結果をまとめて表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果から、参考例1〜4で得られた乳化物は親油性成分を容易に微小油滴にでき ることが判った。
【0067】
実施例1
水3000gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)1347g及びエマール10パウダー(花王(株)製 ラウリル硫酸ナトリウム)3gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてリモネン(かんきつ系の香料)600gにエマルゲン106(花王(株)製 ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB10.5)50gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相4350gに、油相650gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて3500r/minにて、60分間攪拌操作を行い乳化物を得た。平均乳化油滴径は約0.55μmであった。
【0068】
上記の乳化操作で得られた乳化物を、噴霧乾燥機(坂本技研(株)製 スプレードライヤー)を用い、乳化物供給量6700g/hr、送風温度120℃、排風温度68℃の条件で噴霧乾燥し、リモネン含有粉末を得た。粉末中のリモネンの残存率は89%であった。又、沈降時間は9秒であった。
【0069】
実施例2
水2992gにH−PDX(松谷化学工業(株)製 還元水あめ)1322g及びエマール27C(花王(株)製 ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、有効成分27%)11gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてo−t−BCHA(ヒノキ様香料)600gにレオドール430(花王(株)製 テトラオレイン酸ポリオキエチレンソルビット、HLB10.5)75gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相4325gに、油相675gを添加し、ディスパー攪拌翼を用いて3500r/minにて、60分間攪拌操作を行い乳化物を得た。平均乳化油滴径は約0.85μmであった。
【0070】
上記の乳化操作で得られた乳化物を、噴霧乾燥機(坂本技研(株)製 スプレードライヤー)を用い、乳化物供給量6700g/hr、送風温度120℃、排風温度68℃の条件で噴霧乾燥し、o−t−BCHA含有粉末を得た。粉末中のo−t−BCHAの残存率は91%であった。又、沈降時間は7秒であった。
【0071】
比較例1
水3000gにパインデックス#2(松谷化学工業(株)製 マルトデキストリン)1340g及びF160(第一薬品工業(株)製 ショ糖ステアリン酸エステル、HLB15)60gを投入して分散/溶解して水相を調製した。得られた水相4350gに、親油性成分としてリモネン(かんきつ系香料)600gを添加し、ラボ用ホモミキサーを用いて10000r/minにて、60分間処理を行い(油滴径約1.1μm)、その後、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)にて40MPa×1Passして乳化物を得た。平均乳化油滴径は約0.61μmであった。
【0072】
上記の乳化操作で得られた乳化物を、噴霧乾燥機(坂本技研(株)製 スプレードライヤー)を用い、乳化物供給量6700g/hr、送風温度120℃、排風温度69℃の条件で噴霧乾燥し、リモネン含有粉末を得た。粉末中のリモネンの残存率は89%であった。又、沈降時間は28秒であった。
【0073】
比較例2
水3000gにH−PDX(松谷化学工業(株)製 還元水あめ)950g及びエマルスター#30A(松谷化学工業(株)製 オクテニルコハク酸澱粉)450gを投入して分散/溶解して水相を調製した。得られた水相4400gに、親油性成分としてo−t−BCHA600gを添加し、ラボ用ホモミキサーを用いて10000r/minにて、6 0分間処理を行い、その後、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)にて100MPa×2Passして乳化物を得た。平均乳化油滴径は約0.88μmであった。
【0074】
上記の乳化操作で得られた乳化物を、噴霧乾燥機(坂本技研(株)製 スプレードライヤー)を用い、乳化物供給量6700g/hr、送風温度120℃、排風温度68℃の条件で噴霧乾燥し、o−t−BCHA含有粉末を得た。粉末中のo−t−BCHAの残存率は91%であった。又、沈降時間は127秒であった。
【0075】
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた粉末の組成、平均粒径、親油性成分の残存率及び沈降時間をまとめて表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2の結果から、実施例1及び2で得られた乳化物は親油性成分を容易に微小油滴にでき、乳化物を噴霧乾燥法により粉末化する際に、香料の製造時の揮散を抑制できることが判った。また、実施例1及び2で得られた粉末は溶解性に優れることも判った。
【0078】
実施例3
イオン交換水2250gに水酸化ナトリウム(キシダ化学(株)製純度96%)4.51gを投入し、70℃以上にした後、ルナックS−98(花王(株)製 ステアリン酸)30.94gを投入し、中和した。その後、65℃まで冷却し、H−PDX(松谷化学工業(株)製 還元水あめ)1894gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてエキセパールODM(花王(株)製 ミリスチン酸オクチルドデシル)145gとエキセパールIPP(花王(株)製 パルミチン酸イソプロピル)437gにエマルゲン306P(花王(株)製 ポリオキシエチレンステアリルエーテル、HLB9.7)68gとニッコールGO−440(ニッコーケミカル(株)製 テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット HLB12.5)175gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相に、油相を添加し、ディスパー攪拌翼を用いて3000r/minにて、30分間攪拌操作を行い乳化物を得た(50℃)。得られた乳化物は非常に透明で、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920では乳化油滴径は検出下限値を下回ったので、検出できなかった。600nmのUV吸光度は0.0149ABSであった。
【0079】
上記の乳化操作で得られた乳化物を、噴霧乾燥機(坂本技研(株)製 スプレードライヤー)を用い、乳化物供給量7000g/hr、送風温度120℃、排風温度75℃の条件で噴霧乾燥し、エステル油含有粉末を得た。又、沈降時間は6秒であった。
【0080】
上記の乳化操作で得られたエステル油含有粉末について、前項で記した<打錠試験>及び<浴槽溶解試験>を行った。加圧後に杵にわずかの染み出した親油性成分が観察された。又、溶解後の湯は、親油性成分が分散しているにもかかわらず非常に透明であった。
【0081】
実施例4
イオン交換水2250gに水酸化ナトリウム(キシダ化学(株)製純度96%)4.51gを投入し、70℃以上にした後、ルナックS−98(花王(株)製 ステアリン酸)30.94gを投入し、中和した。その後、65℃まで冷却し、H−PDX(松谷化学工業(株)製 還元水あめ)1884gを投入して分散/溶解して水相を調製した。親油性成分としてエキセパールODM(花王(株)製 ミリスチン酸オクチルドデシル)145gとエキセパールIPP(花王(株)製 パルミチン酸イソプロピル)437gにルナックSO−90L(花王(株)製 オレイン酸)10.3gとエマルゲン306P(花王(株)製 ポリオキシエチレンステアリルエーテル、HLB9.7)68gとニッコールGO−440(ニッコーケミカル(株)製 テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット HLB12.5)175gを仕込み、分散/溶解して油相を調製した。得られた水相に、油相を添加し、ディスパー攪拌翼を用いて3000r/minにて、30分間攪拌操作を行い乳化物を得た(50℃)。得られた乳化物は非常に透明で、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920では乳化油滴径は検出下限値を下回ったので、検出できなかった。600nmのUV吸光度は0.0133ABSであった。
【0082】
上記の乳化操作で得られた乳化物を、噴霧乾燥機(坂本技研(株)製 スプレードライヤー)を用い、乳化物供給量7000g/hr、送風温度120℃、排風温度75℃の条件で噴霧乾燥し、エステル油含有粉末を得た。又、沈降時間は7秒であった。
【0083】
上記の乳化操作で得られたエステル油含有粉末について、前項で記した<打錠試験>及び<浴槽溶解試験>を行った。加圧後の親油性成分の染み出しは全く観察されなかった。又、溶解後の湯は、親油性成分が分散しているにもかかわらず非常に透明であった。
【0084】
比較例3
イオン交換水2250gにH-PDX(松谷化学工業(株)製 還元水あめ)1842.5g及びリョートーシュガーエステルS-1170(三菱化学フーズ(株)製 ショ糖ステアリン酸エステル、HLB11)82.5gを投入して60℃以上に加熱後、60℃まで冷却して水相を調製した。得られた水相に、親油性成分としてエキセパールODM(花王(株)製 ミリスチン酸オクチルドデシル)206gとエキセパールIPP(花王(株)製 パルミチン酸イソプロピル)619gを混合して油相を調製した。得られた水相に、油相を添加し、ラボ用ホモミキサーを用いて12500r/minにて、30分間処理を行い、その後、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)にて100MPa×2Passして乳化物を得た(60℃)。平均乳化油滴径は約0.14μmであった。
【0085】
上記の乳化操作で得られた乳化物を、噴霧乾燥機(坂本技研(株)製 スプレードライヤー)を用い、乳化物供給量6700g/hr、送風温度120℃、排風温度68℃の条件で噴霧乾燥し、エステル油含有粉末を得た。又、沈降時間は9秒であった。
【0086】
上記の乳化操作で得られたエステル油含有粉末について、前項で記した<打錠試験>及び<浴槽溶解試験>を行った。加圧後の親油性成分の染み出しは全く観察されなかった。又、溶解後の湯は、泡立ちが多く濁りが生じた。また、経時的に油浮きが認められた。
【0087】
比較例4
親油性成分としてエキセパールODM(花王(株)製 ミリスチン酸オクチルドデシル)10.6g、エキセパールIPP(花王(株)製 パルミチン酸イソプロピル)31.8g、エマルゲン306P(花王(株)製 ポリオキシエチレンステアリルエーテル、HLB9.7)4.9gとニッコールGO−440(ニッコーケミカル(株)製 テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット HLB12.5)12.7gを混合して油相を調製した。得られた油相を吸油担体であるデキストリン(日澱化学製)140gに含浸/混合しエステル油含有粉末を得た。又、沈降時間は13秒であった。
【0088】
上記の乳化操作で得られたエステル油含有粉末について、前項で記した<打錠試験>及び<浴槽溶解試験>を行った。加圧後の親油性成分の染み出しが非常に多く観察された。又、溶解後の湯は、親油性成分が分散しているにもかかわらず非常に透明であった。
【0089】
実施例3〜4及び比較例3〜4で得られた粉末の組成、平均粒径、沈降時間、打錠試験及び浴槽溶解試験の結果をまとめて表3に示す。
【0090】
【表3】

【0091】
表3の結果から、実施例3で得られた乳化物は親油性成分を容易に微小油滴にでき、乳化物を噴霧乾燥法により粉末化したものは耐打錠性に優れ、その溶解挙動はあわ立ちもなく非常に透明で湯浴の外観が非常に優れることが判った。更に、実施例4で得られた乳化物は親油性成分を容易に微小油滴にでき、乳化物を噴霧乾燥法により粉末化したものは耐打錠性に非常に優れ、その溶解挙動はあわ立ちもなく非常に透明であった。
【0092】
実施例3及び4に示したように、ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤を含有する場合、その製剤化物が溶解する際に、自己乳化により親油性成分を微細に分散させることができ、透明な外観を呈することが可能であり、油性薬効成分や農薬活性成分の効能を高めることも可能となる。又、噴霧乾燥法により粉末化したものは圧密に対しても親油性成分の染み出しが無く、加工性に優れた粉末である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)親油性成分、(B)陰イオン界面活性剤、(C)ポリオキシアルキレン(アルキレン基の炭素数2〜3)系非イオン界面活性剤、(D)賦形剤及び水を含有するO/W型乳化物を乾燥させて得られる親油性成分含有粉末。
【請求項2】
更に、(E)乳化補助剤を含有する請求項1記載の親油性成分含有粉末。
【請求項3】
粉末中の(A)成分の含有量が1〜80重量%、(B)成分の含有量が0.01〜5重量%、(C)成分の含有量が0.5〜40重量%、(E)成分の含有量が0〜5重量%である請求項1又は2記載の親油性成分含有粉末。
【請求項4】
(A)成分が、香料、農薬活性剤、化粧用油性成分及びシリコーン油から選ばれる少なくとも1種、(D)成分が、デキストリン、糖アルコール及び無機塩から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3いずれかに記載の親油性成分含有粉末。
【請求項5】
(E)成分が、炭素数8〜24のアルキル基又はアルケニル基を有するアルコール及び脂肪酸から選ばれる少なくとも1種である請求項2〜4いずれかに記載の親油性成分含有粉末。
【請求項6】
(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び水を含有するO/W型乳化物を調製する工程、及び該乳化物を乾燥させて親油性成分含有粉末を得る工程を含む、請求項1〜5いずれかに記載の親油性成分含有粉末の製造方法。

【公開番号】特開2006−77001(P2006−77001A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230355(P2005−230355)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】