説明

計算機装置

【課題】GPS方位計において、整数値バイアスを少ない計算負荷により短時間で導出する。
【解決手段】GPSアンテナ9および10のアンテナ間距離を、GPS衛星11からの測位信号の搬送波の1/2波長以下とするとともに、GPS信号受信部7および8が用いる基準クロックを共通にすることによって、方位計算部12は、GPS信号受信部7および8から得られる信号を用いて、搬送波位相観測値の一重差方程式に含まれる整数値バイアスを簡単な代数計算だけで解ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS(Global Positioning Service)などのGNSS(Global Navigation Satellite System)を用いて自動車などの移動体の方位角を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、GPS衛星から送信される電波を複数のGPSアンテナで受信して、搬送波位相観測値を用いてアンテナ間相対位置を高精度に求める搬送波位相相対測位(Carrier Phase Differencial GPS)が測量などに用いられている。
リアルタイムにこのような計算を行う手法はRTK(Real Time Kinematic)などと呼ばれる。
このような計算手法を自動車や船舶などの移動体に応用すれば、移動体に設置したGPSアンテナ間のベクトル(基線ベクトル)が計算され、移動体の方位を求めることが可能である。
【0003】
このような搬送波位相相対測位を行う上で重要な技術となるのが、搬送波位相の整数値バイアス(波数不確定性:整数アンビギュイティ)の決定手法である。
GPS受信機はGPS衛星から送信される信号の搬送波位相は測定できるが、GPSアンテナとGPS衛星間の距離は事前に分からないため、両者の間に入る搬送波の波数は不明である。この波数を整数値バイアスと呼んでいる。
この整数値バイアスはそのままでは求められないため、通常は、ある衛星からの測位信号を複数のGPSアンテナおよび受信機で受信した際に得られる搬送波位相の位相差(一重差)を計算し、さらに二つのGPS衛星に対する一重差の差分(二重差)を求めて、その二重差の式に現れる整数値バイアスの二重差を1つの整数として求めることでGPSアンテナ間の方位を決定する。
整数値バイアスの決定手法にはいくつかあるが、基本的には、可能性のある値を候補として選び、種々の検定方法によって最も確からしい解を選ぶものである。
【0004】
これらの技術においては、GPSアンテナ間の距離、すなわち基線長が方位角精度を決定する重要な要素となる。
特許文献1においてもこの点について触れており、GPSアンテナ間距離はできるだけ長くとるのが普通である。
【0005】
なお、GPS受信機から得られる位置や速度の情報を元に移動体の方位角を計算する手法もあるが、そのような方法では移動体が静止している間は方位角を計算することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−267737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
GPS搬送波位相相対測位を用いて方位角を計算する装置において、GPSアンテナ間距離すなわち基線長を長くすると装置が大型化し、それを設置できる移動体が限定されてしまうという課題がある。
また、短時間に整数値バイアスを決定するには2周波GPS受信機を使う必要があり、装置が高価になりがちである。
さらに、2周波GPS受信機を用いても整数値バイアスの決定には良好な観測状態が継続することが必要であり、瞬時に整数値バイアスが決定できることはほとんどない。
搬送波位相観測値のサイクルスリップや観測衛星数の減少によって整数値バイアスを再度決める必要が生じると、その再決定にも時間がかかる。
【0008】
このような課題があるため、GPSによる方位角計測装置が一般消費者向けの製品となることは難しく、一般消費者向けの製品化には装置の小型化、低価格化と、方位角を得るまでの所要時間を短縮するなどの改善が必要である。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決することを主な目的の一つとし、整数値バイアスを短時間に求めることが可能な装置を実現することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る計算機装置は、
測位衛星からの測位信号搬送波を捕捉する第1のアンテナと第2のアンテナと、
前記第1のアンテナに接続され、前記第1のアンテナで捕捉された測位信号搬送波の受信処理を行う第1の信号受信部と、
前記第2のアンテナに接続され、前記第2のアンテナで捕捉された測位信号搬送波の受信処理を行う第2の信号受信部とを有し、
前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとの間の距離が、測位信号搬送波の波長の1/2以下であり、
前記第1の信号受信部と前記第2の信号受信部が、共通の基準クロックを用いていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1のアンテナと第2のアンテナとの間の距離を測位信号搬送波の波長の1/2以下とし、第1の信号受信部と第2の信号受信部が共通の基準クロックを用いることで少ない計算負荷により短時間で整数値バイアスを求めることができ、このため、装置の小型化を図ることができ、また、整数値バイアスを利用する計算の所要時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態1に係るGPS方位計の構成例を示す図。
【図2】実施の形態1に係るGPSデータ処理部の処理を示すフローチャート図。
【図3】実施の形態2に係る車両方位角と速度ベクトルとの関係を示す図。
【図4】実施の形態2に係るGPSデータ処理部の処理を示すフローチャート図。
【図5】実施の形態1及び2に係るGPS方位計のハードウェア構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
前述したように、複数のGPSアンテナとGPS受信機を用いて、搬送波位相相対測位によりGPSアンテナ間ベクトル(基線ベクトル)を求めることで、それを搭載している移動体などの方位を得ることができる。
そのような装置はGPS方位計などと呼ばれ、2周波GPS受信機の使用、長基線化(アンテナ間距離を広げる)、慣性装置との複合処理、などによって高精度化が図られてきた。
その結果、大型化、高価格化する傾向にあり、一般消費者向けの製品にはなりにくいものであった。また、ソフトウェアの処理も、搬送波の二重差観測値の整数値バイアス(アンビギュイティ)を解く計算が必要であるなど、計算負荷が大きいという特徴があった。
従来このような装置の場合、長基線化によって方位角計算精度の向上を図るが、本実施の形態ではアンテナ間距離を測定する搬送波の1/2波長(またはそれ以下)にする。また、複数のGPS信号受信部の基準クロックを共通にすることによって、それらから得られる搬送波位相観測値の一重差方程式に含まれる整数値バイアスを簡単な代数計算だけで解けるという利点が生まれる。
短基線長ゆえ、得られる方位角精度は5〜10度程度となるが、計算負荷をかなり低減させることができるうえ、装置の小型化、低価格化が可能となる。
以下、本実施の形態に係るGPS方位計を図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係るGPS方位計100(計算機装置)の構成例を示す。
GPS搬送波位相相対測位計算にはGPSアンテナおよび、GPS受信機が複数必要である。
本実施の形態では、図1のように、GPSアンテナ9とGPSアンテナ10の二つのGPSアンテナを備え、それをGPS受信機1に入力する。
GPS受信機1には2つのGPS信号受信部7および8があり、それぞれGPS RF部2および3と、GPSベースバンド部5および6を備える。
GPS RF部2および3は、共通の基準クロック4を使ってRF信号の受信およびデジタル信号化を行うことで、GPSクロック誤差が共通の値をとる。
GPSベースバンド部5および6では、それぞれ測位用コード信号の捕捉処理や搬送波レプリカの作成およびそのカウントを行い、擬似距離や擬似距離変化率、搬送波位相観測値などを生成する。
GPSデータ処理部14には、位置および速度を計算する位置・速度計算部13と、方位計算部12を備える。
GPSデータ処理部14には、GPSベースバンド部5および6から擬似距離、擬似距離変化率、搬送波位相観測値とGPS時刻とGPS衛星軌道パラメータ(Ephemeris)が渡され、GPS方位計100が設置された移動体の方位角が計算される。
GPSアンテナ9および10は第1のアンテナおよび第2のアンテナの例であり、GPS信号受信部7および8は第1の信号受信部および第2の信号受信部の例である。
また、方位計算部12は、GPS衛星11(測位衛星)からの測位信号搬送波の整数値バイアスを導出し、導出した整数値バイアスを用いて移動体の方位角を計算しており、整数値バイアス導出部の例である。
また、位置・速度計算部13は、移動体の速度ベクトルを導出しており、速度ベクトル導出部の例である。位置・速度計算部13の詳細は、実施の形態2で説明する。
【0015】
図1では、GPS衛星11(PRN番号がK)からの信号を受信している様子を示しており、1(k)はGPSアンテナ9および10から見たGPS衛星11の方向への単位ベクトルを表し、GPSアンテナ10からGPSアンテナ9へのベクトルをxurで示し、このベクトルxurの長さをRとする。
【0016】
本実施の形態では、GPS信号受信部7および8が共通基準クロック4を用い、また、GPSアンテナ9とGPSアンテナ10との間の距離Rを測位信号の搬送波(L1搬送波)の波長の1/2以下としている。
そして、このようにGPS信号受信部7および8が共通基準クロック4を用い、距離Rを測位信号の搬送波(L1波)の波長の1/2以下とすることにより、方位計算部12は、GPSベースバンド部5および6から入力した2つの搬送波位相観測値の差における整数部分を測位信号搬送波の一重差の整数値バイアスとすることができる。
【0017】
以下にて、GPS信号受信部7および8が共通基準クロック4を用い、距離Rを測位信号の搬送波(L1波)の波長の1/2以下とすることで、方位計算部12が複雑な計算を行わずに一重差の整数値バイアスを取得することができる原理を説明する。
【0018】
まず、GPSベースバンド部5および6から出力される搬送波位相の観測方程式は次のように表せる。
【0019】
【数1】

【0020】
ただし、式(1)において、φは搬送波位相測定値[cycle]、λはGPS衛星のL1搬送波の波長[m]、Iは電離層伝搬遅延[m]、Tは対流圏伝搬遅延[m]、δtrはGPS受信機クロック誤差[s]、δt(k)はGPS衛星クロック誤差[s]、Nは整数値バイアス、εφは測定値誤差[cycle]である。
また、上添え字kはk番目の衛星に対する観測値であることを示し、下添え字rは受信機rに関する値であることを示す。
【0021】
また、衛星kに対する受信機rとuの搬送波位相観測値の一重差方程式は、2つのGPS受信機クロックが共通であることからδ=δとなり、次式のように表される。
なお、次式において、φur(k)は、GPSアンテナ9から出力された衛星kについての搬送波位相測定値(φ(k))とGPSアンテナ10から出力された衛星kについての搬送波位相測定値(φ(k))との一重差である。
また、rur(k)は、衛星kとGPSアンテナ9との距離(r(k))と衛星kとGPSアンテナ10との距離(r(k))との差である。
【0022】
【数2】

【0023】
ここで、衛星kとGPSアンテナ9との距離(r(k))と衛星kとGPSアンテナ10との距離(r(k))との差rur(k)は、受信機rから衛星k方向を見る方向で大きさが1の衛星方向視線ベクトル1(k)とベクトルxurを用いて、次のように表せる。
【0024】
【数3】

【0025】
そして、数式(2)のrur(k)に数式(3)を代入し、複数の衛星に対する一重差方程式を行列形式でまとめると次のようになる。
【0026】
【数4】

【0027】
そして、アンテナ間距離をR=λ/2として、誤差ベクトルεφ,urを無視して数式(4)を書き換えると次のようになる。
【0028】
【数5】

【0029】
数式(5)の右辺はxur/Rが大きさ1のベクトルなので右辺の各行は大きさ1のベクトルどうしの内積となり、大きさは必ず1以下となる。
したがって、数式(5)の左辺の括弧内の各要素の絶対値は必ず0.5以下となる。
よって、Nが整数値であることを考えると、数式(5)の整数値バイアス部分は一意に決めることができる。
たとえば、φur(1)=100.1であれば、Nur(1)=100であることが決まる。
Nが決定されると、数式(5)は未知数がベクトルxurの変数3つだけであるから、観測方程式は最低3つあればよいことになる。
ただし、GPSアンテナからGPS衛星方向への視線方向ベクトル1(k)を求める際には、観測方程式が4つ必要になることもある。
視線方向ベクトル計算に用いる計算手法は、公知の手法を用いればよい。また、観測方程式が4個以上ある場合には数式(5)による最小二乗計算を行うが、観測値数の冗長性を利用した各種誤り検出手法を用いて異常な観測値を検出する方法を合わせて用いても良い。
なお、数式(5)のベクトル1(k)は、位置・速度計算部13がGPS測位信号から算出する。
【0030】
以上のように、GPS信号受信部の基準クロックを共通にすることと、アンテナ間距離をR=λ/2とすることにより、方位計算部12は、GPSベースバンド部5および6から入力した2つの搬送波位相観測値の差φurの最近傍整数を求めるだけで、搬送波位相観測値の一重差方程式に含まれる整数値バイアスを非常に簡単に決定できる。
そして、その結果複雑な計算を行うことなく数式(5)によりアンテナ間基線ベクトルxurが決定され方位角が求められる。
【0031】
ただし、実際にはこれだけではうまく行かないケースが存在する。
たとえば、φur(1)=100.501のときφur(1)=101となるが、数式(4)に含まれていた観測誤差εφ,urを考慮すれば正しくはφur(1)=100.488でありφur(1)=100とすべきであった可能性もある。
このように、正しくない整数値バイアスに決定してしまうことがありえるため、それを防ぐ手段を考える必要がある。
【0032】
このため、標準正規分布の累積分布関数を以下のように表す。
【0033】
【数6】

【0034】
搬送波位相観測値の誤差分布が標準分布に従うとして、その一重差の誤差標準偏差をσcp[cycle]とすると、正しくない整数値バイアスに決定してしまう確率は次のように計算される。
【0035】
【数7】

【0036】
例えば、σcp=0.02/λの場合、P≒0.084である。
そこで、観測誤差の大きさと、搬送波位相観測値の一重差φurの関係によって、観測値の一部を棄却してしまう方法を考える。
aをある定数として、方位計算部12は、以下の条件を満たすφurを棄却するものとする。
【0037】
【数8】

【0038】
上記の式(8)において、|mod(φur,1)|はφurの少数部分の絶対値である。このとき、整数値バイアスが誤って決定されてしまう確率は次のように計算される。
【0039】
【数9】

【0040】
例としてa=1.0,σcp=0.02/λの場合を計算すると、P≒0.001785となり、99.8%以上の確率で正しく整数値バイアスが決定できることになる。
【0041】
以上の議論は、1エポックの観測値のみを使って方位角を決定する場合に関するものである。
整数値バイアスの誤決定による方位角計算値の誤りを防ぐため、連続した幾つかのエポックの観測値を使ってもよい。
一定の時間に渡って整数値バイアスを決定する計算を継続して行い、その間に決定される整数値バイアスが変化しないことを確認すれば、整数値バイアスの決定が正しく行われている可能性が高いといえる。
その観測値を方位角計算に利用するようにすれば、方位角計算を誤る可能性は極めて低くなる。
【0042】
以上の説明をもとに、本実施の形態に係るGPSデータ処理部14の動作を説明する。
図2は、本実施の形態に係るGPSデータ処理部14の動作の概要を示すフローチャートである。
【0043】
まず、方位計算部12が、ベースバンド部5および6から、搬送波位相測定値φ(k)およびφ(k)を入力し(S201)、これらの差をとりφur(k)を導出する(S202)。
次に、方位計算部12は、S202で導出したφur(k)が、上記の数式(8)に該当するか否かを判断し(S203)、数式(8)に該当する場合は、このφur(k)を破棄する。
数式(8)に該当しない場合は、このφur(k)の最近傍整数を、測位信号搬送波の一重差の整数値バイアスとし、また、同様の処理を他の測位衛星に対しても行って、上記の数式(5)を用いて、移動体の方位角(ベクトルxur)を決定する(S207)。
また、方位計算部12の処理と並行して、位置・速度計算部13が、GPS衛星からの測位信号に基づき、GPS衛星に対する移動体の位置を計算し(S205)、また、衛星方向視線ベクトル1(k)を算出し(S206)、方位角決定処理(S207)において、衛星方向視線ベクトル1(k)が利用される。
【0044】
このように、本実施の形態によれば、GPS信号受信部の基準クロックを共通にし、アンテナ間距離をR=λ/2とすることにより、方位計算部は、2つのGPSベースバンド部から入力した2つの搬送波位相観測値の差φurにおける最近傍整数を計算するだけで、搬送波位相観測値の一重差方程式に含まれる整数値バイアスを非常に簡単に決定できる。
そして、その結果複雑な計算を行うことなくによりアンテナ間基線ベクトルが決定され方位角が求められる。
【0045】
なお、これまででは、アンテナ間距離R=λ/2として説明した。
アンテナ間距離が長いほど方位角が高精度に得られるが、設計上の理由等によりR=λ/2以下のアンテナ間距離としてもよい。
【0046】
以上、本実施の形態では、
移動体等に距離Rを隔てて設置された2つのGPSアンテナと、
その2つのGPSアンテナに接続される2つのGPS信号受信部と、
2つのGPS信号受信部から出力される搬送波位相観測値(Carrier Phase Measurement)をもとに、距離RのGPSアンテナ位相中心間を結ぶベクトルの向きを算出する方位計算部とを備え、
2つのGPS信号受信部が共通の基準クロックを用い、
距離Rが受信対象測位信号搬送波波長の2分の1以下であり、
搬送波の受信機間一重差方程式の整数値バイアス部(アンビギュイティ)を瞬時に簡単な計算で求めることができ、方位角を簡単な計算で瞬時に得られるGPS方位角計算装置を説明した。
【0047】
また、本実施の形態では、数式8を使って整数値バイアスの誤決定の可能性がある観測値を棄却するGPS方位角計算装置を説明した。
【0048】
実施の形態2.
【0049】
実施の形態1では、観測値の一部を棄却するアルゴリズムを用いたが、数式(8)の変数aを大きくすると、棄却される観測値が多くなり方位角計算に使える観測値の数が少なくなってしまう。
観測値が3つ以上あれば方位角は計算できるが、都市部などの観測可能な衛星数が少ない環境では、変数aをできるだけ小さくしたい。
また、変数aを小さくすると整数値バイアスの決定を誤る確率が上昇することを考えれば変数aをできるだけ大きくしたい。
このような相反する要求がある中で、GPS受信機1の搬送波位相観測ノイズσcpの大きさを参考に適当なaの値を決定することになるが、整数値バイアスの誤決定を完全には防ぎきれない場合もある。
そこで、位置・速度計算部13から得た速度データを使い、整数値バイアスの誤決定を判定する方法を考える。
【0050】
図3は、GPS方位計100に接続する2つのGPSアンテナを車両の前後方向に配置した例である。
このとき、GPSの測位計算によって得られる速度のベクトルvgpsは、速度が一定以上の大きさであれば、車両の方位角ベクトルxurと向きが良く一致する。
そこで、以下の数式(10)から車両の方位角ベクトルxurを求め、数式(10)から求めた方位角ベクトルxurを数式(5)に代入し、観測値から得た搬送波位相の一重差から、整数値バイアスNを実数値として計算する。
このNと実施の形態1で計算していたNを比較することで、整数値バイアス計算の誤まりの可能性を検出できる。
そこで、たとえば両者のNの差が0.1以上の場合に求めたNは誤りであるとしてその観測値を除外するなどの措置が取れる。
【0051】
【数10】

【0052】
ここで判定の閾値を0.1としたが、これは使用するハードウェアの性能なども考慮して適当に決めればよい。
誤りを除外したあとの整数値バイアスは、移動体が静止しても搬送波位相観測値のサイクルスリップが起きないかぎりそのまま利用できる(毎回再計算する必要がない)ため、GPS速度vgpsを整数値バイアスNの誤り検出に用いることは、静止時の方角計算精度向上にも寄与することになる。
【0053】
なお、vgpsが大きい時には数式(10)により方位角を得ても良いが、誤りを除外したあとの観測値とNを用いて再度、数式(5)からxurを計算し、車両の方位角を決定してもよい。
【0054】
車両が静止しているか非常に速度が遅い時には、vgpsの向きとxurの向きの一致がよくないため、vgpsの絶対値が一定値以下となったら実施の形態1で説明した棄却方法のみを用いるように切り替えればよい。以上の処理の流れを図4に示す。
【0055】
まず、位置・速度計算部13が、GPS信号から、GPS速度計算(S401)とGPS位置計算(S409)を行い、方位計算部12は、位置・速度計算部13のGPS速度計算から得られた速度のベクトルvgpsが所定の閾値以下であるかを判断し(S402)、速度ベクトルvgpsが閾値以下であれば(S402でYES)、実施の形態1に示したS201〜S204の処理を行って整数値バイアスを決定し(S408)、位置・速度計算部13が算出した衛星方向視線ベクトル1(k)を用いて方位角を決定する(S407)。
一方、速度ベクトルvgpsが閾値を超える場合は(S402でNO)は、方位計算部12は、S201〜S204の処理を行って整数値バイアスを決定するとともに(S403)、数式(10)から車両の方位角ベクトルxurを求め(S404)、数式(10)から求めた方位角ベクトルxurを数式(5)に代入し、観測値から得た搬送波位相の一重差から、整数値バイアスNを実数値として計算する(S405)。
そして、方位計算部12は、S403で求めた整数値バイアスと、S405で実数として求めた整数値バイアスを比較し(S406)、両者がほぼ一致している場合は、S403で求めた整数値バイアスと、位置・速度計算部13が算出した衛星方向視線ベクトル1(k)を用いて方位角を決定する(S407)。
S403で求めた整数値バイアスとS405で求めた実数の整数値バイアスの差が大きい場合は、S403で求めた整数値バイアスとS405で求めた整数値バイアスの両者を棄却し、対応する衛星の一重差観測方程式を数式(5)から削除する。
【0056】
なお、GPS方位計100を他の航法装置または航法プログラムと組み合わせて利用する場合などは、そこから得られる方位角情報を観測値の棄却に利用する方法なども考えられる。
【0057】
また、vgpsによる整数値バイアスの検証処理を一定時間連続して行い、全ての観測値に対して誤りが検出されなかった場合のみ観測値を用いることにすれば方位角計算の精度を高めることができる。
【0058】
このように、本実施の形態によれば、移動体の速度ベクトルを用いるため、都市部などの観測可能な衛星数が少ない環境でも、短時間に整数値バイアスを求めることができる。
【0059】
以上、本実施の形態では、GPSの速度計算結果を使って整数値バイアスを求めることで、整数値バイアスの誤決定が起きないようにする手法と、数式8を使って整数値バイアスの誤決定の可能性がある観測値を棄却する手法を組み合わせて利用するGPS方位角計算装置を説明した。
【0060】
最後に、実施の形態1及び2に示したGPS方位計100のハードウェア構成例について説明する。
図5は、実施の形態1及び2に示すGPS方位計100のハードウェア資源の一例を示す図である。
なお、図5の構成は、あくまでもGPS方位計100のハードウェア構成の一例を示すものであり、GPS方位計100のハードウェア構成は図5に記載の構成に限らず、他の構成であってもよい。
【0061】
図5において、GPS方位計100は、プログラムを実行するCPU911(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサともいう)を備えている。
CPU911は、バス912を介して、例えば、ROM(Read Only Memory)913、RAM(Random Access Memory)914、通信ボード915、カーナビゲーション装置等の表示装置901、テンキー等のキーボード902、マウス903、磁気ディスク装置920と接続され、これらのハードウェアデバイスを制御する。
また、CPU911は、アナログ・デジタル変換器(ADコンバータ)908とRFフロントエンド回路907を介してGPSアンテナ906と接続される。
GPSアンテナ906からのRF信号はRFフロントエンド回路907で必要な処理が行われた後、アナログ・デジタル変換器908でデジタルデータに変換された後、CPU911で処理される。
更に、CPU911は、FDD904(Flexible Disk Drive)、コンパクトディスク装置905(CDD)と接続していてもよい。また、磁気ディスク装置920の代わりに、光ディスク装置、メモリカード(登録商標)読み書き装置などの記憶装置でもよい。
RAM914は、揮発性メモリの一例である。ROM913、FDD904、CDD905、磁気ディスク装置920の記憶媒体は、不揮発性メモリの一例である。これらは、記憶装置の一例である。
通信ボード915、キーボード902、マウス903、FDD904などは、入力装置の一例である。
また、通信ボード915、表示装置901などは、出力装置の一例である。
【0062】
通信ボード915は、無線ネットワークに接続可能である。例えば、通信ボード915は、無線通信網を介してインターネット、WAN(ワイドエリアネットワーク)、SAN(ストレージエリアネットワーク)などに接続することが可能である。
【0063】
磁気ディスク装置920には、オペレーティングシステム921(OS)、プログラム群923、ファイル群924が記憶されている。また、ウィンドウシステム922を搭載していてもよい。
プログラム群923のプログラムは、CPU911がオペレーティングシステム921、ウィンドウシステム922を利用しながら実行する。
【0064】
また、RAM914には、CPU911に実行させるオペレーティングシステム921のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。
また、RAM914には、CPU911による処理に必要な各種データが格納される。
【0065】
また、ROM913には、BIOS(Basic Input Output System)プログラムが格納され、磁気ディスク装置920にはブートプログラムが格納されている。
GPS方位計100の起動時には、ROM913のBIOSプログラム及び磁気ディスク装置920のブートプログラムが実行され、BIOSプログラム及びブートプログラムによりオペレーティングシステム921が起動される。
【0066】
上記プログラム群923には、実施の形態1及び2の説明において「〜部」として説明している機能を実行するプログラムが記憶されている。プログラムは、CPU911により読み出され実行される。
【0067】
ファイル群924には、実施の形態1及び2の説明において、「〜の判断」、「〜の計算」、「〜の算出」、「〜の比較」、「〜の更新」、「〜の設定」、「〜の登録」、「〜の選択」等として説明している処理の結果を示す情報やデータや信号値や変数値やパラメータが、「〜ファイル」や「〜データベース」の各項目として記憶されている。
「〜ファイル」や「〜データベース」は、ディスクやメモリなどの記録媒体に記憶される。ディスクやメモリなどの記憶媒体に記憶された情報やデータや信号値や変数値やパラメータは、読み書き回路を介してCPU911によりメインメモリやキャッシュメモリに読み出され、抽出・検索・参照・比較・演算・計算・処理・編集・出力・印刷・表示などのCPUの動作に用いられる。
抽出・検索・参照・比較・演算・計算・処理・編集・出力・印刷・表示のCPUの動作の間、情報やデータや信号値や変数値やパラメータは、メインメモリ、レジスタ、キャッシュメモリ、バッファメモリ等に一時的に記憶される。
また、実施の形態1及び2で説明しているフローチャートの矢印の部分は主としてデータや信号の入出力を示し、データや信号値は、RAM914のメモリ、FDD904のフレキシブルディスク、CDD905のコンパクトディスク、磁気ディスク装置920の磁気ディスク、その他光ディスク、ミニディスク、DVD等の記録媒体に記録される。また、データや信号は、バス912や信号線やケーブルその他の伝送媒体によりオンライン伝送される。
【0068】
また、実施の形態1及び2の説明において「〜部」として説明しているものは、「〜回路」、「〜装置」、「〜機器」であってもよく、また、「〜ステップ」、「〜手順」、「〜処理」であってもよい。すなわち、「〜部」として説明しているものは、ROM913に記憶されたファームウェアで実現されていても構わない。或いは、ソフトウェアのみ、或いは、素子・デバイス・基板・配線などのハードウェアのみ、或いは、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、さらには、ファームウェアとの組み合わせで実施されても構わない。ファームウェアとソフトウェアは、プログラムとして、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等の記録媒体に記憶される。プログラムはCPU911により読み出され、CPU911により実行される。すなわち、プログラムは、実施の形態1及び2の「〜部」としてコンピュータを機能させるものである。あるいは、実施の形態1及び2の「〜部」の手順や方法をコンピュータに実行させるものである。
【0069】
このように、実施の形態1及び2に示すGPS方位計100は、処理装置たるCPU、記憶装置たるメモリ、磁気ディスク等、入力装置たるキーボード、マウス、通信ボード等、出力装置たる表示装置、通信ボード等を備えるコンピュータであり、上記したように「〜部」として示された機能をこれら処理装置、記憶装置、入力装置、出力装置を用いて実現するものである。
【符号の説明】
【0070】
1 GPS受信機、2 GPS RF部、3 GPS RF部、4 共通基準クロック、5 GPSベースバンド部、6 GPSベースバンド部、7 GPS信号受信部、8 GPS信号受信部、9 GPSアンテナ、10 GPSアンテナ、11 GPS衛星K、12 方位計算部、13 位置・速度計算部、14 GPSデータ処理部、100 GPS方位計、200 車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位衛星からの測位信号搬送波を捕捉する第1のアンテナと第2のアンテナと、
前記第1のアンテナに接続され、前記第1のアンテナで捕捉された測位信号搬送波の受信処理を行う第1の信号受信部と、
前記第2のアンテナに接続され、前記第2のアンテナで捕捉された測位信号搬送波の受信処理を行う第2の信号受信部とを有し、
前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとの間の距離が、測位信号搬送波の波長の1/2以下であり、
前記第1の信号受信部と前記第2の信号受信部が、共通の基準クロックを用いていることを特徴とする計算機装置。
【請求項2】
前記第1の信号受信部と前記第2の信号受信部は、それぞれ、受信処理において測位信号搬送波の搬送波位相観測値を導出し、
前記計算機装置は、更に、
測位信号搬送波の一重差の整数値バイアスを、前記第1の信号受信部の搬送波位相観測値と前記第2の信号受信部の搬送波位相観測値との差における整数部分とする整数値バイアス導出部を有することを特徴とする請求項1に記載の計算機装置。
【請求項3】
φurが、前記第1の信号受信部の搬送波位相観測値と前記第2の信号受信部の搬送波位相観測値との差を意味し、
|mod(φur,1)|が、φurの小数部分の絶対値を意味し、
aが、所定の定数を意味し、
σcpが、搬送波位相観測値の誤差分布が標準分布に従う場合の測位信号搬送波の一重差の誤差標準偏差を意味し、
λが、測位信号搬送波の波長を意味する場合に、
前記整数値バイアス導出部は、
||mod(φur,1)|−0.5|<a・σcp/λ
に該当するφurを破棄することを特徴とする請求項2に記載の計算機装置。
【請求項4】
前記計算機装置は、移動体に搭載されており、
前記計算機装置は、更に、
前記第1の信号受信部で受信処理された測位信号と前記第2の信号受信部で受信処理された測位信号を用いて、前記移動体の速度ベクトルを導出する速度ベクトル導出部を有し、
前記整数値バイアス導出部は、
前記速度ベクトル導出部により導出された前記移動体の速度ベクトルを用いて、測位信号搬送波の一重差の整数値バイアスを算出し、
前記第1の信号受信部の搬送波位相観測値と前記第2の信号受信部の搬送波位相観測値との差における整数部分から得られた整数値バイアスと、前記移動体の速度ベクトルを用いて算出した整数値バイアスとを比較し、2つの整数値バイアスが所定の誤差範囲内で一致しない場合に、当該2つの整数値バイアスを破棄することを特徴とする請求項2又は3に記載の計算機装置。
【請求項5】
前記整数値バイアス導出部は、
前記速度ベクトル導出部により導出された前記移動体の速度ベクトルの大きさが所定の閾値以上の場合に、前記移動体の速度ベクトルを用いて、測位信号搬送波の一重差の整数値バイアスを算出し、
前記移動体の速度ベクトルの大きさが所定の閾値未満の場合に、測位信号搬送波の一重差の整数値バイアスを、前記第1の信号受信部の搬送波位相観測値と前記第2の信号受信部の搬送波位相観測値との差の最近傍整数とすることを特徴とする請求項4に記載の計算機装置。
【請求項6】
前記整数値バイアス導出部は、
測位信号搬送波の一重差の整数値バイアスを用いて、前記第1のアンテナと前記第2のアンテナを結ぶベクトルの向きを算出することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の計算機装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−197353(P2010−197353A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45902(P2009−45902)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】