説明

診断支援装置、診断支援プログラムおよび診断支援方法

【課題】心機能の診断を行う医師に、冠動脈の状態と心拍運動との関連性の把握に役立つ情報を提供する。
【解決手段】心機能の評価指標データを表す三次元機能画像から心腔領域を抽出し、心腔の機能を表す心機能ブルズアイ画像を生成する(13)。心臓および冠動脈の構造を表す三次元形態画像から、冠動脈像データを抽出するとともに、抽出された冠動脈像データを含む冠動脈閉曲面を算出する(15)。抽出された冠動脈像データから冠動脈像ブルズアイ画像を生成するとともに(16)、冠動脈閉曲面に基づいて、心腔領域の境界面から冠動脈閉曲面までの距離を算出する(17)。表示装置の画面に、心機能ブルズアイ画像、冠動脈像ブルズアイ画像および算出された距離の情報が同時に表れるように、表示出力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心機能の解析結果をブルズアイ画像として表示することにより、心疾患の診断を支援する装置およびコンピュータプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線科医による画像診断を支援する装置として、被検体の撮影により得られた三次元データに基づいて被検体を構成する臓器の状態や動きを解析し、解析結果を診断に適した形で画面に表示する装置が提供されている。心臓の心拍運動の解析機能としては、時系列な三次元データに基づいて心機能の評価指標(心筋の壁運動量、壁厚変化量等)を算出する機能が知られている。これらの評価指標は、心基部(心臓上部の血管と接続するところ)と心尖部(心臓下部の尖った部分)を通る軸に垂直な断面を複数設定し、断面ごとに算出される。算出された評価指標は、通常、心臓の形状に合わせて三次元的に表示される。一方、解析結果を2次元的に表す方法としては、各断面における評価指標を、半径が異なる同心円の円周上に配置したブルズアイ画像が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、上記ブルズアイ画像に、冠動脈像を重ね合わせて表示する機能も提案されている(例えば、特許文献2、3)。心拍運動の異常(心筋梗塞等)は、心筋に対し酸素や栄養分を供給する冠動脈の異常(閉塞等)によって引き起こされることが多いため、心機能の診断では、冠動脈の状態を合わせて診断することが望ましいからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−18005号公報
【特許文献2】特開2005−27999号公報
【特許文献3】特開2008−253753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冠動脈は、右冠動脈と左冠動脈からなるが、このうち右冠動脈は心臓の右側面から下方向へと走行する。左冠動脈は2本に分岐し、一方の動脈は心臓の前面を、もう一方の動脈は心臓の左側面から下方向へと走行する。心拍運動において最も重要な役割を担うのは全身に血液を送り出す左心室であるが、上記構造では、左心室周辺の心筋に供給される酸素や栄養分は、主として左冠動脈により運ばれる。よって、心拍運動と左冠動脈の両方に異常が認められた場合、両者の間には因果関係がある可能性が高い。反対に、心拍運動と右冠動脈の両方に異常が認められたとしても、両者の間には因果関係が無い可能性が高い。よって、心機能の診断では、心拍運動と冠動脈の両方に異常が認められたとしても、両者の間に因果関係があると直ちに結論づけることはできない。
【0006】
特許文献2や特許文献3が提案する表示画像は、心拍運動の評価指標と冠動脈の状態を同時に把握できるという点では優れているが、両者の関連性を判断するための情報が不足している。本発明は、この事情に鑑みて、心機能の診断を行う医師に、冠動脈の状態と心拍運動との関連性の把握に役立つ情報を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0007】
本発明の診断支援装置は、以下に説明する画像記憶手段、心機能ブルズアイ画像生成手段、冠動脈閉曲面算出手段、冠動脈像ブルズアイ画像生成手段、距離算出手段および表示制御手段を備える。また、本発明の診断支援プログラムは、コンピュータを、以下に説明する心機能ブルズアイ画像生成手段、冠動脈閉曲面算出手段、冠動脈像ブルズアイ画像生成手段、距離算出手段および表示制御手段として機能させるプログラムである。このプログラムは、CD−ROM,DVDなどの記録メディアに記録され、またはサーバコンピュータの内蔵ディスクやネットワークストレージにダウンロード可能な状態で記録されて、ユーザに提供される。
【0008】
なお、以下の説明において、機能画像(Functional Image)とは、臓器が正常に働いているか否かの評価に用いられる指標値をボクセルデータとする画像であり、形態画像(Anatomical Image)とは、臓器の解剖学的構造を表す値をボクセルデータとする画像である。
【0009】
画像記憶手段は、心機能の評価指標データ(壁厚、壁厚変化量等)が心臓の形状に合わせて配列された三次元機能画像、および、心臓および冠動脈の構造を表す三次元形態画像を記憶するものである。具体的には、診断支援装置として機能するコンピュータに内蔵されるメモリ、ハードディスクのほか、そのコンピュータに直接またはネットワークを介して接続された外部記憶装置等が画像記憶手段として機能する。
【0010】
心機能ブルズアイ画像生成手段は、三次元機能画像から心腔領域(例えば左心室領域)を抽出し、心腔領域内に設定された長軸と直交する複数の断面に含まれる評価指標データを、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配することにより、心機能ブルズアイ画像を生成する。三次元機能画像は、撮影装置から直接出力された機能画像でもよいし、撮影装置から出力された三次元形態画像を解析することにより生成されたものでもよい。また、三次元形態画像の解析により三次元機能画像を得る場合、その解析は診断支援装置が備える解析手段により行なってもよいし、他の装置により行ってもよい。
【0011】
冠動脈閉曲面算出手段は、三次元形態画像から、冠動脈像データを抽出するとともに、抽出された冠動脈像データを含む冠動脈閉曲面を算出する。前述した三次元機能画像を三次元形態画像の解析により生成する場合には、同じ三次元形態画像から冠動脈像データを抽出することが好ましい。
【0012】
冠動脈像ブルズアイ画像生成手段は、三次元形態画像から心腔領域(例えば左心室領域)を抽出し、心腔領域内に設定された長軸と直交する複数の断面に含まれる冠動脈像データを、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配することにより、冠動脈像ブルズアイ画像を生成する。
【0013】
距離算出手段は、三次元形態画像の各断面上に、長軸と断面との交点から断面に沿って放射状に延びる複数の線分を定義し、各線分上で心腔領域の境界面から冠動脈閉曲面までの距離を算出する。
【0014】
表示制御手段は、表示装置の画面に、心機能ブルズアイ画像、冠動脈像ブルズアイ画像および算出された距離の情報が同時に表れるように、表示出力を制御する。ここで
同時に表れるとは、3種類の情報が並列表示されることのほか、重ねて表示されたり、ブルズアイ画像を距離の情報に基づき加工してから表示することも含む。
【0015】
一実施形態では、表示制御手段は、冠動脈像ブルズアイ画像に含まれる各冠動脈像の輝度または色調を、冠動脈像が表す冠動脈の心腔領域の境界面からの距離に基づいて設定するとともに、冠動脈像ブルズアイ画像を心機能ブルズアイ画像に重ねて表示する。例えば、各冠動脈像の輝度を、距離が長いほど低く設定する。あるいは、距離が所定の閾値以上である冠動脈像の輝度を、距離が所定の閾値未満である冠動脈像の輝度よりも低く設定してもよい。これにより、心腔領域の境界面に近い血管、すなわち心腔の機能への影響度が大きい血管と、心腔の機能への影響度が小さい血管とでは、明るさや色が異なって表示されることになる。よって、心機能に影響を与える血管と、影響を与えない血管とを視覚的に区別することができ、冠動脈と心機能の両方に異常が見つかった場合に両者の関連性の判断が容易になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の診断支援装置およびプログラムによれば、診断を行う医師は、心機能ブルズアイ画像と冠動脈像ブルズアイ画像の観察により心機能の異常と冠動脈の異常を発見した場合に、異常が見つかった冠動脈が心腔領域の境界面からどの程度離れているかを、同じ画面に表れる距離の情報に基づいて直ちに把握し、冠動脈の異常と心機能の異常の関連性を即座に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態における診断支援装置の概略構成を示す図
【図2】診断支援装置が実行する処理の概要を示す図
【図3】心機能解析処理において設定される長軸および断面を示す図
【図4】心機能解析処理における評価指標データの算出例を示す図
【図5】心機能ブルズアイ画像の一例を示す図
【図6】冠動脈抽出処理により抽出された冠動脈像データを示す図
【図7】冠動脈像ブルズアイ画像の一例を示す図
【図8】距離の算出例を示す図
【図9】距離マップの一例を示す図
【図10】距離に基づく輝度の設定の一例を示す図
【図11】輝度が変更された冠動脈像ブルズアイ画像の一例を示す図
【図12】心機能ブルズアイ画像と冠動脈像ブルズアイ画像の重ね合わせ画像の一例を示す図
【図13】距離に基づく輝度の設定の他の例を示す図
【図14】ブルズアイ画像の他の生成方法について説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の診断支援装置、診断支援プログラムおよび診断支援方法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
以下に示す各実施形態において、診断支援装置は、コンピュータに、各実施形態の診断支援プログラムをインストールしたものである。コンピュータは、診断を行う医師が直接操作するワークステーションやパソコンでもよいし、もしくは、それらとネットワークを介して接続されたサーバコンピュータでもよい。診断支援プログラムは、DVD,CD−ROM等の記録メディアに格納されて配布され、その記録媒体からコンピュータにインストールされる。もしくは、ネットワークに接続されたサーバコンピュータの記憶装置、あるいはネットワークストレージに、外部からアクセス可能な状態で記憶され、要求に応じて医師が使用するコンピュータにダウンロードされ、インストールされる。
【0020】
図1は、ワークステーションに診断支援プログラムをインストールすることにより実現された診断支援装置の概略構成を示す図である。同図が示すように、診断支援装置1は、標準的なワークステーションの構成として、CPU2、メモリ3およびハードディスク4を備えている。また、診断支援装置1には、ディスプレイ5と、マウス6等の入力装置が接続されている。
【0021】
ハードディスク4には、三次元形態画像7として、CT(Computed Tomography)装置やMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置が出力したスライスデータから再構成されたボリュームデータ、3DCT装置やコーンビームCT装置が出力したボリュームデータ等が記憶されている。ボリュームデータは被検体を所定の時間間隔をおいて複数回撮影することにより得られたものであり、一人の被検体について複数の時系列なボリュームデータが記憶されている。
【0022】
また、ハードディスク4には、三次元機能画像8として、単一光子放射断層撮影(SPECT: Single Photon Emission Computed Tomography)装置が出力したSPECT画像、3DCT装置等が出力したボリュームデータを解析することにより生成された機能画像等が記憶されている。後述するように、本実施形態では、ボリュームデータの解析機能(心機能解析機能)は、診断支援プログラムの一機能として提供される。
【0023】
また、メモリ3には、診断支援プログラムと診断支援プログラムが参照するデータ(処理パラメータ等)が記憶されている。診断支援プログラムは、CPU2に実行させる処理として、心機能解析処理、心機能ブルズアイ画像生成処理、冠動脈閉曲面算出処理、冠動脈像ブルズアイ画像生成処理、距離算出処理および表示制御処理を規定している。そして、CPU2がプログラムに従いこれらの処理を実行することで、汎用のワークステーションは、心機能解析手段、心機能ブルズアイ画像生成手段、冠動脈閉曲面算出手段、冠動脈像ブルズアイ画像生成手段、距離算出手段および表示制御手段として機能することになる。
【0024】
図2は、診断支援プログラムにより実行される処理の流れを示すブロック図である。診断支援装置1は、選択メニューにおいて心機能の診断支援機能が選択されたことを検出すると、被検体のIDの一覧を表示する。診断支援装置1は、ユーザによる選択操作を検出すると、選択された被検体に関連する画像ファイルをメモリ3にロードする。その被検体に対し複数種類の検査(例えばCT検査とSPECT検査)が行われ、その結果ハードディスク4に三次元形態画像7と三次元機能画像8の両方が記憶されていた場合には、2種類の画像がメモリ3にロードされる。一方、三次元形態画像7しか記憶されていない場合には、三次元形態画像7のみがロードされる。
【0025】
診断支援装置1は、三次元形態画像7をメモリ3にロードすると、まず、その三次元形態画像7を対象とする心臓領域抽出処理11を実行する。心臓領域抽出処理11では、心臓領域(心臓全体)を抽出し、さらにその心臓領域から左心室領域を抽出する。本実施形態では、各領域は、各領域の輪郭を決定することにより抽出される。具体的には、診断支援装置1は、三次元形態画像7を構成する各ボクセルデータの値について、心臓の輪郭らしさを表す特徴量、左心室の輪郭らしさを表す特徴量をそれぞれ算出し、算出した特徴量を機械学習により予め取得された評価関数に基づいて評価することで、そのボクセルデータが心臓の輪郭を表すものであるか否か、また左心室の輪郭(左心室と心筋の境界)を表すものであるか否かを判断する。この判断を繰り返すことにより、心臓全体の輪郭および左心室の輪郭を表すボクセルデータが、それぞれ抽出される。本実施形態では、評価関数の取得にアダブースト(Adaboost)アルゴリズムを用いている。この輪郭決定方法の詳細は、例えば、特開2007−307358号公報に開示されている。なお、心臓領域の抽出は、他のマシンラーニング法や統計解析法、例えば線形判別法やニューラルネットワーク、サポートベクターマシン等を用いて行ってもよい。
【0026】
診断支援装置1は、続いて、心機能解析処理12を実行する。但し、心機能解析処理12は、メモリ3にSPECT画像等の三次元機能画像8が記憶されているときには、実行されない。以下、図3および図4を参照して、心機能解析処理12について説明する。なお、図3に示すとおり、冠動脈のうち左冠動脈Lは2本に分岐し、一方の動脈は心臓の前面を、もう一方の動脈は心臓の左側面から下方向へと走行している。左冠動脈Lの経路は、全体に亘り、左心室に近接している。一方、右冠動脈Rは心臓の右側面から下方向へと走行する。右冠動脈Rは心臓の下部において左心室に多少接近する。しかし、右冠動脈Rの経路は、全体的にみれば左心室から離れている。
【0027】
図3に示すように、心機能解析処理12において、診断支援装置1は、抽出された左心室領域に対し、心芯部と左心室のほぼ中心と心基部とを結ぶ長軸A1と長軸A1と直交する短軸A2を設定する。本実施形態では、長軸A1は、心臓領域抽出処理の結果から心芯部と左心室の中心の位置座標を算出することにより、自動的に設定される。短軸A2は、左心室の中心を通り、長軸A1と直交するように設定される。但し、自動設定された長軸の位置や方向は、ユーザ操作により修正可能とする。本実施形態では、自動設定された長軸が心臓領域の画像とともに画面に表示され、ドラッグ操作あるいは回転操作により長軸の位置や方向を変更することができる。
【0028】
続いて、診断支援装置1は、設定した長軸と直交する複数の断面P〜Pを設定する。そして、図4に示すように、各断面Pにおいて、長軸と断面との交点Cから断面に沿って放射状に延びる複数の線分l〜lを定義する。そして各線分l上で左心室と心筋の境界21および心筋の外壁22の座標値を求め、それらの座標値から各線分l上での心筋の壁厚tを算出する。また、複数の時系列な三次元形態画像について同様の処理を繰り返し、画像間で座標値等の差分を求めることにより、壁移動量や壁厚変化量など、すなわち心拍運動が正常か否かを評価するための複数種類の評価指標データを算出する。この処理により、指標データの種類ごとに、その評価指標データが心臓の形状に合わせて配列された三次元機能画像が生成される。生成された三次元機能画像8は、メモリ3に記憶される。なお、三次元形態画像の解析により三次元機能画像を生成する方法の詳細は、例えば、特開2008−289799号公報に開示されている。
【0029】
次に、診断支援装置1は、心機能ブルズアイ画像生成処理13を実行する。心機能ブルズアイ画像生成処理において、診断支援装置1は、三次元機能画像8の断面P〜Pに含まれる評価指標データ(心機能解析が行なわれた場合には、三次元形態画像7の各断面において算出された評価指標データ)を、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配することにより、心機能ブルズアイ画像を生成する。本実施形態では、心芯部を同心円の中心とし、心芯部に最も近い断面PNの評価指標データが最も半径の小さい円上に配され、心芯部から最も遠い断面P1の評価指標データが、最も半径の大きい円上に配されるようなブルズアイ画像を生成する。図5に、このような処理により生成された心機能ブルズアイ画像の一例を示す。
【0030】
なお、三次元機能画像8が、心機能解析処理12により得られたものではなく、SPECT画像等、機能画像を生成する撮影装置から出力されたものであるときは、その三次元機能画像8に対し、三次元形態画像7に対し設定したのと同様の長軸、短軸、断面および放射状線分を設定してから、上記処理を実行することにより、心機能ブルズアイ画像を生成する。この場合には、三次元形態画像7の座標と三次元機能画像8の座標の位置合わせを行うことが望ましい。
【0031】
一方で、診断支援装置1は、三次元形態画像7の、心臓領域抽出処理11により抽出された心臓領域およびその近傍領域を対象として、冠動脈抽出処理14を実行する。この処理は、心機能解析処理や心機能ブルズアイ画像生成処理と並列に実行してもよい。
【0032】
本実施形態では、冠動脈を次の手順により抽出する。はじめに、三次元形態画像7に対し所定の検出処理を施すことにより冠動脈の経路を表す複数の候補点の位置情報と冠動脈の主軸方向を算出する。もしくは、三次元形態画像についてヘッセ行列を算出し、算出されたヘッセ行列の固有値を解析することにより、冠動脈の経路を表す複数の候補点の位置情報と主軸方向を算出する。そして、算出された主軸方向に基づいて候補点周辺のボクセルデータを正規化した後、それらのボクセルデータについて冠動脈らしさを表す特徴量を算出し、算出された特徴量に基づいてそのボクセルデータが冠動脈領域を表すものであるか否かを判別する。これにより、図6に例示するように、三次元形態画像7から冠動脈を表す冠動脈像データが抽出される。
【0033】
特徴量に基づく判別は、マシンラーニングにより予め取得された評価関数に基づいて行なう。本実施形態では、冠動脈の直線部の他、湾曲部、分岐部を表すサンプルデータ、さらには狭窄、石灰化またステント留置部などの病変部を表すサンプルデータを用いて学習を行うことで、冠動脈の抽出精度を高めている。なお、冠動脈の抽出方法は、特願2009−48679号、特願2009−69895号等に開示されているが、その他にも多くの手法が提案されている。冠動脈の抽出は、上記手順に限らず、公知の他の方法により行うこともできる。
【0034】
続いて、診断支援装置1は、冠動脈閉曲面算出処理15を実行し、冠動脈抽出
処理14において抽出された冠動脈を含む閉曲面を算出する。心臓と冠動脈との位置関係は、図3に示したとおりであるので、冠動脈を含む閉曲面は、心臓の輪郭の外側に位置し、一部の範囲では心臓の輪郭(外壁面)と、ほぼ重なることになる。
【0035】
本実施形態では、冠動脈抽出処理14において検出された冠動脈の経路上の候補点を制御点とし、ブレンディング関数をBスプライン基底関数とするBスプライン曲面を計算し、これを冠動脈閉曲面とする。但し、ベツィエ(Besier)曲面、NUR(Non-Uniform Rational)Bスプライン曲面等、公知の方法により算出される他の曲面を冠動脈閉曲面としてもよい。また、特開2006−187531号公報には、ボリュームレンダリング画像上で指定された複数の指定点を通る曲面を算出する方法が示されているが、上記候補点を指定点として同公報が示す方法を実行することにより冠動脈閉曲面を求めてもよい。
【0036】
次に、診断支援装置1は、冠動脈ブルズアイ画像生成処理16を実行する。冠動脈ブルズアイ画像生成処理16において、診断支援装置1は、図3および図4を参照して説明した心機能解析処理12と同様、左心室領域に対し長軸A1、短軸A2、断面P〜Pおよび放射状線分l〜lを定義する。もしくは、心機能解析処理12において定義され、メモリ3に記憶されている長軸、短軸、断面および線分の情報を参照することにより、これらの定義情報を得る。
【0037】
続いて、診断支援装置1は、各断面Pの放射状線分l〜l上で、交点Cから所定の距離内にあるボクセルデータの値の中から最大値を探索する。すなわち、線分l〜lのそれぞれに沿って、最大値投影(MIP: Maximum Intensity Projection)処理を実行する。これにより、その断面内を走行する、またはその断面と交差する冠動脈の冠動脈像データが得られる。診断支援装置1は、この冠動脈像データを、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配することにより、冠動脈像ブルズアイ画像を生成する。本実施形態では、心芯部を同心円の中心とし、心芯部に最も近い断面Pの冠動脈像データが最も半径の小さい円上に配され、心芯部から最も遠い断面Pの冠動脈像データが、最も半径の大きい円上に配されるようなブルズアイ画像を生成する。図7に、冠動脈像ブルズアイ画像の一例を示す。
【0038】
また、診断支援装置1は、冠動脈像ブルズアイ画像生成処理16と並行して、距離算出処理17を実行する。距離算出処理17において、診断支援装置1は、図8に例示するように、冠動脈象ブルズアイ画像生成処理16もしくは心機能解析処理12において設定された各断面Pの各放射状線分l〜l上で、それぞれ左心室と心筋の境界21から冠動脈閉曲面23までの距離dを算出する。前述のとおり冠動脈閉曲面23は左心室と心筋の境界21よりも外側に位置するものであるので、距離dは、通常、心筋の壁厚tとほぼ同等か、もしくは壁厚tよりも大きな値となる。
【0039】
距離dの算出結果は、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配され、ブルズアイ画像形式の距離マップとしてメモリ3に記憶される。本実施形態では、心芯部を同心円の中心とし、心芯部に最も近い断面P上で求められた距離値が最も半径の小さい円上に配され、心芯部から最も遠い断面P1上で求められた距離値が、最も半径の大きい円上に配されるように、距離マップを生成する。図9に、距離マップの一例を示す。
【0040】
心機能ブルズアイ画像、冠動脈像ブルズアイ画像およびブルズアイ画像形式の距離マップが生成されると、診断支援装置1は、これら3種類の情報が、表示装置の画面に同時に表れるように、表示出力を制御する(表示制御処理18)。本実施形態の診断支援装置1は、複数種類の表示を行うことができる。
【0041】
診断支援装置1は、メモリ3に記憶されている表示形式の設定情報を参照することにより、もしくはユーザが行うメニュー選択操作を検出することにより、以下に説明する表示形式の中から一の表示形式を選択し、画面の表示を制御する。
【0042】
第一の表示形式が選択された場合、診断支援装置1は、冠動脈像ブルズアイ画像に含まれる各冠動脈像の輝度を、距離マップの情報に基づいて設定する。本実施形態では距離マップはブルズアイ画像形式で記憶されているので、冠動脈のある部分の左心室境界からの距離は、その部分の冠動脈像ブルズアイ画像内の位置に対応する距離マップ上の位置において、距離マップの値を参照することで取得できる。例えば、図10に示すように、距離マップが示す距離値が小さい(距離が短い)ところでは冠動脈像の輝度は高く、距離マップが示す距離値が大きい(距離が長い)ほど冠動脈像の輝度が低くなるように、冠動脈像ブルズアイ画像を構成する画素の輝度値を設定する。これにより、図11に例示するように、左心室境界からの距離が近い冠動脈の像は鮮明で、距離が遠い冠動脈の像は不鮮明な、冠動脈像ブルズアイ画像が生成される。
【0043】
診断支援装置1は、この輝度値が変更された冠動脈像ブルズアイ画像を、心機能ブルズアイ画像に重ねて表示する。重ね合わせ表示では、冠動脈像ブルズアイ画像、心機能ブルズアイ画像の両方に含まれる情報が観察できるように、各ブルズアイ画像の透明度等を設定する。図12に、重ね合わせ画像を例示する。なお、同図は、冠動脈像ブルズアイ画像が心機能ブルズアイ画像よりも大きい場合を例示しているが、2つのブルズアイ画像の大きさは同じでもよいし、心機能ブルズアイ画像のほうが大きくてもよい。
【0044】
第二の表示形式が選択された場合、診断支援装置1は、第一の表示形式と同じく冠動脈像ブルズアイ画像を心機能ブルズアイ画像に重ねて表示するが、図13に示すように、距離マップが示す距離が所定の閾値Th未満のところでは、輝度値の調整を行わない。一方、距離マップが示す距離が閾値Th以上のところでは、輝度値を一律に低い値に設定する。
【0045】
第三の表示形式が選択された場合、診断支援装置1は、第一の表示形式と同じく冠動脈像ブルズアイ画像を心機能ブルズアイ画像に重ねて表示するが、冠動脈像ブルズアイ画像に含まれる各冠動脈像の色調を、距離マップの情報に基づいて設定する。例えば、色調調整前の冠動脈像ブルズアイ画像において、冠動脈が赤く表示されていた場合、距離マップが示す距離値が小さいところでは冠動脈像の赤色のままとし、距離マップが示す距離値が大きいほど赤みが薄れるようにする。例えば、距離値の増加に伴い、赤、赤紫、青紫、青へと、色調を変化させる。もしくは、距離マップが示す距離が所定の閾値Th未満のところでは赤、距離マップが示す距離が閾値Th以上のところでは青、というように、二色表示をしてもよい。
【0046】
第四の表示形式が選択された場合、診断支援装置1は、冠動脈像ブルズアイ画像生成処理16において生成されたままの冠動脈像ブルズアイ画像を、心機能ブルズアイ画像に重ねて表示する。そして、その重ね合わせ画像と並べて、図9に例示した距離マップを表示する。
【0047】
第五の表示形式が選択された場合には、診断支援装置1は、冠動脈像ブルズアイ画像生成処理16において生成されたままの冠動脈像ブルズアイ画像を、心機能ブルズアイ画像に重ねて表示する。そして、ユーザが冠動脈にカーソルを合わせる操作を行った際に、カーソルにより選択された冠動脈象を判別し、その冠動脈象の脇に距離マップの対応する位置の値を表示する。
【0048】
本実施形態の診断支援装置およびプログラムによれば、診断を行う医師は、心機能ブルズアイ画像と冠動脈像ブルズアイ画像の観察により心機能の異常と冠動脈の異常を発見した場合に、異常が見つかった冠動脈が左心室領域の境界面からどの程度離れているかを、同じ画面に表れる距離の情報に基づいて把握し、冠動脈の異常と心機能の異常の間の関連性(因果関係の有無)を容易に判断することができる。
【0049】
特に、距離情報が冠動脈像の輝度や色調に反映される第一、第二および第三の表示形式は、1つの重ね合わせ画像を観察するだけで、冠動脈の異常と心機能の異常の間の関連性の判断に必要な情報を得ることができるという利点がある。また、第五の表示形式は、必要なときにのみ距離情報を表示させることができるという利点がある。
【0050】
なお、上記第一および第二の表示形式では、冠動脈像ブルズアイ画像の輝度を距離マップに基づいて調整しているが、同様の効果を得る方法として、距離マップに基づいて三次元形態画像のボクセルデータの輝度値を調整しておき、調整された三次元形態画像から冠動脈像ブルズアイ画像を生成する方法も考えられる。
【0051】
また、上記実施形態では、心機能ブルズアイ画像、冠動脈像ブルズアイ画像、距離マップともに、心芯部を同心円の中心とし、心芯部に最も近い断面P上で求められた値が最も半径の小さい円上に配され、心芯部から最も遠い断面P上で求められた値が、最も半径の大きい円上に配されるように生成しているが、心基部を同心円の中心とし、断面P上で求められた値が最も半径の小さい円上に配され、断面P上で求められた値が最も半径の大きい円上に配されるように、ブルズアイ画像を生成してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、断面P〜Pで求められた値を等間隔の同心円状に配することによりブルズアイ画像を生成しているが、図13示すように、心臓の表面に沿って放射線状に伸びる線S、S、S、Sの距離に応じて変形された円(閉曲線)上に値を配することにより、心臓の表面形状に依存したブルズアイ画像を生成してもよい。ブルズアイ画像に関しては、この他にも種々の変形例が知られているが、本発明ではいずれの方法を採用してもよい。
【0053】
このように、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 診断支援装置、 2 CPU、 3 メモリ、 4 ハードディスク
5 ディスプレイ、 6 マウス、
7 三次元形態画像、 8 三次元機能画像
21 左心室と心筋の境界、 22 心臓の外壁、 23 冠動脈閉曲面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心機能の評価指標データが心臓の形状に合わせて配列された三次元機能画像、および、心臓および冠動脈の構造を表す三次元形態画像を記憶する画像記憶手段と、
前記三次元機能画像から心腔領域を抽出し、該心腔領域内に設定された長軸と直交する複数の断面に含まれる前記評価指標データを、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配することにより、心機能ブルズアイ画像を生成する心機能ブルズアイ画像生成手段と、
前記三次元形態画像から、冠動脈像データを抽出するとともに、抽出された冠動脈像データを含む冠動脈閉曲面を算出する冠動脈閉曲面算出手段と、
前記三次元形態画像から心腔領域を抽出し、該心腔領域内に設定された長軸と直交する複数の断面に含まれる前記冠動脈像データを、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配することにより、冠動脈像ブルズアイ画像を生成する冠動脈像ブルズアイ画像生成手段と、
前記三次元形態画像の前記各断面上に、前記長軸と前記断面との交点から該断面に沿って放射状に延びる複数の線分を定義し、該各線分上で前記心腔領域の境界面から前記冠動脈閉曲面までの距離を算出する距離算出手段と、
表示装置の画面に、前記心機能ブルズアイ画像、前記冠動脈像ブルズアイ画像および前記距離の情報が同時に表れるように、表示出力を制御する表示制御手段を備えた診断支援装置。
【請求項2】
前記表示制御手段が、前記冠動脈像ブルズアイ画像に含まれる各冠動脈像の輝度または色調を、該冠動脈像が表す冠動脈の前記心腔領域の境界面からの距離に基づいて設定するとともに、該冠動脈像ブルズアイ画像を前記心機能ブルズアイ画像に重ねて表示することを特徴とする請求項1記載の診断支援装置。
【請求項3】
前記表示制御手段は、前記各冠動脈像の輝度を、前記距離が長いほど低く設定することを特徴とする請求項2記載の診断支援装置。
【請求項4】
前記表示制御手段は、前記距離が所定の閾値以上である冠動脈像の輝度を、前記距離が所定の閾値未満である冠動脈像の輝度よりも低く設定することを特徴とする請求項2記載の診断支援装置。
【請求項5】
前記三次元形態画像を解析することにより前記三次元機能画像を生成する心機能解析手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の診断支援装置。
【請求項6】
前記心機能ブルズアイ画像生成手段および前記冠動脈像ブルズアイ画像生成手段が、前記心腔領域として、左心室領域を抽出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の診断支援装置。
【請求項7】
コンピュータを、
心機能の評価指標データが心臓の形状に合わせて配列された三次元機能画像から心腔領域を抽出し、該心腔領域内に設定された長軸と直交する複数の断面に含まれる前記評価指標データを、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配することにより、心機能ブルズアイ画像を生成する心機能ブルズアイ画像生成手段と、
心臓および冠動脈の構造を表す三次元形態画像から、冠動脈像データを抽出するとともに、抽出された冠動脈像データを含む冠動脈閉曲面を算出する冠動脈閉曲面算出手段と、
前記三次元形態画像から心腔領域を抽出し、該心腔領域内に設定された長軸と直交する複数の断面に含まれる前記冠動脈像データを、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配することにより、冠動脈像ブルズアイ画像を生成する冠動脈像ブルズアイ画像生成手段と、
前記三次元形態画像の前記各断面上に、前記長軸と前記断面との交点から該断面に沿って放射状に延びる複数の線分を定義し、該各線分上で前記左心室領域の境界面から前記冠動脈閉曲面までの距離を算出する距離算出手段と、
表示装置の画面に、前記心機能ブルズアイ画像、前記冠動脈像ブルズアイ画像および前記距離の情報が同時に表れるように、表示出力を制御する表示制御手段として機能させる診断支援プログラム。
【請求項8】
心機能の評価指標データが心臓の形状に合わせて配列された三次元機能画像、および、心臓および冠動脈の構造を表す三次元形態画像を所定の画像記憶装置に記憶し、
前記三次元機能画像から心腔領域を抽出し、該心腔領域内に設定された長軸と直交する複数の断面に含まれる前記評価指標データを、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配することにより、心機能ブルズアイ画像を生成し、
前記三次元形態画像から、冠動脈像データを抽出するとともに、抽出された冠動脈像データを含む冠動脈閉曲面を算出し、
前記三次元形態画像から心腔領域を抽出し、該心腔領域内に設定された長軸と直交する複数の断面に含まれる前記冠動脈像データを、断面ごとに半径が異なる同心円の円周上に配することにより、冠動脈像ブルズアイ画像を生成し、
前記三次元形態画像の前記各断面上に、前記長軸と前記断面との交点から該断面に沿って放射状に延びる複数の線分を定義し、該各線分上で前記心腔領域の境界面から前記冠動脈閉曲面までの距離を算出し、
表示装置の画面に、前記心機能ブルズアイ画像、前記冠動脈像ブルズアイ画像および前記距離の情報が同時に表れるように、表示出力を制御する診断支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−246776(P2010−246776A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100368(P2009−100368)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【復代理人】
【識別番号】100118614
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 万里
【Fターム(参考)】