説明

誘導検出型エンコーダ

【課題】製造コストの増加を抑えつつ高精度な測定を可能とする誘導検出型エンコーダを提供する。
【解決手段】誘導検出型エンコーダは、測定方向に相対移動可能に対向配置された第1及び第2の部材と、前記第1の部材に形成された送信巻線と、前記第2の部材に形成され、前記送信巻線により生成される磁界と結合して前記測定方向に磁界が周期的に変化するトラックを生成する磁束結合体と、前記第1の部材に形成され、前記磁束結合体のトラックに対応する前記測定方向に沿って周期的に形成された受信ループを有する受信巻線とを備え、前記送信巻線及び前記受信巻線のうちの少なくとも一方は、パターンの均一性又は周期性を損なう特定パターンと、前記特定パターンに対して、前記トラックの生成する周期の特定位相関係にあたる位置に形成されたダミーパターンとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線間の磁束結合を利用して物体の位置及び大きさを測定する誘導検出型エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
送信巻線によって磁束結合巻線に誘導電流を流し、これを受信巻線によって受信することによって、磁束結合巻線と受信巻線との相対位置を測定する誘導検出型のエンコーダが知られている(特許文献1)。誘導検出型のエンコーダは耐環境性に優れており、リニアエンコーダやロータリエンコーダ等の様々な用途に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−210472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘導検出型のエンコーダは、誘導電流を利用して測定を行う。例えば、ロータリエンコーダの場合には、送信巻線は円形に、磁束結合巻線は歯車状又は円周方向に一定ピッチで配置されたループ状に形成されており、送信巻線に交流電流を流す事によって磁界を発生させ、これによって磁束結合巻線に誘導電流を流し、この誘導電流により発生した測定方向の周期的な磁界パターンを受信巻線により検出している。従って、送信巻線が理想的な円形で且つ受信巻線が円周方向に均一な形状の場合には受信巻線において理想的な信号が得られることが期待される。
【0005】
しかしながら、送信巻線には電力を供給する為の引出配線部を設ける必要があり、受信巻線には信号を取り出すための引出配線部を設ける必要がある。これらの引出配線部において発生した磁界の乱れが受信巻線により生成される受信信号に影響を与え、測定誤差を生じる原因となっていた。
【0006】
本発明は、この様な問題に鑑みなされたものであり、高精度な測定を可能とする誘導検出型エンコーダの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る誘導検出型エンコーダは、測定方向に相対移動可能に対向配置された第1及び第2の部材と、前記第1の部材に形成された送信巻線と、前記第2の部材に形成され、前記送信巻線により生成される磁界と結合して前記測定方向に磁界が周期的に変化するトラックを生成する磁束結合体と、前記第1の部材に形成され、前記磁束結合体のトラックに対応する前記測定方向に沿って周期的に形成された受信ループを有する受信巻線とを備え、前記送信巻線及び前記受信巻線のうちの少なくとも一方が、パターンの均一性又は周期性を損なう特定パターンと、前記特定パターンに対して前記トラックの生成する周期の特定位相関係にあたる位置に形成されたダミーパターンとを有することを特徴とする。
【0008】
この様な構成においては、送信巻線及び受信巻線の少なくとも一方に形成された配線引出部及び引出配線などの特定パターンによって生じる誘導電流を、ダミーパターンによってキャンセルし、精度の良い測定が可能な誘導検出型のエンコーダを提供することが可能となる。尚、この様な構成は、リニアエンコーダやロータリエンコーダ等、各種エンコーダに適用可能である。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、受信巻線は、測定方向の位相を異ならせた多相巻線からなり、特定パターン及びダミーパターンは、送信巻線に形成され、受信巻線の特定の相の巻線の近傍に形成されている。
【0010】
又、本発明の他の実施形態において、特定パターン及び前記ダミーパターンは、受信巻線に形成され、送信巻線との結合により生じる受信巻線に流れる電流が互いに逆向きとなるように形成されている。
【0011】
又、本発明の他の実施形態において、受信巻線の測定方向の波長をλとしたとき、特定パターンとダミーパターンは、互いに(n+1/2)λ(但し、nは任意の整数)だけ離れた位置に同様パターンで形成されている。
【0012】
又、本発明の他の実施形態において、受信巻線の測定方向の波長をλとしたとき、特定パターンとダミーパターンは、互いにnλ(但し、nは任意の整数)だけ離れた位置に受信巻線に互いに逆方向の影響が現れるパターンで形成されている。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、高精度な測定を可能とする誘導検出型エンコーダを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダを搭載したデジタル式マイクロメータの正面図である。
【図2】同マイクロメータに組み込まれた本発明の実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダの断面図である。
【図3】同マイクロメータのステータの構成例を示す図である。
【図4】同ステータの折り返し部を表す図である。
【図5】同ステータの第1の配線層を表す図である。
【図6】同ステータの第2の配線層を表す図である。
【図7】同ステータの第3の配線層を表す図である。
【図8】同ステータの第4の配線層を表す図である。
【図9】同マイクロメータのロータの構成を表す図である。
【図10】比較例に係るマイクロメータのステータの構成を表す図である。
【図11】同マイクロメータのロータとステータの相対角度及び検出される角度誤差の関係を表す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係るマイクロメータのロータとステータの相対角度及び検出される角度誤差との関係を表す図である。
【図13】本実施形態に係るマイクロメータのステータの他の構成例を表す図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダを搭載したデジタル式マイクロメータのステータの構成例を表す図である。
【図15】本実施形態に係るマイクロメータのステータの他のダミーパターンの構成例を表す図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダを搭載したデジタル式マイクロメータのステータの構成例を表す図である。
【図17】本発明の第4の実施形態に係る誘導検出型リニアエンコーダを搭載したデジタル式マイクロメータの検出ヘッドの構成例を表す図である。
【図18】同マイクロメータのスケールの構成例を表す図である。
【図19】同マイクロメータの検出ヘッドの他の構成例を表す図である。
【図20】本発明の第5の実施形態に係る誘導検出型リニアエンコーダを搭載したデジタル式マイクロメータの検出ヘッドの構成例を表す図である。
【図21】同検出ヘッドの他の構成例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[第1実施形態]
[第1実施形態に係るデジタル式マイクロメータの構成]
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダを搭載したデジタル式マイクロメータ1の構成について説明する。図1は、デジタル式マイクロメータ1の正面図である。デジタル式マイクロメータ1のフレーム3には、シンブル5が回転可能に取り付けられている。測定子であるスピンドル7は、フレーム3の内部で回転可能に支持されている。
【0017】
スピンドル7の一端側は外部に出ており、この一端が測定対象物に当接する。一方、スピンドル7の他端側には送りネジ(図1では図示せず)が形成されている。この送りネジがシンブル5内のナットに嵌めこまれている。
【0018】
この構成において、シンブル5を正方向に回転させるとスピンドル7の軸方向に沿ってスピンドル7が前進し、シンブル5を逆方向に回転させるとスピンドル7の軸方向に沿ってスピンドル7が後退する。フレーム3にはデジタル式マイクロメータ1の測定値を表示可能な液晶表示部9が設けられている。
【0019】
[第1実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダ11の構成]
次に、図2を参照して、図1のデジタル式マイクロメータ1に組み込まれた第1実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダ11の構成について説明する。図2は、誘導検出型ロータリエンコーダ11の断面図である。
【0020】
誘導検出型ロータリエンコーダ11は、ステータ13と、スピンドル7(回転軸)を中心として回転可能で且つステータ13と対向して配置されたロータ15とを備える。ロータ15は円筒状のロータブッシュ19の端面に固定されている。ロータブッシュ19にはスピンドル7が挿入されている。また、ステータ13は、円筒状のステータブッシュ21の端面に固定されている。ステータブッシュ21は、フレーム3に固定されている。
【0021】
スピンドル7の表面には、図1のシンブル5の内部に配置されたナットに嵌められる送りネジ23が形成されている。また、スピンドル7の表面には、スピンドル7の長手方向(つまりスピンドル7の進退方向)に沿ってキー溝25が掘られている。キー溝25には、ロータブッシュ19に固定されたピン27の先端部が嵌っている。スピンドル7が回転すると、その回転力がピン27を介してロータブッシュ19に伝わり、ロータ15が回転する。言い換えれば、スピンドル7の回転に連動してロータ15が回転する。ピン27はキー溝25に固定されていないので、ロータ15をスピンドル7と共に移動させずにロータ15を回転させることができる。
【0022】
[第1実施形態に係るステータの構成]
次に、図3〜8を参照して、ステータ13の構成について説明する。図3は、ステータ13の全体構成を示す平面図であり、図4はステータ13の折り返し部33及び34の拡大図である。
【0023】
ステータ13は、図3に示すように、貫通穴132を有するステータ本体131と、このステータ本体131に貫通穴132と同軸で形成された送信巻線31及び受信巻線32とを備える。ステータ本体131は、例えば多層の樹脂基板からなり、それらに形成された回路パターンが送信巻線31及び受信巻線32を形成する。
【0024】
送信巻線31は、受信巻線32の外側に形成された円形の送信部31Aと、送信部31Aの配線引出部から外側に引き出された引出配線313と、この引出配線313と同様のパターンに形成され、送信部31Aの別の位置から外側に引き出されたダミー配線314とを有している。
【0025】
受信巻線32は、送信巻線31の内側に環状に配置され、回転方向に位相を120°ずつ異ならせた3相の受信巻線321〜323にて構成される。受信巻線321〜323はそれぞれ外周方向に向かって突き出した凸部と中心方向に向かって突き出した凹部とを有しており、これらが一定の周期で円周方向に等間隔に並んでいる。なお、ここでは、上述した凸部と凹部の対の円周方向の角度を「波長λ」と定義する。本実施形態においては、各受信巻線321〜323が、凹部と凸部の組合せを40°毎に合計9対設けた配線と、この配線の凹部と凸部とを逆転させた180°位相が異なる配線とを折り返し部33及び34で電気的に接続することにより形成された18個の受信ループ(菱形)からなり、これら受信ループが環状に配置されている。従って、波長λの範囲には、計6つの受信ループが約6.7°(正確には20/3°)ずつ位相をずらして配置されている。
【0026】
折り返し部33及び34は、図4に示す通り、理想的な配線形状Lのクロスポイントの手前で、デザインルールの最終スペースdminを確保して、お互いに対向して配置されている。折り返し部33は配線331及び配線332から形成され、折り返し部34は配線341及び配線342から形成されている。
【0027】
また、受信巻線32は、受信巻線321〜323の両端からステータ本体131の外周へと延びる引出配線324〜326を有する。
【0028】
このような送信基板31及び受信巻線32は、例えば多層の配線基板により形成することができる。ここでは、4層の樹脂製の配線基板により形成した例を図5〜図8を用いて説明する。図5〜図8に示す様に、ステータ本体131は4つの配線層13A、13B、13C及び13Dを有して構成されている。
【0029】
図5に示す通り、第1の配線層13Aは、配線基板310上に形成された送信巻線31の送信部31Aと、受信巻線32の一部である配線32Aとを有している。送信巻線31の送信部31Aは、電力供給用の配線引出部311と、ダミー配線314接続用のダミー配線接続部312とを有する円形の配線である。ここで、ダミー配線314とダミー配線接続部312とで「ダミーパターン」と呼ぶ。配線引出部311と、ダミー配線接続部312とは、略同じ間隔で同じパターンにより形成され、図3に示すように、(n+1/2)λ(nは任意の整数。)の関係を示す位置に配置されている。この例では、n=4で、ダミー配線接続部312は、配線引出部311に対してスピンドル7の中心を基準として点対称な位置に形成されている。配線32Aは送信部31Aの内側に配列された複数の配線からなり、複数の配線は内周側端部に対して外周側端部が時計回りに傾斜した螺旋放射状に配列されている。尚、配線32Aの一部は一部断線しており、折り返し部33を構成する配線332及び折り返し部34を構成する配線341を構成する。
【0030】
図6に示す通り、第2の配線層13Bは、配線基板320上に形成された受信巻線32の一部である配線32Bを有している。配線32Bも配線32Aと同様に複数の配線から構成されており、複数の配線は内周側端部に対して外周側端部が反時計回りに傾斜した螺旋放射状に配列されている。配線32Bは配線基板310に形成されたコンタクトホールを介して配線32Aと電気的に接続され、受信巻線32を構成する。又、配線32Bは一部断線しており、折り返し部33を構成する配線331及び折り返し部34を構成する配線342を構成する。配線331及び配線342はそれぞれ配線332及び配線341とコンタクトホールを介して電気的に接続される。
【0031】
図7に示す通り、第3の配線層13Cは、第1及び第2の配線層13A,13Bの背面で、送信巻線31で生成される磁界及び受信巻線32で受信される磁界の磁気回路を形成すると共に、第4の配線層13Dに対する磁気遮蔽体として機能する。第3の配線層13Cは、配線基板330上に形成された磁気シールド配線335により形成されている。磁気シールド配線335は、送信及び受信のための磁気回路を形成する環状部335Aと、引出配線313、324〜326をシールドする配線シールド部335Bとを有する。なお、磁気シールド配線335には、配線引出部311と、ダミー配線312のコンタクトホールが貫通する穴部336A,336Bを有する。
【0032】
図8に示す通り、第4の配線層13Dは、コンタクトホールを介して送信部31Aの配線引出部311に電気的に接続される引出配線313と、ダミー配線接続部312に電気的に接続されたダミー配線314とを有する。引出配線313とダミー配線314とは、上述のように、スピンドル7の中心を基準として点対称位置に同様の間隔で形成されている。又、第4の絶縁層13Dは、受信巻線32からの信号を受信する為の引出配線324〜326を有している。
【0033】
[第1実施形態に係るロータの構成]
次に、図9を参照してロータ15の構成について説明する。図9は、ロータ15上の構成を示す図である。ロータ15は、磁束結合巻線41を有している。ロータ本体151は、樹脂の配線基板410、及びその基板上に積層された層間絶縁層にて構成されており、その中央にスピンドル7を通すための貫通穴152を有する。層間絶縁層は、磁束結合巻線41を埋めるように堆積されている。
【0034】
磁束結合巻線41は、送信巻線31に流れる送信電流により生じた磁界に基づく誘導電流を発生させる。又、磁束結合巻線41は、1回転で周期的変化を生成するトラックを形成する。
【0035】
磁束結合巻線41は、スピンドル7に対して同軸的に歯車状に形成されている。第1の磁束結合巻線41は、スピンドル7に近づく方向に窪む凹部411と、スピンドル7から離れる方向に突出する凸部412とを交互に配置して構成される。尚、本実施形態においては、磁束結合巻線41に凹部411と凸部412との組合せが9対設けられている。従って、ロータ15がステータ13に対して1回転すると、9周期分の信号が検出されることとなる。この場合の磁束結合巻線41の周期的パターンの波長はλ(=40°)となる。
【0036】
[第1実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダ11の作用・効果]
次に、図10〜図12を参照して、比較例と対比しつつ、第1実施形態に係る誘導検出型ロータリエンコーダ11の作用・効果について説明する。図10は、比較例に係るステータ13´の構成を示す図である。又、図11及び図12は、それぞれ比較例と本実施形態とにおける、ロータとステータの相対角度及び角度誤差の関係を示す図である。
【0037】
図10に示す様に、比較例に係るステータ13´の構成は基本的には本発明の第1実施形態に係るステータ13と同様であるが、送信巻線31´にダミー配線接続部312及びダミー配線314が設けられていない点において異なっている。
【0038】
上記構成を有する比較例に係るロータリエンコーダを用いて測定を行う例を考える。
送信巻線31に交番電流を流すことにより生じた磁界は、図9に示すように、磁束結合巻線41に結合され、磁束結合巻線41に凹部411及び凸部412に沿って例えば時計周りに流れる誘導電流Iaを生じさせる。この誘導電流Iaは、凹部411に紙面から上方に向かう磁界を発生させ、凸部412に紙面から下方に向かう磁束を発生させる。このような周方向の周期的パターンの磁界は、受信巻線31の受信ループと磁束結合し、受信巻線31に誘導電流を生成する。この誘導電流は、受信巻線31と磁束結合巻線41との回転方向の位置によって変化する。この誘導電流を受信巻線32から取り出す。
【0039】
ここで、送信巻線31が理想的な円形状に形成されていた場合、3相の受信巻線321〜323には、ロータ15の回転角度に応じて振幅が同一の理想的な3相の周期信号が検出される。この3相の受信信号を演算処理することにより、ロータ15とステータとの相対角度が検出される。
しかしながら、実際には送信巻線31には電力を供給する為の配線引出部311を設ける必要があり、送信巻線31の内側に発生する磁界は均一とはならない。この配線引出部311のような磁界のパターンの均一性や周期性を損なうパターンを、ここでは「特定パターン」と呼ぶ。この配線引出部311の存在により、受信巻線321〜323のうち、配線引出部311に最も近い受信巻線で得られる受信信号が増加又は減少し、他の受信巻線で得られる受信信号とのバランスが崩れ、角度誤差を生じる原因となる。
【0040】
これに対し、本実施形態によれば、配線引出部311及び引出配線313から回転方向(測定方向)に (n+1/2)λだけ離れた位置に、ダミー配線接続部312及びダミー配線314を設けているので、配線引出部311に最も近い送信巻線(例えば321)が配線引出部311から受ける影響が、磁束密度を増加させる傾向にある場合には、ダミー配線接続部312に最も近い送信巻線(例えば321の逆相)がダミー配線接続部312から受ける影響は、磁束密度を減少させる傾向に作用する。その結果として、送信巻線(例えば321)に流れる電流は、増減が相殺されて他の送信巻線に流れる電流と同じになる。
これにより、送信巻線321〜323に流れる電流のバランスが取れ、角度誤差の発生を防止することが出来る。
【0041】
図11及び図12は、ロータ15をステータ13に対して、一波長λ分、即ち40°回転させた時の回転角度と検出された角度誤差との関係を示す図であり、図11はダミーパターンが無い場合、図12はダミーパターンがある場合を示している。
ダミーパターンが無い場合、図11から明らかなように、ロータ15をステータ13に対して40°回転させる毎に0.2°〜0.3°の大きな誤差が生じていることが分かる。
【0042】
これに対し、図12に示すように、ダミーパターンがある本実施形態においては誤差が大幅に抑制されており、S/N比は、比較例と比較して約10倍向上していることが分かる。
【0043】
尚、本実施形態においては配線引出部311及び引出配線313と、ダミー配線接続部312及びダミー配線314とを、(n+1/2)λの位置に配置しているが、ダミー配線接続部312及びダミー配線314と、配線引出部311及び引出配線313とが、送信巻線31で生成される磁界に対して、逆向きの作用を及ぼすパターンであれば、両者の間隔をnλとすることも可能である。そのようなパターンとしては、例えば、図13に示す様に、送信巻線31の外側に引き出されるパターンでなく、ステータ13の中心方向に延びるパターンを設けることが考えられる。
【0044】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る誘導検出型エンコーダについて説明する。第1実施形態においては送信巻線31に、配線引出部311及び引出配線313に起因して発生するノイズを打ち消すためのダミーパターンとしてダミー配線接続部312及びダミー配線314を設けた。これに対し、本実施形態にかかる誘導検出型エンコーダにおいては、受信巻線32に設けられている引出配線324〜326に起因して生じるノイズを打ち消すためのダミーパターンとしてダミー配線327〜329が、受信巻線32に設けられている。
【0045】
図14は、本実施形態に係るステータ13の構成を示す図である。第1の実施形態と同様な部分については同一符号を付し、説明を省略する。本実施形態においては、受信巻線321〜323のそれぞれが引出配線324〜326及びダミー配線327〜329を有している。引出配線324〜326とダミー配線327〜329とは、(n+1/2)λの間を空けて配置されている。この例では、λ=40°,n=4として、引出配線324〜326とダミー配線327〜329とは、スピンドル7の中心を基準として点対称な位置に配置されている。尚、本実施形態においては、送信巻線31にダミーパターン314を設けることも可能であるし、設けなくても良い。
【0046】
本実施形態においては、引出配線324〜326の配線間で発生する磁界が、これと横切る送信巻線31で発生する磁界により影響を受けた場合、両磁界が同じ向きである場合には、受信巻線321〜323に流れる受信電流が増加するが、ダミー配線327〜329の配線間で発生する磁界の向きが、引出配線324〜326の配線間で発生する磁界の向きとは異なるので、ダミー配線327〜329の部分では、受信電流が減少する方向に機能する。すなわち、引出配線324と送信巻線31とが交差する部分での受信電流に与える影響は、ダミー配線327〜329と送信巻線31とが交差する部分での受信電流に与える影響により相殺される。この結果、測定誤差を低減することが出来る。
【0047】
この他、例えば図15に示す様に、ダミー配線327〜329の各配線対の受信巻線32との接続端部を相互に入れ替えたパターンを用いれば、引出配線324〜326と、ダミー配線327〜329との間隔をnλに設定することも可能である。
【0048】
なお、引出配線324〜326の各配線対を異なる配線層に形成し、両者を積層方向に重ねて配置することで、本実施形態のような引出配線324〜326での送信巻線31とのクロストークの問題は回避可能(例えば特開2005−164332号公報参照)である。しかし、この場合には、引出配線324〜326の形成に少なくとも3層必要になり、ステータ13を例えば6層構成とする必要がある。
これに対し、本実施形態によれば、引出配線324〜326を同じ配線層に形成することができるので、ステータ13を例えば第1の実施形態のように4層で構成することができ、全体的な小型化及びコスト低減を図ることができる。
【0049】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る誘導検出型エンコーダについて図16を参照して説明する。第1実施形態及び第2実施形態に係る誘導検出型エンコーダは、1トラック構成であったが、本実施形態は、2トラック構成となっている。すなわち、本実施形態に係る誘導検出型エンコーダのステータ13には、図16に示す様に、送信巻線31i及び受信巻線32iを有する内側トラックと、送信巻線31o及び受信巻線32oを有する外側トラックが設けられている。送信巻線31i及び31oには、第1の実施形態と同様に、それぞれダミーパターン314i及び314oが設けられている。同様に、受信巻線32i及び32oには、第2の実施形態と同様に、それぞれダミーパターン327i〜329i、及びダミーパターン327o〜329oが設けられている。
【0050】
本実施形態に係る誘導検出型エンコーダは2トラック型であるため、内側に形成されるトラックによって形成される周期を奇数(又は偶数)とし、外側に形成されるトラックによって形成される周期を偶数(又は奇数)とすることによって、ABS(絶対位置検出)型のロータリエンコーダを構成することができる。この様なABS型のロータリエンコーダも、ダミーパターン314i及び314o等によって引出配線313i及び313o等に起因するノイズを抑制することが可能であり、かつ3層の配線層から構成することが可能である。
【0051】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について説明する。第1実施形態から第3実施形態はロータリエンコーダに関していたが、送信巻線や受信巻線にダミーパターンを設けることによってノイズをキャンセルすることは、リニアエンコーダにおいても可能である。図17は、本実施形態に係るリニアエンコーダの検出ヘッド50の構成の一部を表す図である。本実施形態に係る検出ヘッド50は、スケール60との対向面に形成された送信巻線31と、スケール60との対向面に測定軸方向に沿って波長λで周期的に形成された受信巻線32とを備えている。又、この様な検出ヘッド50の対向面には、図18に示す様なスケール60が測定軸方向(スケール60の長手方向)に平行移動可能に配置されている。スケール60は、検出ヘッド50との対向面に測定方向に沿って形成されて、後述する受信巻線32と磁束結合する磁束結合体41を備える。又、磁束結合体41は測定軸方向への所定の移動に伴って波長λで周期的に変化するトラックを形成している。
【0052】
図17に示す通り、送信巻線31の一部に送信巻線31の対称性を壊す様な特定パターン51があった場合、第1実施形態と同様に、一波長分の平行移動量をλ、整数をnとすると、パターン51から(n+1/2)λだけ離れた場所にダミーパターン52を設けることが可能である。尚、リニアエンコーダの場合には、図19に示す様にパターン51から(n+1/2)λだけ離れた場所の向かい側にダミーパターン52を設けることも可能である。
【0053】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態について説明する。リニアエンコーダの受信巻線32に対しても、第2の実施形態と同様に受信巻線の引出配線324〜326によって生じるノイズをキャンセルするダミーパターン327〜329を設けることが可能である。この場合にも図20に示す様にダミーパターン327〜329を引出配線部324〜326と同じ側に設けても良いし、図21に示す様に向かい側に設けても良い。
【0054】
[その他の実施形態]
以上、発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、追加等が可能である。例えば、磁束結合体は、上記実施形態のように磁束結合巻線ではなく、電極、導電板に形成された穴、凹部であってもよい。又、誘導検出型エンコーダはABS型のリニアエンコーダ等でも良いし、磁束結合体の形成するトラックの周期は適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…デジタル式マイクロメータ、 3…フレーム、 5…シンブル、 7…スピンドル、 9…液晶表示部、 11…誘導検出型エンコーダ、 13…ステータ、 15…ロータ、 19…ロータブッシュ、 21…ステータブッシュ、 23…ネジ、 25…キー溝、 27…ピン、 31…送信巻線、 32…受信巻線、 41…磁束結合巻線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定方向に相対移動可能に対向配置された第1及び第2の部材と、
前記第1の部材に形成された送信巻線と、
前記第2の部材に形成され、前記送信巻線により生成される磁界と結合して前記測定方向に磁界が周期的に変化するトラックを生成する磁束結合体と、
前記第1の部材に形成され、前記磁束結合体のトラックに対応する前記測定方向に沿って周期的に形成された受信ループを有する受信巻線とを備え、
前記送信巻線及び前記受信巻線のうちの少なくとも一方は、
パターンの均一性又は周期性を損なう特定パターンと、
前記特定パターンに対して、前記トラックの生成する周期の特定位相関係にあたる位置に形成されたダミーパターンとを有する
ことを特徴とする誘導検出型エンコーダ。
【請求項2】
前記特定パターンは、前記送信巻線及び前記受信巻線の少なくとも一方から配線を引き出すための配線引出部及び引出配線である
ことを特徴とする請求項1記載の誘導検出型エンコーダ。
【請求項3】
前記受信巻線は、前記測定方向の位相を異ならせた多相巻線からなり、
前記特定パターン及び前記ダミーパターンは、前記送信巻線に形成され、前記受信巻線の特定の相の巻線の近傍に形成されている
ことを特徴とする請求項1又は2記載の誘導検出型エンコーダ。
【請求項4】
前記特定パターン及び前記ダミーパターンは、前記受信巻線に形成され、前記送信巻線との結合により生じる前記受信巻線に流れる電流が互いに逆向きとなるように形成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の誘導検出型エンコーダ。
【請求項5】
前記受信巻線の前記測定方向の波長をλとしたとき、前記特定パターンと前記ダミーパターンは、互いに(n+1/2)λ(但し、nは任意の整数)だけ離れた位置に同様パターンで形成されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の誘導検出型エンコーダ。
【請求項6】
前記受信巻線の前記測定方向の波長をλとしたとき、前記特定パターンと前記ダミーパターンは、互いにnλ(但し、nは任意の整数)だけ離れた位置に前記受信巻線に互いに逆方向の影響が現れるパターンで形成されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の誘導検出型エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−64653(P2013−64653A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203743(P2011−203743)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】