説明

誘電体セラミックスおよび共振器

【課題】 比誘電率εrが40〜48の範囲内において、Q値が高く、共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さく、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域における共振周波数の変化の少ない誘電体セラミックスを提供する。
【解決手段】 組成式をαLa・βAl・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが0.155≦α≦0.210,0.155≦β≦0.220,0.284≦γ≦0.360,0.284≦δ≦0.365、かつα+β+γ+δ=1を満足するとともに、前記組成式の成分100質量%に対してストロンチウムを酸化物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下含んでなり、LaAlO−CaTiOのペロブスカイト相中に、CaTiO結晶が存在してなる誘電体セラミックスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話の中継基地局およびBSアンテナの共振器に使用される誘電体セラミックスに関する。また、この誘電体セラミックスを用いた共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の中継基地局およびBSアンテナ等には共振器が組み込まれており、この共振器の中核部には誘電体セラミックスが使用されている。この誘電体セラミックスに求められる特性としては、比誘電率εr,高周波の誘電損失(tanδ)の逆数として求められるQ値(1/tanδ)および共振周波数の温度に対する変化を示す温度係数τfがある。そして、共振器への要求特性の違いから、誘電体セラミックスに求められる比誘電率εrは様々であるが、それぞれの比誘電率εrにおいて、Q値が高く共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さいことが求められている。
【0003】
このような誘電体セラミックスとして、本願出願人は、金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含み、これらの成分をモル比でaLnOx・bAl・cCaO・dTiOと表したとき、a,b,c,dおよびxの値が0.056≦a≦0.214,0.056≦b≦0.214,0.286≦c≦0.500,0.23≦d≦0.470,3≦x≦4を満足する主
成分100モル部に対して、SrOおよび/またはBaOを0.01〜0.10モル部含有する誘電
体磁器組成物を提案していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3274950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の誘電体磁器組成物は、高いQ値および共振周波数の温度係数の小さい誘電特性を有するものであり、実施例に示されている希土類元素(Ln)がLaである表8の試料No.77によれば、比誘電率が46であり、Q値が41000と良好
な値を示すものの、−40〜25℃および25〜85℃の共振周波数の温度係数τfはともに−18であり、今般の誘電体セラミックスにおいては、更なる誘電特性の向上要求に応えなければならないという課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、比誘電率εrが40〜48の範囲において、Q値が高く、共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さく、かつ低温域から高温域にわたる広範囲な温度域における共振周波数の変化の少ない誘電体セラミックスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電体セラミックスは、組成式をαLa・βAl・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したときに、モル比α,β,γ,δが、0.155≦α
≦0.210,0.155≦β≦0.220,0.284≦γ≦0.360,0.284≦δ≦0.365、かつα+β+γ+
δ=1を満足するとともに、前記組成式の成分100質量%に対してストロンチウムを酸化
物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下含んでなり、LaAlO−CaTiOのペ
ロブスカイト相中に、CaTiO結晶が存在していることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の誘電体セラミックスは、上記構成において、前記ペロブスカイト相中に
おけるCaTiO結晶の割合が、面積率で2.5%以上15%以下であることを特徴とする

【0009】
また、本発明の誘電体セラミックスの製造方法は、ランタンの酸化物となる粉体およびアルミニウムの酸化物となる粉体を含む1次原料と、カルシウムの酸化物となる粉体およびチタンの酸化物となる粉体を含む1次原料とを、それぞれ仮焼した後に2μm以下に粉砕して、アルミン酸ランタン仮焼粉体およびチタン酸カルシウム仮焼粉体を得る工程と、該チタン酸カルシウム仮焼粉体100質量%に対し、平均粒径が2.5μm以上5μm以下のチタン酸カルシウム粉体を10質量%以上40質量%以下添加して、粒度配合されたチタン酸カルシウム混合粉体を得る工程と、該チタン酸カルシウム混合粉体と、前記アルミン酸ランタン仮焼粉体とを混合した後、さらにストロンチウムの酸化物となる粉体を添加して、2次原料を得る工程と、該2次原料を用いて成形した後、1500〜1700℃で焼成して焼結体を得る工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の共振器は、上記いずれかの構成の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の誘電体セラミックスによれば、組成式をαLa・βAl・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.155
≦α≦0.210,0.155≦β≦0.220,0.284≦γ≦0.360,0.284≦δ≦0.365、かつα+β+
γ+δ=1を満足するとともに、前記組成式の成分100質量%に対してストロンチウムを
酸化物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下含んでなり、LaAlO−CaTiO
のペロブスカイト相中に、CaTiO結晶が存在していることにより、比誘電率εrが40〜48となり、30000以上の高いQ値が得られ、かつ低温域(−40〜20℃)および高温域
(20〜80℃)での共振周波数の変化を示す温度係数τfの絶対値を小さくすることができるとともに、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの値の差を小さくすることができるので、気温差の激しい場所においても長期間にわたって安定して良好な性能を維持することができる。
【0012】
また、本発明の誘電体セラミックスによれば、前記ペロブスカイト相中におけるCaTiO結晶の割合が、面積率で2.5%以上15%以下であるときには、低温域と高温域との
共振周波数の温度係数τfの値の差をさらに小さくすることができる。
【0013】
また、本発明の誘電体セラミックスの製造方法によれば、ランタンの酸化物となる粉体およびアルミニウムの酸化物となる粉体を含む1次原料と、カルシウムの酸化物となる粉体およびチタンの酸化物となる粉体を含む1次原料とを、それぞれ仮焼した後に2μm以下に粉砕して、アルミン酸ランタン仮焼粉体およびチタン酸カルシウム仮焼粉体を得る工程と、該チタン酸カルシウム仮焼粉体100質量%に対し、平均粒径が2.5μm以上5μm以下のチタン酸カルシウム粉体を10質量%以上40質量%以下添加して、粒度配合されたチタン酸カルシウム混合粉体を得る工程と、該チタン酸カルシウム混合粉体と、前記アルミン酸ランタン仮焼粉体とを混合した後、さらにストロンチウムの酸化物となる粉体を添加して、2次原料を得る工程と、該2次原料を用いて成形した後、1500〜1700℃で焼成して焼結体を得る工程とを含むことにより、LaAlO−CaTiOのペロブスカイト相中にCaTiO結晶を存在させることができるので、気温差の激しい場所においても長期間にわたって安定して良好な性能を維持した誘電体セラミックスを得ることができる。
【0014】
本発明の共振器によれば、本発明の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことにより、比誘電率εrが40〜48であり、Q値が高く、気温差の激しい場所においても共振周波数の変化が小さいことから、長期間にわたって安定して良好な性能を維持することがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の誘電体セラミックスを含むセラミック体をフィルタとして用いた共振器の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本実施形態の誘電体セラミックスの一例について説明する。
【0017】
本実施形態の誘電体セラミックスは、組成式をαLa・βAl・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが0.155≦α
≦0.210,0.155≦β≦0.220,0.284≦γ≦0.360,0.284≦δ≦0.365、かつα+β+γ+
δ=1を満足するとともに、前記組成式の成分100質量%に対してストロンチウムを酸化
物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下含んでなり、LaAlO−CaTiOのペ
ロブスカイト相中に、CaTiO結晶が存在しているものである。
【0018】
ここで、組成式をαLa・βAl・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γおよびδが上記数値範囲を満足することにより、比誘電率εrが40〜48となり、30000以上と高いQ値を得ることができる。
【0019】
そして、組成式の成分100質量%に対して、ストロンチウムを酸化物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下含んでなり、LaAlO−CaTiOのペロブスカイトの混合相中に、CaTiO結晶が存在していることにより、共振周波数の温度係数τfの絶対値を小さくすることができる。具体的には、−40〜85℃の温度範囲における共振周波数を測定し、20℃での共振周波数を基準にして算出した−40〜20℃(以下、低温域という。),20〜85℃(以下、高温域という。)の共振周波数の温度係数τfの絶対値を10ppm/℃以下とすることができる。さらに、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの値の差を2ppm/℃以下とすることができる。すなわち、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、共振周波数の変化を小さくできるとともに、温度域間での共振周波数の変化をも小さくすることができるので、気温差の激しい場所においても長期間にわたって安定して良好な性能を維持することができる誘電体セラミックスとなる。
【0020】
ここで、本実施形態の誘電体セラミックスの結晶形態は、組成式をαLa・βAl・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.155≦α≦0.210,0.155≦β≦0.220,0.284≦γ≦0.360,0.284≦δ≦0.365、かつα+β+γ+δ=1を満足する成分により、LaAlOおよびCaTiOが互いに固溶したペロブスカイト相が形成され、このペロブスカイト相中に、組成式の成分100質量%に対して酸化物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下含んでなるストロンチウム成分に囲まれたCaTiO結晶が独立して存在してなる。
【0021】
そして、共振周波数の温度係数τfの絶対値を10ppm/℃以下、すなわち0ppm/℃に近づけることができるのは、共振周波数の温度係数τfの値がマイナス側を示すLaAlO−CaTiOのペロブスカイト相中に、共振周波数の温度係数τfの値がプラス側を示すCaTiO結晶が存在していることにより、共振周波数の温度係数τfの値が相殺されるからである。また、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの値の差を小さくすることができるのは、CaTiO結晶がストロンチウム成分に囲まれていることにより、低温域および高温域において、CaTiO結晶がLaAlO−CaTiOのペロブスカイト相中に固溶することを抑制して、LaAlO−CaTiOのペロブスカイト相中に存在するCaTiO結晶の数の変化を少なくすることができるからである。
【0022】
ここで、ストロンチウムは、上記作用を奏するものの、添加量によっては誘電体セラミックスの中で誘電特性の低い化合物を形成しやすいものであるため、組成式の成分100質
量%に対してストロンチウムを酸化物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下含んでなる
ことが重要である。
【0023】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、ケイ素,ナトリウム,ジルコニウム,タングステン,ニオブ,タンタル,銅およびクロムを酸化物換算の合計で0.5質量%以下の範
囲で含むものであってもよい。これらは、出発原料または製造時に用いる粉砕用のボール等により含まれることとなるものであるが、酸化物換算の合計で0.5質量%以下の範囲で
含むものであれば、ケイ素,ナトリウム,ジルコニウム,タングステン,ニオブ,タンタル,銅およびクロムは、誘電体セラミックスの粒界において、低融点化合物を形成しやすく、誘電体セラミックスの焼結温度よりも低温度域で液相を形成して焼結を促進させることができるので、誘電体セラミックスの焼結性を向上させて、高密度で優れた機械的特性を有する誘電体セラミックスとすることができる。
【0024】
なお、本実施形態の誘電体セラミックス中に含まれる各成分の含有量については、誘電体セラミックスの一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いて測定し、得られた各成分の金属量を酸化物換算することにより確認することができる。
【0025】
また、LaAlO−CaTiOのペロブスカイト相については、誘電体セラミックスの表面を、例えば市販のX線回折装置(BrukerAXS社製:ADVANCE)を用いて、測定範囲2θ=10°〜90°,CuKα測定の条件でX線回折測定した後、得られたX線回折パターンに、LaAlO,CaTiOそれぞれのJCPDSカードに記載されている標準パターンが含まれているか否かによって確認することができる。
【0026】
また、ペロブスカイト相中にCaTiO結晶が独立して存在するか否かについては、例えば、波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子製:JXA−8100)を用いて、誘電体セラミックスの任意の表面のCa,Ti元素の分布状態を確認すればよい。CaTiO結晶が存在しているときには、他の部分よりもCaおよびTi元素の検出比率が特に高く示す部分を有し、CaおよびTi元素の検出比率が特に高い部分が重なっていることとなるので、CaTiO結晶が独立して存在するか否かを確認することができる。
【0027】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、前記ペロブスカイト相中におけるCaTiO結晶の割合が、面積率で2.5%以上15%以下であることが好適である。CaTiO
結晶の割合が、面積率で2.5%以上15%以下であれば、低温域と高温域との共振周波数の
温度係数τfの値の差をさらに小さくすることができる。
【0028】
なお、任意の表面におけるCaTiO結晶の面積率を測定する方法としては、例えば、波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子製:JXA−8100)により、誘電体セラミックスの任意の表面の100μm×100μmの範囲のCaおよびTi元素の分布状態を測定し、他の部分よりもCaおよびTi元素の検出比率が特に高く示す部分において重なるところの面積を全測定面積で除することにより面積率を算出すればよい。
【0029】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、ボイド率が4%以下であることが好適である。ボイド率が4%以下であれば、Q値の低下の要因となるボイド(気孔)が少なく、より緻密化されているので、強度や硬度などの機械的特性に優れた誘電体セラミックスとす
ることができる。よって、優れた誘電特性が得られるとともに、ハンドリング時、落下時、共振器内への取付け時および各携帯電話基地局等への設置後にかかる衝撃等によって、誘電体セラミックスにカケや割れおよび破損等が生じにくくすることができる。
【0030】
なお、ボイド率は例えば次のようにして測定する。まず、100μm×100μmの範囲が観察できるように、任意の倍率に調節した金属顕微鏡またはSEM等により、誘電体セラミックスの表面の数カ所を写真または画像として撮影する。そして、この写真または画像を用いて画像解析装置により撮影箇所におけるボイドの面積を撮影箇所の面積で除して、それぞれの撮影箇所におけるボイド率を算出し、この平均値を求めることで算出することが可能である。画像解析装置としては例えばニレコ社製のLUZEX−FS等を用いればよい。
【0031】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスをフィルタとして用いた共振器について図1に一例を示す断面図に基づいて以下に説明する。
【0032】
図1に示す例ように、TEモ−ド型の共振器1は、金属ケース2,入力端子3,出力端子4,セラミック体5および載置台6を有する。金属ケース2は、軽量なアルミニウム等の金属からなり、入力端子3および出力端子4は、金属ケース2の内壁の相対向する両側に設けられている。セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなり、入出力端子3と出力端子4の間の載置台6上に配置され、フィルタとして用いられるものである。このような共振器1において、入力端子3からマイクロ波が入力されると、入力されたマイクロ波は、セラミック体5と自由空間との境界における反射によってセラミック体5内に閉じこめられ、特定の周波数で共振を起こす。そしてこの共振した信号が出力端子4と電磁界結合することにより、金属ケース2の外部に出力される。
【0033】
このような構成の共振器1は、携帯電話の中継基地局やBSアンテナに好適に使用されるものである。なお、共振器1の構成は上述した構成に限定されず、入力端子3および出力端子4をセラミック体5に直接設けてもよい。また、セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は直方体,立方体,板状体,円板,円柱,多角柱またはその他共振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は500MHz〜500GHz程度であり、共振周波数としては2GHz〜80GHz程度が実用上好ましい。
【0034】
そして、共振器1に、本実施形態の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことにより、比誘電率εrが40〜48であり、30000以上の高いQ値が得られ、かつ低温域および
高温域での共振周波数の変化を示す温度係数τfの絶対値を小さくすることができるとともに、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの値の差を小さくすることができるので、気温差の激しい場所においても共振周波数の変化が小さいことから、長期間にわたって安定して良好な性能を維持する共振器1とすることができる。
【0035】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスの製造方法の一例について説明する。
【0036】
まず、出発原料として、高純度の酸化ランタン(La),酸化アルミニウム(Al),炭酸カルシウム(CaCO)および酸化チタン(TiO)の各粉末を準備する。そして、酸化ランタン(La)と酸化アルミニウム(Al)を所望の割合となるように秤量後、純水とともにジルコニアボール等を使用したボールミルに入れて、平均粒径が2μm以下となるまで1〜100時間の湿式混合および粉砕を行ない1次
原料を得る。また、炭酸カルシウム(CaCO)と酸化チタン(TiO)についても、同様の工程を経て1次原料を得る。
【0037】
次に、これらの2種類の1次原料をそれぞれ乾燥後、1100〜1300℃で1〜10時間仮焼し、ボールミル等により平均粒径が2μm以下、好ましくは平均粒径1μm以下となるまで湿式粉砕する。そして、それぞれステンレス製容器に移し、乾燥後、メッシュを通過させてアルミン酸ランタン(LaAlO)仮焼粉体およびチタン酸カルシウム(CaTiO)仮焼粉体を得る。ここで、誘電体セラミックス中にCaTiO結晶を析出させるために、チタン酸カルシウム(CaTiO)仮焼粉体100質量%に対して、平均粒径が2.5μm以上5μm以下のチタン酸カルシウム(CaTiO)粉体を10質量%以上40質量%以下の割合で添加し混合して、粒度配合されたチタン酸カルシウム(CaTiO)混合粉体を得る。
【0038】
次に、このチタン酸カルシウム(CaTiO)混合粉体とアルミン酸ランタン(LaAlO)仮焼粉体とを所望の割合となるように秤量して混合した後、これに高純度で平均粒径が0.5μm以上3μm以下の炭酸ストロンチウム(SrCO)を、ストロンチウ
ムの酸化物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下となるよう秤量してさらに加え、純水
を加えた後、ボールミル等により湿式混合を行なう。そして、バインダを加えて所定時間混合した後、スプレードライヤで噴霧造粒して2次原料を得る。
【0039】
次に、この2次原料を用いて、金型プレス成形法,冷間静水圧プレス成形法,押し出し成形法等により任意の形状に成形して成形体を得る。そして、得られた成形体を大気中1500℃〜1700℃で5〜10時間保持して焼成し、本実施形態の誘電体セラミックスを得る。より好ましくは1550〜1650℃で焼成するのが良い。焼成後、必要に応じて研削加工を施しても良い。また、ここで得られた焼結体をさらに、酸素を5〜30体積%以上含むガス中において、温度を1500〜1700℃,圧力を300〜3000気圧で、20分〜10時間熱処理する。より好
ましくは、温度を1550〜1650℃,圧力を1000〜2500気圧で20分〜3時間熱処理することにより、焼結体中のボイド率を低減させ、より良好な誘電特性および機械的特性の誘電体セラミックスとすることができる。
【0040】
そして、上記製造方法により作製された本実施形態の誘電体セラミックスは共振器のフィルタとして用いることができる。また、本実施形態の誘電体セラミックスは、共振器以外に、MIC(Monolithic IC)用誘電体基板,誘電体導波路または積層型セラミックコンデンサに使用することができる。
【実施例1】
【0041】
組成式をαLa・βAl・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したときのモル比α,β,γおよびδの値とストロンチウムの添加量を種々変更して試料を作製し、比誘電率εr,Q値および共振周波数の温度係数τfの測定を行なった。製造方法および特性測定方法の詳細を以下に説明する。
【0042】
出発原料として、純度が99.5質量%以上の酸化ランタン(La),酸化アルミニウム(Al),炭酸カルシウム(CaCO)および酸化チタン(TiO)の各粉末を準備した。
【0043】
次に、それぞれの各粉末を表1の割合(モル%)となるように秤量した。ただし、炭酸カルシウム(CaCO)および酸化チタン(TiO)については、後ほど添加するチタン酸カルシウム(CaTiO)粉体の量を考慮したものとした。そして、秤量した酸化ランタン(La)と酸化アルミニウム(Al)とを純水とともにジルコニアボール等を使用したボールミルに入れて、平均粒径が2μm以下となるまで湿式混合および粉砕を行ない1次原料を得た。また、秤量した炭酸カルシウム(CaCO)と酸化チタン(TiO)についても同様の工程を経て1次原料を得た。
【0044】
次に、これらの2種類の1次原料をそれぞれ乾燥後、1200℃で5時間仮焼し、ボールミルにより平均粒径が1μmとなるまで湿式粉砕した。する。そして、それぞれステンレス製容器に移し、乾燥後、メッシュを通過させてアルミン酸ランタン(LaAlO)仮焼粉体およびチタン酸カルシウム(CaTiO)仮焼粉体を得た。
【0045】
次に、チタン酸カルシウム(CaTiO)仮焼粉体100質量%に対して、平均粒径が
3μmのチタン酸カルシウム(CaTiO)粉体を15質量%の割合で添加し混合して粒度配合されたチタン酸カルシウム(CaTiO)混合粉体を得た。
【0046】
そして、このチタン酸カルシウム(CaTiO)混合粉体とアルミン酸ランタン(LaAlO)仮焼粉体とを所望の割合となるように秤量して混合した後、さらにストロンチウム成分として、市販の平均粒径が1μmの炭酸ストロンチウム(SrCO)を、ストロンチウムの酸化物換算で表1に示す割合(モル%)となるように秤量して添加し、純水を加え、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより、湿式混合を行なった。次に、これに1〜10質量%のバインダを加えて混合し、スプレードライヤで噴霧造粒して2次原料を得た。
【0047】
次に、この2次原料を用いて、金型プレス成形法によりφ20mm,高さが15mmの円柱体の成形体を得た。そして、得られた成形体を大気中1500℃〜1700℃の焼成温度で10時間保持して、試料No.1〜30の誘電体セラミックスを得た。なお、これら試料は、焼成後に上下面と側面の一部に研磨加工を施し、アセトン中で超音波洗浄を行なった。
【0048】
なお、試料No.22については、ストロンチウム成分を添加しない以外は上述した製造方法と同様の工程にて作製した。また、試料No.30については、チタン酸カルシウム(CaTiO)仮焼粉体に、平均粒径が3μmのチタン酸カルシウム(CaTiO)粉体を添加せずに、1次原料の秤量によって、表1に示す割合(モル%)となるようにしたこと以外は、上述した製造方法と同様の工程にて作製した。
【0049】
そして、これら試料No.1〜30について、誘電特性を測定した。誘電特性は円柱共振器法(国際規格IEC61338−1−3(1999))により測定周波数3.5〜4.5GHzで比誘電
率εrおよびQ値を測定した。Q値は、マイクロ波誘電体において一般的に成立する(Q値)×(測定周波数f)=一定の関係から、1GHzでのQ値に換算した。また、−40〜85℃の温度範囲における共振周波数を測定し、20℃での共振周波数を基準にして−40〜20℃,20〜85℃の共振周波数の温度係数τfをそれぞれ算出した。
【0050】
また、波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子製:JXA−8100)を用いて、各試料の任意の表面のCa,Ti元素の分布状態を確認し、他の部分よりもCaおよびTi元素の検出比率が高く示される部分が重なっていれば、CaTiO結晶が存在するとして、CaTiO結晶が存在するか否かについて確認した。
【0051】
結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から、モル比α,β,γ,δが、0.155≦α≦0.210,0.155≦β≦0.220,0.284≦
γ≦0.360,0.284≦δ≦0.365のいずれかを満足しない、試料No.1,6,7,10,11
,17,18,21については、比誘電率εrが40〜48の範囲内でなかったり、Q値が30000未
満であったり、−40〜20℃および20〜85℃の共振周波数の温度係数τfの絶対値が10ppm/℃を超えていた。
【0054】
また、組成式の成分100質量%に対して、ストロンチウム成分の添加量が酸化物換算で0.001モル部未満である試料No.23は、−40〜20℃と20〜85℃との共振周波数の温度係数τfの値の差が2ppm/℃を超えていた。また、ストロンチウムの添加量が酸化物換算で0.01モル部を超える試料No.29は、Q値の低下傾向が見られるとともに、−40〜20℃および20〜85℃の共振周波数の温度係数τfの絶対値が10ppm/℃を超えていた。
【0055】
また、試料No.22については、ストロンチウム成分を含んでいないために、CaTiO結晶がLaAlO−CaTiOのペロブスカイト相中に固溶することを抑制することができず、CaTiO結晶が存在しておらず、−40〜20℃と20〜85℃との共振周波数の温度係数τfの値の差が2ppm/℃を超えていた。
【0056】
また、試料No.30については、共振周波数の温度係数τfの値がプラス側を示すCaTiO結晶が存在していないために、−40〜20℃および20〜85℃の共振周波数の温度係数τfの値が+10ppm/℃を超えていた。さらに、−40〜20℃と20〜85℃との共振周波数の温度係数τfの値の差が2ppm/℃を超えていた。
【0057】
これに対し、モル比α,β,γ,δが、0.155≦α≦0.210,0.155≦β≦0.220,0.284
≦γ≦0.360,0.284≦δ≦0.365、かつα+β+γ+δ=1を満足するとともに、組成式
の成分100質量%に対してストロンチウムを酸化物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下含んでなり、LaAlO−CaTiOのペロブスカイト相中に、CaTiO結晶が存在している試料No.2〜5,8,9,12〜16,19,20および24〜28は、比誘電率εrが40〜48であり、Q値が30000以上であり、−40〜20℃および20〜85℃のそれぞれにおけ
る共振周波数の温度係数τfの絶対値が10ppm/℃以下であり、−40〜20℃と20〜85℃との共振周波数の温度係数τfの差が2ppm/℃以下であった。
【0058】
以上の結果、組成式をαLa・βAl・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.155≦α≦0.210,0.155≦β≦0.220,0.284≦γ≦0.360,0.284≦δ≦0.365、かつα+β+γ+δ=1を満足するとともに、組成式の成分100質量%に対してストロンチウムを酸化物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下含んでなり、LaAlO−CaTiOのペロブスカイト相中に、CaTiO結晶が存在していることにより、比誘電率εrが40〜48となり、30000以上の高いQ
値が得られ、かつ低温域(−40〜20℃)および高温域(20〜80℃)での共振周波数の変化を示す温度係数τfの絶対値を小さくすることができるとともに、低温域と高温域との共振周波数の温度係数τfの値の差を小さくすることができるので、気温差の激しい場所においても長期間にわたって安定して良好な性能を維持することができることがわかった。
【実施例2】
【0059】
次に、実施例1と同様の製造方法において、チタン酸カルシウム(CaTiO)仮焼粉体に添加するチタン酸カルシウム(CaTiO)粉体の量を異ならせて、CaTiO結晶の面積率を種々に変更した試料を作製し、実施例1と同様の測定方法にて−40〜20℃と20〜85℃との共振周波数の温度係数τfを測定する試験を実施した。
【0060】
組成式をαLa・βAl・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したときのモル比α,β,γ,δ,ストロンチウム成分の添加量については、実施例1の試料No.14と同様の組成比率とし、チタン酸カルシウム(CaTiO)仮焼粉体100質量%に対して加えるチタン酸カルシウム(CaTiO)粉体の添加量を表2のよ
うに変えたこと以外は実施例1の製造方法と同様に作製した。
【0061】
そして、共振周波数の温度係数τfを実施例1と同様の方法にて測定した。また、CaTiO結晶の面積率は、波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子製:JXA−8100)により、誘電体セラミックスの任意の表面の100μm×100μmの範囲のCaおよびTi元素の分布状態を測定し、他の部分よりもCaおよびTi元素の検出比率が特に高く示す部分において重なるところの面積を全測定面積で除することにより面積比率を算出した。
【0062】
結果を表2に示す。なお、試料No.33は試料No.14である。
【0063】
【表2】

【0064】
表2から、CaTiO結晶の割合が面積率が2.5%未満の試料No.31および15%を
超える試料No.37に比べて、試料No.32〜36は、−40〜20℃と20〜85℃との共振周波数の温度係数τfの値の差が小さかったので、ペロブスカイト相中におけるCaTiO結晶の割合が、面積率で2.5%以上15%以下であることにより、低温域と高温域との共振
周波数の温度係数τfの値の差をさらに小さくできることがわかった。
【0065】
また、これらの実施例1,2の結果から、本実施形態の誘電体セラミックスは、40〜48の比誘電率εrにおいて、Q値が30000以上と高く、気温差の激しい場所においても共振
周波数の変化が小さいので、共振器のフィルタとして長期間にわたって安定して用いることができることがわかった。
【符号の説明】
【0066】
1:共振器
2:金属ケース
3:入力端子
4:出力端子
5:セラミック体
6:載置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式をαLa・βAl・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したときに、モル比α,β,γ,δが下記式を満足するとともに、前記組成式の成分100質量%に対してストロンチウムを酸化物換算で0.001モル部以上0.01モル部以下含んでなり、LaAlO−CaTiOのペロブスカイト相中に、CaTiO結晶が存在していることを特徴とする誘電体セラミックス。
0.155≦α≦0.210
0.155≦β≦0.220
0.284≦γ≦0.360
0.284≦δ≦0.365
α+β+γ+δ=1
【請求項2】
前記ペロブスカイト相中におけるCaTiO結晶の割合が、面積率で2.5%以上15%以下であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミックス。
【請求項3】
ランタンの酸化物となる粉体およびアルミニウムの酸化物となる粉体を含む1次原料と、カルシウムの酸化物となる粉体およびチタンの酸化物となる粉体を含む1次原料とを、それぞれ仮焼した後に2μm以下に粉砕して、アルミン酸ランタン仮焼粉体およびチタン酸カルシウム仮焼粉体を得る工程と、
該チタン酸カルシウム仮焼粉体100質量に対し、平均粒径が2.5μm以上5μm以下のチタン酸カルシウム粉体を10質量%以上40質量%以下添加して、粒度配合されたチタン酸カルシウム混合粉体を得る工程と、
該チタン酸カルシウム混合粉体と、前記アルミン酸ランタン仮焼粉体とを混合した後、さらにストロンチウムの酸化物となる粉体を添加して、2次原料を得る工程と、
該2次原料を用いて成形した後、1500〜1700℃で焼成して焼結体を得る工程とを含むことを特徴とする誘電体セラミックスの製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の誘電体セラミックスを含むセラミック体をフィルタとして用いたことを特徴とする共振器。


【図1】
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【公開番号】特開2012−46374(P2012−46374A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189607(P2010−189607)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】