説明

調整可能な新種のガス貯蔵材料及びガス感知材料

基板上に堆積したナノワイヤ、ナノチューブ及び薄膜の電子構造を、電子又はホールをドープすることで変える。そして、該電子構造を、担持材料を変えることにより、又はゲート電圧を印加することにより調整できる。該電子構造を、水素、酸素、アンモニア、二酸化炭素などのガスを吸収し、貯蔵し、放出するように制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的にガスを貯蔵する組成及び方法に関し、特に、材料の電子構造を変えることで、特定のガスの貯蔵又は感知について該材料を調整する組成及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス貯蔵の一般的な技術は、液化法を経る技術である。ガスを圧縮、冷却して、気相から液相にする。例えば、水素ガスは、20Kで、大気圧で液化し、水素ガスを約70g/Lの液相として貯蔵できる。しかしながら、液化法は非常にエネルギー集約的であり、特別に設計した断熱容器と、非常に注意深い取り扱い要し、ガス貯蔵法よりも低温で液化ガスを保持する必要がある。
【0003】
他のガス貯蔵の一般的な技術は、適する容器中にガスを圧縮する技術である。例えば、35MPaに加圧したガスタンクは15g/Lの水素ガスを貯蔵できる。しかしながら、加圧ガスタンクは、重量があり、扱いにくく、輸送困難である。
【0004】
また、ガスを適切なホスト材料に化学的に結合させることによっても、ガスを貯蔵できる。金属、金属水素化物、ガラス微小球体及びカーボンナノチューブを含む数種類の材料が、ホストとして研究されてきた。しかしながら、今まで研究された材料はすべてガス貯蔵容量が低い。さらに、金属水素化物などからガスを放出するために高温が必要であるため、かかる方法は商業的使用に適さない。
【0005】
近年、ガスセンサーとして使用するために、LC共鳴センサーをカーボンナノチューブ材料と組み合わせるようになった。例えば、Ong, et al. IEEE Sensors Journal, 2: 82 (2002)は、平面LC共鳴回路上に堆積した多層カーボンナノチューブ/二酸化ケイ素複合層から形成されるガスセンサーを記載する。MWNT/SiO2複合体の誘電率及び/又は伝導度はCO2、O2、又はNH3の吸着により変化し、吸着により誘電率及び/又は伝導度が変化することによってセンサーの共鳴周波数が変わり、ループアンテナを通じて遠隔的に、この共鳴周波数を監視できる。センサーはO2及びCO2に対しては可逆性を示し、NH3に対しては不可逆性を示す。
【0006】
水素は、グラファイト及びカーボンナノファイバーなどの炭素ナノ構造体にも貯蔵されうる(A. Dillon et al. Nature 386: 377 (1997), A. Chambers et al. J. Phys. Chem. B 102: 3378 (1998)、及びU.S. Patent No. 5,653,951 "Storage of hydrogen in layered nanostructures" to N. Rodriguez and R. Baker)。ナノ構造体は、1次元、二次元、又は三次元すべてにおいて数百ナノメータ未満の空間的広がりを有する原子的構造として定義できる。ある分類のナノ構造体は、ときに層構造物と呼ばれる平面ネットワークにより形成される。貯蔵した水素は、しかしながら、炭素ナノ構造体から容易に放出されない。
【0007】
三菱重工業社による「ガス吸着エレメント」2003年12月8日公開、日本特許公開公報第2003−225561号A2は、金属箔の表面を炭素材料で被覆できることを開示する。該炭素材料は、水素吸蔵容量を有し、高い熱伝導度を有する。該炭素材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー又は他の炭素材料であってもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
特許文献1:米国特許第5,653,951号明細書
特許文献2:特開第2003−225561号明細書
特許文献3:米国特許第6,280,697号明細書
特許文献4:米国特許出願公開第10/304,316号明細書
特許文献5:米国特許第5,973,444号明細書
【非特許文献】
【0009】
非特許文献1:A. Dillon et al. Nature 386: 377 (1997)
非特許文献2:A. Chambers et al. J. Phys. Chem. B 102: 3378 (1998)
非特許文献3:Ong, et al. IEEE Sensors Journal, 2: 82 (2002)
非特許文献4:Journet et al Nature 388: 756 (1997)
非特許文献5:Harutyunyan et al, NanoLetters 2, 525 (2002)
非特許文献6:Carey and Sundberg "Advanced Organic Chemistry 3rd Ed." Vols.
A and B, Plenum Press, New York (1992)
非特許文献7:Cotton et al. "Advanced Inorganic Chemistry 6th Ed." Wiley,
New York (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
公知のガス貯蔵方法は、使い勝手がわるく、特殊な装備や取扱いを要し、捕集ガスを放出するのに高圧又は高温を要する。したがって、本発明は、容易に放出可能な特定のガスを貯蔵し感知する組成物、方法及び製法を提供する。
【0011】
本発明は、ガス貯蔵及びガス感知する組成物、方法及び製法を提供する。有利なことには、本発明は、雰囲気圧力又はより高圧で雰囲気温度又はより高温でガス貯蔵が可逆的に行われる方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一つの特徴は、材料の表面のポテンシャルエネルギーを変えることにより改変できる材料について、ガス貯蔵システム中で吸着剤として使用可能な材料に改変する方法を提供することである。このような吸着材料は、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤ、カーボンナノファイバー等の一次元材料や膜などの二次元材料などのガス貯蔵能を有する材料であればよい。したがって、このような吸着材料は、炭素、活性炭、炭素粉末、非晶質又は不規則炭素、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー及びグラファイト、膜等、また、Al、Ni、Ga、As及びそれらの合金などの金属ナノワイヤ及び薄膜から選択できる。本発明は、電子又はホールを材料にドーピング工程を備え、該ドーピング工程によって吸着材料の構造的及び電子的特性を変える。「ドーピング」という用語は、電圧の印加であって、任意に1種類以上の金属を材料中への添加を伴い、又は、吸着材料の構造的及び電子的特性を変える結果を伴う電圧の印加をいう。他の形態において、吸着材料と担体間のポテンシャル勾配付与によって生成する電子又はホールをドーピングすることによって、吸着材料の構造的及び電子的特性を変える。
【0013】
本発明の他の特徴は、特定ガスの貯蔵又は選択ガスの感知に最適な化学ポテンシャルとなるような、ドーピング又は担持材料変更によってこのような吸着材料の電子構造を改変できることである。雰囲気温度及び圧力でゲート電圧を遮断することによってガス分子を放出できる。
【0014】
以下の詳細な説明を参照しながら、本発明のこれら又はその他の実施形態を明らかにする。さらに、特定の手順や組成物をより詳細に記載する多数の参考文献を本明細書中に記し、それらの全体を参照して援用する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施するための装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
I.定義
他の記載がない限り、明細書及び特許請求の範囲を含む本明細書中に使用する下記用語を下記のように定義する。明細書及び添付の特許請求の範囲中に用いられる、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに違う場合を除き、複数への言及を含むことに留意しなければならない。標準的な化学用語の定義は、Carey and Sundberg (1992) "Advanced Organic Chemistry 3rd Ed." Vols. A and B, Plenum Press, New York, 及びCotton et al. (1999) "Advanced Inorganic Chemistry 6th Ed." Wiley, New Yorkをはじめとする参照文献にある。
【0017】
II.概要
本発明は、ガス貯蔵及びガス感知する組成物、方法及び製法を開示する。単層カーボンナノチューブ(SWNTs)又は複層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、膜等、さらに、Al、Ni、Ga、As及びそれらの合金などの金属ナノワイヤ及び薄膜などの一次元又は二次元材料を担体上に堆積させ、担体と吸着材料間のポテンシャル勾配の付与によって電子をドーピングする。印加ゲート電圧の変更及び担持材料の変更によって、特定のガスに最適となるように吸着材料の電子構造を調整できる。雰囲気温度及び雰囲気圧力でゲート電圧を変えることによってガス分子を放出できる。
【0018】
III.吸着材料の選択及び合成
本発明で用いる吸着材料は一次元又は二次元材料であってもよい。すなわち、吸着材料は、カーボンナノチューブ、活性炭、炭素粉末、非晶質又は不規則炭素、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、グラファイト及び薄膜であってもよい。さらに、Al、Ni、Ga、As及びそれらの合金などの金属ナノワイヤ及び薄膜を本発明の実施において使用できる。選択した吸着材料は市販源から購入又は公知の方法を用いて合成できる。具体的な吸着材料形成方法は本発明にとって重要ではなく、記載した方法は単なる例示であり、いかなる意味でも本発明を限定するものではない。
【0019】
グラファイトは市販されており、層構造を有し、結晶性が高く、表面積が小さい。代表的なグラファイトの層間距離は0.335nmである。
【0020】
カーボンファイバーは市販されており、グラファイト類似構造の炭素でできている。カーボンファイバーは炭化水素の触媒分解法により商業生産できる。カーボンファイバーの直径は、ミクロンからセンチメーターのオーダー範囲にある。
【0021】
活性炭は市販されている。活性炭の活性度は、大きな表面積、空隙率及び低い結晶性に関係する。非晶質炭素は市販の低結晶性炭素である。
【0022】
単層カーボンナノチューブ(SWNTs)は市販されており、又は当業者に周知の多数の異なる技術に従って合成できる。例えば、SWNTsは、米国特許第6,280,697号明細書のレーザアブレーション法や、Journet et al Nature 388: 756 (1997)のアーク放電法や、Harutyunyan et al, NanoLetters 2, 525 (2002)に記載された文献の方法に基づく反応温度で担持金属ナノ粒子を炭素源と接触させる化学蒸着法などによって製造できる。好適には、SWNTsは化学蒸着法によって生産できる。
【0023】
化学蒸着法(CVD)によるカーボンナノチューブの合成方法は、炭素含有ガスなどの炭素前駆体を用いる。一般に、800℃から1000℃までの温度で熱分解しない炭素含有ガスを使用できる。炭素含有ガスの好適例としては、一酸化炭素;メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、エチレン、アセチレン及びプロピレンなどの飽和及び不飽和脂肪族炭化水素;アセトン及びメタノールなどの酸素含有炭化水素;ベンゼン、トルエン及びナフタレンなどの芳香族炭化水素;一酸化炭素及びメタンを例とする上記ガスの混合物が挙げられる。一般に、アセチレンを使用すると、多層カーボンナノチューブの形成が促進され、一方、CO及びメタンは、単層カーボンナノチューブの形成に好適なフィードガスである。水素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン及びキセノンもしくはこれらの混合物などの希釈ガスと炭素含有ガスを任意に混合してもよい。
【0024】
CVD法で使用する触媒組成物は当業者に公知の触媒組成物であってもよい。従来、当該粒子は、例えば、鉄、酸化鉄、又は、コバルト、ニッケル、クロム、イットリウム、ハフニウム又はマンガンフェライト等のフェライトなどの磁性金属又は合金製であってもよい。本発明において有用な粒子は、好適には全体の平均粒径が50nm〜約1μm、ただし、一般的には個別粒子の粒径が約400nm〜約1μmであってもよい。
【0025】
金属触媒は、V又はNbなどのV族金属及びそれらの混合物や、Cr、W又はMoを含むVI族金属及びそれらの混合物や、Mn又はReなどのVII族金属や、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptを含むVIII〜X族金属及びそれらの混合物や、Ce、Eu、Er又はYbなどのランタノイド及びそれらの混合物や、Cu、Ag,Au、Zn,Cd、Sc、Y又はLaなどの遷移金属及びそれらの混合物から選択できる。本発明で用い得る二金属触媒などの触媒混合物の具体例としては、Co−Cr、Co−W、Co−Mo、Ni−Cr、Ni−W、Ni−Mo、Ru−Cr、Ru−W、Ru−Mo、Rh−Cr、Rh−W、Rh−Mo、Pd−Cr、Pd−W、Pd−Mo、Ir−Cr、Pt−Cr、Pt−W及びPt−Moが挙げられる。好適には、金属触媒は、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、又はFe−Mo、Co−Mo、及びNi−Fe−Moなどのそれらの混合物である。
【0026】
定義された粒径及び粒径分布を有する金属ナノ粒子を調製するために、金属、二金属又は複数の金属の組み合わせを使用できる。同時継続中で共有の米国特許出願公開第10/304,316号明細書に記載したとおり、又は当該技術分野で公知の他の方法によって、不動態化溶剤に添加した対応する金属塩の熱分解により、金属ナノ粒子を提供するよう溶媒の温度を調整して、触媒ナノ粒子を調製してもよい。金属ナノ粒子の粒径及び直径は、不動態化溶媒中の適切な金属濃度を用いて制御でき、また、熱分解温度での反応時間を制御することによって制御できる。金属塩は、金属のいかなる塩であってもよいので、溶剤に可溶で、及び/又は、金属塩の融点が不動態化溶剤の沸点より低くなるように金属塩を選択してもよい。したがって、金属塩は、金属イオン及び対イオンを含む。ここで、対イオンとしては、硝酸イオン、亜硝酸イオン、ニトリドイオン、過塩素酸イオン、硫酸イオン、スルフィドイオン、酢酸イオン、ハライドイオン、メトキシド又はエトキシドなどのオキシドイオン、アセチルアセトネートイオン等が挙げられる。例えば、金属塩としては、酢酸鉄(FeAc2)、酢酸ニッケル(NiAc2)、酢酸パラジウム(PdAc2)、酢酸モリブデン(MoAc3)等及びそれらの組み合わせが挙げられる。金属塩の融点は、好適には不動態化溶剤の沸点より約5℃〜50℃低く、より好適には沸点より約5℃〜20℃低い。溶剤は、グリコールエーテル、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール H(OCH2CH22O(CH23CH3、これを以下では慣用名ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルと呼称する、などのエーテルであってもよい。
【0027】
本発明の他の特徴は、吸着材料が多層カーボンナノチューブ(MWNTs)であってもよいことである。MWNTsは市販されており、又は化学蒸着法により形成できる。公知の方法を用いて、高配向性で高純度なMWNTsをキシレン−フェロセン混合物の熱分解によって製造できる。キシレンは炭化水素源として働き、フェロセンは成長するナノチューブを種成長し得る鉄触媒ナノ粒子を提供する。一製法によれば、フェロセン(約6.5%)をキシレンに溶解し、流速約1ml/時で石英管に供給してもよい。この混合物はプレヒーター(約200℃に維持)の末端に達すると気化し、気化物をAr/H2気流中炉内へ流し込んでもよい。炉を、キシレン/フェロセン混合物が分解しMWNTsを形成できる温度(例えば、約750℃)に維持する。ナノチューブを炉の壁部から収集し、直径が約25nmであってもよい。
【0028】
ナノワイヤとは、直径が典型的には約1ナノメートル(nm)から約500nmの範囲にあるワイヤをいう。ナノワイヤは固体であり、非晶質構造、グラファイト類似構造又はヘリンボン構造であってもよい。ナノワイヤは軸に沿ってのみ周期的であり、したがって他の面においてエネルギー的に好適な秩序を呈し、結果的に結晶秩序を欠いてもよい。
【0029】
ナノワイヤは典型的には金属又は半導体材料から製造され、当該金属又は半導体材料の電子的又は光学的特性のいくつかは、相対的に大きな寸法での同一材料の同一の電子的又は光学的特性と相違する。例えば、直径100nm以下の金属ワイヤは、伝導電子の位相情報の保持及び明確な電子波干渉効果などの量子伝導現象を呈する。半導体又は金属のナノワイヤは、メゾスコピック研究における潜在的な用途、ガスセンサー及び電界放出器用のナノデバイスの開発及び大表面積構造物の潜在的な用途ゆえにかなり注目されている。例えば、Xuらの米国特許第5,973、444号明細書は、カーボンファイバー系電界放出装置を開示し、カーボンファイバー電界放出器は、装置の一部として触媒金属膜上に成長及び保持される。Xuらは、より直立したファイバーの成長を磁場又は電場が促進するため、装置の一部を形成するファイバーを磁場又は電場の存在下で成長させてもよいと開示する。
【0030】
一つの量子ワイヤ製造技術では、マイクロリソグラフィー製法を用い、有機金属気相成長法(MOCVD)を行う。本技術は、バルク状アルミニウム砒素(AlAs)基板内に埋め込んだ、ガリウム砒素(GaAs)の単一の量子ワイヤ又は一列の複数本の量子ワイヤを生成するのに使用してもよい。しかしながら、本技術における一つの課題は、マイクロリソグラフィー製法及びMOCVDが、GaAs及び関連材料に限定されることである。さらに、本技術は実用的用途に適するワイヤの寸法均一度をもたらさない。
【0031】
ナノワイヤ系の他の製造方法では、テンプレートとして多孔質基板を使用し、自然でできる配列である基板内のナノチャンネル又は孔を対象材料で充填して行う。しかしながら、比較的小径の比較的長く連続したワイヤを生成することは困難である。なぜなら、孔径が小さくなるにつれ、孔が分岐又は合一する傾向にあり、所望の材料で小径の長孔を充填することに関連する問題のためである。
【0032】
本発明で用いるナノワイヤを、基板を提供し、基板上に有機金属層を堆積させ、有機金属層を有する基板を加熱して基板上にナノワイヤを生成することによって合成してもよい。基板は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ガラス、マイカ、ケイ素、ガラス繊維、テフロン(登録商標)、セラミックス、プラスチック又は石英ないしこれらの混合物であってもよい。有機金属層は、鉄フタロシアニン又はニッケルフタロシアニンなどの金属フタロシアニンであってもよい。有機金属を薄膜として基板上に堆積してもよく、空気雰囲気下加熱して金属ナノワイヤを形成してもよい。
【0033】
具体的には、本発明で用いるナノワイヤを、基板を提供し、鉄フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン又はこれらの混合物である有機金属層を基板上に堆積させ、有機金属層を有する基板を加熱して基板上にナノワイヤを生成することによって合成してもよい。
【0034】
本発明の他の特徴は、薄膜などの二次元材料を使用してもよいことである。本発明で使用する薄膜は、好適には主成分として炭素を含む。したがって、炭素薄膜は、膜厚0.5nm〜約100nmの、好適には膜厚約5nm〜約80nmの、さらにより好適には膜厚約10nm〜約80nmのフラーレン、SWNT又はMWNTであってもよい。膜は、ホウ素、窒素、Cs、Rb、K、Pd、Li、Al、Co、Fe、Ni,Cu、CrC、MoC、MoO3、WCx、WO3、TiC、SiCなどの炭素以外の他の元素又は成分を含んでもよい。他の元素又は成分は、好適には濃度約50at%以下、より好適には濃度30at%以下で存在する。
【0035】
本発明で使用する膜は、非晶質シリコン薄膜、微結晶シリコン薄膜及び非晶質シリコン薄膜であってもよい。これらの膜は市販源から入手してもよく、又は非晶質シリコン膜、微結晶シリコン薄膜、窒化ケイ素薄膜を、プラズマ増強化学蒸着法(PECVD)を用いて製造してもよい。典型的には、基板を真空反応チェンバー内のステージ上に載置し、ガス供給ユニットのガス導入ノズルを通してチェンバーにSiH4を供給する。Si26、SiH2Cl2などのSiH4以外のシリコンソースガスも、通常、流量0.5sccm、圧力70mTorrで使用してもよい。誘導結合プラズマを形成するために、チャンバーに隣接して設置したスパイラルアンテナに40WのRF出力を印加する。基板温度が250℃に達した後、非晶質シリコン薄膜が基板上に堆積する。
【0036】
他の特徴は、薄膜は、白金、チタン等の金属又は金属合金などであってもよいことである。水素などの濃縮ガスに暴露した場合、電気抵抗に大きな変化を呈するPdTi合金を調製してもよい。パラジウム−チタン合金は、各々の相対濃度が1%:99%〜99%:1%などの約0%〜100%未満の範囲にあってもよい。使用する正確な合金比率は、用途に依存する。例えば、ガスが水素であり、センサーを高濃度の水素に暴露する場合、合金中のTi量を増やす。合金は、好適には50〜99at%又は60〜99at%のPd、より好適には70〜98at%のPd、さらにより好適には90〜98at%のPdを含む。PdTi合金の薄膜をスパッタリングによって形成してもよい。Pd及びTi原子粒子を跳ばして、基板上に堆積することができる。合金中に存在する各材料量を変えるために、スパッタ率を変えてもよい。Pdを出力50W〜450Wでスパッタリングしてもよい。好適な方式においては、Pdを出力75W〜300Wでスパッタリングする。より好適な方式においては、Pdを出力100W〜200Wでスパッタリングする。添加材料が合金中に存在してもよい。かかる添加物としては、Cr、Ru、Ag、Au、Zr, Cu、Ir、Al、Hf、Pt及びNiが挙げられ、20at%まで存在してもよい。他の添加物も使用してもよい。かかる添加物を含む合金は、20at%未満、又は20at%超のPt又はNiを有してもよい。スパッタ粒子が基板に付着し、基板表面上に薄膜層を形成する。
【0037】
本発明の一つの特徴は、一次元又は二次元材料に金属をドープしてもよいことである。材料にドーピングする金属は、例えば、Li、Na、K、Rb又はCsなどのアルカリ金属ないしアルカリ金属の混合物であってもよい。例えば、2種類又は3種類の異なる金属を用いてもよく、好適にはLiと1種類の付加的なアルカリ金属の混合物を用いてもよい。例としては、Li及びKの混合物である。
【0038】
アルカリ金属塩としては、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物塩、ハロゲン化物、酢酸塩、水素化物塩、亜硝酸塩等が挙げられる。反応中のアルカリ金属と炭素材料のモル比は、好適には約1:50〜1:1、より好適には約1:20〜1:1、さらに好適には約1:10〜1:5である。
【0039】
炭素材料へのアルカリ金属のドーピングは、炭素材料とアルカリ金属塩間の固相反応によって行ってもよい。固相反応法は、好適には、炭素材料をアルカリ金属塩と十分に混合し、ヘリウム、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下又は水素などの還元性ガス雰囲気下、この混合物を高温処理して行う。
【0040】
IV.担体
一次元又は二次元材料は、好適には担持材料上に載置してもよい。担体は、シリカ、アルミナ、MCM−41、MgO、ZrO2、アルミニウム安定化酸化マグネシウム、ゼオライト又は当該技術分野で公知の他の担体及びそれらの組み合わせであってもよい。例えば、Al23−SiO2ハイブリッド担体を使用してもよい。本発明の一つの特徴は、一次元又は二次元材料の合成を担持材料の存在下行ってもよいことである。担持材料を粉末化してもよく、粉末化によって小粒径及び大表面積がもたらされる。粉末化担持材料は、好適には粒径約0.01μm〜約100μm、より好適には粒径約0.1μm〜約10μm、さらに好適には粒径約0.5μm〜約5μm、最も好適には粒径約1μm〜約2μmである。粉末化担持材料は、好適には表面積約50〜約1000m2/g、より好適には表面積約200〜約800m2/gである。粉末化酸化物は、できたてを調製してもよく、又は市販されている。例えば、粒径1〜2μm及び表面積300〜500m2/gの適切なAl23粉末は、Alfa Aesar社(米国マサチューセッツ州)又はDegussa社(米国ニュージャージー州)から市販されている。粉末化酸化物と金属ナノ粒子を形成するために使用した金属の当初量との重量比を、所望の重量比にするように、粉末化酸化物を添加してもよい。典型的には、重量比は約10:1〜約15:1であってもよい。例えば、100mgの酢酸鉄を出発物質として用いる場合に、約320〜480mgの粉末化酸化物を溶液中に導入してもよい。金属ナノ粒子の粉末化酸化物に対する重量比は、例えば、1:1、2:3、1:4、3:4、1:5など、約1:1〜約1:10であってもよい。
【0041】
V.ガスの貯蔵と放出
上記で合成した担持材料は、選択ガスの貯蔵又は検知に使用できる。一つの特徴は、担体はガス分子が運動できる複数の貫通孔(図1)を備えることである。孔の形状は円形に限定されず、楕円形、多角形又はスリット状であってもよい。
【0042】
図1に示すように、担体の下部を電源の(−)極に接続してもよい。SWNT、MWNT、ナノワイヤ又は膜などの一次元又は二次元材料を担体上に堆積させ、担体の上部を同一電源の(+)極に接続してもよい。材料のガス感知能又はガス貯蔵能は、担体の選択又は電圧の変更によって調整できる。
【0043】
担持材料の表面上に炭素含有材料を被覆させてもよく、すなわち、炭素含有材料を担持材料上に直接堆積させてもよい。例えば、一実施形態において、カーボンナノチューブを担持材料の表面上に直接成長させるように、ナノチューブ形成工程中、カーボンナノチューブ含有材料を担持材料上に直接堆積させてもよい。ナノチューブ含有層の深度及び純度は本発明にとって重要ではない。例えば、一実施形態において、吸着性ナノ構造含有層は、約0.1μm〜約100μm厚、好適には約0.5μm〜約10μm厚、又は約2μm厚であってもよい。
【0044】
本発明の一つの特徴は、担体はSi又はSiO2であってもよく、炭素含有材料がSWNTsであってもよいことである。ゲート電圧を印加して、選択ガスを優先的にSWNTs上に吸着するように、SWNTsの電子構造を調整する。選択ガスは、酸素(O2)、窒素(N2)、アンモニア(NH3)、二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)、亜酸化窒素ガス(NO)等であってもよい。ゲート電圧は、約−100V〜約+100V、好適には約−50V〜約+50V、より好適には約−20V〜約+20V、及び中間の値であってもよい。そして、例えば、選択ガスが酸素の場合、装置を約20℃〜約25℃の温度で、約0.95気圧〜約1.05気圧の圧力で、約2時間〜約48時間、約−20V〜約+20Vのゲート電圧を印加しながら保持してもよい。
【0045】
本発明の一つの特徴は、担体はSi又はSiO2であってもよく、炭素含有材料がナノワイヤであってもよいことである。ゲート電圧を印加して、選択ガスを優先的にナノワイヤ上に吸着するように、ナノワイヤの電子構造を調整する。そして、例えば、選択ガスが水素の場合、装置を約20℃〜約25℃の温度で、約0.95気圧〜約1.05気圧の圧力で、約2時間〜約48時間、約−10V〜約+15Vのゲート電圧を印加しながら保持してもよい。
【0046】
ゲート電圧を変えることで、前記したように貯蔵されたガスを放出できる。一つの特徴は、捕集ガスを制御可能に放出するため、ゲート電圧を最適ゲート電圧に対して約1%から約50%で増減することである。例えば、ゲート電圧を約10%低減することによって吸着ガスを数時間から数日にわたって、また、ゲート電圧を約25%低減することによってより速やかに放出でき、ないしは、ゲート電圧を完全に遮断することによって数秒間にわたって放出できる。
【0047】
本発明の他の特徴は、炭素含有材料中に複数の金属を含有させることにより炭素含有材料のガス感知能又はガス貯蔵能を調整できることである。例えば、炭素材料に、Li、Na又はKをドープしてもよい。このようにドープした炭素材料は、電圧を印加した場合、例えば、約0℃〜約40℃、好ましくは約20℃〜約25℃の温度範囲で、約0.5気圧〜約3気圧、好ましくは約0.9気圧〜約1.5気圧の圧力で、水素、酸素、一酸化炭素又は二酸化炭素を吸収できる。
【実施例】
【0048】
以下は、本発明を実施する具体的な実施形態の例である。実施例は説明の目的でのみ提供するものであって、いかなる意味でも本発明の範囲を限定する意図を有さない。使用する数値(例えば、数量、温度など)について確実に正確であるように努めたが、もちろん、いくつかの実験上の誤差や偏差はありうる。
【0049】
例1 担持触媒の調製
金属塩溶液中に担持材料を含浸させて、触媒を調製した。典型的な手順では、Fe:Alのモル比1:2でFe(NO22を用いた。窒素雰囲気下、モル比1mM:20mMでFe(NO22を水に添加した。その後、亜硝酸アルミニウムを当該金属塩含有水溶液に添加した。当該反応混合物を、窒素雰囲気下、機械式撹拌機を用いて混合し、還流下90分間加熱した。溶媒を除去するため、混合物上にN2気流を流し続けながら、反応を約60℃に冷却した。黒色膜が反応フラスコの壁部上に形成した。黒色膜を集め、メノウ乳鉢で粉砕し、微細黒色粉末を得た。
【0050】
例2 カーボンナノチューブの合成
カーボンナノチューブをHarutyunyan et al, NanoLetters 2, 525 (2002)に記載した実験装置を用いて合成した。バルク状SWNTsのCVD成長法合成は、例1で調製した触媒及び炭素源としてメタンを用いた(T=800℃、メタンガス流速:60sccm)。カーボンSWNTsを収率約40wt%(鉄/アルミナ触媒に対する炭素のwt%)で合成できた。作製したSWNTsの透過電子顕微鏡(TEM)像分析から、束状体が作製されたことが示された。λ=532nm及び785nmのレーザー励起光を用いて、上記方法で作製したカーボンSWNTsのラマンスペクトルが得られた。
【0051】
本発明を好適な実施形態及び多様な代替的実施形態に関して具体的に示して記載したが、関連技術分野の当業者であれば、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形状や詳細を多様に変えうると理解できる。本願で言及したすべての刊行特許及び刊行物の全体を本願明細書に参照して援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体及び前記担体上に堆積した炭素含有材料を備えるガス貯蔵装置であって、前記担体が前記炭素含有材料とやりとりをする、電圧を印加することにより前記炭素含有材料のガス吸収を調整するガス貯蔵装置。
【請求項2】
前記担体を、酸化ケイ素からなる群から選択する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記担体が、酸化ケイ素である請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記炭素含有材料を、カーボンナノチューブ及びナノワイヤからなる群から選択する請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記炭素含有材料が、カーボンナノチューブである請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブ(SWNTs)又は複層カーボンナノチューブ(MWNTs)である請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記炭素含有材料は、約2μm厚である請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記ガスが、水素、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン又はアンモニアである請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記ガスが、水素である請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記電圧を低減することで前記ガスを放出する過程を更に備える請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記電圧を約5%〜約50%低減する請求項10に記載の装置。

【図1】
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【公表番号】特表2012−526720(P2012−526720A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510880(P2012−510880)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/034059
【国際公開番号】WO2010/132300
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】