説明

調理装置用の調理面を備え、かつ下面コーティングを備えるガラスセラミック板、及び同ガラスセラミック板製造のためのコーティング方法

【課題】調理装置の調理面として用いられ、かつ、
a)耐薬品性であり、 b)キッチンの通常照明条件下において不透明であり、 c)簡易にコーティング部分を作製することができ、 d)550℃の温度まで耐熱性であり、及び e)ガラスセラミック中の欠陥が問題となる程度まで知覚されない特性をもつ下面コーティングが施されたガラスセラミック板を提供する。
【解決手段】ガラスセラミック板を、可視光及び赤外線に対して透過性のガラスセラミック材料から成り、ガラスセラミック板下面へ貴金属フィルムがコーティングされて、貴金属フィルムには、貴金属フィルムを反射特性を付与する金及び/または白金、及び/またはパラジウムから成る合金から作製し、かつ銀、銅、珪素、ビスマス及び他の非貴金属を貴金属フィルム中へその全金属含量に対して0〜5重量%含ませ、及び前記貴金属フィルムでコーティングされたガラスセラミック板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光及び赤外線に対して透過性であり、かつ下面に貴金属フィルムの形態でコーティング処理された、ガスレンジあるいは調理装置の調理面を与えるガラスセラミック板に関する。本発明はまた、前記ガラスセラミック板下面に対するコーティングにも関する。さらに本発明は、前記ガラスセラミックパネル下面のコーティング方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
調理装置に用いられる調理面、所謂ガラスセラミック調理面を与えるガラスセラミック板は、ヨーロッパ市場向けとして、典型例として溶融液中において暗色化されるため、上から見た場合外観として黒く、調理装置内部の部品が見えなくなっている。通常、特に近代的キッチンにおいて上方から例えば従来のハロゲン照明等の強い照明が為される状態では、調理装置内部のケーブルあるいは他の部品を上方から猶見ることが可能である。著しく不透明な調理面を与えるため、ガラスセラミック板の典型例として突起の付いた下面へ不透明シリコーンコーティングが処理される。不透明シリコーンコーティングは、使用者に光表示器の表示が見えるようにディスプレイ部分及び残熱表示装置の表示灯付近には通常処理されない。一般的に、光表示装置(ディスプレイ部分及び残熱表示器)の付近にあるガラスセラミック板の下面上の突起付構造には滑らかで無色のシリコーンコーティングが処理されているため、観察されるべき表示が歪むことはない。
【0003】
現在、可視光に対して透過性があり、また両面が滑らかな無色ガラスセラミック板、すなわち溶融液の段階で着色されないガラスセラミック板は、特に日本において調理面として広く利用されている。このようなガラスセラミック板の下面は、該ガラスセラミック板を通して上方から調理装置内部が見えないように、特殊な方法でコーティング処理されている。無色で滑らかなガラスセラミック板上の調理面は、簡単な方法で該ガラスセラミック板下面へのコーティングを変えることによって、その色を変えられる利点がある。従い、下面コーティングによって、同一の無色のガラスセラミック板を銀色、黄色、緑色、あるいは黒以外のいずれか他の色に見えるようにすることが可能である。このようなガラスセラミック板の下面には突起が無いため、照光調理ゾーン表示器、ディスプレイ、残熱表示器を該調理面下側へ直接取り付けることができ、これら表示器はそれら部分への不透明コーティング処理が除外されれば十分目視可能である。
【0004】
日本特許公報H7−17409には貴金属フィルムが下面コーティングとして用いられる記載がある。さらに、EP1,267,593B1には、ガラス融剤及び無機顔料をベースとする下面コーティングに関する記載があり、この下面コーティングには有機化合物(特にシリコーン類、ポリアミド類)をベースとするコーティングをさらに追加して処理することが可能である。DE10014373C2には貴金属コーティングに加えてゾル−ゲルコーティングに関する言及がある。またWO03/098115A1にはスパッタリングされたコーティングに関する言及がある。
【0005】
これらのコーティングには、以下に記載する結果から示されるように、調理面として用いられるガラスセラミック板の下面コーティングとしていくつかの欠点がある。
【0006】
JP H7−17409に記載された貴金属フィルムには、それに含まれる転位金属、すなわち銀の含量ゆえに、焼けた食品に対する耐久性がない。しかしながら、食品はガラスセラミック板にあるガスバーナーを操作するために必要な開口を通して調理面であるガラスセラミック板の下面まで達するため、下面コーティングの食品に対する耐久性はガスバーナーを備える調理装置の下面コーティングにとって必要である。これまで知られている対応策はガス調理装置に関する限り適さない。
【0007】
JP H7−17409に記載された貴金属フィルムは光沢のあるフィルムであって光を反射するため、ガラスセラミック中の欠陥あるいは欠損部分(例えば泡、引っ掻き傷、結晶含有物あるいは石)がこれら貴金属層によって反射、すなわち倍加されて特に明瞭に見えるようになる。しかしながら、ガラスセラミック中の引っ掻き傷あるいは泡等の小さな欠陥を調理面として用いられる無色のガラスセラミック板の製造中に完全に防止することは不可能であるため、無色ガラスセラミック板を貴金属コーティング材だけでコーティングすることは高い製品不合格率へ繋がり、従って方法として不経済である。
【0008】
EP1,267,593B1に従ったガラス融剤及び無機顔料から成る多孔下面コーティング、あるいはDE10014373C2に記載されたゾル−ゲル法をベースとした多孔下面コーティングは、いずれもガラスセラミック板下面へ達した食品による温度処理が加わらなくても明瞭に目視される斑点が生ずることから、同様にガス調理用途に適さないことが実証されている。上記特許において提唱されている密封シリコーンコーティングを用いても、シリコーンコーティングはガスバーナー付近の高温(約450〜550℃)に耐えられないことから、同じく永久的保護は得られない。また、シリコーン層が崩壊することにより、下面の明らかな変色(白色化)がひき起こされる。
【0009】
前記WO公報に従ったスパッタされたコーティングは、たとえそれらが耐薬品性及び耐熱性の要求に十分適合するものであっても、ディスプレイウインドーあるいは光信号のための他の開口を設けるために、例えばJP2004342609Aに従った費用を要する製造技術が必要とされる欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、調理装置の調理面として用いられ、かつ下記特性、すなわち
a)食品材料及び通常の洗剤に対して耐薬品性であり、
b)キッチンの通常照明条件下において不透明であり、
c)簡易にコーティング部分を作製することができ、
d)550℃の温度まで耐熱性であり、及び
e)ガラスセラミック中の欠陥が問題となる程度まで知覚されない、を与える下面コーティングが施されたガラスセラミック板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的及び以下において明らかとなる他の目的は、ガラスセラミック材料から成り、可視光のみならず赤外線に対しても透過性であり、及び貴金属フィルムに形態化された下面コーティングを備える調理装置用調理面を形成するガラスセラミック板によって達成される。
【0012】
本発明によれば、
−前記貴金属フィルムは、該フィルムに反射特性を与える金及び/または白金、及び/またはパラジウムの合金から成り、
−前記合金中の貴金属ではない銀、銅、珪素、ビスマス及び他の非貴金属の含量は全金属含量に対して最大で5重量%、すなわち0〜5重量%の範囲内であり、及び
−被覆ガラスセラミック板の分光(スペクトル)透過率は12%未満、すなわち0〜12%の範囲内である。
【0013】
調理面となるガラスセラミック板を、銀、銅、珪素、錫、鉛、ビスマス、鉄、コバルト、ニッケル、あるいは焼けた食品材料(料理用油、醤油等)によって容易に酸化される他金属(例えば非貴金属や負の標準電位をもつ金属)を全く含まないか、あるいは少量のみ(フィルム中の全貴金属含量に対して5重量%以下)含む貴金属コーティングあるいはフィルムでコーティングすることにはガス調理レンジ部分において特別な利点がある。金、白金及び/またはパラジウムを貴金属フィルムの溶融液全量に対して90〜100重量%、好ましくは95〜100重量%含むこの種のコーティングは特に極めて高い耐薬品性をもつため、燃えた食品材料あるいは慣用の洗剤によるガラスセラミック上面の変色は起こらない。
【0014】
貴金属調製液中の貴金属含量が、顔料ペーストをガラスセラミックへ焼き付ける前の有機金属化合物、溶媒及び樹脂を含む該顔料ペーストの全量に対して5〜50重量%、特に10〜20重量%の範囲内であり、かつ焼付け前のコーティング厚が1〜10μ、特に2〜5μの範囲内である場合に、特に不透明コーティングが得られる。貴金属調製液は溶媒及び樹脂を用いてスクリーン印刷用に調整可能であり、また特にチキソトロープ性であるため、コーティングの例えばディスプレイウインドー用開口を備えた、あるいは周縁無コーティング端部との構造化は技術的に簡略な方式で可能である。前記ペーストの焼付け後、貴金属コーティングのコーティング厚は1μ未満、好ましくは0.05〜0.5μ、特に好ましくは0.1〜0.2μである。前記貴金属調製液は600℃以上、通常は780〜850℃、とりわけ830±10℃の温度において焼き付けされる。
【0015】
本発明に従って得られる特徴ゆえに、下面コーティングされたガラスセラミック板の分光透過率は可視域において極めて高い不透明度に相当する0〜4%、好ましくは0〜1.7%の範囲内である。
【0016】
本発明さらに、前記ガラスセラミック板下面へのコーティング処理方法に関する。本方法は、
a)金及び/または白金、及び/またはパラジウムの合金から成り、かつ銀、銅、珪素、ビスマス及び非貴金属である他金属を貴金属フィルム中の全金属含量に対して0〜5重量%含む少なくとも1種の貴金属調製液を調製し、
b)少なくとも1層として、前記少なくとも1種の貴金属調製液をガラスセラミック板の最初の仕上げ下面へ層厚が1〜10μ、好ましくは2〜5μになるように処理し、及び
c)工程b)において処理された前記少なくとも1種の貴金属調製液を最初の仕上げ下面へ600℃以上、好ましくは780〜850℃の焼付け温度で焼き付ける各工程から構成される。
【0017】
前記貴金属フィルムは、その中に含まれるフィルム安定剤(例えば酸化ロジウム)及び貴金属の高融点特性(金、白金及びパラジウムは1000℃以上において溶融)によって化学的に不活性であることから、550℃以上の温度に対して永久的に熱安定性である。
【0018】
本発明に従ったガラスセラミック板に適するガラスセラミック材料である、例えばSchott AG社によって上市されているLiO−Al−SiOタイプの無色ガラスセラミック板は、30〜500℃の温度範囲において−10×10−7/K〜+30×10/Kの熱膨張係数をもち、下記表Iに重量%で示される元素酸化物から成る化学組成を有する。
【0019】
【表1】

【0020】
ガラスセラミック板下面へ処理された貴金属コーティングは可視光に対して高反射性なのでガラスセラミック板上あるいはその中にある各欠陥を映し出してしまい、これら欠陥は明瞭に識別されてしまうと考えられる。従って、反射性下面コーティングにおける反射によって最も小さな欠陥(例えば直径0.5mm未満の泡)であっても再現され、そのため、観察者にはそれら欠陥が製品の均質性を妨げる製品中の欠陥として見えてしまう。
【0021】
特殊なグリッド中に装飾塗料を含む慣用の装飾を用いてガラスセラミック上面を被覆することによって、泡、引っ掻き傷、溶融混入物、あるいは窪み(ガラスセラミック中の小さな窪み)等の小さなガラスセラミック欠陥(1mm以下の大きさ)が目立って見えることを減ずることができる。装飾塗料としては、EP0771765B1あるいはDE19721737C1に記載されているようなエナメル塗料がある。エナメル塗料では無色ガラスセラミック板が十分に被覆されず、猶調理ユニット内部が見えるので、ガラスセラミック上面を装飾することでガラス欠陥部分を完全に被覆することはできない。さらに、上面装飾が上部へ施されたグリッドによる不良あるいは欠陥から観察者の目が十分に逸らされなければならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の目的、特徴及び利点について添付図面を参照しながら以下に記載する好ましい実施態様を用いてより詳細に説明する。
【0023】
図1に従った典型的に非対称なグリッドは、向きの不規則な長さ2.0〜2.5mm及び幅0.5mmのダッシュ(ダッシュ形状の線)あるいは線から成り、このグリッドによって与えられる被覆率は17%である。このグリッドは調理面へ極めて不規則な外観を与えるため、ガラスセラミック板の欠陥を隠すために適している。従って、ガラスセラミック中あるいは下面貴金属層上に生じた欠陥はもはや目立たず、それら欠陥が表面から表出することはない。
【0024】
意外にも、反射性下面コーティングが施された無色ガラスセラミック中に生じた不良部分あるいは欠陥を隠すために必要な不規則な外観を、図2に示すような表面被覆率が比較的少ない規則的な、すなわち対称的グリッドによっても与えることが可能である。ガラスセラミック板の底面にある貴金属フィルムによって、上面装飾に構造要素が互いに少なくとも2mmないし多くても4mm離れていて被覆率が2〜12%である規則的なグリッドがある場合、上面装飾の構造要素が映し出される。そのようなグリッド構造によって、調理面全体が不均質な外観を呈して、ガラスセラミック板中の欠陥あるいは不良部分が十分満足できるほど隠蔽される。前記グリッドの構造要素は典型例としては点形状あるいはダッシュ形状、すなわち点あるいはダッシュである。図2に示した特定のグリッドは直径が0.5mmであり、点相互間の最小間隔が2.5mmである点群から成っている。これらの点による被覆率は3.4%に達する。
【0025】
前記装飾の隠蔽効果は、前記構造要素の最適間隔が2.5mm(4mmのガラスセラミック面の場合)から変動し、また最適表面被覆率が3〜5%から変動すると減少する。これは、
a)前記構造要素の間隔が大きくなると、すなわち表面被覆率が減少すると、像と鏡像とが観察可能な単位となって、存在する欠陥から注意を散漫させあるいは逸らす望ましい不規則な外観が失われるためである。それにより、観察者はグリッド、すなわちその構造要素及びそれらの鏡像の空き部分を通して、コーティングされていない、あるいは装飾のない上面をもつ調理面の状態と同様に、生じた欠陥を明瞭かつ直接に見ることとなるからである。また、
b)前記グリッドの構造要素の間隔が狭くなるにつれて、すなわち表面被覆率が増大するにつれて、構造要素の鏡像が互いにさらに接近し、その結果調理面の不規則な外観が失われ、隠蔽されるべき欠陥が調理面の上面へ処理された装飾を通して観察可能となるためである。
【0026】
図3A及び3Bには、ガラスセラミック中の欠陥を十分に隠すことができないグリッドのある装飾2種がそれぞれ示されている。
【0027】
図3Aに示されたガラスセラミック板の場合、構造要素の間隔は2mm未満である結果、欠陥の隠蔽は不十分である。図3Aのガラスセラミックの場合、グリッドの点直径は0.4mm、最も小さい点間隔は0.82mm、そして被覆率は20%である。
【0028】
図3Bに示されたガラスセラミック板の場合、被覆率は12%以上であるが、欠陥の隠蔽は不十分である。図3Bのガラスセラミックの場合、グリッドの点直径は0.5mm、最も小さい点間隔は1.2mm、そして被覆率は13%である。
【0029】
前記上面装飾によって下面コーティングの反射作用が減じられるが、これは存在する欠陥の隠蔽に関する点と共に、審美的理由から望ましいことである。
【0030】
さらに、上面装飾の色を変えることにより(例えば白、グレイ、ブラウン)、調理面全体の色感を変えることが可能である。調理面上面へ処理される装飾塗料に隠蔽効果はなく、これら塗料は透明あるいは半透明であるため、観察者には上面装飾ではなく金属的光沢をもつ下面コーティングによって生ずる調理面の色変化が興味ある効果となる。例えば、1層の一様に同じ光沢のある銀色下面コーティングが施された調理面は、上面装飾が白であれば明るい銀色に見え、上面装飾がグレイであれば暗い銀色に見え、また上面装飾がブラウンであればブロンズ色に見える。
【0031】
底面コーティングの輝度は、貴金属フィルムのコーティング厚を変えることによって変更可能である。このコーティング厚を増加させれば、コーティングはより暗く見える。従って、スクリーン印刷可能な貴金属調製液が用いられる場合、調理面を完全に被覆する第一層をスクリーン印刷法によって処理することが可能である。次いで例えばメーカーのロゴを含む第二層を印刷することができ、この場合、第一層の銀色によって焼付け後にロゴがより暗く見える。
【0032】
前記貴金属コーティングは、その高導電性にも拘らず、ガスレンジ用途以外の誘導加熱される調理板に驚くほど適する。焼付け時間は、ガスレンジのタイプ及び前記貴金属コーティングの水分含量によって異なるが9〜12分の範囲内である。従って、この焼き付け時間は通常の時間枠内であり、従来の黒色ガラスセラミック、例えばCERAN HIGHTRANS(登録商標)から作製される放射加熱ガスレンジに対して行われる焼付け時間に匹敵する時間である。
【0033】
貴金属調製液がガスレンジ中の下面コーティングとして用いられる誘導方式においては、調理板に対して下側から作動されあるいは取り付けられる、例えば誘導コイル上のマイカ板あるいは電熱加温ゾーン付近の金属板等のガスレンジ内の部品によって下面コーティングに引っ掻き傷ができる可能性がある。貴金属フィルムの用途特性を損なわないシリコーン類、ポリアミド類、あるいはポリイミド類をベースとするコーティングを貴金属フィルムへ有効な引っ掻き傷保護層として処理することが可能である。
【0034】
前記した本発明に従った不透明貴金属コーティングは、加熱ヒーターからの赤外線が該コーティングから反射され過ぎて満足できる調理時間が得られないため、放射加熱調理面の加熱部分への使用には適さない。前記貴金属フィルムの赤外波長域(800nm〜6000nm)及び可視波長域(350〜800nm)における分光透過率は12%以下であり、むしろ0〜4%である。従って、前記貴金属フィルムは上記引用した赤外域において12〜87%の透過率を有するJPH7−17409に記載された透過率と異なる。一般論として、本発明に従ったコーティングが調理ゾーンになく、あるいは別の不透明コーティングと置き換えられるならば、ガラスセラミック板を放射加熱調理面へ用いることも可能である。本発明に従ったコーティングを、加熱部分に加えて、ディスプレイ領域、あるいは光表示装置領域中、あるいは調理面にあるタッチ式制御装置等の他の作動部品領域中に設けないことも可能である。
【0035】
以下に記載する実施例によって上述した本発明についてさらに詳細に説明するが、下記実施例の詳細によって本願添付の特許請求の範囲が限定されと解釈されてはならない。
【実施例1】
【0036】
実施例1:光沢性銀色下面コーティング
EP1,170,264B1(表1、左欄)に従った組成をもつ無色ガラスセラミック板の上面をDE19721737C1に従った白色装飾用塗料でコーティングし、図2に従った規則的な隠蔽グリッドを形成するようセラミック化した。次いで、市販品の銀無含有貴金属調製液GPP4510(HERAEUS、Hanau製)をセラミック化されたガラスセラミック板の下面へスクリーン印刷(篩幅140−31)によって処理し、20℃で約3時間乾燥させた。次いでコーティングされたガラスセラミックを1K/分の加熱速度で830℃まで加熱し、該コーティングを830℃において1時間焼き付けた。前記焼付け後、ガラスセラミック板下面に輝きあるいは光沢のある銀色コーティングが形成された(表2試験1参照)。
【0037】
前記塗料の貴金属画分は11重量%(焼付け減量89重量%)に達する。前記貴金属フィルムは、金60〜90%、白金16〜24%、ロジウム0.5〜2%、及びビスマス及びクロムの総和で0〜1%から成る。
【0038】
仕上げられたガラスセラミック板はガス調理用の調理レンジ中に組み入れられて調理面として用いられる。
【0039】
食品に対する耐久性を試験するため、下面コーティングへ醤油及び油を処理し、調理レンジを作動させてそれらを焼き付けた。油及び醤油の焼付けによって生ずる黒斑が、観察者から離れた方の、かつ、アクセスしにくい側の面上に生じた。しかしながら、これらの黒斑はガラスセラミック調理面の上面からは見えなかった。コーティングにも特に弛み等の破損はなく、従ってコーティングは食品材料に対して十分耐久性であった。
【0040】
昼光照明(D65L18ワット/72−965、6500K)及び調理エリア用ハロゲン放熱器(Bosch−Siemans Household Appliance製、B/S/H)の双方を用いて組み込み型調理レンジを観察して不透明度について試験を行った。前記双方を使用した場合において調理レンジの内部構造が見えなかったことより、下面コーティングは十分に不透明であると判断された。コーティングが下面に施されているが上面には装飾のないガラスセラミック板の分光透過率は、図4に示した透過率曲線によれば、可視波長域において1.5%未満である。
【0041】
ガラスセラミック板をオーブン中に550℃で24時間置いた場合の耐熱性について試験した。次いで色調を基準と比較したが色の相違は認められなかった。また、コーティングの接着性は焼戻し後においても十分であった。透明接着性フィルム片(TESAFILM(登録商標)、104型、Beiersdorf AG製)を下面コーティング上へ貼り付けてから引き剥がす「TESA試験」を実施した。通常の目視による無倍率での観察で接着性フィルム上にコーティングの粒子が全く認められなかったことから、コーティングは十分に熱安定性であると判断された。
【0042】
ガラスセラミック基板中、あるいはガラスセラミック板下面上のコーティング中にガラスセラミック板中の欠陥が見出された際における、ガラスセラミック板上面へ装飾されるグリッドの隠蔽機能について判定を行った。ガラスセラミック基板を50cm離れた距離から観察した結果、問題となるような欠陥は観察されなかった。
【実施例2】
【0043】
実施例2:光輝性金色下面コーティング
別の類似する銀無含有貴金属調製液(GGP070505、HERAEUS、Hanau製)を実施例1と同様な方式で用いて、光沢のある、あるいは輝く金色下面コーティングが施されたガラスセラミック基板を得た。食品材料に対する耐久性、不透明度、耐熱性(接着性を含む)及び上面装飾の隠蔽機能について、前記試験に従って満足される結果が得られた。
【実施例3】
【0044】
実施例3:下面色調変化
実施例1において述べた貴金属調製液GPP4510の銀色の色調を、下面コーティングの用途特性を損なうことなく、更に塗料層を処理することにより変化させることができた。まず、セラミック化されたガラスセラミック板をスクリーン印刷(篩幅140−31)によってGPP4510でコーティングした。GPP4510の追加塗料層を前記第一塗料層上へプリントし、次いで乾燥させた。830℃で焼き付けた後、分光光度計(Mercury2000、Datacolor GmbH製)を用いて色パラメータを測定した。1層系の色パラメータを対応2層系と比較することにより、色パラメータが僅かに変化していることが示された。前記色パラメータは表2に示す通りである。
【0045】
【表2】

【0046】
色パラメータは上記基板を通して観察者の側から測定した。色測定装置は、Mercury2000、Datacolor GmbH製を用いた。貴金属調製液は「銀色」にはHeraeus製のGGP4510を、「金色」にはHereus製のGGP070505を用いた。
【0047】
他の貴金属調製液を第二塗料層として選択することも可能である。例えば、光輝性銀色貴金属調製液、光輝性プラチナ色調製液、焼付け後に光沢性金色層を生じる貴金属層、あるいは光沢性金色調製液を処理することが可能である。貴金属調製液と例えばGPP4510及びGGP070505を混合してブロンズ色調(表2、試験5)を生ずることも可能である。
【0048】
コーティング厚を変えることにより下面の色調に微妙な差異が生ずる。種々貴金属調製液を用いることにより多色下面コーティングを作製することも可能である。
【実施例4】
【0049】
(比較例)
比較例4:非耐薬品性金色調製液
実施例1で用いた調製液に類似する市販品の銀含有光輝性金色調製液、GGP1213−10%(Heraeus、Hanau製)を調理面となるガラスセラミック板下面上へプリントしてから該下面の焼付けを行った。この比較例は食品材料に対して耐久性である耐薬品性光輝性金色調製液GGP070505(実施例2)との比較を行うための実施例である。
【0050】
用いた塗料の貴金属画分は10重量%(90重量%は焼付け減量)に相当する。貴金属コーティングは銀11〜17重量%、金66〜88重量%、ロジウム0.5〜2重量%、ビスマス0.5〜2重量%、及びシリコーン0〜0.1重量%から成る。
【0051】
仕上げ済みガラスセラミック板をガス調理用ガスレンジへ組み入れて調理面を設けた。
【0052】
下面コーティングへ醤油及び油を処理してからガスレンジを作動させて焼付けを行い、食品に対する耐久性の試験を実施した。油及び醤油の焼付けによって生じた黒斑が操作者から離れた方のアクセスしにくい側に生じた。これら黒斑は、使用者にはブラウン領域として面しているガラスセラミック調理面側から観察可能であった。すなわち、本発明によらないこの比較例におけるコーティングは食品に対して十分安定性であるとは言えなかった。
【実施例5】
【0053】
実施例5:耐摩耗性を増大させるシリコーン塗料
実施例1ガラスセラミック板と同様な方法で製造されたガラスセラミック板の下面全体へ耐熱性黒色シリコーン塗料(GSX、ダイシン塗料製)をスクリーン印刷(篩用布54−64)によってさらに追加コーティングした。前記塗料を180℃で5分間乾燥させてから400℃で30分間焼付けを行った。仕上げられたガラスセラミック板を誘導加熱手段を備えるガスレンジ(Bosch−Siemans Household Appliance製、B/S/H)へ組み込んで調理面とした。ついでやすりのように作用する部品(誘導コイル上のマイカ板、加温ゾーンの金属板)に対する下面コーティングの耐久性を、すべての加熱領域及び加温ゾーンを最大電力で10回繰返し点滅して試験した。試験後、調理面上面から調理面を観察したが、引っ掻き傷あるいは破損は全く認められなかった。従って、下面コーティングは十分に耐磨耗性である。実施例1において測定された特性は前記シリコーン塗料によっては損なわれなかった。さらに、食品材料に対する耐破損性は、シリコーン塗料が貴金属層と食品材料との直接的接触を防止し、従って「犠牲」層として機能したことから、シリコーン層の追加によってさらに増強された。
【0054】
本発明の実施例は、主として無色ガラスセラミック、すなわち溶融液中において着色されないガラスセラミックに関する例である。しかしながら、前記ガラスセラミックへ僅かに着色(例えばブラウン、赤、さらには青)させることも可能である。従って、本発明に従った下面コーティングによって、ガラスセラミックを通して見ることができない、不透明な着色ガラスセラミックあるいは不透明なセラミック化されたガラスセラミックが提供される。
【0055】
本発明は調理装置用の下面コーティングを備える調理面を与えるガラスセラミック板、及び同ガラスセラミック板製造のためのコーティング方法に具現化されて図示及び説明されてきたが、本発明の精神から何ら逸脱することなく本発明に種々変更及び変形を加えることができることから、本発明を上記詳細に限定する意図ではない。
【0056】
本発明要旨は、さらなる分析を必要とせず、上記説明によって十分開示されているから、第三者は、最新の知識を適用することにより先行技術の見地に立って本発明の包括的あるいは特定の観点の必須な特徴を明らかに構成する特徴を漏らすことなく本発明を種々用途へ容易に適合させることが可能である。
本願において特許が求められる発明は新規であり、添付の特許請求の範囲に明記されている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】ガラスセラミック板中の欠陥を隠すために有効な非対称のグリッドから成る装飾がガラスセラミック板上面へ施されたガラスセラミック板の略上面図である。
【図2】ガラスセラミック板中の欠陥を隠すために有効な対称グリッドから成る装飾がガラスセラミック板上面へ施されたガラスセラミック板の略上面図である。
【図3(A)】欠陥を隠すためには有効に働かない別の対称グリッドあるいはパターンから成る装飾がガラスセラミック板上面へ施されたガラスセラミック板の略上面図である。
【図3(B)】別の対称グリッドあるいはパターンから成る装飾がガラスセラミック板上面へ施されたガラスセラミック板の略上面図である。
【図4】ガラスセラミック板下面へ少なくとも1層の貴金属コーティングが施された本発明に従ったガラスセラミック板の一例の分光透過率を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光及び赤外線に対して透過性であり、かつガラスセラミック板の下面に貴金属フィルムがコーティングされた、調理ユニットの調理面を与えるように作製されるガラスセラミック材料から成るガラスセラミック板であって、
前記貴金属フィルムは、貴金属フィルムへ反射特性を付与する金及び/または白金、及び/またはパラジウムから成る合金から作製され、前記貴金属フィルムには銀、銅、珪素、ビスマス及び他の非貴金属が貴金属フィルム中の全金属含量に対して0〜5重量%含まれ、及び前記貴金属フィルムでコーティングされたガラスセラミック板が赤外スペクトル域において0〜12%の分光透過率をもつことを特徴とする前記ガラスセラミック板。
【請求項2】
前記貴金属フィルムに銀、銅、珪素、ビスマス及び他の非貴金属が貴金属フィルム中の全金属含量に対して0〜1重量%含まれることを特徴とする請求項1項記載のガラスセラミック板。
【請求項3】
前記貴金属フィルムに少なくとも貴金属1種が貴金属フィルム中のフィルム材料全量に対して90〜100重量%含まれることを特徴とする請求項1項記載のガラスセラミック板。
【請求項4】
前記貴金属フィルムに少なくとも1種の貴金属が95〜100重量%含まれることを特徴とする請求項3項記載のガラスセラミック板。
【請求項5】
前記貴金属フィルムの厚さが1μ未満であることを特徴とする請求項1項記載のガラスセラミック板。
【請求項6】
前記貴金属フィルムの厚さが0.05〜0.5μの範囲内であることを特徴とする請求項5項記載のガラスセラミック板。
【請求項7】
前記貴金属フィルムの厚さが0.1〜0.2μの範囲内であることを特徴とする請求項5項記載のガラスセラミック板。
【請求項8】
前記貴金属フィルムがスクリーン印刷によってガラスセラミック板下面へ処理されることを特徴とする請求項1項記載のガラスセラミック板。
【請求項9】
元素酸化物ベースの重量%で下記組成から成ることを特徴とする請求項1項記載のガラスセラミック板:
SiO 66〜70
Al >19.8〜23
LiO 3〜4
MgO 0〜1.5
ZnO 1〜2.2
BaO 0〜2.5
NaO 0〜1
O 0〜0.6
TiO 2〜3
ZrO 0.5〜2
0〜1
Sb 通常量
As 通常量
CaO 0〜0.5
SrO 0〜1
【請求項10】
元素酸化物ベースの重量%で下記組成から成ることを特徴とする請求項1項記載のガラスセラミック板:
SiO 50〜80
Al 12〜30
LiO 1〜6
MgO 0〜5
ZnO 0〜5
BaO 0〜8
NaO 0〜5
O 0〜0.6
TiO 0〜8
ZrO 0〜7
0〜7
Sb 0〜4
As 0〜2
CaO 0
SrO 0
【請求項11】
ガラスセラミック板上面へ施される装飾をさらに含むことを特徴とする請求項1項記載のガラスセラミック板。
【請求項12】
前記ガラスセラミック板上面の装飾にグリッドが含まれることを特徴とする請求項11項記載のガラスセラミック板。
【請求項13】
前記グリッドに複数の点状、ダッシュ状、あるいは非対称状構造要素が含まれることを特徴とする請求項12項記載のガラスセラミック板。
【請求項14】
前記グリッドに複数の統計学的に分布した構造要素が含まれることを特徴とする請求項12項記載のガラスセラミック板。
【請求項15】
前記グリッドに対称状に分布した複数の構造要素が含まれることを特徴とする請求項12項記載のガラスセラミック板。
【請求項16】
前記構造要素によってガラスセラミック板上面全体の2〜12%が被覆され、及び前記構造要素の対向する端部相互間の間隔が少なくとも2mm、かつ多くても4mmであることを特徴とする請求項12項記載のガラスセラミック板。
【請求項17】
前記構造要素によってガラスセラミック板上面全体の3〜5%が被覆され、及び前記構造要素の対向する端部相互間の間隔が2.5mmであることを特徴とする請求項12項記載のガラスセラミック板。
【請求項18】
前記貴金属フィルムが複数の個別層から成り、及び前記貴金属フィルムによって前記ガラスセラミック板下面の個々の部分あるいは全体が被覆されることを特徴とする請求項12項記載のガラスセラミック板。
【請求項19】
前記個別層がプリント層あるいは圧接層であることを特徴とする請求項18項記載のガラスセラミック板。
【請求項20】
前記個別層が異なる組成から成る異なる貴金属調製液から作製されることを特徴とする請求項18項記載のガラスセラミック板。
【請求項21】
前記個別層の少なくとも1層によってガラスセラミック板下面が完全に被覆されることを特徴とする請求項18項記載のガラスセラミック板。
【請求項22】
前記個別層の少なくとも1層によってガラスセラミック板下面が完全に被覆されず、それに代わって、ガラスセラミック板下面に幾何学的形状、グリッド、あるいは手書き文字が含まれることを特徴とする請求項18項記載のガラスセラミック板。
【請求項23】
前記貴金属フィルムが加熱領域、ディスプレイ領域、光表示器信号装置、あるいは他の操作素子へ延びていない、あるいはそれらを被覆していないことを特徴とする請求項1項記載のガラスセラミック板。
【請求項24】
前記他の操作素子にタッチ式制御素子が含まれることを特徴とする請求項23項記載のガラスセラミック板。
【請求項25】
可視波長域において0〜4%の分光透過率をもつことを特徴とする請求項1項記載のガラスセラミック板。
【請求項26】
可視波長域における分光透過率が0〜1.7%であることを特徴とする請求項25項記載のガラスセラミック板。
【請求項27】
a)金及び/または白金、及び/またはパラジウムから成る合金を含み、かつ銀、銅、珪素、ビスマス及び他の非貴金属を貴金属フィルムの全金属含量に対して0〜5重量%となるように含む少なくとも1種の貴金属調製液を調製し、
b)層厚1〜10μのガラスセラミック板の使用下面上の少なくとも1層中へ少なくとも1種の貴金属調製液を処理し、及び
c)工程b)において処理された前記少なくとも1種の貴金属調製液を前記使用下面へ600℃以上の焼付け温度で焼き付ける各工程から構成されるガラスセラミック板のコーティング方法であって、
前記ガラスセラミック板はガラスセラミック材料から成り、可視光及び赤外線に対して透過性であり、及びガラスセラミック板下面に貴金属フィルムコーティングを備え、前記貴金属フィルムはそれへ反射特性を付与する金及び/または白金、及び/またはパラジウムから成る合金から作製され、前記貴金属フィルムには銀、銅、珪素、ビスマス及び他の非貴金属が前記貴金属フィルムの全金属含量に対して0〜5重量%含まれ、及び前記貴金属フィルムでコーティングされたガラスセラミック板が赤外スペクトル域において0〜12%の分光透過率を有することを特徴とする前記ガラスセラミック板コーティング方法。
【請求項28】
前記焼付け温度が780〜850℃の範囲内であり、及び前記層厚が2〜5μの範囲内であることを特徴とする請求項27項記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも1種の貴金属調製液に、前記貴金属の少なくとも1種が、前記少なくとも1種の貴金属調製液の全量に対して5〜50重量%含まれることを特徴とする請求項27項記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1種の貴金属調製液に、前記貴金属の少なくとも1種が、前記少なくとも1種の貴金属調製液の全量に対して10〜20重量%含まれることを特徴とする請求項27項記載の方法。
【請求項31】
前記少なくとも1種の貴金属調製液がスクリーン印刷で処理可能な顔料ペーストであり、前記顔料ペーストに、前記貴金属の少なくとも1種に加えて、有機金属化合物、溶媒及び樹脂が含まれることを特徴とする請求項27項記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1種の貴金属調製液に少なくとも1種の有機金属化合物が含まれ、及び前記少なくとも1種の有機金属化合物に金、白金及びパラジウムのうちの少なくとも1種が含まれることを特徴とする請求項27項記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3(A)】
image rotate

【図3(B)】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−99615(P2007−99615A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266535(P2006−266535)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】