説明

赤外線ガス分析計およびその出力補償方法

【課題】赤外線ガス分析計に加わる外部振動の影響を除去して、高精度の測定動作を行うことのできる赤外線ガス分析計およびその出力補償方法を提供する。
【解決手段】サーマルフローセンサを備え、試料ガスが流通する試料セルを通過した赤外光と試料セルを通過しない赤外光との差を検出する測定用検出器と、振動の影響を検出する補償用検出器と、振動の影響を補償する補償部を有し、前記補償部は、前記補償用検出器の出力からこの補償用検出器にかかる振動に起因する信号成分を求める第1の演算部と、同じ振動がかかった際に前記測定用検出器で検出される出力信号と前記補償用検出器で検出される出力信号との関係を表す関数を備え、前記第1の演算部で求めた信号成分から前記測定用検出器で検出される出力信号に含まれる振動に起因する信号成分を求める第2の演算部と、前記測定用検出器の出力から前記第2の演算部の出力を減算する第3の演算部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象ガスにおける赤外光の吸収特性を利用して、試料ガス中の測定対象成分濃度を検出する赤外線ガス分析計およびその出力補償方法に関するものである。
さらに詳しくは、赤外線ガス分析計に加わる外部振動の影響を除去して、高精度の測定動作を行うことのできる赤外線ガス分析計およびその出力補償方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の赤外線ガス分析計の一例を示す構成図である。図に示されるように、赤外線光源1から発せられた赤外光は、分配セル2により2つに分割され、それぞれ基準セル3および試料セル4に入射する。基準セル3には不活性ガスなど、測定対象成分を含まないガスが封入されている。また、試料セル4には試料ガスが流通する。このため、分配セル2で2つに分けられた赤外光は、試料セル4側でのみ測定対象成分による吸収を受け、検出器5に到達する。
【0003】
検出器5は基準セル3からの光を受ける基準側室501と試料セル4からの光を受ける試料側室502の2室からなり、その2室を連絡するガス流通路には、ガスの行き来を検出するためのサーマルフローセンサ51が取り付けられている。また、検出器5内には、測定対象と同じ成分を含むガス(検出ガス)が封入されており、基準セル3および試料セル4からの赤外光が入射すると、検出ガス中の測定対象成分が赤外光を吸収することで、基準側室501内および試料側室502内で、それぞれ検出ガスが熱膨張する。
【0004】
基準セル3内の基準ガスは測定対象成分を含まないので、基準セル3を通過する赤外光に対しては測定対象成分による吸収はなく、試料セル4内の試料ガスに測定対象成分が含まれると、赤外光の一部はそこで吸収されるために、検出器5では試料側室502に入射する赤外光が減少し、基準側室501内の検出ガスの熱膨張が試料側室502内の検出ガスの熱膨張より大きくなる。赤外光は回転セクタ6で断続されて、遮断および照射を繰り返しており、遮断されたときは基準側室501および試料側室502ともに赤外光が入射しないので、検出ガスは膨張しない。
【0005】
このため、基準側室501および試料側室502においては、試料ガス中の測定対象成分濃度に応じて、両室の間に周期的に差圧が生じ、両室間に設けられたガス流通路を検出ガスが行き来することとなる。その検出ガスの挙動はサーマルフローセンサ51により検出され、信号処理回路7により交流電圧増幅されて、測定対象成分濃度に対応した信号として出力される。8は回転セクタ6を駆動する同期モータ、9は基準セル3および試料セル4に入射する赤外光のバランスを調整するトリマである。
【0006】
このように、試料ガス中の測定対象成分濃度が変化すると、検出器5(試料側室502)に入射する赤外光の光量が変化するので、信号処理回路7を介して測定対象成分濃度に対応した出力信号を得ることができる。
【0007】
ここで、赤外線ガス分析計に振動が加わると、この振動がノイズとして出力信号に現れ、測定精度が低下してしまう。
図6は、振動の影響を説明するための概念図である。図において、前記図5と同様のものは同一符号を付して示す。矢印Usigを赤外光の吸収によりガス流通路内に発生する検出ガスの移動方向とすると、サーマルフローセンサ51を構成する第1のヒータ線511および第2のヒータ線512は、所定の間隔をおいて、この移動(流通)方向Usigに沿って配列され、検出ガスの移動に応じた温度(抵抗値)変化を発生する。
【0008】
すなわち、ガス流通路内の検出ガスが移動すると、上流側のヒータ線は検出ガスにより冷却され、下流側のヒータ線は上流側のヒータ線の熱で加熱されるので、2つのヒータ線の間には温度差が生じる。
この2つのヒータ線511、512における温度変化(抵抗値変化)は、図7の如きブリッジ回路を使用して検出される。
【0009】
さて、赤外線ガス分析計に振動が加わった場合、ヒータ線511、512の配列方向と同じ方向の振動成分を矢印Uvibとすると、慣性により検出ガスが移動(振動)し、この矢印方向の検出ガスの移動(振動)がサーマルフローセンサ51により検出されて、ノイズとして出力信号Voutに重畳されてしまう。
【0010】
図8は、赤外線ガス分析計に加わる振動の影響を示す波形図である。図において、(a)は時刻toにおいて赤外線ガス分析計に外部振動を加えた場合の、測定状態におけるサーマルフローセンサ51の出力信号波形であり、(b)は赤外線光源1を消灯した状態での、サーマルフローセンサ51の出力信号波形である。
【0011】
図から明らかなように、振動による出力信号波形の乱れは、ほぼ同じ形状を有しており、この乱れが同一の原因(振動)により発生し、本来の赤外線の吸収に起因する信号波形とは独立のものであることが分かる。
【0012】
上記のように、赤外線ガス分析計に加わる振動がヒータ線511、512の配列方向と同じ方向の振動成分(Uvib)を有するものであると、赤外光の吸収によりガス流通路内に発生する検出ガスの移動(Usig)とともに、サーマルフローセンサ51により検出されてしまい、このノイズ成分を信号成分と分離することができない。
【0013】
このような振動に由来するノイズ成分を出力信号から除去するために、下記のような技術が提案されている。
【特許文献1】特開2006−184227号公報
【0014】
上記特許文献1には、サーマルフローセンサを有し試料セルを通過した赤外光と試料セルを通過しない赤外光との差を検出する検出器と、前記サーマルフローセンサと同じ向きに配置されたサーマルフローセンサを有する補償用検出器とを具備するとともに、前記測定用の検出器の出力と前記補償用検出器の出力との差分を求める補償部を有する赤外線ガス分析計が開示されている。
【0015】
上記の提案は、補償部で測定用の検出器の出力と補償用検出器の出力との差分を求めることによって、赤外線ガス分析計にかかる振動の影響を効果的に除去するというものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献1においては、検出器と補償用検出器に同じ振動がかかった場合には、その振動の影響による信号の出力は同等であると想定していた。
しかし、検出器と補償用検出器において、基準側室や試料側室、流路などのガスが流通する空間の有無や形状の違いなどがある場合には、検出器と補償用検出器の両方に同じ振動がかかっても、その振動の影響による信号出力の大きさは同等にならない。
【0017】
そのため、上記特許文献1のように、検出器の出力と補償用検出器の出力との差分を求めるだけでは、振動に由来するノイズ成分の影響の大幅な改善は見込めるものの、十分に補償することはできない。
【0018】
本発明は、上記のような従来装置の欠点をなくし、赤外線ガス分析計に加わる外部振動の影響を除去して、高精度の測定動作を行うことのできる赤外線ガス分析計およびその出力補償方法を実現することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記のような目的を達成するために、本発明の請求項1では、サーマルフローセンサを備え、試料ガスが流通する試料セルを通過した赤外光と試料セルを通過しない赤外光との差を検出する測定用検出器と、前記サーマルフローセンサと同じ向きに配置されたサーマルフローセンサを備え振動の影響を検出する補償用検出器と、この補償用検出器の出力を用いて前記測定用検出器の出力に含まれる振動の影響を補償する補償部を有し、試料ガス中の測定対象成分濃度を検出する赤外線ガス分析計において、
前記補償部は、
前記補償用検出器の出力からこの補償用検出器にかかる振動に起因する信号成分を求める第1の演算部と、
前記測定用検出器と前記補償用検出器に同じ振動がかかった際に前記測定用検出器で検出される出力信号と前記補償用検出器で検出される出力信号との関係を表す関数を備え、前記第1の演算部で求めた信号成分から前記測定用検出器で検出される出力信号に含まれる振動に起因する信号成分を求める第2の演算部と、
前記測定用検出器の出力から前記第2の演算部の出力を減算する第3の演算部と、
を有することを特徴とする。
【0020】
請求項2では、請求項1に記載の赤外線ガス分析計において、前記測定用検出器と前記補償用検出器とを一体に形成したことを特徴とする。
【0021】
請求項3では、請求項1または2に記載の赤外線ガス分析計において、前記測定用および補償用の検出器におけるサーマルフローセンサは、それぞれ検出ガスの流通方向に対して平行な方向に配列された1組以上のヒータ線よりなることを特徴とする。
【0022】
請求項4では、請求項1乃至3のいずれかに記載の赤外線ガス分析計において、前記第2の演算部は、前記測定用検出器で検出される出力信号と前記補償用検出器で検出される出力信号との関係を表す関数の代わりに、それぞれの検出器の出力信号の実測値から逆算して得た関数を使用することを特徴とする。
【0023】
請求項5では、請求項1乃至4のいずれかに記載の赤外線ガス分析計において、前記第1の演算部で求めた信号成分を監視し、必要に応じて外部にアラームを発する振動量モニタ部を有することを特徴とする。
【0024】
請求項6では、サーマルフローセンサを備え、試料ガスが流通する試料セルを通過した赤外光と試料セルを通過しない赤外光との差を検出する測定用検出器と、前記サーマルフローセンサと同じ向きに配置されたサーマルフローセンサを備え振動の影響を検出する補償用検出器と、この補償用検出器の出力を用いて前記測定用検出器の出力に含まれる振動の影響を補償する補償部を有し、試料ガス中の測定対象成分濃度を検出する赤外線ガス分析計の出力補償方法において、
前記補償用検出器の出力からこの補償用検出器にかかる振動に起因する信号成分を求める第1の演算ステップと、
前記測定用検出器と前記補償用検出器に同じ振動がかかった際に前記測定用検出器で検出される出力信号と前記補償用検出器で検出される出力信号との関係を表す関数を備え、前記第1の演算ステップで求めた信号成分から前記測定用検出器で検出される出力信号に含まれる振動に起因する信号成分を求める第2の演算ステップと、
前記測定用検出器の出力から前記第2の演算ステップの出力を減算する第3の演算ステップと、
を有することを特徴とする。
【0025】
請求項7では、請求項6に記載の赤外線ガス分析計の出力補償方法において、前記第2の演算ステップは、前記測定用検出器で検出される出力信号と前記補償用検出器で検出される出力信号との関係を表す関数の代わりに、それぞれの検出器の出力信号の実測値から逆算して得た関数を使用することを特徴とする。
【0026】
請求項8では、請求項6または7に記載の赤外線ガス分析計の出力補償方法において、前記第1の演算ステップで求めた信号成分を監視し、必要に応じて外部にアラームを発することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
このように、補償用検出器の出力信号から測定用検出器の出力信号に含まれる振動に起因する信号成分を求め、測定用検出器の出力を補償することにより、赤外線ガス分析計に加わる外部振動の影響を除去して、高精度の測定動作を行うことのできる赤外線ガス分析計およびその出力補償方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を用いて本発明の赤外線ガス分析計およびその出力補償方法を説明する。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明の赤外線ガス分析計およびその出力補償方法の一実施例を示す構成図である。図において、前記図5〜図8と同様のものは同一符号を付して示す。52は補償用検出器で、ヒータ線531、532よりなるサーマルフローセンサ53を有している。
【0030】
補償用検出器52は測定対象成分を含む検出ガスが充填された空間を有しており、その中にサーマルフローセンサ53が配置されている。なお、図においては、サーマルフローセンサ51、53を配置する空間として、ガス流通路より多少広くなった部屋状の空間を例示しているが、空間の形状はこれに限られるものではない。また、サーマルフローセンサ51、53は同じ性能のものを使用する。
【0031】
補償用検出器52は測定用検出器5と等しく振動の影響を受けるように、測定用検出器5とともに固定されるか、または測定用検出器5と一体に形成されている。さらに、サーマルフローセンサ53におけるヒータ線531、532は、サーマルフローセンサ51におけるヒータ線511、512と同じ向きに配列されている。
なお、補償用検出器52には、赤外光は入射しない。
【0032】
11、12はサーマルフローセンサ51、53におけるヒータ線511、512、531、532の抵抗値変化(温度変化)を検出するブリッジ回路、13はブリッジ回路11の出力から装置に加わる振動の影響によるノイズ成分を除去する補償部である。
【0033】
図2は、ブリッジ回路11、12の具体的な構成例を示す回路図である。図に示されるように、サーマルフローセンサ51、53のヒータ線511、512、531、532は、それぞれブリッジ回路11、12の2辺に挿入されており、検出ガスの移動に伴う抵抗値変化が出力電圧Vo1、Vo2の変化として検出される。
【0034】
ブリッジ回路11においては、前記図7で説明したように、測定対象ガス濃度に応じた検出ガスの移動(矢印Usig)と振動に起因した検出ガスの移動(矢印Uvib1)とが検出され、その出力信号Vo1は振動ノイズ成分を含んだものとなる。
これに対して、ブリッジ回路12においては、振動のみに起因した検出ガスの移動(矢印Uvib2)が検出され、これに応じた出力信号Vo2が得られる。
ここで、測定用検出器5と補償用検出器52に同じ振動vが加えられている場合であっても、各検出器内部における基準側室や試料側室、流路などのガスが流通する空間の有無や形状の違いにより、サーマルフローセンサ51と53に生じる振動成分Uvib1とUvib2は同じものにはならない。
【0035】
以下に、外部から矢印Usigと同じ方向にかかる振動vが赤外線ガス分析装置に加えられている場合に、どのようにサーマルフローセンサ51の出力からノイズ成分を除去するかについて説明する。
【0036】
図1において、測定用検出器5のサーマルフローセンサ51に生じるガス流をG1とすると、ガス流G1は、赤外線光源の点滅によって生じるガス流(Usig)と、装置に加わる振動vによって生じるガス流(Uvib1)の和である。
G1=Usig+Uvib1 ・・・式1
分析値を求めるために必要なのはガス流Usigのみである。ガス流Uvib1はノイズ成分となる。
【0037】
一方、補償用検出器52のサーマルフローセンサ53は、振動vによって生じるガス流(G2)を検出する。
G2=Uvib2 ・・・式2
【0038】
振動vによってサーマルフローセンサ51、53に生じるガス流は、それぞれ振動vを変数とする伝達関数として表すことができる。サーマルフローセンサ51の伝達関数をFc、サーマルフローセンサ53の伝達関数をFvとすると、
Uvib2=Fv(v) ・・・式3
Uvib1=Fc(v) ・・・式4
となる。
【0039】
伝達関数FvとFcの相違は、上述の通り基準側室や試料側室、流路などのガスが流通する空間の有無や形状の違いに起因するものである。伝達関数FvとFcは、そのような違いを考慮した計算によりあらかじめ求めておく。ただし、計算による算出が困難な場合には、振動vの大きさと各検出器に生じるガス流の関係を実測により求め、実測値から逆算して得た関数を伝達関数として利用してもよい。
【0040】
伝達関数Fvの逆関数Fv−1は、式2および式3から以下のように表すことができる。
v=Fv−1(G2) ・・・式5
【0041】
式4は、式5により、
Uvib1=Fc(Fv−1(G2)) ・・・式6
となる。
【0042】
したがって、式1は、式6により
Usig=G1−Uvib1
=G1−Fc(Fv−1(G2)) ・・・式7
となる。
【0043】
式7において、ガス流G1、G2はサーマルフローセンサ51、53の出力から得られる。また、伝達関数Fc、伝達関数Fvの逆関数Fv−1は計算により求まるものである。したがって、式7の計算を行なうことにより、振動の影響によるノイズ成分を含むガス流G1の測定値から、赤外線光源の点滅によるガス流Usig成分のみを取り出すことができる。
【0044】
図3は式7の計算動作の流れを示すブロック図であり、補償部13で実行される。
まず、ブリッジ回路11、12から、ガス流G1,G2に応じた電圧信号(Vo1,Vo2)が入力される。ガス流G1には振動vの影響によるノイズ成分Uvib1も含まれている。
第1の演算部131では、入力されたガス流G2の信号から、あらかじめ求めてある伝達関数Fvの逆関数Fv−1を用いて、装置に加えられている振動vを算出する。この振動vの情報は第2の演算部132に入力される。
第2の演算部132では、入力された振動vの情報から、伝達関数Fcを用いて、ガス流G1に含まれるノイズ成分であるガス流Uvib1に相当する信号を算出する。
第3の演算部133には、測定されたガス流G1の信号と、第2の演算部132で算出されたガス流Uvib1に相当する信号が入力される。第3の演算部133では、これらの信号の差分をとることによって、ガス流G1から振動vによるノイズ成分であるガス流Uvib1の影響を除去し、その結果赤外線光源の点滅によるガス流Usigのみの信号を得ることができる。
【0045】
なお、伝達関数Fv,Fcはサーマルフローセンサ51、53の近傍で生じる伝達関数と、流路等で生じる伝達関数にさらに分離して考えることも可能である。
【0046】
検出器5のサーマルフローセンサ51の近傍と、検出器53のサーマルフローセンサ53の近傍の構造が同一とする。これらのサーマルフローセンサの近傍で生じる伝達関数をF1とすると、サーマルフローセンサ53の伝達関数は、
Fv=F1 ・・・式8
と表すことができる。
また、Fvの逆関数Fv−1は、
Fv−1=F1−1 ・・・式9
となる。
【0047】
また、測定用検出器5において、基準側室、基準側室や試料側室、流路などからなる空間から生じる伝達関数F2とすると、サーマルフローセンサ51の伝達関数は、
Fc=F1+F2 ・・・式10
と表すことができる。
このため、サーマルフローセンサ51に生じるガス流G1は、
G1=(F1(v)+F2(v))+Usig ・・・式11
となる。
【0048】
式7を式9と式10を用いて変形すると、
Usig=G1−Fc(F1−1(G2))
=G1−Fc(v)
=G1−(F1(v)+F2(v)) ・・・式12
となる。
したがって、伝達関数F1およびF2をあらかじめ計算または実測により求めておけば、あとはガス流G1とG2の測定により、赤外線光源の点滅によるガス流Usigの信号を得ることができる。
【0049】
図4は式12の計算動作の流れを示すブロック図である。
第1の演算部134では、入力されたガス流G2の信号から、あらかじめ求めてある伝達関数F1の逆関数F1−1を用いて、装置に加えられている振動vを算出する。この振動vの情報は第2の演算部135に入力される。
第2の演算部135では、まず135aにおいて入力された振動vを伝達関数F2に代入してF2(v)を求め、さらに135bにおいてF1(v)とF2(v)を加算して、ガス流G1に含まれるノイズ成分Uvib1に相当するF1(v)+F2(v)を算出する。
第3の演算部136には、測定されたガス流G1の信号と、第2の演算部で算出されたガス流Uvib1に相当する信号が入力される。第3の演算部136では、これらの信号の差分をとることによって、ガス流G1から振動vによるノイズ成分であるガス流Uvib1の影響を除去し、その結果赤外線光源の点滅によるガス流Usigのみの信号を得ることができる。
【0050】
なお、一般的には、F1(v)はガスの流れに対して生じる抵抗による一次遅れ、F2(v)はガス流路における抵抗と、基準側室および試料側室のガスの弾性による二次遅れとなる。
【0051】
このように、測定用検出器5と補償用検出器52とにおけるガス流路等の形状の違いを考慮して、補償用検出器52の出力信号から測定用検出器5の出力信号に含まれる振動に起因する信号成分を求め、測定用検出器5の出力を補償することにより、赤外線ガス分析計に加わる外部振動の影響を除去して、高精度の測定動作を行うことができる。
【0052】
なお、サーマルフローセンサ51、53の構成およびブリッジ回路11,12の構成は、図に示されたものに限らず、特許文献1に記載されているような様々な構成が採用可能である。
【実施例2】
【0053】
前記実施例1に示した赤外線ガス分析計では、第1の演算部131または134において、振動vの情報を得ることができる。
v=Fv−1(G2) ・・・式5
【0054】
そこで、この振動vを常時監視する振動量モニタ部を設け、振動vが赤外線ガス分析計にとって過度の振動であった場合に装置外部にアラームを発する。
【0055】
このように、振動アラームを発する機能を持たせることにより、赤外線ガス分析計が過度の振動下で使用されるのを防止したり、赤外線ガス分析計の故障防止に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は本発明の赤外線ガス分析計およびその出力補償方法の一実施例を示す構成図。
【図2】図2はブリッジ回路11、12の具体的な構成例を示す回路図。
【図3】図3は式7の計算動作の流れを示すブロック図。
【図4】図4は式12の計算動作の流れを示すブロック図。
【図5】図5は従来の赤外線ガス分析計の一例を示す構成図。
【図6】図6は振動の影響を説明するための概念図。
【図7】図7はヒータ線511、512における温度変化(抵抗値変化)を検出するブリッジ回路。
【図8】図8は赤外線ガス分析計に加わる振動の影響を示す波形図。
【符号の説明】
【0057】
1 赤外線光源
2 分配セル
3 基準セル
4 試料セル
5 検出器
501 基準側室
502 試料側室
52 補償用検出器
51、53 サーマルフローセンサ
511、512、531、532 ヒータ線
6 回転セクタ
7 信号処理回路
8 同期モータ
9 トリマ
11、12 ブリッジ回路
13 補償部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーマルフローセンサを備え、試料ガスが流通する試料セルを通過した赤外光と試料セルを通過しない赤外光との差を検出する測定用検出器と、前記サーマルフローセンサと同じ向きに配置されたサーマルフローセンサを備え振動の影響を検出する補償用検出器と、この補償用検出器の出力を用いて前記測定用検出器の出力に含まれる振動の影響を補償する補償部を有し、試料ガス中の測定対象成分濃度を検出する赤外線ガス分析計において、
前記補償部は、
前記補償用検出器の出力からこの補償用検出器にかかる振動に起因する信号成分を求める第1の演算部と、
前記測定用検出器と前記補償用検出器に同じ振動がかかった際に前記測定用検出器で検出される出力信号と前記補償用検出器で検出される出力信号との関係を表す関数を備え、前記第1の演算部で求めた信号成分から前記測定用検出器で検出される出力信号に含まれる振動に起因する信号成分を求める第2の演算部と、
前記測定用検出器の出力から前記第2の演算部の出力を減算する第3の演算部と、
を有することを特徴とする赤外線ガス分析計。
【請求項2】
前記測定用検出器と前記補償用検出器とを一体に形成したことを特徴とする請求項1に記載の赤外線ガス分析計。
【請求項3】
前記測定用および補償用の検出器におけるサーマルフローセンサは、それぞれ検出ガスの流通方向に対して平行な方向に配列された1組以上のヒータ線よりなることを特徴とする請求項1または2に記載の赤外線ガス分析計。
【請求項4】
前記第2の演算部は、前記測定用検出器で検出される出力信号と前記補償用検出器で検出される出力信号との関係を表す関数の代わりに、それぞれの検出器の出力信号の実測値から逆算して得た関数を使用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の赤外線ガス分析計。
【請求項5】
前記第1の演算部で求めた信号成分を監視し、必要に応じて外部にアラームを発する振動量モニタ部を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の赤外線ガス分析計。
【請求項6】
サーマルフローセンサを備え、試料ガスが流通する試料セルを通過した赤外光と試料セルを通過しない赤外光との差を検出する測定用検出器と、前記サーマルフローセンサと同じ向きに配置されたサーマルフローセンサを備え振動の影響を検出する補償用検出器と、この補償用検出器の出力を用いて前記測定用検出器の出力に含まれる振動の影響を補償する補償部を有し、試料ガス中の測定対象成分濃度を検出する赤外線ガス分析計の出力補償方法において、
前記補償用検出器の出力からこの補償用検出器にかかる振動に起因する信号成分を求める第1の演算ステップと、
前記測定用検出器と前記補償用検出器に同じ振動がかかった際に前記測定用検出器で検出される出力信号と前記補償用検出器で検出される出力信号との関係を表す関数を備え、前記第1の演算ステップで求めた信号成分から前記測定用検出器で検出される出力信号に含まれる振動に起因する信号成分を求める第2の演算ステップと、
前記測定用検出器の出力から前記第2の演算ステップの出力を減算する第3の演算ステップと、
を有することを特徴とする赤外線ガス分析計の出力補償方法。
【請求項7】
前記第2の演算ステップは、前記測定用検出器で検出される出力信号と前記補償用検出器で検出される出力信号との関係を表す関数の代わりに、それぞれの検出器の出力信号の実測値から逆算して得た関数を使用することを特徴とする請求項6に記載の赤外線ガス分析計の出力補償方法。
【請求項8】
前記第1の演算ステップで求めた信号成分を監視し、必要に応じて外部にアラームを発することを特徴とする請求項6または7に記載の赤外線ガス分析計の出力補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−82815(P2008−82815A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262018(P2006−262018)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】