説明

赤外線撮像装置

【課題】シャッタの温度の高低によらずに撮像対象を精度良く撮像できる赤外線撮像装置を提供する。
【解決手段】シャッタを閉じて赤外線センサDet.101にシャッタからの赤外線輻射を入射させ、スイッチSW1(111)〜SW5(115)を同時に閉じて5個のトランジスタTr0(121)〜Tr4(125)に電流を流す。次に、閉じているスイッチSW5(115)だけを開ける。電荷蓄積キャパシタ130にはトランジスタTr0(121)〜Tr4(125)の各ゲートに印加されている電流が記憶される。シャッタを開けて撮像を開始する。このときトランジスタTr0(121)〜Tr4(125)にはシャッタを閉じているときと同じ電流が流れ続ける。スイッチSW1(111)〜SW4(114)の内のいずれか一つを開き4個のトランジスタで電流の排出を行えば、電荷蓄積キャパシタ130に蓄積された電流を4/5倍に減らすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線検知素子(センサ)をセンスする入力回路を網目状に配列した赤外線センサアレイによって撮像対象の赤外線輻射を検知する赤外線検知部を有する赤外線撮像装置に係り、特に入力回路においてオフセットを適切に除去し信号電荷蓄積量を増やす技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外線撮像装置の高性能・低価格化は目覚ましく、使用形態がより小型・簡便で高精度な赤外線撮像装置が要求されている。図17Aは、従来の赤外線撮像装置に係る赤外線検知部における入力回路の構成を示す図である。また図17Bは、図17Aに示す従来の赤外線検知部における入力回路の動作タイミングを示すチャート図である。従来の入力回路の動作を図17Aおよび図17Bを用いて説明する。
【0003】
まず、信号電荷を蓄積するキャパシタ(以後、単に“信号電荷蓄積キャパシタ”という)CInt(54)をリセットするためにトランジスタ52のゲートに加える制御電圧ΦRをローレベルにする(図17B参照)。するとノードN1(55)の電圧はリセットレベルになる。リセットレベルはVRの電圧によって定まる。なおVSは基板電圧で、通常はアースである。
【0004】
トランジスタ52のゲートに加えた制御電圧ΦRをハイレベルに戻した後、トランジスタ53のゲートに加える制御電圧ΦIntを所定の時間(積分時間)ハイレベルにして赤外線検知素子(センサ)Det.(51)に電流を流す(図17B参照)。トランジスタ58のゲートにはバイアス電圧Vbiasを加え、赤外線検知素子Det.(51)に適当な電流が流れるように制御する。ノードN1(55)の電圧は制御電圧ΦIntがハイレベルの期間下がり続ける。赤外線検知素子Det.(51)に流れる電流が多いほどノードN1(55)の電圧は速く下がる。つまり、赤外線検知素子Det.(51)に多くの赤外線が入射するほどノードN1(55)の電圧は速く下がる。制御電圧ΦIntをローレベルにして赤外線検知素子Det.(51)への電流供給を止めた後、トランジスタ56、トランジスタ57を経てノードN1(55)の電圧を読み出す(図17B参照)。トランジスタ56はソース・フォロワ・アンプとして機能するよう構成されている。
【0005】
図18A及び図18Bは、従来の赤外線撮像装置の原理的構成およびその動作を示す図である。図18Aに示す従来の赤外線撮像装置は以下のように動作する。
図18Bに示すように先ずシャッタ33を閉じて赤外線検知部31の入力回路32にシャッタ33の赤外線輻射を入射させる。赤外線検知部31の出力はシャッタ33の温度を反映したものになる。このとき検出した信号をオフセットとして、赤外線検知部31の入力回路32に備わる赤外線検知素子Det.毎にメモリ部43に記憶しておく。なおメモリ部43は例えばRAM(Random Access Memory)により構成され、また赤外線検知部は上記図17Aに示した入力回路の赤外線検知素子Det.を網目状に多数備えたもので構成され、赤外線検知素子Det.毎に検知した信号をA/D変換部41を介してディジタル化してメモリ部43に記憶させている。
【0006】
その後、図18Bに示すようにシャッタ33を開けて撮像対象35からの赤外線輻射を入力回路32の赤外線検知素子Det.に入射させる。このとき各赤外線検知素子Det.の出力が、図19(a)に示す丸印62の電圧になったとする。この丸印62の電圧からオフセット(シャッタ33を閉じたときの信号電圧=メモリ部43に記憶された電圧)を図18Aに示す演算部42により減算する。シャッタ33を閉じて得られた信号電圧が、図19(a)に示す四角印61の電圧であったとすれば、図19(a)に示す四角印61から丸印62までの長さが電圧の差として図19(b)に表わされる。演算部42はD/A変換部44を介して図19(b)に表わされている電圧の差を増幅してアナログ値に変換し、さらにこの電圧の差に比例した輝度を持つ映
像として表示部(モニタ)45で表示する。
【0007】
このように従来の赤外線撮像装置が複雑な信号処理を要する理由は、通常の温度環境(約300K)の撮像対象35から発出される赤外線輻射を、赤外線検知部31の各赤外線検知素子Det.で検知し、検知した赤外線輻射からオフセットを除去する処理を施しているからである。実用的な赤外線撮像装置にあっては、数10mK〜100mKの温度測定精度が要求されることから、オフセット除去は絶対に不可欠な課題である。
【0008】
しかしながら、上記従来方式のように入力回路の外部でオフセット除去を行うのでは、これ以上の精度向上を期待できない。これは、入力回路における信号電荷蓄積キャパシタCInt(54)に、信号だけではなくオフセットも一緒に蓄積されてしまう構成になっているからである。つまり、本来、表示輝度の精度に寄与する電荷だけが蓄積されるのが望ましいのであるが、オフセットつまりシャッタ33の赤外線輻射に対応する電荷が主に信号電荷蓄積キャパシタCInt(54)を埋めてしまうため電荷の蓄積量を増やすことができず、精度向上が望めない、という問題があった。
【0009】
この問題を解決する一方策として、特許文献1に提案されている、カメラにおけるオートフォーカスの精度を上げる入力回路が参考となる。この特許文献1の提案では、入力回路内に背景光などの不要な電流を記憶する回路を設け、信号測定時にも記憶された電流を流し続けて不要な電流を排出し、必要な電荷だけを蓄積してオートフォーカスの精度を上げるようにしている。すなわちこの特許文献1においては図20A及び図20Bに示すように、光源20による投光がオフのときに受光素子24(フォトダイオード2)を介して得られるトランジスタ6のソース・ゲート間の電圧をコンデンサ7が記憶し、光源20による投光がオンのとき、すなわち信号測定時にもトランジスタ6がコンデンサ7に記憶された背景光による電流を流し続けるように動作する。その結果、蓄積容量素子5には必要な電荷のみが蓄積され、背景光などの不要な電流はトランジスタ6によって排出され、蓄積容量素子5に不要な電荷が蓄積されないようにしている。
【特許文献1】特開平7−203319号公報(第10頁、図1,図17)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで上記特許文献1に提案された技術を赤外線撮像装置に適用した場合を考えてみると、図18Aに示すシャッタ33の温度が上昇して撮像対象35の温度より高温になったときには、信号電荷蓄積キャパシタCInt(54)に信号電荷の蓄積が行われなくなるという問題がある。これは図20Aにおいてフォトダイオード2に流れる電流よりもトランジスタ6によって排出される電流の方が大きくなった場合に相当し、電荷が過減算されるので蓄積容量素子5に信号電荷が蓄積されず、信号が得られない、という問題が生じる。
【0011】
ペルチェ素子(図示せず)などを用いて、図18Aに示すシャッタ33の温度を撮像対象35の温度より低く保持しておくことによって、電荷は過減算されなくなるが、長時間の使用によって赤外線撮像装置の筺体内温度が上昇した場合、ペルチェ素子の低温側といえども撮像対象35より高温になってしまうことがある。またペルチェ素子の高温側の発熱が赤外線撮像装置の筐体内温度を更に上昇させ、問題の解決を更に難しくする。この問題に対処するには赤外線撮像装置の筐体内から筐体外への放熱手段を講じる必要があり、装置がより複雑で高価になる、という問題が生じる。いずれにしてもペルチェ素子の採用だけでは解決できない。
【0012】
逆に、図18Aに示すシャッタ33の温度が撮像対象35より低すぎる状況でも、信号電荷蓄積キャパシタCInt(54)に信号電荷を多く蓄積することはできない。電荷の減算量が少なすぎてオフセット除去後の電荷が多く残り、CInt(54)が蓄積される電荷で埋まってしまう
。そのため高温の撮像対象35を精度よく撮像できない。高温の撮像対象35を精度よく撮像する場合、シャッタ33をヒータ(図示せず)などで加熱する必要がある。耐熱性のよいシャッタを使わねばならず装置がより複雑で高価になる、という問題が生じる。
【0013】
そこで本発明は、シャッタの温度の高低によらずに撮像対象を精度良く撮像できる赤外線撮像装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の赤外線撮像装置は、赤外線検知部の入力回路に不要な電荷蓄積が起こらないように電流を排出する電流排出量調整手段を備えることを特徴とする。また前記電流排出量調整手段は、不要な電荷蓄積が起こらないように電流を排出する複数のトランジスタで構成され、該トランジスタの使用個数をシャッタの温度に応じて変えることにより過減算が起こらないようにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明は、赤外線検知部の入力回路に電流排出量調整手段を設けているので、シャッタ温度と撮像対象温度の関係に応じてオフセット除去を適切に行うことが可能となる。これにより信号電荷蓄積キャパシタCIntに蓄積される不要なオフセットの電荷が減り、信号電荷の蓄積量を増すことができるので、撮像対象の赤外線輻射に係る映像の輝度精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1Aは本発明の実施形態に係る赤外線検知部の入力回路の構成を示すブロック図であり、図1Bは本発明の実施形態に係る赤外線検知部の入力回路の動作を説明するための波形図である。また図2は、本発明の実施形態に係る赤外線撮像装置の原理的構成を示す概略図であり、図3は本発明の実施形態に係る赤外線撮像装置の構成ブロック図である。図2及び図3において本発明の実施形態に係る赤外線撮像装置は、撮像対象500から赤外線輻射を得るために筐体(図示せず)内に撮像対象500から遠い順に赤外線検知部100、シャッタ300、レンズ400を備え、筐体外には赤外線検知部100で検知した赤外線輻射データを信号処理部800で信号処理して表示部(モニタ)900に表示するとともに制御部600から指令を受け、赤外線検知部100の入力回路200を駆動・制御する駆動部700を備えて構成されている。赤外線検知部100内には入力回路200が納められており、駆動部700によって駆動・制御される。
【0017】
表示部(モニタ)900に表示される赤外線輻射に係る映像を監視し、制御部600から駆動部700を介して赤外線検知部100の動作を制御する。赤外線検知部100の入力回路200(図1A参照)を駆動・制御する駆動部700は、制御部600とのインタフェースを持ち、図1Aに示す入力回路におけるスイッチSW1(111)〜SW5(115)のオン/オフ、蓄積時間(積分時間)の長さ、赤外線検知素子(Det.)101のバイアス電圧などの制御を制御部600で設定し、電流の排出量、信号として蓄積される電荷の多少を調整可能にしている。なお制御部600をパソコン、シーケンサなどで構成することができる。
【0018】
図1A、図1B、図2及び図3を用いて本発明の赤外線撮像装置の動作を説明する。図1Bに示すようにまず、図2及び図3に示すシャッタ300を閉じて赤外線検知素子(センサ)Det.101(図1A参照)にシャッタ300からの赤外線輻射を入射させ、スイッチSW1(111)〜SW5(115)(図1A参照)を同時に閉じてトランジスタTr0(121)〜Tr4(125)(図1A参照)に電流を流す(図1B参照)。
【0019】
次に、閉じているスイッチSW5(115)(図1A参照)だけを開ける。このとき、図1Aに示
すアナログ記憶・引算回路110の電荷蓄積キャパシタCMem(130)にはトランジスタTr0(121)〜Tr4(125)の各ゲートに印加されている電流が記憶される。
【0020】
次いで図2および図3に示すシャッタ300を開けて撮像を開始する。図1Aに示すアナログ記憶・引算回路110のトランジスタTr0(121)〜Tr4(125)には電荷蓄積キャパシタCMem(130)に蓄積された電荷により所定の電圧がトランジスタTr0(121)〜Tr4(125)の各ゲートに印加されるためシャッタ300を閉じているときと同じ電流が流れ続ける。
【0021】
図1Aに示すアナログ記憶・引算回路110のトランジスタTr0(121)〜Tr4(125)の各ゲートに印加されている電圧は同じなので、電荷蓄積キャパシタCMem(130)には5個の同じトランジスタを用いてシャッタ300を閉じたときの電流が記憶され、アナログ記憶・引算回路110のスイッチSW1(111)〜SW4(114)の内のいずれか一つを開き4個のトランジスタで電流の排出を行えば、電荷蓄積キャパシタCMem(130)に蓄積された電流を4/5倍(80%)に減らすことができる。これによりシャッタ300が撮像対象500に比して高温になったときの過減算を防止することができる。
【0022】
また図1Aに示すアナログ記憶・引算回路110のスイッチSW1(111)〜SW4(114)の内のいずれか一つを開き、開いたスイッチ以外のスイッチとスイッチSW5(115)を一緒に閉じてトランジスタを4個用いて電荷蓄積キャパシタCMem(130)に電流を記憶し、アナログ記憶・引算回路110のスイッチSW1(111)〜SW4(114)を閉じた状態にして5個のトランジスタTr0(121)〜Tr4(125)で電流の排出を行えば、電荷蓄積キャパシタCMem(130)に蓄積される電流を5/4倍(125%)に増やすことができる。撮像対象500がシャッタ300に比して高温になったときには排出電流量を増すことにより、撮像対象の赤外線輻射に係る映像の輝度精度を向上させることができる。
【0023】
図1A及び図1Bにおいて、入力回路のトランジスタ102のゲートに加える制御電圧ΦRを制御してトランジスタ102をオン/オフし、また入力回路のトランジスタ103のゲートに加える制御電圧ΦInt(積分時間)を制御してトランジスタ103をオン/オフして赤外線検知素子Det.(101)に電流を流し、ノード105の電圧を制御してオフセットを除去した電荷(信号に対応)を信号電荷蓄積キャパシタCInt(104)に蓄積する。そして信号電荷蓄積キャパシタCInt(104)に蓄積された電荷(信号に相当)を読み出して信号処理部800に伝達する。信号処理部800は検知された信号を処理し、表示部900は処理された信号に基づいて撮像対象の赤外線輻射に係る映像を表示する。
【0024】
このように本発明の実施形態に係る赤外線検知部の入力回路は、シャッタ300を閉じたときに流れた電流に比例した電流を信号検出時(撮像時)に排出する手段を有し、信号電荷蓄積キャパシタCInt(104)に流入する電荷がオフセット分を含まないように制御することで表示輝度精度を向上させ、ひいてはS/Nを上げることができる。
【0025】
図4は、図2及び図3に示した赤外線検知部の構成を示すブロック図である。図4において赤外線検知部は、赤外線検知素子(センサ)をセンスする入力回路200を網目状に配列した赤外線センサアレイによって撮像対象500の赤外線輻射を検知するように構成されている。そして各入力回路200は図1Aに示す構成を備えており、赤外線検知素子Det.(101)が検知した赤外線輻射データをトランジスタ106、トランジスタ107を経て垂直シフトレジスタ170によって選択される垂直選択線171と水平シフトレジスタ180によって選択される垂直バス181とによって出力線に導くようにしている。この場合赤外線センサアレイとして機能させる場合には、垂直選択線171で選択した水平方向の入力回路200を水平シフトレジスタ180によって選択される垂直バス181によって出力線182に導くようにし、次いで垂直選択線171の選択位置を変えて同様に水平方向の入力回路200を水平シフトレジスタ180によって選択される垂直バス181によって出力線182に導き、以下これを繰り返すことによ
って実現する。また各入力回路200のトランジスタTr11(111)、Tr12(112)、Tr13(113)、Tr14(114)などの駆動は垂直選択線171で選択した水平方向の各入力回路200を駆動部700がパラレルに駆動することによって実現する。なおトランジスタ106はソース・フォロワ・アンプとして機能するようにされている。また図1Aおよび図1BにおけるスイッチSW1(111)〜SW4(114)を図4ではトランジスタTr11(111)、Tr12(112)、Tr13(113)、Tr14(114)によって実現している。さらに赤外線検知部100の出力線182は信号処理部800に接続され、出力線182に出力された信号は信号処理部800で信号処理される。
【0026】
図5は、図2及び図3に示した駆動部の構成を示すブロック図である。図5において駆動部は、メモリ(図示せず)を内蔵するマイクロプロセッサシステム(MPU)701、制御部600との間のインタフェースを司るシリアルデータインタフェース702、赤外線検知部100の入力回路200におけるトランジスタを制御するゲート信号等を出力するパラレルI/Oポート703、および、赤外線検知部100の入力回路200におけるトランジスタを制御する制御電圧を出力するパルス発生回路704により構成される。MPU701は、内蔵するメモリ(図示せず)にプログラム、各種データを記憶することができ、内部バス703を介してシリアルデータインタフェース702、パラレルI/Oポート703と結合されている。そしてMPU701は、制御部600からシリアルデータインタフェース702を介して指令を受け、パラレルI/Oポート703およびパルス発生回路705に対する制御としての電流排出量(Tr11(111)〜Tr14(114)のゲート印加電圧)、積分時間(制御電圧ΦIntがハイレベルの時間)および素子バイアス電圧(制御電圧Vbiasの電圧)を設定する。パラレルI/Oポート703は図4で説明したように垂直選択線171で選択した水平方向の入力回路200のトランジスタTr11(111)、Tr12(112)、Tr13(113)、Tr14(114)の各ゲート印加電圧や素子バイアス電圧を並列的に駆動させることができる。同様に、パルス発生回路705は所定のタイミングで水平方向の入力回路200のトランジスタTr11(102)、Tr12(103)などのゲートに電圧を印加して制御することができる。
【0027】
図6Aは、本発明の実施形態に係る赤外線検知部の入力回路の実施例であり、図6Bは、図6Aに示した入力回路の実施例の動作を説明する波形図である。図6Aにおいて、電荷蓄積キャパシタCMem130は図2及び図3に示すシャッタ300が閉じたときの電流を記憶し、トランジスタTr00(141)〜Tr04(145)は電荷蓄積キャパシタCMem130に記憶した電流に比例する電流を排出するために用いられ、トランジスタTr11(151)〜Tr14(154)は図1Aおよび図1BにおけるスイッチSW1(111)〜SW4(114)を具体化したもので排出する電流を調整するために用いられ、トランジスタTr15(155)は図1Aおよび図1BにおけるスイッチSW5(115)を具体化したもので図2に示したシャッタ300を閉じたときに電荷蓄積キャパシタCMem130を充電するために用いられる。図6Bに示す入力回路の実施例の動作波形図は、基本的に図1Bで説明したのと同様であるので、ここでの再度の説明を省略する。ただ、図6Bでは、図6Aが選択された1つの赤外線センサについての信号電荷の蓄積にかかる入力回路の構成を示しているにすぎないので、これを他の入力回路の赤外線センサについても信号蓄積と信号読出を繰り返し実施することを付言している。
【0028】
以下では、蓄積された電流の排出量と本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様との関係について説明する。
図7は、図2及び図3に示すシャッタ300の温度が撮像対象500の温度より高い場合の、撮像対象500の輻射による電流とシャッタ300の輻射による電流の比と、シャッタ300と撮像対象500の温度の差の関係を示すグラフである。図7から分かるように、図2及び図3に示すシャッタ300の温度と撮像対象500の温度が等しいとき、どちらからの輻射も等しいので電流の比は1である。また図7から分かるように、図2及び図3に示すシャッタ300の温度が高くなって撮像対象500との温度差が大きくなると、電流の比は小さくなる。つまり、シャッタ300を閉じて記憶した電流に比べて、排出しなければならない電流は減る。また、撮像対象500の温度が低くなるほど電流の比は小さくなり、排出しなければならない電流は減る。
【0029】
図2及び図3に示すシャッタ300の温度が、撮像対象500の温度より常に高い、しかし30℃以上高温になることは無い、また撮像対象500の温度が−20℃以下にはならない、という条件では、排出しなければならない電流は、シャッタ300を閉じたときの電流の50%以上であり、シャッタ300の温度が撮像対象500の温度に近づく程100%に近づくことが、図7から分かる。
[入力回路設計例1]
図8A及び図8Bは、本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様を実現するための第1設計例を示す図である。すなわち図8A及び図8Bに示す第1設計例では、Tr00(141)に流れる電流は、Tr01(142)、Tr02(143)、Tr03(144)、Tr04(145)に流れる電流を加えたものに等しいように設計される。このように設計すれば、図2及び図3に示すシャッタ300を閉じたときに図8Aに示すTr15(155)のゲートをローレベルにし、Tr11(151)、Tr12(152)、Tr13(153)、Tr14(154)のゲートを全てローレベルにして電流を電荷蓄積キャパシタCMem130に記憶し、図2及び図3に示すシャッタ300を開けて撮像を開始したとき、図8Aに示すTr15(155)のゲートをハイレベルにし、Tr11(151)、Tr12(152)、Tr13(153)、Tr14(154)のゲートを全てハイレベルにすることで、電荷蓄積キャパシタCMem130に蓄積された電流の排出に寄与するトランジスタはTr00(141)のみなので記憶した電流の50%が排出される。
【0030】
図8Bに示すように電流の排出に寄与するトランジスタTr01(142)、Tr02(143)、Tr03(144)、Tr04(145)のゲートに同一の電圧を印加したときに流れる電流の比率は1:2:4:8にしてある。このとき電流の排出量を調整するトランジスタTr11(151)〜Tr14(154)のゲートのハイ・ローを組み合わせることによって、排出する電流を図2及び図3に示す制御部600から指令することができる。この例では、記憶した電流の50%から100%までを3.3%(=50%/15)刻みで調整できる。
【0031】
こうすることにより、図2及び図3に示すシャッタ300の温度が撮像対象500の温度より30℃高くなっても電荷の過減算を防止することができる。
図9は、図2及び図3に示すシャッタ300の温度が撮像対象500の温度より低い場合の、撮像対象500の輻射による電流とシャッタ300の輻射による電流の比と、シャッタ300と撮像対象500の温度の差の関係を示すグラフである。図9から分かるように、図2及び図3に示すシャッタ300の温度と撮像対象500の温度が等しいとき、どちらからの輻射も等しいので電流の比は1である。また図9から分かるように、図2及び図3に示す撮像対象500の温度が高くなり、シャッタ300との温度差(の絶対値)が大きくなると、撮像対象500からの輻射が大きくなるので電流の比は大きくなり、排出しなければならない電流は増える。図2及び図3に示すシャッタ300の温度が低くなるほど電流の比は大きくなり、排出しなければならない電流は増える。
【0032】
シャッタ300の温度が常に0℃以上で、撮像対象500の温度はシャッタ300の温度より30℃以上高くなることがないという条件では、撮像時にはシャッタ300を閉じたときの最大1.8倍の電流を排出する必要があることが、図9から分かる。
[入力回路設計例2]
図10A及び図10Bは、本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様を実現するための第2設計例を示す図である。すなわち図10A及び図10Bに示す第2設計例では、Tr00(141)に流れる電流は、Tr01(142)、Tr02(143)、Tr03(144)、Tr04(145)に流れる電流を加えたものの1.25倍に等しいように設計される。このように設計すれば、図2及び図3に示すシャッタ300を閉じたときに図10Aに示すTr15(155)のゲートをローレベルにし、Tr11(151)、Tr12(152)、Tr13(153)、Tr14(154)のゲートを全てハイレベルにしてTr00(141)のみに電流を流して電流を電荷蓄積キャパシタCMem130に記憶し、図2及び図3に示すシャッタ300を開けて撮像を開始したときに図10Aに示すTr15(155)のゲートをハイレベルにし、その後でTr11(151)、Tr12(152)、Tr13(153)、Tr14(154)のゲートを全てローレベル
にすることで、図10Aに示すTr00(141)からTr04(145)のすべてのトランジスタが電荷蓄積キャパシタCMem130に記憶された電流の排出に寄与し、記憶した電流の180%が排出される。
【0033】
図10Aに示すように電流の排出に寄与するトランジスタTr01(142)、Tr02(143)、Tr03(144)、Tr04(145)に同一に電圧を印加したときに流れる電流の比率は1:2:4:8にしてある。このとき電流の排出量を調整するトランジスタTr11(151)〜Tr14(154)の各ゲートのハイ・ローを組み合わせることによって、排出する電流を図2及び図3に示す制御部600から指令することができる。この例では、記憶した電流の100%から180%までを5.3%(=80%/15)刻みで調整できる。
【0034】
こうすることにより、撮像対象500の温度がシャッタ300の温度より30℃高くなっても電流の排出を段階的に行えるので、撮像対象の赤外線輻射に係る映像の輝度精度を向上させることができる。
[入力回路設計例3]
図11A及び図11Bは、本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様を実現するための第3設計例を示す図である。すなわち図11A及び図11Bに示す第3設計例では、Tr00(141)に流れる電流は、Tr01(142)、Tr02(143)、Tr03(144)、Tr04(145)に流れる電流を加えたものの0.341倍(=46/135倍)に等しいように設計される。また、Tr01(142)、Tr02(143)、Tr03(144)、Tr04(145)に同一に電圧を印加したときに流れる電流の比率は1:2:4:8にしてある。図11A及び図11Bにおいて、まず、図2及び図3に示すシャッタ300を閉じたときにTr15(155)のゲートをローレベルにし、Tr11(151)、Tr14(154)のゲートをハイレベル、Tr12(152)、Tr13(153)のゲートをローレベルにしてTr00(141)、Tr02(143)、Tr03(144)に電流を流して電流を電荷蓄積キャパシタCMem130に記憶する。これにより、100%の電流を、Tr00(141)で46%、Tr02(143)で18%(=2×9%)、Tr03(144)で36%(=4×9%)を分担して記憶する。
【0035】
図2及び図3に示すシャッタ300を開けて撮像を開始したときに図11Aに示すTr15(155)のゲートをハイレベルにし、その後で電流の排出に寄与するトランジスタTr11(151)、Tr12(152)、Tr13(153)、Tr14(154)のゲートを全てハイレベルにすることで、Tr00(141)のトランジスタのみが電流の排出に寄与し、電荷蓄積キャパシタCMem130に記憶した電流の46%が排出される。図11Aに示すTr15(155)のゲートをハイレベルにし、その後で電流の排出に寄与するトランジスタTr11(151)、Tr12(152)、Tr13(153)、Tr14(154)のゲートを全てローレベルにすることで、電流の排出量を調整するトランジスタTr00(141)からTr04(145)の全てのトランジスタが電流の排出に寄与し、電荷蓄積キャパシタCMem130に記憶した電流の181%が排出される。図11Aに示す電流の排出に寄与するトランジスタTr11(151)〜Tr14(154)の各ゲートのハイ・ローを組み合わせることによって、電荷蓄積キャパシタCMem130に蓄積された電流のうち排出する電流を46%から181%まで9%刻みで図2及び図3に示す制御部600から指令することができる。
【0036】
こうすることにより、シャッタ300の温度が撮像対象500の温度より30℃高くなっても電荷の過減算を防止でき、また、撮像対象500の温度がシャッタ300の温度より30℃高くなっても電流の排出を段階的に行えるので、撮像対象の赤外線輻射に係る映像の輝度精度を向上させることができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様を実現するための設計例を3つ示したが、電流の排出に用いるトランジスタの個数は5個に限らず複数個であれば排出電流を調整することは可能である。また、各トランジスタに流れる電流の比率は上記設計例で示した比率1:2:4:8に限らない。トランジスタの個数を多くすれば、調整の範囲を広く分解能を細かくできるが、多くなれば入力回路の搭載面積が広くなり、構成が複雑になる。
設計目的によって適切な個数を選ぶことが肝要である。
[実施形態1]
図12は、本発明の第1実施形態に係る赤外線撮像装置の調整手順を説明するためのフローチャートである。なお赤外線撮像装置の構成自体は図2及び図3に示したものと同様であるのでここでは再説しない。図12の調整手順においてステップS11では、最低温の物体表面は撮像できているかを調べる。最低温の物体表面が撮像できていなければ、ステップS12に進み、ステップS12では、排出電流を減らす制御を行ってステップS11に戻る。ステップS11で最低温の物体表面が撮像できていれば、ステップS13に進み、ステップS13では、最高温の物体表面は撮像できているかを調べる。最高温の物体表面が撮像できていなければ、ステップS14に進み、ステップS14では、蓄積電荷を減らす制御を行ってステップS13に戻る。ステップS13で最高温の物体表面が撮像できていれば、ステップS15に進み、ステップS15では、蓄積電荷を増しても最高温の物体表面を撮像可能か調べる。最高温の物体表面を撮像可能であれば、ステップS16に進み、ステップS16では、蓄積電荷を増やす制御を行ってステップS13に戻る。ステップS13で最高温の物体表面が撮像でき、且つステップS15で蓄積電荷を増しても最高温の物体表面を撮像可能でなければ、ステップS17に進み、ステップS17において排出電流を増しても最低温の物体表面を撮像可能か調べる。最低温の物体表面を撮像可能であれば、ステップS18に進み、ステップS18では排出電流を増す制御を行ってステップS11に戻り、ステップS11〜ステップS16の処理を再び実行する。一方、ステップS17で最低温の物体表面を撮像可能でなければ処理を終了する。
【0038】
以上で説明した調整手順について纏めてみると、本発明の第1実施形態に係る赤外線撮像装置の調整手順においては、撮像画面の中で、撮像対象となる最低温の物体表面の温度分布を認識できているかどうか確認する。この場合、できるだけ電流排出量を大きくすることが望ましいが、最低温の物体の形状が正しく撮像されず、あたかもその部分の温度分布が無いかのように撮像されている場合には、電流排出量が大き過ぎると判断されるので、トランジスタTr11(151)〜Tr14(154)の幾つかのゲートを閉じ、排出する電流を減らすよう制御し、一方、最低温の物体の形状が正しく撮像されていれば電流排出量を増やし、最低温の物体の形状が正しく撮像される最大の電流排出量になるように調整する。
【0039】
こうしておいてさらにS/Nの改善可能性を調べるため、積分時間(制御電圧ΦIntがハイレベルの時間)を長くするか、あるいは素子バイアス電圧(制御電圧Vbiasの電圧)を高めに印加して赤外線センサに流れる電流量を多くして、信号電荷蓄積キャパシタCIntにおける信号電荷蓄積量を増やす。蓄積される最大電荷量は限られており、積分時間を長くすれば電荷蓄積量が増えてS/Nは良くなるが撮像できる温度範囲は狭くなる。素子バイアス電圧を上げて赤外線センサに流す電流を増やしてもS/Nは良くなるが、撮像できる温度範囲が狭くなることは同様である。そこで撮像画面の中で、撮像対象となる最高温の物体表面の温度分布が認識できているかどうか確認する。この場合、できるだけ電荷の蓄積を増やしてS/Nを良くすることが望ましいが、最高温の物体の形状が正しく撮像されず、あたかもその部分の温度分布が無いように撮像されている場合には、電荷の蓄積を減らすよう制御し、一方、最高温の物体の形状が正しく撮像されていれば電荷蓄積量を増やし、最高温の物体の形状が正しく撮像される最大の電荷蓄積量になるように積分時間あるいは素子バイアス電圧を調整する。なお、S/N改善のため電荷蓄積量を増やしたことにより、排出すべき電流量も増えてしまう可能性があるので、上述した電流排出量の調整を再度行う必要がある。
【0040】
以上、本発明の第1実施形態に係る赤外線撮像装置は、電流排出量と電荷蓄積量の調整を交互に行うことにより、排出する電流量の調整で信号電荷蓄積キャパシタに流入する電荷がオフセットを含まないようにし、また信号電荷蓄積キャパシタに蓄積される電荷からオフセットに相当する部分が減るため積分時間を伸ばすか、あるいは、素子バイアス電圧を上げて、最低温から最高温までの範囲でS/Nが良くなるよう調整して表示輝度の精度を
向上させることが可能である。
[実施形態2]
図13は、本発明の第2実施形態に係る赤外線撮像装置の原理的構成を示す概略図であり、図14は、本発明の第2実施形態に係る赤外線撮像装置の調整手順を説明するためのフローチャートである。そして図15は、図14に示した調整手順における調整幅を説明するグラフである。
【0041】
図13において本発明の第2実施形態に係る赤外線撮像装置は、基本的には図2及び図3に示した第1実施形態に係る赤外線撮像装置の構成と変わりはないが、本発明の第2実施形態に係る赤外線撮像装置においては、制御部600は各赤外線センサの出力電圧(入力回路の出力電圧)を信号処理部800から取得しその平均値を計算しこの平均値と所定の設定値とを比較し入力回路の出力電圧の平均値を予め定めた設定値に近づくよう電流排出量を自動的に調整するよう構成したものである。そのため制御部600としては電流排出量の調整を手順化して実行可能なようにマイクロプロセッサ、シーケンサなどを用い、排出電流量をプログラムによってまたはシーケンスによって自動的に調整する。
【0042】
電流排出量を手順化して調整する例を以下に説明する。図14の調整手順においてステップS21では、赤外線検知部100において各赤外線センサの出力電圧を測定する。測定した各赤外線センサの出力電圧は信号処理部800を経て制御部600に送られる。制御部600はステップS22で赤外線センサ出力電圧の平均値を計算する。次いでステップS23では、上記平均値は所定の設定値Aより大きいかを調べる。所定の設定値Aは図15に示すような信号電荷蓄積量と入力回路の出力電圧(赤外線センサの出力電圧)との関係を表すグラフにおいて直線性が担保される部位に設定される。図15においては所定の設定値Bでもって上下幅が規定される中間に設定値Aが設定され、図14の調整手順では前記入力回路の出力電圧の平均値が設定値Aに接近するよう電流排出量を調整している。
【0043】
ステップS23で所定の設定値Aより大きい場合にはステップS24に進み、ステップS24において、上記平均値は設定値Aとの差の絶対値は設定値Bより大きいかを調べて、大きくない場合には処理を終了するとともに大きい場合にはステップS25に進み、ステップS25では、排出する電流から予め設定した設定値Cを減じるよう電流排出量を制御してステップS23に戻る。そしてステップS23以降の処理を実行する。
【0044】
一方、ステップS23で所定の設定値Aより大きくない場合には、ステップS26に進み、ステップS26において、上記平均値は設定値Aとの差の絶対値は設定値Bより大きいかを調べて、大きくない場合には処理を終了するとともに大きい場合にはステップS27に進み、ステップS27では、排出する電流に予め設定した設定値Cを増すよう電流排出量を制御してステップS23に戻る。そしてステップS23以降の処理を実行する。なお上記において設定値Cは電流排出量を増減するときに電流排出量の基準となるもので、設定値Cの値は個々の赤外線撮像装置によって異なり、赤外線撮像装置によって個別に決められるものである。
【0045】
以上のように本発明の第2実施形態に係る赤外線撮像装置は、図14に示すような調整手順を実行することにより電流排出量の調整を自動的に行うようにしたものである。この場合、図15のグラフに示すように、電荷蓄積量が多すぎても少な過ぎても、入力回路の出力電圧は電荷蓄積量を反映しなくなる。したがって、入力回路の出力電圧の平均値が図15のグラフ中の設定値Aを中心に設定値B以内に収まるよう電流排出量を自動的に調整して入力回路の出力電圧は電荷蓄積量を反映するものにする。
[実施形態3]
図16は、本発明の第3実施形態に係る赤外線撮像装置の原理的構成を示す概略図であり、シャッタ温度を計測する手段、および、撮像対象の温度(近接の環境温度)を計測する
手段を設け、計測したシャッタ温度、および、撮像対象の温度(近接の環境温度)と図7や図9のグラフに示したシャッタ温度及び撮像対象温度との関係から電流排出量を設定し電流排出量を自動的に調整するよう構成したものである。
【0046】
すなわち、図16に示した本発明の第3実施形態に係る赤外線撮像装置は、撮像対象500から赤外線輻射を得るために筐体(図示せず)内に撮像対象500から遠い順に赤外線検知部100、シャッタ300、レンズ400を備え、筐体外には赤外線検知部100で検知した赤外線輻射データを信号処理部800で信号処理して表示部(モニタ)900に表示するとともに制御部600の指令を受け、赤外線検知部100の入力回路200(図1Aなど参照)を駆動・制御する駆動部700とシャッタ300の温度を検知する温度センサ760及び撮像対象500に近接の環境温度を検知する温度センサ770から得られる温度を制御部600に入力する温度センサインタフェース部750を備えて構成されている。なお撮像対象500に近接する環境温度を検知する温度センサ770は撮像対象500をターゲットにして温度を検知できるものが望ましい。そして制御部600は、温度センサインタフェース部750を通して温度センサ760及び770が検知した温度をベースにして赤外線検知部100の入力回路200の条件設定、すなわち図1A及び図1Bなどに示す入力回路におけるスイッチSW1(111)〜SW5(115)のオン/オフ、蓄積時間(積分時間)の長さ、バイアス電圧などを自動的に設定し駆動部700に対し指令を出して電流排出量、電荷蓄積量を調整する。
【0047】
本発明の第3実施形態に係る赤外線撮像装置における自動調整について具体的に説明すると、シャッタ300の温度の方が撮像対象500の温度より高い場合、図7から排出する電流を小さくする必要があることが分かる。排出する電流の大きさは図7のグラフから求めることができる。例えば、撮像対象500の温度が0℃でシャッタ300の温度が20℃であった場合、シャッタ300を閉じて記憶した電流の約6割を排出すれば良い。
【0048】
逆にシャッタ300の温度が撮像対象500の温度より低い場合、図9から排出する電流を大きくする必要があることが分かる。排出する電流の大きさは図9のグラフから求めることができる。例えば、撮像対象500の温度が30℃でシャッタ300の温度が10℃であった場合、シャッタ300を閉じて記憶した電流の約1.4倍を排出すれば良い。
【0049】
シャッタの温度、撮像対象の温度(近接する環境温度)、および、シャッタを閉じて記憶した電流の排出量をについてテーブル化してROM(Read Only Memory)などに記憶し、それを制御部600内の記憶装置(図示せず)にテーブル(図示せず)として保持し、制御部600をコントロールするマイクロプロセッサなどが適宜テーブル(図示せず)を参照し、該テーブル(図示せず)から得た電流排出量になるように、赤外線検知部100の入力回路200に設けたトランジスタTr11(151)〜Tr14(154)のON/OFF、蓄積時間(積分時間)の長さ、バイアス電圧などを設定し駆動部700を経て赤外線検知部100の入力回路200に指令することで自動調整を行うことができる。
【0050】
以上説明したことを概観すれば本発明は以下のような構成を備えるものである。
(付記1) 赤外線センサをセンスする入力回路を網目状に配列した赤外線センサアレイによって撮像対象の赤外線輻射を検知する赤外線検知部と、該赤外線検知部の前記入力回路を駆動する駆動部と、該駆動部を制御する制御部と、前記赤外線検知部の出力を信号処理する信号処理部と、該信号処理部の出力を映像として表示する表示部とを有する赤外線撮像装置において、
前記入力回路は、前記赤外線検知部の前段に配置され前記赤外線センサに撮像対象の赤外線輻射のみ入射させるシャッタを閉じているときに前記赤外線センサに流れる電流を記憶する電流記憶手段と、該記憶した電流の定数倍の電流を排出する電流排出量調整手段を備え、
前記制御部は、前記赤外線検知部の出力を反映する前記表示部の表示のS/Nが良好とな
るよう前記入力回路の前記電流排出量調整手段を調整する指令を前記駆動部に送出することを特徴とする赤外線撮像装置。
【0051】
(付記2) 前記電流排出量調整手段は、不要な電荷蓄積が起こらないように電流を排出する複数のトランジスタで構成されることを特徴とする付記1に記載の赤外線撮像装置。
【0052】
(付記3) 前記電流排出量調整手段は、前記不要な電荷蓄積が起こらないように電流を排出する複数のトランジスタのゲート長を所定の比率となるようして構成し、該複数のトランジスタのオン/オフを組み合わせることで排出する電流量を調整することを特徴とする付記2に記載の赤外線撮像装置。
【0053】
(付記4) 前記制御部は、前記入力回路の出力電圧を前記信号処理部から取得しその平均値を計算する手段と、該平均値と所定の設定値とを比較し前記入力回路の出力平均値を予め定めた設定値に近づくよう排出電流量を自動的に調整する手段を有することを特徴とする付記1に記載の赤外線撮像装置。
【0054】
(付記5) 前記シャッタの温度を計測する手段と、撮像対象の温度またはそれに近接する環境温度を計測する手段とを備え、前記制御部は、計測した前記シャッタの温度および撮像対象の温度またはそれに近接する環境温度をキーにしてテーブルを参照して前記電流排出量調整手段における電流排出量を抽出し前記入力回路の前記電流排出量調整手段を調整する指令を前記駆動部に送出することを特徴とする付記1に記載の赤外線撮像装置。
【0055】
(付記6) 前記制御部は、パソコンまたはシーケンサで構成され、前記調整を手順化して自動的に行うことを特徴とする付記1ないし5のいずれかに記載の赤外線撮像装置。
(付記7) 最低温の物体表面は撮像できているかを調べるステップと、前記最低温の物体表面が撮像できていなければ、排出電流を減らすステップと、前記最低温の物体表面が撮像できていれば、最高温の物体表面は撮像できているかを調べるステップと、前記最高温の物体表面が撮像できていなければ、蓄積電荷を減らすステップと、前記最高温の物体表面が撮像できていれば、蓄積電荷を増しても最高温の物体表面を撮像可能か調べるステップと、前記蓄積電荷を増しても最高温の物体表面を撮像可能であれば、蓄積電荷を増やすステップと、前記蓄積電荷を増しても最高温の物体表面が撮像でき且つ最高温の物体表面を撮像可能でなければ、排出電流を増しても最低温の物体表面を撮像可能か調べるステップと、前記排出電流を増しても最低温の物体表面を撮像可能であれば、排出電流を増すステップと、前記最低温の物体表面を撮像可能であるかを再度調べるステップと、を含むことを特徴とする赤外線撮像方法。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1A】本発明の実施形態に係る赤外線検知部の入力回路の構成を示すブロック図である。
【図1B】本発明の実施形態に係る赤外線検知部の入力回路の動作を説明するための波形図である。
【図2】本発明の実施形態に係る赤外線撮像装置の原理的構成を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る赤外線撮像装置の構成ブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る赤外線検知部の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施形態に係る駆動部の構成を示すブロック図である。
【図6A】本発明の実施形態に係る赤外線検知部の入力回路の実施例を示す図である。
【図6B】本発明の実施形態に係る赤外線検知部の入力回路の実施例の動作を説明する波形図である。
【図7】本発明に係るシャッタの温度が撮像対象の温度より高い場合の、撮像対象の輻射による電流とシャッタの輻射による電流の比と、シャッタと撮像対象の温度の差の関係を示すグラフである。
【図8A】本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様を実現するための第1設計例に係る入力回路例を示す図である。
【図8B】本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様を実現するための第1設計例に係る入力回路例の仕様を示す図である。
【図9】本発明に係るシャッタの温度が撮像対象の温度より低い場合の、撮像対象の輻射による電流とシャッタの輻射による電流の比と、シャッタと撮像対象の温度の差の関係を示すグラフである。
【図10A】本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様を実現するための第2設計例に係る入力回路例を示す図である。
【図10B】本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様を実現するための第2設計例に係る入力回路例の仕様を示す図である。
【図11A】本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様を実現するための第3設計例に係る入力回路例を示す図である。
【図11B】本発明の実施形態に係る入力回路の具体的仕様を実現するための第3設計例に係る入力回路例の仕様を示す図である。
【図12】本発明の第1実施形態に係る赤外線撮像装置の調整手順を説明するためのフローチャートである。
【図13】本発明の第2実施形態に係る赤外線撮像装置の原理的構成を示す概略図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る赤外線撮像装置の調整手順を説明するためのフローチャートである。
【図15】本発明の第2実施形態に係る赤外線撮像装置の調整手順における調整幅を説明するグラフである。
【図16】本発明の第3実施形態に係る赤外線撮像装置の原理的構成を示す概略図である。
【図17A】従来の赤外線撮像装置に係る赤外線検知部における入力回路の構成を示す図である。
【図17B】従来の赤外線検知部における入力回路の動作タイミングを示すチャート図である。
【図18A】従来の赤外線撮像装置の原理的構成を示す図である。
【図18B】従来の赤外線撮像装置の動作原理を示す図である。
【図19】従来の赤外線撮像装置におけるオフセット除去前と除去後の様子を示す図である。
【図20A】従来のオートフォーカス用入力回路の構成を示す図である。
【図20B】従来のオートフォーカス用入力回路の動作を説明するタイミング図である。
【符号の説明】
【0057】
100 赤外線検知部
101 赤外線検知素子(センサ)
102 リセット電圧印加トランジスタ
103 積分時間設定トランジスタ
104 信号電荷蓄積キャパシタ
108 バイアス電圧印加トランジスタ
110 アナログ記憶・引算回路
111〜115 電流排出量調整スイッチ
121〜125 電流排出寄与トランジスタ
130 電荷蓄積キャパシタ
170 垂直シフトレジスタ
171 垂直選択線
180 水平シフトレジスタ
181 垂直バス
182 出力線
200 入力回路
300 シャッタ
400 レンズ
500 撮像対象
600 制御部
700 駆動部
701 MPU(マイクロプロセッサシステム)
702 シリアルデータインタフェース
703 内部バス
704 パラレルI/Oポート
705 パルス発生回路
750 温度センサインタフェース部
760 温度センサ(シャッタ温度)
770 温度センサ(環境温度)
800 信号処理部
900 表示部(モニタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線センサをセンスする入力回路を網目状に配列した赤外線センサアレイによって撮像対象の赤外線輻射を検知する赤外線検知部と、該赤外線検知部の前記入力回路を駆動する駆動部と、該駆動部を制御する制御部と、前記赤外線検知部の出力を信号処理する信号処理部と、該信号処理部の出力を映像として表示する表示部とを有する赤外線撮像装置において、
前記入力回路は、前記赤外線検知部の前段に配置され前記赤外線センサに撮像対象の赤外線輻射のみ入射させるシャッタを閉じているときに前記赤外線センサに流れる電流を記憶する電流記憶手段と、該記憶した電流の定数倍の電流を排出する電流排出量調整手段を備え、
前記制御部は、前記赤外線検知部の出力を反映する前記表示部の表示のS/Nが良好となるよう前記入力回路の前記電流排出量調整手段を調整する指令を前記駆動部に送出することを特徴とする赤外線撮像装置。
【請求項2】
前記電流排出量調整手段は、不要な電荷蓄積が起こらないように電流を排出する複数のトランジスタで構成されることを特徴とする請求項1に記載の赤外線撮像装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記入力回路の出力電圧を前記信号処理部から取得しその平均値を計算する手段と、該平均値と所定の設定値とを比較し前記入力回路の出力電圧の平均値を予め定めた設定値に近づくよう電流排出量を調整する手段を有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線撮像装置。
【請求項4】
前記シャッタの温度を計測する手段と、撮像対象の温度またはそれに近接する環境温度を計測する手段とを備え、前記制御部は、計測した前記シャッタの温度および撮像対象の温度またはそれに近接する環境温度をキーにしてテーブルを参照して前記電流排出量調整手段における電流排出量を抽出し前記入力回路の前記電流排出量調整手段を調整する指令を前記駆動部に送出することを特徴とする請求項1に記載の赤外線撮像装置。
【請求項5】
最低温の物体表面は撮像できているかを調べるステップと、前記最低温の物体表面が撮像できていなければ、排出電流を減らすステップと、前記最低温の物体表面が撮像できていれば、最高温の物体表面は撮像できているかを調べるステップと、前記最高温の物体表面が撮像できていなければ、蓄積電荷を減らすステップと、前記最高温の物体表面が撮像できていれば、蓄積電荷を増しても最高温の物体表面を撮像可能か調べるステップと、前記蓄積電荷を増しても最高温の物体表面を撮像可能であれば、蓄積電荷を増やすステップと、前記蓄積電荷を増しても最高温の物体表面が撮像でき且つ最高温の物体表面を撮像可能でなければ、排出電流を増しても最低温の物体表面を撮像可能か調べるステップと、前記排出電流を増しても最低温の物体表面を撮像可能であれば、排出電流を増すステップと、前記最低温の物体表面を撮像可能であるかを再度調べるステップと、を含むことを特徴とする赤外線撮像方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【公開番号】特開2008−219649(P2008−219649A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56364(P2007−56364)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】