説明

走査電子顕微鏡

【課題】欠陥箇所のフレームが特定可能な、又は保存画像の圧縮率が高い、或いはシステマティックな欠陥を抽出可能な高精度で低ダメージの走査電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】走査電子顕微鏡において、パターンの検査・測長のための合成画像を構成する個々のフレーム画像やサブフレーム画像に対してパターンの有無を判定するパターン有無判定部1012や倍率補正部1014、歪曲補正部1018、画像合成部1015及びそれら画像を動画形式で圧縮保存する記憶部1111を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細パターンの検査や測長等に用いる走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
微細パターンを有する半導体デバイスの検査では高精度な寸法管理が必要とされる。そこで半導体製造工程での微細パターンの寸法管理には高精度寸法計測が可能な走査電子顕微鏡が用いられる。走査電子顕微鏡は試料上に収束した電子線を照射し、該電子線照射によって試料から発生した二次電子や反射電子を検出器で捕らえることで走査電子顕微鏡像が得られる。特にパターン寸法を計測するときはCD−SEM(測長SEM)と呼ばれる電子顕微鏡が用いられる。
【0003】
走査電子顕微鏡像は一般的に電子線の照射エネルギーや照射量が大きいほどS/Nの高い画像が得られ計測精度は高くなる。そこで従来はCD−SEMで観察を行う際に同一箇所で複数回電子線照射を行うことで得られた複数の画像を重ね合わせて一つの画像を形成していた(フレーム加算)。なお、走査電子顕微鏡に関しては、例えば、特許文献1〜5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−516832号公報
【特許文献2】特開2009−135273号公報
【特許文献3】特開2007−299768号公報
【特許文献4】特開2005−056907号公報
【特許文献5】特開2007−288732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最先端半導体プロセスで用いられるArFエキシマレーザー光を用いたリソグラフィ(ArFリソグラフィ)はフォトレジスト(ArFレジスト)を感光させ、微細パターンを作ることができる。しかし、ArFレジストはCD−SEMを用いた寸法計測の際の電子線照射によりシュリンクと呼ばれる体積収縮が生じることが知られており、この体積収縮により検査前後でパターン寸法には差が生じ、正確な寸法検査の妨げとなっている。
【0006】
体積収縮つまりレジストダメージ抑制には照射する電子線の照射エネルギーや照射量を小さくすることが有効であるとされる。前述した計測精度は照射する電子線の照射エネルギーや照射量を大きくすることが有効であるので、ArFレジストパターンの寸法計測には計測精度とダメージにトレードオフが存在し、計測精度の向上とダメージの抑制を同時に満たすのは困難である。
【0007】
前記フレーム加算ではS/Nは改善されるものの同一箇所に電子線照射を繰り返すので、該観察箇所では電子線照射量が多くなるため大きな体積収縮が起こり、パターン寸法が大きく変化する。
【0008】
本課題を解決するために特許文献2に書かれた手法が提案されている。特許文献2では異なる場所の走査電子顕微鏡画像を合成して高S/N画像を作成し、低ダメージ高精度測長を実現しようとしている。しかし、本手法では画像を重ね合わせてしまうので一箇所ごとの画像を保存することができず、加算に用いた画像の中に欠陥箇所のフレームが含まれていた場合に不良と判定された場所がどの観察箇所なのかを厳密に特定することができない。
【0009】
別の課題としてパターンの微細化や複雑化に伴う検査点の増大によるサーバー負荷の増大が挙げられる。上述したパターンのトレンドによりホットスポットと呼ばれる欠陥になりやすい部位が多数生じることとなった。このため走査電子顕微鏡の検査対象が増え、後にパターンを精査するときのための画像保存機会が増えるのでデータを保存しているサーバーの負荷が大きくなっている。この課題を解決するために特許文献1、4、5で走査電子顕微鏡画像の圧縮方法に関して述べられている。前記文献によれば画像保存の容量を小さくすることができるが、それぞれの画像に対して倍率変動や歪曲が加わったときにパターンの類似性を失うため圧縮率を大きくできない可能性がある。特許文献3には走査電子顕微鏡画像を形成する際の電子ビームの照射位置ずれ(ドリフト)を補正し、先鋭な画像を得ることが記載されているが、倍率変動や歪曲などには言及されていない。
【0010】
また別の課題としてフォトマスク上の欠陥転写などにより、ウェハ上のパターンにシステマティックに存在する欠陥の抽出が挙げられる。フォトマスクに欠陥が存在すると、そのマスクを用いて製造されるパターンはすべて不良となるため、前記欠陥は早期発見することが重要である。フォトマスクを観察する専用の検査装置が存在するが、一度半導体プロセスに組み込まれたフォトマスクを検査のためだけに取り外すのは効率的でない。そこでウェハ上に転写されたパターンからフォトマスク上の欠陥を検査できれば作業工程の効率化が図れるが、ウェハ上のパターンにはラフネスと呼ばれるパターン形状の揺らぎが存在するため、検出されたパターン揺らぎがフォトマスク欠陥に起因するものなのか、あるいはウェハ上で発生したものなのかがこれまでは不明であった。
【0011】
本発明の第1の目的は、高精度で低ダメージの走査電子顕微鏡を提供することにある。
【0012】
本発明の第2の目的は、欠陥箇所のフレームが特定可能な高精度で低ダメージの走査電子顕微鏡を提供することにある。
【0013】
本発明の第3の目的は、保存画像の圧縮率が高く高精度で低ダメージの走査電子顕微鏡を提供することにある。
【0014】
本発明の第4の目的は、システマティックな欠陥を抽出可能な高精度で低ダメージの走査電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記第1〜第4に共通の目的である高精度で低ダメージを達成するための一実施形態として、一箇所の観察領域においては少ないフレーム加算枚数条件で画像取得を行い、これを複数箇所で繰り返した後に取得した画像のパターンを検査した後に合成し、合成画像を用いてパターン検査を行う走査電子顕微鏡とする。このようにすることでシュリンクを小さく抑制できる。また複数箇所の観察領域で走査電子顕微鏡像を得ることで、一箇所の電子線照射量を少なく抑えても、複数箇所分の信号量を得られるので、走査電子顕微鏡の寸法計測精度を高く保ち、尚且つ一箇所の電子線照射量が少ないので、該観察領域のダメージ量を低減できる。つまりこれまで実現困難であった高精度・低ダメージ計測が可能となる。前記低フレーム加算数での画像取得を複数箇所で繰り返す。このようにして得られた複数の画像を重ね合わせることで高いS/Nをもつ画像を形成できる。この高S/N画像から寸法計測を行うことで高精度寸法計測を行うことができる。
【0016】
このとき画像を合成する際にそれぞれの画像で倍率と歪曲の補正を行う。これによりパターンの類似性が向上し、上記第3の目的である保存画像の圧縮率を高めることができる。更に、この補正により合成後の画像での先鋭な画像となり、寸法計測の誤差が小さくなる。
【0017】
また単なる重ね合わせの合成画像だけでは一箇所ずつの情報が残らないので、動画形式で各計測点での走査電子顕微鏡画像を保存し一箇所ずつの情報を残すことにより上記第2の目的を達成することができる。
【0018】
また、複数箇所で取得した画像を重ね合わせた画像では局所的に存在するランダムな形状バラツキを平均化することができるため、各場所でシステマティックに存在する特徴的な形状を顕在化させることができ、上記第4の目的が達成される。
【0019】
たとえば半導体製造時のリソグラフィ工程において使用されるフォトマスクに欠陥が存在した場合、一箇所だけの観察画像ではマスクに存在する欠陥であるのかレジストのラフネスなのかが不明であるが、レジストのラフネスは複数場所での画像を重ね合わせることで平均化されるため、フォトマスクの欠陥検査に用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高精度で低ダメージの走査電子顕微鏡を提供することができる。また、各観察画像を動画形式で圧縮保存することで、各観察領域の情報を損なうことなくサーバーの負荷を軽減できる走査電子顕微鏡を提供することができる。
【0021】
さらに、検査結果が良好であった複数の場所のパターン画像から平均画像を算出し、該平均画像の出来栄えを検査することで、局所にあらわれるパターンラフネスや電子顕微鏡画像に含まれるノイズに左右されることのなくシステマティックにあらわれる欠陥を見つけ出すことができる走査電子顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施例に係るCD−SEMの概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係るCD−SEMを用いた時の測定フロー図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係るCD−SEMを使用する際のGUIの一例である。
【図4】パターン有無の検査を説明するための図であり、(a)は検査対象パターンの概略断面図、(b)はCD−SEMによる検査画像の平面模式図、(c)は信号強度波形の概略図である。
【図5】パターンの有無による画像明るさ(階調値)変化の一例をあらわす検査画像の平面模式図である。
【図6】検査画像の模式図の一例であり、(a)は正常な検査画像、(b)は倍率変動がある場合の検査画像、(c)は歪曲がある場合の検査画像を示す。
【図7】欠陥検出の効果を説明するための図で、各計測点における画像とそれらを合成したときの画像の平面模式図である。
【図8】異常パターン判定の原理を説明するための図で、各計測点における画像とそれらを合成したときの画像の平面模式図である。
【図9】パターン有無判定で異常(パターン無)と判定された場合のGUI画面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
(実施例1)
図1は本発明の実施例に係る走査電子顕微鏡の概念図である。本走査電子顕微鏡は、試料に照射される電子を放出する電子銃1002、電子ビームを収束するコンデンサレンズ1003、電子ビームを走査する偏向器1004、計測対象となる試料1007、試料1007表面に電子ビームを収束される対物レンズ1005、試料1007を移動させるステージ1006、電子ビーム照射により試料1007から二次的に発生した二次電子もしくは反射電子を捕捉する検出器1008、とを有する電子光学系1001と、得られた二次電子もしくは反射電子信号を画像化する画像メモリ1010などを有する演算部1100と、オペレータが入力を行い、走査電子顕微鏡像の表示を行うための表示部1110、過去のデータを格納している記憶部1111、電子線照射条件を電子光学系1001に反映し制御する電子光学系制御部1112、とで構成される。
【0024】
演算部1100は、検出された二次電子もしくは反射電子信号を画像化する画像メモリ1010、取得画像を処理しパターン寸法を算出する寸法演算部1011、画像合成の際にパターンの位置ずれを補正する位置ずれ補正部1013、画像合成の際に画像の倍率変動を補正する倍率補正部1014、画像合成の際に画像の歪曲を補正する歪曲補正部1018、パターンの有無判定を行うパターン有無判定部1012、ウェハ上の計測位置を指定する計測位置指定部1016、一箇所での電子ビーム照射量を制限するフレーム数設定部1017、などによって構成される。なお、符号1015は画像合成部を示す。
【0025】
図2に、本実施例に係るCD−SEMを用いた時のパターン寸法計測のフローチャートを示す。ステップS2010で計測が開始される。次にステップS2020において計測位置の指定が行われる。計測位置の指定は図3に示されるGUI(Graphical User Interface)によってなされる。
【0026】
図3中の3001は計測箇所のX座標入力枠であり、3002はY座標入力枠である。ボタン3003は観察中の座標を3001と3002に自動反映する座標指定ボタンである。
【0027】
上述したように計測座標は3001、3002にユーザーが直接入力して指定することもできるが、座標指定ボタン3003を用いて自動で反映することもできる。
【0028】
このようにして指定された計測座標は計測場所設定ボタン3004を押下することで決定される。ボタン3004を押下して決定した計測座標は計測座標表示枠3005に表示されると同時に図1中の計測位置指定部1016に記憶される。
【0029】
図3中の3006は計測座標表示枠3005に表示される計測点で電子ビーム照射を行う際のフレーム数を指定するフレーム数指定枠である。符号3007はフレーム数設定ボタンであり、押下することでフレーム数指定枠3006に入力されたフレーム数を装置に設定される。
【0030】
図3中の符号3008は画像平均明るさ(階調値)閾値入力枠であり、後述するパターン有無判定に用いられる。符号3009は画像平均明るさ(階調値)閾値設定ボタンであり、押下することで画像平均明るさ閾値入力枠3008に入力された画像平均明るさ閾値が装置に設定される。なお、上記項目は1画面に表示した方が全体を理解し易いが、複数画面に分割して表示してもよい。複数画面に表示することにより各項目内容を確実に確認できる。
【0031】
図3の計測座標表示枠3005で指定された計測点においてCD−SEMで画像取得を行う。この際、計測対象となるフォトレジストは電子ビーム照射により体積収縮(シュリンク)が生じる。このシュリンクにより検査前後でパターン寸法に差が生じ正確な寸法検査の妨げとなる。
【0032】
本実施例では任意の計測点における電子ビーム照射量を制限することでシュリンクの抑制を行う。任意の一箇所に照射する電子ビーム照射量は図3中のフレーム加算数設定枠3006で設定する。
【0033】
次に試料の観察領域が電子顕微鏡直下に位置するようにステップS2030でステージが移動される。ステージ移動は演算部1100からの情報に基づき電子光学系制御部1112により制御される。このときステージ移動だけでなく、電子ビームシフトによる観察領域の移動が行われる。
【0034】
その後、ステップS2040で検出された二次電子や反射電子の信号を用いて観察領域の電子顕微鏡画像が取得される。これらの電子は検出器1008で検出される。ステップS2040では観察試料のダメージを最小限に抑えるためにフレーム加算数は1あるいはそれ以下と設定される。
【0035】
ここで本実施例での画像形成に関して説明する。走査電子顕微鏡では試料の観察場所に電子ビームを照射し、照射場所から発生した二次電子量を検出器1008で検出して画像を形成する。電子ビームを照射する際の走査線本数は任意に設定できるようにしているが、本実施例では512本で1フレームの画像を形成することとする。但し、走査線本数はこれに限らない。
【0036】
次に走査線に沿った方向の信号形成に関して説明する。電子線を走査線に沿って走査する間に二次電子信号のサンプリングを512回行われる。つまり得られる走査電子顕微鏡画像は512pixel×512pixelのデジタル画像となり、これが1フレームの走査電子顕微鏡画像となる。
【0037】
通常、上記1フレームの画像取得を複数回繰り返し、得られた複数枚の1フレーム画像を重ね合わせることで高いS/Nを持つ走査電子顕微鏡画像を得ることができ、パターンの寸法検査に用いられる。しかし、上記検査手法では同一箇所に複数回の電子ビーム照射が行われるので、電子ビーム照射によるダメージ量を抑制することが困難であった。
【0038】
そこで本実施例では、試料に同一パターンを多数の箇所に形成しておき、少なくともその一部の複数箇所で取得した1フレーム画像をフレーム加算に用いることで1箇所におけるダメージ量を低減することを実現した。S/Nが劣化する問題に関しては前記複数箇所で取得した1フレーム画像を重ね合わせることで解決できる。
【0039】
上記手法で画像重ね合わせを行う際には一箇所ごとのパターン有無判定が重要となることを、図8を用いて説明する。図8中の符号8001、8011、8021および8031は異なる場所(計測点1〜4)で取得した走査電子顕微鏡画像(平面模式図)を示し、それらを重ね合わせた画像(模式図)が符号8041である。計測点1のSEM画像(模式図8001)、計測点3のSEM画像(模式図8021)および計測点4のSEM画像(模式図8031)ではパターンが正常にできているのに対し、測定点2のSEM画像(模式図8011)ではパターンが形成されておらず、本来ならば検査によって不良と判定されるべきである。しかし、合成画像(模式図8041)は計測点1のSEM画像(模式図8001)、計測点3のSEM画像(模式図8021)および計測点4のSEM画像(模式図8031)で示される正常部画像3枚と欠陥部画像1枚の平均であるため、測定点2のSEM画像(模式図8011)で示される欠陥部は合成画像(模式図8041)から判定できないこととなる。そのため、ステップS2050において個々の検査場所でのパターン有無判定が重要となる。
【0040】
ステップS2040で取得した画像からパターン検査を行い、ステップS2050でパターンの有無判定を行う。ステップS2050で検査に用いる画像は1フレームあるいはそれ以下の低S/N画像であるため、寸法検査の精度が十分でない。なお、パターン有無判定はパターン有無判定部1012で行われる。
【0041】
寸法検査精度がパターンの寸法変動許容値よりも十分に小さい場合はステップS2050で寸法検査を行い、有無判定の基準としても良い。
【0042】
寸法検査精度がパターンの寸法変動許容値よりも大きい場合は、計測した寸法が計測結果の誤差なのかパターン寸法が変動しているのかが区別できないため有無判定に用いることができない。従って、この場合のステップS2050はパターンが存在するかどうかを判定することとする。
【0043】
前記パターン有無の検査に関して図4を用いて説明する。図4(a)は観察対象のパターン断面図であり、図4(b)は図4(a)の走査電子顕微鏡画像の平面模式図である。図4(c)は図4(a)を観察したときの信号強度分布を示している。走査電子顕微鏡では一般的にエッジ効果と呼ばれる物理現象により、観察対象に形状変化があるときに二次電子信号量が多くなる。図4(a)で示されたパターンエッジに対応する部分で図4(b)の画像が明るくなり、図4(c)の信号量が大きくなっていることがわかる。この二次電子信号量の変化をモニタすることでパターン有無の検査が可能となる。
【0044】
前記パターン有無の検査の詳細を、図5を用いて説明する。図5(a)はパターンが存在するときの走査電子顕微鏡画像(平面模式図)を示し、図5(b)はパターンが存在しないときの走査電子顕微鏡画像(平面模式図)を示す。それぞれの画像の平均明るさ(階調値)を算出すると、パターンの存在する図5(a)の画像では195となり、パターンの存在しない図5(b)では140となった。本実施例では取得画像の平均明るさ(階調値)が150以上の明るさを持つ場合はパターンが存在するとし、図2のS2050で良判定を出しS2060(倍率補正)へ進む。取得画像の平均明るさ(階調値)が150未満であった場合はパターンが存在しないとして図2のS2050で無(NO)判定を出しS2140(再検査の要否判定)へ進む。
【0045】
上述した方法では画像平均明るさ(階調値)に閾値を設け、取得した画像の平均明るさと設定した閾値を比較することによりパターンの有無を判定したが、画像の平均明るさではなく、例えば微分画像の信号量などを用いる手法なども考えられる。
【0046】
S2050の判定結果が良(YES)となった場合、サーバー(記憶部1111)に画像を圧縮保存する。この際、走査電子顕微鏡画像に倍率変動や歪があると後述する画像合成の際に画像の乱れの原因となるので補正する必要がある。ここで走査電子顕微鏡画像の倍率変動と歪に関して図6を用いて説明する。
【0047】
図6(a)の画像は正常な走査電子顕微鏡画像を示し、図6(b)は倍率変動がある場合の走査電子顕微鏡画像を示し、図6(c)は歪がある場合の走査電子顕微鏡画像を示す。倍率変動は試料の高さ変動によって引き起こされる。試料の高さが変わると電子ビームの走査幅が変化するため走査電子顕微鏡の視野の大きさが変化し、倍率が変動する。このため、通常電子顕微鏡では試料の高さモニタリングを行い、倍率変動を記録している。そこでS2060で倍率変動値を用いて取得した電子顕微鏡画像の拡大・縮小を行うことで画像合成の乱れを抑制することができる。倍率補正は倍率補正部1014で行われる。図6(a)と図6(b)を合成する際には、図6(b)の画像を縦横両方向に0.8倍程度に縮小することで正常な合成を行うことができる。画像の合成は画像合成部1015で行われる。
【0048】
次に走査電子顕微鏡像に歪がある場合の補正方法に関して述べる。歪は主に走査電子顕微鏡の光軸位置と観察位置の差によって生じる。図6(c)では走査電子顕微鏡の光軸位置が観察領域中心にあるときの画像(平面模式図)であり、画像中心から外側に向かう方向にパターンが歪んで見えている。これは電子ビーム照射位置が光軸から離れるほど顕著にあらわれる現象で歪曲と呼ばれる。この現象の補正は電子ビーム照射位置と光軸とのずれを算出し、あらかじめ求めた補正テーブルに基づいて画像の拡大・縮小を行うことで実現できる。歪曲は画像内で不均一に発生するのでS2070(歪曲補正)での補正の際には画像を小領域に分割し、小領域ごとに拡大・縮小を行う。歪曲補正は歪曲補正部1018で行われる。なお、倍率補正と歪曲補正の両方の補正を行うことが好適であるが、少なくとも一方の補正を行うことにより、従来よりもパターン像は改善される。
【0049】
前記、倍率・歪曲補正を行った画像を用いてS2080で圧縮保存を行う。これらの画像は記憶部(サーバー)1111に圧縮保存される。S2080における圧縮保存の手法として、例えばMPEG(Moving Picture Experts Group)を用いるが、これに限るものではない。
【0050】
S2080で圧縮保存を用いるメリットは、各画像の情報を残しつつもサーバーの負荷を低減できることにある。半導体製造現場では常に製品検査を行っており、膨大な量の検査画像を扱っているためサーバーには大きな負荷がかかっている。だからといって検査画像をサーバーに保存せずにいると、不良が発生したときの原因究明時に再度不良箇所の解析のために再度電子顕微鏡画像を取得せねばならず、多くの時間を費やすことになる。
【0051】
例えば、図8中の合成画像(模式図8041)を静止画形式で保存していると個々の計測場所での画像情報が残らないが、動画形式で保存することで個々の計測場所での画像情報も残されるため、製品に不良が発生した場合でも迅速に該当部分の来歴を検証することができる。
【0052】
本実施例で圧縮保存する画像は、同じ設計レイアウトの複数の場所で取得した電子顕微鏡画像である。このため、場所は異なっても似た画像となり圧縮率を大きくすることができる。特に、倍率補正や歪曲補正を行うことにより、画像の類似性が高まるため、更に圧縮率を向上することができる。
【0053】
一方、パターンの有無判定を行うS2050の判定結果が不良(NO)となった場合は、表示部1110に判定結果が不良となった旨の警告を表示する。ここで表示されるのは図9に示すような警告である。表示部1110での警告表示9001により、不良への迅速な対応が可能になる。図9にはパターンが無いと判定された場所で再度画像取得をするかどうかの選択ができる。
【0054】
ボタン9011を押した場合はS2090(画像の再取得)へ進む。S2040の画像取得ではダメージ抑制のため1フレームもしくはそれ以下で画像を取得していたが、S2090では詳細な欠陥検査を行うために少なくとも2フレーム以上の条件で画像取得を行い、その画像をサーバー(記憶部1111)に保存する(S2100)。
【0055】
図9中のボタン9021を押した場合はS2110(全計測点終了の判定)へ進むこととなる。なお、ステップS2050で不良(NO)と判定された場合、S2020に戻り他のチップパターンを計測してもよい。これにより、合成するための画像数の減少を低減できる。また、全計測点終了の判定(S2110)は、画像取得(S2040)後に行っても良い。
【0056】
本実施例ではS2040で取得しS2060(倍率補正)やS2070(歪曲補正)で各種補正を行った画像を重ね合わせて合成画像をS2120で作成し、その合成画像からパターン検査を行うことができる。合成画像の作成は画像合成部1015で行われる。その後、ステップS2130で終了となる。
【0057】
図7にレジストパターンの走査電子顕微鏡画像の模式図を示す。レジストパターンには計測点1のSEM画像(模式図7001)、計測点2のSEM画像(模式図7011)、計測点3のSEM画像(模式図7021)および計測点4のSEM画像(模式図7031)に示すようなラフネスと呼ばれるデコボコ形状の揺らぎが存在する。
【0058】
このラフネスはレジストにパターンを転写するマスクパターンの形状をあらわしている場合やレジスト現像プロセス時に発生する場合などがある。マスクパターンに欠陥がある場合は、該当するマスクで形成されるパターンはすべて同じ欠陥を持つこととなるため、半導体製造ラインの生産性向上のためには早急に対処されるべきである。
【0059】
しかし、従来はパターンの形状揺らぎとパターン製造時のマスクパターンの揺らぎを区別するのが難しかった。本実施例では異なる複数個所で撮像した画像を合成することができるため、局所的なパターン形状揺らぎを平均化した画像が得られることとなる。
【0060】
図7の計測点1のSEM画像(模式図7001)、計測点2のSEM画像(模式図7011)、計測点3のSEM画像(模式図7021)および計測点4のSEM画像(模式図7031)は異なる場所の計測点で取得した走査電子顕微鏡画像であり、互いに異なった形状揺らぎを有している。しかし、これらの画像を合成することで得られる合成画像(模式図7041)は形状揺らぎのランダム成分が除去されすべての計測点でシステマティックに発生している形状揺らぎを表示している。
【0061】
このシステマティックな形状揺らぎの原因としてマスクパターンの欠陥が考えられる。従って、同じマスク部分から作られたパターンの画像のみを選択的に合成することでパターンのラフネスを平均化することができ、その結果マスクパターンの欠陥のみを抽出することができる。つまり、本実施例を用いることでウェハに転写されたパターンからフォトマスクに存在する欠陥を抽出することができる。
【0062】
最後に本実施例を用いた場合の効果について実例を述べる。従来のダメージ量1.13nm、計測精度0.79nmだった検査工程を本手法と組み合わせることでダメージ量0.84nm、計測精度0.80nmとすることができた。つまり計測精度をそのままにダメージを約25%低減することができた。
【0063】
以上述べたとおり、本実施例によれば、欠陥箇所のフレームが特定可能な高精度で低ダメージの走査電子顕微鏡を提供することができる。
【0064】
また、保存画像の圧縮率が高く高精度で低ダメージの走査電子顕微鏡を提供することができる。
【0065】
また、システマティックな欠陥を抽出可能な高精度で低ダメージの走査電子顕微鏡を提供することができる。
【0066】
以上、本願発明を詳細に説明したが、以下に主な発明の形態を列挙する。
(1)観察試料の所定領域に電子線を走査する電子光学系と、前記電子線の走査により発生する二次電子または反射電子を検出する検出部と、前記検出器で検出された二次電子または反射電子の情報から観察試料の寸法あるいはピッチを算出する演算部を有する走査電子顕微鏡において、
同一試料上の異なる部位における撮像画像を複数取得する手段と、
前記複数の撮像画像からパターン検査を行う手段と、
前記パターン検査の結果が良好と判定された前記撮像画像を合成して合成画像を作成する手段と、
前記合成画像の強度情報からパターンの寸法を計測する手段と、を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(2)前項(1)記載の電子顕微鏡において、
前記取得した撮像画像のそれぞれに倍率補正、歪曲補正をする手段と、
補正を行った後の画像を合成する手段と、を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(3)前項(2)記載の電子顕微鏡において、
前記演算部は、
計測位置と電子顕微鏡の光軸とのずれ量の算出と、
前記算出結果から前記補正量の算出と、を行う機能を有するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(4)前項(1)記載の電子顕微鏡において、
前記撮像画像は1フレームもしくはサブフレームで構成されることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(5)前項(1)記載の電子顕微鏡において、
前記パターン検査の結果が不良と判定された際に警告を表示する表示部と、
前記検査位置情報を記憶する記憶部と、
前記位置において不良パターン画像を再度取得する手段と、を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(6)前項(5)記載の電子顕微鏡において、
再度取得される前記不良パターン画像は、前記位置において電子線を複数回走査することで得られる複数の画像を合成した画像であることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(7)前項(1)記載の電子顕微鏡において、
前記複数の撮像画像は動画形式で圧縮保存されることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(8)前項(1)記載の電子顕微鏡において、
前記判定結果が良好であった部位で撮像された複数の前記撮像画像から一つの平均画像を算出する手段と、
前記平均画像から異常を判断する手段と、を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(9)前項(1)記載の電子顕微鏡において、
取得した前記撮像画像同士の位置ずれ量を算出する手段と、
算出された前記位置ずれ量に応じた補正を行う手段と、を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(10)試料を載せるステージと前記試料上において電子線を走査する偏向器と前記偏向器により走査された前記電子線が前記試料に照射されたことに起因する第2の電子を検出する検出器とを備えた電子光学系と、前記第2の電子を前記検出器で検出することにより得られる信号を画像化する画像メモリを備えた演算部と、前記演算部に接続された記憶部とを有する走査電子顕微鏡において、
前記試料には複数の領域に同一パターンがそれぞれ形成されており、
前記演算部は、
前記複数の領域の同一パターンの画像を合成して合成画像を作成する画像合成部と、
前記複数の領域の同一パターンの画像の各々について倍率補正を行う倍率補正部、又は歪曲補正を行う歪曲補正部、或いはその両者と、
を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
(11)前項(10)記載の走査電子顕微鏡において、
前記記憶部は、前記複数の領域の同一パターンの画像の各々を動画形式で圧縮保存するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(12)前項(10)記載の走査電子顕微鏡において、
前記演算部は、前記複数の領域の同一パターンの画像の各々についてパターンの有無を判定するパターン有無判定部を更に有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
(13)前項(12)記載の走査電子顕微鏡において、
前記パターン有無判定部は、前記複数の領域の同一パターンの画像の各々の階調値でパターンの有無を判定するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(14)前項(10)記載の走査電子顕微鏡において、
前記合成画像は、前記複数の領域の同一パターンのシステマティックな欠陥検査に用いられるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
(15)前項(10)記載の走査電子顕微鏡において、
前記合成画像は、前記複数の領域の同一パターンの寸法計測に用いられるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【符号の説明】
【0067】
1001…電子光学系、1002…電子銃、1003…コンデンサレンズ、1004…偏向器、1005…対物レンズ、1006…ステージ、1007…検査試料、1008…検出器、1100…演算部、1010…画像メモリ、1011…寸法演算部、1012…パターン有無判定部、1013…位置ずれ補正部、1014…倍率補正部、1018…歪曲補正部、1015…画像合成部、1016…計測位置指定部、1017…フレーム数設定部、1110…表示部、1111…記憶部、1112…制御部、S2010…測定開始工程、S2020…計測場所を指定する工程、S2030…計測場所を移動する工程、S2040…画像取得の工程、S2050…パターンの有無判定の工程、S2060…画像の倍率補正の工程、S2070…画像の歪曲補正の工程、S2080…画像を圧縮保存する工程、S2090…不良箇所での画像の再取得の工程、S2100…不良箇所での画像の保存工程、S2110…指定した計測が終了したかを判定する工程、S2120…合成画像を作成する工程、S2130…測定終了工程、7001…レジストパターンの走査電子顕微鏡画像、7011…レジストパターンの走査電子顕微鏡画像、7021…レジストパターンの走査電子顕微鏡画像、7031…レジストパターンの走査電子顕微鏡画像、7041…レジストパターンの合成画像、8001…レジストパターンの走査電子顕微鏡画像、8011…レジストパターンの走査電子顕微鏡画像、8021…レジストパターンの走査電子顕微鏡画像、8031…レジストパターンの走査電子顕微鏡画像、8041…レジストパターンの合成画像、9001…パターンが無いことを警告するGUI、9011…画像再取得を指示するボタン、9021…画像再取得を行わないことを指示するボタン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察試料の所定領域に電子線を走査する電子光学系と、前記電子線の走査により発生する二次電子または反射電子を検出する検出部と、前記検出器で検出された二次電子または反射電子の情報から観察試料の寸法あるいはピッチを算出する演算部を有する走査電子顕微鏡において、
同一試料上の異なる部位における撮像画像を複数取得する手段と、
前記複数の撮像画像からパターン検査を行う手段と、
前記パターン検査の結果が良好と判定された前記撮像画像を合成して合成画像を作成する手段と、
前記合成画像の強度情報からパターンの寸法を計測する手段と、を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
前記取得した撮像画像のそれぞれに倍率補正、歪曲補正をする手段と、
補正を行った後の画像を合成する手段と、を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2記載の電子顕微鏡において、
前記演算部は、計測位置と電子顕微鏡の光軸とのずれ量の算出と、前記算出結果から前記補正量の算出と、を行う機能を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
前記撮像画像は1フレームもしくはサブフレームで構成されることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
前記パターン検査の結果が不良と判定された際に警告を表示する表示部と、
前記検査位置情報を記憶する記憶部と、
前記位置において不良パターン画像を再度取得する手段と、を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項5記載の電子顕微鏡において、
再度取得される前記不良パターン画像は、前記位置において電子線を複数回走査することで得られる複数の画像を合成した画像であることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
前記複数の撮像画像は動画形式で圧縮保存されることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
前記判定結果が良好であった部位で撮像された複数の前記撮像画像から一つの平均画像を算出する手段と、
前記平均画像から異常を判断する手段とを備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
取得した前記撮像画像同士の位置ずれ量を算出する手段と、
算出された前記位置ずれ量に応じた補正を行う手段と、を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項10】
試料を載せるステージと前記試料上において電子線を走査する偏向器と前記偏向器により走査された前記電子線が前記試料に照射されたことに起因する第2の電子を検出する検出器とを備えた電子光学系と、前記第2の電子を前記検出器で検出することにより得られる信号を画像化する画像メモリを備えた演算部と、前記演算部に接続された記憶部とを有する走査電子顕微鏡において、
前記試料には複数の領域に同一パターンがそれぞれ形成されており、
前記演算部は、
前記複数の領域の同一パターンの画像を合成して合成画像を作成する画像合成部と、
前記複数の領域の同一パターンの画像の各々について倍率補正を行う倍率補正部、又は歪曲補正を行う歪曲補正部、或いはその両者と、
を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項10記載の走査電子顕微鏡において、
前記記憶部は、前記複数の領域の同一パターンの画像の各々を動画形式で圧縮保存するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項12】
請求項10記載の走査電子顕微鏡において、
前記演算部は、前記複数の領域の同一パターンの画像の各々についてパターンの有無を判定するパターン有無判定部を更に有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項12記載の走査電子顕微鏡において、
前記パターン有無判定部は、前記複数の領域の同一パターンの画像の各々の階調値でパターンの有無を判定するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項10記載の走査電子顕微鏡において、
前記合成画像は、前記複数の領域の同一パターンのシステマティックな欠陥検査に用いられるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項15】
請求項10記載の走査電子顕微鏡において、
前記合成画像は、前記複数の領域の同一パターンの寸法計測に用いられるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−220735(P2011−220735A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87812(P2010−87812)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】