説明

超撥水膜の製造方法および製造装置並びにその製品

【課題】 プラズマによる撥水処理層の成形手段に真空中の高密度プラズマ環境を形成することによって、効率よくかつ強固に撥水処理層を形成できるようにした、超撥水膜の製造方法および製造装置並びにその製品の提供。
【解決手段】 有機ケイ素モノマーをプラズマによって重合し基材2に膜形成させる方法において、高密度プラズマを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車を始め各種製品の表面の防汚、撥水などに好適な超撥水膜の製造方法および製造装置並びにその製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の撥水処理は、フッ素系又はシリコーン系樹脂の真空蒸着法によって被膜を形成し、撥水性コーティングをしたり(例えば、参考 特許文献1)、塗装、蒸着、塗装の工程を反覆継続して基材表面に撥水膜を被覆したりなどして形成していた。
【0003】
また、図4に示すような、塗装蒸着に代る成膜方法としてプラズマ重合法の開発も行われ、各種電子機器や自動車灯体への応用が期待されている。
【0004】
図面について説明すれば、1aは真空容器で、排気ポンプに接続されている。2aは被覆を形成するための基材、3aはプラズマ発生電源、4aは陰極で前記電源3aに接続されている。5aは、基材2aの表面に被覆される撥水材の原料のモノマーのガス導入管、6aは発生したプラズマ、7aは必要に応じて設けられる基板加熱機構である。
【0005】
即ち、真空容器1aが高真空になった後、ガス導入管5aから任意の流量のモノマーガスを流入させ、基材2a付近に導入させる。この状態でプラズマ発生電源3aから陰極4aに電力が供給されると、放電が起ってプラズマ6aが発生し、それによって重合された膜が基材2aに形成される。
【特許文献1】特開平6−330363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の従来技術で、モノマーガスとしてHMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)マノマーからのSiOx膜は容易に形成できるが、RF放電(無線放電)を使っているため、放電電流が数mAと低く、プラズマ密度が低く、放電電圧が数百Aと高すぎるなどの理由のため、化学反応を促進させたり、コントロールすることが難しい。したがって、有機ケイ素材料から超撥水膜を得ることは困難であった。
【0007】
さらに、従来技術では、成膜速度が遅いのでタクトタイムが長くなり、量産性が悪い。
【0008】
つぎに塗装,蒸着,塗装などのような反覆処理を行う工程では、量産性が低く、塗装処理では一応の撥水膜が形成できても、例えば、蒸着で製造されるミラー膜の保護膜として使う場合、下地塗装,蒸着ミラー膜の形成後、再び塗装のための段取り替えをしなければならず、不良発生やタクトタイムの増加など、量産性が悪い。
【0009】
本発明は叙上の点に着目して成されたもので、プラズマによる撥水処理層の成形手段に真空中の高密度プラズマ環境を形成することによって、効率よくかつ強固に撥水処理層を形成できるようにした、超撥水膜の製造方法および製造装置並びにその製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、以下の構成を備えることにより、上記課題を解決できる。
【0011】
(1)有機ケイ素モノマーをプラズマによって重合し基材に膜形成させる方法において、高密度プラズマを用いることを特徴とする超撥水膜の製造方法。
【0012】
(2)有機ケイ素モノマーをプラズマによって重合し基材に膜形成させる方法において、真空容器内に導入された有機ケイ素モノマーガスを、プラズマガンから導入された高密度プラズマにより活性化および重合させ、かつ膜形成時の真空容器内の圧力が10〜40Pa、放電電流が20〜30Aであることを特徴とする前項(1)記載の超撥水膜の製造方法。
【0013】
(3)プラズマガンの陰極近傍に導入する不活性ガスにAr,He,Ne,Kr,Xeのうち少なくとも1種類以上のガスを使うことを特徴とする前項(2)記載の超撥水膜の製造方法。
【0014】
(4)プラズマ重合のときの有機ケイ素モノマーにヘキサメチルジシロキサン(HMDSO),ヘキサメチルジシラザン(HMDS)のうち少なくとも1種類以上のモノマーガスを使うことを特徴とする前項(1)から(3)のいずれかに記載の超撥水膜の製造方法。
【0015】
(5)有機ケイ素モノマーをプラズマによって重合し基材に膜形成させる装置において、高密度プラズマを用いることを特徴とする超撥水膜の製造装置。
【0016】
(6)有機ケイ素モノマーをプラズマによって重合し基材に膜形成させる装置において、真空容器内に導入された有機ケイ素モノマーガスを、プラズマガンから導入された高密度プラズマにより活性化および重合させ、かつ膜形成時の真空容器内の圧力が10〜40Pa、放電電流が20〜30Aであることを特徴とする前項(5)記載の超撥水膜の製造装置。
【0017】
(7)プラズマガンの陰極近傍に導入する不活性ガスにAr,He,Ne,Kr,Xeのうち少なくとも1種類以上のガスを使うことを特徴とする前項(6)記載の超撥水膜の製造装置。
【0018】
(8)プラズマ重合のときの有機ケイ素モノマーにヘキサメチルジシロキサン(HMDSO),ヘキサメチルジシラザン(HMDS)のうち少なくとも1種類以上のモノマーガスを使うことを特徴とする前項(5)から(7)のいずれかに記載の超撥水膜の製造装置。
【0019】
(9)前項(1)から(4)のいずれかに記載の超撥水膜の製造方法か、前項(5)から(8)のいずれかに記載の超撥水膜の製造装置のいずれかを用いて製造される超撥水膜製品。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、高密度環境下でのプラズマ処理によるドライブプロセスなので、真空中で他の膜と同一のプロセスで積層でき、したがって、量産性が高く、また有機溶媒は使用しないので、排水汚染がなく、さらに基板加熱を行わないので、プラスチックなどに成膜でき、かつデバイスを軽量、安価にできる。
【0021】
さらに、成膜速度が著しく高いので、量産性が高いと共に、製品の表面の超撥水膜により光学窓の防滴、汚れ防止にきわめて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施例を説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の一実施例を示す超撥水膜を製造する装置の断面説明図である。
【0024】
1は真空容器で、真空を得るための排気ポンプに接続される配管1Aを有する。2は前記真空容器1内に封入配置される撥水膜を形成するための好みの基材、3はプラズマガンを示し、筒状の絶縁ガイシ4の基部を、前記真空容器1と開口して接続すると共に、先端には放電ガスGの導入管5を設け、プラズマ発生電源6と接続される陰極7と陽極8が前記絶縁ガイシ4の前後に配設され、さらに絶縁ガイシ4の基部には電磁コイル9が配設されている。10は、真空容器1に通ずる基材2への被覆用有機モノマーガス11の導入配管、12は真空容器1内に形成される高密度放電プラズマを、それぞれ示す。
【0025】
叙上の構成において、まず、真空容器1内の空気を排出するため、配管1Aより排気ポンプを働かせて圧力を1〜90Paの範囲内の所定の値になるように設定し、プラズマ発生電源6を印加させて、放電ガスGを導入管5よりプラズマガン3内に供給する。前記プラズマ発生電源6の印加により、陰極7と、陽極8との間の電界には、プラズマが発生すると共に、通常は陰極7は熱電子フィラメントを用いていることが多い。そのため、これが十分加熱されることで、印加電圧が増加すると10〜100A程度の大電流が得られる。この発生したプラズマは、さらに真空容器1内に吐出する際、電磁コイル9によって発生した磁場内を通過するので、高密度プラズマを効率よく発生し、図示の通りの高密度放電プラズマ12が発生できる。そして、この高密度放電プラズマ12を得るための電流値を所定の値に設定した後、材料モノマーガス(被覆用有機モノマーガス)11を導入配管10を介して前記高密度放電プラズマ12内に向けて供給させることにより、重合膜となって基材2の表面に強固な超撥水膜層を形成させることができる。
【0026】
なお、通常放電ガスはArを用いるが、不活性ガスのHe,Ne,Kr,Xeでも可能であり、また、有機ケイ素の被覆用有機モノマーガス11は、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を用いるが、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)も可能である。
【実施例2】
【0027】
つぎに、本発明の超撥水膜の製造方法について説明する。
【0028】
放電ガスにAr、有機ケイ素モノマーにHMDSOを用いて本発明のプラズマ発生装置でプラズマ重合を行った。表1に成膜条件を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
ここで真空容器の全圧に対するArとモノマーの分圧比は1:3〜1:7であった。
【0031】
図2にガラス基板に15秒成膜したときの全圧力に対する重合膜の膜厚特性を示す。圧力が高くなるにつれて重合膜の膜厚が著しく増加した。30Paでの成膜速度は620Å/sであった。
【0032】
また図3に圧力に対する接触角を示す。圧力につれて接触角は増加傾向を示し、圧力が10Pa付近ではやや疎水性だが、30Paでは超撥水性が得られた。通常のRF放電は電圧が数100V、電流は数百mA程度である。本発明で高速成膜が実現できたのは数十Aの大電流により高密度プラズマが得られ、それを高い圧力のモノマーガス雰囲気に供給することで重合反応が著しく促進できたものと考えられる。また、この超高速成膜プロセスは膜組成の制御にも影響を及ぼしたと考えられる。通常HMDSOの重合では反応の過程でモノマーからCH3−(アルキル基)が脱離する、つまり縮合重合することでSiOx膜が形成されることが知られている。
【0033】
この反応の中で例えば、前記特許文献1には、作成したHMDSO膜の表面をArプラズマで処理するとCH3−(アルキル基)が脱離し、SiOもしくはOHとなるような結合が表面に露出して親水化されるとある。
【0034】
一方本発明による方法では、CH3−脱離が起りにくい現象が起っていると考えられる。つまり本発明の方法では、従来技術と比べて成膜速度が大きく異なるため、表面がArプラズマに十分さらされる前にCH3−で覆われてしまい、疎水・撥水化が進行したのではないかと考えられる。
【実施例3】
【0035】
なお、本発明は、以下のように特定することもできる。
【0036】
撥水膜を形成する対象の基材を収容する容器と、不活性ガスに10から100Aの電界を印加して高密度プラズマを発生するプラズマガンと、前記容器内の前記基材近傍に前記高密度プラズマを導入する電磁コイルと、前記基材近傍に有機ケイ素モノマーガスを導入する材料ガスの導入配管と、前記容器内の圧力を1から90kPaの間の所定の値に維持する排気ポンプと、を備える超撥水膜の製造装置として形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
そして、本発明は、例えば以下に示すような産業分野に広く実施できる。
【0038】
(1)自動車灯体のリフレクターの防滴・汚保護膜
(2)自動車灯体のカバーレンズ表面の防滴・防汚・防雪膜
(3)めがね、ゴーグル、ヘルメットシールドの防滴・防汚膜
(4)自動車ウインド表面の防滴・防汚・防雪膜
(5)自動車ミラー表面の防滴・防汚・防雪膜
(6)鏡の表面の防滴・防汚・防雪膜
(7)インクジェットプリンタのノズル、チューブ類の防汚、目詰まり防止膜
(8)腕時計表示板透明カバー表面の防滴・防汚・防雪膜
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る一実施例を示す超撥水膜を製造する装置の断面説明図
【図2】HMDSO膜厚−成膜圧力特性のグラフ
【図3】HMDSO膜の水の接触角−成膜圧力特性のグラフ
【図4】従来例の成膜装置の断面説明図
【符号の説明】
【0040】
1 真空容器
2 基材
3 プラズマガン
5 導入管
6 プラズマ発生電源
7 陰極
8 陽極
9 電磁コイル
10 導入配管
11 被覆用有機モノマーガス(材料の有機モノマーガス)
12 高密度放電プラズマ
G 放電ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素モノマーをプラズマによって重合し基材に膜形成させる方法において、高密度プラズマを用いることを特徴とする超撥水膜の製造方法。
【請求項2】
有機ケイ素モノマーをプラズマによって重合し基材に膜形成させる方法において、真空容器内に導入された有機ケイ素モノマーガスを、プラズマガンから導入された高密度プラズマにより活性化および重合させ、かつ膜形成時の真空容器内の圧力が10〜40Pa、放電電流が20〜30Aであることを特徴とする請求項1記載の超撥水膜の製造方法。
【請求項3】
プラズマガンの陰極近傍に導入する不活性ガスにAr,He,Ne,Kr,Xeのうち少なくとも1種類以上のガスを使うことを特徴とする請求項2記載の超撥水膜の製造方法。
【請求項4】
プラズマ重合のときの有機ケイ素モノマーにヘキサメチルジシロキサン(HMDSO),ヘキサメチルジシラザン(HMDS)のうち少なくとも1種類以上のモノマーガスを使うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の超撥水膜の製造方法。
【請求項5】
有機ケイ素モノマーをプラズマによって重合し基材に膜形成させる装置において、高密度プラズマを用いることを特徴とする超撥水膜の製造装置。
【請求項6】
有機ケイ素モノマーをプラズマによって重合し基材に膜形成させる装置において、真空容器内に導入された有機ケイ素モノマーガスを、プラズマガンから導入された高密度プラズマにより活性化および重合させ、かつ膜形成時の真空容器内の圧力が10〜40Pa、放電電流が20〜30Aであることを特徴とする請求項5記載の超撥水膜の製造装置。
【請求項7】
プラズマガンの陰極近傍に導入する不活性ガスにAr,He,Ne,Kr,Xeのうち少なくとも1種類以上のガスを使うことを特徴とする請求項6記載の超撥水膜の製造装置。
【請求項8】
プラズマ重合のときの有機ケイ素モノマーにヘキサメチルジシロキサン(HMDSO),ヘキサメチルジシラザン(HMDS)のうち少なくとも1種類以上のモノマーガスを使うことを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の超撥水膜の製造装置。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載の超撥水膜の製造方法か、請求項5から8のいずれかに記載の超撥水膜の製造装置のいずれかを用いて製造される超撥水膜製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−131938(P2006−131938A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320721(P2004−320721)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】