説明

超電導出力回路

【課題】 超電導出力回路に関し、高速にデータを出力できる或いはパルス幅の広いデータを出力できる出力インターフェイス回路を実現する。
【解決手段】 レベル論理を発生する超電導単一磁束量子回路の出力ドライバを備えた超電導出力回路に、二つの出力ドライバと、前記二つの出力ドライバからの出力波形を合成する出力合成回路とを備え、前記出力合成回路が前記二つの出力ドライバを分離するヒステリシスを有するジョセフソン接合と抵抗とからなる一対の直列回路を有するとともに、前記直列回路に直流オフセット電流を供給するバイアス電流源を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導出力回路に関し、特に、超電導SFQ(単一磁束量子)回路を用いた超電導ADコンバータや超電導ディジタル回路全般に用いられる出力インターフェイス回路における出力の高速化或いは広パルス幅化のための構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単一磁束量子(SFQ)を用いた超電導アナログ/ディジタル回路は半導体回路に比べて高速かつ低消費電力で動作するという特長を有する。その応用として超高速のプロセッサ、ネットワーク用のルータースイッチ、ADコンバータなどへの応用をめざして研究開発が精力的に行われている。
【0003】
SFQ論理回路ではSFQパルスを用いた論理演算・信号処理が高速に行われるが、超高速な信号処理後のデータは最終的には室温環境の半導体回路・素子に受け渡す必要がある。
そのためには、パルス論理から電圧出力となるレベル論理に変換する必要があり、そのために、室温半導体回路・素子とのインターフェイスが必要になる。
【0004】
このように、SFQ回路を用いたシステムを構築するためには、SFQ回路本体の性能もさることながら室温半導体とのインターフェイス、特に出力インターフェイスの開発は重要な技術の一つである。
【0005】
そこで、これまで出力インターフェイス回路(出力ドライバまたは出力ゲート)としてDC駆動、AC駆動を含めさまざまな回路が研究開発されている。
例えば、
(a)磁界結合入力でヒステリシスのないSQUIDを直列接続したDC駆動のSQUID型(例えば、非特許文献1或いは非特許文献2参照)、
(b)ヒステリシスのある接合を直並列に接続したAC駆動のスタック型(例えば、非特許文献3参照)、或いは、
(c)セルフリセット回路を設けたDC駆動のDCラッチ型(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【0006】
図15は、従来のSQUID型ドライバの回路構成図であり、磁界結合入力でヒステリシスのないSQUIDを直列接続することで出力電圧を大きくしている。この構成方法ではSQUID型ドライバへの入力はその前段で順次分配してSQUIDに入力していくものであり、現在、10GHzの繰り返し周波数で、エラーレートの少ない出力ドライバとなっている。
なお、この場合、SQUIDを構成するジョセフソン接合に小さな抵抗値のダンピング抵抗を並列接続して、マッカンバー係数を1にして、ヒステリシスが無いようにしている。
【0007】
このSQUID型ドライバは、現在10kA/cm2 の臨界電流密度で動作させており、プロセス技術を改良することにより、40kA/cm2 の臨界電流密度で動作させることが充分可能であり、それによって、2倍の速度で、即ち、20GHzの繰り返し周波数での動作が見込まれている。
【0008】
図16は、従来のAC駆動のスタック型ドライバの回路構成図であり、n+1個のヒステリシスを有するジョセフソン接合と抵抗の直列接続回路とn個のヒステリシスを有するジョセフソン接合と抵抗の直列接続回路との並列接続回路に交流バイアスACBias を印加したものである。
【0009】
SFQ信号が入力されると、n+1個のジョセフソン接合と抵抗からなる左側の直列接続回路の入力端子に隣接するジョセフソン接合J1 がスイッチして電圧状態となり、右側の直列接続回路に電流が流れる。
【0010】
この時、右側の直列接続回路のすべてのジョセフソン接合がスイッチして電圧状態になるとともに、リセットされて超電導状態になっている左側の直列接続回路に再び電流が流れて、左側の直列接続回路でまだ超電導状態であったジョセフソン接合が電圧状態となる。その結果、負荷回路に電流が流れ、負荷回路に出力電圧が発生する。
この回路では、ヒステリシスのあるジョセフソン接合を用いるために、一度発生した電圧は維持されるので、電圧状態を停止するために、交流バイアスACBias を一旦ゼロにする必要がある。
【0011】
このAC駆動のスタック型ドライバにおいては、2.5kA/cm2 の臨界電流密度で動作させて、5GHzの繰り返し周波数での動作が確認されている。
また、ジョセフソン接合をNb系で構成した場合には、1個のジョセフソン接合で理想的には約2.8mVの出力が得られるが、出力ロスがあるので約2mVの出力が得られる。
【0012】
図17は、従来のDC駆動のラッチ型ドライバの回路構成図であり、2個のヒステリシスを有するジョセフソン接合と抵抗の直列接続回路と1個のヒステリシスを有するジョセフソン接合と抵抗の直列接続回路との並列接続回路に直流バイアスDCBias を印加するとともに、出力側にインダクタLと抵抗Rとの直列接続回路からなるセルフリセット回路を設けたものである。
【0013】
SFQ信号が入力されると、左側の直列接続回路の入力端子に隣接するジョセフソン接合J1 がスイッチして電圧状態となり、右側の直列接続回路に電流が流れてジョセフソン接合が電圧状態にスイッチする。その後、リセットされて超電導状態になっている左側の直列接続回路に再び電流が流れて、左側の直列接続回路でまだ超電導状態であったジョセフソン接合が電圧状態となる。その結果、負荷回路に電流が流れ、負荷回路に出力電圧が発生する。
【0014】
この時、左右のジョセフソン接合共スイッチして電圧状態になるが、セルフリセット回路の時定数LRに応じてリセット回路に電流が流れて電圧状態が解除されて初期状態に復帰する。
【0015】
この場合も、2.5kA/cm2 の臨界電流密度で動作させて、〜5GHzの繰り返し周波数での動作が確認されている。 このDC駆動のラッチ型ドライバの場合には、バイアス電流を一旦ゼロにする必要がないので、動作が簡単になる。
なお、このDC駆動のラッチ型ドライバにおいては、回路動作の安定性の観点から、現在のところは、右側、即ち、出力側のジョセフソン接合は1個にしている。
【非特許文献1】O.A.Mukhanov et al.,IEEE Trans.on Appl.Superconductivity,Vol.7,No.2,pp.2826〜2831
【非特許文献2】橋本 他,電子情報通信学会2006年春季総合大会予稿
【非特許文献3】H.Suzuki et al.,IEEE Trans. on Electron Devices,Vol.37,No.11,pp.2399〜2405,1990
【特許文献1】特開2005−260364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、上述の各出力インターフェイス回路の性能は十分とは言い難がった。例えば、SFQ回路は現在標準的な2μmのプロセスルールを用いても40GHzで動作可能であるが、出力ドライバとしては上述のように、5〜10GHzの動作に止まっており、SFQパルスを用いた論理回路に比べてその動作速度が遅いという課題があった。
【0017】
したがって、40GHzのレートのデータを出力するためには直列−並列変換を行ってデータレートを下げて出力する必要があり、例えば、5GHz×8本で出力する。
しかし、この場合、出力インターフェイス回路の規模が大きくなるとともに出力信号線の数が増え低温環境への熱流入が増大するという問題がある。
【0018】
なお、上述のように、回路を構成する臨界電流密度を上げると、動作速度を上げることは可能であり、臨界電流密度を4倍にすると、動作速度は約2倍になる。
但し、臨界電流密度を上げるためには、微細加工技術の開発が必要になり、上述のAC駆動のスタック型ドライバ或いはDC駆動のDCラッチ型ドライバの場合には、現在の5GHzの動作速度を臨界電流密度を上げることにより、40GHzにすることは非常に困難である。
なお、AC駆動の出力ドライバではジョセフソン接合の特性に付随したパンチスルーなどの問題もある。
【0019】
また、上記のSQUID型ドライバの場合には、動作速度を40GHzにすることはAC駆動のスタック型ドライバ或いはDC駆動のDCラッチ型ドライバより容易であるが、1つのパルスを出力するためには数100個のジョセフソン接合が必要になるため、回路構成が大型化するという問題があり、現実的ではない。
【0020】
さらに、動作速度以外にも、超電導の出力ドライバの出力電圧振幅やパルス幅も半導体回路を駆動するには十分とは言い難い。
例えば、GaAsMESFETで構成される半導体回路を駆動するためには、最低でも2mVの電圧と、40psecのホールドタイムを考慮するならば60psecのパルス幅が必要である。
しかし、現在の超電導SFQ回路からのパルス出力は、矩形波ではなくノコギリ波状であるので、充分なパルス幅が得られていないのが現状である。
【0021】
このように、従来の出力インターフェイス回路において課題となっている高速動作に関しては、電圧出力を得るためにSFQ回路に比べて動作速度が遅くならざるを得ないという本質的な問題があり、出力のデータレート(出力周波数)が制限されていた。
【0022】
したがって、本発明は、高速にデータを出力できる或いはパルス幅の広いデータを出力できる出力インターフェイス回路を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一観点によれば、レベル論理を発生する超電導単一磁束量子回路の出力ドライバを備えた超電導出力回路であって、二つの出力ドライバと、前記二つの出力ドライバからの出力波形を合成する出力合成回路とを備え、前記出力合成回路が前記二つの出力ドライバを分離するヒステリシスを有するジョセフソン接合と抵抗とからなる一対の直列回路を有するとともに、前記直列回路に直流オフセット電流を供給するバイアス電流源を有する超電導出力回路が提供される。
【発明の効果】
【0024】
開示の超電導出力回路によれば、課題とされていた高速のデータレートなどの課題を二つの出力ドライバの出力波形を合成することで解決でき、より高速のデーターレート(周波数)や広いパルス幅を有した出力信号を発生する超電導出力インターフェイス回路を実現でき、ひいては、システムの簡素化や安定化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
ここで、図1乃至図5を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態の超電導出力回路の原理的構成図であり、一対の出力ドライバ111 ,112 と、この一対の出力ドライバ111 ,112 からの出力波形を合成する合成回路12と、負荷回路15から構成される。
【0026】
この合成回路12は、一対の分離用直列回路131 ,132 と直流バイアス源14とからなり、各直列回路131 ,132 は、それぞれ抵抗r1 ,r2 とジョセフソン接合J1 ,J2 とで構成され、各ジョセフソン接合J1 ,J2 には、それぞれヒステリシスを調整するためのダンピング抵抗R1 ,R2 が接続されている。
【0027】
なお、抵抗r1 ,r2 は5Ω程度の小さな抵抗であり、超電導ループの形成を抑制するためには接続されるものであり、この抵抗r1 ,r2 には直流バイアス源14から各ジョセフソン接合J1 ,J2 の臨界電流より小さなDCのオフセット電流IBiasが、一対の分離用直列回路131 ,132 の接続点を介して供給される。
【0028】
また、ダンピング抵抗R1 ,R2 は、各ジョセフソン接合J1 ,J2 のヒステリシス特性を調整するために接続するものであり、マッカンバー係数が1に比べて十分大きな値、例えば、5〜100にする。
なお、マッカンバー係数が5未満になると、電圧状態になった際の抵抗が小さく、また、ヒステリシスが小さくなるので望ましくない。
【0029】
また、合成回路12の出力は、室温環境あるいは低温環境にある半導体アンプのような半導体回路、またはLN変調器や半導体レーザ、あるいは超電導のフォトセンサなどに入力する。
なお、負荷回路15のインピーダンスは伝送線路(ケーブル)のインピーダンスを含め50Ωで終端することが多い。
【0030】
次に、超電導出力回路の動作原理を説明する。
図2(a)に示すように、例えば、出力ドライバ111 にSFQパルスからなる信号Aが入力されると、出力ドライバ111 がスイッチし出力電流I1 が流れると、負荷回路15は抵抗があるためI1 は最初、他方のドライバ112 に流れようとする。
しかし、図2(b)に示すように、分離用直列回路132 を構成するジョセフソン接合J2 にI1 +IBias/2の電流が流れてスイッチして電圧状態になることによって逆流を防止し、電流はIout として負荷回路15に供給される。
【0031】
次に、図3(c)に示すように、出力ドライバ112 にπだけ遅延したSFQパルスからなる信号Bが入力すると、出力ドライバ112 がスイッチしてジョセフソン接合J2 が、図3(d)に示すようにリセットし超電導状態となる。
【0032】
図4(e)に示すように、ジョセフソン接合J2 がリセットして電流I2 が流れると、今度は、分離用直列回路131 を構成するジョセフソン接合J1 にI2 +IBias/2の電流が流れてスイッチして電圧状態になることによって逆流を防止し、電流はIout として負荷回路15に供給される。
【0033】
次に、図4(f)に示すように、再び、図2(a)からの動作を繰り返すことによって、出力ドライバ111 と出力ドライバ112 はそれぞれが本来の動作をすることが可能になる。
【0034】
図5は、周波数合成の結果の説明図であり、合成信号Cとして、信号A或いは信号Bの2倍の周波数(出力のデータレート)の出力が得られることになる。
このように、信号Aと信号Bの出力タイミングをπずらすためには、一つのSFQパルス信号をDEMUX(デマルチプレクサ)或いはシフトレジスタを用いて直並列変換して2つの並列出力に変換すれば良い。
【0035】
この本発明の実施の形態の超電導出力回路は、位相をπずらした場合には2倍の周波数(出力のデータレート)の出力が得られるが、信号Aと信号Bの出力タイミングを出力信号のパルス幅程度ずらすことによって、パルス幅を広くすることができる。
【0036】
図6は、パルス幅合成の結果の説明図であり、合成信号Cとして、信号A及び信号Bのパルス波形の重なり部分が略平坦出力となる広パルス幅信号が得られる。
このような、信号Aと信号Bの出力タイミングを出力信号のパルス幅程度ずらすためには、一つのSFQパルス信号をスプリッタ回路で2つの同じ信号に分割し、一方の信号を遅延回路を用いて、他方の信号との出力タイミング差が出力信号のパルス幅程度となるようにする。
【0037】
また、分離用直列回路131 ,132 を構成するジョセフソン接合J1 ,J2 は、電圧状態になっても多少のリーク電流は流れるので、電流遮断を確実にするために、複数のジョセフソン接合を直列接続しても良い。
図7は、各分離用直列回路131 ,132 を、2個のジョセフソン接合J11,J21及びジョセフソン接合J12,J22と一個の抵抗r1 ,r2 とで構成したものである。
【実施例1】
【0038】
以上を前提として、次に、図8乃至図10を参照して本発明の実施例1の超電導出力回路を説明する。
図8は、本発明の実施例1の超電導出力回路の概念的構成図であり、入力信号を直並列変換して2つの並列出力に変換するDEMUX21、変換された各並列出力を各出力ドライバ231 ,232 へ伝送するジョセフソン伝送線(JTL)221 ,222 、各出力ドライバ231 ,232 の出力波形を合成する合成回路24とからなる。
なお、図においては、遅延回路25を設けているが、DEMUX21による分配タイミングが正確であれば、遅延回路25は必要ではない。
【0039】
図9は、本発明の実施例1の超電導出力回路のインターフェイス部の具体的回路構成図であり、上述の図1の超電導出力回路における出力ドライバとして、図17に示したDC駆動のラッチ型ドライバを用いたものであり、ここでは、バッファ回路は省略している。
なお、ここでは、一対の出力ドライバは対称構造にする必要があるので、r1 =r2 とし、ジョセフソン接合J1 とジョセフソン接合J2 の臨界電流密度は同じに、且つ、R1 =R2 に設定している。
【0040】
図10は、本発明の実施例1の超電導出力回路の動作のシミュレーション結果の説明図であり、ここでは、入力信号A,Bとして5GHzの入力信号を用いることによって、10GHzの出力信号が得られることが確認された。
【0041】
このように、本発明の実施例1においては、各回路の動作速度自体は5GHzのままで、回路構成を工夫することによって、2倍のデータレートの10GHzの出力が得られる。
【0042】
したがって、プロセス技術を改良して各ジョセフソン接合の臨界電流密度を上げることによって、各出力ドライバの繰り返し周波数を20GHzにした場合には、40GHzのSFQパルス信号をDEMUXで互いの周期のずれがπの20GHzの2つの並列出力に変換して各出力ドライバに入力することにより、合成回路からは、SFQ出力回路と同じ40GHzの出力が得られる。
【実施例2】
【0043】
次に、図11を参照して本発明の実施例2の超電導出力回路を説明するが、超電導出力回路の概念的構成は上記の実施例1と同様であり、出力ドライバの構成が異なるだけであるので、インターフェイス部の具体的回路構成図のみを示す。
図11は、本発明の実施例2の超電導出力回路のインターフェイス部の具体的回路構成図であり、上述の図1の超電導出力回路における出力ドライバとして、図16に示したAC駆動のスタック型ドライバを用いたものである。
なお、ここでも、バッファ回路は省略している。
【0044】
この第2の実施例においては、出力側に複数個のジョセフソン接合を接続したAC駆動のスタック型ドライバを用いているので、接続したジョセフソン接合の数に比例して出力電圧を大きくすることができ、例えば、2個のNb系のジョセフソン接合を接続した場合には、出力ロス分を差し引いても4mV程度の出力が得られ、GaAsMESFETで構成された半導体回路を駆動するのに充分である。
【実施例3】
【0045】
次に、図12乃至図14を参照して本発明の実施例3の超電導出力回路を説明する。
図12は、本発明の実施例3の超電導出力回路の概念的構成図であり、演算等信号処理後のSFQパルス出力を同じ信号に分割するスプリッタ回路26、分割された各並列出力を各出力ドライバ231 ,232 へ伝送するジョセフソン伝送線(JTL)221 ,222 、一方の出力の入力タイミングをパルス幅程度ずらすための遅延回路25、各出力ドライバ231 ,232 の出力波形を合成する合成回路24とからなる。
【0046】
図13は、本発明の実施例3の超電導出力回路のインターフェイス部の具体的回路構成図であり、基本的回路構成は図9に示した回路構成と同じであるが、ここでは、ジョセフソン接合J1 の臨界電流をジョセフソン接合J2 の臨界電流より小さくしている。
それに伴って、バイアス電流源からジョセフソン接合J1 に印加されるオフセット電流をジョセフソン接合J2 に印加される電流より小さくするために、r1 >r2 に設定してる。
なお、ここでも、バッファ回路は省略している。
【0047】
図14は、本発明の実施例3の超電導出力回路の動作のシミュレーション結果の説明図であり、ここでは、入力信号A,Bとして半値幅が60psecで5GHzの入力信号を用いるとともに、遅延時間を30psecとした結果を示している。
図に示すように、パルス幅の広がった 出力信号Cが得られることが確認された。
【0048】
この場合の動作としては、まず、出力ドライバ111 にSFQパルスからなる信号Aが入力されると、出力ドライバ111 がスイッチし出力電流I1 が流れると、負荷回路15は抵抗があるためI1 は最初、他方のドライバ112 に流れようとする。
しかし、分離用直列回路132 を構成するジョセフソン接合J2 にI1 +IBiasの電流が流れることによってスイッチして電圧状態になることによって逆流を防止し、電流はIout として負荷回路15に供給される。
【0049】
次に、出力ドライバ112 に30psecだけ遅延したSFQパルスからなる信号Bが入力すると、出力ドライバ112 がスイッチしてジョセフソン接合J2 がリセットし超電導状態となる。
この時、出力ドライバ112 からの電流I2 が、電流I1 が流れているジョセフソン接合J1 にIBiasとともに逆方向に流れるが、ジョセフソン接合J1 の臨界電流密度が相対的に小さいので、電流I1 が流れている状態で徐々にスイッチして電圧状態になり、電流I2 の逆流を防止し、電流はパルス幅の広がった電流Iout として負荷回路15に供給される。
【0050】
このように、本発明の実施例3においては、回路構成を工夫することによって、従来技術のままでパルス幅を拡大した出力を得ることができる。
したがって、プロセス技術を改良して各ジョセフソン接合の臨界電流密度を上げることによって、各出力ドライバの繰り返し周波数を20GHzにした場合には、20GHzのSFQパルス信号をスプリッタ回路で分割し、一方の出力をパルス波形の半値幅の半分程度遅延させて入力すると、合成回路からは、パルス幅が広がった20GHzの出力が得られる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態及び各実施例を説明してきたが、本発明は実施の形態及び各実施例に記載された構成・条件等に限られるものではなく各種の変更が可能である。例えば、上記の実施例3においては、出力ドライバとして、DC駆動のラッチ型ドライバを用いているが、実施例2と同様に、AC駆動のスタック型ドライバを用いても良いものである。
【0052】
また、上記の実施例1及び実施例3においては、確実な動作を得るために、出力側のジョセフソン接合を1個にしているが、プロセス技術が改善され、素子のバラツキが少なくなれば、複数個のジョセフソン接合を直列することができ、その場合には、接続個数に比例した出力電圧が得られる。
【0053】
また、上記の各実施例においてはSFQ出力回路と半導体回路とを接続するインターフェイス回路として説明しているが、このような出力ドライバ構成のインターフェイス回路を用いることによって、高速で安定した動作が可能な超電導A/Dコンバータや超電導ディシタル回路を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態の超電導出力回路の原理的構成図である。
【図2】本発明の実施の形態の超電導出力回路の動作原理の途中までの説明図である。
【図3】本発明の実施の形態の超電導出力回路の動作原理の図2以降の途中までの説明図である。
【図4】本発明の実施の形態の超電導出力回路の動作原理の図3以降の説明図である。
【図5】本発明の実施の形態における周波数合成の結果の説明図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるパルス幅合成の結果の説明図である。
【図7】分離用直列回路を、2個のジョセフソン接合で構成した場合の回路構成図である。
【図8】本発明の実施例1の超電導出力回路の概念的構成図である。
【図9】本発明の実施例1の超電導出力回路のインターフェイス部の具体的回路構成図である。
【図10】本発明の実施例1の超電導出力回路の動作のシミュレーション結果の説明図である。
【図11】本発明の実施例2の超電導出力回路のインターフェイス部の具体的回路構成図である。
【図12】本発明の実施例3の超電導出力回路の概念的構成図である。
【図13】本発明の実施例3の超電導出力回路のインターフェイス部の具体的回路構成図である。
【図14】本発明の実施例3の超電導出力回路の動作のシミュレーション結果の説明図である。
【図15】従来のSQUID型ドライバの回路構成図である。
【図16】従来のAC駆動のスタック型ドライバの回路構成図である。
【図17】従来のDC駆動のラッチ型ドライバの回路構成図である。
【符号の説明】
【0055】
111 ,112 出力ドライバ
12 合成回路
131 ,132 分離用直列回路
14 直流バイアス源
15 負荷回路
21 DEMUX
221 ,222 ジョセフソン伝送線
231 ,232 出力ドライバ
24 合成回路
25 遅延回路
26 スプリッタ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レベル論理を発生する超電導単一磁束量子回路の出力ドライバを備えた超電導出力回路であって、二つの出力ドライバと、前記二つの出力ドライバからの出力波形を合成する出力合成回路とを備え、前記出力合成回路が前記二つの出力ドライバを分離するヒステリシスを有するジョセフソン接合と抵抗とからなる一対の直列回路を有するとともに、前記直列回路に直流オフセット電流を供給するバイアス電流源を有する超電導出力回路。
【請求項2】
前記二つの出力回路に位相がπ異なる信号を入力し、前記入力した信号の2倍のデータレートの信号を出力する信号入力手段を備えた請求項1記載の超電導出力回路。
【請求項3】
前記信号入力手段が、デマルチプレクサまたはシフトレジスタのいずれかを備えている請求項2記載の超電導出力回路。
【請求項4】
前記超電導単一磁束量子回路の出力を2分配する分配手段と、前記分配後の各出力を前記各出力ドライバに入力する信号のタイミング差を前記入力信号のパルス幅以内のタイミングでずらして入力する信号入力手段を有する請求項1記載の超電導出力回路。
【請求項5】
前記信号入力手段が、スプリッタ回路と遅延回路とを備えている請求項4記載の超電導出力回路。
【請求項6】
前記各出力ドライバが、抵抗とインダクタンスの直列接続によるセルフリセット機能を有した直流駆動ラッチ型ドライバである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超電導出力回路。
【請求項7】
前記各出力ドライバが、出力側のジョセフソン接合が2個以上の交流駆動スタック型ドライバである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超電導出力回路。
【請求項8】
前記直列回路に供給する直流オフセット電流を、前記一対の直流回路の接続点を介して供給する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の超電導出力回路。
【請求項9】
前記各直列回路を構成するジョセフソン接合のマッカンバー係数が、5以上である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の超電導出力回路。
【請求項10】
前記各直列回路を構成するジョセフソン接合が、複数のジョセフソン接合の直列回路からなる請求項1乃至9のいずれか1項に記載の超電導出力回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−188779(P2009−188779A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27169(P2008−27169)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業総合開発機構「次世代高効率ネットワークデバイス技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】