説明

超電導性を有するホウ素ドープダイヤモンド薄膜

【課題】実際の電気、電子デバイスへの適用のための超電導性を示すダイヤモンド薄膜を提供する。
【解決手段】化学気相成長法により形成された超電導性を有するホウ素ドープダイヤモンド薄膜。このホウ素ドープダイヤモンド薄膜は、磁化−磁場曲線より典型的な第二種超電導体の性質を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、超電導性を有する新規なホウ素ドープダイヤモンド薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは宝石として崇拝されてきた。ダイヤモンドがそれ以上に魅力的な点はその特筆すべき物理的性質であり、22W/cmKの大きな熱伝導率を持つ世の中で最も硬い物質である。純粋なダイヤモンドは電気的には絶縁体である。しかし、ホウ素をドープするとダイヤモンドはホウ素が電荷アクセプタとしてふるまうp型半導体になる。このようなダイヤモンドは高い絶縁耐性(10MV/cmより大)及び大きなキャリヤ移動度をもつことから、高周波、高電力デバイスのような電気面での応用が期待される物質である。
【0003】
一方、多量にホウ素をドープしたダイヤモンドは金属伝導性を示し、電気化学の分野において電極として使用されてきた。しかし、その物性は特に低温ではあまり研究がなされていなかった。したがって、高圧焼結により合成した、多量にホウ素をドープしたダイヤモンドが2.3Kで超電導性を示すという最近のニュースは、非常に驚くべきものであった(非特許文献1)。ダイヤモンドをベースとした電気、電子デバイスの新しい可能性を広げるには、これらの現象の系統的な研究がなされる必要があることは明らかであるが、まだそのような系統的な研究は十分になされていないのが実情であった。
【非特許文献1】E. A. Ekimov et al. "Superconductivity in diamond", Nature, vol.428, pp.542, 2004年4月1日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この出願の発明は、上記のような実情に鑑みてなされたもので、実際の電気、電子デバイスに適用できる超電導性を示すダイヤモンド薄膜を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この出願の発明は、上記課題を解決するものとして、第1には、化学気相成長法により形成された超電導性を有するホウ素ドープダイヤモンド薄膜を提供する。
【0006】
また、第2には、上記第1の発明において、化学気相成長法による成膜が、少なくとも炭素化合物及びホウ素化合物よりなり、水素を含む混合ガスを用いて行われたものであるホウ素ドープダイヤモンド薄膜を提供する。
【0007】
さらに、第3には、上記第1の発明において、化学気相成長法が、マイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)法であるホウ素ドープダイヤモンド薄膜を提供する。
【発明の効果】
【0008】
この出願の発明のホウ素ドープダイヤモンドは、超電導性を示し、しかも化学気相成長法により形成されたものであるため、薄膜の形態をとりうる。従って、実際の電気、電子デバイスへの応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0010】
この出願の発明のホウ素ドープダイヤモンド薄膜は、化学気相成長法により形成された薄膜であり、超電導性を示す。この薄膜の超電導転移温度は、Tcオンセット値で11.4Kのものが得られているが、さらに高い温度のものが得られる可能性がある。この薄膜の結晶配向は、典型的には(111)配向であるが、これに限定されず、例えば(100)配向や(110)配向等のものであってもよい。(111)配向のホウ素ドープダイヤモンドは、たとえば(001)配向のものより1オーダー大きな比率でホウ素のドーピングを行うことができ、超電導性の発現に有利である。
【0011】
この出願の発明のホウ素ドープダイヤモンド薄膜の形成には、化学気相成長法が使用されるが、その中でもマイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)法が好ましく使用される。成膜条件は以下のとおりである。
【0012】
原料ガスとしては、少なくとも炭素化合物及びホウ素化合物よりなり、水素を含む混合ガスを用いることができる。炭素化合物としては、メタン、エタン、プロパン、エタノール等、炭素を含む種々の材料を用いることができる。ホウ素化合物としては、ジボラン(B)、トリメチルホウ素(B(CH)、酸化ホウ素(B)、ホウ酸(メタホウ酸、オルトホウ酸、四ホウ酸等)、固体ホウ素(B)等、ホウ素を含む種々の材料を用いることができる。原料ガスのB/C比は、たとえば100ppmから100000ppm、好ましくは1000ppmから24000ppmのものとすることができるが、これに限定されない。また、水素に対する炭素濃度は、たとえば0.1at.%から10at.%のものとすることができるが、これに限定されない。これらの値は、超電導の発現、成膜性の観点から考慮される。
【0013】
成膜中の雰囲気圧力、基板温度、成膜時間等も、超伝導の発現、成膜性の観点から考慮される。
【0014】
なお、化学気相合成装置、反応炉の構成、構造については特に限定されることはない。
【0015】
以下、実施例によりこの出願の発明ついてさらに詳しく説明する。もちろん、この出願の発明は上記の実施形態及び以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0016】
マイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)法を用いて、ホウ素ドープ多結晶ダイヤモンド薄膜を(001)配向シリコン基板上に形成した。
【0017】
まず、シリコン基板をダイヤモンド粉末を用いた超音波法により前処理した。合成は、50Torrのチャンバ圧力、500Wのマイクロ波電力、800〜900℃の基板温度の条件下で、メタンとトリメチルボロン(TMB)の水素中での希釈混合ガスを用いて行った。水素に対するメタン濃度は1%で、B/C比は2500ppmであった。9時間にわたる堆積後に厚さ3.5μmの薄膜が得られた。
【0018】
上記で得られた薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図1(a)に示す。薄膜の形態をみると、主に平均粒径サイズ1μmの{111}配向面より構成されていることがわかる。この薄膜のX線回折パターンをCuKα(波長0.154nm)を用いて得た。図1(b)に示すように、シャープなピークが、立方体のダイヤモンド構造の(111)屈折に対応する2θ=43.9度において検出された。(220)、(311)、(400)ピークがほとんど検出されなかったことは、薄膜が{111}テクスチャ成長していることを示している。
【0019】
転移特性は室温と1.7Kの範囲で測定した。図2(a)に、9Tまでの磁場のいくつかの値のもとでの薄膜の抵抗率の温度依存性を示す。抵抗率は温度の低下にともない最初はわずかに減少するが、200K以下では徐々に増加している。抵抗率は超電導転移のオンセットに対応する7Kあたりで下落するが、磁場なしでは4.2K(Tcオフセット値)でゼロになる。超電導転移温度は印加磁界の増加にしたがいシフトした。Tcオフセット値とTcオンセット値の磁場依存性を図2(b)にプロットした。Tcオンセット値の外挿は10.4Tの値に達する。ダーティリミットを仮定すると、上限臨界磁場Hcは7Tと推定される。この値はMgBにおけるc軸のHcとほぼ同じである。不可逆磁界は0Kで5.12Tであることが判明した。また、2.6K付近にTcを持つ(100)配向薄膜のような別の試料の超電導性の再現性も確認した。
【0020】
磁気特性はSQUID磁力計により下限1.78Kまで測定した。磁化の温度依存性を図3(a)に示す。超電導に対応する反磁性信号が抵抗率がゼロに落ちた4K以下で現れた。ゼロ磁場冷却(ZFC)と磁場冷却(FC)の曲線は、磁場冷却条件下の磁束をトラップする大きな磁束ピニング力を持つことを示す。
【0021】
1.8Kで得た磁化−磁場(M−H)曲線を図3(b)にプロットする。大きな対称的なヒステリシス曲線が典型的な第二種超電導体であることを示す。磁化曲線のヒステリシスΔM(emu/cm)より、単純な式Jc=30×ΔM/d(dは試料のサイズ)による臨界状態モデルを仮定することにより、臨界電流密度Jcを推定することができる。0T条件でのJcは200A/cmであると推定される。最も硬い超伝導ワイヤが製造可能となる。
【0022】
この実施例の薄膜のキャリヤ濃度は、Hall効果測定に基づき9.4×1020/cmであると推定された。これは0.53%のホウ素ドープ割合に相当する。また、ホウ素ドープ割合が0.18%の低割合の試料に対しても超電導性を確認した。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は、マイクロ波プラズマ化学気相合成(MPCVD法)を用いて形成したホウ素ドープ多結晶ダイヤモンド薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図であり、(b)は、CuKαを用いて得た上記薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図2】(a)は、複数の磁場条件下での上記薄膜の抵抗率の温度依存性を示す図、(b)は、上記薄膜のTcオフセット値とTcオンセット値の磁場依存性を示す図である。
【図3】(a)は、上記薄膜の磁化の温度依存性を示す図、(b)は上記薄膜の1.8Kで得た磁化−磁場(M−H)曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長法により形成された超電導性を有するホウ素ドープダイヤモンド薄膜。
【請求項2】
化学気相成長法による成膜が、少なくとも炭素化合物およびホウ素化合物よりなり、水素を含む混合ガスを用いて行われたものである請求項1記載のホウ素ドープダイヤモンド薄膜。
【請求項3】
化学気相成長法が、マイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)法である請求項1記載のホウ素ドープダイヤモンド薄膜。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−9147(P2006−9147A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148794(P2005−148794)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】