説明

超電導膜の製造方法並びに該方法により得られる仮焼成膜及び超電導膜

【課題】 金属有機化合物の熱分解による超電導膜の熱処理形成において、低コストで大きい膜厚と高い配向性及び高い臨界電流を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】 0.6〜数μm程度の膜厚の超電導膜材料の製造において、複数のRE123に対応する組成の仮焼成膜の間に、少なくとも1つのRE’123に対応する組成の仮焼成膜が介在した多層構造からなる仮焼成膜を経由することにより、大きい膜厚、高い配向性及び1cm幅あたり200Aを超える高い臨界電流をもつ、多数の積層欠陥を含む超電導膜が製造され、さらに、塗布熱分解法における仮焼成工程の一部を特定の波長と強度を持った紫外エキシマランプ光の照射処理で置き換えることにより、全工程を熱エネルギーで行った場合より大きい膜厚で高い配向性および高い臨界電流が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力輸送、電力機器、情報機器材料等の分野で用いる、超電導物質の製造方法、より詳しくは、限流器、マイクロ波フィルタ、テープ材料、線材などへの応用を目指して支持体上に超電導物質をコーティングした超電導膜の製造方法並びに該方法により得られる仮焼成膜及び超電導膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超電導膜を製造する方法として、(1)一般式(RE)BaCu(式中、REは、希土類元素を表す。)で表される高温超電導酸化物(以下、「RE123」と略称する)を構成する希土類元素を含む有機化合物溶液を、基板に塗った後に乾燥する工程、及び(2)有機成分を分解する工程(仮焼成工程)、及び(3)超電導物質を作製する工程(本焼成工程)を全て熱エネルギーにより行う、所謂塗布熱分解法が知られている(特許文献1等参照)。
しかしながら、この方法においては、0.6μm程度以下の膜厚については高い配向性が得られる一方で、0.6〜数μm程度の膜厚では配向性の制御が困難だった。
【0003】
そこで、本発明者らは、0.6〜数μm程度の膜厚の超電導膜の製造において、前記塗布熱分解法における仮焼成工程の一部を特定の波長と強度を持った紫外エキシマランプ光の照射処理工程(4)で置き換えることにより、仮焼成工程(2)で得られる仮焼成膜の元素分布の均一性が著しく向上し、その後の本焼成工程(3)を経て、大きい膜厚と配向性をもつ超電導膜を製造することを提案している(特許文献2参照)。
しかしながらこの方法によって得られた膜厚1μmの超電導膜の液体窒素温度での臨界電流密度(Jc)は、1.2MA/cm程度に向上したものの、この臨界電流密度と膜厚(d)との積である1cm幅あたりの臨界電流(Ic=Jc×d)として200Aは超えられなかった。
【0004】
一方、最近、パルスレーザー堆積(PLD)法を用いて厚膜の超電導膜を製造する方法においては、RE123超電導膜を成膜する際に、間に、RE123中の希土類金属原子とは異なる希土類金属原子(RE’)を用いた(RE’)BaCuで表される高温超電導酸化物(以下、「RE’123」と略称)あるいはCeOの薄膜を挟んで多層構造とすることにより、大きい膜厚、高い配向性及び高い臨界電流が得られている。(特許文献3、非特許文献1〜3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−106905号公報
【特許文献2】特願2010−38072
【特許文献3】特開2008−140789号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.R.Foltyn et al. Appl.Phys.Lett.87(2005)162505
【非特許文献2】A.V.Pan et al. Physica C 460−462(2007)1379
【非特許文献3】S.V.Pysarenko et al. Intern.J.Mod.Phys. 23(2009)3526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のとおり、従来の金属有機化合物の熱分解を用いた超電導膜の製造方法においては、0.6μm程度以下の膜厚については高い配向性が得られる一方で、0.6〜数μm程度の膜厚では配向性の制御が困難だった。また、塗布熱分解法における仮焼成工程の一部を特定の波長と強度を持った紫外エキシマランプ光の照射処理で置き換えることにより、大きい膜厚と配向性を得ることができたが、臨界電流は低いままであった。
一方、これまでは、0.6〜数μm程度の膜厚で、高い配向性と高い臨界電流をもつRE123層とRE’123層とが交互に積層した多層構造からなる超電導膜を得ようとした場合、その製造方法は高コストなパルスレーザー堆積法に限られていた。
【0008】
本発明は、こうした現状を鑑みてなされたものであって、金属有機化合物の熱分解による超電導膜の熱処理工程において、低コストで大きい膜厚、高い配向性及び1cm幅あたり200Aを超える高い臨界電流をもつ、2種類以上の希土類金属、バリウム、及び銅からなる各金属成分を必須成分として含有する酸化物超電導膜を得るための製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、0.6〜数μm程度の膜厚の超電導膜の製造において、複数のRE123に対応する組成の仮焼成膜の間に、少なくとも1つのRE’123に対応する組成の仮焼成膜が介在した多層構造からなる仮焼成膜を経由することにより、大きい膜厚、高い配向性、及び1cm幅あたり200Aを超える高い臨界電流をもつ超電導膜が製造されること、及び得られた超電導膜が、PLD法で製造した多層構造からなる超電導膜とは異なる構造をもつことが判明した。すなわち、PLD法で製造した多層構造からなる超電導膜では、RE123組成とRE’123組成が分離し、両者の界面において結晶性の乱れが存在するのに対して、本発明の方法で製造した超電導膜では、REとRE’が膜全体にわたって拡散、混合した、高い密度の積層欠陥が膜中の広い範囲で存在した構造が得られる。さらに、塗布熱分解法における仮焼成工程の一部を特定の波長と強度を持った紫外エキシマランプ光の照射処理で置き換えることにより、全工程を熱エネルギーで行った場合より大きい膜厚で、より高い配向性及びより高い臨界電流が得られることが明らかとなった。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]基板上に、一般式(RE)BaCu(式中、REは、希土類元素を表す。)で表される高温超電導酸化物(以下、「RE123」とする。)に対応する金属種組成になるように配合された金属含有化合物の有機溶媒溶液を塗布し、乾燥させる工程、及び形成された塗布膜中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程を複数回繰り返した後、得られた仮焼成膜から超電導物質への変換を行う本焼成工程を経てエピタキシャル成長させた超電導膜を製造する方法において、
前記複数回の繰り返し中に、一般式(RE’)BaCu(式中、RE’は、RE123中の希土類原子とは異なる希土類元素を表す。)で表される高温超電導酸化物(以下、「RE’123」とする。)に対応する金属種組成になるように配合された金属含有化合物の有機溶媒溶液を塗布し、乾燥させる工程、及び形成された塗布膜中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程を、少なくとも1回挿入することにより、
複数のRE123に対応する組成の仮焼成膜の間に、少なくとも1つのRE’123に対応する組成の仮焼成膜が介在した多層構造からなる仮焼成膜を経由することを特徴とする超電導膜の製造方法。
[2]前記RE123層とRE’123層との一部が固溶体を形成していることを特徴とする前記[1]の超電導膜の製造方法。
[3]前記RE123層のREがYであり、RE’123層のRE’がGdである前記[1]又は[2]の超電導膜の製造方法。
[4]前記仮焼成工程の前に、KrCl紫外エキシマランプ光を15mW/cm以上の照度で照射する工程を行うことを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかの超電導膜の製造方法。
[5]前記のRE’123に対応する組成の仮焼成膜の膜厚が0.01〜0.1μmであることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかの超電導膜の製造方法。
[6]前記超電導膜が、膜厚0.6μm以上の厚膜であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかの超電導膜の製造方法。
[7]前記仮焼成工程を、露点が20℃以上の水蒸気を含む雰囲気中で行うことを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかの超電導膜の製造方法。
[8]前記金属含有化合物の有機溶媒溶液が、希土類元素、バリウム、及び銅からなる各金属成分を必須成分として含有することを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかの超電導厚膜の製造方法。
[9]前記金属含有化合物の有機溶媒溶液が、希土類元素、バリウム、及び銅を含有する金属種の、炭素数1〜8の金属カルボン酸塩及び/又は金属アセチルアセトナト粉末混合物に、ピリジン及び/又は少なくとも1種の三級アミン、及び少なくとも1種の炭素数1〜8のカルボン酸を添加して、金属錯体を製造し、過剰の溶媒を揮発させた後、炭素数1〜8の1価の直鎖アルコール及び/または水に溶解して調製された均一な溶液であることを特徴とする前記[1]〜[8]のいずれかの超電導膜の製造方法。
[10]前記の金属カルボン酸塩、金属アセチルアセトナト、及びカルボン酸のうち少なくとも1種がハロゲンを含むことを特徴とする前記[9]の超電導膜の製造方法。
[11]前記基板が、金属酸化物の単結晶あるいは単結晶に、中間層として前者と異なる少なくとも1種の金属酸化物薄膜を形成した複合体であることを特徴とする前記[1]〜[10]のいずれかの超電導膜の製造方法。
[12]前記基板が、チタン酸ストロンチウム、ランタンアルミネート、ネオジムガレート、イットリウムアルミネート、酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウムなどのペロブスカイト関連化合物、イットリア安定化ジルコニア、サファイア、及び酸化マグネシウムから選ばれることを特徴とする前記[11]の超電導膜の製造方法。
[13]前記中間層が、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、ランタンマンガネート及びガドリニウムジルコネートのうち少なくとも1種からなることを特徴とする前記[11]又は[12]に記載の超電導膜の製造方法。
[14]前記[1]〜[13]のいずれかの超電導膜の製造方法における仮焼成工程の後に得られる、各層内で元素分布の均一な多層構造からなることを特徴とする仮焼成膜。
[15]前記[1]〜[13]のいずれかの超電導膜の製造方法における本焼成工程の後に得られる、多数の積層欠陥を含むことを特徴とする超電導膜。
[16]CuKα線を用いたX線回折ピーク2θ=12.9±0.1°の強度が、RE123 001ピークに対して5%以上であることを特徴とする前記[15]の超電導膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明の超電導膜の製造方法によれば、複数のRE123に対応する組成の仮焼成膜の間に、少なくとも1つのRE’123に対応する組成の仮焼成膜が介在した多層構造からなる仮焼成膜を経由することによって、仮焼成工程後は、各仮焼成膜内で元素分布が均一な多層構造からなる仮焼成膜が得られるとともに、本焼成工程の後では、多数の積層欠陥が含まれるようになるので、膜厚が大きい場合でも、超電導特性が優れた配向性の高い超電導膜を、低コストで、製造効率よく、大量に生産できる。また、仮焼成工程における雰囲気に水蒸気を含ませることにより、より高い臨界電流密度を有する超電導膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における超電導膜の製造プロセス概略図
【図2】本発明における仮焼成膜の例を示す概略図
【図3】実施例3における、RE(=Y)123とRE’(=Gd)123とに対応する組成の仮焼成膜が交互に積層した多層構造からなる仮焼成膜の断面EDS像
【図4】実施例3における、RE(=Y)123とRE’(=Gd)123とに対応する組成の仮焼成膜が交互に積層した多層構造からなる仮焼成膜を経由して作製した超電導膜のX線回折パターン(上段)と、比較例2における、RE(=Y)123のみに対応する組成の仮焼成膜を用いて作製した超電導膜のX線回折パターン(下段)との比較
【図5】実施例3における、RE(=Y)123とRE’(=Gd)123とに対する組成の仮焼成膜が交互に積層した多層構造からなる仮焼成膜を経由して作製した超電導膜の断面TEM像(左側)と、比較例2における、RE(=Y)123のみに対応する組成の仮焼成膜を用いて作製した超電導膜の断面TEM像(右側)との比較
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明による超電導膜の製造プロセスを示す概略図である。
図1に示すように、本発明の方法は、(1)支持体上に、RE123に対応する金属種組成になるように配合された金属含有化合物の有機溶媒溶液を塗布し、乾燥させる工程(塗布/乾燥工程)、及び(2)形成された塗布膜中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程を複数回繰り返した後、(3)得られた仮焼成膜から超電導物質への変換を行う本焼成工程を経てエピタキシャル成長させた超電導膜を製造する方法において、
前記複数回の繰り返し中に、(1’)RE’123に対応する金属種組成になるように配合された金属含有化合物の有機溶媒溶液を塗布し、乾燥させる工程、及び形成された塗布膜中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程(2)を、少なくとも1回挿入することにより、複数のRE123に対応する組成の仮焼成膜の間に、少なくとも1つのRE’123に対応する組成の仮焼成膜が介在した多層構造からなる仮焼成膜を経由することを特徴とするものである。
そして、該多層構造からなる仮焼成膜を経由することによって、仮焼成工程(2)の後では、各層内で元素分布が均一な多層構造からなる仮焼成膜が得られるとともに、本焼成工程(3)の後では、多数の構造欠陥を含むようになるので、膜厚が大きい場合でも、超電導特性が優れた配向性の高い超電導膜を、低コストで、製造効率よく、大量に生産できる。
また、工程(2)の前に、KrClエキシマランプ光を15mW/cm以上の照度で照射する工程(4)を行うこと、および工程(2)を、露点が20℃以上の水蒸気を含む雰囲気中で行うことにより、高い臨界電流を有する超電導膜を得ることができる。
【0014】
図2は、本発明の製造方法により得られる、多層構造からなる仮焼成膜の例を模式的に示す概略図である。
図2の左側に示す例では、(1)塗布/乾燥工程、及び(2)仮焼成工程を3回繰り返した後、(1’)塗布/乾燥工程、及び(2)仮焼成工程を挿入し、さらに、(1)塗布/乾燥工程、及び(2)仮焼成工程を3回繰り返して作製された、合計7層の多層構造からなる仮焼成膜の例を示している。
また、図2の右側に示す例では、(1)塗布/乾燥工程、及び(2)仮焼成工程を2回繰り返した後、(1’)塗布/乾燥工程、及び(2)仮焼成工程を挿入し、さらに、(1)塗布/乾燥工程、及び(2)仮焼成工程を2回繰り返した後、(1’)塗布/乾燥工程、及び(2)仮焼成工程を挿入し、最後に、(1)塗布/乾燥工程、及び(2)仮焼成工程を2回繰り返して作製された、合計8層の多層構造からなる仮焼成膜の例を示している。
【0015】
本発明の多層構造からなる仮焼成膜は、これらの例に限定されるものではなく、複数のRE123に対応する組成の仮焼成膜の間に、少なくとも1つのRE’123に対応する組成の仮焼成膜が介在した多層構造からなる仮焼成膜であればよく、例えば、図2において、(1’)塗布/乾燥工程、及び(2)仮焼成工程を続けて2回挿入することもできる。
【0016】
本発明の多層構造からなる仮焼成膜において、仮焼成膜の層の数は特に限定されるものではなく、本発明の方法で得られる超電導膜の膜厚が、0.6μm以上の厚膜となるものであれば良い。
すなわち、仮焼成膜の数及び膜厚は、最終目的物である超電導膜の膜厚と、前記の繰り返し工程を何回行うかの関係で、適宜決定できる。しかしながら、前記のRE123に対応する組成の仮焼成膜の1回の工程で形成できる膜厚は、本焼成後の膜厚に相当する膜厚で表して(以下、本明細書等において、「膜厚」というときは、本焼成後の膜厚に相当する膜厚をいうものとする。)、最大1μmである。
また、前記のRE123に対応する組成の仮焼成膜の間に介在する前記のRE’123に対応する組成の仮焼成膜は、その膜厚が0.01〜0.1μmである。膜厚が、0.01μm未満では、目的とする効果が得られず、一方、0.1μmを超える場合には、臨界電流密度(Jc)が低下してしまう。
【0017】
以下、本発明の超電導膜の製造方法について、順に説明する。
[金属含有化合物の有機溶媒溶液の調製工程]
本発明の方法に用いられる、金属含有化合物の有機溶媒溶液には、希土類元素(RE)又は(RE’)、バリウム(Ba)、及び銅(Cu)からなる各金属成分を必須成分として含有する。この溶液は、酸化物超電導膜作製のために用いられるものであり、又、加熱処理を行って、これらの金属成分を含有する無機化合物を合成するために用いることができる。
【0018】
RE123層を構成する希土類元素(RE)には、イットリウム(Y)及びランタノイド元素である、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)が含有される。また、これらの希土類元素はこれらの中から選ばれる複数の金属を用いることもできる。
超電導膜を製造することを目的とする場合には、上記の希土類元素、バリウム及び銅の必須金属成分の他に、上記以外の希土類元素として例えばセリウム(Ce)やプラセオジム(Pr)等、カルシウム、又はストロンチウム等の他の成分を少量含ませることにより、得られる超電導膜の電気的特性を変化させることができる。
また、この他にも超電導膜を形成する際に用いることができる金属種として用いることができるものであれば、適宜用いることができる。
【0019】
一方、RE123層と積層させるRE’123層を構成する希土類元素(RE’)としては、上記のイットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のうち、REと異なる元素が選ばれる。これらの希土類元素はこれらの中から選ばれる複数の元素を用いることもできる。
また、RE123層の場合と同様にして、必須元素成分の他に、カルシウム、又はストロンチウム等の他の成分を少量含ませることにより、得られる超電導膜の電気的特性を変化させることができる。
さらに、この他にも超電導膜を製造する際に用いることができる金属種として用いることができるものであれば、適宜用いることができる。
【0020】
希土類元素、バリウム、銅からなる超電導膜を製造しようとする場合には、希土類元素、バリウム及び銅の比率として、1:2:3の割合の希土類123系(以下たとえば希土類元素がイットリウムの場合、Y123という)超電導膜、1:2:4の割合の希土類124系(以下たとえば希土類元素がイットリウムの場合、Y124という)超電導膜などが存在する。したがって、原料溶液における前記元素種の混合割合は、モル比で、1:2:3〜1:2:4のものが好ましいが、たとえばバリウムが欠損した組成などでも好ましい結果を得ることができるため、この割合にしばられるものではない。
又、上記溶液に銀などの1価金属、カルシウムやストロンチウムなどの2価金属、超電導相を構成する必須希土類元素以外の希土類元素などの3価金属、ジルコニウム、ハフニウムなどの4価金属を添加することにより、添加元素又はその化合物が含有された超電導体を作製することが可能である。カルシウムやストロンチウム等の添加元素又はその化合物が含有された超電導体は、それらが含有されない超電導体とは異なる電気的特性を有するため、溶液中の金属の比率を制御することで、超電導体の電気的特性、例えば臨界温度や臨界電流密度などの諸特性を制御することが可能となる。
【0021】
本発明の製造方法に用いる前記溶液は、希土類元素、バリウム及び銅を含有する金属種の金属イオンに対して、ピリジン及び/又は少なくとも1種の三級アミンと、少なくとも1種の炭素数1〜8のカルボン酸基と、必要に応じてアセチルアセトナト基とが配位した金属錯体が、炭素数が1〜8の直鎖アルコール及び/又は水に溶解されて、均一溶液とされている。
【0022】
該金属錯体における配位子の1つである「三級アミン」としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等が用いられ、また、「炭素数1〜8のカルボン酸基」のカルボン酸としては、例えば、2−エチルヘキサン酸、カプリル酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、乳酸、安息香酸、サリチル酸等が挙げられる。
【0023】
また、前記の炭素数1〜8の1価の直鎖アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール等が上げられ、これらの混合物を用いることもできる。
また、金属錯体を溶解するのに、水を用いることもでき、また、1種類以上の前記の炭素数1〜8の1価の直鎖アルコールと水の混合物を用いることもできる。
【0024】
また、本発明の製造に用いるこの均一溶液は、好ましくは、前記の炭素数が1〜8の直鎖アルコールに溶解した後、さらに、多価アルコール類を添加して、均一溶液とされているものが用いられる。多価アルコール類を添加することにより、前述の仮焼成工程、及び本焼成工程におけるクラックの発生を、防止することができるためである。
前記多価アルコール類としては、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0025】
本発明の超電導膜製造用溶液の調製は、具体的には、希土類元素、バリウム及び銅を含有する金属種の、炭素数1〜8の金属カルボン酸塩及び/又は金属アセチルアセトナト粉末混合物に、ピリジン及び/又は少なくとも1種の三級アミン、及び少なくとも1種の炭素数1〜8のカルボン酸を添加して、金属錯体を製造し、過剰の溶媒を揮発させた後、炭素数1〜8の1価の直鎖アルコール及び/または水に溶解し、好ましくは、さらに多価アルコール類を添加して、均一な溶液とすることにより調製される。
また、前記の金属カルボン酸塩、金属アセチルアセトナト、及びカルボン酸のうち少なくとも1種がハロゲンを含むものであってもよい。
【0026】
〔原料溶液の塗布及び乾燥工程(=工程(1)、(1’))〕
この工程は、前記の溶液を、基材上に塗布して、金属含有化合物の溶液塗布膜を作製する工程である。この場合、その溶液塗布法としては、従来公知の方法、例えば、浸漬法、スピンコート法、スプレー法、ハケ塗り法等の各種の方法を用いることができる。
基材としては、各種形状の金属酸化物の単結晶あるいは単結晶に、中間層として前者と異なる少なくとも1種の金属酸化物薄膜が形成された複合体を用いることができる。この場合、基材の材料としては、チタン酸ストロンチウム、ランタンアルミネート、ネオジムガレート、イットリウムアルミネート、酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウムなどのペロブスカイト関連化合物、イットリア安定化ジルコニア、サファイア、酸化マグネシウムなどが用いられる。また、中間層は、複合金属酸化物と基材との反応を防止するため及び/または両者の格子ミスマッチを緩和するために基材の表面にあらかじめ設けられるものであって、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、ランタンマンガネート及びガドリニウムジルコネートのうち少なくとも1種が用いられる。
このようにして基材上に作製された溶液塗布膜を、室温又は加温下で常圧又は減圧下で乾燥させる。この乾燥工程(1)又は(1’)後に続く、KrCl紫外エキシマランプ光の照射工程又は仮焼成工程の初期において乾燥を完結することができるため、この乾燥工程においては塗布膜を完全に乾燥させなくとも良い。
【0027】
〔KrCl紫外エキシマランプ光の照射工程(=工程(4)〕
特許文献2には、工程(2)の前の照射工程にKrCl紫外エキシマランプを用い、且つ、照度を15mW/cm以上とすることで、0.6〜数μm程度の膜厚であっても配向性のよい超電導膜が得られることが述べられているが、この照射条件はRE123とRE’123とに対応する組成の仮焼成膜が交互に積層した多層構造からなる仮焼成膜を作製する場合についても有効である。
【0028】
〔仮焼成工程(=工程(2)〕
この工程は、前記のようにして基材上に形成された金属含有化合物の膜を加熱焼成し、その膜を、炭酸バリウム、希土類金属酸化物及び銅酸化物からなる膜に変換させる工程である。
最高焼成温度としては、400〜650℃、好ましくは450〜550℃の温度が採用され、この温度まで徐々に昇温してこの温度に20〜600分間、膜厚が0.5μm以上の場合好ましくは150〜300分間保持したのち降温する。
【0029】
また、仮焼成における酸素分圧は0.2atm以上とする。酸素分圧がこれ以下では酸素の供給が不足するため、仮焼成後に炭素に富んだ有機成分が膜中に残りやすい。この仮焼成膜中の炭素に富んだ有機成分は、本焼成を低酸素分圧下で行う際に膜を部分的に還元性にするため、Y123が不均一に生成して臨界電流密度も低くなる。
【0030】
さらに、仮焼成の雰囲気を、露点が20℃以上の水蒸気をふくむ雰囲気とすることにより、高い臨界電流密度が得られる。
水蒸気を含まない場合、及び水蒸気の露点が20℃以下の場合には、仮焼成後に炭素に富んだ有機成分が膜中に残りやすく、本焼成後のY123膜の臨界電流密度が低くなる。仮焼成工程において水蒸気は、式(1)で表す水性ガス反応による炭素成分のガス化と同様の機構により、膜中の炭素成分の除去を促進するものと考えられる。
C + HO → CO + H (1)
【0031】
〔本焼成工程(=工程(3))〕
この工程は、前記仮焼成工程で得られた仮焼成膜を焼成して炭酸バリウムから炭酸ガスを除去しつつ、炭酸バリウムと希土類金属酸化物と銅酸化物を反応させる工程である。本発明においては、この焼成工程は、酸素分圧0.01〜100Pa、特に1〜20Paにおいて実施することが好ましい。
このような焼成条件の採用により、前記仮焼成工程で得られた仮焼成膜中の炭酸バリウムの分解が促進されるとともに、複合金属酸化物膜が形成される。また、この焼成工程では、前記のように低酸素濃度又は低酸素分圧の条件を採用することから、炭酸バリウムの分解は低められた温度で円滑に実施することができるため、基材及び/又は中間層と複合金属酸化物との間の反応を実質的に回避させることができる。この工程における一般的な焼成温度は650〜900℃である。本発明における前記のような焼成条件により、従来見られたような基材及び/又は中間層と複合金属酸化物との間の反応を実質的に防止することができる。
【0032】
〔酸化工程〕
この工程は、前記本焼成工程で形成された複合金属酸化物膜を、分子状酸素を用いて酸化処理し、酸素を吸収させて、超電導性を有する複合金属酸化物膜とする工程である。
前記本焼成工程では、雰囲気中の酸素分圧が0.01〜100Paとなるように保持したため、得られる複合金属酸化物膜の超電導特性は不満足のものであるが、この酸化工程により超電導特性にすぐれた複合金属酸化物膜に変換することができる。
この酸素を吸収させる酸化工程は、酸素分圧0.2〜1.2atmで行わせることが好ましい。
分子状酸素としては、純酸素又は空気が用いられる。酸化剤として空気を用いる場合、その中に含まれる炭酸ガスによって膜の超電導特性が悪影響を受けることから、空気中の炭酸ガス分圧は、脱炭酸により、1Pa以下、好ましくは0.5Pa以下に調整するのがよい。
この酸化工程は、中高温で行われ、基材及び/又は中間層と複合金属酸化物との間の反応を実質的に回避させることができる。この酸化工程の温度は、一般には、300〜900℃である。本発明の方法を実施する場合、前記仮焼成工程、本焼成工程及び酸化工程は、同一装置内で連続的に実施することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
市販品(和光純薬工業株式会社製)のイットリウム、バリウム及び銅のアセチルアセトナト粉末を、金属成分のモル比で1:2:3となるように秤量し、これらを混合して粉体混合物を得た。この混合物にピリジンおよびプロピオン酸を、粉体混合物がすべて溶解するまでの量を添加した。これを加熱処理し、過剰な前記溶媒成分(ピリジンおよびプロピオン酸)を除去し、非晶質乾固物のアセチルアセトナト基−プロピオン酸基−ピリジン配位金属錯体を得た。次に、これをメタノールに溶解させて、金属元素の割合がY:Ba:Cu=1:2:3の液体状の金属錯体(配位子としてアセチルアセトナト基、ピリジン、プロピオン酸基の3種類を含む)からなる塗布溶液(以下、「Y123溶液」とする。)を得た。溶液の濃度は、溶液1gあたり希土類金属種が0.1〜0.2ミリモル含まれる量とした。
上記の工程において、イットリウムをガドリニウムに置き換え、濃度を1gあたり希土類金属種が0.01〜0.05ミリモル含まれる量とした溶液(以下、「Gd123溶液」とする。)を調製した。
Y123溶液を、あらかじめ酸化セリウムバッファー層(膜厚0.04μm)を表面に蒸着させた1cm角のチタン酸ストロンチウム(100)基板の上にスピンコート法で塗布した。次に、スピンコートした試料を乾燥後(=工程(1))、マッフル炉で500℃まで昇温して有機成分を除去する仮焼成(=工程(2))を行った。上記工程(1)、(2)を2回繰り返した膜の上に、Gd123溶液を、上記と同様の工程で塗布・乾燥(=工程(1’))、仮焼成(=工程(2))した。その後、上記と同様の工程(1)、(2)によるY123溶液の塗布・乾燥、仮焼成を2回繰り返した。仮焼成膜中の各層の膜厚は、基板に近い順に、Y123=0.32μm、Gd123=0.02μm、Y123=0.32μmであった。なお、これらの膜厚は、断面TEM測定、および試料の重量増加とREBaCuの密度から求めた。
【0034】
このようにY123とGd123とに対応する組成の仮焼成膜が交互に積層した多層構造からなる仮焼成膜について、本焼成工程(=工程(3))を760℃にて1時間酸素分圧10Paの気流中で行った後、大気圧で酸素を吸収させて膜厚0.66μmのY(Gd)123膜を作製した。
【0035】
得られた本焼成後の膜試料を、マックサイエンス社製X線回折装置MXP3を用いたX線回折により分析したところ、膜が(001)配向性をもつRE123構造の超電導体であり、2θ=12.9±0.1°の強度がRE123 001ピークに対して5%以上であることを確認した。
次に同装置を用いたX線極点測定によりRE123の面内配向性を調べたところ、単結晶基板上にエピタキシャル成長していることを確認した。
さらに、この膜の超電導特性を、有限会社 ハヤマ製の大面積超電導膜特性評価用コイル精密駆動装置(形式:HLN−2030)(誘導法)により評価したところ、液体窒素温度での臨界電流密度(Jc)として3.39MA/cm、1cm幅あたりの臨界電流(Ic)として224Aが得られた。
【0036】
(比較例1)
溶液としてY123溶液のみを用いた他は、実施例1と同様にして膜厚0.70μmのY123膜を作製したところ、液体窒素温度でのJcとして2.3MA/cm、1cm幅あたりのIcとして160Aが得られた。
X線回折ピークからこの膜は(001)配向性をもつRE123構造の超電導体であり、X線極点測定からエピタキシャル成長しることがわかった。しかし、X線回折パターンの2θ=12.9±0.1°の強度はRE123 001ピークに対して1%以下であった。
【0037】
(実施例2)
原料として酢酸塩粉末を用い、粉体混合物を溶かす溶媒としてトリプロピルアミンとプロピオン酸の混合溶液を用いた他は、実施例1と同様にして膜厚0.70μmのY123膜を作製したところ、液体窒素温度でのJcとして3.14MA/cm、1cm幅あたりのIcとして222Aが得られた。
【0038】
(実施例3)
有機成分を除去する仮焼成工程(2)の前に、KrClエキシマランプ照射(エム・ディ・エキシマ社製MEIR−S−1−200−222、照度:20mW/cm、照射時間:18分)を実施し、かつ仮焼成工程(2)において、気流に露点24℃の水蒸気を含ませた赤外炉を用いた他は、実施例2と同様にして膜厚0.81μmのY(Gd)123膜を作製したところ、液体窒素温度でのJcとして3.0MA/cm、1cm幅あたりのIcとして243Aが得られた。
また、工程(2)終了後の仮焼成膜について断面EDS測定を行ったところ、Y123層とGd123層が積層していることが確認された。図3に、本実施例で得られた多層構造からなる仮焼成膜の断面EDS像を示す。左図と右図の明るい部分は、それぞれ膜中でのY元素とGd元素の分布領域に対応する。右図で、CeO中間層にあたる領域が明るく表示されているのは、Ce元素とGd元素の特性X線の波長が近いことに起因する。仮焼成膜中の各層の膜厚は、基板に近い順に、Y123=0.39μm、Gd123=0.02μm、Y123=0.39μmであった。
【0039】
次に、工程(3)終了後に得られた本焼成膜について、X線回折および極点測定により分析したところ、膜が(001)配向性をもつRE123構造のエピタキシャル成長した超電導膜であり、2θ=12.9±0.1°の強度がRE123 001ピークに対して20%であった。図4の上段に、本実施例で得られた超電導膜のX線回折パターンを示す。
さらにこの膜の断面TEM像を撮影した。その結果を図5の左側に示す。
該図から明らかなように、REとRE’が膜全体にわたって拡散、混合した、高い密度の積層欠陥が膜中の広い範囲で存在した構造が得られていることがかわる。このような膜中に多数の積層欠陥を有する構造は、従来のPLD法で製造した多層構造からなる超電導膜ではみられない構造である。
【0040】
(比較例2)
溶液にY123溶液のみを用いた他は、実施例3と同様にして膜厚0.65μmのY123膜を作製したところ、液体窒素温度でのJcとして2.6MA/cm、1cm幅あたりのIcとして170Aが得られた。
また、得られた本焼成膜のX線回折法および極点測定により分析したところ、膜が(001)配向性をもつRE123構造のエピタキシャル成長した超電導膜であり、2θ=12.9±0.1°の強度がRE123 001ピークに対して1%以下であった。図4の下段に、本比較例で得られた超電導膜のX線回折パターンを示す。
さらに、この超電導膜の断面TEM像を撮影した。その結果を図5の右側に示す。
図5の左右両図の比較から明らかなように、本比較例で得られた超電導膜において観測された膜中の積層欠陥は実施例3と比較して少数であった。
【0041】
(比較例3)
溶液に、YとGdのモル比が実施例3で作製した超電導膜全体に含まれるYとGdのモル比(Y:Gd=97:3)と同等になるように調製した(Y,Gd)123溶液を用いた他は、実施例3と同様にして膜厚0.70μmの超電導膜を作製したところ、液体窒素温度でのJcとして1.4MA/cm、1cm幅あたりのIcとして98Aが得られた。
また、得られた本焼成膜のX線回折法および極点測定により分析したところ、X線回折ピークからこの膜は(001)配向性をもつRE123構造の超電導体であり、X線極点測定からエピタキシャル成長していることがわかった。X線回折パターンの2θ=12.9±0.1°の強度はRE123 001ピークに対して1%以下であった。
本比較例から、本発明で見いだした、異なるREを用いることによる超電導膜のJcの向上は、塗布溶液の段階で異なるREおよびRE’元素を混合する方法によっては達成できないものであり、実施例1〜3の様に異なるRE123およびRE’123溶液を別々に塗布、乾燥、仮焼成することによってはじめて達成できることが明らかになった。
【0042】
(比較例4)
Gd層の膜厚を0.15μmにした他は、実施例3と同様にして膜厚0.69μmの超電導膜を作製したところ、液体窒素温度でのJcとして1.5MA/cm、1cm幅あたりのIcとして103.5Aが得られた。
また、得られた本焼成膜のX線回折法および極点測定により分析したところ、X線回折ピークからこの膜は(001)配向性をもつRE123構造の超電導体であり、X線極点測定からエピタキシャル成長していることがわかった。X線回折パターンの2θ=12.9±0.1°の強度はRE123 001ピークに対して1%以下であった。
本比較例から、本発明で見いだした、異なるREおよびRE’を用いることによる超電導膜のJcの向上は、RE’123層の膜厚を制御することではじめて達成されるものであり、膜厚が適当でない場合はJcがむしろ低下することが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、一般式(RE)BaCu(式中、REは、希土類元素を表す。)で表される高温超電導酸化物(以下、「RE123」とする。)に対応する金属種組成になるように配合された金属含有化合物の有機溶媒溶液を塗布し、乾燥させる工程、及び形成された塗布膜中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程を複数回繰り返した後、得られた仮焼成膜から超電導物質への変換を行う本焼成工程を経てエピタキシャル成長させた超電導膜を製造する方法において、
前記複数回の繰り返し中に、一般式(RE’)BaCu(式中、RE’は、RE123中の希土類原子とは異なる希土類元素を表す。)で表される高温超電導酸化物(以下、「RE’123」とする。)に対応する金属種組成になるように配合された金属含有化合物の有機溶媒溶液を塗布し、乾燥させる工程、及び形成された塗布膜中の有機成分を熱分解させる仮焼成工程を、少なくとも1回挿入することにより、
複数のRE123に対応する組成の仮焼成膜の間に、少なくとも1つのRE’123に対応する組成の仮焼成膜が介在した多層構造からなる仮焼成膜を経由することを特徴とする超電導膜の製造方法。
【請求項2】
前記RE123層とRE’123層との一部が固溶体を形成していることを特徴とする請求項1に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項3】
前記RE123層のREがYであり、RE’123層のRE’がGdである請求項1又は2に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項4】
前記仮焼成工程の前に、KrCl紫外エキシマランプ光を15mW/cm以上の照度で照射する工程を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項5】
前記のRE’123に対応する組成の仮焼成膜の膜厚が0.01〜0.1μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項6】
前記超電導膜が、膜厚0.6μm以上の厚膜であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項7】
前記仮焼成工程を、露点が20℃以上の水蒸気を含む雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項8】
前記金属含有化合物の有機溶媒溶液が、希土類元素、バリウム、及び銅からなる各金属成分を必須成分として含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の超電導厚膜の製造方法。
【請求項9】
前記金属含有化合物の有機溶媒溶液が、希土類元素、バリウム、及び銅を含有する金属種の、炭素数1〜8の金属カルボン酸塩及び/又は金属アセチルアセトナト粉末混合物に、ピリジン及び/又は少なくとも1種の三級アミン、及び少なくとも1種の炭素数1〜8のカルボン酸を添加して、金属錯体を製造し、過剰の溶媒を揮発させた後、炭素数1〜8の1価の直鎖アルコール及び/または水に溶解して調製された均一な溶液であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項10】
前記の金属カルボン酸塩、金属アセチルアセトナト、及びカルボン酸のうち少なくとも1種がハロゲンを含むことを特徴とする請求項9に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項11】
前記基板が、金属酸化物の単結晶あるいは単結晶に、中間層として前者と異なる少なくとも1種の金属酸化物薄膜を形成した複合体であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項12】
前記基板が、チタン酸ストロンチウム、ランタンアルミネート、ネオジムガレート、イットリウムアルミネート、酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウムなどのペロブスカイト関連化合物、イットリア安定化ジルコニア、サファイア、及び酸化マグネシウムから選ばれることを特徴とする請求項11に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項13】
前記中間層が、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、ランタンマンガネート及びガドリニウムジルコネートのうち少なくとも1種からなることを特徴とする請求項11に記載の超電導膜の製造方法。
【請求項14】
前記請求項1〜13のいずれか1項に記載の超電導膜の製造方法における仮焼成工程の後に得られる、各層内で元素分布の均一な多層構造からなることを特徴とする仮焼成膜。
【請求項15】
前記請求項1〜13のいずれか1項に記載の超電導膜の製造方法における本焼成工程の後に得られる、多数の積層欠陥を含むことを特徴とする超電導膜。
【請求項16】
CuKα線を用いたX線回折ピーク2θ=12.9±0.1°の強度が、RE123 001ピークに対して5%以上であることを特徴とする請求項15に記載の超電導膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−151018(P2012−151018A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9535(P2011−9535)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】