説明

超音波処理装置の評価方法、音場評価方法、超音波処理システム

【課題】超音波処理装置の処理能力を非接触で正確にかつ簡単に評価することができる超音波処理装置の評価方法を提供する。
【解決手段】超音波反応装置10は、超音波を照射するための超音波振動子13と、その超音波を被処理液体W1に照射してその被処理液体W1の化学反応を誘起させるための反応槽12とを備える。赤外線サーモグラフィ20は、超音波照射時に被処理液体W1から放射される赤外線放射エネルギーを反応槽12を介してその外部から検出し、反応槽12内の音場をその赤外線放射エネルギーに応じた温度分布として可視化する。制御装置30は、その温度分布のデータを赤外線サーモグラフィ20から取得して、反応槽12の処理能力を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に超音波を照射し、その超音波のエネルギーを利用して液体処理を行う超音波処理装置の評価方法、音場評価方法、及び超音波処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定周波数域の強力な超音波を液体に照射すると、キャビテーションと呼ばれる気泡が発生し、その圧縮、崩壊過程を経てホットスポットと呼ばれる数千度、数千気圧の反応場が局所的に形成されることが知られている。近年ではこの反応場は一種の極限反応場として注目を浴びており、この極限反応場を利用して液体の処理(例えば、化学反応の誘起・促進、物質の分散、殺菌、乳化等の処理)を行う超音波処理装置の開発が進められている。ただし、かかる装置は実験室レベルにとどまり、未だ実用化には到っていない状況にある。
【0003】
このような超音波処理装置の処理能力を確認するために、超音波を照射する処理槽内の音場(反応場)の評価が行われる。具体的な評価方法としては、例えば、ハイドロフォンを被処理液体中に浸漬して超音波の音圧を測定する方法や、圧電素子をピックアップとして用いた音圧センサを被処理液体中に浸漬して超音波の音圧を測定する方法が従来知られている(例えば、特許文献1参照)。このような音圧測定法以外に、例えば、被処理液体中に受圧板を浸漬してそれを電子天秤で吊り下げた状態で受圧板にかかる圧力を計測する天秤法なども従来知られている。
【特許文献1】特開2002−310781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の音圧測定法の場合、音圧センサを設けた所定のポイントでしか音圧を測定できないため、処理槽全体をリアルタイムで測定することができない。さらに、上記従来の測定法では、被処理液体中に浸漬された音圧センサ等が超音波の伝播の障害となるため、処理槽の評価を正確に行うことができず、さらには処理効率の高い理想的な音場の形成も困難になる。
【0005】
また、上記測定法は基本的に被処理液体に対して音圧センサ等の検知部材を接触させる、いわば接触式というべきものであるが、測定時に被処理液体に対して何ら部材の接触を伴わない測定法も従来提案されている。このように非接触で音場の評価を行う方法としては、例えばルミノール発光を利用した評価方法がある。しかし、この方法では、発光させるための特殊な溶液を被処理液体中に添加する必要があるため、実際の使用状態とは異なる状態で処理槽を評価することになる。さらに、ルミノール発光を検知するためには超音波処理装置の周囲を暗くする必要がありその発光量も微量であるため、正確な評価を行うことが困難であるといった問題もある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、超音波処理装置の処理能力を非接触で正確にかつ簡単に評価することができる超音波処理装置の評価方法、超音波処理システムを提供することである。また、本発明の別の目的は、音場を非接触で正確にかつ簡単に評価することができる音場評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波を発生するための超音波振動子と、前記超音波を被処理液体に照射してその被処理液体の処理を行うための処理槽とを備えた超音波処理装置の評価方法であって、超音波照射時に前記被処理液体から放射される赤外線放射エネルギーを前記処理槽を介してその外部から検出し、前記処理槽内の音場をその赤外線放射エネルギーに応じた温度分布として可視化し、その温度分布に基づいて評価を行うことを特徴とする超音波処理装置の評価方法をその要旨とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、処理槽において被処理液体に超音波が照射されると、その液体中に高温の音場が形成され、それに応じて被処理液体の温度が上昇する。従って、本発明のように、被処理液体から放射される赤外線放射エネルギーを処理槽を介してその外部から検出して、処理槽内の音場をそのエネルギーに応じた温度分布として可視化することにより、その温度分布に基づいて処理槽の処理能力を非接触で評価することができる。また、本発明の方法によれば、ルミノール発光による音場測定法とは異なり、特殊な溶液を使う必要がないのに加え、装置の周囲を暗くする必要もない。従って、実際に使用する被処理液体をそのまま用いて処理槽の処理能力を正確にかつ簡単に評価することができる。
【0009】
なお、本発明における被処理液体の処理としては、化学反応の誘起・促進、物質の分散、殺菌、乳化などを挙げることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記赤外線放射エネルギーに応じた温度分布と、予め設定された基準の温度分布とを比較して、前記処理槽の処理能力を判定することをその要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、赤外線放射エネルギーに応じた温度分布と、予め設定された基準の温度分布とを比較することにより、処理槽の処理能力が正常であるか否かを判定することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、超音波を発生するための超音波振動子と、前記超音波を被処理液体に照射してその被処理液体の処理を行うための処理槽とを備えた超音波処理装置と、超音波照射時に前記被処理液体から放射される赤外線放射エネルギーを前記処理槽を介してその外部から検出し、前記処理槽内の音場をその赤外線放射エネルギーに応じた温度分布として可視化する画像形成装置と、前記赤外線放射エネルギーに応じた温度分布と基準の温度分布とを比較して、前記処理槽の処理能力を判定する評価手段とを備えたことを特徴とする超音波処理システムをその要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、超音波処理装置において、超音波振動子から発生された超音波が被処理液体に照射されてその液体の処理が行われる。この超音波の照射時に、処理槽の外部に設けられた画像形成装置により、被処理液体から放射される赤外線放射エネルギーが処理槽を介してその外側から検出される。また、画像形成装置によって、処理槽内の被処理液体の音場がその赤外線放射エネルギーに応じた温度分布として可視化される。そして、評価手段によって、赤外線放射エネルギーに応じた温度分布と基準の温度分布とが比較され、処理槽の処理能力が判定される。このようにすると、処理槽の処理能力を非接触で判定することができ、例えば、その判定結果に応じて超音波処理装置を制御することにより、液体処理を効率よく行うことが可能となる。
【0014】
具体例を挙げると、例えば、下方から超音波を照射して被処理液体の液面で反射させる処理槽では、反射面の近傍で化学反応が起こりやすい。その場合、処理能力の判定結果に基づいて処理槽における被処理液体の液面の高さを調整することにより、被処理液体の処理を効率よく行うことができる。また、例えば、処理能力の判定結果に基づいて超音波振動子から照射される超音波の照射強度を変更することにより、被処理液体の処理を効率よく行うことができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、超音波照射時に処理槽内の被処理液体から放射される赤外線放射エネルギーを前記処理槽の外部で検出し、前記処理槽内の音場をその赤外線放射エネルギーに応じた温度分布として可視化し、その温度分布に基づいて評価を行うことを特徴とする音場評価方法をその要旨とする。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、被処理液体から放射される赤外線放射エネルギーを処理槽の外部で検出して、処理槽内の音場をそのエネルギーに応じた温度分布として可視化することにより、その温度分布に基づいて音場を非接触で正確にかつ簡単に評価することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上詳述したように、請求項1乃至3に記載の発明によれば、超音波処理装置の処理能力を非接触で正確にかつ簡単に評価することができる。請求項4に記載の発明によれば、音場を非接触で正確にかつ簡単に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を超音波反応装置(ソノリアクタ)を備えた超音波処理システムに具体化した一実施の形態を図面に基づき説明する。
【0019】
図1は、超音波処理システム1を示す概略構成図であり、図2は、その超音波処理システム1の電気的構成を示すブロック回路図である。
【0020】
図1に示すように、この超音波処理システム1は、超音波反応装置10と、赤外線サーモグラフィ20と、制御装置30とを備えている。
【0021】
超音波反応装置10は、円筒形状の反応槽12と、その反応槽12の底部の外側に設けられた複数の超音波振動子13とを備えている。本実施の形態の反応槽12は、赤外線及び可視光線を透過する材料からなる。具体的には、反応槽12は、アクリル樹脂などの透明樹脂材料を用いて、その底部と側壁部とが一体となるように形成されている。なお、反応槽12の形状は円筒形状のみに限定されず、例えば箱状にしてもよい。
【0022】
この反応槽12には、被処理液体W1を供給する供給用配管14と、その被処理液体W1を排出する排出用配管15とが接続されている。供給用配管14及び排出用配管15は、いずれも赤外線サーモグラフィ20の視野となる部分を避けるようにして配置されている。供給用配管14及び排出用配管15の途中には、液高調整制御手段を構成する調整バルブ16が設けられており、該調整バルブ16により被処理液体W1の供給量及び排出量が調整されることで、反応槽12における被処理液体W1の液面の高さが変更される。また、反応槽12の上部には空気が入っており、被処理液体W1の上部に空気層A1が形成されている。ここで被処理液体W1の一例としては農薬などの有機化合物を含む廃水を挙げることができ、その処理とは前記廃水中に含まれる有機化合物を分解して無害化する処理(通常は酸化分解反応)を挙げることができる。この場合、前記処理は連続処理であってもよく非連続処理(いわゆるバッチ処理)であってもよい。
【0023】
本実施形態の超音波振動子13は、平板状の圧電セラミックスからなり、発振回路18の発振信号に基づいて、周波数が500kHzの超音波を発生する。この超音波は、反応槽12の下方から上方に向けて照射される。そして、その超音波は被処理液体W1中を伝播してその液面(空気層A1と被処理液体W1との界面)で反射する。
【0024】
反応槽12において、被処理液体W1に超音波が照射されると、キャビテーションと呼ばれる気泡が発生し、その圧縮、崩壊過程を経て数千度、数千気圧の反応場が形成される。この超音波エネルギーにより被処理液体W1中での化学反応が誘起されて、被処理液体W1の温度が上昇する。本実施の形態の超音波処理システム1は、反応槽12の外部に設けられた赤外線サーモグラフィ20を使用して、反応槽12内の音場を被処理液体W1の温度分布として可視化することで、反応槽12の処理能力を評価する。
【0025】
図2に示すように、本実施形態の赤外線サーモグラフィ20は、集光レンズ21(赤外線放射エネルギー検出部)、検知回路22、A/D変換回路23、画像処理回路24、モニタ25などから構成されている。この赤外線サーモグラフィ20は、被処理液体W1から反応槽12を介してその外部に放射される赤外線放射エネルギーを集光レンズ21を介して取り込み、検知回路22でそのエネルギーを検出する。そして、赤外線サーモグラフィ20は、検知回路22から出力される検知信号(アナログ信号)をA/D変換回路23でデジタル信号に変換して画像処理回路24に入力する。さらに、赤外線サーモグラフィ20は、画像処理回路24において赤外線放射エネルギーに応じた温度に変換し、温度分布をモニタ25上に二次元画像として表示する。
【0026】
制御装置30は、CPU31、ROM32、RAM33、入出力ポート(図示略)などからなる周知のマイクロコンピュータにより構成され、赤外線サーモグラフィ20、発振回路18、及び調整バルブ16と電気的に接続されている。制御装置30において、ROM32には制御プログラムが記憶されており、CPU31はRAM33を利用してその制御プログラムを実行する。その結果、制御装置30は各種の制御信号を出力して超音波処理システム1を統括的に制御する。
【0027】
具体的にいうと、制御装置30は、照射強度変更制御手段を構成する発振回路18に制御信号を出力しその発振回路18から超音波振動子13に発振信号を出力させる。この発振信号に基づいて超音波振動子13が振動することにより、超音波が被処理液体W1に照射される。またこのとき、制御装置30は、赤外線サーモグラフィ20に制御信号を出力して温度分布の画像を取得するための処理を開始させる。赤外線サーモグラフィ20は、被処理液体W1から放射されている赤外線放射エネルギーを検出し、該エネルギーに応じた温度に変換して、温度分布をモニタ25に表示する。
【0028】
図3には、そのモニタ25に表示される温度分布が示されている。なお、図3(a)は、反応槽12における液面の高さを52cmとしたときの温度分布を示し、図3(b)は、反応槽12における液面の高さを26cmとしたときの温度分布を示している。ここでは、説明の便宜上、各温度領域を異なるハッチングで区別して示しているが、実際のモニタ25には、温度毎に色分けされたカラー画像として表示される。また、図4には、図3(a)の反応槽12における高さと温度との関係が示されている。
【0029】
図3(a),(b)及び図4に示すように、液温は超音波が反射する液面近傍で高くなっており、液面近傍で化学反応が盛んに起こることが確認された。また、図3(a)に示すように、液面が高くなると、反応槽12の下方では化学反応がほとんど起きないことが確認された。ただし、超音波振動子13に近接した底部ではその超音波振動子13の振動に伴う発熱によって温度が若干上昇していた。
【0030】
図3の温度分布と比較するために、図5には、ルミノール発光法による実験結果を示している。なお、図5(a)は反応槽12における液面の高さを13cmとし、図5(b)は反応槽12における液面の高さを23.4cmとし、図5(c)は反応槽12における液面の高さを39cmとしてそれぞれ実験を行った。
【0031】
具体的には、このルミノール発光法においては、反応槽12の被処理液体W1中に、発光させるための特殊な溶液を添加して超音波を照射した。このとき、反応槽12の周囲を暗くして超音波の照射によるルミノール発光を撮影した。その発光の様子を図5に示している。このルミノール発光も液面近傍で起こっており、液面を高くすると反応槽12の下方ではほとんど発光(化学反応)が起こらないことが確認された。
【0032】
さらに、本願発明者は、反応槽12における高さと化学反応量との関係を求めた。具体的には、0.1mol/Lのヨウ化カリウム(KI)の水溶液を反応槽12に入れ、その水溶液に超音波を照射する。この超音波の照射によって、水溶液中でキャビテーションが発生し、そのキャビテーションによる高温の反応場において水分子が水素ラジカル(・H)やヒドロキシラジカル(・OH)に分解される。そして、次式のように、ヒドロキシラジカルがKI水溶液と反応する。
【0033】
2I+2・OH→I+2OH
【0034】
つまり、Iイオンが酸化することでIが生成される。このIは難溶であるため、次式のように、過剰なIイオンと反応してIイオンが生成される。
【0035】
+I→I
【0036】
そして、このIを測定することにより、高さに応じた化学反応量を定量化した。具体的には、Iが生成されると水溶液は黄色に変色する。その水溶液の色の変化を吸光度計で測定し、化学反応量として数値化した。
【0037】
図6にその測定結果を示す。なおここでは、反応槽12における水溶液の液面の高さを52cmとして測定を行った。この測定結果でも、液面の近傍で化学反応量が多くなっており、図4に示す反応槽12での温度と相関性があることが確認された。
【0038】
また、本実施の形態における制御装置30は、赤外線サーモグラフィ20が検出した温度分布のデータを取得して、ROM32に予め設定された基準の温度分布のデータと比較する。制御装置30は、比較結果に基づいて超音波反応装置10における処理能力が正常であるか否かを判定する。そして、その処理能力が正常でないと判定した場合、制御装置30は調整バルブ16を制御して被処理液体W1の供給量または排出量を自動的に調整する。その結果、反応槽12の処理能力が正常となるように被処理液体W1の液面の高さが適宜変更される。なおここで、制御装置30は、赤外線サーモグラフィ20から取得したデータに基づいて被処理液体W1の液面の高さを判定し、目標の高さとなるよう調整バルブ16の開度を制御している。
【0039】
さて、以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0040】
(1)本実施形態の超音波処理システム1では、赤外線サーモグラフィ20を用いて、反応槽12の反応場を温度分布として可視化する。このため、反応槽12の処理能力を非接触で評価すること、即ち反応槽12の処理能力を被処理液体W1に検知部材を何ら浸漬することなく評価することができる。従って、検知部材の浸漬を伴う音圧測定法や天秤法とは異なり、検知部材が超音波の伝播の障害になることがない。よって、処理槽12の評価を正確にかつ簡単に行うことができるとともに、処理効率の高い理想的な音場を比較的容易に形成することが可能となる。本実施形態では、超音波振動子13も処理槽12の底面の外側に配置することで被処理液体W1と非接触にしており、このことも評価の正確さの向上等に寄与している。
【0041】
(2)本実施形態の超音波処理システム1では、ルミノール発光法により反応場を確認する手法とは異なり、特殊な溶液を使う必要がないのに加え、装置の周囲を暗くして確認する必要もない。従って、本実施の形態では、実際に使用する被処理液体W1をそのまま用いて反応槽12の処理能力を正確にかつ簡単に評価することができる。しかも、被処理液体W1中に本来不要な物質が混入することもないので、例えば後工程においてその物質を除去するような工程も不要となる。
【0042】
(3)本実施形態の超音波処理システム1の場合、赤外線サーモグラフィ20が検出した温度分布と、基準の温度分布とを比較することにより、反応槽12の処理能力を判定することができる。そして、その判定結果に応じて、超音波反応装置10における調整バルブ16を制御することで、反応槽12における被処理液体W1の液面の高さが調整され被処理液体W1の処理効率を向上させることができる。
【0043】
(4)本実施形態の超音波処理システム1の場合、反応槽12は赤外線を透過する材料から構成されているので、反応槽12における被処理液体W1の温度に応じた赤外線放射エネルギーを赤外線サーモグラフィで検知することができる。また、反応槽12を構成する材料は可視光線も透過するので、反応槽12内の状態、例えば、液面の高さや振動状態、キャビテーションの発生状態などを目視で確認することができる。
【0044】
(5)本実施形態の超音波処理システム1における超音波反応装置10では、被処理液体W1の液面(被処理液体W1と空気層A1との界面)を反射面とし、超音波の周波数を500kHzに設定している。この場合、被処理液体W1の液面は超音波の音圧によって波長程度(3mm程度)の大きさで脈動をするため、その液面の近傍では超音波の反射による定在波が均一に発生する。その結果、被処理液体W1の液面近傍における反応場が平均化されて、再現性のある評価結果を得ることができる。ここで、液面を脈動させてその近傍で定在波を均一に発生させるためには、超音波の周波数を200kHz〜500kHzに設定することが好ましい。また、超音波の周波数を200kHz〜500kHzに設定すると、液面近傍でヒドロキシラジカルが多く発生するため、被処理液体W1の化学反応を促進させるのに実用上好ましいものとなる。
【0045】
(6)例えば、超音波反応装置10の製造後出荷前の性能試験において上記の手法で処理槽12の評価を行うことにより、超音波振動子13の取り付け位置の調整などを比較的容易に行うことができる。よって、不良品の発生を未然に防止し、良品率を向上させることができる。また、出荷された超音波反応装置10の使用時においても同様の手法で評価を行うことにより、不良や故障の発生をいち早く見つけることが可能となる。
【0046】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0047】
・上記実施の形態において、制御装置30は、赤外線サーモグラフィ20で検出した温度分布のデータに基づいて調整バルブ16を制御するものであったが、これに限定されるものではない。具体的には、例えば、温度分布のデータに基づいて、発振回路18の発振信号の大きさを変更し、超音波の照射強度を制御するよう構成してもよい。このようにしても、反応槽12における被処理液体W1の処理を効率よく行うことができる。
【0048】
・上記実施の形態では、本発明を被処理液体W1中の化学反応を誘起・促進させる超音波反応装置(ソノリアクタ)10に具体化したが、これ以外のもの、例えば、分散器、殺菌装置、超音波洗浄機などの超音波処理装置に具体化してもよい。
【0049】
・上記実施の形態では、本発明を反応槽12の底部に超音波振動子13を設け、下方から上方に向けて超音波を照射する超音波処理装置に具体化したが、これに限定されるものではない。例えば、超音波振動子13を反応槽12の上部や側壁部に設けた超音波処理装置に具体化してもよい。
【0050】
・反応槽12は、赤外線及び可視光線を透過する材料を用いて一体的に形成されるものであったが、その全体を赤外線及び可視光線を透過する材料で形成する必要はない。すなわち、反応槽12は、その側壁部において少なくとも赤外線サーモグラフィ20の集光レンズ21に面している箇所を赤外線及び可視光線を透過する材料で形成するものであればよい。また、赤外線及び可視光線を透過する材料に代えて、赤外線のみを透過する材料を用いて反応槽12を形成してもよい。
【0051】
・制御装置30に液晶ディスプレイやCRTなどの表示手段を電気的に接続して、それに処理槽12の評価結果を表示するように構成してもよい。また、赤外線サーモグラフィ20のモニタに表示されるべき温度分布の画像を制御装置30を介して取り込んで、上記表示手段に表示させるように構成してもよい。
【0052】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0053】
前記超音波処理装置は、前記処理槽の底部の外側に前記超音波振動子が設けられ、下方から超音波を照射して前記被処理液体の液面で反射させる装置であることを特徴とする請求項3に記載の超音波処理システム。
【0054】
(2)前記処理槽の処理能力の判定結果に基づいて前記処理槽における被処理液体の液面の高さを調整する液高調整制御手段を、さらに備えたことを特徴とする前記(1)に記載の超音波処理システム。
【0055】
(3)前記処理槽における処理能力の判定結果に基づいて前記超音波の照射強度を変更する照射強度変更制御手段を、さらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の超音波処理システム。
【0056】
(4)前記処理槽は底部と側壁部とを有し、前記画像形成装置の赤外線放射エネルギー検出部は前記側壁部の外側に配置され、前記側壁部において少なくとも前記赤外線放射エネルギー検出部に面している箇所は、赤外線を透過する材料を用いて形成されることを特徴とする請求項3に記載の超音波処理システム。
【0057】
(5)前記処理槽は底部と側壁部とを有し、前記画像形成装置の赤外線放射エネルギー検出部は前記側壁部の外側に配置され、前記側壁部において少なくとも前記赤外線放射エネルギー検出部に面している箇所は、赤外線及び可視光線を透過する材料を用いて形成されることを特徴とする請求項3に記載の超音波処理システム。
【0058】
(6)200kHz〜500kHzの超音波を発生するための超音波振動子と、前記超音波を被処理液体に照射してその被処理液体中にキャビテーションを発生させて前記被処理液体にて反応を誘起、促進させるための反応槽とを備えた超音波反応装置の評価方法であって、超音波照射時に前記被処理液体から放射される赤外線放射エネルギーを前記反応槽を介してその外部から検出し、前記反応槽内の音場をその赤外線放射エネルギーに応じた温度分布として可視化し、その温度分布に基づいて評価を行うことを特徴とする超音波反応装置の評価方法。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】一実施の形態の超音波処理システムを示す概略構成図。
【図2】超音波処理システムの電気的構成を示すブロック回路図。
【図3】(a),(b)は赤外線サーモグラフィを用いて可視化された温度分布を示す説明図。
【図4】反応槽における高さと温度との関係を示すグラフ。
【図5】(a)〜(c)はルミノール発光の様子を示す説明図。
【図6】反応槽における高さと化学反応量との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0060】
1…超音波処理システム
10…超音波処理装置としての超音波反応装置
12…処理槽としての反応槽
13…超音波振動子
20…画像形成装置としての赤外線サーモグラフィ
21…赤外線放射エネルギー検出部としての集光レンズ
30…評価手段としての制御装置
W1…被処理液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を発生するための超音波振動子と、前記超音波を被処理液体に照射してその被処理液体の処理を行うための処理槽とを備えた超音波処理装置の評価方法であって、
超音波照射時に前記被処理液体から放射される赤外線放射エネルギーを前記処理槽を介してその外部から検出し、前記処理槽内の音場をその赤外線放射エネルギーに応じた温度分布として可視化し、その温度分布に基づいて評価を行うことを特徴とする超音波処理装置の評価方法。
【請求項2】
前記赤外線放射エネルギーに応じた温度分布と、予め設定された基準の温度分布とを比較して、前記処理槽の処理能力を判定することを特徴とする請求項1に記載の超音波処理装置の評価方法。
【請求項3】
超音波を発生するための超音波振動子と、前記超音波を被処理液体に照射してその被処理液体の処理を行うための処理槽とを備えた超音波処理装置と、
超音波照射時に前記被処理液体から放射される赤外線放射エネルギーを前記処理槽を介してその外部から検出し、前記処理槽内の音場をその赤外線放射エネルギーに応じた温度分布として可視化する画像形成装置と、
前記赤外線放射エネルギーに応じた温度分布と基準の温度分布とを比較して、前記処理槽の処理能力を判定する評価手段と
を備えたことを特徴とする超音波処理システム。
【請求項4】
超音波照射時に処理槽内の被処理液体から放射される赤外線放射エネルギーを前記処理槽の外部で検出し、前記処理槽内の音場をその赤外線放射エネルギーに応じた温度分布として可視化し、その温度分布に基づいて評価を行うことを特徴とする音場評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−122762(P2006−122762A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311578(P2004−311578)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000243364)本多電子株式会社 (255)
【Fターム(参考)】