説明

超音波振動子およびその作成方法

【課題】2次元状に配置された多数の圧電素子を狭いピッチに優位なシリコンなどの剛性基板に電気的に接続するにあたって、前記剛性基板の割れを防止する。
【解決手段】前記多数の圧電素子5間を分離するために設けられる素子間充填剤層7を、前記圧電素子5の表面を超えて延在させて前記圧電素子5の表面を剛性基板6から離間させ、すなわち前記延在させた素子間充填剤層7を圧電素子5の表面と剛性基板6との間隔を一定に保つスペーサとして機能させ、生じた隙間に、導電性接着剤層8を充填して、個別電極4を剛性基板6の電極6aに電気的に接続する。したがって、剛性基板6がPZTなどから成る圧電層2に直接接触せず、それらの間に、比較的柔らかい素子間充填剤層7や導電性接着剤層8が介在されることになるので、前記剛性基板6の割れを防止することができる。また、両者の平面性が悪い場合でも、確実に電気接続を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子およびその作成方法に関し、特に2次元配列された圧電素子からの信号配線の取出しに関する。
【背景技術】
【0002】
上述のような信号配線の取出しに関する従来技術は、たとえば特許文献1で示される。その従来技術によれば、1次元配列の圧電素子の短手方向(配列方向とは直交方向)に切れ目を入れて3つに分割し、その分割した各列で共通のプリント基板を、バッキングを貫通して差込み、バッキング側の個別電極を、このプリント基板に形成した電極配線に接続している。また、特許文献2では、バッキング材を貫通したすだれ状の金属板を個別電極の配線に用いている。
【特許文献1】特開2000−41299号公報
【特許文献2】特開2003−9289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の従来技術では、プリント基板や金属板を個別電極の配線に用いているので、小素子化(狭ピッチ化)には限界がある。すなわち、配線の太さに制限があり、またバッキング材における前記プリント基板や金属板を差込むための溝の加工サイズを小さくするのにも限度がある。さらにまた、前記プリント基板や金属板の端面を、圧電層に貼付けた個別電極に接触させているので、接触面積が小さく、強度が弱いという問題もある。たとえば、ピッチが200μm以下の場合、金属の厚みは100μm程度以下にする必要があるが、その100μm以下の金属では強度が弱く、扱いが困難である。また、溝の加工誤差からは、たとえば前記プリント基板や金属板の厚みを150μmとすると、溝の加工幅が160μm+20μm、それに加工の残り代を50μm、加工バラツキを20μmと仮に定めると、ピッチは最低でも250μm必要となる。
【0004】
ここで、前記2次元配列される圧電素子の数を、たとえば128×128素子とすると、個別の信号配線は16384本にもなる。そこで、そのような多数の信号配線の取出しに、は、配線パターンの形成されたシリコンなどの剛性基板を用いる方法がある。それによれば、100μm以下のピッチが可能であり、素子の微細化に適した配線方法と言える。しかしながら、硬いシリコン基板の平面性によっては、素子に接触不良を起こす可能性がある。この接触不良を防ぐために圧電素子をシリコン基板に強い力で押し付ける方法もあるが、この方法では、シリコン基板に傷が付き、破損することがある。
【0005】
本発明の目的は、2次元状に配置された多数の圧電素子を狭いピッチに優位なシリコンなどの剛性基板に電気的に接続するにあたって、前記剛性基板の割れを防止することができる超音波振動子およびその作成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の超音波振動子は、圧電層の両面に電極が形成されて成る圧電素子が2次元配列されて成り、少なくとも一方の電極からの信号取出しには剛性基板を用いるようにした超音波振動子において、各圧電素子間を分離する素子間充填剤層が前記圧電素子の表面を超えて延在されて該素子間充填剤層の先端が前記剛性基板と接触することで、前記圧電素子の表面と剛性基板とを離間させることを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、2次元状に配置された多数の圧電素子を狭いピッチに優位なシリコンなどの剛性基板に電気的に接続するにあたって、前記多数の圧電素子間を分離するために設けられる素子間充填剤層が、従来では圧電素子の表面と面一で、該表面の電極が前記剛性基板と接触するところ、本発明では、前記圧電素子の表面を超えて延在させて該圧電素子の表面を剛性基板から離間させ、すなわち前記延在させた素子間充填剤層を圧電素子の表面と剛性基板との間隔を一定に保つスペーサとして機能させる。
【0008】
したがって、剛性基板がPZTなどから成る圧電層に直接接触せず、それらの間に、比較的柔らかい素子間充填剤層が介在されることになるので、前記剛性基板の割れを防止することができる。
【0009】
また、本発明の超音波振動子は、前記圧電素子の表面と剛性基板との間に充填される導電性接着剤層を含むことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、前記のように素子間充填剤層がスペーサとして機能することで圧電素子の表面と剛性基板との間には隙間が生じ、そのままでは圧電素子の表面の電極と基板側の電極とが容量性結合となるのに対して、その隙間に、導電性接着剤層を充填することで、低インピーダンスで接続を行うことができる。
【0011】
さらにまた、本発明の超音波振動子の作成方法は、圧電層の両面に電極が形成されて成る圧電素子が2次元配列されて成り、少なくとも一方の電極からの信号取出しには剛性基板を用いるようにした超音波振動子の作成方法において、前記圧電素子を、自己支持性を有する剥離部材に貼付ける工程と、前記圧電素子を、格子状に、前記剥離部材まで掘込むようにダイシングし、前記2次元配列とする工程と、前記ダイシングされた各圧電素子の先端面間を連結部材で連結する工程と、前記ダイシングされた圧電素子間に素子間充填剤を充填し、硬化させる工程と、前記剥離部材を剥離する工程と、前記剥離部材を剥離することで現れ、前記圧電素子の表面を底面とし、素子間充填剤層の壁面で外囲された凹所に、導電性接着剤を充填し、前記剛性基板に貼付ける工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、圧電層の表面より突出した素子間充填剤層や、導電性接着剤層によって、前述のような剛性基板がPZTなどから成る圧電層(電極)に直接接触しない構造を実現することができる。
【0013】
また、本発明の超音波振動子の作成方法では、前記導電性接着剤を充填し、剛性基板に貼付ける工程は、前記導電性接着剤を充填して硬化させる工程と、硬化した導電性接着剤層の表面が前記素子間充填剤層の表面と面一になるように研削する工程と、さらに異方導電性接着剤で剛性基板に貼付ける工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、余剰となった導電性接着剤を除去するので、各圧電素子(個別電極)間の短絡を防止し、独立性を確保することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の超音波振動子およびその作成方法は、以上のように、2次元状に配置された多数の圧電素子を狭いピッチに優位なシリコンなどの剛性基板に電気的に接続するにあたって、前記多数の圧電素子間を分離するために設けられる素子間充填剤層を、前記圧電素子の表面を超えて延在させて前記圧電素子の表面を剛性基板から離間させ、すなわち前記延在させた素子間充填剤層を圧電素子の表面と剛性基板との間隔を一定に保つスペーサとして機能させる。
【0016】
それゆえ、剛性基板がPZTなどから成る圧電層に直接接触せず、それらの間に、比較的柔らかい素子間充填剤層が介在されることになるので、前記剛性基板の割れを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の一形態に係る超音波振動子1の構造を示す断面図である。この超音波振動子1は、圧電層2の両面に電極3,4が形成されて成る圧電素子5が2次元配列されて成る超音波振動子である。なお、圧電素子5の表面には、整合層や音響レンズ等が、裏面にはバッキング層等が設けられるが、本願発明には直接関係がないので、本願明細書では説明を省略している。そして、この超音波振動子1では、個別電極である一方の電極4からの信号取出しには、狭いピッチに優位なシリコンなどの剛性基板6を用いている。共通電極である他方の電極3からの信号取出しには、ベタ電極が形成されたフレキシブルプリント基板(FPC)9が使用される。
【0018】
注目すべきは、この超音波探触子1では、図2で示すように、前記各圧電素子5間を分離する素子間充填剤層7を、該圧電素子5の表面を超えて延在させ、その素子間充填剤層7の先端が前記剛性基板6と接触することで該圧電素子5の表面と剛性基板6とを離間させるとともに、該圧電素子5の表面と剛性基板6との間に、導電性接着剤層8が充填されていることである。
【0019】
図3は、上述のような超音波振動子1の作成方法を説明するための図である。先ず図3(a)で示すように、圧電層2の両面に電極3,4が形成され、分極されて成る圧電素子5を、自己支持性を有する厚手の剥離部材11に貼付ける。この剥離部材11は、剛性のシート材や、剛性の部材に接着剤などが塗布され、或いは剛性の部材に両面テープが貼り付けられたものでよい。
【0020】
次に、図3(b)で示すように、前記圧電素子5を格子状にダイシングし、前記2次元配列とする。このとき注目すべきは、ダイシングを前記剥離部材11まで、すなわち圧電素子5の下面よりも深く彫込むように行うことである。
【0021】
続いて、図3(c)で示すように、前記ダイシングされた各圧電素子5の先端面間を、連結部材12で連結する。この連結部材12は、後述する素子間充填剤層7の充填に備え、各圧電素子5の先端面を保護するとともに、位置ずれを防止する仮止め用のフィルムなどから成る。
【0022】
続いて、図3(d)で示すように、ダイシングされた圧電素子5間に素子間充填剤層7を真空充填し、熱もしくは常温放置等、該素子間充填剤の仕様に合った硬化方法で硬化させる。これによって、素子間充填剤層7は、圧電素子5の下面よりも深く充填される。素子間充填剤層7の充填は、側面からだけでなく、連結部材12に形成した隙間を通して上面から行った後、該上面(連結部材12上)に残る充填剤を除去するようにしてもよい。
【0023】
その後、図3(e)で示すように前記剥離部材11および連結部材12を剥離し、上下を反転して見ると、前述の図2で示すように、素子間充填剤層7が前記圧電素子5の表面を超えて、壁状に延在することになる。剥離条件は、前記剥離部材11および連結部材12の仕様に合った方法で行う。たとえば、熱剥離や、UV剥離などである。この剥離工程と、素子間充填剤層7の硬化工程とが、共通条件であれば、同時に行うことができる。前記共通条件は、たとえば素子間充填剤が熱硬化性で、剥離剤が熱剥離性の場合で、温度条件が共通となる場合である。
【0024】
続いて、前記剥離部材11を剥離することで現れ、図2で示すように、前記圧電素子5の表面を底面とし、素子間充填剤層7の壁面で外囲された凹所7aに、図3(f)で示すように、導電性接着剤層8を充填し、パターン形成された前記剛性基板6に、電極4と電極6aとが対応するように貼付け、さらにFPC9の貼付けで、共通の電極3を接続することで、前記図1で示すような超音波振動子1が完成する。
【0025】
以上のようにして作成することで、圧電素子5の表面から突出した素子間充填剤層7を作成することができ、この素子間充填剤層7によって前記圧電素子5の表面を剛性基板6から離間させ、すなわち該素子間充填剤層7を圧電素子5の表面と剛性基板6との間隔を一定に保つスペーサとして機能させることができる。そして、生じた隙間に、導電性接着剤層8を充填して、電極4を剛性基板6の電極6aに電気的に接続するので、剛性基板6が、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛(lead zirconium titanate)などから成る圧電層2に直接接触せず、それらの間に、比較的柔らかい素子間充填剤層7や導電性接着剤層8が介在されることになるので、前記剛性基板6の割れを防止することができる。また、両者の平面性が悪い場合でも、導電性接着剤層8によって、確実に電気接続を行うことができる。
【0026】
[実施の形態2]
図4は、本発明の実施の他の形態に係る超音波振動子21の構造を示す断面図である。この超音波振動子21は、前述の超音波振動子1に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。注目すべきは、前述の超音波振動子1が、図3(f)から図1に至る剛性基板6の貼付け工程において、図3(f)で示すように、凹所7a内に導電性接着剤を充填すると、それが乾く前に剛性基板6を重ね合わせ、一方の端部側から適切な圧力で加圧してゆくことで、余剰となった導電性接着剤を押出して、個別の電極4,6aを接続しているのに対して、この超音波振動子21では、前記導電性接着剤を充填すると、それを硬化させ、図5で示すように、硬化した導電性接着剤層8の表面が前記素子間充填剤層7の表面と面一になるように、余分な導電性接着剤を研削した後、図4で示すように、異方導電性接着剤22で剛性基板6に貼付けることである。
【0027】
このようにして、余剰となった導電性接着剤を除去することで、各圧電素子5(個別電極4)間の短絡を防止し、素子の独立性を確保することができる。
【0028】
[実施の形態3]
図6は、本発明の実施のさらに他の形態に係る超音波振動子31の構造を示す断面図である。この超音波振動子31は、前述の超音波振動子1に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。注目すべきは、この超音波振動子31では、一方の電極4が共通電極となって剛性基板36に接続され、他方の電極3が個別電極となって基板39の電極39aに接続されることである。このように前記素子間充填剤層7および導電性接着剤層8による比較的柔らかい接触は、剛性基板6,36が設けられる電極に適用されればよい。
【0029】
なお、上述の説明では、素子間充填剤層7によって形成された隙間に導電性接着剤層8が充填されて、電極4と剛性基板6の電極6aや剛性基板36の電極との間の接触が得られているけれども、導電性の無い接着剤が用いられてもよく、また素子間充填剤層7の先端と剛性基板6,36とが接着され、前記隙間が空間となっていてもよい。しかしながら、これらの場合、前記電極4と剛性基板6の電極6aや剛性基板36の電極との間は、絶縁されて容量性結合となる。これに対して、前記隙間に、導電性接着剤層8を充填することで、低インピーダンスで接続を行うことができ、好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の一形態に係る超音波振動子の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る超音波振動子の構造を示す斜視図である。
【図3】図1で示す超音波振動子の作成方法を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の他の形態に係る超音波振動子の構造を示す断面図である。
【図5】図4で示す超音波振動子の作成方法を説明するための図である。
【図6】本発明の実施のさらに他の形態に係る超音波振動子の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1,21,31 超音波振動子
2 圧電層
3,4,6a,39a 電極
5 圧電素子
6,36 剛性基板
7 素子間充填剤層
7a 凹所
8 導電性接着剤層
9 FPC
11 剥離部材
12 連結部材
22 異方導電性接着剤
39 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電層の両面に電極が形成されて成る圧電素子が2次元配列されて成り、少なくとも一方の電極からの信号取出しには剛性基板を用いるようにした超音波振動子において、
各圧電素子間を分離する素子間充填剤層が前記圧電素子の表面を超えて延在されて該素子間充填剤層の先端が前記剛性基板と接触することで、前記圧電素子の表面と剛性基板とを離間させることを特徴とする超音波振動子。
【請求項2】
前記圧電素子の表面と剛性基板との間に充填される導電性接着剤層を含むことを特徴とする請求項1記載の超音波振動子。
【請求項3】
圧電層の両面に電極が形成されて成る圧電素子が2次元配列されて成り、少なくとも一方の電極からの信号取出しには剛性基板を用いるようにした超音波振動子の作成方法において、
前記圧電素子を、自己支持性を有する剥離部材に貼付ける工程と、
前記圧電素子を、格子状に、前記剥離部材まで掘込むようにダイシングし、前記2次元配列とする工程と、
前記ダイシングされた各圧電素子の先端面間を連結部材で連結する工程と、
前記ダイシングされた圧電素子間に素子間充填剤を充填し、硬化させる工程と、
前記剥離部材を剥離する工程と、
前記剥離部材を剥離することで現れ、前記圧電素子の表面を底面とし、素子間充填剤層の壁面で外囲された凹所に、導電性接着剤を充填し、前記剛性基板に貼付ける工程とを含むことを特徴とする超音波振動子の作成方法。
【請求項4】
前記導電性接着剤を充填し、剛性基板に貼付ける工程は、
前記導電性接着剤を充填して硬化させる工程と、
硬化した導電性接着剤層の表面が前記素子間充填剤層の表面と面一になるように研削する工程と、
さらに異方導電性接着剤で剛性基板に貼付ける工程とを含むことを特徴とする請求項2記載の超音波振動子の作成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−114625(P2010−114625A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285151(P2008−285151)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】