超音波探傷装置
【課題】 簡易な構造により探触子の位置座標を得ることができ、直感的に試験対象物を走査することができる超音波探傷装置を提供する。
【解決手段】 試験対象物を撮像して画像信号を出力するカメラ16と、試験対象物に超音波を発射し、試験対象物から超音波の反射波を受信し、受信した反射波に基づいて試験対象物の内部の傷の状態を表す探傷信号を出力する探触子11と、カメラから出力される画像信号の中から検出した試験対象物の位置座標を基準として、画像信号の中の探触子の位置座標を検出する座標検出手段20と、座標検出手段が検出した探触子の位置座標と、探触子が検出した探傷信号に基づいて、探傷の程度を可視化するための探傷画像信号を生成し、試験対象物の画像信号と合成して出力する合成手段20をもつ超音波探傷装置。
【解決手段】 試験対象物を撮像して画像信号を出力するカメラ16と、試験対象物に超音波を発射し、試験対象物から超音波の反射波を受信し、受信した反射波に基づいて試験対象物の内部の傷の状態を表す探傷信号を出力する探触子11と、カメラから出力される画像信号の中から検出した試験対象物の位置座標を基準として、画像信号の中の探触子の位置座標を検出する座標検出手段20と、座標検出手段が検出した探触子の位置座標と、探触子が検出した探傷信号に基づいて、探傷の程度を可視化するための探傷画像信号を生成し、試験対象物の画像信号と合成して出力する合成手段20をもつ超音波探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波探傷装置に関し、特に、撮像画像を用いて探触子の位置座標を検出する超音波探傷装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷装置は、試験対象物に超音波を発射させ、超音波の反射波(エコー)を試験対象物から受信し、受信した反射波に基づいて試験対象物の内部の傷の状態を探傷するものである。ここで、試験対象物の探傷結果をCスコープ等の表示方法で表示するためには、探触子(プローブ)の位置座標を正確に検出する必要がある。
【0003】
特許文献1においては、X軸方向、Y軸方向にそれぞれメカニカルな位置検出装置が用いられている。すなわち、試験対象物の探傷を行なうべく2軸走査治具上の探触子を移動することにより、現在の探触子のX軸方向、Y軸方向の位置座標を検出することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−023539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の従来技術では、X軸方向、Y軸方向のメカニカルな2軸位置検出装置が構造的に大がかりで高価となり、また、走査のために試験対象の位置合わせ、走査範囲の設定など、準備が煩雑となる等の問題がある。
本発明は、簡易な構造により探触子の位置座標を得ることができ、ユーザが直感的に試験対象物を探傷することのできる超音波探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための一実施形態は、
試験対象物を撮像して画像信号を出力する撮像部と、
前記試験対象物に超音波を発射し、前記試験対象物から前記超音波の反射波を受信し、受信した反射波に基づいて前記試験対象物の内部の傷の状態を表す探傷信号を出力する探触子と、
前記撮像部から出力される画像信号の中から検出した前記試験対象物の位置座標を基準として、前記画像信号の中の前記探触子の位置座標を検出する座標検出手段と、
前記座標検出手段が検出した探触子の位置座標と、前記探触子が検出した探傷信号に基づいて、探傷の程度を可視化するための探傷画像信号を生成し、前記試験対象物の画像信号と合成して出力する合成手段と、を具備することを特徴とする超音波探傷装置である。
【0007】
すなわち、試験対象物を上方から撮影するビデオカメラを設け、このビデオカメラの画像を利用して探触子のX-Y座標位置を取得し、X-Y座標位置での傷のエコーの強さや深さのデータを可視化するための探傷画像信号を試験対象物の画像信号と合成して画面表示するものである。
【発明の効果】
【0008】
装置の構造を機械的に簡素化することができ、さらに、試験対象物の画像と探傷画像との合成画像をモニタしながら直感的に探傷処理を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置の一例を示す概観図、図2は、同じく超音波探傷装置の一例を示すブロック図である。本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置10は、探傷用台25に載置された試験対象物15に超音波を発射し超音波の反射波を検出することで探傷処理を行なう探触子11と、この探触子11の上方にカメラ固定用支柱21で支持されるビデオカメラ(撮像部)16を有している。さらに、超音波探傷装置10は、探触子11に超音波を発射させ超音波のエコーを受信させるパルスドライバ・レシーバ13と、試験対象物15の画像と探傷の程度を可視化するための探傷画像とを合成する画像合成部20と、画像合成部20から出力される画像信号に応じた画像を表示する表示部26を有している。ここでは、ビデオカメラ16は、カメラ画像信号線24により画像合成部20に接続され、探触子11とパルスドライバ・レシーバ13は探触子信号線22で接続され、また、探触子11と画像合成部20とは探触開始停止スイッチ信号線23で接続されている。
【0010】
ここで、図2において、探触子11にはスイッチ11−1が設けられている。スイッチ11−1は、作業者によりオン、オフ操作されるものでもよく、または、探触子11を試験対象に接触させたときにのみオンするものでもよい。パルスドライバ・レシーバ13は、探触子11に超音波パルスを供給するパルス発生部31と、探触子11から反射波であるエコーを受信し増幅する増幅器32と、増幅器32からの出力をA/D変換するA/Dコンバータ33と、A/Dコンバータ33の出力にパルス受信処理を施すパルス受信処理部34を有している。さらに、画像合成部20は、パルス受信処理部34からパルス信号を供給される探傷データ用メモリ41と、探傷データ用メモリ41と接続されさらにビデオカメラ16が接続され、座標検出機能、画像合成機能をもつ画像処理・合成回路42と、画像処理・合成回路42に接続される画像メモリ43を有している。なお、ビデオカメラ16は、画像を連続的に取得可能であればよく、それ自体に画像記録機能を有していなくともよい。
【0011】
超音波探傷装置10において、試験対象物15には、あらかじめ対角部2点に、ビデオカメラ16で検出しやすい色・大きさの第1マーカ17、第2マーカ18を貼り付けておく。また、探触子11の上部にもビデオカメラ16で検出しやすい色・大きさの第3マーカ19を設ける。なお、試験対象物15のマーカについては、必ずしも設ける必要が無く、例えば、探傷用台25の上に座標が明らかな凸部を設けて試験対象物15の角部分に押し付けて固定することによっても、試験対象物15の座標を正確に認識することができる。この方法以外にも、探傷用台25の上に試験対象物15の座標を明確に固定できる方法があれば、それを使用することが可能である。
【0012】
(探傷処理)
次に、上記のような構成をもつ超音波探傷装置10の探傷処理について、図3のフローチャートを用いて説明する。なお、以下の図3のフローチャートの各ステップは、回路ブロックに置き換えることができ、従って、各フローチャートのステップは、全て回路ブロックに定義しなおすことが可能である。また、図4及び図5では、探傷結果の二つの表示方法(AスコープとCスコープ)について説明する。
【0013】
すなわち、画像合成部20の画像処理・合成回路42は、試験対象物15のカメラ画像を静止画として画像メモリ43に取り込み、図6に示すように、試験対象物15の画像Mを第1レイヤーAに書き込む(ステップS11)。次に、画像処理・合成回路42は、座標検出の機能をもっており、ビデオカメラ16から供給される画像信号に含まれる試験対象物15上の第1マーカ17,第2マーカ18、第3マーカ19の画像を、画像メモリ43に格納している第1マーカ17,第2マーカ18、第3マーカ19のサンプル画像と比較して一致箇所を見つけ出すことで、第1マーカ17,第2マーカ18の座標位置を検出する。画像処理・合成回路42は、この第1マーカ17,第2マーカ18を基準点として、さらに、第3マーカ19の座標位置を検出する(ステップS12)。
【0014】
画像処理・合成回路42は、第2レイヤーBを初期色(濃いグレー等)にして、図5に示すように、第1レイヤーAの試験対象物15の画像を適当な透過率の透過画像として合成処理を行ない、表示部26に表示する(ステップS13)。さらに、画像処理・合成回路42は、第2レイヤーBにカメラ画像で捕らえた探触子11の第3マーカ18の位置を、初期色(白等)で表示する(ステップS14)。
【0015】
この結果、試験前の画面として、図6に示すように第1レイヤーAの試験対象物15の画像Mと第2レイヤーBの初期色の画像が合成されて、図8の画面26−1のような画像が表示される。この画面26−1において、第1マーカ17、第2マーカ18、第3マーカ19に該当する画像が示される。
【0016】
さらに、画像処理・合成回路42は、探触子11のスイッチ11−1が押されていることを認識すると、探傷処理を開始する(ステップS15)。そして、画像処理・合成回路42は、図7に示すように、第2レイヤーBの表示ポイントを、取得した探傷距離の程度に応じた色に可視化した探傷映像を軌跡を描いて表示更新する。そして、現在の座標位置、傷エコー強さFと傷までの距離を探傷データ用メモリ41に位置座標と共に更新して記録する(ステップS16)。
【0017】
ここで、図4及び図5を用いて、取得した探傷信号が示す探傷距離に応じた色を表示する処理について説明するべく、AスコープとCスコープの関係を説明する。図4は、パルスドライバ・レシーバ13のエコーの受信波形を示し、Aスコープと呼ばれる。横軸が時間、縦軸が信号の強さを示す。パルスドライバ・レシーバ13のパルス受信処理部34は、パルス発生部31が試験対象物15に対して発射した入射パルスTに対し、中間付近にある傷による反射波(エコー)F、試験対象の底面の反射波(エコー)Dを検出する。傷までの距離Lすなわち傷の深さはT-F間の時間、傷の大きさはFの高さHで推定できる。このように、Aスコープの表示は、不慣れなユーザにとって、試験対象物15にどのような傷が存在するかを直感的に判断することは難しいものである。
【0018】
一方、Cスコープと呼ばれる表示方法では図5に示すように、傷の大きさを示す反射波Fの高さHに着目し、走査によって得られたX-Yの座標位置に応じた反射波Fの高さHを、画像の輝度データに変換して平面上に並べて表示する。これにより、試験対象物15を上からみた際の傷の位置を表示した画像が得られ、傷の位置や大きさ、形状が不慣れなユーザにとっても直観的に判別可能になる。ここで、Cスコープを得るには、正確なX-Yの平面座標データが必要であり、上述したような画像処理・合成回路42による第1マーカ17,第2マーカ18、第3マーカ19を用いた座標検出処理が必要となる。
【0019】
画像処理・合成回路42の働きにより、試験途中の画面26−2が図9に示すように表示される。探傷処理が行なわれた領域についてCスコープに対応した表示領域が軌跡を描いて示され、ここでは、4箇所の傷があることが直感的に理解できる。探傷処理が済んでいない領域は、試験対象物15をビデオカメラ16で取得した画像が描かれている第1レイヤーAに基づく初期色(濃いグレー等)で表示されている。
【0020】
次に、パルスドライバ・レシーバ13が探触子11の座標に予め設定した座標分解能以上の移動を検出すると(ステップS17)、画像合成部20は、前の座標での表示更新は最後の表示色で表示したまま更新を停止し、現在の座標位置は、探傷処理により表示を更新して表示すると共に、傷エコー強さFと傷までの距離を探傷データ用メモリ41に記録する(ステップS18)。探触子11が試験対象物15の全ての表面について探傷処理を行なった後は、画像合成部20の働きにより、図10に示すように、試験対象物15の表面の全てについて探傷の程度を可視化した探傷映像(Cスコープに対応)が描かれた表示領域となる。
【0021】
このように、本発明に係る一実施形態である超音波探傷装置においては、探触子11の側面もしくは操作しやすい場所にスイッチ11−1を設け、スイッチ11−1をオンしている間は探傷処理を行い、座標位置に応じた垂直方向の探傷データを取得していく。そして、傷の平面方向の位置を得るために、エコーの強さを輝度情報に変換し、試験対象物15の画像に逐次重ね書きしていく。スイッチ11−1がオフされると、探傷処理の重ね書きを停止することで、図9のような走査途中の画像を得ることができる。ユーザは、表示部26の画面において試験対象物15の全領域を塗りつぶしていく塗り絵の感覚で探傷処理を手動で進めていく。従って、探触子11により、始めは荒く走査し、傷の位置が特定できたら荒く走査した付近を細かく走査するといった操作が可能になる。
【0022】
(本発明の構成をもたない装置との比較)
次に、本発明の一実施形態である超音波探傷装置10と、上述したビデオカメラ16による座標検出の機能をもっていない装置との比較を以下に考察する。すなわち、一般に超音波探傷装置は、図11に示すような構造をもっている。図11に示す装置は、探触子101をX-Y方向に走査・移動させるX-Yステージ102と、探触子に超音波を発射させ超音波のエコーを受信させるパルスドライバ・レシーバ部103と、X-Y座標に応じた超音波エコーのデータを蓄積して試験対象物105の探傷状況を表示する画像表示部104から構成される。
【0023】
このように、金属や樹脂などの材料でできた部品の内部のクラックやボイドなどの傷を非破壊検査する超音波探傷器は、探触子101をX-Y方向に操作・移動させて傷の位置を検出し表示する方法が一般的である。しかし、走査のための構成、すなわち、X-Yステージ102が大がかりで高価となることや、走査のために試験対象の位置合わせ、走査範囲の設定など準備煩雑となるなどの欠点がある。
【0024】
上述した本発明の一実施形態に係る超音波探傷器10においては、このような機械的に大掛かりとなるX-Yステージがない。X-Yステージの代わりに、試験対象物の上部から撮影するビデオカメラ16を設け、このビデオカメラ16の画像を利用して探触子のX-Y座標位置を取得し、X-Y座標位置での傷のエコーの強さや深さのデータを取得して画像化し、試験対象物の画像と合成して表示している。
【0025】
なお、この実施形態では、傷による反射の大きさを色や輝度に変換して水平面の探傷結果をCスコープで表示しているが、各座標位置での傷からの反射時間(距離)の情報も取得することが可能であり、垂直方向の座標情報も加えた3D表示の探傷結果を表示することも好適である。
【0026】
本発明の実施形態によれば、上述したように、設定した全領域をリアルタイムに塗りつぶすような感覚で、探傷処理を行なった領域を広げていき、試験対象物15の全領域の探傷処理を行なうことができる。また、粗探査と詳細探査を状況に応じてすぐに使い分けができ、直感的な操作で探傷処理が可能である。その結果、検査時間の短縮に効果があり、また特に経験や深い知識を必要とせず探傷処理を進めることができる。
【0027】
また、本発明の実施形態は、超音波探傷装置の走査及び探傷結果の表示の用途以外にも、例えば、医療用超音波診断装置とカメラを組み合わせた操作方法や探触子を近磁界プローブに置き換えた、電子機器の不要輻射電磁波の強度をスキャンする装置の操作方法にも応用することができる。
【0028】
以上記載した様々な実施形態は複数同時に実施することが可能であり、これらの記載により、当業者は本発明を実現することができるが、更にこれらの実施形態の様々な変形例を思いつくことが当業者によって容易であり、発明的な能力をもたなくとも様々な実施形態へと適用することが可能である。従って、本発明は、開示された原理と新規な特徴に矛盾しない広範な範囲に及ぶものであり、上述した実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置の一例を示す概観図。
【図2】同じく超音波探傷装置の一例を示すブロック図。
【図3】同じく超音波探傷装置の探傷走査処理の一例を示すフローチャート。
【図4】同じく超音波探傷装置のAスコープの一例を示す説明図。
【図5】同じく超音波探傷装置のCスコープの一例を示す説明図。
【図6】同じく超音波探傷装置の複数のレイヤー毎の試験前の画像生成の一例を示す説明図。
【図7】同じく超音波探傷装置の複数のレイヤー毎の試験後の画像生成の一例を示す説明図。
【図8】同じく超音波探傷装置の試験前の画面表示の一例を示す説明図。
【図9】同じく超音波探傷装置の試験途中の画面表示の一例を示す説明図。
【図10】同じく超音波探傷装置の試験完了の画面表示の一例を示す説明図。
【図11】X軸Y軸の駆動機能をもった超音波探傷装置の構成の一例を示す説明図。
【符号の説明】
【0030】
10…超音波探傷装置、11…探触子、12…、13…パルスドライバ・レシーバ、14…表示部、15…試験対象物、16…ビデオカメラ、17…第1基準マーカ、18…第2基準マーカ、19…探触子、20…画像合成部、21…カメラ固定用支柱、22…探触子信号線、23…探触開始停止スイッチ信号線、24…カメラ画像信号線、25…探傷用台、26…表示部、31…パルス発生部、32…増幅器、33…A/Dコンバータ、34…パルス受信処理部、41…探傷データ用メモリ、42…画像処理・合成回路、43…画像メモリ、101…探触子、102…X−Y走査ステージ、105…試験対象物。
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波探傷装置に関し、特に、撮像画像を用いて探触子の位置座標を検出する超音波探傷装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷装置は、試験対象物に超音波を発射させ、超音波の反射波(エコー)を試験対象物から受信し、受信した反射波に基づいて試験対象物の内部の傷の状態を探傷するものである。ここで、試験対象物の探傷結果をCスコープ等の表示方法で表示するためには、探触子(プローブ)の位置座標を正確に検出する必要がある。
【0003】
特許文献1においては、X軸方向、Y軸方向にそれぞれメカニカルな位置検出装置が用いられている。すなわち、試験対象物の探傷を行なうべく2軸走査治具上の探触子を移動することにより、現在の探触子のX軸方向、Y軸方向の位置座標を検出することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−023539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の従来技術では、X軸方向、Y軸方向のメカニカルな2軸位置検出装置が構造的に大がかりで高価となり、また、走査のために試験対象の位置合わせ、走査範囲の設定など、準備が煩雑となる等の問題がある。
本発明は、簡易な構造により探触子の位置座標を得ることができ、ユーザが直感的に試験対象物を探傷することのできる超音波探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための一実施形態は、
試験対象物を撮像して画像信号を出力する撮像部と、
前記試験対象物に超音波を発射し、前記試験対象物から前記超音波の反射波を受信し、受信した反射波に基づいて前記試験対象物の内部の傷の状態を表す探傷信号を出力する探触子と、
前記撮像部から出力される画像信号の中から検出した前記試験対象物の位置座標を基準として、前記画像信号の中の前記探触子の位置座標を検出する座標検出手段と、
前記座標検出手段が検出した探触子の位置座標と、前記探触子が検出した探傷信号に基づいて、探傷の程度を可視化するための探傷画像信号を生成し、前記試験対象物の画像信号と合成して出力する合成手段と、を具備することを特徴とする超音波探傷装置である。
【0007】
すなわち、試験対象物を上方から撮影するビデオカメラを設け、このビデオカメラの画像を利用して探触子のX-Y座標位置を取得し、X-Y座標位置での傷のエコーの強さや深さのデータを可視化するための探傷画像信号を試験対象物の画像信号と合成して画面表示するものである。
【発明の効果】
【0008】
装置の構造を機械的に簡素化することができ、さらに、試験対象物の画像と探傷画像との合成画像をモニタしながら直感的に探傷処理を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置の一例を示す概観図、図2は、同じく超音波探傷装置の一例を示すブロック図である。本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置10は、探傷用台25に載置された試験対象物15に超音波を発射し超音波の反射波を検出することで探傷処理を行なう探触子11と、この探触子11の上方にカメラ固定用支柱21で支持されるビデオカメラ(撮像部)16を有している。さらに、超音波探傷装置10は、探触子11に超音波を発射させ超音波のエコーを受信させるパルスドライバ・レシーバ13と、試験対象物15の画像と探傷の程度を可視化するための探傷画像とを合成する画像合成部20と、画像合成部20から出力される画像信号に応じた画像を表示する表示部26を有している。ここでは、ビデオカメラ16は、カメラ画像信号線24により画像合成部20に接続され、探触子11とパルスドライバ・レシーバ13は探触子信号線22で接続され、また、探触子11と画像合成部20とは探触開始停止スイッチ信号線23で接続されている。
【0010】
ここで、図2において、探触子11にはスイッチ11−1が設けられている。スイッチ11−1は、作業者によりオン、オフ操作されるものでもよく、または、探触子11を試験対象に接触させたときにのみオンするものでもよい。パルスドライバ・レシーバ13は、探触子11に超音波パルスを供給するパルス発生部31と、探触子11から反射波であるエコーを受信し増幅する増幅器32と、増幅器32からの出力をA/D変換するA/Dコンバータ33と、A/Dコンバータ33の出力にパルス受信処理を施すパルス受信処理部34を有している。さらに、画像合成部20は、パルス受信処理部34からパルス信号を供給される探傷データ用メモリ41と、探傷データ用メモリ41と接続されさらにビデオカメラ16が接続され、座標検出機能、画像合成機能をもつ画像処理・合成回路42と、画像処理・合成回路42に接続される画像メモリ43を有している。なお、ビデオカメラ16は、画像を連続的に取得可能であればよく、それ自体に画像記録機能を有していなくともよい。
【0011】
超音波探傷装置10において、試験対象物15には、あらかじめ対角部2点に、ビデオカメラ16で検出しやすい色・大きさの第1マーカ17、第2マーカ18を貼り付けておく。また、探触子11の上部にもビデオカメラ16で検出しやすい色・大きさの第3マーカ19を設ける。なお、試験対象物15のマーカについては、必ずしも設ける必要が無く、例えば、探傷用台25の上に座標が明らかな凸部を設けて試験対象物15の角部分に押し付けて固定することによっても、試験対象物15の座標を正確に認識することができる。この方法以外にも、探傷用台25の上に試験対象物15の座標を明確に固定できる方法があれば、それを使用することが可能である。
【0012】
(探傷処理)
次に、上記のような構成をもつ超音波探傷装置10の探傷処理について、図3のフローチャートを用いて説明する。なお、以下の図3のフローチャートの各ステップは、回路ブロックに置き換えることができ、従って、各フローチャートのステップは、全て回路ブロックに定義しなおすことが可能である。また、図4及び図5では、探傷結果の二つの表示方法(AスコープとCスコープ)について説明する。
【0013】
すなわち、画像合成部20の画像処理・合成回路42は、試験対象物15のカメラ画像を静止画として画像メモリ43に取り込み、図6に示すように、試験対象物15の画像Mを第1レイヤーAに書き込む(ステップS11)。次に、画像処理・合成回路42は、座標検出の機能をもっており、ビデオカメラ16から供給される画像信号に含まれる試験対象物15上の第1マーカ17,第2マーカ18、第3マーカ19の画像を、画像メモリ43に格納している第1マーカ17,第2マーカ18、第3マーカ19のサンプル画像と比較して一致箇所を見つけ出すことで、第1マーカ17,第2マーカ18の座標位置を検出する。画像処理・合成回路42は、この第1マーカ17,第2マーカ18を基準点として、さらに、第3マーカ19の座標位置を検出する(ステップS12)。
【0014】
画像処理・合成回路42は、第2レイヤーBを初期色(濃いグレー等)にして、図5に示すように、第1レイヤーAの試験対象物15の画像を適当な透過率の透過画像として合成処理を行ない、表示部26に表示する(ステップS13)。さらに、画像処理・合成回路42は、第2レイヤーBにカメラ画像で捕らえた探触子11の第3マーカ18の位置を、初期色(白等)で表示する(ステップS14)。
【0015】
この結果、試験前の画面として、図6に示すように第1レイヤーAの試験対象物15の画像Mと第2レイヤーBの初期色の画像が合成されて、図8の画面26−1のような画像が表示される。この画面26−1において、第1マーカ17、第2マーカ18、第3マーカ19に該当する画像が示される。
【0016】
さらに、画像処理・合成回路42は、探触子11のスイッチ11−1が押されていることを認識すると、探傷処理を開始する(ステップS15)。そして、画像処理・合成回路42は、図7に示すように、第2レイヤーBの表示ポイントを、取得した探傷距離の程度に応じた色に可視化した探傷映像を軌跡を描いて表示更新する。そして、現在の座標位置、傷エコー強さFと傷までの距離を探傷データ用メモリ41に位置座標と共に更新して記録する(ステップS16)。
【0017】
ここで、図4及び図5を用いて、取得した探傷信号が示す探傷距離に応じた色を表示する処理について説明するべく、AスコープとCスコープの関係を説明する。図4は、パルスドライバ・レシーバ13のエコーの受信波形を示し、Aスコープと呼ばれる。横軸が時間、縦軸が信号の強さを示す。パルスドライバ・レシーバ13のパルス受信処理部34は、パルス発生部31が試験対象物15に対して発射した入射パルスTに対し、中間付近にある傷による反射波(エコー)F、試験対象の底面の反射波(エコー)Dを検出する。傷までの距離Lすなわち傷の深さはT-F間の時間、傷の大きさはFの高さHで推定できる。このように、Aスコープの表示は、不慣れなユーザにとって、試験対象物15にどのような傷が存在するかを直感的に判断することは難しいものである。
【0018】
一方、Cスコープと呼ばれる表示方法では図5に示すように、傷の大きさを示す反射波Fの高さHに着目し、走査によって得られたX-Yの座標位置に応じた反射波Fの高さHを、画像の輝度データに変換して平面上に並べて表示する。これにより、試験対象物15を上からみた際の傷の位置を表示した画像が得られ、傷の位置や大きさ、形状が不慣れなユーザにとっても直観的に判別可能になる。ここで、Cスコープを得るには、正確なX-Yの平面座標データが必要であり、上述したような画像処理・合成回路42による第1マーカ17,第2マーカ18、第3マーカ19を用いた座標検出処理が必要となる。
【0019】
画像処理・合成回路42の働きにより、試験途中の画面26−2が図9に示すように表示される。探傷処理が行なわれた領域についてCスコープに対応した表示領域が軌跡を描いて示され、ここでは、4箇所の傷があることが直感的に理解できる。探傷処理が済んでいない領域は、試験対象物15をビデオカメラ16で取得した画像が描かれている第1レイヤーAに基づく初期色(濃いグレー等)で表示されている。
【0020】
次に、パルスドライバ・レシーバ13が探触子11の座標に予め設定した座標分解能以上の移動を検出すると(ステップS17)、画像合成部20は、前の座標での表示更新は最後の表示色で表示したまま更新を停止し、現在の座標位置は、探傷処理により表示を更新して表示すると共に、傷エコー強さFと傷までの距離を探傷データ用メモリ41に記録する(ステップS18)。探触子11が試験対象物15の全ての表面について探傷処理を行なった後は、画像合成部20の働きにより、図10に示すように、試験対象物15の表面の全てについて探傷の程度を可視化した探傷映像(Cスコープに対応)が描かれた表示領域となる。
【0021】
このように、本発明に係る一実施形態である超音波探傷装置においては、探触子11の側面もしくは操作しやすい場所にスイッチ11−1を設け、スイッチ11−1をオンしている間は探傷処理を行い、座標位置に応じた垂直方向の探傷データを取得していく。そして、傷の平面方向の位置を得るために、エコーの強さを輝度情報に変換し、試験対象物15の画像に逐次重ね書きしていく。スイッチ11−1がオフされると、探傷処理の重ね書きを停止することで、図9のような走査途中の画像を得ることができる。ユーザは、表示部26の画面において試験対象物15の全領域を塗りつぶしていく塗り絵の感覚で探傷処理を手動で進めていく。従って、探触子11により、始めは荒く走査し、傷の位置が特定できたら荒く走査した付近を細かく走査するといった操作が可能になる。
【0022】
(本発明の構成をもたない装置との比較)
次に、本発明の一実施形態である超音波探傷装置10と、上述したビデオカメラ16による座標検出の機能をもっていない装置との比較を以下に考察する。すなわち、一般に超音波探傷装置は、図11に示すような構造をもっている。図11に示す装置は、探触子101をX-Y方向に走査・移動させるX-Yステージ102と、探触子に超音波を発射させ超音波のエコーを受信させるパルスドライバ・レシーバ部103と、X-Y座標に応じた超音波エコーのデータを蓄積して試験対象物105の探傷状況を表示する画像表示部104から構成される。
【0023】
このように、金属や樹脂などの材料でできた部品の内部のクラックやボイドなどの傷を非破壊検査する超音波探傷器は、探触子101をX-Y方向に操作・移動させて傷の位置を検出し表示する方法が一般的である。しかし、走査のための構成、すなわち、X-Yステージ102が大がかりで高価となることや、走査のために試験対象の位置合わせ、走査範囲の設定など準備煩雑となるなどの欠点がある。
【0024】
上述した本発明の一実施形態に係る超音波探傷器10においては、このような機械的に大掛かりとなるX-Yステージがない。X-Yステージの代わりに、試験対象物の上部から撮影するビデオカメラ16を設け、このビデオカメラ16の画像を利用して探触子のX-Y座標位置を取得し、X-Y座標位置での傷のエコーの強さや深さのデータを取得して画像化し、試験対象物の画像と合成して表示している。
【0025】
なお、この実施形態では、傷による反射の大きさを色や輝度に変換して水平面の探傷結果をCスコープで表示しているが、各座標位置での傷からの反射時間(距離)の情報も取得することが可能であり、垂直方向の座標情報も加えた3D表示の探傷結果を表示することも好適である。
【0026】
本発明の実施形態によれば、上述したように、設定した全領域をリアルタイムに塗りつぶすような感覚で、探傷処理を行なった領域を広げていき、試験対象物15の全領域の探傷処理を行なうことができる。また、粗探査と詳細探査を状況に応じてすぐに使い分けができ、直感的な操作で探傷処理が可能である。その結果、検査時間の短縮に効果があり、また特に経験や深い知識を必要とせず探傷処理を進めることができる。
【0027】
また、本発明の実施形態は、超音波探傷装置の走査及び探傷結果の表示の用途以外にも、例えば、医療用超音波診断装置とカメラを組み合わせた操作方法や探触子を近磁界プローブに置き換えた、電子機器の不要輻射電磁波の強度をスキャンする装置の操作方法にも応用することができる。
【0028】
以上記載した様々な実施形態は複数同時に実施することが可能であり、これらの記載により、当業者は本発明を実現することができるが、更にこれらの実施形態の様々な変形例を思いつくことが当業者によって容易であり、発明的な能力をもたなくとも様々な実施形態へと適用することが可能である。従って、本発明は、開示された原理と新規な特徴に矛盾しない広範な範囲に及ぶものであり、上述した実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置の一例を示す概観図。
【図2】同じく超音波探傷装置の一例を示すブロック図。
【図3】同じく超音波探傷装置の探傷走査処理の一例を示すフローチャート。
【図4】同じく超音波探傷装置のAスコープの一例を示す説明図。
【図5】同じく超音波探傷装置のCスコープの一例を示す説明図。
【図6】同じく超音波探傷装置の複数のレイヤー毎の試験前の画像生成の一例を示す説明図。
【図7】同じく超音波探傷装置の複数のレイヤー毎の試験後の画像生成の一例を示す説明図。
【図8】同じく超音波探傷装置の試験前の画面表示の一例を示す説明図。
【図9】同じく超音波探傷装置の試験途中の画面表示の一例を示す説明図。
【図10】同じく超音波探傷装置の試験完了の画面表示の一例を示す説明図。
【図11】X軸Y軸の駆動機能をもった超音波探傷装置の構成の一例を示す説明図。
【符号の説明】
【0030】
10…超音波探傷装置、11…探触子、12…、13…パルスドライバ・レシーバ、14…表示部、15…試験対象物、16…ビデオカメラ、17…第1基準マーカ、18…第2基準マーカ、19…探触子、20…画像合成部、21…カメラ固定用支柱、22…探触子信号線、23…探触開始停止スイッチ信号線、24…カメラ画像信号線、25…探傷用台、26…表示部、31…パルス発生部、32…増幅器、33…A/Dコンバータ、34…パルス受信処理部、41…探傷データ用メモリ、42…画像処理・合成回路、43…画像メモリ、101…探触子、102…X−Y走査ステージ、105…試験対象物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象物を撮像して画像信号を出力する撮像部と、
前記試験対象物に超音波を発射し、前記試験対象物から前記超音波の反射波を受信し、受信した反射波に基づいて前記試験対象物の内部の傷の状態を表す探傷信号を出力する探触子と、
前記撮像部から出力される画像信号の中から検出した前記試験対象物の位置座標を基準として、前記画像信号の中の前記探触子の位置座標を検出する座標検出手段と、
前記座標検出手段が検出した探触子の位置座標と、前記探触子が検出した探傷信号に基づいて、探傷の程度を可視化するための探傷画像信号を生成し、前記試験対象物の画像信号と合成して出力する合成手段と、を具備することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
前記合成手段は、前記位置座標と前記探傷信号とに基づいて、前記探触子が前記試験対象物の上を探傷した軌跡を可視化するための前記探傷画像信号を生成することを特徴とする請求項1記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記探触子は、スイッチを有しており、前記スイッチがオンされると、前記合成手段は、前記試験対象物に対する探傷処理を開始し、前記スイッチがオフされると、前記試験対象物に対する探傷処理を終了することを特徴とする請求項1または2記載の超音波探傷装置。
【請求項1】
試験対象物を撮像して画像信号を出力する撮像部と、
前記試験対象物に超音波を発射し、前記試験対象物から前記超音波の反射波を受信し、受信した反射波に基づいて前記試験対象物の内部の傷の状態を表す探傷信号を出力する探触子と、
前記撮像部から出力される画像信号の中から検出した前記試験対象物の位置座標を基準として、前記画像信号の中の前記探触子の位置座標を検出する座標検出手段と、
前記座標検出手段が検出した探触子の位置座標と、前記探触子が検出した探傷信号に基づいて、探傷の程度を可視化するための探傷画像信号を生成し、前記試験対象物の画像信号と合成して出力する合成手段と、を具備することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
前記合成手段は、前記位置座標と前記探傷信号とに基づいて、前記探触子が前記試験対象物の上を探傷した軌跡を可視化するための前記探傷画像信号を生成することを特徴とする請求項1記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記探触子は、スイッチを有しており、前記スイッチがオンされると、前記合成手段は、前記試験対象物に対する探傷処理を開始し、前記スイッチがオフされると、前記試験対象物に対する探傷処理を終了することを特徴とする請求項1または2記載の超音波探傷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−32434(P2010−32434A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196772(P2008−196772)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000166650)株式会社日立国際電気エンジニアリング (100)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000166650)株式会社日立国際電気エンジニアリング (100)
【Fターム(参考)】
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