説明

超音波用探触子の製造方法

【課題】超音波用探触子において超音波を送受信する超音波トランスデューサに、音響整合層や音響レンズを高い精度で形成することができる超音波用探触子の製造方法を提供する。
【解決手段】音響整合層の形状が形成されたモールドを用意する工程S2と、モールド内に少なくとも1つの超音波トランスデューサを配置する工程S3と、モールド内において、少なくとも1つの超音波トランスデューサから超音波を送信し、該超音波又は該超音波の反射波を受信することにより、モールドと少なくとも1つの超音波トランスデューサとの相対的位置を決定する工程S4と、少なくとも1つの超音波トランスデューサとの相対的位置が決定されたモールドにおいて、音響整合部材を液体の状態から硬化させる工程S5とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体について体腔外走査又は体腔内走査を行う際に用いられる超音波用探触子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野においては、被検体の内部を観察して診断を行うために、様々な撮像技術が開発されている。特に、超音波を送受信することによって被検体の内部情報を取得する超音波撮像は、リアルタイムで画像観察を行うことができる上に、X線写真やRI(radio isotope)シンチレーションカメラ等の他の医用画像技術と異なり、放射線による被曝がない。そのため、超音波撮像は、安全性の高い撮像技術として、産科領域における胎児診断の他、婦人科系、循環器系、消化器系等を含む幅広い領域において利用されている。
【0003】
超音波撮像とは、音響インピーダンスが異なる領域の境界(例えば、構造物の境界)において超音波が反射される性質を利用する画像生成技術である。通常、超音波撮像装置(又は、超音波診断装置、超音波観測装置とも呼ばれる)には、被検体に当接して用いられる超音波用探触子や、被検体の体腔内に挿入して用いられる超音波用探触子が備えられている。或いは、被検体内を光学的に観察する内視鏡と体腔内用の超音波用探触子とが組み合わせられた超音波内視鏡が備えられている場合もある。このような超音波用探触子や超音波内視鏡(以下において、超音波用探触子等という)から人体等の被検体内に向けて超音波ビームを送信し、超音波用探触子等を用いて被検体内において生じた超音波エコーを受信することにより、超音波画像情報を取得する。この超音波画像情報に基づいて、超音波エコーが生じた反射点や反射強度を求めることにより、被検体内に存在する構造物(例えば、内臓や病変組織等)の輪郭が抽出される。
【0004】
一般的な超音波用探触子においては、超音波を送受信する超音波トランスデューサとして、圧電体の向かい合う2つの面に電極が形成された振動子(圧電振動子)が用いられている。このような超音波トランスデューサ(以下において、単に、素子とも呼ぶ)は、背面側にバッキング層が配置され、超音波送信面側に音響整合層及び音響レンズが配置された状態で使用される。
バッキング層は、フェライト粉や金属粉やPZT粉入りのエポキシ樹脂や、フェライト粉入りのゴムのように、音響減衰の大きい材料によって形成されており、超音波トランスデューサにおいて発生した不要な超音波を素早く減衰させるために設けられている。
【0005】
音響整合層は、パイレックス(登録商標)ガラスや金属粉入りエポキシ樹脂等によって形成されており、振動子において発生した超音波を効率良く被検体に伝播させるために設けられている。ここで、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電セラミックの音響インピーダンスが34MRayl程度であるのに対して、被検体である生体の音響インピーダンスは1.6MRayl程度である。そのため、それらを直接接触させた場合には、境界面における反射が大きすぎるので、振動子において発生した超音波を被検体内にほとんど伝播させることができない。そこで、圧電体と被検体との間の音響インピーダンスを有する材料(音響整合層)をそれらの間に挿入して音響インピーダンスを徐々に変化させることにより、異なる媒質の境界における超音波の伝播効率を向上させている。また、通常、音響整合層の厚さは、そこを伝播する超音波の波長の1/4となるように設計されている。その理由は、非特許文献1に記載されているように、音響整合層の厚さをこのように設計すると、音響整合層における反射波と直接波との重ね合わせにより、直接波の半波長以降の波形が反射波によって抑圧されるので、直接波の波形を理想的なインパルス波形に近付けることができるからである。
【0006】
さらに、音響レンズは、例えば、シリコーン樹脂によって形成されており、振動子から発生した超音波を収束させることにより、被検体内の所望の深度に超音波ビームの焦点を形成する。
一般的な超音波用探触子の製造工程において、音響整合層や音響レンズは、研磨により所望の厚さとなるように成形された部材を、接着剤を用いて超音波トランスデューサに貼り付けることにより形成される。或いは、音響整合層や音響レンズの部材を超音波トランスデューサに貼り付けた後で、それらの部材を所望の厚さになるまで研磨する場合もある。
【0007】
ところで、体腔外用の探触子においては、通常、周波数が3.5MHz〜7.5MHz程度の超音波が用いられている。しかしながら、近年においては、より高い分解能を得るために、超音波用探触子に対して高周波化の要求が高まってきている。例えば、消化管等の体腔内用の探触子においては、25MHz程度の周波数が要求される場合がある。
【0008】
ところが、超音波用探触子を高周波化すると、超音波トランスデューサ上に形成される音響整合層を、超音波の波長に応じて薄くしなくてはならない。例えば、音響整合層における音速を2500m/sとすると、中心周波数が10MHzの超音波用探触子において、超音波の波長は約2.5×10−4m/sである。そのため、音響整合層の厚さは、波長の1/4である約62.5μmとなる。また、中心周波数が25MHzの超音波用探触子において、超音波の波長は約100μmであるので、音響整合層の厚さは、波長の1/4である約25.0μmとなる。しかしながら、音響整合部材に対する研磨工程や、音響整合部材を超音波トランスデューサに貼り付ける接着工程において、加工精度はせいぜい数μm程度である。さらに、接着精度を固定とすると(即ち、圧電体層と音響整合層との間に挿入される接着層の厚さを固定すると)、特に、高周波数に対応する素子において、接着層の厚さが素子の特性に強い影響を及ぼすことになる。例えば、25MHzに対応する素子においては、接着層の厚さが音響整合層の厚さの1割以上に及んでしまう。このような厚さの変動は、超音波用探触子から送受信される超音波の波形や、帯域性能を大きく変化させる。そのため、複数の超音波トランスデューサが配列された超音波トランスデューサアレイにおいては、素子間に性能のばらつきが生じてしまう。
【0009】
また、近年においては、広い視野角が得られるコンベックス型(凸型)の超音波用探触子が広く利用されている。通常、このような超音波用探触子は、1つの方向に湾曲した曲面上に複数の超音波トランスデューサが2次元状に配置された素子アレイを有している。ここで、湾曲している方向をアジマス方向(走査方向)とし、同じ面上でアジマス方向に直交する方向をエレベーション方向とすると、コンベックス型の素子アレイにおいては、超音波を所定の深度に収束させるために、エレベーション方向において曲率を有する音響レンズが形成される。そのため、超音波ビームの焦点を所望の深度に精度良く形成するためには、エレベーション軸に対して正確に平行に音響レンズの曲率が形成されなければならない。
【0010】
さらに、接着剤を用いる場合には、振動子と音響整合層との接合部分や音響整合層と音響レンズとの接合部分において剥がれが生じるおそれがある。また、接着剤が配置されることにより、隣接する層の界面における超音波の透過率が低下したり、接着剤のムラによって超音波の伝播効率が不均一になってしまうという問題もある。
【0011】
関連する技術として、特許文献1には、圧電体層を作製するステップと、圧電体層を金属被覆物で覆うステップと、音響インピーダンス整合層を金属被覆物に接着するステップと、音響インピーダンス整合層が被覆圧電材料層の下に配置されている状態で、モールド中に被覆圧電材料を配置するステップと、エポキシ樹脂とタングステン粒子と銀粒子とを備える混合物を、被覆された圧電材料層の上面でモールド中に注入するステップと、混合物をモールド中で脱ガス処理するステップと、混合物が乾燥して被覆圧電材料層に接着されるまで混合物をモールド中で硬化させるステップと、モールドの在中物を取り除くステップとを備える圧電トランスデューサの製造方法が開示されている。
【0012】
特許文献1において、基材は、モールド内に配置された圧電体層の上に液体の樹脂を注入し、それを硬化させることによって形成されている。しかしながら、基材と異なり、音響整合層の厚さには高い精度が要求されるので、特許文献1における基材の形成方法を音響整合層の形成にそのまま適用することはできない。
【0013】
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂のサンドイッチ成形により多層構造の成形品を得る成形方法において、(1)コア層を形成する熱可塑性樹脂を金型キャビティ内に充填する際の射出速度を300mm/sec以上とし、かつ、(2)該スキン層の熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、主金型温度をTgより低い温度で保持すると共に、かかる熱可塑性樹脂が金型のキャビティ方面及びコア表面に接触している際のキャビティ表面及びコア表面の最高温度を(Tg+1)℃〜(Tg+50)℃とする成形方法が開示されている。
【0014】
さらに、特許文献3には、プラスチック等の超音波透過性の板状体の被測定液体と接する一面と反対面に圧電フィルムを被着して超音波を発射して、板状体の一面が液体に接するか否かにより異なる大きさのエコーを検知して、液レベルを検出測定する超音波液レベル計が開示されている。
【特許文献1】特表2002−514874号公報(第3頁、図1)
【特許文献2】特開2001−88165号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平9−101191号公報(第1頁)
【非特許文献1】伊東正安、望月剛 著「超音波診断装置」、コロナ社、p.30
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、超音波用探触子において超音波を送受信する超音波トランスデューサに、音響整合層や音響レンズを高い精度で形成することができる超音波用探触子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る超音波用探触子の製造方法は、超音波を送受信する少なくとも1つの超音波トランスデューサと、該少なくとも1つの超音波トランスデューサ上に直接又は間接的に配置され、少なくとも1つの超音波トランスデューサから送信される超音波を伝播する部材とを有する超音波用探触子の製造方法において、上記部材の形状が形成されたモールドを用意し、モールド内に少なくとも1つの超音波トランスデューサを配置する工程(a)と、モールド内において、少なくとも1つの超音波トランスデューサから超音波を送信し、該超音波又は該超音波の反射波を受信することにより、モールドと少なくとも1つの超音波トランスデューサとの相対的位置を決定する工程(b)と、少なくとも1つの超音波トランスデューサとの相対的位置が決定されたモールドにおいて、部材を液体の状態から硬化させる工程(c)とを具備する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、モールドの内壁に対する超音波トランスデューサアレイの相対的位置を、超音波トランスデューサアレイによって送受信された超音波に基づいて決定するので、音響整合層や音響レンズの部材を薄く且つ精度良く形成することが可能になる。また、音響整合層等の部材を超音波トランスデューサアレイ上に直接配置するので、超音波の伝播効率を向上させることが可能になる。さらに、モールド法を用いることにより、容易且つ低コストで歩留まり良く音響整合層等を形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超音波用探触子の製造方法を示すフローチャートである。
まず、図1の工程S1において、図2に示すように、超音波トランスデューサアレイ10をバッキング層11上に配置する。
【0019】
バッキング層11は、フェライト粉や金属粉やPZT粉入りのエポキシ樹脂や、フェライト粉入りのゴムのように、音響減衰の大きい材料によって形成されている。図2に示すように、コンベックス型(凸型)の超音波トランスデューサアレイを作製する場合には、モールド法や研磨法によって、バッキング層11の素子配列面をそのような形状に成形する。そして、このバッキング層11上に、複数の超音波トランスデューサ12を所望の配列となるように配置する。さらに、複数の超音波トランスデューサ12の位置を固定すると共にそれらを保護するために、隣接する超音波トランスデューサ12の間にエポキシ樹脂等の充填材13を配置する。或いは、予め充填材13によって位置を固定されている複数の超音波トランスデューサ12を、バッキング層11上に接着剤を用いて貼り付けても良い。
【0020】
一方、図1の工程S2において、超音波トランスデューサアレイ10上に配置される音響整合層の形状が掘り込まれたモールド(図3に示すモールド21)を用意する。モールドの材料としては、テフロン(登録商標)のように、音響整合層の材料(音響整合材料)である樹脂材料やガラス等が剥がれ易いものを用いることが好ましい。また、精度の高い音響整合層を形成するために、モールドの内壁を研磨して所望の曲面にしておくことが必要である。
【0021】
次に、図1の工程S3において、図3の(a)に示すように、モールド21内に、音響整合材料22を液体の状態で流し込み、その中に、工程S1において作製された超音波トランスデューサアレイ10を配置する。
音響整合材料22としては、例えば、エポキシ樹脂や、エポキシ樹脂にアルミナ、ジルコニア、タングステン等の粉末を混入させたものが用いられる。後者を用いる場合には、それらの粉末を液体の樹脂材料に混合することによって予め調整されたものを用意しておく。
【0022】
さらに、超音波トランスデューサアレイ10に含まれている所定数の超音波トランスデューサ12に、駆動信号供給源(パルサ)23と、オシロスコープ24と、スイッチ25とを含む測定系回路を接続する。スイッチ25は、位置合わせにおいて用いられる超音波トランスデューサに対するパルサ23からの駆動信号の供給と、それらの超音波トランスデューサから出力された受信信号のオシロスコープ24への入力とを切り換える。ここで、この位置合わせにおいては、少なくとも、超音波トランスデューサアレイ10の中央部付近及び端部付近に位置する超音波トランスデューサ12a及び12bを用いることが好ましく、用いられる超音波トランスデューサ12の数を増やすほど、位置合わせの精度が向上する。図3の(a)においては、超音波トランスデューサアレイ10の端部に位置する超音波トランスデューサに接続される測定系回路のみを、代表として示している。
【0023】
次に、工程S4において、モールド21の内壁と超音波トランスデューサアレイ10の表面との間の空隙が、形成すべき音響整合層の厚さと一致するように、超音波トランスデューサアレイ10の位置合わせを行い、モールド21と超音波トランスデューサアレイ10との相対的位置を決定する。
【0024】
位置合わせは、次のように行われる。まず、パルサ23において生成された駆動信号を、各超音波トランスデューサ12a及び12bに供給することにより超音波を送信し、モールド21の内壁から反射された超音波エコーを受信する。駆動信号としては、例えば、半値幅が50nsec〜100nsec程度で、電圧値が−500V〜−100V程度の信号が用いられる。
【0025】
図3の(b)は、図3の(a)に示す超音波トランスデューサ12aによって受信される超音波エコーを表す受信信号の波形を示している。また、図3の(c)は、図3の(a)に示す超音波トランスデューサ12bによって受信される超音波エコーを表す受信信号の波形を示している。図3の(b)及び(c)において、横軸は時間を示しており、縦軸は受信信号の電圧を示している。
【0026】
図3の(b)及び(c)に示すように、駆動信号の発生タイミングと、各超音波トランスデューサが超音波エコーを受信することによって出力される受信信号の検出タイミングとの時間間隔T及びT'は、図3の(a)に示すように、超音波トランスデューサ12a及び12bから送信された超音波が、モールド21の内壁との間を往復する距離に相当する。
【0027】
そこで、オシロスコープ24を用いて時間間隔T及びT'をモニタしながら、各超音波トランスデューサ12a及び12bとモールド21の内壁との距離が所望の長さとなるように、超音波トランスデューサアレイ10の位置を調節する。例えば、厚さThが100μmの音響整合層をエポキシ樹脂によって形成したい場合に、液体のエポキシ樹脂における音速をVL=1000m/sとすると、オシロスコープ24によって観察される時間間隔T及びT'が次式(1)を満たすようにすれば良い。
T=T'=Th×2/VL …(1)
=(100×10−6)×2/1000sec
=2.00×10−7sec
=0.2μsec
【0028】
図4の(b)及び(c)に示すように、各時間間隔T及びT'が所望の値(例えば、T=T'=0.2μsec)になると、図1の工程S5において、図4の(a)に示すように、超音波トランスデューサアレイ10の表面とモールド21の内壁との間隔を維持したまま、液体の音響整合材料22を硬化させる。
【0029】
次に、工程S6において、モールド21から音響整合層14を外し、音響整合層14の不要な部分(図4に示す端部等)を除去する。それにより、図5に示すように、超音波トランスデューサアレイ10上に音響整合層14が形成された超音波用探触子が完成する。
【0030】
さらに、工程S1〜S6におけるのと同様の方法により、2層目以降の音響整合層14や、音響レンズを形成することができる。ここで、図6の(a)は、音響整合層14上に音響レンズ15が形成された超音波用探触子の断面を示しており、図6の(b)は、図6の(a)に示す一点鎖線VI-VIにおける断面を示している。音響レンズ15を形成する際には、完成した超音波用探触子において、超音波トランスデューサアレイ10から送信された超音波が所望の深度に収束するように、音響レンズ15の曲率を設計し、それに合わせてモールド(図3参照)の内壁を成形する。
【0031】
以上においては、複数の超音波トランスデューサが配置された超音波トランスデューサアレイ上に音響整合層や音響レンズを形成する場合について説明したが、1つの超音波トランスデューサの超音波送信面上に音響整合層及び音響レンズを配置する場合においても、同様の方法によりそれらを形成することができる。
【0032】
また、本実施形態においては、凸面上に複数の超音波トランスデューサが配置されているコンベックス型の超音波用探触子を製造する場合について説明したが、超音波トランスデューサ配置面がそれ以外の形状(例えば、平面状や凹面状)である場合においても、モールドの内壁の形状を変更すれば、同様の方法により超音波用探触子を製造することができる。
【0033】
次に、本実施形態に係る超音波用探触子の製造方法の変形例について説明する。
本実施形態においては、図1の工程S4において、図4の(b)及び(c)に示す時間間隔T及びT'の各々が式(1)を満たすように、超音波トランスデューサアレイ10の位置合わせを行った。しかしながら、複数の超音波トランスデューサに対して同時に駆動信号を供給し、それらの超音波エコーの受信タイミングが一致するように、即ち、図4の(b)及び(c)において、時刻t=時刻tとなるように、超音波トランスデューサアレイ10の位置合わせを行っても良い。この変形例によれば、厚さが均一な音響整合層を容易に形成することができる。
【0034】
次に本発明の第2の実施形態に係る超音波用探触子の製造方法について説明する。
ここで、高周波用の超音波用探触子を作製する場合には、音響整合層の厚さも周波数に応じて薄くなるので、図3及び図4に示すように、超音波を送信してから超音波エコーを受信するまでの時間間隔T及びT'は、非常に短くなる。そのような場合には、オシロスコープの分解能や、駆動信号による電磁誘導の影響等により、時間間隔T及びT'を測定することが困難になる。
【0035】
そこで、本実施形態においては、図1の工程S3において、モールド21内に液体の音響整合材料を配置する替わりに、図7に示すように、音速が比較的遅い液体(以下において、「低音速媒体」という)31をモールド21内に配置する。そして、工程S4において、低音速媒体中において超音波を送受信することにより、超音波トランスデューサアレイ10の位置合わせを行う。
【0036】
位置合わせが終了すると、モールド21と超音波トランスデューサアレイ10との相対的位置を維持したまま、モールド21から低音速媒体31を除去する。その際には、モールド21に開閉が可能な開口21aを予め形成しておき、この開口21aを通じて低音速媒体31を廃棄しても良いし、低音速媒体31として揮発性の高い物質を用い、低音速媒体31を蒸発させても良い。
【0037】
その後で、図8に示すように、超音波トランスデューサアレイ10の位置を維持したまま、モールド21内に液体の音響整合材料32を注入して硬化させる。さらに、硬化した音響整合材料32をモールド21から外し、端部等の不要な部分を除去することにより、図5に示す超音波用探触子が完成する。
【0038】
ここで、低音速媒体31としては、例えば、ジエチエルエーテル(音速985m/s)や、臭化エチル(音速892m/s)、及び、フッ素系不活性液体(例えば、米国のスリーエム社製のフロリナート(FLUORINERT(登録商標))FC−40、音速641m/s)等の液体が用いられる。これらの内では、特に、音速が低く、安全性が高く、揮発性が高く、作業し易いと言う点で、フロリナートを用いることが好ましい。
【0039】
或いは、低音速媒体31として、空気(音速331.45m/s)や、アルゴン(Ar、音速319m/s)や、二酸化炭素(音速268m/s)や、塩素(Cl、音速205.3m/s)等の気体を用いても良い。この場合には、音速がさらに遅くなるので、超音波を送信してから超音波エコーを受信するまでの時間間隔や、超音波エコーの受信タイミングをさらに検出し易くなる。なお、低音速媒体として空気以外の気体を用いる場合には、モールド21内に気体を充填し、密閉した状態で超音波トランスデューサアレイ10の位置合わせを行うことが必要である。
【0040】
次に、本発明の第3の実施形態に係る超音波用探触子の製造方法について説明する。
本実施形態においては、音響整合層等を形成する際に、図9に示すように、底部に複数の超音波受信素子42が配置されたモールド41が用いられる。これらの超音波受信素子42には、オシロスコープ24が接続されている。
図1の工程S4において超音波トランスデューサアレイ10の位置合わせを行う際には、複数の超音波トランスデューサ12から送信された超音波を、超音波受信素子42によって受信する。そして、その受信タイミングをオシロスコープ24によってモニタすることにより、超音波トランスデューサアレイ10の表面とモールド41の内壁との距離を測定する。
【0041】
本実施形態によれば、超音波を受信するための受信素子を別途設けることにより、超音波トランスデューサアレイ10側にオシロスコープ24やスイッチ25(図3参照)を設ける必要がなくなるので、構成が簡単になる。また、超音波トランスデューサ12においては超音波を受信しないので、パルス波だけでなく、連続波を用いて超音波トランスデューサ12を駆動することも可能になる。
【0042】
なお、本実施形態においては、超音波トランスデューサ12から超音波を送信してから、超音波受信素子42によって超音波を受信するまでの時間が短いので、第2の実施形態におけるのと同様に、モールド41内に低音速媒体を配置して位置合わせを行うことが好ましい。
【0043】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、均一、且つ、所望の厚さを有する音響整合層や、所望の曲率を有する音響レンズを容易に形成することができる。特に、非常に薄い音響整合層を高い精度で形成できるので、高周波(例えば、20MHz以上)に対応する超音波用探触子を、容易、低コストで、且つ、高い歩留まりで製造することができる。また、超音波トランスデューサアレイと音響整合層、又は、音響整合層と音響レンズとを、接着剤を用いることなく接合できるので、超音波用探触子を設計し易くなる。加えて、接着剤が不要となることにより、隣接する層の界面における音波の反射が抑制されるので、超音波用探触子の感度が向上すると共に、接着剤のムラに起因する超音波伝播効率のバラツキや接合部分の剥がれ等を抑制することが可能になる。
【0044】
また、以上説明した実施形態を、超音波トランスデューサアレイにバッキング層を接合する際に利用しても良い。即ち、バッキング層の材料(エポキシ樹脂等)を液体の状態でモールド内に配置し、そこに超音波トランスデューサアレイを配置して位置合わせをした後で、バッキング層の材料を硬化させる。この場合には、超音波トランスデューサアレイとバッキング層とを、接着剤を用いることなく接合できるので、それらの界面における超音波の反射を抑制して、超音波を効率的に減衰できると共に、接着部分が剥がれ難くなるので、超音波用探触子の耐久性を向上できるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、被検体について体腔外走査又は体腔内走査を行う際に用いられる超音波用探触子の製造方法において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波用探触子の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】バッキング層上に形成された超音波トランスデューサアレイを示す図である。の内部を示す図である。
【図3】モールド内における超音波トランスデューサアレイの位置合わせを説明するための図である。
【図4】モールド内における超音波トランスデューサアレイの位置合わせ(位置が合わせられた状態)を説明するための図である。
【図5】超音波トランスデューサアレイ及び音響整合層を含む超音波用探触子を示す断面図である。
【図6】音響整合層及び音響レンズが形成された超音波用探触子を示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る超音波用探触子の製造方法を説明するための図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る超音波用探触子の製造方法を説明するための図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る超音波用探触子の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0047】
10 超音波トランスデューサアレイ
11 バッキング層
12 超音波トランスデューサ
13 充填材
14 音響整合層
21、41 モールド
21a 開口
22、32 音響整合材料(液体)
23 駆動信号供給源(パルサ)
24 オシロスコープ
25 スイッチ
31 低音速媒体
42 超音波受信素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する少なくとも1つの超音波トランスデューサと、前記少なくとも1つの超音波トランスデューサ上に直接又は間接的に配置され、前記少なくとも1つの超音波トランスデューサから送信される超音波を伝播する部材とを有する超音波用探触子の製造方法において、
前記部材の形状が形成されたモールドを用意し、前記モールド内に前記少なくとも1つの超音波トランスデューサを配置する工程(a)と、
前記モールド内において、前記少なくとも1つの超音波トランスデューサから超音波を送信し、該超音波又は該超音波の反射波を受信することにより、前記モールドと前記少なくとも1つの超音波トランスデューサとの相対的位置を決定する工程(b)と、
前記少なくとも1つの超音波トランスデューサとの相対的位置が決定された前記モールドにおいて、前記部材を液体の状態から硬化させる工程(c)と、
を具備する超音波用探触子の製造方法。
【請求項2】
工程(a)が、前記モールド内に、前記部材の材料を液体の状態で注入し、該液体の中に前記少なくとも1つの超音波トランスデューサを配置することを含み、
工程(c)が、工程(a)において前記モールド内に注入された液体を硬化させることを含む、
請求項1記載の超音波用探触子の製造方法。
【請求項3】
工程(a)が、液体の状態である前記部材中よりも音速が遅くなる媒体を、前記モールド内に配置し、該媒体の中に前記少なくとも1つの超音波トランスデューサを配置することを含み、
工程(c)が、工程(a)において前記モールド内に配置された前記媒体を除去すると共に、前記部材の材料を液体の状態で前記モールド内に注入して硬化させることを含む、
請求項1記載の超音波用探触子の製造方法。
【請求項4】
前記媒体が、ジエチエルエーテル、臭化エチル、フッ素系不活性液体、空気、アルゴンガス、二酸化炭素ガス、又は、塩素ガスを含む、請求項3記載の超音波用探触子の製造方法。
【請求項5】
工程(b)が、前記少なくとも1つの超音波トランスデューサから超音波を送信し、該超音波が前記モールドの内壁に反射されることによって発生する超音波エコーを前記少なくとも1つの超音波トランスデューサが受信するまでの時間間隔に基づいて、前記相対的位置を決定することを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の超音波用探触子の製造方法。
【請求項6】
工程(b)が、前記少なくとも1つの超音波トランスデューサから超音波を送信し、該超音波が前記モールドの内壁に設けられた少なくとも1つの超音波受信素子において受信されるまでの時間間隔に基づいて、前記相対的位置を決定することを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の超音波用探触子の製造方法。
【請求項7】
工程(b)が、複数の超音波トランスデューサから複数の超音波を略同時に送信し、該複数の超音波が前記モールドの内壁に反射されることによって発生する超音波エコーが、前記複数の超音波トランスデューサによって略同時に受信されるように、前記相対的位置を決定することを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の超音波用探触子の製造方法。
【請求項8】
工程(b)が、複数の超音波トランスデューサから複数の超音波を略同時に送信し、該複数の超音波が前記モールドの内壁に設けられた複数の超音波受信素子において略同時に受信されるように、前記相対的位置を決定することを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の超音波用探触子の製造方法。
【請求項9】
前記部材が音響整合層である、請求項1〜8のいずれか1項記載の超音波用探触子の製造方法。
【請求項10】
前記部材が音響レンズである、請求項1〜8のいずれか1項記載の超音波用探触子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−92054(P2008−92054A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267858(P2006−267858)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】