説明

超音波金属接合機および、これを用いて得られる接合金属板

【課題】接合強度が安定した接合金属板を得ることができる超音波金属接合機および、これを用いて得られる接合金属板を提供する。
【解決手段】ホーンが超音波振動を開始すると、レーザードップラー振動計は、下側の金属板に生じる振動を検出して振動波形信号を振動解析判断装置に出力する(ステップS1)。振動解析判断装置は、この振動波形信号に基づいて、振動の振幅が所定振幅以上であるか否かを判断する(ステップS2)。この振幅が所定振幅以上の場合には(ステップS2でYES)、振動波形信号に基づいてこの振動が所定時間以上継続しているか否かを判断する(ステップS3)。振動が所定時間以上継続している場合には(ステップS3でYES)、振動停止信号を超音波金属接合機コントロール部に出力し、超音波金属接合機コントロール部はホーンの超音波振動を停止する(ステップS4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、二枚の金属板を接合するために使用される超音波金属接合機および、これを用いて得られる接合金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二枚の金属板(例えば電極端子)を接合するために、例えば、特許文献1に記載されているような超音波金属接合機が使用されている。
【0003】
この超音波金属接合機は、アンビル1及びホーン5を備えている。この超音波金属接合機を用いて二枚の金属板2、3を接合するには、まず、アンビル1に二枚の金属板2、3を上下に重ねた状態で載置する。次に、作業者は、超音波金属接合機を駆動し、超音波金属接合機の加圧装置がホーン5を下方に押圧することにより、ホーン5とアンビル1とで二枚の金属板2、3を挟持する。
【0004】
さらに、この状態で、超音波金属接合機の超音波振動子が駆動することによってホーン5が水平方向に超音波振動し、ホーン5から上側の金属板2に超音波振動が与えられて、双方の金属板2、3が左右に摺り合わせられる。これにより、双方の金属板2、3の接触面に付着している酸化膜等の不純物が除去されるとともに、双方の金属板2、3が重なっている重合部分に摩擦熱が生じる。この摩擦熱により、重合部分に急激な塑性流動が生じることにより重合部分が接合されて接合金属板が得られる。また、ホーンの超音波振動を停止する方法としては、以下の三つの方法が知られている。
(1)予め設定したホーンの駆動時間を経過した時に超音波振動を停止する。
(2)予め設定した上側の金属板の沈み込み量に達した時に超音波振動を停止する。
(3)予め設定した超音波振動のエネルギー量に達した時に超音波振動を停止する。
【特許文献1】特開平5−115986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の(1)〜(3)の方法では、超音波接合機の駆動前に、予め条件値(駆動時間、沈み込み量、エネルギー量)を設定している。このため、条件値が必要以上に大きく設定された場合には、金属板の接合が完了しても、ホーンは超音波振動していることになる。したがって、アンビルと下側の金属板とが無駄に擦られてしまい、接合金属板は下側の金属板が薄くなる等のダメージを受けるので、接合強度が安定しなかった。
【0006】
本件発明は、かかる従来の課題に鑑みてなされたものであり、接合強度が安定した接合金属板を得ることができる超音波金属接合機および、これを用いて得られる接合金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本件発明の請求項1に記載の超音波金属接合機では、ホーンの超音波振動の開始時から下側の金属板に生じる振動を検出して振動波形信号を出力する振動検出手段と、前記振動検出手段から出力された振動波形信号に基づいて前記振動の振幅及び前記振動の継続時間を測定し、前記振動の振幅が所定振幅以上であり、且つ、当該振動の継続時間が所定時間以上である場合には、前記二枚の金属板の接合が完了したと判断して、前記ホーンの超音波振動を停止するための振動停止信号を出力する振動解析判断手段と、前記振動解析判断手段から出力された前記振動停止信号に基づいて、前記ホーンの超音波振動を停止するホーン駆動制御手段とを備えていることを特徴としている。
【0008】
また、本件発明の請求項2に記載の接合金属板は、二枚の金属板を、請求項1に記載の超音波金属接合機を用いて接合することにより得られるものとしている。
【発明の効果】
【0009】
本件発明の請求項1に記載の超音波金属接合機では、下側の金属板の振動の振幅が所定振幅以上で、且つ、その振動が所定時間以上継続した場合には、二枚の金属板の接合が完了したと判断して、ホーンの超音波振動を停止するようにした。このため、アンビルと下側の金属板とが無駄に擦られてしまうことがないので、接合金属板は、下側の金属板が薄くなる等のダメージを受けてしまうことはない。よって、請求項1に記載の超音波金属接合機は、接合強度が安定した接合金属板を得ることができる。
【0010】
また、本件発明の請求項2に記載の接合金属板では、二枚の金属板を、請求項1に記載の超音波金属接合機を用いて接合することにより得られるようにした。したがって、請求項2に記載の接合金属板は、従来の接合金属板よりも安定した接合強度を得ることができるので、品質が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本件発明の実施の形態を図にしたがって説明する。
【0012】
図1は、本件発明の一実施の形態を示す超音波金属接合機1のシステム図である。この超音波金属接合機1は、二枚の金属板10、11を接合するために使用される。金属板の例としては、下側の金属板10は黄銅にスズメッキを施したもの、上側の金属板11は銅にニッケルメッキを施したものが挙げられる。
【0013】
また、この超音波金属接合機1は、アンビル2と、ホーン3と、振動検出システムと、超音波金属接合機コントロール部6と、超音波振動子および加圧装置(図示せず)とを備えている。また、前記振動検出システムは、レーザードップラー振動計4と、振動解析判断装置5とを備えている。
【0014】
レーザードップラー振動計4は、本件発明の振動検出手段を構成しており、振動計センサ部41と、振動計コントロール部42とを備えている。
【0015】
振動計センサ部41は、下側の金属板10に生じる振動を検出して検出信号を出力するものである。また、振動計コントロール部42は、振動計センサ部41から出力された検出信号に基づいて振動波形信号を出力するものである。
【0016】
振動解析判断装置5は、レーザードップラー振動計4に接続されている。この振動解析判断装置5は、本件発明の振動解析判断手段を構成しており、波形モニタ51と、振動解析判断部52とを備えている。
【0017】
波形モニタ51は、レーザードップラー振動計4の振動計コントロール部42から出力された振動波形信号を表示するものである。また、振動解析判断部52は、振動計コントロール部42から出力された振動波形信号に基づいて、振幅の大きさや、振動の継続時間を測定して各種の制御信号を出力するものである。
【0018】
超音波金属接合機コントロール部6は、振動解析判断装置5等に接続されている。この超音波金属接合機コントロール部6は、本件発明のホーン駆動制御手段を構成している。この超音波金属接合機コントロール部6は、振動解析判断装置5等から出力された信号に基づいて、ホーン3の駆動制御等、各種の制御を行うように構成されている。
【0019】
以上のように構成されている超音波金属接合機1において、次に、金属板10、11の接合方法を説明する。作業者は、アンビル2に金属板10を載せて、その上に別の金属板11を重ねて、超音波金属接合機1の開始スィッチ(図示せず)を押す。すると、超音波金属接合機1の加圧装置がホーン3を下方に押圧して、ホーン3とアンビル2が二枚の金属板10、11を挟持する。
【0020】
次に、超音波金属接合機1の超音波振動子が駆動する。これにより、図2に示すように、ホーン3が水平方向に超音波振動して、ホーン3から上側の金属板11に超音波振動が与えられる。
【0021】
最初は、ホーン3の振動と一緒に上側の金属板11が振動して、下側の金属板10は振動せずに、双方の金属板10、11が左右に摺り合わせられる。すると、双方の金属板10、11の接触面に付着している酸化膜等の不純物が除去されるとともに、双方の金属板10、11の重合部分12に摩擦熱が生じる。この摩擦熱により、重合部分12に急激な塑性流動が生じて、双方の金属板10、11が接合し始める。
【0022】
双方の金属板10、11が接合し始めると、図3に示すように下側の金属板10も振動を開始する。この振動の継続時間は、例えば2〜10mSと短い時間である。この振動が終了すると、図2に示したように、上側の金属板11のみが振動している状態に戻る。
【0023】
双方の金属板10、11は、図2の状態と図3の状態を、例えば5〜7回程度繰り返した後に、図3の状態が維持される。つまり、双方の金属板10、11の振動状態が維持される。これは、双方の金属板10、11の接合が完了していることを意味している。
【0024】
したがって、超音波金属接合機1は、ホーン3の超音波振動を停止するための制御処理を行う。その制御処理について、図4のフローチャートを用いて以下に説明する。この制御処理は、金属板10、11が接合する際に、下側の金属板10に生じる振動を利用して行うものである。
【0025】
まず、ホーン3が超音波振動を開始すると、レーザードップラー振動計4は、振動計センサ部41により、下側の金属板10に生じる振動を検出して、振動計コントロール部42により振動波形信号として振動解析判断装置5に出力する(ステップS1)。
【0026】
振動解析判断装置5は、レーザードップラー振動計4から出力された振動波形信号に基づいて、波形モニタ51により図5に示すような振動波形を表示する。また、振動解析判断部52は、前記振動波形信号に基づいて、下側の金属板10に生じる振動Aの振幅が、所定振幅W(図5参照)以上であるか否かを判断する(ステップS2)。この所定振幅Wの大きさは、予め、金属板10、11の接合実験を行うことによって決められるものであり、金属板の種類や金属板の接合の際の各種条件により異なる。
【0027】
また、振動解析判断装置5は、レーザードップラー振動計4から出力された振動波形信号に基づいて振動の継続時間(振動時間)を測定する。図6は、振動の継続時間を示す図である。振動解析判断装置5は、振動Aの振幅が所定振幅W以上であると判断した場合には(ステップS2でYES)、図5や図6に示すように振動Aが所定時間t以上継続しているか否かを判断する(ステップS3)。この所定時間tは、前記所定値と同様に、予め金属板10、11の接合実験を行うことによって決められるものであり、金属板の種類や金属板の接合の際の各種条件により異なる。
【0028】
振動解析判断装置5は、振動Aが所定時間t以上継続している場合には(ステップS3でYES)、金属板10、11の接合が完了したと判断して、ホーン3の超音波振動を停止するための振動停止信号を超音波金属接合機コントロール部6に出力する。
【0029】
超音波金属接合機コントロール部6では、振動解析判断装置5から出力された振動停止信号に基づいて超音波振動子の駆動を停止する。これにより、図5や図6に示すB時点でホーン3の超音波振動が停止して制御処理が終了する(ステップS4)。その結果、図3に示すような接合金属板13が得られる。
【0030】
このように、本実施の形態の超音波金属接合機1では、二枚の金属板10、11の接合が完了した直後にホーン3の超音波振動を停止させるようにした。このため、本実施の形態の超音波金属接合機1は、金属板10、11の接合が完了しても、従来の超音波金属接合機のようにアンビル2と下側の金属板10とが無駄に擦られてしまうことがない。
【0031】
したがって、接合金属板13は、下側の金属板10が薄くなる等のダメージを受けてしまうことはない。よって、本実施の形態の超音波金属接合機1は、接合強度が安定した接合金属板13を得ることができる。また、この接合金属板13は、従来の接合基板よりも安定した接合強度を得ることができるので、品質が向上する。
【0032】
以上、本件発明にかかる実施の形態を例示したが、この実施の形態は本件発明の内容を限定するものではない。また、本件発明の請求項の範囲を逸脱しない範囲であれば、各種の変更等は可能である。例えば、本実施の形態では、振動検出手段として、レーザードップラー振動計4を使用したが、その他の各種の振動計や振動センサ等を使用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上説明したように本件発明の超音波金属接合機では、接合強度が安定した接合金属板を得ることができる。また、本件発明の接合金属板では、本件発明の超音波金属接合機を用いたことにより品質が向上する。したがって、本件発明を、超音波金属接合機の技術分野で充分に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本件発明の一実施の形態を示す超音波金属接合機のシステム図である。
【図2】同実施の形態において超音波振動による金属板の状態を示す模式図である。
【図3】同実施の形態において超音波振動による金属板の別の状態を示す模式図である。
【図4】同実施の形態において超音波振動の停止制御処理を示すフローチャートである。
【図5】同実施の形態において下側の金属板の振動の波形を示す図である。
【図6】同実施の形態において下側の金属板の振動の継続時間を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 超音波金属接合機
2 アンビル
3 ホーン
4 レーザードップラー振動計
5 振動解析判断装置
6 超音波金属接合機コントロール部
10 下側の金属板
11 上側の金属板
13 接合金属板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンビルに二枚の金属板を重ねた状態で載置させ、前記アンビルとホーンとで前記二枚の金属板を挟持して、この状態で前記ホーンが水平方向に超音波振動して上側の金属板にこの超音波振動を与えて当該二枚の金属板同士を左右に摺り合わせて接合することにより接合金属板を得る超音波金属接合機において、
前記ホーンの超音波振動の開始時から下側の金属板に生じる振動を検出して振動波形信号を出力する振動検出手段と、
前記振動検出手段から出力された振動波形信号に基づいて前記振動の振幅及び前記振動の継続時間を測定し、前記振動の振幅が所定振幅以上であり、且つ、当該振動の継続時間が所定時間以上である場合には、前記二枚の金属板の接合が完了したと判断して、前記ホーンの超音波振動を停止するための振動停止信号を出力する振動解析判断手段と、
前記振動解析判断手段から出力された前記振動停止信号に基づいて、前記ホーンの超音波振動を停止するホーン駆動制御手段と
を備えていることを特徴とする超音波金属接合機。
【請求項2】
二枚の金属板を、請求項1に記載の超音波金属接合機を用いて接合することにより得られる接合金属板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−29873(P2010−29873A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191684(P2008−191684)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】