説明

超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法

【課題】 比較的肉厚でありながらも透明性及び機械物性に優れる超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法を提供すること。
【解決手段】 135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度が7dl/g以上である超高分子量ポリオレフィン重合体を圧延して得られる、厚みが0.3mm以上であり、且つ、厚み2mmにおける厚み方向の内部ヘイズが60%以下の超高分子量ポリオレフィン圧延シートの製造方法において、該超高分子量ポリオレフィンの融解開始温度を超え、該超高分子量ポリオレフィンの全融解熱量の25%の吸熱量を超えない温度領域で、圧延に供するシートを予熱し、次いで圧延することを特徴とする超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性及び機械物性に優れる超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法に関する。特に、工業的に生産可能な、比較的肉厚で、透明性に優れる超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレン等に代表される超高分子量ポリオレフィンの成形体は、汎用の高分子量ポリオレフィンに比べて耐衝撃性、耐磨耗性、低摩擦係数や引張強度等の機械物性及び耐薬品性に優れている。このような特長を生かして、超高分子量ポリオレフィンの成形体は、歯車、プーリー又はスプロケット等の機械部品や、ガイドレール又はホッパータンク内張り材等の各種ライニング等に使用されている。
一方、超高分子量ポリオレフィンは、汎用のポリエチレンと比較して溶融粘度が極めて高く且つ流動性が悪いので、押出成形や射出成形によって成形することが非常に難しく、成形加工が困難であるという欠点がある。そのため、超高分子量ポリエチレンの成形手法としては、一般的には、圧縮成形等が採用されており、その他の一部において、ロッド状又はパイプ状の成形品を得るために、ラム押出成形と呼ばれる極めて成形速度の低い条件で成形する手法が採用されている。
【0003】
また、超高分子量ポリエチレンの用途の1つとしてスキーソール等があり、この種の高い機械物性が要求されるシート材料用途は、超高分子量ポリエチレンが有する特長を生かすものであると考えられる。
近年、この種の用途においては、例えば、スキーソールの底部に描かれた文字や描写図等の意匠性を高める等の目的で、透明性に優れるシートが求められている。しかしながら、ポリエチレンに代表されるポリオレフィンなどの結晶性樹脂から得られる成形体は、通常、成形体自身が白色であり、透明性の乏しい白濁した状態にある。すなわち、透明性に関して十分に性能を満たすものが、未だ得られていないのが現状である。
【0004】
従来、透明性に優れるポリエチレン成形体としては、高圧法低密度ポリエチレンや線状低密度ポリエチレンを用いたフィルム、シート、パイプ等がこれまでに数多く報告され、高い透明性が達成されている。ところが、低密度ポリエチレンを用いたものは、分子量が超高分子量ポリエチレンに比べると低いので、耐磨耗性や耐衝撃性等の機械物性の点で十分な効果を期待することができない。
一方、超高分子量ポリオレフィンに圧延加工等の延伸処理を施すことによって透明性を向上させることがいくつか行われている。
例えば、特許文献1には、超高分子量ポリエチレンシートを加熱条件下でその厚さが元の厚さの50%以下になるように圧延する技術が開示されている。しかし、ここで開示されているのは、出来上がった製品の厚みが100μm程度であり、この程度の厚みのものでは工業用部材などに用いるには剛性が満足するものではない。また、透明性の尺度の一つとして開示されている全光線透過率に関しても、未圧延のものと比較してさほど良くなってはいない。
【0005】
また、特許文献2には、少なくとも極限粘度〔η〕が5.0dl/g以上の超高分子量ポリエチレンのシートを、融点以上ないし融点+15℃未満の温度でロール圧延しながら張力をかけて引取る方法が開示されている。
しかし、この方法では融点を越す加工であるため、溶融状態で圧延されたシートはその後の再結晶化により透明性が阻害されているものと思われ、出来上がった製品も厚み(360μm)が厚肉でないにもかかわらず透明性があまり良くなってはいない。
更に、特許文献3では圧延ロールが、ポリオレフィン樹脂の融点より80℃低い温度以上かつ該樹脂の融点以下の温度に設定され、かつ周速度が順次異なる互いに反対方向に回転する一対以上のロールからなり、該圧延ロールの低速ロール側に該樹脂からなるシート状物を密着させて圧延ロールの間隙で変形させ順次圧延ロールを通過させてシートを変形させ最後の高速ロールに密着させながら引出し、圧延ロールとシート幅の関係、及び圧延ロールとシート幅の関係が特定の関係を満足するような高強度・高透明シート状物の製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、この方法で例示されているのは分子量の低いポリオレフィンであり、かつ製品の厚みも薄いものであるので、透明性を上げることにさほど困難は感じられない。また、圧延ロールの周速を変えるためには複雑な構造にせざるを得なく、装置が高価になり、操作も煩雑である。
【特許文献1】特公昭55−135630号公報
【特許文献2】特公平3−73452号公報
【特許文献3】特開平7−164461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、超高分子量ポリオレフィンの成形体は、その優れた機械物性から、多岐に亘る数多くの用途が検討されていたが、めまぐるしく変わる産業界の新たな要求、市場の新たな要求に十分に応える、まったく新しい機能を有するものは得られていない。
特に、結晶性樹脂であるポリオレフィンは、透明性や収縮性といった特性が他の非晶性樹脂とは大きく挙動が異なる。従って、比較的肉厚でありながらも透明性及び機械物性に優れる超高分子量ポリオレフィン成形体を実現できれば、新たな用途が広がることが期待される。
しかしながら、超高分子量ポリオレフィン重合体は、その分子量の高さゆえに絡み合いが強いので、低分子量ポリオレフィンや高密度ポリエチレン等とは異なり、素材選定の幅や製造条件の自由度が狭く、肉厚で透明性及び機械物性の双方の機能を具備したものを実現することができなかった。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、比較的肉厚でありながらも透明性及び機械物性に優れる超高分子量ポリオレフィンシートを、煩雑な工程を必須とせず簡易に製造可能な、生産性に優れる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の条件において圧延することにより、比較的肉厚でありながらも透明性及び機械物性に格別に優れる超高分子量ポリオレフィンシートが得られること見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下(1)〜(4)を提供するものである。
(1)135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度が7dl/g以上である超高分子量ポリオレフィン重合体を圧延して得られる、厚みが0.3mm以上であり、且つ、厚み2mmにおける厚み方向の内部ヘイズが60%以下の超高分子量ポリオレフィン圧延シートの製造方法において、該超高分子量ポリオレフィンの融解開始温度を超え、該超高分子量ポリオレフィンの全融解熱量の25%の吸熱量を超えない温度領域で、圧延に供するシートを予熱し、次いで圧延することを特徴とする超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法。
(2)前記圧延加工において、該超高分子量ポリオレフィンの融解開始温度を超え、該超高分子量ポリオレフィンの全融解熱量の30%の吸熱量を超えない温度領域で圧延することを特徴とする、(1)に記載の超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法。
【0009】
(3)前記超高分子量ポリオレフィン成形体を、下記式(1)で表される圧延比(χ)で1.3倍以上に圧延して得られる、(1)または(2)に記載の超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法。
χ=t1/t2 ・・・ 式(1)
t1 :圧延前の厚み(mm)
t2 :圧延後の厚み(mm)
(4)前記超高分子量ポリオレフィン重合体は、エチレン単独重合体又はエチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合体であることを特徴とする、(1)〜(3)いずれか一項に記載の超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法は、従来に比して肉厚でありながらも透明性及び機械物性に優れるシートを提供することが出来る。該シートは、高度な機械物性が要求される各種用途において、意匠性を高めることができる。また、本発明の製造方法は、従来に比して煩雑な工程を必須とせずに簡易且つ低コストで、超高分子量ポリオレフィンシートを製造できるので、生産性に優れ経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、この実施の形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。
本実施形態において超高分子量ポリオレフィンシートは、135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度が7dl/g以上である超高分子量ポリオレフィン重合体を圧延して得られる、厚みが0.3mm以上であり、且つ、厚み2mmにおける厚み方向の内部ヘイズが60%以下の超高分子量ポリオレフィン圧延シートの製造方法において、該超高分子量ポリオレフィンの融解開始温度を超え、該超高分子量ポリオレフィンの全融解熱量の25%の吸熱量を超えない温度領域で、圧延に供するシートを予熱し、次いで圧延することにより得られる。
すなわち、本発明は、超高分子量ポリオレフィン成形体を特定の条件において予熱し、次いで圧延させることにより、透明性に優れ且つ機械物性に優れる超高分子量ポリオレフィンシートを得るものである。
【0012】
(超高分子量ポリオレフィン重合体)
超高分子量ポリオレフィン重合体の具体例としては、例えば、エチレンの単独共重合体、プロピレンの単独共重合体、又は、エチレン或いはプロピレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。ここで、炭素数3〜10のα−オレフィンの具体例としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等が挙げられる。これらの中でも、超高分子量ポリオレフィン重合体は、経済性等の観点から、エチレンの単独共重合体、又は、エチレンを主体とする上記α−オレフィンとの共重合体が好適に用いられ、とりわけ、エチレンにα−オレフィン等のようなコモノマーを分岐として導入した共重合体が好適に用いられる。
【0013】
超高分子量ポリオレフィン重合体は、従来公知の方法で製造可能であり、例えば、その原料化合物を、懸濁重合法又は気相重合法等により、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒等公知の触媒を用いて(共)重合させることによって得ることができる。
本発明において、超高分子量ポリオレフィンは、135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度が7dl/g以上のものが用いられる。極限粘度が7dl/g未満のものを用いると、耐磨耗性や耐衝撃性等の機械物性において高い性能が得られ難い傾向にある。かかる極限粘度は、10dl/g以上であることが好ましく、14dl/g以上であることがより好ましい。極限粘度の上限は、特に制限されるものではないが、好ましくは30dl/g未満である。極限粘度が30dl/g以上になると、後述する超高分子量ポリオレフィン成形体を作製する圧縮成形等の工程で、おそらくは分子鎖の絡み合いが強すぎるために、超高分子量ポリオレフィン重合体のパウダー粒子の界面が十分に溶融せず、ボイド等が発生し、白濁する等の不都合が発生すると予想される。また、後述する超高分子量ポリオレフィン成形体を圧延する工程においても、おそらくはかかる界面が十分に融着・密着しないこと等により、圧延を十分に行なうことができない等の不都合が発生することも予想される。
【0014】
本発明において、超高分子量ポリオレフィンの密度は特に制限されるものではなく、通常の密度のものが用いられる。一般に分子量が100万を超えるような超高分子量の領域では、分子鎖の相互作用が大きく、自由に動いて結晶化することが出来ないので、密度は上がらない傾向にある。通常、市販されている超高分子量ポリエチレンの密度は、分子量にもよるが、930〜940kg/mのものが多く、本発明においては、これらの物が好適に使用できる。或いは、共重合によって結晶化度を下げ、密度を920kg/m以下まで下げたものでも良い。密度の下限値は、特に制限されるものではないが、密度の低下と共に成形体の剛性等の物性が低下し得るので、910kg/m以上であることが好ましい。
【0015】
(超高分子量ポリオレフィン成形体)
本発明において、超高分子量ポリオレフィンシートを得るためには、予め圧縮成形等の公知の手段でシート状以外の形状に成形したものをシート状に切り出して圧延に供することも出来る。或いは、超高分子量ポリオレフィンを押出し成形等の手段でシート状の成形品を得、それを圧延に供することも可能である。更に、粉末状の超高分子量ポリオレフィンを加熱・加圧して焼結成形体を得、それを圧延に供することも可能である。
また、所望の超高分子量ポリオレフィン成形体を得るためには、原料パウダーの嵩密度は高いことが好ましい。かかる原料パウダーの嵩密度が低いと、原料パウダー間に気泡が多く存在するので、成形金型へ投入し圧縮する際に気泡に含まれる酸素により酸化劣化等が生じ、分子量の低下による機械物性を低下等の現象が発生し得る。また、予備成形体中に気泡が残存して空気散乱体が形成され得るので、透明性に影響を及ぼすことが予想される。従って、原料パウダーの嵩密度は、0.35g/cc以上であることが好ましく、0.40g/cc以上であることがより好ましい。
【0016】
なお、原料パウダーの嵩密度は、添加剤、例えば、ステアリン酸カルシウム等の滑剤を添加することにより増大し得ることが一般的に知られている。一方、原料パウダーに添加剤を含ませると、成形時の熱融着性が悪化したり、添加剤が成形品表面にブリードして表面が汚染されたりする等の不都合が発生し得ることが一般的に知られている。以上のことから、添加剤が存在しない状態で原料パウダーの嵩密度を高めることが好ましい。
また、通常チーグラー系触媒を用いて重合されたポリオレフィンに添加した場合、ステアリン酸カルシウムに代表される金属石鹸は、微量に存在する触媒の不活性化剤としての作用もあり、これら金属石鹸に代わって、無機物などの添加で不活性化させたものでも良い。
上記の様にして作製される超高分子量ポリオレフィン成形体の形状は、任意の形状を採用することができ、特に限定されるものではないが、成形容易性の観点からシート状のものが好ましい。
【0017】
(超高分子量ポリオレフィン圧延シート)
前記のように予め作製した特定の超高分子量ポリオレフィン成形体に、予熱されたシート状の超高分子量ポリオレフィン成形体をロール圧延により厚み0.3mm以上に圧延することで、かかる本発明の透明性及び機械物性に優れる超高分子量ポリオレフィンシートが得られる。
圧延は、一段で行うことも可能であるし、二段以上の圧延を行う多段圧延でも良い。多段で行う場合は、連続して多段の圧延を施しても良いし、一度圧延したものを巻取り、複数回同一の圧延ロールに供することも出来るし、別の圧延ロールに供して多段圧延処理しても良い。
本発明においては、圧延に供するシートを該超高分子量ポリオレフィンの融解開始温度を超え、該超高分子量ポリオレフィンの全融解熱量の25%の吸熱量を超えない温度領域に予熱し、次いで圧延することが必須である。好ましくは20%の吸熱量を超えない温度領域、更には15%の吸熱量を越えない温度領域で予熱することが好ましい。全融解熱量の25%の吸熱量を超える温度領域まで予熱すると、圧延ロールに融着して円滑な圧延を阻害したり、再結晶化の再に結晶サイズが大きくなって透明性を損なうことになり、好ましくない。
【0018】
予熱方法としては、シートを所定の温度に設定したオーブンに入れ、30分以上状態調節を行ってから、シートの温度が下がらないよう直ちに圧延する方法が挙げられる。
また、連続的にシートを加熱機内に供給し、通過させることによって加熱する方法でも良い。このときの加熱方法は、槽内を温風、または加熱ヒーター、もしくはこれらを併用して加熱することができる。シートの温度は、シートが加熱機を出てロールに入る直前の温度を赤外センサー温度計により計測することができる。
この時のシート温度の調整は、圧延速度によって加熱機内を通過する滞留時間以内に所定の温度になるよう、温風、ヒーター等の温度を調整することが必要である。
【0019】
また圧延に際しては、該超高分子量ポリオレフィンの融解開始温度を超え、該超高分子量ポリオレフィンの全融解熱量の30%の吸熱量を超えない領域の温度で圧延することが好ましく、さらに好ましくは25%の吸熱量を超えない温度領域、特に好ましくは20%の吸熱量を越えない温度領域で圧延するのが良い。
全融解熱量の30%の吸熱量を超える温度領域で圧延すると、圧延ロールに融着して円滑な圧延を阻害したり、再結晶化の再に結晶サイズが大きくなって透明性を損なう場合がある。
また、圧延温度が融解開始温度を下回ると、粘性が高すぎて圧延ロールで充分に圧延されることなく通過したり、圧延ロールに供する圧力を極めて大きくする必要があり、経済的でない。
【0020】
圧延温度を、例えば融点を基準に規定している文献も見られるが、樹脂の融解挙動は一概に融点だけに支配されるわけではない。例えばDSCの融解曲線は、分子量、分子量分布、コモノマー量、コモノマーの分布等の違いにより、融点は勿論、融点に至る融解曲線が変わる。即ち、平均分子量を同一にして、分子量分布の異なる試料で比較した時、融点はほぼ同一になるが、分子量分布の広い方が融解の開始温度が低くなり、融解開始後から融点に至る間の各温度における吸熱量は分子量分布の広い試料が大きくなる。
更に、コポリマーにした時にはコモノマーの分布によっても変わってくる。一般にチーグラー系の触媒でコポリマーを重合すると、比較的低分子量側にコモノマーの量が多く入り、高分子量側に入るコモノマー量は少なくなることもある。一方、メタロセン系触媒を用いた場合には、どの分子量領域でもほぼ均一なコモノマー量を示すこともあり、更には高分子量側に多く入る場合もある。
【0021】
この様に、同じ平均分子量でかつ同じコモノマー量の試料で比較しても、融点はほぼ同一になるが、低分子量側にコノモマーの多い試料では、融解開始温度も低くなり、そのコモノマー分布によって融解開始から融点に至るまでの各温度における吸熱量も変わるのである。
特に、本発明のように比較的肉厚で透明性を持たせようとした場合、単純にその樹脂の持つ融点だけを基準に圧延温度を決めた場合には、高度の透明性を維持することは出来ない場合がある。各々の樹脂の溶融特性に合せて温度を決める必要がある。
本発明において、全融解熱量は示差走査熱量計(DSC)によって、JIS K7121−1987に基き、毎分10℃の昇温速度で測定される。得られた融解曲線とベースラインとで囲まれた面積が全融解熱量となる。「25%の吸熱量を超えない温度領域」とは、前記融解曲線を融解開始温度からその融解熱量を積分していき、全融解熱量の25%の吸熱量を超えない範囲の温度を言う。
【0022】
本発明において、圧延に供するシートの成形工程から圧延工程に移る作業は、連続して行っても、非連続で行っても良い。
本発明において、圧延は、超高分子量ポリオレフィンが充分に動ける速度で圧延するのが良く、0.2〜20m/分で圧延するのが良い。好ましくは0.5〜10m/分、更に好ましくは0.8〜5m/分である。加圧される時間は、使用する圧延ロールの直径等により変わってくるが、20m/分を超えるとシートが加圧される時間が短すぎてすぐに弾性回復して、所望の厚みが得られないなどの問題が生ずる。圧延速度を高くするには、連続した多段で圧延を行うことも可能であるが、初期投資が大きくなり、経済的でない。また、0.2m/分以下では、工業生産としては効率が悪すぎる。
【0023】
また、予熱したシートを連続で圧延する場合には、予熱を行う加熱槽内の滞留時間は圧延速度に依存してくる為、所定の温度にシートを予熱するために必要な加熱槽の長さに設計する必要がある。
圧延時の圧延比(χ)は、下記式(1)で示され、圧延比(χ)が1.3倍未満であると、十分な透明性及び機械物性を得ることができない場合がある。本発明において、圧延比は1.3倍以上が好ましく、より好ましくは3倍以上、更に好ましくは5倍以上である。かかる圧延比(χ)の上限は、特に制限されるものではないが、成形性の観点から、好ましくは20倍以下であり、より好ましくは15倍以下、更に好ましくは10倍以下である。
χ=t1/t2 ・・・ 式(1)
t1:圧延前の厚み(mm)
t2:圧延後の厚み(mm)
【0024】
本発明においては、圧延した後に内部歪を緩和させる意味で、融点を超えない温度で熱処理を施すことも可能である。この熱処理は該シートに張力を掛けた状態で超高分量ポリオレフィンが緩和できる温度雰囲気下に曝しても良い。通常、超高分子量ポリオレフィンはその分子の巨大さ故に緩和に時間が掛かるので、ロール状に巻いたシートで、長時間熱処理することでも良い。
かくして得られる超高分子量ポリオレフィンシートは、厚み0.3mm以上と比較的肉厚であるにも拘らず、従来に比して、非常に高い透明性を有するとともに機械物性に優れるものとなる。
超高分子量ポリオレフィンシートの厚みは、0.3mm以上であり、好ましくは0.4mm以上10.0mm以下であり、さらに好ましくは0.7mm以上5.0mm以下である。厚み0.3mm未満の場合は、高い透明性が求められるフィルム用途等において有用ではあるものの、機械物性に優れることが求められる成形シート用途においては、機械強度の絶対値が不足したり、自重により形状を保持できない等、実用面で不都合が生じ得る。
【0025】
超高分子量ポリオレフィンシートの厚み2mmでの厚み方向の内部ヘイズの値は、60%以下であり、好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、特に好ましくは10%以下である。厚み方向における内部ヘイズが60%より大きい場合は、十分に高い透明性を有しているとは言えず、実用上の用途が制限され得る。一般に、厚み方向における内部ヘイズが30%以上70%未満の範囲では、若干白濁した状態にあるが、文字等を透かして見た場合にその文字等が容易に視認可能な程度に透明性を有する。また、厚み方向における内部ヘイズが20%以下になると、目視では白濁が感じられず、見た目において略透明な状態となる。
【0026】
超高分子量ポリオレフィンシートの厚み方向における内部ヘイズは、JIS−K7136に準拠して測定することができる。
なお、ヘイズは圧延成形シートの表面のキズや表面粗さにより影響を受けるので、本明細書においては、水やアルコール類等に浸漬した条件で外部ヘイズの影響を無くした内部ヘイズの測定を実施した。
ここで、2mm厚における厚み方向のヘイズの値は、2mm厚のシートを用いて測定すればよいが、2mm厚でない圧延成形シートについては、以下のように取り扱った。
経験上、シートのヘイズの値と厚みの関係は、(ヘイズ;%)=a×t(圧延成形シート厚み;mm)+bの関係式により定義可能であり、a及びbは成形体密度と関連があり、しかも、圧延成形シートの厚み2mm付近を境に、ヘイズの厚み依存性が異なることが見出されている。
【0027】
すなわち、厚み2mm以下の圧延成形シートの場合、上記ヘイズの厚み依存性の関係式における傾きaは、a=309×d(密度:g/cm)−264により求めることができる。したがって、得られたパラメータaと測定対象の圧延成形シートの既知の厚みt(mm)及びヘイズの値Ht(%)とを上記の関係式に挿入することにより、パラメータbを算出できる。このようにして完成した関係式から、t=2の場合である厚み2mmにおけるヘイズの値が外挿される。
一方、圧延成形シートの厚みが2mmを超える場合は、上記ヘイズの厚み依存性の関係式における傾きaは、a=−640×d(密度:g/cm)+600により求めることができる。したがって、上記と同様に、得られたパラメータaと測定対象の圧延成形シートの既知の厚みt(mm)及びヘイズの値Ht(%)とを上記の関係式に挿入することにより、パラメータbを算出でき、完成した関係式から、t=2の場合である厚み2mmにおけるヘイズの値が外挿される。
【0028】
上記の経験式は、超高分子量ポリオレフィン圧延成形シートの厚みによらずにヘイズを算定するために、本発明者らが鋭意検討した結果、ヘイズの値がある特定の厚みを境に挙動が異なること、さらに、ヘイズの厚み依存性を示す相関式が成形体密度に依存することを見出し、完成するに至ったものである。かかる経験式は、特定の厚みに換算した時の圧延成形シートのヘイズを決める上で、重要な指標となるパラメータとなる。
なお、2mm以下の圧延成形シートにおけるヘイズの厚み依存性の傾きaは、2mm以上の圧延成形シートにおけるヘイズの厚み依存性の傾きaよりも大きい傾向を示す。また、密度の高い圧延成形シートは、厚みが2mm以下のものであっても、ヘイズ実測において80%以上を示すものが多く、2mm以下のヘイズと厚みの関係式で2mmの厚みのヘイズを外挿すると100%を超えてしまう場合がある。この場合は、圧延成形シートの厚みが2mm以下であっても、2mm以上のヘイズの厚み依存性関係式で外挿したものがより実際に近い値となる。
【0029】
また、上記関係式は、圧延を行っていない、成形体のヘイズの値と厚みの関係にも適用できる。
なお、本発明により得られる超高分子量ポリオレフィンシートは、単層で用いても良いし、他のフィルムやシート等と積層し、或いは、コーティング材料等を塗布して用いることもできる。
本発明により得られる超高分子量ポリオレフィンシートは、その特性を生かして、例えば、スライディングテープ、スラストワッシャ−、滑りシート、ガイド、スキー、スノーボード等の裏張り及び表面被覆材;ホッパー及びシュート等のライニング材;食品材料等の輸送管・シート;防護用盾、防舷材、ロール、パイプ、鋼管等の被覆材;電気絶縁材料;農業用ハウスの農業用資材や農作用機器のプロペラ等の農機具部材;航空用窓材等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、その要旨を逸脱しない限り、これらに特に限定されるものではない。
実施例及び比較例において、測定は以下の方法で各々行った。
<極限粘度>
20mlのデカリンに粉末状の超高分子量ポリエチレン重合体サンプル(サンファインUH900、UL901)20mgを入れ、150℃、2時間攪拌してポリマーを溶解させた。その溶液を135℃の高温糟で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(t)を測定した。なお、ブランクとしてポリマーを入れていない、デカヒドロナフタレンのみの落下時間(t)を測定した。そして、以下の式にしたがい、ポリマーの比粘度(ηsp/C)をプロットし、濃度0に外挿した極限粘度(η)を求めた。
ηsp/C = (t/t−1)/0.1
【0031】
<嵩密度>
JIS K6722−1995に準拠して測定した。
【0032】
<融点>
パーキン・エルマー社製DSC(PYRIS−1)を用いて、粉末状の超高分子量ポリエチレン重合体サンプル約8mgをアルミパンに入れて封入し、50℃から180℃まで10℃/minで昇温させ、5分間状態を保った後、10℃/minの降温速度で50℃まで降温させ、再び10℃/minで180℃まで昇温させた。このときの融解に伴う吸熱ピークの温度を、融点として測定した。
【0033】
<全融解熱量>
上記DSC装置を用いて、JIS K7121−1987に準拠し、昇温速度10℃/分で測定した。融解曲線とベースラインとで囲まれた面積が全融解熱量である。
【0034】
<融解開始温度>
上記DSC測定で得られたチャートの融解曲線がベースラインから離れる温度。
【0035】
<全融解熱量の25%又は30%の吸熱量を越さない温度>
前記DSC測定で得られたチャートから、融解開始温度後、各温度毎にその融解に要する吸熱量を測定し、融解開始温度から積分していって、全融解に必要な熱量の25%又は30%に達する温度。
【0036】
<厚み>
成形体及び圧延成形シートの厚みは、ミツトヨ製マイクロメーター(395−541:BMD−25DM)を用いて測定した。なお、厚みは、小数点以下第3位まで測定し、小数点第3位を四捨五入した値とした。
【0037】
<内部ヘイズ>
内部ヘイズは、各実施例のシート及び各比較例の最終加工品(成形シート又は圧延成形シート)を試験片として用いて、JIS−K7136に準拠して測定した。ここでは、外部ヘイズの要因を無くすために、石英ガラス製ホルダーに和光純薬製特級エタノールを充填し、この中に試験片を入れて内部ヘイズを測定した。測定機器は、日本電色工業株式会社 ヘーズメーターNDH2000を用いた。また、厚み2mm換算の内部ヘイズを、既述の(ヘイズ;%)=a×t(圧延成形シート厚み;mm)+bの関係式を用いて算出した。
【0038】
<全光線透過率>
全光線透過率Tは、各実施例のシート及び各比較例の圧延成形シートを試験片として用いてJIS−K7316−1に準拠して測定した。測定機器は日本電色工業株式会社 ヘーズメーターNDH2000を用いた。
【0039】
<引張特性>
各実施例、比較例の圧延成形シートをJIS K7113に記載のJIS 2号ダンベルを用いて打ち抜いて試験片を作製した。得られたダンベル試験片を用いて、引張速度50mm/分、温度23℃の条件下において引張試験を行ない、最大応力を測定した。
【0040】
<落錘衝撃試験>
各実施例、比較例の圧延成形シートを10cm角に切り抜き、ストライカーの先端R径が10mmφ、ストライカーの重量が3.2kgのストライカーを、高さ1.9mより自由落下させた際のシートに生じる破壊エネルギーを測定した。破壊エネルギーの値は試験片の厚みに大きく依存するため、実測して得られた破壊エネルギー値を、測定に用いた試験片の厚み(mm)で除して単位厚み当たりの破壊エネルギー値として比較に用いた。
【0041】
[実施例1]
<超高分子量ポリオレフィン成形体の作製>
超高分子量ポリオレフィンとして、超高分子量ポリエチレンであるサンファインUH900(旭化成ケミカルズ株式会社製)を用いた。このものは、粉末状であり、極限粘度が15.5dg/l、嵩密度は0.48g/ccであった。
該粉末を用いてロール状の肉厚成形品を作製し、この肉厚成形品を約4mm厚にスカイブしてスカイブシートを作製した。このスカイブシートの厚みを正確に測定したところ、厚みは3.90mmであった。また、このスカイブシートの密度は944kg/mであった。また該粉末8.4mgを用いて測定したDSCの結果は、融点が137℃、融解開始温度は92℃、全融解熱量は142J/gであった。全融解熱量の25%の吸熱量を示す温度は128℃、全融解熱量の30%の吸熱量を示す温度は129℃であった。
【0042】
<超高分子量ポリオレフィン圧延成形シートの作製>
該スカイブシートを、ロール直前のシート温度が110℃になるように加熱機内部の温度を130℃から140℃の範囲で設定し、この加熱機の中をシートが通過するのに10分から15分となるよう調整した。この予熱されたシートを、ロール径300mmφ、ロール長400mmの圧延ロール機を用いて、圧延ロールのギャップを0.8mm、ロール表面の温度は110℃にして、1.0m/分の速度で圧延した。得られたシートの厚みは、1.20mmであり、厚み方向の内部ヘイズは36.3%であり、全光線透過率は82.5%であった。また、この内部ヘイズを厚み2mmに換算した値は58.5%であった。
また、引張特性により得られた最大応力は118MPa、落水衝撃試験の結果から得られた破壊エネルギーは13.0J/mmであった。
【0043】
[実施例2]
スカイブシートの予熱温度を125℃、圧延温度を125℃にした以外は、実施例1と同様に行った。得られたシートの厚みは、0.96mmであり、厚み方向の内部ヘイズは24.9%であり、全光線透過率は89.5%であった。この内部ヘイズを厚み2mmに換算した値は53.7%であった。
また、引張特性により得られた最大応力は124MPa、落水衝撃試験の結果から得られた破壊エネルギーは16.3J/mmであった。
【0044】
[実施例3]
<超高分子量ポリオレフィン成形体の作製>
超高分子量ポリオレフィンとして、超高分子量ポリエチレンはエチレンとブテン−1との共重合体であるサンファインUL901(旭化成ケミカルズ株式会社製)を用いた。このものは、粉末状であり、極限粘度が16.9dg/l、嵩密度は0.44g/ccであった。
該粉末を用いてロール状の肉厚成形品を作製し、この肉厚成形品を約4mm厚にスカイブしてスカイブシートを作製した。このスカイブシートの厚みを正確に測定したところ、厚みは3.90mmであった。また、このスカイブシートの密度は924kg/mであった。また該粉末8.4mgを用いて測定したDSCの結果は、融点が129℃、融解開始温度は77℃、全融解熱量は115J/gであった。全融解熱量の25%の吸熱量を示す温度は119℃、全融解熱量の30%の吸熱量を示す温度は121℃であった。
【0045】
<超高分子量ポリオレフィン圧延成形シートの作製>
該スカイブシートを、ロール直前のシート温度が80℃になるように加熱機内部の温度を80℃から90℃の範囲で設定し、この加熱機の中をシートが通過するのに10分から15分となるよう調整した。この予熱されたシートを、ロール径300mmφ、ロール長400mmの圧延ロール機を用いて、圧延ロールのギャップを1.0mm、ロール表面の温度は80℃にして、1.0m/分の速度で圧延した。得られたシートの厚みは、2.18mmであり、厚み方向の内部ヘイズは20.7%であり、全光線透過率は83.3%であった。この内部ヘイズを厚み2mmに換算した値は16.8%であった。
また、引張特性により得られた最大応力は65MPa、落水衝撃試験の結果から得られた破壊エネルギーは10.6J/mmであった。
【0046】
[実施例4]
スカイブシートの圧延温度を115℃にした以外は、実施例3と同様に行った。得られたシートの厚みは、1.28mmであり、厚み方向の内部ヘイズは5.7%あり、全光線透過率は93.5%であった。この内部ヘイズを厚み2mmに換算した値は21.2%であった。
また、引張特性により得られた最大応力は82MPa、落水衝撃試験の結果から得られた破壊エネルギーは13.0J/mmであった。
【0047】
[実施例5]
圧延速度を0.3m/分にした以外は、実施例4と同様に行った。得られたシートの厚みは、1.32mmであり、厚み方向の内部ヘイズは5.6%であり、全光線透過率は94.1%であった。この内部ヘイズを厚み2mmに換算した値は20.2%であった。
また、引張特性により得られた最大応力は81MPa、落水衝撃試験の結果から得られた破壊エネルギーは13.4J/mmであった。
【0048】
[実施例6]
スカイブシートの予熱温度を115℃にした以外は、実施例4と同様に行った。得られたシートの厚みは、1.21mmであり、厚み方向の内部ヘイズは4.7%であり、全光線透過率は95.3%であった。この内部ヘイズを厚み2mmに換算した値は21.7%であった。
また、引張特性により得られた最大応力は85MPa、落水衝撃試験の結果から得られた破壊エネルギーは14.6J/mmであった。
【0049】
[実施例7]
圧延速度を2.0m/分にした以外は、実施例6と同様に行った。得られたシートの厚みは、1.22mmであり、厚み方向の内部ヘイズは7.6%であり、全光線透過率は93.1%であった。この内部ヘイズを厚み2mmに換算した値は24.4%であった。
また、引張特性により得られた最大応力は88MPa、落水衝撃試験の結果から得られた破壊エネルギーは15.6J/mmであった。
【0050】
[比較例1]
3.90mm厚みのスカイブシートを、予熱温度を80℃、圧延温度を80℃にした以外は、実施例1と同様に行ったところ、剛性が高すぎてロールで圧延することが出来なかった。そこで、スカイブシートの厚みを2mmとし、シートの予熱温度を80℃、圧延温度を80℃にした以外は、実施例1と同様に行った。得られたシートの厚みは、1.28mmであった。厚み方向の内部ヘイズは53.9%であり、全光線透過率は68.7%であった。この内部ヘイズを厚み2mmに換算した値は73.8%であった。
また、引張特性により得られた最大応力は51MPa、落水衝撃試験の結果から得られた破壊エネルギーは10.9J/mmであった。
【0051】
[比較例2]
スカイブシートの予熱温度を125℃、圧延温度を125℃にした以外は、実施例3と同様に行った。シートは圧延ロールに融着し、圧延できなかった。
【0052】
[比較例3]
スカイブシートの予熱温度を125℃にした以外は、実施例3と同様に行った。シートは圧延ロールに融着し、圧延できなかった。
【0053】
[比較例4]
圧延をしない場合のシート物性を比較する為に、実施例1より得られたスカイブシートの厚みを1mmにスカイブし、ヘイズ、引張り特性、落水衝撃試験を実施した。スカイブして得られたシートの厚みは0.93mmであった。厚み方向の内部へイズは93.9%であり、全光線透過率は45%であった。この内部へイズを2mmに換算した値はほぼ100%となった。
また、引張特性により得られた最大応力は50MPa、落水衝撃試験の結果から得られた破壊エネルギーは13.9J/mmであった。
【0054】
[比較例5]
圧延をしない場合のシート物性を比較する為に、実施例3より得られたスカイブシートの厚みを1mmにスカイブし、ヘイズ、引張り特性、落水衝撃試験を実施した。スカイブして得られたシートの厚みは0.92mmであった。厚み方向の内部へイズは66.1%であり、全光線透過率は69.6%であった。この内部へイズを2mmに換算した値は89.3%となった。
また、引張特性により得られた最大応力は39MPa、落水衝撃試験の結果から得られた破壊エネルギーは8.6J/mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法は、透明であり、且つ耐摩耗性に優れた製品を提供できる。その製品は、これらの特性を生かし、従来存在しなかった新たな機能性材料として各種用途に利用することができ、例えば、スライディングテープ、スラストワッシャ−、滑りシート、ガイド、スキー、スノーボード等の裏張り及び表面被覆材;ホッパー及びシュート等のライニング材;食品材料等の輸送管・シート;防護用盾、防舷材、ロール、パイプ、鋼管等の被覆材;電気絶縁材料;農業用ハウスの農業用資材や農作用機器のプロペラ等の農機具部材;航空用窓材等の分野において好適な材料として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度が7dl/g以上である超高分子量ポリオレフィン重合体を圧延して得られる、厚みが0.3mm以上であり、且つ、厚み2mmにおける厚み方向の内部ヘイズが60%以下の超高分子量ポリオレフィン圧延シートの製造方法において、該超高分子量ポリオレフィンの融解開始温度を超え、該超高分子量ポリオレフィンの全融解熱量の25%の吸熱量を超えない温度領域で、圧延に供するシートを予熱し、次いで圧延することを特徴とする超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法。
【請求項2】
前記圧延加工において、該超高分子量ポリオレフィンの融解開始温度を超え、該超高分子量ポリオレフィンの全融解熱量の30%の吸熱量を超えない温度領域で圧延することを特徴とする、請求項1に記載の超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法。
【請求項3】
前記超高分子量ポリオレフィン成形体を、下記式(1)で表される圧延比(χ)で1.3倍以上に圧延して得られる、請求項1または2に記載の超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法。
χ=t1/t2 ・・・ 式(1)
t1 :圧延前の厚み(mm)
t2 :圧延後の厚み(mm)
【請求項4】
前記超高分子量ポリオレフィン重合体は、エチレン単独重合体又はエチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合体であることを特徴とする、請求項1から3いずれか一項に記載の超高分子量ポリオレフィンシートの製造方法。


【公開番号】特開2009−154394(P2009−154394A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335142(P2007−335142)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】