説明

車両における車体前部構造

【課題】車両の走行時に、車体の左右側部部材と、これら両側部部材に架設されるフロントカウルとを順次介し車室形成部品であるダッシュパネルに振動が容易には伝達されないようにして、車室にロードノイズが発生しないようにする。
【解決手段】車両における車体前部構造は、車体2の幅方向に延びて車体2の左右側部部材4に架設され、車体2の側面視での断面がU字形状とされるフロントカウル10と、車室12の前面を形成し、フロントカウル10に結合されるダッシュパネル11とを備える。フロントカウル10の長手方向での端部におけるフロントカウル10の前面板29に、車体2の前後方向に貫通する開口45が形成される。開口45の下部開口縁部から前面板29の下端までのほぼ全体にわたり上下方向に延びるビード47が上記前面板29に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行時に、前車輪側から車体の左右側部部材と、これら両側部部材に架設されるフロントカウルとを順次介し車室形成部品であるダッシュパネルに振動が容易には伝達されないようにするための車両における車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両における車体前部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車体前部構造は、懸架装置により左右前車輪を支持するサスペンションタワーを有した車体の左右側部部材と、車体の幅方向に延びて上記左右側部部材に架設され、車体の側面視での断面がU字形状とされるフロントカウルと、車室の下部前面を形成し、上縁部が上記フロントカウルに結合されるダッシュパネルとを備えている。
【0003】
また、上記従来の技術において、上記フロントカウルの長手方向の端部に車体の前後方向に貫通する切り欠き等の開口を形成し、この開口を、ワイパー装置のワイパモータなどを配置するための配置空間としたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭62−177577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の走行時には、通常、前車輪側から車体の左右側部部材と、これら両側部部材に架設されるフロントカウルとを順次介し上記ダッシュパネルに振動が伝達される。
【0006】
この場合、前記したように、フロントカウルの長手方向の端部には開口が形成されていて、このフロントカウルの端部の強度や剛性である強度等は低下傾向となる。このため、上記側部部材からフロントカウルの端部に振動が伝達されるとき、このフロントカウルの端部は大きく振動しがちとなり、これに伴いこのフロントカウルの長手方向の中途部も大きく振動しがちとなる。すると、このフロントカウルに結合され、全体形状が平坦で面積が大きい上記ダッシュパネルは、上記フロントカウルに連動して振動しがちとなり、この結果、車室内にロードノイズといわれるこもり騒音が発生するおそれが生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両の走行時、車体の左右側部部材と、これら両側部部材に架設されるフロントカウルとを順次介し車室形成部品であるダッシュパネルに振動が容易には伝達されないようにして、車室にロードノイズが発生しないようにすることである。
【0008】
請求項1の発明は、車体2の幅方向に延びてこの車体2の左右側部部材4に架設され、車体2の側面視での断面がU字形状とされるフロントカウル10と、車室12の前面を形成し、上記フロントカウル10に結合されるダッシュパネル11とを備え、上記フロントカウル10の長手方向での端部におけるこのフロントカウル10の前面板29に、車体2の前後方向に貫通する開口45を形成した車両における車体前部構造において、
上記開口45の下部開口縁部から上記前面板29の下端までのほぼ全体にわたり上下方向に延びるビード47を上記前面板29に形成したことを特徴とする車両における車体前部構造である。
【0009】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0010】
本発明による効果は、次の如くである。
【0011】
請求項1の発明は、車体の幅方向に延びてこの車体の左右側部部材に架設され、車体の側面視での断面がU字形状とされるフロントカウルと、車室の前面を形成し、上記フロントカウルに結合されるダッシュパネルとを備え、上記フロントカウルの長手方向での端部におけるこのフロントカウルの前面板に、車体の前後方向に貫通する開口を形成した車両における車体前部構造において、
上記開口の下部開口縁部から上記前面板の下端までのほぼ全体にわたり上下方向に延びるビードを上記前面板に形成している。
【0012】
このため、上記フロントカウルは、上記ビードを弾性的な屈曲点として屈曲し易くなる。よって、車両の走行時に、車体の各側部部材から上記フロントカウルに振動が伝達されるとき、上記ビードよりも側部部材側の上記フロントカウルの端部は上記側部部材に連動して振動するが、上記ビードを境界とした上記フロントカウルの長手方向の中途部に上記振動が伝達されることは、上記ビードの積極的な屈曲の繰り返しにより防止される。つまり、上記開口と、この開口の下部開口縁部から下方に延びたビードとは、上記フロントカウルをその長手方向に伝達しようとする振動の断点として機能する。
【0013】
この結果、上記フロントカウルの長手方向の中途部に対し車体の幅方向のほとんどが結合され、全体形状が平坦で面積が大きいダッシュパネルが、上記フロントカウルの中途部を介し上記側部部材側に連動して振動することは防止され、このため、車室内でのロードノイズの発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】車体前部の部分正面図である。
【図2】車体前部の部分斜視図である。
【図3】図1のIII−III線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の車両における車体前部構造に関し、車両の走行時に、車体の左右側部部材と、これら両側部部材に架設されるフロントカウルとを順次介し車室形成部品であるダッシュパネルに振動が容易には伝達されないようにして、車室にロードノイズが発生しないようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0016】
即ち、車両における車体前部構造は、車体の幅方向に延びてこの車体の左右側部部材に架設され、車体の側面視での断面がU字形状とされるフロントカウルと、車室の前面を形成し、上記フロントカウルに結合されるダッシュパネルとを備える。上記フロントカウルの長手方向での端部におけるこのフロントカウルの前面板に、車体の前後方向に貫通する開口が形成される。上記開口の下部開口縁部から上記前面板の下端までのほぼ全体にわたり上下方向に延びるビードが上記前面板に形成される。
【実施例】
【0017】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0018】
図において、符号1は自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、上記前方に向かっての車両1の車体2の幅方向をいうものとする。
【0019】
上記車体2は板金製で、この車体2前部は、この車体2の前後方向に延びる左右サイドメンバ3と、これら各サイドメンバ3から上方に向かって延設される側部部材4とを備えている。この側部部材4は、上記サイドメンバ3の長手方向の中途部側から上方に向かって延出し、その延出端でルーフを支持するセンタピラー7と、このセンタピラー7の長手方向の中途部から前方に向かって突出するエプロンメンバ8と、上記サイドメンバ3とエプロンメンバ8とに架設され、不図示の前車輪を懸架装置を介し懸架させるサスペンションタワー9とを備えている。
【0020】
また、上記車体2は、その幅方向に延び、上記左右側部部材4に架設されるフロントカウル10と、上記幅方向に延び、かつ、このフロントカウル10の下部から下方に向かって延出するダッシュパネル11とを備えている。この場合、上記フロントカウル10の長手方向の各端部は上記側部部材4のセンタピラー7、エプロンメンバ8、およびサスペンションタワー9のそれぞれに跨って結合されている。また、上記ダッシュパネル11の上縁部は、車体2の幅方向のほぼ全体にわたり上記フロントカウル10に結合され、かつ、上記ダッシュパネル11の各側縁部は上記サイドメンバ3の長手方向の中途部と上記サスペンションタワー9の後縁部とに結合されている。上記フロントカウル10とダッシュパネル11とは、車体2内の車室12の下部前面を形成し、それぞれ車室形成部品とされている。
【0021】
上記フロントカウル10側から後上方に向かって延びるフロントウィンドガラス14が設けられ、このフロントウィンドガラス14は、上記車室12の上部前面を形成して車室形成部品とされている。このフロントウィンドガラス14の前下縁部15は上記フロントカウル10に接着材16により接着されて結合され、上記フロントウィンドガラス14の側縁部は上記センタピラー7の上部に接着結合されて支持されている。
【0022】
上記フロントカウル10とダッシュパネル11との前方空間がエンジンルーム18とされている。このエンジンルーム18の上端開口をその上方から開閉可能に閉じるフード19が設けられている。また、上記フロントカウル10とフード19の後縁部との間に樹脂製のカウルルーバ20が設けられ、このカウルルーバ20は不図示の固着具により上記フロントカウル10に固着されている。また、上記カウルルーバ20の前縁部に取り付けられ、この前縁部と上記フード19の後縁部との間をシールするシール体23が設けられている。
【0023】
上記フロントカウル10は、その下部を構成するフロントカウル本体であるインナカウル26と、上記フロントカウル10の上部を構成し、上記インナカウル26の上部に両持ち支持される板形状の補強材であるアウタカウル27とを備えている。
【0024】
より具体的には、上記インナカウル26は、車体2の側面視(図3)で、断面がU字形状とされ、前後方向で互いに離れて対面する前、後面板29,30と、これら前、後面板29,30の各下縁部同士を一体的に結合する底板31と、上記前、後面板29,30の各上縁部にそれぞれ一体的に形成される前、後外向きフランジ32,33とを備えている。上記フロントカウル10の長手方向の端部における上記インナカウル26の底板31と、上記サスペンションタワー9の上面板およびダッシュパネル11の上縁部とは互いにスポット溶接S1により結合されている。
【0025】
上記アウタカウル27は、車体2の側面視(図3)で、断面が倒立U字形状とされ、前後方向で互いに離れて対面する前、後面板36,37と、これら前、後面板36,37の各上縁部同士を一体的に結合する天井板38と、上記後面板37の下縁部に一体的に形成される後外向きフランジ40とを備えている。上記インナカウル26の前外向きフランジ32に上記アウタカウル27の後面板37の上部がスポット溶接S2により結合され、また、上記インナカウル26の後外向きフランジ33に上記アウタカウル27の後外向きフランジ40がスポット溶接S3により結合されている。上記アウタカウル27の前面板36は前下方に延び、この前面板36の上面に前記フロントウィンドガラス14の前下縁部15が接着材16により面接着により結合されている。
【0026】
上記フロントカウル10の長手方向での端部におけるインナカウル26の前面板29に、車体2の前後方向に貫通する開口45が形成されている。この開口45は、車体2の正面視(図1)で、U字形状の切り欠きとされている。この開口45の下部開口縁部の幅方向における中途部から上記前面板29の下端までのほぼ全体にわたり延びるビード47が上記前面板29に形成されている。
【0027】
上記ビード47は、上記前面板29の一般部から前方に向かって膨出する形状とされ、上下方向に直線的かつ連続的に延びている。また、上記ビード47の各部断面は台形状とされている。
【0028】
上記フロントウィンドガラス14の外面に付着する水滴を払拭可能とするワイパー装置53が設けられている。このワイパー装置53は、上記インナカウル26に支持される左右一対の回動軸54,54と、これら各回動軸54に固着されると共にブレードを支持するワイパアーム55と、上記開口45内に配置されてこのインナカウル26に支持され、不図示のワイパリンクと上記回動軸54とを介しワイパアーム55を往復回動させるワイパモータ57とを備えている。
【0029】
上記構成によれば、開口45の下部開口縁部から上記前面板29の下端までのほぼ全体にわたり上下方向に延びるビード47を上記前面板29に形成している。
【0030】
このため、上記フロントカウル10は、上記ビード47を弾性的な屈曲点として、特に前後に屈曲し易くなる。よって、車両1の走行時に、車体2の各側部部材4から上記フロントカウル10に振動が伝達されるとき、上記ビード47よりも側部部材4側の上記フロントカウル10の端部は上記側部部材4に連動して振動するが、上記ビード47を境界とした上記フロントカウル10の長手方向の中途部に上記振動(特に前後振動)が伝達されることは、上記ビード47の積極的な屈曲の繰り返しにより防止される。つまり、上記開口45と、この開口45の下部開口縁部から下方に延びたビード47とは、上記フロントカウル10をその長手方向に伝達しようとする振動の断点として機能する。
【0031】
この結果、上記フロントカウル10の長手方向の中途部に対し車体2の幅方向のほとんどが結合され、車体2の幅方向かつ上下方向に延びて全体形状が平坦で面積が大きいダッシュパネル11やフロントウィンドガラス14が、上記フロントカウル10の中途部を介し上記側部部材4側に連動して振動すること、特に、剛性の低い前後方向に振動することが効果的に防止され、このため、車室12内でのロードノイズの発生が効果的に防止される。
【0032】
なお、以上は図示の例によるが、上記フロントカウル10のアウタカウル27は、上記インナカウル26の後上部である後外向きフランジ33から前方に向かって突出し、この後外向きフランジ33に片持ち支持されるものであってもよい。
【0033】
また、上記開口45は、上記前面板29を前後に貫通する矩形や円形の貫通穴であってもよい。また、上記ビード47は、開口45の下部開口縁部の幅方向における中央部に位置させることが好ましく、また、ビード47は複数本設けてもよい。また、上記ビード47は、上記前面板29の一般部から後方に向かって膨出する形状であってもよく、各部断面は半円形状や三角形状であってもよい。
【0034】
また、上記開口45内には、ワイパーハーネス用グロメットを設定してもよい。また、上記開口45は、上記エンジンルーム18内に設定されるリザーバタンクとの接触を避けるために形成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 車両
2 車体
4 側部部材
10 フロントカウル
11 ダッシュパネル
12 車室
14 フロントウィンドガラス
15 前下縁部
26 インナカウル
27 アウタカウル
29 前面板
30 後面板
31 底板
36 前面板
37 後面板
38 天井板
45 開口
47 ビード
53 ワイパー装置
57 ワイパモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の幅方向に延びてこの車体の左右側部部材に架設され、車体の側面視での断面がU字形状とされるフロントカウルと、車室の前面を形成し、上記フロントカウルに結合されるダッシュパネルとを備え、上記フロントカウルの長手方向での端部におけるこのフロントカウルの前面板に、車体の前後方向に貫通する開口を形成した車両における車体前部構造において、
上記開口の下部開口縁部から上記前面板の下端までのほぼ全体にわたり上下方向に延びるビードを上記前面板に形成したことを特徴とする車両における車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−228718(P2010−228718A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81473(P2009−81473)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】