説明

車両のバッテリ装置

【課題】車両衝突時のマニュアルカットスイッチへの直接的な衝撃入力による破損を未然に防止でき、スイッチ操作によりバッテリ電力を確実に遮断できる車両のバッテリ装置を提供する。
【解決手段】バッテリマウント5上にバッテリボックス6を載置・固定して左側方を側面カバー11で覆い、バッテリボックス6の左側面に車室外カットスイッチ12を設けて側面カバー11の操作窓11aを介した押圧操作によりバッテリ電力を遮断可能とする。バッテリマウント5を左方に突出させることでクラッシャブルゾーンCZ1と非クラッシャブルゾーンCZ2とを形成し、車室外カットスイッチ12の操作ボタン12aをクラッシャブルゾーンCZ1内に僅かに進入させると共に、操作窓11aの周囲を車室外カットスイッチ12の先端とオーバーラップさせて、側突時に側面カバー11により操作ボタン12aを押圧操作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のバッテリ装置に係り、詳しくは車両衝突時などに車外よりバッテリ電力を遮断する機能を備えたバッテリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば走行用動力源としてモータを備えた電気自動車、或いはエンジン及びモータを備えたハイブリッド電気自動車では、モータへの電力供給用に多数のバッテリユニットを収容したバッテリボックスを搭載している。車両走行に要求される高出力を達成すべくバッテリボックスの電圧は例えば200V程度の高電圧に設定されているため、車両衝突などによりバッテリボックス自体或いはその電気系統が破損すると、破損に伴うショートなどで電気系統に二次的な損害が発生して、修理費用が高騰する要因になり得る。
以上の不具合に着目した対策として、車両衝突時などにバッテリ電力を遮断する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該特許文献1に開示された技術では、車両衝突時にバッテリ電力を手動及び自動で遮断可能としている。即ち、運転席や車両外部にマニュアルカットスイッチを設けると共に、衝突検知センサに連動して作動する自動カットスイッチを設け、何れのスイッチが作動したときでもバッテリ電力を遮断するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−94101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されたマニュアルカットスイッチと自動カットスイッチは互いに補完関係にある。車両衝突時において、例えば運転者の負傷などで運転席に設けられたマニュアルカットスイッチが操作されなかったときでも、衝突検知センサの検出に基づき自動カットスイッチが作動してバッテリ電力が遮断される。また、運転席全体が破損してマニュアルカットスイッチが操作不能となり、且つセンサ不良などで自動カットスイッチが正常に作動しなかったときでも、車両外部に設けられたマニュアルカットスイッチが操作されることによりバッテリ電力が遮断される。
車両外部のマニュアルカットスイッチは、主に事故処理にあたる救急隊員による操作を想定して設けられ、救急隊員は車種毎のマニュアルカットスイッチの設置位置が事前に知らされ、事故現場への到着直後にマニュアルカットスイッチを操作することで安全確保を図っている。
【0005】
このように車両外部に設けられたマニュアルカットスイッチは、車両衝突時のバッテリ電力の遮断をより確実なものとするための重要且つ最終的な手段である。しかしながら、このマニュアルカットスイッチは車両外部の救急隊員が容易に発見及び操作可能な位置に配設されているため、必然的に車両衝突時の衝撃を直接受け易い。例えば車両側部にマニュアルカットスイッチが設けられている場合、当該スイッチは側方より視認及び操作可能なように配設されるため、車両の側突時に衝撃を直接受けてしまう。上記特許文献1の技術では、このような車両衝突時のマニュアルカットスイッチへの衝撃入力について何ら配慮されていないため、マニュアルカットスイッチの破損により操作不能となり、バッテリ電力を遮断できない事態に陥ってしまうという問題があった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両衝突時のマニュアルカットスイッチへの衝撃入力による破損を未然に防止でき、スイッチ操作によりバッテリ電力を確実に遮断することができる車両のバッテリ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、走行用モータに電力供給するバッテリユニットを収容し、車両のシャシフレームの車外側に支持されたバッテリボックスと、バッテリボックスの車外側に配設されてバッテリボックスの少なくとも一側面を覆うカバー部材と、カバー部材とバッテリボックスとの間に形成されて、車両衝突時に破損しながら衝撃を吸収するクラッシャブルゾーンと、カバー部材とバッテリボックスとの間の上記クラッシャブルゾーンよりも車内側に形成されて、車両衝突時に破損を免れる非クラッシャブルゾーンと、非クラッシャブルゾーン内に配設されてバッテリユニットの電力を遮断操作可能なカットスイッチとを備えたものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、バッテリユニットが、車両のシャシフレームの車外側に固定された支持構造体に支持され、支持構造体の少なくとも一部がバッテリボックスよりも車外側に突出形成され、突出形成部分が車両衝突時の衝撃に対抗することで非クラッシャブルゾーンが形成されているものである。
請求項3の発明は、請求項1または2において、カットスイッチが、押圧操作によりバッテリ電力を遮断するように構成されると共に、押圧操作時の先端位置がクラッシャブルゾーンの車内側と略一致しており、カバー部材が、カットスイッチを押圧操作するための操作窓が貫設され、操作窓の周囲の少なくとも一部が車外側から見てカットスイッチの先端とオーバーラップしているものである。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように請求項1の発明の車両のバッテリ装置によれば、バッテリボックスの車外側にカバー部材を配設して、カバー部材とバッテリボックスとの間の車外側にクラッシャブルゾーンを、車内側に非クラッシャブルゾーンを形成し、非クラッシャブルゾーン内にバッテリユニットの電力を遮断操作可能なカットスイッチを配設している。
従って、車両衝突時の衝撃が側面カバーを含むクラッシャブルゾーンを破損させることで緩和されるため、非クラッシャブルゾーン内に配設されたカットスイッチの破損が防止される。このため、車両衝突後にスイッチ操作によりバッテリ電力を確実に遮断することができる。
【0009】
請求項2の発明の車両のバッテリ装置によれば、請求項1に加えて、バッテリユニットを支持する支持構造体の少なくとも一部をバッテリボックスよりも車外側に突出形成し、突出形成部分を車両衝突時の衝撃に対抗させることで非クラッシャブルゾーンを形成するようにした。このようにバッテリユニットを支持する支持構造体を車外側に突出させるだけで、非クラッシャブルゾーンを適切な領域として形成することができる。
請求項3の発明の車両のバッテリ装置によれば、請求項1または2に加えて、カットスイッチの押圧操作によりバッテリ電力を遮断可能とする共に、押圧操作時の先端位置をクラッシャブルゾーンの車内側と略一致させ、カバー部材に形成した操作窓の周囲がカットスイッチの先端とオーバーラップするようにした。
従って、車両衝突に伴って変形したカバー部材によりカットスイッチが押圧操作されることから、カットスイッチに対する手動操作を待つことなく、側突事故が発生した時点で速やかにバッテリ電力を遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のバッテリ装置が搭載されたトラックを左側方より見た正面図である。
【図2】同じくバッテリ装置を左側方より見た部分拡大図である。
【図3】同じくバッテリ装置を後方より見た図2のIII−III線断面図である。
【図4】側面カバーの操作窓及び車室外カットスイッチの操作ボタンを左側方より見た正面図である。
【図5】操作ボタンの回転操作時を示す斜視図である。
【図6】他車の側突を受けたときのバッテリ装置の変形状態を示す図3に対応する断面図である。
【図7】側面カバーの操作窓を円形状とした別例を示す図4に対応する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をハイブリッド型トラックのバッテリ装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本発明のバッテリ装置が搭載されたトラックを左側方より見た正面図、図2は同じくバッテリ装置を左側方より見た部分拡大図、図3は同じくバッテリ装置を後方より見た図2のIII−III線断面図である。
トラックのシャシフレーム1は、車両の前後方向に延設された左右一対のサイドメンバ2(左側のみ図示)、及びこれらのサイドメンバ2を前後方向の複数箇所で相互に連結する図示しない複数のクロスメンバからなる所謂ラダーフレームとして構成されている。
【0012】
本実施形態のトラックは走行用動力源としてエンジン及びモータを備えたパラレル方式のハイブリッド電気自動車である。当該ハイブリッド電気自動車の構成は周知のため詳細は説明しないが、エンジン及びモータの運転制御が図示しないコントローラにより行なわれる。例えば、運転者によるアクセル開度や車両の走行状態、エンジン及びモータの運転状態、後述するモータへの電力供給用バッテリのSOC(充電率:State Of Charge)などに基づき、エンジン側とモータ側との目標駆動力がそれぞれ算出される。これらの目標駆動力に基づき燃料噴射制御によりエンジンが運転されると共に、インバータの駆動制御によりモータが運転される。これによりエンジンのみによるエンジン走行、モータのみによるモータ走行、エンジン及びモータを併用したエンジン・モータ走行を適宜切り換えながら車両の走行が行われる。
モータを運転するための電気系統はバッテリ装置3として集約され、本実施形態では、車両の左側部に相当する左サイドメンバ2の外側面にバッテリ装置3が配設されている。全体としてバッテリ装置3は、左サイドメンバ2に対して固定された取付ブラケット4、取付ブラケット4の下部に連続して設けられたバッテリマウント5(支持構造体)、バッテリマウント5上に載置・固定されてバッテリユニットを収容するバッテリボックス6、及びインバータなどの電気系統から構成されている。
【0013】
図3に示すように、取付ブラケット4は左サイドメンバ2の外側面に密着して配設され、外側面に対して複数のボルト7及びナット8により固定されている。取付ブラケット4は左サイドメンバ2の外側面から下方に延設され、その下端にはバッテリマウント5が直角に連続するように左側方に向けて延設されている。このため、左サイドメンバ2の下面に対してバッテリマウント5の上面は寸法Lhだけ下方に位置している。なお、図3では取付ブラケット4及びバッテリマウント5の形状を把握し易いように、両部材4,5を太線で囲んで示している。
図示はしないが、取付ブラケット4及びバッテリマウント5は多数の枠材をプレス成型して製作され、格子状をなす一つの強固な構造体として機能するようになっている。このような構成により取付ブラケット4及びバッテリマウント5は十分な強度を有し、他車の側突により左側方から受けた衝撃に対しても大きく変形することなく十分に耐え得る。
【0014】
バッテリマウント5内には第1収容空間S1が形成され、図示はしないが第1収容空間S1内には他車に側突されたときに最優先で破損を防止すべき機器、具体的には、インバータなどの電気系統のように破損時にショートを発生する可能性がある機器が収容されている。例えばバッテリマウント5の下面にアンダーカバー10が配設されるなど、バッテリマウント5は適宜カバーなどにより保護され、内部の電気系統などへの水や泥の付着が防止されている。
図2に示すように、バッテリマウント5の上面は車両前側が高く後側が低くなるように段差5aが形成され、前側の高い面を上段載置面5b、後側の低い面を下段載置面5cとしている。バッテリマウント5上には上記バッテリボックス6が配設され、バッテリボックス6の下面はバッテリマウント5の下面と対応するように段差状に形成されている。これによりバッテリボックス6はバッテリマウント5上に安定して載置されると共に、その右側面を取付ブラケット4に対して密着させ、これらのバッテリマウント5及び取付ブラケット4に対して図示しないボルトで固定されている。
図3に示すように、前後方向の全ての領域においてバッテリマウント5の左側面はバッテリボックス6の左側面よりも寸法Lwだけ左側方に向けて突出している。換言すれば、左側方から見ると、バッテリボックス6の左側面はバッテリマウント5の左側面よりも寸法Lwだけ奥まった位置にある。
【0015】
バッテリマウント5及びバッテリボックス6の左側方には側面カバー11(カバー部材)が配設され、図示はしないが、側面カバー11はバッテリマウント5やバッテリボックス6に対してボルトで支持されている。側面カバー11によりバッテリマウント5及びバッテリボックス6の左側面が覆われ、側面カバー11の下端は上記アンダーカバー10の左端と連続して水や泥の付着を防止している。側面カバー11の右側面(内側面)とバッテリボックス6の左側面と間には第2収容空間S2が形成され、図示はしないが第2収容空間S2内には、上記第1収容空間S1内に収容した機器に比較して車両側突時の破損防止の優先順位が低い機器、例えばバッテリ冷却用の冷却液が循環するラジエータなどの機器が収容されている。
ところで、車両衝突などによりバッテリボックス6自体或いはその電気系統が破損すると、ショートによる二次的な損害が発生する場合がある。そこで、本実施形態のトラックには衝突時などにバッテリ電力を遮断する機能が備えられている。
車両衝突時などのバッテリ電力の遮断は、運転席に設けられた車室内カットスイッチ(図示なし)、車両外部に設けられた車室外カットスイッチ12、衝突時に自動的に作動する自動カットスイッチ(図示なし)の何れかにより実行される。車室内カットスイッチ及び車室外カットスイッチ12は共に手動操作によりバッテリ電力を遮断するカットスイッチであり、設置位置が相違するだけで機能は共通する。自動カットスイッチは車両の前突や側突を検出する衝突検知センサが接続され、衝突検知センサによる衝突検出に基づき自動的に作動してバッテリ電力を遮断する。
【0016】
例えば車両衝突時において運転者の負傷などで運転席に設けられた車室内カットスイッチが操作されなかったときでも、衝突検知センサの検出に基づき自動カットスイッチが作動してバッテリ電力が遮断される。また、運転席全体が破損して車室内カットスイッチが操作不能となり、且つセンサ不良などで自動カットスイッチが正常に作動しなかったときでも、車室外カットスイッチ12が操作されることによりバッテリ電力が遮断される。
[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、車室外カットスイッチ12は主に事故処理にあたる救急隊員による手動操作を想定しているため、救急隊員が容易に発見及び操作可能な位置に配設する必要がある。必然的に車室外カットスイッチ12は車両衝突時の衝撃を直接受け易くなり、破損により操作不能となる可能性がある。このような不具合を鑑みて、本実施形態のバッテリ装置3では車室外カットスイッチ12の破損防止の対策を講じており、以下、その詳細を説明する。
本実施形態の車室外カットスイッチ12は車両の左側部、即ちバッテリ装置3の第2収容空間S2内に配設されている。車室外カットスイッチ12は左右方向に延びる円筒状をなし、その基端(右端)がバッテリボックス6の左側面に固定されている。車室外カットスイッチ12の左右長さは上記寸法Lwよりも短く、このため車室外カットスイッチ12の先端(左端)は側面カバー11の右側面から離間している。
【0017】
車室外カットスイッチ12の先端には操作ボタン12aが設けられ、通常時の操作ボタン12aは左側方に突出した突出位置に保持されている。操作ボタン12aは左側方からの押圧操作により突出位置から没入位置に切り換えられて固定され、それに伴ってバッテリ電力が遮断される。また、この没入位置において操作ボタン12aが回転操作されると左方に突出して突出位置に戻り、それに伴ってバッテリ電力が復帰する。
車室外カットスイッチ12はバッテリマウント5の段差5aの近接位置に配設されている。詳しくは車室外カットスイッチ12は、バッテリマウント5の段差5aよりも若干後方且つバッテリマウント5の上段載置面5bよりも若干下方に配設されている。従って、車室外カットスイッチ12の前側及び下側の近接位置で、バッテリマウント5が左側方に向けて突出していることになる。
【0018】
図4は側面カバー11の操作窓11a及び車室外カットスイッチ12の操作ボタン12aを左側方より見た正面図、図5は操作ボタン12aの回転操作時を示す斜視図である。
図3,4に示すように、側面カバー11には車室外カットスイッチ12と対応する箇所に操作窓11aが貫設されている。操作窓11aは車両前後方向に延びる長孔状に形成され、その前部及び後部は半円状をなしている。操作窓11aの前部は車室外カットスイッチ12の操作ボタン12aに対して同心円で対応し、半円状をなす前部の直径d(操作窓11aの上下幅でもある)は操作ボタン12aの直径Dよりも若干小さく設定されている。このため左側方より見たときに操作窓11aを介して操作ボタン12aの先端を視認して押圧操作可能であると共に、操作窓11aの前部周囲の略半円状をなす領域が操作ボタン12aの先端とオーバーラップしている。図示はしないが、側面カバー11の外側面には車室外カットスイッチ12の存在を示す表示がなされ、救急隊員などが発見し易いように配慮されている。
【0019】
車室外カットスイッチ12の操作ボタン12aに対する操作は、操作窓11aを介して行われる。上記のように操作窓11aは車室外カットスイッチ12の位置から後方に延設されているため、操作窓11aから親指や人差し指を挿入して操作ボタン12aを押圧操作できるだけでなく、図5に示すように、操作窓11aを介して親指と人差し指で操作ボタン12aを把持して回転操作することも可能である。
また、車室外カットスイッチ12の操作ボタン12aの基端には、図5中にハッチングで示すように環状の表示部12bが設けられている。表示部12bは操作ボタン12aの突出位置では車室外カットスイッチ12の外周に露出しており、操作ボタン12aの没入位置への切換に伴って操作ボタン12aにより隠蔽される。操作窓11aが車室外カットスイッチ12の位置から後方に向けて延設されているため、図中に矢印で示す斜め後方から操作窓11aを覗き込むことにより、表示部12bの露出・隠蔽、ひいては操作ボタン12aの切換状態を判別し得るようになっている。
【0020】
このような表示部12bは車室外カットスイッチ12へのいたずら防止を目的とした対策である。車両衝突が発生していない通常時に第三者がいたずらで車室外カットスイッチ12を押圧操作すると、バッテリ電力の遮断により車両は走行不能に陥る。その事態は運転席での表示により把握できるが、車両外部でも表示部12bを視認することで把握でき、必要に応じて操作ボタン12aの回転操作によりバッテリ電力を復帰させることができる。
ところで、上記のように車室外カットスイッチ12は車両の左側部に配設されていることから、他車に左方から衝突された側突時に破損する可能性がある。主に車両の美観や防水・防塵などを目的とした側面カバー11の強度は低いため、左方からの側突では側面カバー11が比較的容易に変形して第2収容空間S2を右側方に向けて狭め、それに伴って車室外カットスイッチ12が破損する可能性が高まる。しかしながら、本実施形態では、強固な構造体であるバッテリマウント5の左側面により車両側突に伴う車室外カットスイッチ12の破損が防止されると共に、この側突時の側面カバー11の変形を利用して車室外カットスイッチ12が自動的に押圧操作される。
【0021】
図6は側突時のバッテリ装置3の変形状態を示す図3に対応する断面図である。同図では他車(実際はサイドクラッシュテストの衝突モデル)の前部を仮想線で示しており、側面カバー11及びバッテリマウント5に対して他車が左側方より衝突している。側面カバー11が比較的容易に変形するのに対し、強固なバッテリマウント5は大きく変形することなく左側方からの衝撃に対抗し、それ以上に他車が第2収容空間S2内に進入することを制限する。このため、他車の前部はバッテリマウント5の左側面よりも若干右方位置で進入を規制され、この規制位置は側突状態(他車の衝突速度や衝突位置など)が多少相違していてもほとんど変化しない。
即ち、他車の側突により破損しながら衝撃を吸収する領域であるクラッシャブルゾーンCZ1、及び破損を免れる領域である非クラッシャブルゾーンCZ2は、バッテリマウント5の左側面の左右位置に大きく依存する。具体的には図3に示すように、バッテリマウント5の左側面よりも若干右方位置を境界として、左方(車外側)をクラッシャブルゾーンCZ1と見なし、左方(車内側)を非クラッシャブルゾーンCZ2と見なすことができる。特に、バッテリマウント5が車室外カットスイッチ12の前側及び下側の近接位置で左側方に向けて突出していることから、車室外カットスイッチ12の周辺では、クラッシャブルゾーンCZ1と非クラッシャブルゾーンCZ2とが一層明確に区画されている。
【0022】
車室外カットスイッチ12は全体として非クラッシャブルゾーンCZ2内に配設され、操作ボタン12aの突出位置では、その先端部分のみがクラッシャブルゾーンCZ1内に僅かに進入するように位置設定されている。この設定により、操作ボタン12aが押圧操作されて没入位置に切り換えられると、その先端がクラッシャブルゾーンCZ1の右端(非クラッシャブルゾーンCZ2の左端でもある)と左右方向で略一致するようになっている。
そして、他車の側突を受けたときの側面カバー11は、第2収容空間S2を狭めながらクラッシャブルゾーンCZ1の右端まで変形する。側面カバー11の操作窓11aの前部周囲が車室外カットスイッチ12の操作ボタン12aの先端とオーバーラップし、且つ操作ボタン12aの先端部分がクラッシャブルゾーンCZ1内に進入しているため、変形に伴って側面カバー11は突出位置の操作ボタン12aの先端に当接して右方に向けて押圧操作する。側突による衝撃は側面カバー11を変形させクラッシャブルゾーンCZ1内の機器を破損させることで緩和されるため、多くの側突では側面カバー11による操作ボタン12aの押圧操作が緩やかに行われる。クラッシャブルゾーンCZ1の右端位置で側面カバー11は変形を終えて操作ボタン12aに対する押圧操作を中止し、この時点で操作ボタン12aが没入位置に切り換えられてバッテリ電力が遮断される。
【0023】
以上のように本実施形態のハイブリッド型トラックのバッテリ装置3では、構造体であるバッテリマウント5上にバッテリボックス6を載置・固定して左側方を側面カバー11で覆い、バッテリボックス6の左側面に車室外カットスイッチ12を設けて側面カバー11の操作窓11aを介した押圧操作によりバッテリ電力を遮断可能とした。そして、バッテリマウント5を左方に突出させることで第2収容空間S2内をクラッシャブルゾーンCZ1と非クラッシャブルゾーンCZ2とに区画し、車室外カットスイッチ12の操作ボタン12aの先端部分をクラッシャブルゾーンCZ1内に僅かに進入させるように位置設定すると共に、側面カバー11の操作窓11aの周囲が車室外カットスイッチ12の操作ボタン12aとオーバーラップするようにした。
従って、左方からの側突時であっても車室外カットスイッチ12への直接的な衝撃入力による破損を未然に防止でき、しかも、側突に伴って変形した側面カバー11により操作ボタン12aを押圧操作して、車室外カットスイッチ12を自動的に作動させることができる。このため事故現場への救急隊員の到着を待つことなく、側突事故が発生した時点で速やかにバッテリ電力を遮断でき、ショートによる二次的な破損を確実に防止することができる。
【0024】
特に、本実施形態では、バッテリマウント5の上面及びバッテリボックス6の下面を互いに対応する段差状に形成し、その段差5aの近接位置に車室外カットスイッチ12を配設している。このため、車室外カットスイッチ12の周辺でクラッシャブルゾーンCZ1と非クラッシャブルゾーンCZ2とを一層明確に区画でき、もって車室外カットスイッチ12の破損防止及び操作ボタン12aの自動的な押圧操作をより確実に得ることができる。
なお、側突時には第2収容空間S2内のモータ冷却用のラジエータなどの機器、特にクラッシャブルゾーンCZ1内に配設された機器が破損することになるが、これらの機器は電気系統とは直接的に関係ないため、ショートによる二次的な破損の要因にはならない。
【0025】
一方、上記したように他車の側突状態が多少相違してもクラッシャブルゾーンCZ1と非クラッシャブルゾーンCZ2との区画はほとんど変化しない。このため、多くの側突では側面カバー11により車室外カットスイッチ12が押圧操作されるが、想定外の側突状態では側面カバー11の変形に過不足が生じて当該作用が得られない場合もある。
しかし、衝撃が不足して側面カバー11により操作ボタン12aが押圧操作されない場合であっても、非クラッシャブルゾーンCZ2に位置する車室外カットスイッチ12は破損を脱がれて正常な機能を維持している。このため、変形した側面カバー11の操作窓11aを介して救急隊員が操作ボタン12aを手動で押圧操作可能であり、自動的な押圧操作時に比較すればタイミング的に若干遅れるものの確実にバッテリ電力を遮断することができる。
【0026】
逆に衝撃が過剰で車室外カットスイッチ12が破損したとき、多くの場合には第2収容空間S2内の機器のみならず、バッテリボックス6や第1収容空間S1内のインバータなどの電気系統も破損するためショートの虞がなくなる。よって、このときにはバッテリ電力を遮断する必要がなく、車室外カットスイッチ12が破損しても問題は発生しない。なお、車室外カットスイッチ12の破損にも拘わらず、バッテリボックス6や第1収容空間S1内の電気系統が破損を免れる場合もあるが、このような衝撃が大のときのスイッチ破損は止むを得ないと見なせる。
また、元々バッテリマウント5は、バッテリボックス6の載置・固定、及び内部への機器の収容のために強固な構造体として製作された既存の部材である。そして、本実施形態では、バッテリマウント5の左側面をバッテリボックス6よりも左方に突出させるだけで、第2収容空間S2内に非クラッシャブルゾーンCZ2を適切な領域、具体的には車室外カットスイッチ12の破損防止及び操作ボタン12aの自動的な押圧操作を実現可能な適切な領域として形成できる。よって、バッテリ装置3の全体的な構成を大幅に変更することなく実施できるという利点もある。
【0027】
ところで、本実施形態では取付ブラケット4及びバッテリマウント5の強度と左サイドメンバ2の強度との関係を言及しなかったが、取付ブラケット4及びバッテリマウント5の強度は任意に設定でき、当然ながら左サイドメンバ2の強度よりも高く設定することもできる。この場合には、車室外カットスイッチ12の破損をより確実に防止できるという特有の作用効果が得られ、以下に説明する。
図3に基づいて述べたように、バッテリマウント5は左サイドメンバ2から取付ブラケット4を介して吊下されて寸法Lhだけ下方に位置している。他車の側突による衝撃の大半は構造体であるバッテリマウント5に入力され、このとき左サイドメンバ2は、左側方からの衝撃と共に図6に矢印で示す反時計回りのモーメントを受ける。衝撃が過剰な場合、バッテリマウント5及び取付ブラケット4が大きく変形する以前に、より強度が低い左サイドメンバ2が右方への変形を伴って反時計回りに捩れ始める。
【0028】
バッテリマウント5の下方には路面との間に十分なスペースが存在するため、バッテリマウント5は仮想線で示すように図6の矢印方向、即ち他車の側突から逃げる方向に位置変位する。よって、それ以上の側面カバー11の変形が抑制され、第2収容空間S2内の車室外カットスイッチ12の破損が未然に防止される。結果として非クラッシャブルゾーンCZ2に大きく進入する衝撃、換言すれば操作ボタン12aの押圧操作に必要な以上の過剰な衝撃を受けた場合であっても、車室外カットスイッチ12の破損を未然に防止できるという特有の作用効果を実現することができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、パラレル方式のハイブリッド型トラックのバッテリ装置3に具体化したが、走行用動力源に電力供給するための高電圧のバッテリ装置3を装備する車両であれば、これに限定されるものではない。例えば走行用動力源としてモータを備えた電気自動車に具体化してもよいし、トラック以外のバスや乗用車に具体化してもよい。また、バッテリ装置3の搭載位置も上記実施形態に限ることはなく、車両の構造に応じて任意に変更可能であり、例えば車両の後部に設けてもよい。
【0029】
また上記実施形態では、バッテリマウント5の上面及びバッテリボックス6の下面を互いに対応する段差状に形成し、その段差5aの近接位置に車室外カットスイッチ12を配設したが、当該構成に限ることはない。例えばバッテリマウント5の上面及びバッテリボックス6の下面を段差状にすることなく平坦に形成してもよい。この場合であっても、車室外カットスイッチ12の下側の近接位置でバッテリマウント5が左側方に向けて突出するため、クラッシャブルゾーンCZ1と非クラッシャブルゾーンCZ2とを区画でき、上記側突時の作用効果を得ることができる。
また上記実施形態では、車室外カットスイッチ12に表示部12bを設けると共に、その操作ボタン12aの押圧操作によりバッテリ電力を遮断し、操作ボタン12aの回転操作によりバッテリ電力を復帰するように車室外カットスイッチ12を構成したが、これに限ることはない。例えば表示部12bを省略してもよいし、操作ボタン12aを押圧操作する毎にバッテリ電力の遮断と復帰とを交互に繰り返すように構成してもよい。
【0030】
また上記実施形態では、側面カバー11の操作窓11aを長孔状に形成したが、例えば上記のように表示部12bを省略し、且つ操作ボタン12aの押圧操作毎にバッテリ電力を遮断・復帰させる場合には、必ずしも操作窓11aが長孔状とする必要はない。よって、例えば図7に示すように操作窓11aを円形状としてもよく、この場合でも操作窓11aの直径dを操作ボタン12aの直径Dよりも小さく設定すればよい。
また上記実施形態では、操作窓11aの周囲の領域を操作ボタン12aの先端とオーバーラップさせることにより、他車の側突時に側面カバー11の変形に伴って操作ボタン12aを押圧操作したが、必ずしも当該機能を奏する必要はない。例えば外部から操作ボタン12aを操作可能なように、オーバーラップさせることなく操作ボタン12aの先端よりも操作窓11aを大きく形成するだけでもよい。この場合には、突出位置の操作ボタン12aの先端をクラッシャブルゾーンCZ1内に進入させる位置設定も不要になるため、車室外カットスイッチ12の全体を非クラッシャブルゾーンCZ2内に配設して破損防止を図ってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 シャシフレーム
5 バッテリマウント(支持構造体)
6 バッテリボックス
11 側面カバー(カバー部材)
11a 操作窓
12 車室外カットスイッチ
CZ1 クラッシャブルゾーン
CZ2 非クラッシャブルゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用モータに電力供給するバッテリユニットを収容し、車両のシャシフレームの車外側に支持されたバッテリボックスと、
上記バッテリボックスの車外側に配設されて該バッテリボックスの少なくとも一側面を覆うカバー部材と、
上記カバー部材と上記バッテリボックスとの間に形成されて、車両衝突時に破損しながら衝撃を吸収するクラッシャブルゾーンと、
上記カバー部材と上記バッテリボックスとの間の上記クラッシャブルゾーンよりも車内側に形成されて、車両衝突時に破損を免れる非クラッシャブルゾーンと、
上記非クラッシャブルゾーン内に配設されて上記バッテリユニットの電力を遮断操作可能なカットスイッチと
を備えたことを特徴とする車両のバッテリ装置。
【請求項2】
上記バッテリユニットは、上記車両のシャシフレームの車外側に固定された支持構造体に支持され、
上記支持構造体の少なくとも一部が上記バッテリボックスよりも車外側に突出形成され、該突出形成部分が上記車両衝突時の衝撃に対抗することで上記非クラッシャブルゾーンが形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両のバッテリ装置。
【請求項3】
上記カットスイッチは、押圧操作により上記バッテリ電力を遮断するように構成されると共に、該押圧操作時の先端位置が上記クラッシャブルゾーンの車内側と略一致しており、
上記カバー部材は、上記カットスイッチを押圧操作するための操作窓が貫設され、該操作窓の周囲の少なくとも一部が車外側から見て上記カットスイッチの先端とオーバーラップしていることを特徴とする請求項1または2記載の車両のバッテリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−254690(P2012−254690A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128234(P2011−128234)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】