説明

車両のフェンダパネル支持構造

【課題】フェンダパネルの上端とエプロンアッパメンバの間に介在するブラケットの高さ寸法にばらつきがあっても、これを吸収してフェンダパネルの上端を所定の高さ位置とするフェンダパネル支持構造を実現すること。
【解決手段】車体のフェンダパネル1の上端11を、上方から作用する衝突荷重により変形して衝撃を吸収可能なブラケット3を介して、エンジンルームEの側縁部に沿って車両前後方向に延びるエプロンアッパメンバ2に支持せしめる車両のフェンダパネル支持構造において、ブラケット3をエプロンアッパメンバ2の縦壁状の側面24に設置し、これによりブラケット3の高さ寸法にばらつきがあっても、エプロンアッパメンバ2への設置位置を上下に調整することでフェンダパネル1の支持高さを所定の高さに設定できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のフェンダパネルの上端を、上方からの衝突荷重により変形して衝撃を吸収可能なブラケットを介して、エンジンルームの側縁部のエプロンアッパメンバに結合せしめる車両のフェンダパネル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図6に示すように、車両のフェンダパネル1の上端は、歩行者保護対策の観点から、エンジンルームの側縁部に沿って車両前後方向に延びるエプロンアッパメンバ2に、衝撃吸収性能を有するブラケット3を介して結合されている。
【0003】
図7、図8は従来の衝撃吸収性能を有するブラケットおよびこれを用いたフェンダパネル支持構造の代表例を示すもので、フェンダパネル1の上端はエプロンアッパメンバ2の外側および上方を覆うようエンジンルームEの開口側縁を構成しており、上端縁10から下方へ屈曲しさらにエンジンルームEの開口側に向けてほぼ水平に突出する上縁フランジ11が形成されている。エプロンアッパメンバ2はアッパパネル21とロアパネル22とで閉断面を構成し、上面23はほぼ平坦面とされている。
【0004】
ブラケット3は金属板のプレス成形品で、平坦面をなす上壁部31と、上壁部31の前後両側の端縁から屈曲して斜め下方へ延びる前後一対の傾斜壁部32,32、および両傾斜壁部32,32の下縁から屈曲して垂直下方へ延びる前後一対の縦壁部33,33とで構成され、上壁部31にはウェルドナットを備えたネジ穴30が形成されている。ブラケット3は前後の両縦壁部33,33の下縁に形成されたフランジ331,331がエプロンアッパメンバ2の上面23に溶接されてエプロンアッパメンバ2上に起立状に設置されている。
【0005】
フェンダパネル1の上端は、上縁フランジ11をブラケット3の上壁部31に重ね合わせて、ネジ部材Nにより締結されている。これによれば、車両が歩行者と衝突して上方より歩行者の頭部や肩がフェンダパネル1の上端に衝突して上方から衝突荷重Fが作用すると、ブラケット3は各屈曲部から屈曲変形しつつ前後の傾斜壁部32,32および縦壁部33,33が倒伏して潰れて、衝突荷重Fを吸収緩和する。ブラケット3は、上壁部31および前後両側の傾斜壁部32,32の前後長さ寸法の合計と、前後の両縦壁部33,33の高さ寸法および両縦壁部33,33の下端間の間隔寸法の合計とがほぼ同じに設定することにより最も効率よく潰れ変形するようにされている。
【0006】
この他、下記特許文献1、2、3に、エプロンアッパメンバの上面に設置されたブラケットにフェンダパネルの上端が結合支持され、上方からの衝突荷重により上記ブラケットを潰れ変形させて衝撃を吸収させるようになした数種類のフェンダパネルの支持構造が記載されている。
【特許文献1】特開2002−178953号公報
【特許文献2】特開2003−118639号公報
【特許文献3】特開2004−50865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のフェンダパネル支持構造はいずれも、ブラケット3が曲げ加工されたプレス成形品であるため、ブラケット3の高さ寸法にばらつきが発生しやすく、エプロンアッパメンバ2の上面23に取付けられたブラケット3の上壁部31の高さがばらつき、このばらつきによりフェンダパネル1の上端縁10と、これと対向するエンジンフード5の側縁間に段差が生じて見栄えを損なうといった問題があった。そこで本発明は上記事情に鑑み、ブラケットの高さ寸法にばらつきがあっても、このばらつきを吸収して、フェンダパネル1の上端縁の高さをエンジンフードの側縁と段差なく面一状にすることができる車両のフェンダパネル支持構造を実現することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車体のフェンダパネルの上端を、上方から作用する衝突荷重により変形して衝撃を吸収可能なブラケットを介して、エンジンルームの側縁部に沿って車両前後方向に延びるエプロンアッパメンバに支持せしめる車両のフェンダパネル支持構造において、上記ブラケットを、上記エプロンアッパメンバのエンジンルーム側の縦壁状の側面に設置する(請求項1)。ブラケットの高さ寸法にばらつきが生じても、ブラケットをエプロンアッパメンバの側面に固定する際に取付け位置の高さ調整ができ、ブラケットのフェンダパネル支持面の高さを所定の均一な高さにできる。
【0009】
上記ブラケットは、金属板からなり、平坦な上壁部と、該上壁部の前後両側の端縁から屈曲して斜め下方へ延び互いにハ字状に対向する前後一対の傾斜壁部と、両傾斜壁部の下縁から屈曲して垂直下方へ延びる前後一対の縦壁部と、両縦壁部の下縁から延出して先端に上記エプロンアッパメンバの側面に重ね合わせる結合面を有する取付部を備え、上記縦壁部と上記取付部との境界に、上記衝突荷重により変形容易な易変形部を設け、上記結合面を上記エプロンアッパメンバの側面に結合せしめ、上記フェンダパネルの上端を上記上壁部に支持結合せしめる(請求項2)。ブラケットは上方からの衝突荷重により易変形部から容易に変形するので衝撃吸収性能は損なわれない。
【0010】
上記易変形部は、上記縦壁部に対して上記取付部を傾斜状に屈曲せしめた屈曲部で構成する(請求項3)。上記易変形部は、上記縦壁部と上記取付部と境界に設けた貫通穴で構成する(請求項4)。上記易変形部は、上記縦壁部と上記取付部と境界に沿って設けたビードで構成する(請求項5)。これらはブラケットの易変形部として好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、衝撃吸収性能が損なわれず、ブラケットの高さ寸法にばらつきがあっても、ブラケットをエプロンアッパメンバへ取り付ける際に、ブラケットの取付け位置を上下方向に調整できるので、これによりブラケットの高さ寸法のばらつきを吸収してエプロンアッパメンバへの取付け状態でのブラケットの高さを均一にでき、フェンダパネルの上端縁の高さをエンジンフードの側縁と段差なく面一状にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1ないし図3に基づいて車両のフェンダパネル支持構造に本発明を適用した実施形態を説明する。図1、図2に示すように、フェンダパネル1はその上端が衝撃吸収性能を有するブラケット3を介してエプロンアッパメンバ2に支持せしめてある。
【0013】
フェンダパネル1の上端は、車体の側面を形成する縦壁状の一般部から緩やかに車体のエンジンルームE側へ湾曲するとともに、上端縁10から下方へ折り返した縦壁と、該縦壁の下縁からエンジンルームE側へ屈曲してほぼ水平に張り出す上縁フランジ11が形成してある。
【0014】
エプロンアッパメンバ2は車体の骨格部材で、エンジンルームEの側壁上縁に沿って車両前後方向に延設してある。エプロンアッパメンバ2は、断面ほぼ逆L字状のアッパパネル21と断面ほぼL字状のロアパネル22からなり、両パネル21,22の上縁同士および下縁同士を結合して断面ほぼ四角形状の閉断面構造をなす。
【0015】
図1、図3に示すように、ブラケット3は金属板からなるプレス成形品で、平坦な上壁部31と、上壁部31の前後両側の端縁からそれぞれ屈曲して斜め下方へ延出して互いにハ字状に対向する前後一対の傾斜壁部32,32と、これらの下縁からそれぞれ屈曲して垂直下方へ延出して互いに平行に対向する前後一対の縦壁部33,33、および両縦壁部33,33の下縁から屈曲し斜め下方へ延出して互いにハ字状に対向する前後一対の取付部34,34が一体形成してある。
【0016】
ブラケット3は、上壁部31と前後両側の傾斜壁部32,32の前後長さ寸法c,c,dの合計と、前後の両縦壁部33,33の高さ寸法a,aおよび両縦壁部33,33の下端間の間隔寸法bの合計とがほぼ同じとなるように設定してある。上壁部31の中央位置には、これを貫通して上壁部31の裏面側にウェルドナットを固着したネジ穴30が形成してある。
【0017】
取付部34は、縦壁部33の車両外側の側縁から一連に延設してエプロンアッパメンバ2のエンジンルームE側の側面24に沿う側辺を備え、縦壁部33の下縁から上記側辺を一辺とする逆三角形状に延びている。そして取付部34には上記側辺からほぼ直角に前側または後側へ屈曲して上記側面24に重ね合わせる結合面35が形成してある。
【0018】
ブラケット3は、上壁部31がエプロンアッパメンバ2の上面23よりも高い所定の高さ位置となるように配し、前後両側の取付部34,34の結合面35,35をそれぞれエプロンアッパメンバ2の車内側の縦壁状の側面24に重ね合わせて溶接してある。そして、ブラケット3の上壁部31に上方からフェンダパネル1の上縁フランジ11を重ね合わせてネジ部材Nにより締結してある。尚、エンジンルームの前後長が長い乗用車タイプの車両では、複数のブラケット3をエプロンアッパメンバ2に沿って前後に所定の間隔をおいて設け、これら複数のブラケット3によりフェンダパネル1の上端が支持せしめてある。一方、エンジンルーム2の前後長が短いセミボンネットタイプの車両では、1つのブラケット3によりフェンダパネル1の上端が支持される。
【0019】
本実施形態によれば、プレス成形によりブラケット3の高さ寸法にばらつきがあっても、ブラケット3をエプロンアッパメンバ2に固着する際に、ブラケット3をその上壁部31が所定の高さとなるように保持具等(図略)で高さ位置を調整しつつ保持せしめる。この状態で両取付部34,34の結合面35,35をエプロンアッパメンバ2の側面24に溶接することで、ブラケット3の上壁部31の高さ位置を一定にできる。従って、ブラケット3により支持せしめたフェンダパネル1の上端縁10とエンジンフード5の側縁との段差が生じず、フェンダパネル1の上端縁10とエンジンフード5の側縁との見切りの見栄えを損ねない。
【0020】
フェンダパネル1の上端縁10に上方より歩行者の頭部や肩が衝突して衝突荷重Fが作用すると、ブラケット3には衝突荷重Fにより上壁部31を押し下げようとする力が作用する。このとき、上壁部31と前後の両傾斜壁部32,32とがほぼ面一状に潰れ変形するとともに、垂直な前後の両縦壁部33,33がそれぞれ、傾斜状の取付部34,34との境界の屈曲部36,36が易変形部となって容易に屈曲角が変形し、両縦壁部33,33が前後方向に倒伏して、ブラケット3が潰れて衝撃を吸収する(図3)。
【0021】
この場合、ブラケット3の上壁部31、前後の両傾斜壁部32,32および両縦壁部33,33の形状、寸法は、従来構造(図7)と同様、最も効率よく潰れ変形するようしてあるので、衝撃吸収性能は十分に確保できる。
【0022】
また、従来構造ではブラケット3が完全に潰れると、フェンダパネルの上縁フランジ11がエプロンアッパメンバ2の上面23に底付きするおそれが有るが、本発明のブラケット3では、両取付部34,34を下方へ延長して各結合面35,35をエプロンアッパメンバ2のエンジンルームの側面24の下端部に固着すれば、上壁部31から上記固着部までの上下寸法が大きくなって、ブラケット3の潰れストロークを大きくでき、フェンダパネル12の上縁フランジ11の底付きを防ぐ。
【0023】
上述の実施形態のブラケット3では、縦壁部33,33に対して取付部34,34を傾斜状に屈曲せしめて、該屈曲部36により易変形部を構成したが、これに限るものではない。他の易変形部として、図4に示すように、縦壁部33,33と取付部34,34をほぼ垂直な面一形状とし、縦壁部33,33と取付部34,34との境界に横方向に長径楕円状の貫通穴37,37を設けて易変形部を構成してもよい。更に、図5に示すように、上記境界に横方向に延びる断面略半円状またはV字状のビード38,38を設けて易変形部を構成してもよい。尚、ビード38はブラケット3の内向きに形成しても、外向きに形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のフェンダパネル支持構造を示す要部斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】本発明に用いるブラケットの正面図である。
【図4】本発明に用いる他のブラケットの斜視図である。
【図5】本発明に用いる更に他のブラケットの斜視図である。
【図6】車両のフェンダパネル支持構造を示す概略図である。
【図7】図1に対応して従来のフェンダパネル支持構造を示す要部斜視図である。
【図8】図7のVIII−VIII線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 フェンダパネル
11 上縁フランジ(上端)
2 エプロンアッパメンバ
24 側面
3 ブラケット
31 上壁部
32 傾斜壁部
33 縦壁部
34 取付部
35 結合面
36 屈曲部(易変形部)
37 貫通穴(易変形部)
38 ビード(易変形部)
E エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のフェンダパネルの上端を、上方から作用する衝突荷重により変形して衝撃を吸収可能なブラケットを介して、エンジンルームの側縁部に沿って車両前後方向に延びるエプロンアッパメンバに支持せしめる車両のフェンダパネル支持構造において、
上記ブラケットを、上記エプロンアッパメンバのエンジンルーム側の縦壁状の側面に設置したことを特徴とする車両のフェンダパネル支持構造。
【請求項2】
上記ブラケットは、金属板からなり、平坦な上壁部と、該上壁部の前後両側の端縁から屈曲して斜め下方へ延び互いにハ字状に対向する前後一対の傾斜壁部と、両傾斜壁部の下縁から屈曲して垂直下方へ延びる前後一対の縦壁部と、両縦壁部の下縁から延出して先端に上記エプロンアッパメンバの側面に重ね合わせる結合面を有する取付部を備え、
上記縦壁部と上記取付部との境界に、上記衝突荷重により変形容易な易変形部を設け、
上記結合面を上記エプロンアッパメンバの側面に結合せしめ、上記フェンダパネルの上端を上記上壁部に支持結合せしめた請求項1に記載の車両のフェンダパネル支持構造。
【請求項3】
上記易変形部は、上記縦壁部に対して上記取付部を傾斜状に屈曲せしめた屈曲部とした請求項2に記載の車両のフェンダパネル支持構造。
【請求項4】
上記易変形部は、上記縦壁部と上記取付部と境界に貫通穴を設けて形成した請求項2に記載の車両のフェンダパネル支持構造。
【請求項5】
上記易変形部は、上記縦壁部と上記取付部と境界に沿って設けたビードとした請求項2に記載の車両のフェンダパネル支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−306121(P2006−306121A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127401(P2005−127401)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】