説明

車両のフロア構造

【課題】大幅な改変なしに車室前部の床下に搭載したエンジンの大型化に対応でき、運転者の運転操作に支障のない車室のフロア構造を提供すること。
【解決手段】車室前部の運転席足下のフロアパネル1と、フロアパネル1よりも高く設定して車室前部の床下に設置されたエンジンEを覆うエンジンカバー4との間の段差部5を、その上下方向中間位置から運転席側へほぼ水平方向に張り出す張り出し部5aを有する階段状に形成して、張り出し部5aの下方にエンジンの大型化に対応して拡大スペースを形成する一方、張り出し部5aよりも低いフロアパネル1にはフロア嵩上げ部材6を載設して、その上面を張り出し部5aとほぼ面一とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のフロア構造、特にエンジンが車室前部の床下に設置された車両のフロア構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セミボンネットタイプのデリバリーバン型車を例にとると、エンジンの後半部が車室前部の床下ほぼ中央に位置せしめてある。図6はかかる車両の車室前部の運転席側の正面およびフロアパネルの断面を示すもので、運転席の足下のフロアパネル1の前方縦壁部11には、クラッチペダル2aおよびブレーキペダル2bが並設され、フロアパネル1にはアクセルペダル2cが設置されている。図中、3はインストルメントパネル、30はステアリングハンドルである。
【0003】
運転席足下のフロアパネル1にはウレタンマット91およびフロアカーペット92等が重ね合わせて敷設してある。フロアパネル1の後方には後方かつ下方へ傾斜する段差を介して車室フロアを構成するフロア一般部1Aが設けてある。一般部1Aは側縁が車体のドア開口下縁を構成するロッカー部7に結合され、一般部1Aの側縁とロッカー部7との結合部を合成樹脂プレートで被覆して乗降用のステップ部70を構成している。また一般部1Aの前端には図略の台座を設け、台座には足下のフロアパネル1よりも高い位置に運転席シートが設置してある。足下のフロアパネル1は一般的な車室フロアと同様に、車両前後方向に延びるサイドメンバ19および車幅方向の図略のクロスメンバにより支持されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0004】
車室前部の車幅方向中央部には、エンジンEの上方を覆うエンジンカバー4が膨出状に設けてある。エンジンカバー4は断面ほぼハット形で、下部周縁が、エンジンE後半部を回避して切り欠いたフロアパネル1の切欠き縁部に結合されている。エンジンカバー4の上面は上記フロアパネル1よりも高く設定してあり、運転席側の側面はフロアパネル1との間に全体が若干傾斜した縦壁状の段差部5を形成している。エンジンカバー4の表面は表皮で被覆されている。
【特許文献1】特開平11−59498号公報
【特許文献2】特開平9−207824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、かかるフロア構造の車両はこれに、側部にターボチャージャ等を設けたりして従来よりも大型化したエンジンEを搭載しようとすると、エンジンEの拡大部E1(図7)がエンジンカバー4の側面の段差部5やフロアパネル1に近づきすぎとなり、干渉したりするため、現状の自動車のフロア構造を改変する必要がある。
【0006】
かかる場合、図7に示すように、運転席足下のフロアパネル1を含む車室前部のフロアを高くしてエンジンEの拡大部E1との間に必要な間隙をおく高さに設定することが考えられる。しかしながら、そのようにするとフロアパネル1を支える上記サイドメンバ19やクロスメンバなど、フロアパネル1の周辺の車体の構造部材を改変しなければならず、大がかりな設計変更が必要となる。
【0007】
そこで本発明は、車体の構造部材の大がかりな改変をすることなく、車室前部のフロアパネルおよびエンジンカバーの一部を改変し、ペダル類の位置を若干変更するのみで搭載エンジンの大型化に対応することができ、運転者の運転操作に何ら支障をきたすことのない車室のフロア構造を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車室前部の床下にエンジンが設置された車両であって、エンジンを覆うエンジンカバーを運転席足下のフロアパネルよりも高く設定して上記フロアパネルとの間に段差部が形成された車両において、上記段差部を、その上下方向中間位置から運転席側へほぼ水平方向に張り出す張り出し部を有する階段状に形成して、該張り出し部の下方にエンジンの大型化に対応して拡大スペースを形成する。上記フロアパネルには、上面が上記張り出し部とほぼ面一となる高さのフロア嵩上げ部材を載設するようになす(請求項1)。段差部を運転席側へ張り出す階段状に形成することにより、エンジンの設置スペースを拡大することができる。一方、そのようにすると張り出し部の先端角部がクラッチペダルの下方まで張り出してクラッチペダルを操作する足の置き場がなくなって操作に支障をきたすことになるが、この問題は、張り出し部とほぼ面一のフロア嵩上げ部材を設けたことにより解決される。
【0009】
上記エンジンカバーの運転席側の側端部には端縁から屈曲して下方へ延びる段差の下端から屈曲して運転席側へ張り出す張り出し部を形成し、上記フロアパネルのエンジンカバー側の側端部には端縁から屈曲して上方へ延びる段差の上端から屈曲してエンジンカバー側へ張り出す張り出し部を形成し、上記エンジンカバーおよび上記フロアパネルの張り出し部を重合して、上記段差部の張り出し部を形成する(請求項2)。張り出し部を有する段差部は、エンジンカバーおよびフロアパネルの側端部に加工を施して両者を連結することにより容易に形成され得る。
【0010】
上記フロア嵩上げ部材を、上記フロアパネルのほぼ全面を覆う平板部と、該平板部の互いに間隔をおいた複数カ所で平板部を裏面側へ厚肉として上記平板部を支持する支持部とからなる繊維強化合成樹脂の一体成形体で構成する(請求項3)。繊維強化合成樹脂からなるフロア嵩上げ部材は、フロアとして必要な強度、剛性を有し、かつ鉄部材よりも遙に軽量である。
【0011】
上記複数の支持部のうちの一部の支持部には、厚さ方向に貫通する貫通穴を設けてボスとし、該ボスを介して上記フロア嵩上げ部材を上記フロアパネルにボルト締め固定する(請求項4)。フロア嵩上げ部材の複数の支持部の一部を、フロア嵩上げ部材をフロアパネルにボルト締めするための手段として有効に利用できる。
【0012】
上記平板部の側縁には、車両の乗降口のステップと対応する位置に、上記平板部から延出して上記ステップを覆うステップ部を一体に設ける(請求項5)。平板部にステップ部を延設したことで、出入口付近の見栄えが良好となる。
【0013】
上記平板部の上面に凹凸模様を形成する(請求項6)。凹凸模様は乗員の足の滑り止めとなる。またフロアマットの敷設を省略することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
セミボンネットタイプのデリバリーバン型車等、エンジンの後部が車室前部の床下のほぼ中央に位置する車両に本発明を適用した実施形態を説明する。図1に示すように、車室前部のインストルメントパネル3の下方位置には、運転席の足下のフロアパネル1が設けてある。インストルメントパネル3とフロアパネル1の間にはフロアパネル1の前縁から起立する縦壁部11に、クラッチペダル2a、ブレーキペダル2bおよびアクセルペダル2cが設けてある。クラッチおよびブレーキペダル2a、2bは吊り下げタイプのペダルで、アクセルペダル2cはフロアパネル1側に設置したオルガンペダルタイプのものである。図中、30はステアリングハンドル、31はステアリングコラムで前斜め下方へ向かい縦壁部11を貫通して車室前方へ延設してある。
【0015】
上記運転席の足下のフロアパネル1は、その後方の車室のフロア一般部1Aの前縁から前斜め上方へキックアップする段差を介してフロア一般部1Aよりも一段高い位置に設けてある。尚、フロア一般部1Aの側縁は車体のドア開口の下縁を構成するロッカー部7に結合され、これらの結合部上にはドア開口下縁のステップ部70が設けられる。
【0016】
フロアパネル1には車幅方向中央に、エンジンEの後部を回避するとともにサービスホールを構成する切欠きが形成してある。フロアパネル1は、上記サービスホール側の側端部(切欠き縁部)を除く本体部10がほぼ水平面状に形成してあり、本体部10の高さ位置は、従来構造の大型化されていない普通のエンジンを搭載した車両のフロアパネル1(図6参照)の高さ位置とほぼ同一としてある。またフロアパネル1の本体部10はその下面側が、車両前後方向に延びる断面ほぼ逆ハット形で本体部の下面とで閉断面を構成するフロントサイドメンバ19や、図略のクロスメンバにより支持されている。
【0017】
車室前部フロアには、車幅方向中央のフロアパネル1の切欠きからなる上記サービスホールを開閉可能に塞いでエンジンEを覆うエンジンカバー4が設けてある。エンジンカバー4は表面が表皮40で被覆された断面ほぼハット形の金属板で構成されてある。エンジンカバー4の上面41はフロアパネル1の本体部10よりも一段高くなっており、両者41,10の間には段差部5が形成してある。
【0018】
段差部5は、その上半部がエンジンカバー4の運転席側の側端部で構成され、下半部がフロアパネル1の上記切欠き縁部で構成され、両者を上下に組み合わせて構成される。また段差部5には上下中間位置から運転席の足下側へ向かってほぼ水平に張り出す張り出し部5aが設けてある。
【0019】
段差部5の上半部を構成するエンジンカバー4の側端部は上面41の運転席側の端縁から屈曲して下方へ延びる側面50と、側面50の下縁から屈曲してほぼ水平に車室外側へ延びる張り出し部51とで下向きの断面ほぼZ字形をなす。
【0020】
段差部5の下半部を構成するフロアパネル1の上記切欠き縁部では、本体部10の車室中央寄りの端縁から屈曲して上方へ立ち上がる段差52と、段差52の上縁から屈曲してほぼ水平方向車室中央側に延びる張り出し部53とで上方へ向かう断面ほぼZ字形に形成してある。
【0021】
そして段差部5は、フロアパネル1の張り出し部53の上面にエンジンカバー4の張り出し部51を重ね合わせて配し、両者51,53を図略の係合金具またはボルト、ナット部材により着脱可能に結合して、張り出し部5aを形成している。このように段差部5は上下中間位置に運転席側へ張り出す張り出し部5aを設けて階段状に形成したので、張り出し部5aによって、床下に拡大スペースが形成される。
【0022】
段差部5の張り出し部5aに対応して、フロアパネル1の本体部10には、フロア面を張り出し部5aの高さ位置と合致させるフロア嵩上げ部材6が設けてある。図1ないし図4に示すように、フロア嵩上げ部材6はガラス繊維等の補強材を混入した繊維強化合成樹脂の一体成形品で、薄板状の平板部60とその外周に下方へ屈曲する周壁部61を設けた箱蓋状に形成してある。平板部60の上面形状はフロアパネル1の本体部10の平面形状と同形としてある。図中、65は平板部60を貫通する角穴でアクセルペダル2c用の取付貫通穴である。
【0023】
平板部60の裏面には、互いに間隔をおいた複数カ所に、平板部60の裏面がら下方へ突出する円筒状の複数の支持部62が突設してあり、平板部60を裏面側へ厚肉としている。これら支持部62の高さ寸法および周壁部61の高さ寸法は、フロアパネルの本体部10と段差部5の張り出し部5aとの間の高さ寸法に合わせてある。
【0024】
また平板部60の裏面中間部、特に常時、乗員が右足を乗せるアクセルペダル2c付近には、複数の支持部62間を繋ぐように複数の補強リブ64を形成してある。そして、フロア嵩上げ部材6の前縁、中間および後縁付近の複数の支持部内の一部に貫通穴を設け、ボルト貫通用のボス63が複数形成してある(図例では6つ)。各ボス63は平板部60表面側の穴径がボス先端側の穴径よりも大径としてあり、根元と先端側とで径の異なる二段円筒状をなす。そして各ボス63内には合成樹脂のカラー66を介して平板部60の表面側からボルトBを貫通せしめ、ボルト頭部が表面側に突出しないようにしてある。
【0025】
フロア嵩上げ部材6は、段差部5の張り出し部5aと平板部60とがほぼ面一となるように、周壁部61の下縁、支持部62の下縁、およびボス63の下縁をフロアパネル1の本体部10に当接せしめて配し、複数のボス63を貫通するボルトBをフロアパネル1の締結して載置固定してある。
【0026】
本実施形態のフロア構造によれば、エンジンEの上部を覆うエンジンカバー4の上面41と運転席の足下のフロアパネル1の本体部10との間の段差部5に、運転席側へ膨出する張り出し部5aを設けて床下のエンジンスペースを拡大したのでエンジンの大型化に対応でき、エンジンEの側部に設けられたターボチャージャー等の拡大部E1と干渉しない。この場合、エンジンカバー4の側端部とフロアパネル1の切欠き縁部とを改変するのみですみ、フロアパネル1の本体部10の高さ位置は従来の普通のエンジンを搭載した車両のフロアパネルの高さ位置と変わらないので、サイドメンバ19やクロスメンバ等を改変する必要がなく、大がかりな設計変更がいらない。
【0027】
一方で、上記段差部5に張り出し部5aを設けると、張り出し部5aの先端角部がクラッチペダル2aの下方まで張り出してクラッチペダル2aを操作する足の置き場がなくなって操作に支障をきたすことになるが、フロアパネル1の本体部10の上面に、張り出し部5aとほぼ面一のフロア嵩上げ部材6を設けたことにより解決される。尚、クラッチペダル2a、ブレーキペダル2bおよびアクセルペダル2cの高さ位置は、張り出し部5aおよびフロア嵩上げ部材6の高さ位置を基準に設置する。
【0028】
またフロア嵩上げ部材6を繊維強化合成樹脂で一体成形したので、鉄部材からなるフロア嵩上げ部材よりも遙に軽量ですみ、複数カ所に支持部62およびボス63を設けたので乗員の踏み付け荷重に対して充分に強度を確保できる。
【0029】
尚、本実施形態ではエンジンカバー4の側端部とフロアパネル1の切欠き縁部とで段差部5の張り出し部5aを形成したが、これに限らず、エンジンカバー4の側端部のみで張り出し部を形成してもよい。またはフロアパネル1の切欠き縁部のみで張り出し部を形成してもよい。
【0030】
また、他のフロア嵩上げ部材6として図5に示すように、平板部60の表面に、乗員の足の滑り止め用の凹凸模様67を一体成形することが望ましい。フロアカーペット等が不要となる。更に、フロア嵩上げ部材6の後縁の車外寄りの位置に、下方へ延びる段差68を介してフロア一般部1Aとロッカー部7との結合部を覆うドア開口下縁のステップ部70を一体成形してもよい。これによれば、ドア開口下縁の見栄えが良好となり、フロア嵩上げ部材6の設置と同時にステップ部70を設置することができ、フロア嵩上げ部材とステップ部とを個別に設置するよりもを作業手間を省ける。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用した運転席の正面の車室前部フロアを示す断面図である。
【図2】本発明に用いるフロア嵩上げ部材を示す斜視図である。
【図3】上記フロア嵩上げ部材の裏面側の斜視図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿う位置でフロアパネルに固定した状態の断面図である。
【図5】本発明に用いる他のフロア嵩上げ部材を示す斜視図である。
【図6】従来の運転席の正面の車室前部フロアを示す断面図である。
【図7】エンジンの大型化に対応した従来の運転席の正面の車室前部フロアを示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 運転席の足下のフロアパネル
4 エンジンカバー
5 段差部
5a 張り出し部
51 エンジンカバーの張り出し部
53 フロアパネルの張り出し部
6 フロア嵩上げ部材
60 平板部
62 支持部
63 ボス
67 凹凸模様
70 ステップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室前部の床下にエンジンが設置された車両であって、エンジンを覆うエンジンカバーを運転席足下のフロアパネルよりも高く設定して上記フロアパネルとの間に段差部が形成された車両において、
上記段差部を、その上下方向中間位置から運転席側へほぼ水平方向に張り出す張り出し部を有する階段状に形成して、該張り出し部の下方にエンジンの大型化に対応して拡大スペースを形成し、
上記フロアパネルには、上面が上記張り出し部とほぼ面一となる高さのフロア嵩上げ部材を載設したことを特徴とする車両のフロア構造。
【請求項2】
上記エンジンカバーの運転席側の側端部には端縁から屈曲して下方へ延びる段差の下端から屈曲して運転席側へ張り出す張り出し部を形成し、上記フロアパネルのエンジンカバー側の側端部には端縁から屈曲して上方へ延びる段差の上端から屈曲してエンジンカバー側へ張り出す張り出し部を形成し、上記エンジンカバーおよび上記フロアパネルの張り出し部を重合して、上記段差部の張り出し部を形成した請求項1に記載の車両のフロア構造。
【請求項3】
上記フロア嵩上げ部材を、上記フロアパネルのほぼ全面を覆う平板部と、該平板部の互いに間隔をおいた複数カ所で平板部を裏面側へ厚肉として上記平板部を支持する支持部とからなる繊維強化合成樹脂の一体成形体で構成した請求項1または請求項2に記載の車両のフロア構造。
【請求項4】
上記複数の支持部のうちの一部の支持部には、厚さ方向に貫通する貫通穴を設けてボスとし、該ボスを介して上記フロア嵩上げ部材を上記フロアパネルにボルト締め固定した請求項3に記載の車両のフロア構造。
【請求項5】
上記平板部の側縁には、車両の乗降口のステップと対応する位置に、上記平板部から延出して上記ステップを覆うステップ部を一体に設けた請求項3または請求項4に記載の車両のフロア構造。
【請求項6】
上記平板部の上面に凹凸模様を形成した請求項3、4、5のいずれかに記載の車両のフロア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−145047(P2007−145047A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338163(P2005−338163)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】