説明

車両の上部車体構造

【課題】フロントウィンドウの上端から連続的に延びるルーフウィンドウパネルを備えた車両においてフロントヘッダの断面積を十分に確保しつつフロントヘッダの外観上の存在感を弱める。
【解決手段】フロントヘッダ15は閉断面18を備えた部材で構成されており、ヘッダロア17の後端部に凹所19が形成されている。フロントヘッダ15は、水平ラインHLよりも角度θだけ下方に傾斜して位置するように配置されている。この傾斜角度θは、第2、第3シート列3,4の乗員の視線と略一致するように設定されるのが好ましい。フロントヘッダ15の前端部分は、ルーフウィンドウパネル13の湾曲した前端部分から離間している。フロントヘッダ15の凹所19には、サンバイザ21の前部が収容され、サンバイザ21は、その格納状態でフロントヘッダ15の延長線上に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の上部車体構造に関し、より詳しくは、車体ルーフの少なくとも前部が、ガラスのような光透過性のルーフウィンドウパネルで作られた車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、フロントウィンドウと一体に成形されたルーフウィンドウパネルを備え、このルーフウィンドウパネルによってルーフの一部が構成された車両を開示している。この種の車両は、いわゆるガラスサンルーフがフロントウィンドウから連続した形態であるため、外光が車室内に多く取り込まれて車室が明るく、乗員に開放感を提供できるという利点がある。
【特許文献1】EP1405744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
車両の基本的な構造として、フロントウィンドウの両側縁はフロントピラーによって支持され、左右のフロントピラーは、その上端が、車幅方向に延びるフロントヘッダによって互いに連結されている。言うまでも無いことであるが、フロントヘッダは車体剛性に影響を及ぼす部材の一つである。
【0004】
特許文献1に開示のような車両、つまりフロントウィンドウに連なるウィンドウパネルを備えた車両では、フロントウィンドウの上端から連続的にウィンドウパネルが延びているため、フロントヘッダの存在が外部から見えてしまうという外観上の見栄えの問題がある。この問題に対処するのに、フロントヘッダの断面積を小さくしてフロントヘッダの存在感を弱めることも考えられるが、このことは車体剛性を低下させる手法であるため必ずしも好ましい対応策とは言えない。
【0005】
本発明の目的は、フロントウィンドウの上端から連続的に延びるルーフウィンドウパネルを備えた車両を前提として、フロントヘッダの断面積を十分に確保しつつ、フロントヘッダの外観上の存在感を弱めることのできる車両の上部車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
左右のフロントピラー間に形成されるフロント開口に配設され、該左右のフロントピラーによって両側縁が支持されたフロントウィンドウの上端に対して連続的に設けられて少なくともルーフの前部を構成する光透過性のルーフウィンドウパネルを備えた車両であって、
前記左右のフロントピラーの上端同士を連結するための車幅方向に延びるフロントヘッダが閉断面構造の部材で構成され、
前記ルーフウィンドウパネルが前記フロントヘッダの上方に配置され、該フロントヘッダの少なくとも後部が前記ルーフウィンドウパネルから離間されていることを特徴とする車両の上部車体構造を提供することにより達成される。
【0007】
すなわち、本発明によれば、フロントヘッダをルーフウィンドウパネルの前端部に沿って配置させるのではなく、フロントヘッダを閉断面構造の部材、典型的にはヘッダアッパとヘッダロアとで形成した閉断面部材で構成し、このフロントヘッダの少なくとも後部をルーフウインドパネルから離間させることで、外観上フロントヘッダの存在感を弱めるようにしてある。すなわち、ルーフウィンドウパネルは、フロントウィンドウとの合流部分が湾曲した形状となるのが一般的であるが、このルーフウィンドウパネルの前端部の湾曲形状とは無関係にフロントヘッダを設計することで、比較的大きな閉断面のフロントヘッダの配置を工夫することによりフロントヘッダが外観上目立たないようにする設計上の自由度を得ることができる。
【0008】
具体的な態様として、フロントヘッダを上下に扁平な断面形状に作り、この扁平なフロントヘッダが、その前端部が前記ルーフウィンドウパネルに隣接し、後端部が前記ルールウィンドウパネルから離間するように傾斜して配置することでフロントウィンドウの前方から見たときに、フロントヘッダを上下に細く見せることができる。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態では、フロントヘッダに配設したサンバイザが、フロントヘッダと実質的に同じ方向に延びる格納位置をとるように設定されている。これにより、サンバイザを含めて外観上の存在感を薄めることができる。具体的な例として、フロントヘッダの後端部且つ下面に凹所を形成して、この凹所にサンバイザの前部を収容するようにしてもよいし、サンバイザをフロントヘッダの下面に沿った格納位置をとらせるようにしてもよい。
【0010】
また、第2シート列や、第3シート列を備えた車両であれば、第1シート列の後方の例えば第2シート列の乗員の視線に沿ってフロントヘッダの傾斜角度を設定するのが好ましい。これによれば、第1シート列よりも後方のシートに着座した乗員はルーフウィンドウパネルによって開放感を感じるものであるが、第2シート列などの第1シート列よりも後方のシートに着座した乗員がフロントヘッダによって視線を阻害されるのを低減できるため、一層の開放感を与えることができる。このことは、第2シート列が第1シート列よりも高所に設定された車両では、より一層の開放感を乗員に提供できる。特に、第1シート列よりも第2シート列が高所に配置され、第2シート列よりも第3シート列が高所に配置された車両では、第2シート列、第3シート列の乗員に対して、フロントヘッダによって視線が阻害されるのを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0012】
図1は、本発明を適用した実施例のワンボックスカーの斜視図である。図示のワンボックスカー1は、図2から理解できるように3列シート2〜4を有し、車室の最前列に位置する第1シート列2の乗員は、前ヒンジ後開きのフロントサイドドア5を通じて乗降することができ、第1シート列2の後方に位置する第2シート列3及び第3シート列4の乗員は、スライドドアであるリアサイドドア6を通じて乗降することできる。
【0013】
このワンボックスカー1の車室の高さ寸法は比較的大きく設計されており、そして、第2シート列3は第1シート列2の高さレベル(H1)よりも高所(H2)に配置され、また、第3シート列4は第2シート列3よりも高所(H3)に配置されている。すなわち、ワンボックスカー1に設けられた第1シート列2乃至第3シート列4は、後列ほど高所に配置されている。図中、参照符号7は、第1シート列2の運転席に設けられたハンドルであり、8は前輪であり、9は後輪である。
【0014】
ワンボックスカー1は、左右のフロントピラー10、10間に形成されるフロント開口に配置されたフロントウィンドウ11を有し、フロントウィンドウ11は、周知のように、その両側縁が左右のフロントピラー10、10によって支持されている。
【0015】
ワンボックスカー1のルーフ12は、その前部、つまりルーフ11の前端から第2シート列3の頭上に至る部位が、光透過性のルーフウィンドウパネル13で構成されている。ルーフウィンドウパネル13は、フロントウィンドウ11の上端から連続して延びており、図2から最も良く分かるように、フロントウィンドウ11とルーフウィンドウパネル13とは一体成形された単一のガラス材料から作られている。すなわち、フロントウインド11及びこれに連続したルーフウィンドウパネル13は、フロントウィンドウ11の下端から上端に向かって後方に傾斜して延び、そして、その上端部が、湾曲して略水平に後方に延びて、第2シート列3の頭上で終端している。
【0016】
ルーフウィンドウパネル13がフロントウィンドウ11と合流する湾曲部分に、フロントヘッダ15が位置している(図2)。周知のように、フロントヘッダ15は車幅方向に延びる部材であり、このフロントヘッダ15の左右両端は、夫々、フロントピラー10に連結されている。
【0017】
図3は、ルーフウィンドウパネル13がフロントウィンドウ11と合流する部分を断面した部分断面図である。図3を参照して、フロントヘッダ15は、ヘッダアッパ16とヘッダロア17の前端フランジ16a、17aと後端フランジ16b、17bとを互いに重ね合わせた状態で接合することにより構成され、このヘッダアッパ16及びヘッダロア17で閉断面18が形成されている。
【0018】
より詳しくは、フロントヘッダ15は、ヘッダアッパ16及びヘッダロア17は、共に、断面略ハット状の形状を有し、図3からも分かるように、上下に扁平な断面形状を有している。そして、ヘッダロア17は、その後端部に段部17cを有し、この段部17cによってフロントヘッド15の後端部且つ下面に凹所19が形成されている。フロントヘッダ15は、トリム20によって包囲した状態で車体に取り付けられる。
【0019】
図3のラインCLは、扁平な形状のフロントヘッダ15の断面を上下に略半割にする中心線を示す。この中心線CLから分かるように、フロントヘッダ15は、ウィンドウパネル13がフロントウィンドウ11と合流する部分の傾斜ラインXよりも下方に傾斜して配設されている。好ましくは、フロントヘッダ15は、フロントヘッダ15の中心線CLが、水平ラインHLよりも角度θだけ下方に傾斜して位置するように配置される。この傾斜角度θは、第2シート列3又は第3シート列4の乗員の視線(図2に矢印で示してある)を念頭に入れて、この視線と略一致するように設定するのが最も好ましい。
【0020】
換言すれば、フロントヘッダ15は、そのヘッダアッパ16の上面及びヘッダロア17の下面が、第2シート列3又は第3シート列4の乗員の視線(図2に矢印で示してある)に沿って延びるように設定するのが好ましい。
【0021】
このようにフロントヘッダ15を構成及び配置することにより、ルーフウィンドウパネル13がフロントウィンドウ11と合流する湾曲部分つまりルーフウインドパネル13の湾曲した前端部分に対してフロントヘッダ15の前端部が最も接近した状態となり、フロントヘッダ15の後端部が最も離間した状態となる。
【0022】
図3に例示の第1実施例では、フロントヘッダ15の前端部分が、ルーフウィンドウパネル13の湾曲した前端部分から離間されて、これらの間にクリアランス22が設けられているが、後の実施例で説明するように、ルーフウィンドウパネル13の湾曲した前端部分と、フロントヘッダ15の前端部分とを接近させて、これらを接着剤で接合するようにしてもよいことは言うまでもない。
【0023】
なお、フロントヘッダ15の後端部且つ下面に形成した凹所20にはサンバイザ21の前部が配設され、このサンバイザ21は、図示のサンバイザ格納状態において、フロントヘッダ15の延び方向つまり第2シート列3又は第3シート列4の乗員の視線(図2に矢印で示してある)にほぼ沿って延びる位置に位置決めするのが好ましい。これにより、サンバイザ21は、上下に扁平なフロントヘッダ15の延長線上に位置し、フロントヘッダ15と実質的に同一平面に格納することができる。
【0024】
如上のように、ヘッダアッパ16とヘッダロア17とで構成された閉断面構造のフロントヘッダ15を傾斜して配置して、ルーフウィンドウパネル13の湾曲した前端部分から離間させるように配置してあるため、これを外部から見たときに、十分な大きさ閉断面を有するフロントヘッダであるにも関わらずその外観上の存在感を弱めることのできる。この効果は、フロントヘッダ15を上下に扁平な断面形状を有することで、より一層効果的になる。
【0025】
また、特に第2シート列3、第3シート列4の乗員の視線に沿ってフロントヘッダ15を傾斜して配置したときには、第2シート列3、第3シート列4に着座した乗員の前方視界がフロントヘッダ15によって阻害されるのを軽減することができる。特に、実施例の車両のように、第2シート列3、第3シート列4が第1シート列2よりも高所に配置された車両では、第2シート列3、第3シート列4の乗員の前方視界は、これら乗員に一層の開放感を与えるのに重要である。
【0026】
また、サンバイザ21の格納位置を第2シート列3、第3シート列4に着座した乗員の視線にほぼ沿った位置に位置決めすることにより、この第2シート列3、第3シート列4の乗員の前方視界がサンバイザ21によって阻害されるのを軽減することができる。
【0027】
図4以降の図面は本発明の他の実施例を示すものであるが、この他の実施例においても、フロントヘッダ15の傾斜に関する事項は第1実施例と同じであると理解されたい。
【0028】
ルーフウィンドウパネル13の湾曲した前端部分とフロントヘッダ15との関係に関し、図4に図示のように、フロントヘッダ15の前端部においてヘッドアッパ16の一部に隆起部16cを設け、この隆起部16cを使って、ルーフウィンドウパネル13の前端湾曲部分に対してダム24及び接着剤25を介して接合するようにしてもよい。この隆起部16cは、例えばフロントヘッダ15の車幅方向中央部分だけに設けてもよいし、フロントヘッダ15の車幅方向に点在するように複数の隆起部16cを設けるようにしてもよい。
【0029】
また、図5に示すように、ルーフウィンドウパネル13の湾曲した前端部分とフロントヘッダ15の前端部とを接近させて、これらを車幅方向に筋状に延びる接着剤25を介して接合するようにしてもよい。
【0030】
また、サンバイザ21の配置に関し、図6に示すように、サンバイザ21をフロントヘッダ15のヘッダロア17の下面に沿った位置にサンバイザ21の格納位置を設定するようにしてもよい。この場合、フロントヘッダ15の後端部且つ下面に形成した凹所19を小物入れ(例えばサングラス入れ)などに利用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例のワンボックスカーを斜め前方から見た斜視図である。
【図2】図1のワンボックスカーの第1乃至第3シート列の配置を説明するための図である。
【図3】図1のワンボックスカーのフロントヘッダ回りの断面図である。
【図4】図3のフロントヘッダ回りの他の実施例を示す断面図である。
【図5】図3のフロントヘッダ回りの更に他の実施例を示す断面図である。
【図6】サンバイザの配置に関連した図3のフロントヘッダ回りの他の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ワンボックスカー
2 第1シート列
3 第2シート列
4 第3シート列
10 フロントピラー
11 フロントウィンドウ
13 ルーフウィンドウパネル
15 フロントヘッダ
16 ヘッダアッパ
17 ヘッダロア
18 フロントヘッダの閉断面
19 フロントヘッダの凹所
21 サンバイザ
23 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のフロントピラー間に形成されるフロント開口に配設され、該左右のフロントピラーによって両側縁が支持されたフロントウィンドウの上端に対して連続的に設けられて少なくともルーフの前部を構成する光透過性のルーフウィンドウパネルを備えた車両であって、
前記左右のフロントピラーの上端同士を連結するための車幅方向に延びるフロントヘッダが閉断面構造の部材で構成され、
前記ルーフウィンドウパネルが前記フロントヘッダの上方に配置され、該フロントヘッダの少なくとも後部が前記ルーフウィンドウパネルから離間されていることを特徴とする車両の上部車体構造。
【請求項2】
前記フロントウィンドウが前記ルーフウィンドウパネルと一体成形されている、請求項1に記載の車両の上部車体構造。
【請求項3】
前記フロントヘッダが上下に扁平な断面形状を有し、該扁平なフロントヘッダが、その前端部が前記ルーフウィンドウパネルに隣接し、後端部が前記ルールウィンドウパネルから離間するように傾斜して配置されている、請求項1又は2に記載の車両の上部車体構造。
【請求項4】
前記フロントヘッダにサンバイザが配設され、該サンバイザが、前記フロントヘッダと実質的に同じ方向に延びる格納位置をとる、請求項3に記載の車両の上部車体構造。
【請求項5】
前記フロントヘッダの後端部且つ下面に凹所が形成され、該凹所に前記サンバイザの前部が収容されている、請求項4に記載の車両の上部車体構造。
【請求項6】
前記サンバイザが、前記フロントヘッダの下面に沿った格納位置をとる、請求項3に記載の車両の上部車体構造。
【請求項7】
前記車両が、車体前後方向に複数列のシートを備え、前記扁平断面のフロントヘッダの傾斜角度が、第1シート列よりも後方の列のシートの乗員の視線と略一致するように設定されている、請求項3〜6のいずれか一項に記載の車両の上部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−237890(P2007−237890A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62343(P2006−62343)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】