説明

車両の制御装置

【課題】タイミングベルトの寿命が近づいた場合に、フェイルセーフを行うことができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】タイミングベルトの劣化状態を判定し(ステップS13)、タイミングベルトが劣化していると判定したとき(ステップS13でYESと判定)、タイミングベルトが共振周波数における回転とならないようにエンジン回転数Neを制御する(ステップS15)ことにより、タイミングベルトが所定の劣化状態となったことを条件に、タイミングベルトの劣化が早まることを防止して、タイミングベルトの寿命を一時的に延命させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転力を伝達するベルトを備えた車両の制御装置に関し、特に、タイミングベルトのフェイルセーフを行う車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンを有する車両は、吸排気バルブの開閉と、ピストンの上下動と、のタイミングを適切に計るため所謂タイミングベルトと呼ばれるベルトが用いられている。
【0003】
このようなベルトには、大きな力や偏った力がかかるとともに、経年変化により劣化し、張力が低下してしまうということが知られている。このようにベルトが劣化してしまうと、隙間が大きくなりベルトが磨り減りやすくなってしまったり、吸気バルブと排気バルブの開閉タイミングがずれてしまったりしてしまう。
【0004】
このため、このような車両においては、所定の時期にベルトの交換をさせるようにしている。例えば、車両の走行距離を計測し、この走行距離が所定の距離になった場合、保守点検時期の到来をドライバーに対してウォーニング等の警告表示で知らせるようにしている。
【0005】
また、ベルトの寿命が残り少ないと判断した場合に、交換するように警告する疲労警告システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。この疲労警告システムは、エンジンの回転数が所定の基準回転数を超えている時間に基づいて、累積的に疲労度を導出し、導出した累積疲労度が所定の基準疲労度に至った場合に、ベルトの疲労を警告するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−239802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来のベルトに関するものにおいては、ベルトの寿命が近いことを警告することのみであり、ベルトが交換されるまでの走行に対して何らメリットを与えるものではなかった。例えば、ベルトの寿命が近いことを警告した後に、ベルトに大きな負荷がかかる走行状態となり、予期していたベルトの寿命よりも早めてしまい、ドライバビリティを損ねてしまうおそれがあった。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、ベルトの寿命が近づいた場合に、思わぬ車両走行によってベルト寿命を早め、ドライバビリティの悪化を招くことを防止することができる車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両の制御装置は、上記課題を解決するため、(1)エンジンの出力軸の回転力を伝達するベルトの劣化状態を判定するベルト劣化判定手段と、前記ベルト劣化判定手段により前記ベルトが所定の劣化状態であると判定されたことを条件として、前記ベルトが共振周波数における回転とならないように、前記エンジンの回転数を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とした構成を有している。
【0010】
この構成により、ベルトの劣化状態を判定し、ベルトが劣化していると判定したことを条件として、ベルトが共振周波数における回転とならないようにエンジンの回転数を制御するので、ベルトが所定の劣化状態となったことを条件に、ベルトの劣化が早まることを防止して、ベルト寿命を一時的に延命させることができる。
【0011】
また、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)に記載の車両の制御装置において、(2)前記ベルト劣化判定手段は、前記ベルトの有効張力を積算し、前記有効張力の積算値が所定の値以上であることを条件として、前記ベルトが所定の劣化状態であると判定することを特徴とした構成を有している。
【0012】
この構成により、ベルトの有効張力を積算し、この積算値が所定の値以上であることを条件として、ベルトが所定の劣化状態であると判定するので、ベルトの有効張力を積算することにより、簡単確実にベルトの劣化状態を判定することができ、ベルトが所定の劣化状態となったときのベルト劣化の急激な進行を、確実に防止することができる。
【0013】
また、本発明に係る車両の制御装置は、上記(1)または(2)に記載の車両の制御装置において、(3)前記制御手段は、前記ベルト劣化判定手段により前記ベルトが所定の劣化状態であると判定されたことを条件として、前記エンジンの回転数とともに変速比を制御することを特徴とした構成を有している。
【0014】
この構成により、ベルトが所定の劣化状態であると判定されたことを条件として、エンジンの回転数とともに変速比を制御するので、エンジン回転数の変更による車速の増減を、変速比の変更で抑えることができ、ドライバビリティの悪化を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ベルトが所定の劣化状態となったことを条件に、ベルトの劣化が早まることを防止して、ベルト寿命を一時的に延命させることができる車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態における制御装置を備えた車両の概略ブロック構成図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるエンジンの概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるエンジンの概略斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるタイミングベルトの寿命を説明するためのS−N線図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるタイミングベルトのエンジン回転数における有効張力を表すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態における車両制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
まず、本発明の実施の形態における制御装置を備えた車両の構成について、図1に示す車両の概略ブロック構成図、図2に示すエンジンの概略断面図、および、図3に示すエンジンの概略斜視図を参照して、説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態における車両10は、動力源としてのエンジン20と、エンジン20において発生した動力を伝達するとともに車両10の走行状態等に応じて変速比を変化させるトランスミッション30と、トランスミッション30から伝達された動力を駆動軸としてのドライブシャフト51L、51Rに分配するディファレンシャル機構40と、ドライブシャフト51L、51Rから伝達された動力により回転させられ、車両10を駆動させる駆動輪52L、52Rと、を備えている。
【0019】
また、車両10は、車両10全体を制御するための車両用電子制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100と、トランスミッション30を油圧により制御する油圧制御装置120と、図示しない警告装置と、を備えている。なお、上記警告装置は、後述するタイミングベルト250(図3参照)の寿命が近づいた場合に、ドライバーに警告を与えるものである。さらに、車両10は、クランクセンサ131と、駆動軸回転数センサ132と、アクセルセンサ133と、フットブレーキセンサ(以下、「FBセンサ」という)134と、スロットルセンサ135と、吸入空気量センサ136と、吸入空気温度センサ137と、冷却水温センサ138と、カムシャフトセンサ139と、その他図示しない各種センサを備えている。上記車両10に備えられたそれぞれのセンサは、検出した検出信号を、ECU100に出力するようになっている。
【0020】
エンジン20は、内燃機関によって構成されており、特に本実施の形態においては、ピストン211が2往復する間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行う、所謂4サイクルのガソリンエンジンによって構成されているものとして説明する。また、本実施の形態におけるエンジン20は、直列4気筒のガソリンエンジンを採用したものとして説明するが、これに限らず、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン、V型12気筒エンジン、水平対向6気筒エンジン等の種々の型式のエンジンを採用することができる。なお、エンジン20の詳細については、後述する。
【0021】
トランスミッション30は、クランクシャフト213を介してエンジン20により出力されたトルクを入力し、車両10の走行状態に応じて変速比を変化させて、ディファレンシャル機構40に出力するようになっている。また、本実施の形態において、トランスミッション30は、無段階に変速比を切り替えることができる無段変速機(以下、CVTという)を備え、後述するように、ECU100に制御され、アクセル開度Acc、車速V、エンジン回転数Ne等によって、変速比が切り替えられるようになっている。
【0022】
ディファレンシャル機構40は、カーブ等を走行する場合に、駆動輪52Lと駆動輪52Rとの回転数の差を許容するものである。ディファレンシャル機構40は、トランスミッション30から入力されたトルクを、ドライブシャフト51L、51Rに分配して、出力するようになっている。なお、ディファレンシャル機構40は、ドライブシャフト51L、51Rを同一回転とし、駆動輪52Lと駆動輪52Rとの回転数の差を許容しないデフロック状態をとることができるものであってもよい。
【0023】
駆動輪52L、52Rは、ドライブシャフト51L、51Rに取り付けられた、例えば金属製のホイールと、ホイールの外周を覆うように取り付けられた、例えばゴム製のタイヤとを備えている。また、駆動輪52L、52Rは、ドライブシャフト51L、51Rによって伝達されたトルクにより回転し、タイヤと路面との摩擦作用によって、車両10を駆動させるようになっている。
【0024】
ECU100は、中央演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)100a、固定されたデータの記憶を行うROM(Read Only Memory)100b、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)100c、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)100dおよび入出力インターフェース回路(I/Fと図示)100eを備え、車両10の制御を統括するようになっている。
【0025】
また、後述するように、ECU100は、クランクセンサ131、駆動軸回転数センサ132、アクセルセンサ133等と接続されている。ECU100は、これらのセンサから出力された検出信号により、エンジン回転数Ne、車速V(車両10の走行速度)、アクセル開度Acc等を検出するようになっている。
【0026】
また、ECU100は、内部時計を有し、時刻を計測することができるようになっている。
さらに、ECU100は、油圧制御装置120を制御し、トランスミッション30の各部の油圧を制御するようになっている。これにより、ECU100は、トランスミッション30の変速比を変化させることができるようになっている。
【0027】
また、ECU100のROM100bには、スロットル開度制御マップ、変速マップ、車両10の諸元値、タイミングベルト250(図3参照)の寿命判定値、タイミングベルト250の有効張力マップ、車両制御を実行するためのプログラム等が記憶されている。
【0028】
スロットル開度制御マップは、アクセル開度Accに基づいて、スロットル開度θthを求めるためのマップである。また、スロットル開度制御マップは、複数のモードを有し、走行状態、走行路等に応じて、モードを切り替えるようにしてもよい。ECU100は、スロットル開度制御マップにおけるモードの選択を、走行状態、走行路等に応じて、自動で切り替えるようにしてもよいし、ドライバーによる選択に応じて切り替えるようにしてもよい。
【0029】
また、変速マップは、アクセル開度Accに基づいて、車速Vとエンジン回転数Neとに応じて、変速比が設定されたマップである。例えば、ECU100は、この変速マップに基づいて、アクセル開度Accと車速Vとエンジン回転数Neに応じた変速比が、所定の変速比幅以上変わった場合に変速比を切り替えるようする。また、この変速比を切り替える変速比幅は、固定の変速幅ではなく、自由に変更するようにしてもよい。さらに、変速比を切り替える変速幅を設けずに、現在アクセル開度Accと車速Vとエンジン回転数Neとに応じて、その都度変速比を設定するようにしてもよい。
ここで、ECU100は、変速マップに基づいて、アクセル開度Accと車速Vとエンジン回転数Neに応じて決定した変速比となるように、CVTを制御するとともに、上記変速比をRAM100cに記憶しておく。
【0030】
また、車両10の諸元値には、全幅・全高等の車両寸法、車両重量、エンジン総排気量、最小回転半径、車両10のタイヤ径(駆動輪52L、52Rの直径)等が含まれている。
また、ECU100のROM100bに記憶されたタイミングベルト250の寿命判定値、タイミングベルト250の有効張力マップおよび車両制御を実行するためのプログラムについては、後述する。
【0031】
油圧制御装置120は、電磁弁としての複数のソレノイドバルブを備え、ECU100によって制御されることにより、各ソレノイドバルブにより油圧回路の切り替えおよび油圧制御が行われ、トランスミッション30の各部を動作させるようになっている。
【0032】
クランクセンサ131は、ECU100によって制御されることにより、クランクシャフト213の回転数を検出して、検出した回転数に応じた検出信号をECU100に出力するようになっている。また、ECU100は、クランクセンサ131から出力された検出信号が表すクランクシャフト213の回転数を、エンジン回転数Neとして取得するようになっている。
【0033】
駆動軸回転数センサ132は、ECU100によって制御されることにより、ドライブシャフト51L(または51R)の回転数を検出して、検出した回転数に応じた検出信号をECU100に出力するようになっている。また、ECU100は、駆動軸回転数センサ132から出力された検出信号が表すドライブシャフト51L(または51R)の回転数を、駆動軸回転数Ndとして取得するようになっている。さらに、ECU100は、駆動軸回転数センサ132から取得した駆動軸回転数Ndに基づいて、車速Vを算出するようになっている。
【0034】
アクセルセンサ133は、ECU100によって制御されることにより、アクセルペダルが踏み込まれた踏み込み量(以下、ストロークという)を検出して、検出したストロークに応じた検出信号をECU100に出力するようになっている。また、ECU100は、アクセルセンサ133から出力された検出信号が表すアクセルペダルのストロークから、アクセル開度Accを算出するようになっている。
【0035】
FBセンサ134は、ECU100によって制御されることにより、フットブレーキペダルが踏み込まれた踏み込み量(以下、ストロークという)を検出して、検出したストロークに応じた検出信号をECU100に出力するようになっている。また、ECU100は、FBセンサ134から出力された検出信号が表すフットブレーキペダルのストロークから、フットブレーキ踏力Bfを算出するようになっている。
【0036】
スロットルセンサ135は、ECU100によって制御されることにより、図示しないスロットルアクチュエータにより駆動されるエンジン20のスロットルバルブ313(図2参照)の開度を検出して、検出した開度に応じた検出信号をECU100に出力するようになっている。また、ECU100は、スロットルセンサ135から出力された検出信号が表すスロットルバルブの開度を、スロットル開度θthとして取得するようになっている。
また、ECU100は、スロットル開度制御マップに基づいてアクセル開度Accによりスロットル開度θthを求めるので、スロットルセンサ135から出力された検出信号を用いずに、上記スロットル開度制御マップにより求めたスロットル開度θthを検出値として代用することもできる。
【0037】
吸入空気量センサ136は、ECU100によって制御されることにより、エンジン20の吸気バルブ223(図2参照)から吸入される空気量を検出して、検出した空気量に応じた検出信号をECU100に出力するようになっている。また、ECU100は、吸入空気量センサ136から出力された検出信号から、エンジン20の吸入空気量Qarを取得するようになっている。
【0038】
吸入空気温度センサ137は、ECU100によって制御されることにより、エンジン20の吸気バルブ223から吸入される空気の温度を検出して、検出した温度に応じた検出信号をECU100に出力するようになっている。また、ECU100は、吸入空気温度センサ137から出力された検出信号から、エンジン20の吸入空気温度Tarを取得するようになっている。
【0039】
冷却水温センサ138は、ECU100によって制御されることにより、エンジン20のシリンダブロック210(図2参照)を冷却する冷却水(以下、単にエンジン20の冷却水という)の温度を検出して、検出した温度に応じた検出信号をECU100に出力するようになっている。また、ECU100は、冷却水温センサ138から出力された検出信号から、エンジン20の冷却水温Twを取得するようになっている。
【0040】
カムシャフトセンサ139は、ECU100によって制御されることにより、排気カムシャフト242(図3参照)の回転数を検出して、検出した回転数に応じた検出信号をECU100に出力するようになっている。また、ECU100は、カムシャフトセンサ139から出力された検出信号が表す排気カムシャフト242の回転数を、カムシャフト回転数Ncsとして取得するようになっている。
【0041】
次に、エンジン20の詳細について、説明する。なお、図2においては、直列に配置された4つの気筒のうちの1つについて説明する。
図2に示すように、エンジン20は、エンジン本体部21を有し、エンジン本体部21は、シリンダブロック210と、シリンダブロック210の上部に固定されたシリンダヘッド220と、オイルパン230と、を備えている。
【0042】
シリンダブロック210には、ピストン211が往復動可能に設けられている。ピストン211は、コネクティングロッド212と連結されている。コネクティングロッド212は、クランクシャフト213と連結されている。そして、ピストン211の往復動は、コネクティングロッド212を介して、クランクシャフト213の回転運動に変換されるようになっている。
【0043】
また、エンジン本体部21においては、シリンダブロック210とシリンダヘッド220とピストン211とによって、燃焼室201が形成されている。
エンジン20は、燃焼室201において燃料と空気との混合気を所望のタイミングで燃焼させることによりピストン211を往復動させ、コネクティングロッド212を介してクランクシャフト213を回転させることにより、トランスミッション30にトルクを出力するようになっている。なお、エンジン20に用いられる燃料は、ガソリンあるいは軽油等の炭化水素系の燃料や、エタノール等のアルコールとガソリンとを混合したアルコール燃料であってもよい。
【0044】
シリンダヘッド220は、エアクリーナ312を通過して車外から流入した空気を燃焼室201に導入するための吸気管311と、燃焼室201における混合気の燃焼によって発生した排気ガスを触媒コンバータ322に通じさせて車外へ排出するための排気管321と、が連結されている。
【0045】
なお、エアクリーナ312は、例えば、内部に収容した紙または合成繊維の不織布のフィルターにより、吸入空気中の異物を除去するようになっている。チリやホコリといった空気中の異物には硬いものもあり、このような硬い異物が燃焼室201に入り込むと、研磨剤として働いてしまい、シリンダブロック210の内壁面やピストン211を磨耗させる原因ともなり得る。したがって、エアクリーナ312は、これらの異物を除去して、吸入空気を清浄化するようになっている。
【0046】
また、吸気管311には、空気の流量を調整するためのスロットルバルブ313が設けられている。スロットルバルブ313は、薄い円板状の弁体の中央にシャフトを備えて構成されており、このシャフトが図示しないスロットルバルブアクチュエータによって回動させられることによって弁体が回動し、吸気管311における空気の流量を変更するようなっている。
【0047】
また、スロットルバルブ313の開度は、スロットルセンサ135によって検出され、スロットルバルブ313の開度を表す検出信号がスロットルセンサ135によってECU100に入力されるようになっている。なお、スロットルバルブ313の開度は、ECU100により、アクセルセンサ133からのアクセル開度信号Accに基づいて、予め記憶されたスロットル開度制御マップにより求められたスロットル開度θthとなるように制御される。また、ECU100は、運転状態によっては、アクセル開度信号Accにかかわらず、スロットル開度θthを制御することができるようになっている。
【0048】
また、触媒コンバータ322は、一般に、排気ガスに含まれる未燃炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および窒素酸化物(NOx)といった有害物質を効率的に除去することができる三元触媒を備えている。この三元触媒は、好ましくはNOx含有率の高い排気ガスからでも、NOxを効率的に除去する機能を有するものが用いられる。
【0049】
さらに、シリンダヘッド220は、吸気管311と燃焼室201とを連通させる吸気ポート221と、燃焼室201と排気管321とを連通させる排気ポート222と、が形成され、吸気管311から燃焼室201への燃焼用空気の導入を制御するための吸気バルブ223と、燃焼室201から排気管321への排気ガスの排出を制御するための排気バルブ224と、燃料を燃焼室201内へ噴射するためのインジェクタ225と、燃焼室201内の混合気に点火するための点火プラグ226と、が取り付けられている。
【0050】
吸気バルブ223は、上端に後述する吸気カムシャフト241(図3参照)に設けられた吸気カム243が当接されており、吸気カム243の回転により、吸気ポート221と燃焼室201との間を開閉するようになっている。
【0051】
排気バルブ224は、上端に後述する排気カムシャフト242(図3参照)に設けられた吸気カム244が当接されており、排気カム244の回転により、燃焼室201と排気ポート222との間を開閉するようになっている。
【0052】
インジェクタ225は、ECU100により制御されるソレノイドコイルおよびニードルバルブを有している。また、インジェクタ225には、所定の圧力で燃料が供給されている。したがって、インジェクタ225は、ECU100によってソレノイドコイルに所望のタイミングで通電されると、ニードルバルブを開いて、燃焼室201に燃料を噴射するようになっている。
【0053】
点火プラグ226は、プラチナやイリジウム合金製の電極を有する公知の点火プラグである。点火プラグ226は、ECU100によって所望のタイミングで上記電極に通電されて放電を発生させることにより、燃焼室201内の混合気に点火するようになっている。
【0054】
図3に示すように、エンジン20は、シリンダヘッド220の上部に、吸気カムシャフト241および排気カムシャフト242が、回転可能に設けられている。
【0055】
吸気カムシャフト241には、吸気バルブ223の上端に当接する吸気カム243が設けられている。これにより、吸気カムシャフト241が回転すると、吸気カム243により吸気バルブ223が開閉駆動されるようになっている。
【0056】
排気カムシャフト242には、排気バルブ224の上端に当接する排気カム244が設けられている。これにより、排気カムシャフト242が回転すると、排気カム244により排気バルブ224が開閉駆動されるようになっている。
【0057】
吸気カムシャフト241の一端部には、吸気カムシャフト241を吸気カムスプロケット245に対して回転させる回転位相差可変アクチュエータ247が設けられている。また、排気カムシャフト242の一端部には、排気カムスプロケット246が取り付けられている。一方、駆動側回転軸であるクランクシャフト213には、クランクスプロケット248が取り付けられている。
【0058】
これら吸気カムスプロケット245、排気カムスプロケット246およびクランクスプロケット248には、タイミングベルト250が巻き掛けられている。これにより、タイミングベルト250によって、クランクスプロケット248の回転が、吸気カムスプロケット245および排気カムスプロケット246に伝達される。すなわち、駆動側回転軸としてのクランクシャフト213の回転が、タイミングベルト250を介して、従動側回転軸としての吸気カムシャフト241および排気カムシャフト242に伝達されることで、これら吸気カムシャフト241および排気カムシャフト242に駆動される吸気バルブ223および排気バルブ224が、クランクシャフト213に同期して吸気ポート221および排気ポート222を開閉するようになっている。
【0059】
また、タイミングベルト250は、テンショナ251によって適度なテンションが与えられ、吸気カムスプロケット245、排気カムスプロケット246およびクランクスプロケット248から外れることが防止されている。
【0060】
上記のように、タイミングベルト250は、エンジン20の出力軸であるクランクシャフト213の回転力を、吸気バルブ223および排気バルブ224を駆動する吸気カムシャフト241および排気カムシャフト242に伝達するようになっている。すなわち、タイミングベルト250は、本発明におけるベルトを構成している。
【0061】
次に、ECU100のROM100bに記憶されたタイミングベルト250の寿命判定値、および、タイミングベルト250の有効張力マップについて、説明する。
まず、本実施の形態におけるタイミングベルト250の寿命について、図4に示すS−N線図を参照して、説明する。
【0062】
図4に示すように、タイミングベルト250の寿命は、有効張力(N)と、繰り返し回数(n)と、によって求められる。有効張力(N)とは、タイミングベルト250がどれくらいの力で引っ張られているかを示す値であり、繰り返し回数(n)とは、何回すなわち何回転されたかを示すものである。
【0063】
例えば、タイミングベルト250が有効張力aでずっと回転していた場合、c回転で寿命が来ることを示している。また、タイミングベルト250が有効張力bでずっと回転していた場合、d回転で寿命が来ることも示している。したがって、タイミングベルト250に掛かる有効張力(N)が、aからbとなった場合、タイミングベルト250の寿命は、c回転からd回転まで延長される。このように、タイミングベルト250の寿命は、有効張力(N)と、繰り返し回数(n)と、によって求められる面積によって、おおむね把握することができるようになっている。
【0064】
すなわち、タイミングベルト250の寿命は、タイミングベルト250にかかった有効張力の総和によってわかる。したがって、予めこの総和によってタイミングベルト250の寿命を算定し、この算定値をタイミングベルト250の寿命判定値として、ECU100のROM100bに記憶しておく。
【0065】
次に、本実施の形態におけるタイミングベルト250の有効張力マップについて、説明する。図5に、エンジン回転数におけるタイミングベルト250の有効張力を表すグラフを示す。
【0066】
図5に示すように、タイミングベルト250の有効張力は、エンジン回転数によって変化する。特に、エンジン回転数が特定の回転数となると、タイミングベルト250が共振周波数となり、有効張力が著しく強くなる。ところが、タイミングベルト250の有効張力は、上記共振周波数となるエンジン回転数を少しずれるだけで、大幅に弱くなるようになっている。
【0067】
そこで、ECU100のROM100bに、このようなタイミングベルト250のエンジン回転数における有効張力を表す、タイミングベルト250の有効張力マップを記憶しておく。
【0068】
以下、本発明の実施の形態における制御装置を備えた車両10の特徴的な構成について説明する。
【0069】
ECU100は、タイミングベルト250の劣化状態を判定するようになっている。また、ECU100は、タイミングベルト250の有効張力を積算し、有効張力の積算値が所定の値、すなわち、タイミングベルト250の寿命判定値以上であることを条件として、タイミングベルト250が所定の劣化状態であると判定するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明におけるベルト劣化判定手段を構成している。
【0070】
また、ECU100は、タイミングベルト250が所定の劣化状態であると判定したことを条件として、タイミングベルト250が共振周波数における回転とならないように、エンジン20の回転数を制御するようになっている。また、ECU100は、タイミングベルト250が所定の劣化状態であると判定したことを条件として、エンジン20の回転数とともに変速比を制御するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における制御手段を構成している。
【0071】
次に、本実施の形態における車両制御処理の動作について、図6に示すフローチャートを参照して、説明する。
【0072】
なお、図6に示すフローチャートは、ECU100のCPU100aによって、RAM100cを作業領域として実行される車両制御処理のプログラムの実行内容を表す。この車両制御処理のプログラムは、ECU100のROM100bに記憶されている。また、この車両制御処理は、ECU100のCPU100aによって、イグニッションのオンからオフまでの間に、予め定められた時間間隔、例えば、8ms間隔で実行されるようになっている。
【0073】
図6に示すように、まず、ECU100のCPU100aは、タイミングベルト250の有効張力を検出する(ステップS11)。例えば、タイミングベルト250の有効張力は、クランクスプロケット248と排気カムスプロケット246の回転数、すなわち、クランクセンサ131による検出信号により取得したエンジン回転数Neと、カムシャフトセンサ139による検出信号により取得したカムシャフト回転数Ncsと、から求めることができる。
【0074】
次に、ECU100のCPU100aは、タイミングベルト250の有効張力を積算する(ステップS12)。例えば、タイミングベルト250の有効張力の積算は、本車両制御処理の実行タイミングおよび回転数から、上記検出した有効張力で何回転したかを考慮し、有効張力を積算するようにする。具体的に説明すると、本車両制御処理の実行タイミングが8msであるとき、タイミングベルト250の有効張力をTAとすると、タイミングベルト250の回転数はエンジン回転数Neであるので、本車両制御処理の1間隔あたりの回転、すなわち、8ms間の回転数は、Ne*8/(60*1000)である。したがって、本車両制御処理の1処理あたりにおいて加算する有効張力Taは、下記式
Ta=TA*Ne*8/(60*1000)
によって、求めることができる。
【0075】
したがって、エンジン回転数が1800rpmであれば、加算する有効張力Taは、0.24TAとなり、エンジン回転数が4200rpmであれば、加算する有効張力Taは、0.56TAとなる。なお、有効張力の積算値は、タイミングベルト250の交換時にクリアされるものとする。
【0076】
次に、ECU100のCPU100aは、上記算出した有効張力積算値が、寿命判定値以上であるか否かの判定を行い(ステップS13)、有効張力積算値が寿命判定値以上でない、すなわち、有効張力積算値が寿命判定値より小さく、タイミングベルト250がまだ寿命に達していないと判断した場合には(ステップS13でNOと判定)、本車両制御処理を終了する。
【0077】
一方、ECU100のCPU100aは、有効張力積算値が寿命判定値以上であると判定した場合には(ステップS13でYESと判定)、エンジン回転数Neがタイミングベルト250の共振周波数となる回転数か否かの判定を行い(ステップS14)、エンジン回転数Neが共振周波数となる回転数でないと判断した場合には(ステップS14でNOと判定)、本車両制御処理を終了する。例えば、ECU100のCPU100aは、ROM100bに記憶されたタイミングベルト250の有効張力マップを参照し、現在のエンジン回転数Neにおけるタイミングベルト250の有効張力が、所定の有効張力以上であるか否かによって、エンジン回転数Neがタイミングベルト250の共振周波数となる回転数か否かの判定を行う。なお、ECU100のCPU100aは、有効張力積算値が寿命判定値以上であると判定した場合には(ステップS13でYESと判定)、警告装置に対して、警告指示を与える。警告装置は、ECU100から警告指示が与えられると、タイミングベルト250の寿命が近づいたことをドライバーに警告する。
【0078】
一方、ECU100のCPU100aは、エンジン回転数Neがタイミングベルト250の共振周波数となる回転数であると判定した場合には(ステップS14でYESと判定)、エンジン回転数Neの変更制御を行う(ステップS15)。例えば、ECU100のCPU100aは、現在のエンジン回転数Neが、その回転数の近傍においてタイミングベルト250の有効張力が最も高くなるエンジン回転数Neよりも小さい場合には、エンジン回転数Neが低くなるように制御し、タイミングベルト250の有効張力が最も高くなるエンジン回転数Neよりも大きい場合には、エンジン回転数Neが高くなるように制御する。
【0079】
次いで、ECU100のCPU100aは、変速比変更制御を行う(ステップS16)。ここでは、ECU100のCPU100aは、上記エンジン回転数Neの変更により車速Vが変更されないように、変速比を制御する。すなわち、ECU100のCPU100aは、エンジン回転数Neが低くなるように制御した場合には、シフトアップを行い、エンジン回転数Neが高くなるように制御した場合には、シフトダウンを行うように、トランスミッション30のCVTを、油圧制御装置120を介して制御する。
【0080】
以上のように、本実施の形態における車両の制御装置は、タイミングベルト250の劣化状態を判定し、タイミングベルト250が劣化していると判定したことを条件として、タイミングベルト250が共振周波数における回転とならないようにエンジン回転数Neを制御するので、タイミングベルト250が所定の劣化状態となったことを条件に、タイミングベルト250の劣化が早まることを防止して、タイミングベルト250の寿命を一時的に延命させることができる。
【0081】
また、本実施の形態における車両の制御装置は、タイミングベルト250の有効張力を積算し、この積算値がタイミングベルト250の寿命判定値以上であることを条件として、タイミングベルト250が所定の劣化状態であると判定するので、タイミングベルト250の有効張力を積算することにより、簡単確実にタイミングベルト250の劣化状態を判定することができ、タイミングベルト250が所定の劣化状態となったときのタイミングベルト250の劣化の急激な進行を、確実に防止することができる。
【0082】
さらに、本実施の形態における車両の制御装置は、タイミングベルト250が所定の劣化状態であると判定されたことを条件として、エンジン回転数Neとともに変速比を制御するので、エンジン回転数Neの変更による車速Vの増減を、変速比の変更で抑えることができ、ドライバビリティの悪化を防止することができる。
【0083】
なお、上述した実施の形態においては、1つのECUを有するものとして説明したが、これに限らず、複数のECUによって構成されるものであってもよい。例えば、エンジン20の燃焼制御を実行するE−ECU、トランスミッション30の変速制御を実行するT−ECU等の複数のECUによって、本実施の形態のECU100が構成されるものであってもよい。この場合、各ECUは、必要な情報を相互に入出力する。
【0084】
また、上述した実施の形態においては、変速機として無段階で変速比を変更するCVTを用いた車両10の場合について説明したが、これに限らず、所定の複数段のギヤを切り替えて変速するATやMTを用いる車両等とすることもできる。この場合も上述した車両の制御装置と同様の効果が得られる。
【0085】
また、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内ですべての変更が含まれることが意図される。
【0086】
以上説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、ベルトが所定の劣化状態となったことを条件に、ベルトの劣化が早まることを防止して、ベルト寿命を一時的に延命させることができるという効果を有し、タイミングベルトのフェイルセーフを行う車両の制御装置等として有用である。
【符号の説明】
【0087】
10 車両
20 エンジン
30 トランスミッション
100 ECU(ベルト劣化判定手段、制御手段)
120 油圧制御装置
131 クランクセンサ
132 駆動軸回転数センサ
135 スロットルセンサ
139 カムシャフトセンサ
201 燃焼室
210 シリンダブロック
211 ピストン
212 コネクティングロッド
213 クランクシャフト
220 シリンダヘッド
221 吸気ポート
222 排気ポート
223 吸気バルブ
224 排気バルブ
225 インジェクタ
226 点火プラグ
230 オイルパン
241 吸気カムシャフト
242 排気カムシャフト
243 吸気カム
244 排気カム
245 吸気カムスプロケット
246 排気カムスプロケット
247 回転位相差可変アクチュエータ
248 クランクスプロケット
250 タイミングベルト(ベルト)
251 テンショナ
311 吸気管
313 スロットルバルブ
321 排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸の回転力を伝達するベルトの劣化状態を判定するベルト劣化判定手段と、
前記ベルト劣化判定手段により前記ベルトが所定の劣化状態であると判定されたことを条件として、前記ベルトが共振周波数における回転とならないように、前記エンジンの回転数を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記ベルト劣化判定手段は、前記ベルトの有効張力を積算し、前記有効張力の積算値が所定の値以上であることを条件として、前記ベルトが所定の劣化状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ベルト劣化判定手段により前記ベルトが所定の劣化状態であると判定されたことを条件として、前記エンジンの回転数とともに変速比を制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−179613(P2011−179613A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45406(P2010−45406)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】