車両の制御装置
【課題】リチウムイオン二次電池を搭載した車両において、Li析出を抑制するための制御を実行した上で、回生発電による回収エネルギを確保しつつ車両制動力の瞬間的な変動によって車両運転性が低下しないようにする。
【解決手段】HV−ECU302は、リチウムイオン二次電池であるバッテリ18におけるLi析出を抑制するために、バッテリ18の充放電履歴に基づいて充電電力上限値を調整する。さらに、HV−ECU302は、調整された充電電力上限値の範囲内でブレーキペダル操作に対応した要求制動力に対する、制動装置10による液圧制動力と、第2MG60による回生制動力との分担を決定するブレーキ協調制御を実行する。Li析出を抑制するために充電電力上限値を制限する際における充電電力上限値の制限度合は、制動装置10に液圧を供給するためのブレーキ液圧回路80での液圧制御アクチュエータの累積動作回数の増加に応じて低下される。
【解決手段】HV−ECU302は、リチウムイオン二次電池であるバッテリ18におけるLi析出を抑制するために、バッテリ18の充放電履歴に基づいて充電電力上限値を調整する。さらに、HV−ECU302は、調整された充電電力上限値の範囲内でブレーキペダル操作に対応した要求制動力に対する、制動装置10による液圧制動力と、第2MG60による回生制動力との分担を決定するブレーキ協調制御を実行する。Li析出を抑制するために充電電力上限値を制限する際における充電電力上限値の制限度合は、制動装置10に液圧を供給するためのブレーキ液圧回路80での液圧制御アクチュエータの累積動作回数の増加に応じて低下される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制御装置に関し、より特定的には、回生制動力および液圧制動力によるブレーキ協調制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両駆動用電動機を搭載したハイブリッド車や電気自動車等の電動車両では、制動時には車両駆動用電動機による回生制動力と、液圧制動装置による制動力(以下、液圧制動力とも称する)とを協調させて、車両全体での要求制動力を確保する制動力制御が実用化されている(たとえば、特許文献1〜3)。以下では、このような制動力制御を「ブレーキ協調制御」とも称する。回生制動による発電電力を車載蓄電装置の充電電力として回収することによって、車両のエネルギ効率すなわち燃費が改善される。
【0003】
特開2010−104087号公報(特許文献1)には、回生制動および液圧による摩擦制動のブレーキ協調制御において、所定走行距離当りの制動回数に基づいて、電動機の回生トルク、すなわち回生制動力を増大させることが記載されている。
【0004】
また、特開2010−104086号公報(特許文献2)には、車両の減速時のブレーキ協調制御において、減速度が所定値以上であり、かつ、車速が所定値以上である状態の経過時間に基づいて、電動機の回生トルク量を増大させる制御が記載されている。
【0005】
特開2010−141997号公報(特許文献3)には、電動車両のブレーキ協調制御において、蓄電装置の充電電力上限値の変化速度に対応して、回生制動力を制限する充電電力上限値の基準値を可変に設定することが記載されている。これにより、回生制動および液圧制動の両方を使用する状態から液圧制御のみを使用する状態への移行時に、液圧上昇のために必要となる時間を確保することができる。
【0006】
一方、車載蓄電装置として、リチウムイオン二次電池の適用が進められている。リチウムイオン二次電池は、エネルギ密度が高く、出力電圧が高いことから、大きな電池容量および高電圧を必要とする車載蓄電装置として好適である。
【0007】
しかしながら、リチウムイオン二次電池は、使用態様によっては、負極表面にリチウム金属が析出することによって、電池の発熱あるいは性能低下を招く虞があることが知られている。そのため、国際公開第2010/005079号(特許文献4)には、リチウムイオン二次電池の負極でのリチウム金属の析出を抑制するために、充放電履歴に基づき、バッテリへの入力許可電力を調整する制御が記載されている。具体的には、バッテリ電流の履歴に基づいて、リチウム金属が析出しない最大電流値を逐次算出するとともに、バッテリ電流が当該最大電流値を超えないように、バッテリへの入力許可電力を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−104087号公報
【特許文献2】特開2010−104086号公報
【特許文献3】特開2010−141997号公報
【特許文献4】国際公開第2010/005079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3に記載されるようなブレーキ協調制御を行なう車両では、減速時に回生制動力の比率を高めるほど、燃費を向上できる。したがって、リチウムイオン二次電池を車載蓄電装置とする車両では、リチウム金属析出を抑制した上で、可能な限り回生制動の分担を高めることが好ましい。
【0010】
しかしながら、特許文献4に示されるように、リチウム金属の析出が懸念されるような充電状態となった場合には、バッテリへの充電電力を制限する必要があるため、回生制動力も制限される。このような充電制限を開始すると、ブレーキ協調制御によって、リチウム金属の析出を抑制するために回生制動力を低下する一方で、その低下分を液圧制動力に置換えることが必要となる。
【0011】
この際に、回生制動力を高いレートで変化させると、特許文献1〜3にも記載されるように、液圧制動力の応答遅れの問題から、車両制動力に瞬間的な変動が生じる虞がある。このような制動力の変動が生じると、車両の制動性能に影響がなくとも、車両ユーザに違和感を与える可能性がある。したがって、回生電力の確保によるエネルギ効率の向上と、瞬間的な制動力変動の抑制との両立が課題となる。
【0012】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、リチウムイオン二次電池を搭載した車両において、リチウム金属の析出を抑制するように充電を制限する制御を実行した上で、回生発電による回収エネルギを確保しつつ、当該制御の影響による車両制動力の瞬間的な変動が発生しないように、ブレーキ協調制御を行なうことである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明のある局面においては、車両の制御装置であって、車両は、リチウムイオン二次電池からなるバッテリと、供給される液圧に応じた制動力を車輪に作用させるように構成された制動装置と、車輪との間で回転力を相互に伝達可能に構成されたモータジェネレータと、モータジェネレータの出力トルクを制御するようにバッテリとモータジェネレータとの間で双方向の電力変換を実行するための電力制御器とを備える。制御装置は、バッテリの充放電履歴に基づいて、バッテリの負極電位がリチウム基準電位まで低下することを防止するようにバッテリの充電電力上限値を調整するための充電制御手段と、調整された充電電力上限値の範囲内でモータジェネレータが回生制動力を発生するように、ブレーキペダル操作に対応した要求制動力に対する、制動装置による液圧制動力と回生制動力との分担を決定するための制動制御手段と、制動装置へ供給される液圧を制御するためのアクチュエータの累積動作回数をカウントするための計数手段とを備える。充電制御手段は、負極電位の低下を防止するために充電電力上限値を制限する際における充電電力上限値の制限度合を、計数手段によって検出された累積動作回数に応じて低下させるための設定手段を含む。
【0014】
好ましくは、設定手段は、累積動作回数が所定の閾値を超えた場合には、充電電力上限値を低下させる際の時間変化率を示す制限レートを、累積動作回数が閾値よりも少ない場合よりも低い値に設定する。充電制御手段は、充放電履歴に基づいてバッテリの負極にリチウム金属が析出しない最大電流として入力許容電流値を逐次設定するとともに、当該入力許容電流値に対して、制限レートが高いほど小さい値に設定されるマージンを有するように入力電流制限目標値を決定するための手段と、バッテリの充電電流が入力電流制限目標値を超えたときに、充電電力上限値を制限レートに従って減少させるための手段とをさらに含む。
【0015】
さらに好ましくは、アクチュエータは、液圧を変化させる場合に開閉されるように構成されたソレノイドバルブである。
【0016】
好ましくは、充電電力上限値の制限を開始する条件は、制限度合が高いほど緩和される。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、リチウムイオン二次電池を搭載した車両において、リチウム金属の析出を抑制するように充電を制限する制御を実行した上で、回生発電による回収エネルギを確保しつつ、当該制御の影響による車両制動力の瞬間的な変動によってユーザに違和感を与えないように、ブレーキ協調制御を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態による車両の制御装置を搭載した車両の代表例として示されるハイブリッド車の概略構成を説明するブロック図である。
【図2】図1に示したブレーキ液圧回路の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図3】図2に示したリニアソレノイドバルブの概略構造図である。
【図4】回生制動力および液圧制動力によるブレーキ協調制御の例を説明する概念図である。
【図5】図1に示したハイブリッド車におけるブレーキ協調制御の制御処理手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態によるハイブリッド車で実行されるLi析出抑制制御を説明する波形図である。
【図7】Li析出抑制制御による回生制限を説明する波形図である。
【図8】ブレーキ液圧回路における液圧制御の応答遅れを説明する概念的な波形図である。
【図9】本発明の実施の形態による車両におけるLi析出抑制制御と組み合わされたブレーキ協調制御を説明する機能ブロック図である。
【図10】リニアソレノイドバルブの動作回数の定義を説明するための概念的な動作波形図である。
【図11】本発明の実施の形態による車両におけるLi析出抑制制御によるWinの設定処理を説明するフローチャートである。
【図12】アクチュエータ(リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数に応じて回生制限レートを設定する処理を説明するフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態におけるアクチュエータ(リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数と回生制限レートの設定値との関係を説明する概念的な波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態による車両の制御装置を搭載した車両の代表例として示されるハイブリッド車の概略構成を説明するブロック図である。
【0021】
図1を参照して、ハイブリッド車5は、制動装置10と、駆動輪12と、リダクションギヤ14と、エンジン20と、発電およびエンジン始動用の第1モータジェネレータ(以下、第1MGと記載する)40と、車両駆動用の第2モータジェネレータ(以下、第2MGと記載する)60と、ブレーキ液圧回路80と、動力分割機構100と、変速機200とを含む。
【0022】
ハイブリッド車5は、電力制御ユニット16と、リチウムイオン二次電池によって構成されるバッテリ18と、ブレーキペダル22と、ブレーキECU(Electronic Control Unit)300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とをさらに含む。代表的には、各ECUは、図示しない、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力ポートおよび通信ポートを含むマイクロコンピュータによって構成される。各ECUの少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
【0023】
ブレーキECU300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とは、通信バス310を用いて相互に通信可能に接続される。
【0024】
電源ECU306には、IGスイッチ36が接続される。電源ECU306は、運転者がIGスイッチ36に対してハイブリッド車5のシステムを起動する操作をした場合に、ブレーキペダル22が踏み込まれていることを条件として、図示しないIGリレー(あるいは、IGリレーおよびACCリレー)をオンする。これに応じて、ハイブリッド車5を構成する電気機器群に電源が供給されることによって、ハイブリッド車5が走行可能な状態となる。
【0025】
なお、本実施の形態においては、ブレーキECU300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とは、別個のECUとして説明したが、これら複数のECUのうちの一部または全部の機能を統合したECUを設けてもよい。
【0026】
エンジン20は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。エンジン20には、エンジン回転数センサ34が設けられる。エンジン回転数センサ34は、エンジン20の回転数を検出して、検出されたエンジン20の回転数を示す信号をエンジンECU304に送信する。
【0027】
エンジンECU304は、エンジン回転数センサ34を始めとする各種センサからの信号に基づいて、エンジン20の燃料噴射量、点火時期および吸入空気量等を制御する。これにより、HV−ECU302によって定められた目標回転数および目標トルクで動作するように、エンジン20が制御される。
【0028】
バッテリ18は、リチウムイオン二次電池によって構成される。リチウムイオン二次電池は、エネルギ密度が高く、他の二次電池に比べ初期回路電圧および平均動作電圧が高い。このことから、リチウムイオン二次電池は、大きな電池容量、高い電圧を必要とする車両の車載蓄電装置に好適である。また、リチウムイオン二次電池は、クーロン効率が100%に近いことから充放電効率が高く、したがって、他の二次電池に比べエネルギの有効利用が可能であるという利点も有する。
【0029】
しかしながら、特許文献4にも示されるように、リチウムイオン二次電池は、充電条件によっては、負極表面にリチウム金属が析出する虞がある。このため、本実施の形態では、特許文献4と同様に、リチウムイオン二次電池でのリチウム金属析出を抑制するためにバッテリ18への充電を制限する制御(以下、「Li析出抑制制御」とも称する)を実行するものとする。
【0030】
バッテリ18には、バッテリ18の状態値を検出するためのバッテリセンサ19が設けられる。たとえば、バッテリセンサ19は、状態値として、バッテリ電流Ib、バッテリ電圧Vbおよびバッテリ温度Tbを検出するように構成される。バッテリセンサ19によって検出された状態値は、HV−ECU302へ送信される。
【0031】
以下では、バッテリ電流Ibについて、バッテリ18の放電時には正値(Ib>0)とする一方で、充電時には負値(Ib<0)で示すものとする。HV−ECU302は、逐次送信されるバッテリ電流Ibに基づいて、バッテリ18の充放電履歴を把握することができる。
【0032】
第1MG40および第2MG60の各々は、たとえば、三相交流回転電機であって、電動機(モータ)としての機能と発電機(ジェネレータ)としての機能とを有する。
【0033】
第1MG40および第2MG60には、図示しないロータの回転位置(角度)を検出するための回転位置センサ41および61が、それぞれ設けられる。
【0034】
第1MG40および第2MG60は、電力制御ユニット(PCU)16を介して、バッテリ18と接続される。PCU16は、図示しない複数の電力用半導体スイッチング素子を含んで構成されたインバータおよび/またはコンバータを有する。PCU16は、HV−ECU302からの制御指示に従って、第1MG40および第2MG60と、バッテリ18との間の双方向の電力変換を実行する。HV−ECU302は、第1MG40の出力トルクおよび第2MG60の出力トルクを、それぞれのトルク指令値に合致させるように、PCU16における電力変換を制御する。
【0035】
動力分割機構100は、エンジン20と第1MG40との間に設けられるプラネタリギヤである。動力分割機構100は、エンジン20から入力された動力を、第1MG40への動力とドライブシャフト164を介在させて駆動輪12に連結されるリダクションギヤ14への動力とに分割する。ドライブシャフト164には、車速センサ165が設けられる。車速センサ165によって検出されたドライブシャフト164の回転数に基づいて、ハイブリッド車5の車速Vが検出される。
【0036】
動力分割機構100は、第1リングギヤ102と、第1ピニオンギヤ104と、第1キャリア106と、第1サンギヤ108とを含む。第1サンギヤ108は、第1MG40の出力軸に連結された外歯歯車である。第1リングギヤ102は、第1サンギヤ108に対して同心円上に配置された内歯歯車である。第1リングギヤ102は、第1リングギヤ102とともに回転するリングギヤ軸102aを介して、リダクションギヤ14に連結される。第1ピニオンギヤ104は、第1リングギヤ102および第1サンギヤ108のそれぞれに噛合う。第1キャリア106は、第1ピニオンギヤ104を自転かつ公転自在に保持し、エンジン20の出力軸に連結される。
【0037】
すなわち、第1キャリア106が入力要素であって、第1サンギヤ108が反力要素であって、第1リングギヤ102が出力要素である。そして、リングギヤ軸102aに出力された駆動力(トルク)が、リダクションギヤ14およびドライブシャフト164を経由して、駆動輪12へ伝達される。
【0038】
エンジン20の作動中においては、第1キャリア106に入力されるエンジン20の出力トルクに対して、第1MG40による反力トルクを第1サンギヤ108に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素である第1リングギヤ102に現れる。その場合、第1MG40のロータがそのトルクによって回転されるので、第1MG40は発電機として機能する。また、第1リングギヤ102の回転数(出力回転数)を一定とした場合、第1MG40の回転数を変化させることにより、エンジン20の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン回転数をたとえば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、第1MG40を制御することによって行なうことができる。その制御は、HV−ECU302によって行われる。
【0039】
ハイブリッド車5の走行中にエンジン20を停止させている場合には、第2MG60が正回転する一方で第1MG40が逆回転している。その状態から第1MG40を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、第1キャリア106に連結されているエンジン20に正回転方向のトルクを作用させることができる。したがって、第1MG40によってエンジン20を始動(モータリングあるいはクランキング)することができる。その場合、リダクションギヤ14にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって、車両を走行させるための駆動力は、第2MG60の出力トルクを制御することにより維持できるとともに、同時にエンジン20の始動を円滑に行なうことができる。図1に示されるハイブリッド車5のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0040】
ハイブリッド車5の回生制動時には、リダクションギヤ14および変速機200を経由して、駆動輪12により第2MG60が駆動される。これにより、第2MG60は発電機として作動する。この結果、第2MG60は、制動エネルギを電力に変換する回生ブレーキとして作用する。第2MG60により発電された電力は、PCU16を経由してバッテリ18に蓄えられる。第2MG60の発電電力は、第2MG60のトルクおよび回転数の積によって決まるので、第2MG60のトルクによって、回生制動による発電電力を調整することができる。
【0041】
変速機200は、リダクションギヤ14と第2MG60との間に設けられるプラネタリギヤである。変速機200は、第2MG60の回転数を変速してリダクションギヤ14に伝達する。なお、変速機200を省略し、第2MG60の出力軸をリダクションギヤ14に直結する構成としてもよい。
【0042】
変速機200は、第2リングギヤ202と、第2ピニオンギヤ204と、第2キャリア206と、第2サンギヤ208とを含む。第2サンギヤ208は、第2MG60の出力軸に連結された外歯歯車である。第2リングギヤ202は、第2サンギヤ208に対して同心円上に配置された内歯歯車である。第2リングギヤ202は、リダクションギヤ14に連結される。第2ピニオンギヤ204は、第2リングギヤ202および第2サンギヤ208のそれぞれに噛合う。第2キャリア206は、第2ピニオンギヤ204を自転かつ公転自在に保持する。第2キャリア206は、回転しないように、図示しないケース等に固定される。
【0043】
変速機200は、摩擦係合要素を用いてHV−ECU302からの制御信号に基づいてプラネタリギヤの各要素の回転を制限したり、回転を同期させたりすることによって、第2MG60の回転速度を1段階あるいは複数の段階で変速してリダクションギヤ14に伝達するものであってもよい。
【0044】
HV−ECU302は、車両状態に適した走行を行なうための走行制御を実行する。たとえば、車両発進時および低速走行時には、エンジン20を停止した状態で、第2MG60の出力によってハイブリッド車5は走行する。定常走行時には、エンジン20を始動して、エンジン20および第2MG60の出力によってハイブリッド車5は走行する。特に、エンジン20を高効率の動作点で動作させることによって、ハイブリッド車5の燃費が向上する。具体的には、HV−ECU302は、図示しないアクセルペダルの操作量を反映して、車両全体の要求駆動力を設定するとともに、上記走行制御が実現されるように、エンジン20、第1MG40および第2MG60の動作指令値(代表的には、回転数指令値および/またはトルク指令値)を設定する。
【0045】
また、HV−ECU302は、バッテリセンサ19によって検出された状態値(バッテリ電流Ib,バッテリ電圧Vb,バッテリ温度Tb)に基づいて、バッテリ18のSOC(State of Charge)を推定する。SOCは、満充電量に対する現在の充電量を百分率で示した値で示される。SOCの推定手法については、公知の任意の手法を適用できるため、詳細な説明は繰返さない。
【0046】
さらに、HV−ECU302は、少なくともSOCに基づいて、バッテリ18へ充電する電力の制限値を示す入力許可電力値(以下、Winとも称する)、およびバッテリ18から放電する電力の制限値を示す出力許可電力値(以下、Woutとも称する)を設定する。バッテリ18への入出力電力(以下、単にバッテリ電力とも称する)についても、バッテリ18の放電時には正値とする一方で、充電時には負値で示す。このため、Woutは零または正値であり(Wout≧0)、Winは零または負値である(Win≦0)。HV−ECU302は、バッテリ電力がWin〜Woutの電力範囲に収まるように制限して、第1MG40および第2MG60の動作指令値を設定する。
【0047】
次に、ハイブリッド車5のブレーキシステムについて説明する。
制動装置10は、ブレーキキャリパ160と、円板形状のブレーキディスク162とを含む。ブレーキディスク162は、ドライブシャフト164に回転軸が一致するように固定される。ブレーキキャリパ160は、ホイールシリンダ(図1には示さず)とブレーキパッド(図示せず)とを含む。ブレーキ液圧回路80からブレーキキャリパ160に液圧が供給されることによって、ホイールシリンダが作動する。作動したホイールシリンダがブレーキパッドをブレーキディスク162に押し付けることによって、ブレーキディスク162の回転が制限される。これにより、制動装置10は、ブレーキ液圧回路80からの供給液圧Pwcに応じた液圧制動力を発生する。すなわち、制動装置10は「制動装置」に対応する。
【0048】
ブレーキ液圧回路80は、ブレーキECU300からの動作指令に応じて制御されて、制動装置10への供給液圧Pwcを制御する。
【0049】
図2は、図1に示したブレーキ液圧回路80の具体的な構成例を示すブロック図である。
【0050】
図2を参照して、ブレーキ液圧回路80は、液圧ブースタ81と、ポンプモータ82と、アキュムレータ83と、リザーバ84と、液圧制御回路85と、ストロークシミュレータ89とを含む。
【0051】
液圧制御回路85は、切換レノイドバルブSSC,SMC,SRC,SCCと、通常ブレーキ時のホイールシリンダ油圧を制御するためのリニアソレノイドバルブSLA,SLRと、制御ソレノイドバルブFLH,FLR,FRH,FRR,RLH,RLR,RRH,RRRと、液圧センサ86〜88とを含む。各ソレノイドバルブの動作は、ブレーキECU300からの制御信号Svlに応答して制御される。
【0052】
液圧ブースタ81は、ブレーキペダル22の踏力を増幅するように、当該踏力に応じた液圧(レギュレータ圧Prg)を発生するように構成される。液圧ブースタ81からのレギュレータ圧Prgは、液圧センサ87によって検出することができる。液圧センサ87による検出値は、ブレーキECU300へ送出される。
【0053】
ブレーキECU300は、検出されたレギュレータ圧Prgに基づいて、ブレーキペダル22の操作量(踏力)を検知することが可能である。あるいは、ブレーキペダル22の操作量を直接検出するストロークセンサを設けることによって、ブレーキペダル22の操作量(踏力)を検知することも可能である。
【0054】
ストロークシミュレータ89は、ドライバに最適なブレーキフィーリングを与えるように、ブレーキペダル22の操作に応じた反力をブレーキペダル22に作用させるように構成される。
【0055】
ポンプモータ82は、リザーバ84に蓄積された作動流体を増圧する。ポンプモータ82から出力された作動流体は、アキュムレータ83を経由して、液圧制御回路85へ供給される。この供給液圧(アキュムレータ圧Pac)は、液圧センサ88によって検出することができる。液圧センサ88によるアキュムレータ圧Pacの検出値は、ブレーキECU300へ送出される。ブレーキECUは、アキュムレータ圧が指令値と一致するように、ポンプモータ82を制御する。
【0056】
切換ソレノイドバルブSSCは、ストロークシミュレータ89へ通じる経路を開閉する。切換ソレノイドバルブSCCは、後輪側の流体路90および前輪側の流体路91の間の経路を開閉する。切換ソレノイドバルブSMCは、液圧ブースタ81から流体路90への経路を開閉する。切換ソレノイドバルブSRCは、液圧ブースタ81から流体路91への経路を開閉する。切換ソレノイドバルブSMC,SRCは、通常閉じられており、切換ソレノイドバルブSRCは、通常開かれている。
【0057】
リニアソレノイドバルブSLA,SLRは、液圧センサ86によって検出される、流体路90,91の液圧(ホイールシリンダ圧Pwc)を制御する。液圧センサ86によるホイールシリンダ圧Pwcの検出値は、ブレーキECU300へ送出される。
【0058】
ブレーキECU300は、ホイールシリンダ圧Pwcが目標液圧に一致するように、リニアソレノイドバルブSLA,SLRの開度を制御する。ホイールシリンダ圧を増圧するときには、リニアソレノイドバルブSLAが開状態(開度>0)とされる一方でリニアソレノイドバルブSLRは閉状態(開度=0)とされる。これに対して、ホイールシリンダ圧を減圧するときには、リニアソレノイドバルブSLRが開状態とされる一方でリニアソレノイドバルブSLAは閉状態とされる。すなわち、リニアソレノイドバルブSLA,SLRは、制動装置10へ供給される液圧(ホイールシリンダ圧)を制御するための「アクチュエータ」に相当する。
【0059】
制御ソレノイドバルブFLH,FLR,FRH,FRR,RLH,RLR,RRH,RRRは、ABS(Anti-lock Brake System)やトラクションコントロールシステム等の作動時に、各車輪のホイールシリンダ161への供給液圧を独立に制御するために設けられる。制御ソレノイドバルブは、対応のホイールシリンダ161への供給液圧を保持するための保持バルブFLH,FRH,RLH,RRHと、対応のホイールシリンダ161への供給液圧を低下するための減圧バルブFLR,FRR,RLR,RRRとを含む。ABS等の非作動時には、各制御ソレノイドバルブは閉状態に維持される。
【0060】
通常ブレーキ時には、リニアソレノイドバルブSLA,SLRによって制御されたホイールシリンダ圧Pwcが、各ホイールシリンダ161へ共通に供給される。すなわち、液圧センサ86によって検出されるホイールシリンダ圧Pwcは、図1に示された、制動装置10への供給液圧Pwcに対応する。
【0061】
なお、液圧制御回路85の異常時には、切換ソレノイドバルブSMC,SRCが開状態とされることにより、ブレーキ踏力に応じた液圧(レギュレータ圧)が、液圧ブースタ81から各ホイールシリンダ161へ供給される。また、異常個所に応じて切換ソレノイドバルブSCCを閉することによって、前輪側の経路と後輪側の経路とを切離すことができる。
【0062】
図3は、図2に示したリニアソレノイドバルブの概略構造図である。図3には、代表的に、リニアソレノイドバルブSLAの構造が示される。
【0063】
図3を参照して、リニアソレノイドバルブSLAは、ソレノイドコア501と、プランジャ502と、付勢手段505とを含む。
【0064】
ソレノイドコア501は、リニアソレノイドバルブの開度を指示する制御信号に応答して、図示しない電源から電流を供給される。ソレノイドコア501は、供給された電流量に応じた電磁力Feをプランジャに作用させる。開度量の指示に応じて、ソレノイドコア501の電流量を変化させることにより、開度の制御が可能となる。
【0065】
付勢手段505は、スプリング等で構成されて、プランジャ502に対して付勢力Fsを与える。付勢力Fsは、ソレノイドコア501による電磁力Feとは反対方向に作用する。
【0066】
ソレノイドコア501の非通電時には、電磁力Fe=0である。したがって、プランジャ502は、付勢力Fsによって接点506を閉状態とする。接点506が閉状態のときには、アキュムレータ側からホイールシリンダ側への作動流体の経路が遮断される。確実な遮断をもたらすために、接点506にはコーティング材等による機械的なシール構造が設けられる。
【0067】
一方、ソレノイドコア501の通電時には、付勢力Fsに打ち勝つ電磁力Feが作用することによって、プランジャ502は、接点506を開状態とする。接点506が開状態のときには、アキュムレータ側からホイールシリンダ側への作動流体の経路が形成されることによって、ホイールシリンダ圧が上昇する。
【0068】
リニアソレノイドバルブSLRも、図3に示したリニアソレノイドバルブSLAと同様の構造を有する。リニアソレノイドバルブSLRでは、ホイールシリンダ圧を低下させる場合に、ソレノイドコア501に電流が供給されて、接点506が開状態とされる。
【0069】
液圧制御のために接点506が開閉されることに伴って、プランジャ502が壁部に衝突する。したがって、衝突回数が過大になると、コーティング材の脱落あるいは、プランジャ502や壁部の磨耗によって、シール機能が劣化する虞がある。たとえば、当該シール構造は、通常の使用状態において想定される、一定の耐用年数におけるリニアソレノイドバルブの累積動作回数によって劣化しない強度を有するように設計される。しかしながら、高頻度にブレーキが使用されること等により、リニアソレノイドバルブの累積動作回数が設計時の想定を超えて過大になると、接点506におけるシール機能が劣化する虞がある。この場合には、プランジャ502によって作動流体を適切に遮断できなくなるため、液圧を制御する際の応答性が低下する虞がある。
【0070】
図1に示したハイブリッド車5では、ドライバによるブレーキペダル22の操作に対応した車両全体での要求制動力(トータル制動力)を、第2MG60による回生制動力と、制動装置10による液圧制動力とで分担して出力するブレーキ協調制御が実行される。図4には、液圧制動および回生制動によるブレーキ協調制御の一例が示される。
【0071】
図4を参照して、W10はドライバのブレーキペダル操作に基づくトータル制動力を示している。一方で、W20は第2MG60によって発生される回生制動力を示している。回生制動力および液圧制動力の和によって、トータル制動力が確保されることが理解される。なお、図示しないが、エンジンを搭載するハイブリッド車においては、上記の液圧制動力と回生制動力に加えて、いわゆるエンジンブレーキによる機関制動力も発生される。したがって、厳密には、必要に応じて機関制動力も考慮に入れた上で、回生制動力および液圧制動力が決められる。ただし、以下では、記載を簡単にするために、機関制動力=0として説明を進める。
【0072】
ここで、回生制動力すなわち、第2MG60が出力する制動トルクは、バッテリ18への入力電力がWinを超えない範囲内(すなわち、Pb>Winとなる範囲内)に制限される。したがって、Winが制限されると、図4に示される本来の回生制動力が確保できなくなる可能性がある。特に、特許文献4にも示されるLi析出抑制制御を適用した場合には、回生制動力の発生中に、Winが正方向に変化する可能性がある。この場合には、バッテリ18の保護のために、回生制動力を速やかに減少させる必要が生じる。
【0073】
この際には、回生制動力の減少分に対応させて、液圧制動力を増加させる必要がある。しかしながら、特許文献1等にも記載されるように、回生制動力が急激に減少してしまうような場合には、液圧制動力の増加(液圧の上昇)が追従できず、目標とするトータル制動力が瞬間的に確保できなくなってしまう可能性がある。そうすると、車両の制動性能には影響がなくとも、車両ユーザに違和感を与える可能性がある。
【0074】
したがって、本実施の形態による車両では、Li析出抑制制御の適用を考慮したブレーキ協調制御における回生電力の制限を、以下のように設定する。
【0075】
図5は、図1に示したハイブリッド車5におけるブレーキ協調制御の制御処理手順を示すフローチャートである。
【0076】
図5に示すフローチャートによる制御処理は、一定の制御周期毎にHV−ECU302によって実行される。また、図5に示した各ステップは、HV−ECU302によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現されるものとする。
【0077】
図5を参照して、HV−ECU302は、ステップS100により、ハイブリッド車5の車両状態を入力する。車両状態には、ブレーキペダル22の操作量であるブレーキペダル操作量BPと、車速Vと、第1MG40の回転数Nm1と、第2MG60の回転数Nm2とが含まれる。
【0078】
ブレーキペダル操作量BPは、たとえば、図2の液圧センサ87によって検出されたレギュレータ圧Prgに基づいて検知される。車速Vは、車速センサ165の出力に基づいて検知される。回転数Nm1,Nm2は、第1MG40および第2MG60に取付けられた回転位置センサ41,61の出力に基づいて演算できる。
【0079】
HV−ECU302は、ステップS110により、ハイブリッド車5の車両状態に基づいて、車両全体での要求制動トルクTr*を設定する。要求制動トルクTr*は、図4に示したトータル制動力に対応する。
【0080】
代表的には、要求制動トルクTr*は、ステップS100で入力されたブレーキペダル操作量BPおよび車速Vに基づいて、リングギヤ軸102aに出力すべき制動トルクとして算出される。たとえば、ブレーキペダル操作量BPおよび車速Vと要求制動トルクTr*との関係を予め定めたマップを予め作成して、HV−ECU302内の図示しないメモリに記憶しておくことができる。そして、ステップS110では、ステップS100で入力されたブレーキペダル操作量BPおよび車速Vに基づいて当該マップを参照することによって、要求制動トルクTr*を設定することができる。
【0081】
続いて、HV−ECU302は、ステップS120により、バッテリ18のWinを読込む。Winを設定するための制御処理については、後ほど詳細に説明する。|Win|(Win≦0)は、現在(当該制御周期)における、バッテリ18の充電電力の大きさの最大値、すなわち「充電電力上限値」を示す。また、充電時(Ib<0)におけるバッテリ電流Ibの大きさ(|Ib|)について、以下では「充電電流」とも表記する。
【0082】
HV−ECU302は、ステップS130では、図4に示したブレーキ協調制御に従って、要求制動トルクTr*のうちの回生制動トルクの分担量を決定する。この分担量に基づいて、回生制動力を発生する第2MG60のトルク指令値(第2MGトルクTm2*)が設定される。
【0083】
回生制動の際に、第2MG60は、トルクおよび回転数の積に従った電力を発電する。したがって、バッテリ電力(Pb=Vb・Ib)が、ステップS120で読込まれたWinを超えないようにする必要がある。すなわち、|Pb|<|Win|とする必要がある。したがって、ステップS130では、|Pb|<|Win|となる範囲内に限定した上で、ブレーキ協調制御のための第2MGトルクTm2*が設定される。
【0084】
さらに、HV−ECU302は、ステップS140では、下記(1)式に従って液圧ブレーキトルクTbk*を設定する。なお、(1)式中のGrは、変速機200の減速比である。
【0085】
Tbk*=Tr*−Tm2*・Gr …(1)
このようにして、要求制動トルクTr*を、回生制動トルク(Tm2*)および液圧ブレーキトルク(Tbk*)によって分担するブレーキ協調制御が実現される。すなわち、ステップS100〜S140の処理によって、「制動制御手段」の機能が実現される。
【0086】
さらに、HV−ECU302は、ステップS150により、ステップS140で設定された液圧ブレーキトルクTbk*をブレーキECU300(図1)に出力する。
【0087】
ブレーキECU300は、液圧ブレーキトルクTbk*に基づいて、制動装置10に供給する目標液圧を算出する。そして、液圧センサ86によって検出されたホイールシリンダ圧(Pwc)がこの目標液圧に一致するように、図2に示した液圧制御回路85を制御する。
【0088】
次に、リチウムイオン二次電池によって構成されるバッテリ18に対するLi析出抑制制御について説明する。
【0089】
図6および図7は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車5で実行されるLi析出抑制制御を説明する波形図である。
【0090】
図6を参照して、時刻t0からバッテリ電流Ibが負方向に変化して、バッテリ18の充電が開始される。
【0091】
バッテリ18の充放電履歴に応じて、バッテリ18の許容入力電流値Ilimが設定される。特許文献4に記載されるように、許容入力電流値Ilimは、単位時間内に、バッテリ負極電位がリチウム基準電位まで低下することによってリチウム金属が析出しない最大電流値として求められる。許容入力電流値Ilimは、特許文献4と同様に設定することができる。すなわち、充放電履歴がない状態における許容入力電流値の初期値Ilim[0]から、充電継続による減少量、放電継続による回復量、または放置による回復量を制御周期毎に加減算することによって、時刻tにおけるIlim[t]が逐次求められる。
【0092】
さらに、許容入力電流値Ilimに対するマージン電流ΔImrを設定して、リチウム金属の析出を防止するための入力電流制限目標値Itagが設定される。特許文献4に記載されるように、許容入力電流値Ilimを正方向にオフセットさせることによって、入力電流制限目標値Itagを設定することができる。この場合には、オフセットさせた電流値が、マージン電流ΔImrとなる。
【0093】
図6に示されるように、継続的な充電によって、許容入力電流値Ilimおよび入力電流制限目標値Itagは、正方向に徐々に変化する。これによって、許容される充電電流(|Ib|)は減少することが理解される。そして、時刻t1において、IbがItagよりも低くなると(Ib<Itag)と、リチウム金属の析出を抑制するために充電電流を制限することが必要となる。
【0094】
このため、図7に示されるように、時刻t1からバッテリ18のWinを正方向に変化させることによって、充電電力(すなわち、回生電力)が制限される。たとえば、Winは、一定レート(時間変化率)によって正方向に変化される。これにより、|Win|、すなわち、「充電電力上限値」は減少する。この際のWinの変化レートを、以下では「回生制限レート」とも称する。回生制限レートは、Li析出抑制制御による充電電力制限(以下、「回生制限」とも称する)における制限度合の一例に相当する。
【0095】
再び図6を参照して、時刻t1からのWinの制限によって充電電流が減少して(すなわち、Ibが正方向に変化)、時刻t2では、再び、Ib>Itagとなる。これにより、図7に示されるように、時刻t2からは、回生制限が解除される。これにより、バッテリ18のWinは、通常値まで徐々に復帰することになる。
【0096】
このように、大きな充電電流が発生する回生制動時においては、リチウム金属の析出抑制のために、充電電流が入力電流制限目標値Itagに達すると、Winを一定の回生制限レートで変化させる回生制限が開始される。図6および図7から理解されるように、マージン電流ΔImrが大きくなるほど、回生制限の開始条件が厳しくなる。一方で、マージン電流ΔImrを小さくすると、回生制限の開始条件を緩和することによって、回生発電によって回収されるエネルギを増やすことができる。
【0097】
回生制動中に、回生制限によってWinが変化すると、図5のステップS120,S130の処理によって、回生制動トルクの分担(MG2トルクの絶対値)が減少するとともに、その減少分に対応して、液圧ブレーキトルクTbk*の分担が増加する。これに応じて、ブレーキECU300は、制動装置10への供給液圧Pwcを上昇させるように、ブレーキ液圧回路80を制御する。上述のように、この際には、指令値の上昇に対する供給液圧Pwcの上昇に一定の遅れが発生する。これにより、液圧ブレーキトルクが瞬間的に不足するため、瞬間的な車両制動力の変動が生じて、ユーザに違和感を与える虞がある。
【0098】
図8には、ブレーキ液圧回路における液圧制御の応答遅れを説明する概念的な波形図が示される。
【0099】
図8を参照して、制動装置10への供給液圧を上昇する際には、ホイールシリンダ圧の指令値が上昇される。そして、ブレーキECU300は、上昇された指令値にホイールシリンダ圧Pwcが一致するように、図2に示したリニアソレノイドバルブSLAを制御する。これにより、ホイールシリンダ圧Pwc(すなわち、制動装置10への供給油圧)の実績値が、指令値に追従して上昇する。
【0100】
この際にホイールシリンダ圧Pwcが指令値まで上昇するには、一定の所要時間(遅れ時間)ΔTが存在する。液圧変化量ΔPを遅れ時間ΔTで除算することによって、液圧応答レートが得られる。回生制限の際に、瞬間的な車両制動力の変動を生じさせることなく液圧ブレーキトルクを増加する際のレート(時間変化率)は、液圧応答レートに依存して決まることが理解される。
【0101】
上述のように、制動装置10へ供給される液圧(ホイールシリンダ圧)を制御するアクチュエータであるリニアソレノイドバルブSLA,SLRの動作回数(開閉回数)の累積値が過大になると、接点506(図3)におけるシール性能の経年劣化によって、液圧応答レートが低下する虞がある。このような場合に、液圧ブレーキトルクの上昇が想定よりも遅れることによって、瞬間的な車両制動力の変動する虞がある。
【0102】
このため、経年劣化による液圧の制御応答性の低下に対しても十分に余裕を有するように、回生制限レートを一律に低く設定する対応が考えられる。しかしながら、回生制限レートを低くしたときには、Ib<Itagから開始される充電電流の制限も緩やかなものとなる。このため、リチウム金属の析出を防ぐために、IbがIlimに達することを確実に回避する観点から、図6に示したマージン電流ΔImrを大きくする必要が生じる。すなわち、回生制限のための充電電力の制限度合を低くすると、回生制限を開始する条件を厳しくする必要がある。この結果、Winが過度に制限されることによって、回生発電による回収エネルギが減少する。
【0103】
したがって、本発明の実施の形態では、以下に説明するように、ブレーキ液圧回路80におけるアクチュエータ(リアソレノイドバルブ)の累積動作回数に基づいて、Li析出抑制制御の回生制限レートを可変に設定する。
【0104】
図9は、本発明の実施の形態による車両における、Li析出抑制制御と組み合わされたブレーキ協調制御を説明する機能ブロック図である。図9に示した各機能ブロックは、ブレーキECU300またはHV−ECU302による、ソフトウェア処理および/またはハードウェア処理により実現することができる。
【0105】
図9を参照して、ブレーキECU300は、液圧制御部315と、アクチュエータ動作回数カウント部320とを含む。HV−ECU302は、回生制限レート設定部330と、SOC算出部340と、電流判定部350と、Win設定部360とを有する。図9には、HV−ECU302による機能のうちの、Li析出抑制制御に係る「充電制御手段」に関連する部分の機能ブロックが示される。
【0106】
液圧制御部315は、HV−ECU302により図5のフローチャートに従って設定された液圧ブレーキトルクTbk*に基づいて、ホイールシリンダ圧の指令値Pwc*を発生する。さらに、液圧制御部315は、指令値Pwc*と、液圧センサ86によって検出されたホイールシリンダ圧Pwcの実績値とに基づいて、図2に示した液圧制御回路85(特に、リニアソレノイドバルブSLA,SLR)を制御するための制御信号Svlを発生する。制御信号Svlは、ブレーキ液圧回路80に送出される。
【0107】
アクチュエータ動作回数カウント部320は、ブレーキ液圧回路80における液圧制御のアクチュエータ(図2の例では、リニアソレノイドバルブSLA,SLR)の動作回数をカウントする。これにより、リニアソレノイドバルブ(アクチュエータ)の累積動作回数が求められる。動作回数は、リニアソレノイドバルブSLA,SLRの開閉を指示する制御信号(Slvの一部)、あるいは、リニアソレノイドバルブSLA,SLRの動作状態を示す実績信号に基づいて、カウントすることができる。すなわち、アクチュエータ動作回数カウント部320は、「計数手段」に対応する。
【0108】
図10は、リニアソレノイドバルブの動作回数の定義を説明するための概念的な動作波形図である。
【0109】
図10では、説明を簡略化するために、ブレーキペダルの操作に応じた要求制動トルクTr*が一定の下で、Li析出抑制制御による回生制限が、複数回実行された場合の波形が示されている。
【0110】
図10を参照して、時刻t1,t3,t4の各々において、回生制限がオンされる。回生制限がオンされる毎に、回生制動トルクを低下させる一方で、液圧制動トルクを上昇させる必要が生じる。すなわち、リニアソレノイドバルブが動作して、ホイールシリンダ圧Pwcが上昇することになる。このとき、リニアソレノイドバルブSLAは、閉状態から、圧力を上昇させるために開放される。圧力が指令値まで上昇すると、リニアソレノイドバルブSLAは、再び閉状態に復帰する。この一連の開閉動作によって、図3で説明した接点506での機械的な衝突が発生する。
【0111】
したがって、リニアソレノイドバルブが閉状態(開度=0)から開放される(すなわち、開度>0)となる毎に、動作回数を1増やすことにより、リニアソレノイドバルブの動作回数を計数できる。
【0112】
再び図9を参照して、アクチュエータ動作回数カウント部320によって検出された累積動作回数Csvは、回生制限レート設定部330へ送られる。なお、複数のリニアソレノイドバルブ(図2中のSLA,SLR)が存在する場合には、動作回数が最も多いリニアソレノイドバルブ、あるいは、液圧制御への影響性から予め指定された特定のリニアソレノイドバルブの動作回数を、累積動作回数Csvとすることができる。
【0113】
SOC算出部340は、バッテリセンサ19によって検出された状態値(バッテリ電流Ib,バッテリ電圧Vb,バッテリ温度Tb)に基づいて、バッテリ18のSOCの推定値を算出する。以下では、SOC推定値についても、単に「SOC」と表記する。
【0114】
電流判定部350は、バッテリ18の状態値およびSOCに基づいて、Li析出抑制制御による回生制限が必要な状態であるかどうかを判定する。後ほど詳細に説明するように、この判定には、バッテリ電流Ibの履歴が反映される。電流判定部350は、Li析出抑制制御による回生制限が必要なときにはフラグFLGをオンし、そうでないときにはフラグFLGをオフする。フラグFLGは、Win設定部360へ送出される。
【0115】
回生制限レート設定部330は、アクチュエータの累積動作回数Csvの上昇に応じて、回生制限レートPrが低下するように、回生制限レートPrを設定する。すなわち、回生制限レート設定部330は、「設定手段」に対応する。
【0116】
Win設定部360は、現在のバッテリ状態(SOC,状態値)と、電流判定部350からのフラグFLGと、回生制限レート設定部330によって設定された回生制限レートPrとに基づいて、バッテリ18のWinを設定する。
【0117】
図11には、図9に示したLi析出抑制制御を実現するための制御処理を示すフローチャートが示される。図12には、図11のステップS250での制御処理を詳細に説明するフローチャートが示される。
【0118】
図11に示すフローチャートによる制御処理は、一定の制御周期毎にHV−ECU302によって実行される。また、図11,12に示す各ステップは、HV−ECU302によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現することができる。
【0119】
図11を参照して、HV−ECU302は、ステップS210により、バッテリセンサ19の出力に基づいて、バッテリ18の状態値を入力する。上述のように、ステップS210で入力される状態値は、たとえば、バッテリ18の電圧Vb、電流Ibおよび温度Tbを含む。HV−ECU302は、ステップS220では、バッテリ18のSOCを算出する。すなわち、S210の処理は、図9のSOC算出部340の機能に対応する。
【0120】
さらに、HV−ECU302は、ステップS230により、バッテリ18のWin0を設定する。Win0は、回生制限レート処理を実行する前のWinであり、Li析出抑制制御を考慮することなく、現在のバッテリ状態(SOC、状態値等)に基づいて設定される。すなわち、このWin0が、公知の手法に基づいて通常設定されるバッテリ18のWinに相当する。たとえば、Win0は、SOCおよびバッテリ温度Tbに基づいて設定される。
【0121】
HV−ECU302は、ステップS240により、ブレーキECU300(アクチュエータ動作回数カウント部320)によって検出されたアクチュエータ(リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数Csvを入力する。そして、HV−ECU302は、ステップS250により、累積動作回数Csvに基づいて、回生制限レートPrを設定する。
【0122】
図12を参照して、ステップS250は、ステップS251〜S253を含む。HV−ECU302は、ステップS251により、累積動作回数Csvが、所定のしきい値Nthを超えているかどうかを判定する。しきい値Nthは、上述のように、接点506のシール構造の設計時に想定した、リニアソレノイドバルブの累積動作回数に従って定めることができる。すなわち、累積動作回数Csvがしきい値Nthを超えたときには、シール性能の劣化による液圧応答レートの低下が懸念される状態となっている。
【0123】
HV−ECU302は、累積動作回数Csvがしきい値Nthを超えるまで(S251のNO判定時)には、ステップS252に処理を進めて、回生制限レートPrを通常値に設定する。
【0124】
これに対して、累積動作回数Csvがしきい値Nthを超えると(S251のYES判定時)、HV−ECU302は、ステップS253に処理を進めて、回生制限レートPrを、S252によって設定される値(通常値)よりも低く設定する。
【0125】
図13には、本発明の実施の形態におけるアクチュエータ(リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数と回生制限レートの設定値との関係が示される。
【0126】
図13を参照して、累積動作回数Csvは、使用時間(年数)の経過に従って増加していく。累積動作回数Csvが、しきい値Nthに達するまでは、回生制限レートPrは、Pr=R1に設定される。この場合には、液圧応答レートに応じてR1をなるべく高く設定することにより、回生エネルギの回収を図ることができる。
【0127】
一方、累積動作回数Csvがしきい値Nthを超える時刻Y1以降では、ブレーキ液圧回路80における液圧制御応答レートの低下が懸念されるため、回生制限レートPrは、Pr=R2(R2<R1)に設定される。これに伴い、Li析出抑制制御におけるマージン電流ΔImgについても大きく設定することになる。
【0128】
これにより、アクチュエータ(リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数の増大に起因する液圧制御応答性の低下によって、ブレーキ協調制御中の回生制限によって、瞬間的な車両制動力の変動が生じることを防止できる。
【0129】
なお、図13中に点線で示されるように、回生制限レートは、複数段階に徐々に低下させてもよい。累積動作回数Csvの増加に応じて回生制限レートPrを低下させる態様については、ブレーキ液圧回路80での、アクチュエータの累積動作回数の増加に伴う液圧応答レートの低下特性に合せて、任意に設定することが可能である。
【0130】
再び図11を参照して、HV−ECU302は、ステップS255では、ステップS250で設定された回生制限レートPrに応じて、マージン電流ΔImrを設定する。
【0131】
上述のように、充電電力の制限度合を高めるために回生制限レートを高くすると、Ib<Itagとなったときに、充電電流を速やかに減少させることができる。このため、回生制限を開始する条件を緩和できるので、マージン電流ΔImrを小さくすることができる。この結果、回生制動によって回収されるエネルギ量を増加することができる。
【0132】
このように、Li析出抑制制御におけるマージン電流ΔImrは、回生制限レートと反対の特性で変化させる必要がある。すなわち、回生制限時における回生制限レートPrが高くなるほどマージン電流ΔImrを小さく設定する。反対に、回生制限時における回生制限レートPrが低くなるほどマージン電流ΔImrを大きく設定する。これにより、リチウム金属の析出抑制と、回生制動による回収エネルギ量の確保とを両立することができる。
【0133】
このような観点から、回生制限レートPrとマージン電流ΔImrとの間の関係を予め定めたマップを予め作成することができる。このマップは、HV−ECU302内の図示しないメモリに予め記憶される。そして、ステップS255では、ステップS250で設定された回生制限レートPrに基づいて当該マップを参照することによって、マージン電流ΔImrを設定することができる。
【0134】
さらに、HV−ECU302は、ステップS260では、Li析出抑制制御のための電流制御演算を実行する。すなわち、図6に説明したように、特許文献4に示す手法に基づいて、バッテリ18の充放電履歴に基づいて、今回の制御周期における許容入力電流値Ilim[t]が演算される。そして、許容入力電流値Ilimに対して、ステップS255によって設定されたマージン電流ΔImrを設けることによって、入力電流制限目標値Itagが算出される。
【0135】
さらに、HV−ECU302は、ステップS270により、ステップS210に入力されたバッテリ電流Ibと、ステップS260で算出された入力電流制限目標値Itagとを比較する。ステップS255〜S270の処理は、図9の電流判定部350の機能に対応する。
【0136】
HV−ECU302は、Ib>Itagのとき(S270のNO判定時)には、充電電流がItagに達していないため、図9に示したフラグFLGをオフする。このとき、HV−ECU302は、ステップS280によって、回生制限をオフする。この場合には、ステップS285により、ステップS230で設定されたWin0が、そのままバッテリ18のWinとなる(Win=Win0)。
【0137】
一方で、HV−ECU302は、Ib<Itagのとき(S270のYES判定時)には、充電電流がItagに達しているため、フラグFLGをオンする。このとき、HV−ECU302は、ステップS290により、回生制限をオンする。充電電流を現状よりも減少させなければ、Ibが許容入力電流値Ilimに達する虞があるからである。
【0138】
回生制限がオンされると、HV−ECU302は、ステップS295により、ステップS240で設定された回生制限レートに従ってWinを設定する。具体的には、前回の制御周期におけるWinから、当該回生制限レートに従って正方向に変化させるように、Winが設定される。回生制限レートに従ってバッテリ18の充電電力上限値(|Win|)が減少することによって、バッテリ18の充電電流が減少する。この結果、負極電位の低下が抑制されて、リチウム金属の析出が防止される。ステップS230,S280〜S295の処理は、図9のWin設定部360の機能に対応する。
【0139】
このように本実施の形態によれば、リチウムイオン二次電池を搭載した車両において、回生発電中にLi析出抑制制御のために充電電流を制限する際に、ブレーキ液圧回路80における液圧制御のアクチュエータ(たとえば、リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数に基づいて、Li析出抑制制御での充電電力制限(回生制限)を実行する。
【0140】
したがって、アクチュエータの累積使用回数に応じて液圧制御の応答レートが低下しても、液圧制動力の遅れが発生しないように、Li析出抑制制御による充電電力制限(回生制限)を制限できる。この結果、Li析出抑制制御による充電電力制限(回生制限)により、ユーザに違和感を与えることを防止できる。また、アクチュエータの累積使用回数が少ないため、液圧制御の応答レート低下の可能性が低い状態では、充電電力制限を開始する条件を緩和(すなわち、マージン電流ΔImrを減少)することができる。これにより、回生エネルギを最大限確保することによって、車両のエネルギ効率(すなわち、燃費)を向上することができる。
【0141】
なお、本発明の実施の形態によるブレーキ協調制御が適用される車両は、図1に例示したハイブリッド車5に限定されるものではない。本発明は、電動機による回生制動力と、液圧の供給に応じた液圧制動力との組合せによって制動力を確保する構成を有するものであれば、搭載される電動機(モータジェネレータ)の個数や駆動系の構成に関らず、ハイブリッド車の他に、エンジンを搭載しない電気自動車および燃料電池自動車等を含む電動車両全般に共通に適用できる。特に、ハイブリッド車の構成についても、図1の例示に限定されることはなく、パラレル式のハイブリッド車を始めとして、任意の構成のものに、本願発明を適用可能である点について、確認的に記載する。また、走行用電動機を搭載していない車両であっても、回生制動力を発生する電動機を搭載していれば、本願発明を適用可能である。
【0142】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0143】
この発明は、リチウムイオン二次電池を搭載した車両における、回生制動力と液圧制動力とを協調させた電子制御式ブレーキシステムに適用することができる。
【符号の説明】
【0144】
5 ハイブリッド車、10 制動装置、12 駆動輪、14 リダクションギヤ、16 電力制御ユニット、18 バッテリ、19 バッテリセンサ、20 エンジン、22 ブレーキペダル、34 エンジン回転数センサ、36 IGスイッチ、40 第1MG、41,61 回転位置センサ、60 第2MG、80 ブレーキ液圧回路、81 液圧ブースタ、82 ポンプモータ、83 アキュムレータ、84 リザーバ、85 液圧制御回路、86〜88 液圧センサ、89 ストロークシミュレータ、90,91 流体路、100 動力分割機構、102 第1リングギヤ、102a リングギヤ軸、104 第1ピニオンギヤ、106 第1キャリア、108 第1サンギヤ、160 ブレーキキャリパ、161 ホイールシリンダ、162 ブレーキディスク、164 ドライブシャフト、165 車速センサ、200 変速機、202 第2リングギヤ、204 第2ピニオンギヤ、206 第2キャリア、208 第2サンギヤ、300 ブレーキECU、302 HV−ECU、304 エンジンECU、306 電源ECU、310 通信バス、315 液圧制御部、320 アクチュエータ動作回数カウント部、330 回生制限レート設定部、340 SOC算出部、350 電流判定部、360 Win設定部、501 ソレノイドコア、502 プランジャ、505 付勢手段、506 接点、Csv 累積動作回数(アクチュエータ)、Fe 電磁力、FLG フラグ(回生制限)、FLH,FRH,RLH,RRH 制御ソレノイドバルブ(保持バルブ)、FLR,FRR,RLR,RRR 制御ソレノイドバルブ(減圧バルブ)、Fs 付勢力、Ib バッテリ電流、ΔImr マージン電流、Ilim 許容入力電流値、Ilim[0] 初期値(許容入力電流値)、Itag 入力電流制限目標値、Nm1,Nm2 回転数(MG)、Nth しきい値(アクチュエータ累積動作回数)、Pac アキュムレータ圧、Pr 回生制限レート、Prg レギュレータ圧、Prt 液圧応答レート、Pwc* 指令値(ホイールシリンダ圧)、Pwc 検出値(ホイールシリンダ圧)、SCC,SMC,SRC,SSC 切換ソレノイドバルブ、SLA,SLR リニアソレノイドバルブ(アクチュエータ)、Svl 制御信号(ブレーキ液圧回路)、Tb バッテリ温度、Tbk* 液圧ブレーキトルク、Tr* 要求制動トルク、V 車速、Vb バッテリ電圧。
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制御装置に関し、より特定的には、回生制動力および液圧制動力によるブレーキ協調制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両駆動用電動機を搭載したハイブリッド車や電気自動車等の電動車両では、制動時には車両駆動用電動機による回生制動力と、液圧制動装置による制動力(以下、液圧制動力とも称する)とを協調させて、車両全体での要求制動力を確保する制動力制御が実用化されている(たとえば、特許文献1〜3)。以下では、このような制動力制御を「ブレーキ協調制御」とも称する。回生制動による発電電力を車載蓄電装置の充電電力として回収することによって、車両のエネルギ効率すなわち燃費が改善される。
【0003】
特開2010−104087号公報(特許文献1)には、回生制動および液圧による摩擦制動のブレーキ協調制御において、所定走行距離当りの制動回数に基づいて、電動機の回生トルク、すなわち回生制動力を増大させることが記載されている。
【0004】
また、特開2010−104086号公報(特許文献2)には、車両の減速時のブレーキ協調制御において、減速度が所定値以上であり、かつ、車速が所定値以上である状態の経過時間に基づいて、電動機の回生トルク量を増大させる制御が記載されている。
【0005】
特開2010−141997号公報(特許文献3)には、電動車両のブレーキ協調制御において、蓄電装置の充電電力上限値の変化速度に対応して、回生制動力を制限する充電電力上限値の基準値を可変に設定することが記載されている。これにより、回生制動および液圧制動の両方を使用する状態から液圧制御のみを使用する状態への移行時に、液圧上昇のために必要となる時間を確保することができる。
【0006】
一方、車載蓄電装置として、リチウムイオン二次電池の適用が進められている。リチウムイオン二次電池は、エネルギ密度が高く、出力電圧が高いことから、大きな電池容量および高電圧を必要とする車載蓄電装置として好適である。
【0007】
しかしながら、リチウムイオン二次電池は、使用態様によっては、負極表面にリチウム金属が析出することによって、電池の発熱あるいは性能低下を招く虞があることが知られている。そのため、国際公開第2010/005079号(特許文献4)には、リチウムイオン二次電池の負極でのリチウム金属の析出を抑制するために、充放電履歴に基づき、バッテリへの入力許可電力を調整する制御が記載されている。具体的には、バッテリ電流の履歴に基づいて、リチウム金属が析出しない最大電流値を逐次算出するとともに、バッテリ電流が当該最大電流値を超えないように、バッテリへの入力許可電力を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−104087号公報
【特許文献2】特開2010−104086号公報
【特許文献3】特開2010−141997号公報
【特許文献4】国際公開第2010/005079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3に記載されるようなブレーキ協調制御を行なう車両では、減速時に回生制動力の比率を高めるほど、燃費を向上できる。したがって、リチウムイオン二次電池を車載蓄電装置とする車両では、リチウム金属析出を抑制した上で、可能な限り回生制動の分担を高めることが好ましい。
【0010】
しかしながら、特許文献4に示されるように、リチウム金属の析出が懸念されるような充電状態となった場合には、バッテリへの充電電力を制限する必要があるため、回生制動力も制限される。このような充電制限を開始すると、ブレーキ協調制御によって、リチウム金属の析出を抑制するために回生制動力を低下する一方で、その低下分を液圧制動力に置換えることが必要となる。
【0011】
この際に、回生制動力を高いレートで変化させると、特許文献1〜3にも記載されるように、液圧制動力の応答遅れの問題から、車両制動力に瞬間的な変動が生じる虞がある。このような制動力の変動が生じると、車両の制動性能に影響がなくとも、車両ユーザに違和感を与える可能性がある。したがって、回生電力の確保によるエネルギ効率の向上と、瞬間的な制動力変動の抑制との両立が課題となる。
【0012】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、リチウムイオン二次電池を搭載した車両において、リチウム金属の析出を抑制するように充電を制限する制御を実行した上で、回生発電による回収エネルギを確保しつつ、当該制御の影響による車両制動力の瞬間的な変動が発生しないように、ブレーキ協調制御を行なうことである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明のある局面においては、車両の制御装置であって、車両は、リチウムイオン二次電池からなるバッテリと、供給される液圧に応じた制動力を車輪に作用させるように構成された制動装置と、車輪との間で回転力を相互に伝達可能に構成されたモータジェネレータと、モータジェネレータの出力トルクを制御するようにバッテリとモータジェネレータとの間で双方向の電力変換を実行するための電力制御器とを備える。制御装置は、バッテリの充放電履歴に基づいて、バッテリの負極電位がリチウム基準電位まで低下することを防止するようにバッテリの充電電力上限値を調整するための充電制御手段と、調整された充電電力上限値の範囲内でモータジェネレータが回生制動力を発生するように、ブレーキペダル操作に対応した要求制動力に対する、制動装置による液圧制動力と回生制動力との分担を決定するための制動制御手段と、制動装置へ供給される液圧を制御するためのアクチュエータの累積動作回数をカウントするための計数手段とを備える。充電制御手段は、負極電位の低下を防止するために充電電力上限値を制限する際における充電電力上限値の制限度合を、計数手段によって検出された累積動作回数に応じて低下させるための設定手段を含む。
【0014】
好ましくは、設定手段は、累積動作回数が所定の閾値を超えた場合には、充電電力上限値を低下させる際の時間変化率を示す制限レートを、累積動作回数が閾値よりも少ない場合よりも低い値に設定する。充電制御手段は、充放電履歴に基づいてバッテリの負極にリチウム金属が析出しない最大電流として入力許容電流値を逐次設定するとともに、当該入力許容電流値に対して、制限レートが高いほど小さい値に設定されるマージンを有するように入力電流制限目標値を決定するための手段と、バッテリの充電電流が入力電流制限目標値を超えたときに、充電電力上限値を制限レートに従って減少させるための手段とをさらに含む。
【0015】
さらに好ましくは、アクチュエータは、液圧を変化させる場合に開閉されるように構成されたソレノイドバルブである。
【0016】
好ましくは、充電電力上限値の制限を開始する条件は、制限度合が高いほど緩和される。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、リチウムイオン二次電池を搭載した車両において、リチウム金属の析出を抑制するように充電を制限する制御を実行した上で、回生発電による回収エネルギを確保しつつ、当該制御の影響による車両制動力の瞬間的な変動によってユーザに違和感を与えないように、ブレーキ協調制御を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態による車両の制御装置を搭載した車両の代表例として示されるハイブリッド車の概略構成を説明するブロック図である。
【図2】図1に示したブレーキ液圧回路の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図3】図2に示したリニアソレノイドバルブの概略構造図である。
【図4】回生制動力および液圧制動力によるブレーキ協調制御の例を説明する概念図である。
【図5】図1に示したハイブリッド車におけるブレーキ協調制御の制御処理手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態によるハイブリッド車で実行されるLi析出抑制制御を説明する波形図である。
【図7】Li析出抑制制御による回生制限を説明する波形図である。
【図8】ブレーキ液圧回路における液圧制御の応答遅れを説明する概念的な波形図である。
【図9】本発明の実施の形態による車両におけるLi析出抑制制御と組み合わされたブレーキ協調制御を説明する機能ブロック図である。
【図10】リニアソレノイドバルブの動作回数の定義を説明するための概念的な動作波形図である。
【図11】本発明の実施の形態による車両におけるLi析出抑制制御によるWinの設定処理を説明するフローチャートである。
【図12】アクチュエータ(リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数に応じて回生制限レートを設定する処理を説明するフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態におけるアクチュエータ(リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数と回生制限レートの設定値との関係を説明する概念的な波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態による車両の制御装置を搭載した車両の代表例として示されるハイブリッド車の概略構成を説明するブロック図である。
【0021】
図1を参照して、ハイブリッド車5は、制動装置10と、駆動輪12と、リダクションギヤ14と、エンジン20と、発電およびエンジン始動用の第1モータジェネレータ(以下、第1MGと記載する)40と、車両駆動用の第2モータジェネレータ(以下、第2MGと記載する)60と、ブレーキ液圧回路80と、動力分割機構100と、変速機200とを含む。
【0022】
ハイブリッド車5は、電力制御ユニット16と、リチウムイオン二次電池によって構成されるバッテリ18と、ブレーキペダル22と、ブレーキECU(Electronic Control Unit)300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とをさらに含む。代表的には、各ECUは、図示しない、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力ポートおよび通信ポートを含むマイクロコンピュータによって構成される。各ECUの少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
【0023】
ブレーキECU300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とは、通信バス310を用いて相互に通信可能に接続される。
【0024】
電源ECU306には、IGスイッチ36が接続される。電源ECU306は、運転者がIGスイッチ36に対してハイブリッド車5のシステムを起動する操作をした場合に、ブレーキペダル22が踏み込まれていることを条件として、図示しないIGリレー(あるいは、IGリレーおよびACCリレー)をオンする。これに応じて、ハイブリッド車5を構成する電気機器群に電源が供給されることによって、ハイブリッド車5が走行可能な状態となる。
【0025】
なお、本実施の形態においては、ブレーキECU300と、HV−ECU302と、エンジンECU304と、電源ECU306とは、別個のECUとして説明したが、これら複数のECUのうちの一部または全部の機能を統合したECUを設けてもよい。
【0026】
エンジン20は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。エンジン20には、エンジン回転数センサ34が設けられる。エンジン回転数センサ34は、エンジン20の回転数を検出して、検出されたエンジン20の回転数を示す信号をエンジンECU304に送信する。
【0027】
エンジンECU304は、エンジン回転数センサ34を始めとする各種センサからの信号に基づいて、エンジン20の燃料噴射量、点火時期および吸入空気量等を制御する。これにより、HV−ECU302によって定められた目標回転数および目標トルクで動作するように、エンジン20が制御される。
【0028】
バッテリ18は、リチウムイオン二次電池によって構成される。リチウムイオン二次電池は、エネルギ密度が高く、他の二次電池に比べ初期回路電圧および平均動作電圧が高い。このことから、リチウムイオン二次電池は、大きな電池容量、高い電圧を必要とする車両の車載蓄電装置に好適である。また、リチウムイオン二次電池は、クーロン効率が100%に近いことから充放電効率が高く、したがって、他の二次電池に比べエネルギの有効利用が可能であるという利点も有する。
【0029】
しかしながら、特許文献4にも示されるように、リチウムイオン二次電池は、充電条件によっては、負極表面にリチウム金属が析出する虞がある。このため、本実施の形態では、特許文献4と同様に、リチウムイオン二次電池でのリチウム金属析出を抑制するためにバッテリ18への充電を制限する制御(以下、「Li析出抑制制御」とも称する)を実行するものとする。
【0030】
バッテリ18には、バッテリ18の状態値を検出するためのバッテリセンサ19が設けられる。たとえば、バッテリセンサ19は、状態値として、バッテリ電流Ib、バッテリ電圧Vbおよびバッテリ温度Tbを検出するように構成される。バッテリセンサ19によって検出された状態値は、HV−ECU302へ送信される。
【0031】
以下では、バッテリ電流Ibについて、バッテリ18の放電時には正値(Ib>0)とする一方で、充電時には負値(Ib<0)で示すものとする。HV−ECU302は、逐次送信されるバッテリ電流Ibに基づいて、バッテリ18の充放電履歴を把握することができる。
【0032】
第1MG40および第2MG60の各々は、たとえば、三相交流回転電機であって、電動機(モータ)としての機能と発電機(ジェネレータ)としての機能とを有する。
【0033】
第1MG40および第2MG60には、図示しないロータの回転位置(角度)を検出するための回転位置センサ41および61が、それぞれ設けられる。
【0034】
第1MG40および第2MG60は、電力制御ユニット(PCU)16を介して、バッテリ18と接続される。PCU16は、図示しない複数の電力用半導体スイッチング素子を含んで構成されたインバータおよび/またはコンバータを有する。PCU16は、HV−ECU302からの制御指示に従って、第1MG40および第2MG60と、バッテリ18との間の双方向の電力変換を実行する。HV−ECU302は、第1MG40の出力トルクおよび第2MG60の出力トルクを、それぞれのトルク指令値に合致させるように、PCU16における電力変換を制御する。
【0035】
動力分割機構100は、エンジン20と第1MG40との間に設けられるプラネタリギヤである。動力分割機構100は、エンジン20から入力された動力を、第1MG40への動力とドライブシャフト164を介在させて駆動輪12に連結されるリダクションギヤ14への動力とに分割する。ドライブシャフト164には、車速センサ165が設けられる。車速センサ165によって検出されたドライブシャフト164の回転数に基づいて、ハイブリッド車5の車速Vが検出される。
【0036】
動力分割機構100は、第1リングギヤ102と、第1ピニオンギヤ104と、第1キャリア106と、第1サンギヤ108とを含む。第1サンギヤ108は、第1MG40の出力軸に連結された外歯歯車である。第1リングギヤ102は、第1サンギヤ108に対して同心円上に配置された内歯歯車である。第1リングギヤ102は、第1リングギヤ102とともに回転するリングギヤ軸102aを介して、リダクションギヤ14に連結される。第1ピニオンギヤ104は、第1リングギヤ102および第1サンギヤ108のそれぞれに噛合う。第1キャリア106は、第1ピニオンギヤ104を自転かつ公転自在に保持し、エンジン20の出力軸に連結される。
【0037】
すなわち、第1キャリア106が入力要素であって、第1サンギヤ108が反力要素であって、第1リングギヤ102が出力要素である。そして、リングギヤ軸102aに出力された駆動力(トルク)が、リダクションギヤ14およびドライブシャフト164を経由して、駆動輪12へ伝達される。
【0038】
エンジン20の作動中においては、第1キャリア106に入力されるエンジン20の出力トルクに対して、第1MG40による反力トルクを第1サンギヤ108に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素である第1リングギヤ102に現れる。その場合、第1MG40のロータがそのトルクによって回転されるので、第1MG40は発電機として機能する。また、第1リングギヤ102の回転数(出力回転数)を一定とした場合、第1MG40の回転数を変化させることにより、エンジン20の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン回転数をたとえば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、第1MG40を制御することによって行なうことができる。その制御は、HV−ECU302によって行われる。
【0039】
ハイブリッド車5の走行中にエンジン20を停止させている場合には、第2MG60が正回転する一方で第1MG40が逆回転している。その状態から第1MG40を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、第1キャリア106に連結されているエンジン20に正回転方向のトルクを作用させることができる。したがって、第1MG40によってエンジン20を始動(モータリングあるいはクランキング)することができる。その場合、リダクションギヤ14にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって、車両を走行させるための駆動力は、第2MG60の出力トルクを制御することにより維持できるとともに、同時にエンジン20の始動を円滑に行なうことができる。図1に示されるハイブリッド車5のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0040】
ハイブリッド車5の回生制動時には、リダクションギヤ14および変速機200を経由して、駆動輪12により第2MG60が駆動される。これにより、第2MG60は発電機として作動する。この結果、第2MG60は、制動エネルギを電力に変換する回生ブレーキとして作用する。第2MG60により発電された電力は、PCU16を経由してバッテリ18に蓄えられる。第2MG60の発電電力は、第2MG60のトルクおよび回転数の積によって決まるので、第2MG60のトルクによって、回生制動による発電電力を調整することができる。
【0041】
変速機200は、リダクションギヤ14と第2MG60との間に設けられるプラネタリギヤである。変速機200は、第2MG60の回転数を変速してリダクションギヤ14に伝達する。なお、変速機200を省略し、第2MG60の出力軸をリダクションギヤ14に直結する構成としてもよい。
【0042】
変速機200は、第2リングギヤ202と、第2ピニオンギヤ204と、第2キャリア206と、第2サンギヤ208とを含む。第2サンギヤ208は、第2MG60の出力軸に連結された外歯歯車である。第2リングギヤ202は、第2サンギヤ208に対して同心円上に配置された内歯歯車である。第2リングギヤ202は、リダクションギヤ14に連結される。第2ピニオンギヤ204は、第2リングギヤ202および第2サンギヤ208のそれぞれに噛合う。第2キャリア206は、第2ピニオンギヤ204を自転かつ公転自在に保持する。第2キャリア206は、回転しないように、図示しないケース等に固定される。
【0043】
変速機200は、摩擦係合要素を用いてHV−ECU302からの制御信号に基づいてプラネタリギヤの各要素の回転を制限したり、回転を同期させたりすることによって、第2MG60の回転速度を1段階あるいは複数の段階で変速してリダクションギヤ14に伝達するものであってもよい。
【0044】
HV−ECU302は、車両状態に適した走行を行なうための走行制御を実行する。たとえば、車両発進時および低速走行時には、エンジン20を停止した状態で、第2MG60の出力によってハイブリッド車5は走行する。定常走行時には、エンジン20を始動して、エンジン20および第2MG60の出力によってハイブリッド車5は走行する。特に、エンジン20を高効率の動作点で動作させることによって、ハイブリッド車5の燃費が向上する。具体的には、HV−ECU302は、図示しないアクセルペダルの操作量を反映して、車両全体の要求駆動力を設定するとともに、上記走行制御が実現されるように、エンジン20、第1MG40および第2MG60の動作指令値(代表的には、回転数指令値および/またはトルク指令値)を設定する。
【0045】
また、HV−ECU302は、バッテリセンサ19によって検出された状態値(バッテリ電流Ib,バッテリ電圧Vb,バッテリ温度Tb)に基づいて、バッテリ18のSOC(State of Charge)を推定する。SOCは、満充電量に対する現在の充電量を百分率で示した値で示される。SOCの推定手法については、公知の任意の手法を適用できるため、詳細な説明は繰返さない。
【0046】
さらに、HV−ECU302は、少なくともSOCに基づいて、バッテリ18へ充電する電力の制限値を示す入力許可電力値(以下、Winとも称する)、およびバッテリ18から放電する電力の制限値を示す出力許可電力値(以下、Woutとも称する)を設定する。バッテリ18への入出力電力(以下、単にバッテリ電力とも称する)についても、バッテリ18の放電時には正値とする一方で、充電時には負値で示す。このため、Woutは零または正値であり(Wout≧0)、Winは零または負値である(Win≦0)。HV−ECU302は、バッテリ電力がWin〜Woutの電力範囲に収まるように制限して、第1MG40および第2MG60の動作指令値を設定する。
【0047】
次に、ハイブリッド車5のブレーキシステムについて説明する。
制動装置10は、ブレーキキャリパ160と、円板形状のブレーキディスク162とを含む。ブレーキディスク162は、ドライブシャフト164に回転軸が一致するように固定される。ブレーキキャリパ160は、ホイールシリンダ(図1には示さず)とブレーキパッド(図示せず)とを含む。ブレーキ液圧回路80からブレーキキャリパ160に液圧が供給されることによって、ホイールシリンダが作動する。作動したホイールシリンダがブレーキパッドをブレーキディスク162に押し付けることによって、ブレーキディスク162の回転が制限される。これにより、制動装置10は、ブレーキ液圧回路80からの供給液圧Pwcに応じた液圧制動力を発生する。すなわち、制動装置10は「制動装置」に対応する。
【0048】
ブレーキ液圧回路80は、ブレーキECU300からの動作指令に応じて制御されて、制動装置10への供給液圧Pwcを制御する。
【0049】
図2は、図1に示したブレーキ液圧回路80の具体的な構成例を示すブロック図である。
【0050】
図2を参照して、ブレーキ液圧回路80は、液圧ブースタ81と、ポンプモータ82と、アキュムレータ83と、リザーバ84と、液圧制御回路85と、ストロークシミュレータ89とを含む。
【0051】
液圧制御回路85は、切換レノイドバルブSSC,SMC,SRC,SCCと、通常ブレーキ時のホイールシリンダ油圧を制御するためのリニアソレノイドバルブSLA,SLRと、制御ソレノイドバルブFLH,FLR,FRH,FRR,RLH,RLR,RRH,RRRと、液圧センサ86〜88とを含む。各ソレノイドバルブの動作は、ブレーキECU300からの制御信号Svlに応答して制御される。
【0052】
液圧ブースタ81は、ブレーキペダル22の踏力を増幅するように、当該踏力に応じた液圧(レギュレータ圧Prg)を発生するように構成される。液圧ブースタ81からのレギュレータ圧Prgは、液圧センサ87によって検出することができる。液圧センサ87による検出値は、ブレーキECU300へ送出される。
【0053】
ブレーキECU300は、検出されたレギュレータ圧Prgに基づいて、ブレーキペダル22の操作量(踏力)を検知することが可能である。あるいは、ブレーキペダル22の操作量を直接検出するストロークセンサを設けることによって、ブレーキペダル22の操作量(踏力)を検知することも可能である。
【0054】
ストロークシミュレータ89は、ドライバに最適なブレーキフィーリングを与えるように、ブレーキペダル22の操作に応じた反力をブレーキペダル22に作用させるように構成される。
【0055】
ポンプモータ82は、リザーバ84に蓄積された作動流体を増圧する。ポンプモータ82から出力された作動流体は、アキュムレータ83を経由して、液圧制御回路85へ供給される。この供給液圧(アキュムレータ圧Pac)は、液圧センサ88によって検出することができる。液圧センサ88によるアキュムレータ圧Pacの検出値は、ブレーキECU300へ送出される。ブレーキECUは、アキュムレータ圧が指令値と一致するように、ポンプモータ82を制御する。
【0056】
切換ソレノイドバルブSSCは、ストロークシミュレータ89へ通じる経路を開閉する。切換ソレノイドバルブSCCは、後輪側の流体路90および前輪側の流体路91の間の経路を開閉する。切換ソレノイドバルブSMCは、液圧ブースタ81から流体路90への経路を開閉する。切換ソレノイドバルブSRCは、液圧ブースタ81から流体路91への経路を開閉する。切換ソレノイドバルブSMC,SRCは、通常閉じられており、切換ソレノイドバルブSRCは、通常開かれている。
【0057】
リニアソレノイドバルブSLA,SLRは、液圧センサ86によって検出される、流体路90,91の液圧(ホイールシリンダ圧Pwc)を制御する。液圧センサ86によるホイールシリンダ圧Pwcの検出値は、ブレーキECU300へ送出される。
【0058】
ブレーキECU300は、ホイールシリンダ圧Pwcが目標液圧に一致するように、リニアソレノイドバルブSLA,SLRの開度を制御する。ホイールシリンダ圧を増圧するときには、リニアソレノイドバルブSLAが開状態(開度>0)とされる一方でリニアソレノイドバルブSLRは閉状態(開度=0)とされる。これに対して、ホイールシリンダ圧を減圧するときには、リニアソレノイドバルブSLRが開状態とされる一方でリニアソレノイドバルブSLAは閉状態とされる。すなわち、リニアソレノイドバルブSLA,SLRは、制動装置10へ供給される液圧(ホイールシリンダ圧)を制御するための「アクチュエータ」に相当する。
【0059】
制御ソレノイドバルブFLH,FLR,FRH,FRR,RLH,RLR,RRH,RRRは、ABS(Anti-lock Brake System)やトラクションコントロールシステム等の作動時に、各車輪のホイールシリンダ161への供給液圧を独立に制御するために設けられる。制御ソレノイドバルブは、対応のホイールシリンダ161への供給液圧を保持するための保持バルブFLH,FRH,RLH,RRHと、対応のホイールシリンダ161への供給液圧を低下するための減圧バルブFLR,FRR,RLR,RRRとを含む。ABS等の非作動時には、各制御ソレノイドバルブは閉状態に維持される。
【0060】
通常ブレーキ時には、リニアソレノイドバルブSLA,SLRによって制御されたホイールシリンダ圧Pwcが、各ホイールシリンダ161へ共通に供給される。すなわち、液圧センサ86によって検出されるホイールシリンダ圧Pwcは、図1に示された、制動装置10への供給液圧Pwcに対応する。
【0061】
なお、液圧制御回路85の異常時には、切換ソレノイドバルブSMC,SRCが開状態とされることにより、ブレーキ踏力に応じた液圧(レギュレータ圧)が、液圧ブースタ81から各ホイールシリンダ161へ供給される。また、異常個所に応じて切換ソレノイドバルブSCCを閉することによって、前輪側の経路と後輪側の経路とを切離すことができる。
【0062】
図3は、図2に示したリニアソレノイドバルブの概略構造図である。図3には、代表的に、リニアソレノイドバルブSLAの構造が示される。
【0063】
図3を参照して、リニアソレノイドバルブSLAは、ソレノイドコア501と、プランジャ502と、付勢手段505とを含む。
【0064】
ソレノイドコア501は、リニアソレノイドバルブの開度を指示する制御信号に応答して、図示しない電源から電流を供給される。ソレノイドコア501は、供給された電流量に応じた電磁力Feをプランジャに作用させる。開度量の指示に応じて、ソレノイドコア501の電流量を変化させることにより、開度の制御が可能となる。
【0065】
付勢手段505は、スプリング等で構成されて、プランジャ502に対して付勢力Fsを与える。付勢力Fsは、ソレノイドコア501による電磁力Feとは反対方向に作用する。
【0066】
ソレノイドコア501の非通電時には、電磁力Fe=0である。したがって、プランジャ502は、付勢力Fsによって接点506を閉状態とする。接点506が閉状態のときには、アキュムレータ側からホイールシリンダ側への作動流体の経路が遮断される。確実な遮断をもたらすために、接点506にはコーティング材等による機械的なシール構造が設けられる。
【0067】
一方、ソレノイドコア501の通電時には、付勢力Fsに打ち勝つ電磁力Feが作用することによって、プランジャ502は、接点506を開状態とする。接点506が開状態のときには、アキュムレータ側からホイールシリンダ側への作動流体の経路が形成されることによって、ホイールシリンダ圧が上昇する。
【0068】
リニアソレノイドバルブSLRも、図3に示したリニアソレノイドバルブSLAと同様の構造を有する。リニアソレノイドバルブSLRでは、ホイールシリンダ圧を低下させる場合に、ソレノイドコア501に電流が供給されて、接点506が開状態とされる。
【0069】
液圧制御のために接点506が開閉されることに伴って、プランジャ502が壁部に衝突する。したがって、衝突回数が過大になると、コーティング材の脱落あるいは、プランジャ502や壁部の磨耗によって、シール機能が劣化する虞がある。たとえば、当該シール構造は、通常の使用状態において想定される、一定の耐用年数におけるリニアソレノイドバルブの累積動作回数によって劣化しない強度を有するように設計される。しかしながら、高頻度にブレーキが使用されること等により、リニアソレノイドバルブの累積動作回数が設計時の想定を超えて過大になると、接点506におけるシール機能が劣化する虞がある。この場合には、プランジャ502によって作動流体を適切に遮断できなくなるため、液圧を制御する際の応答性が低下する虞がある。
【0070】
図1に示したハイブリッド車5では、ドライバによるブレーキペダル22の操作に対応した車両全体での要求制動力(トータル制動力)を、第2MG60による回生制動力と、制動装置10による液圧制動力とで分担して出力するブレーキ協調制御が実行される。図4には、液圧制動および回生制動によるブレーキ協調制御の一例が示される。
【0071】
図4を参照して、W10はドライバのブレーキペダル操作に基づくトータル制動力を示している。一方で、W20は第2MG60によって発生される回生制動力を示している。回生制動力および液圧制動力の和によって、トータル制動力が確保されることが理解される。なお、図示しないが、エンジンを搭載するハイブリッド車においては、上記の液圧制動力と回生制動力に加えて、いわゆるエンジンブレーキによる機関制動力も発生される。したがって、厳密には、必要に応じて機関制動力も考慮に入れた上で、回生制動力および液圧制動力が決められる。ただし、以下では、記載を簡単にするために、機関制動力=0として説明を進める。
【0072】
ここで、回生制動力すなわち、第2MG60が出力する制動トルクは、バッテリ18への入力電力がWinを超えない範囲内(すなわち、Pb>Winとなる範囲内)に制限される。したがって、Winが制限されると、図4に示される本来の回生制動力が確保できなくなる可能性がある。特に、特許文献4にも示されるLi析出抑制制御を適用した場合には、回生制動力の発生中に、Winが正方向に変化する可能性がある。この場合には、バッテリ18の保護のために、回生制動力を速やかに減少させる必要が生じる。
【0073】
この際には、回生制動力の減少分に対応させて、液圧制動力を増加させる必要がある。しかしながら、特許文献1等にも記載されるように、回生制動力が急激に減少してしまうような場合には、液圧制動力の増加(液圧の上昇)が追従できず、目標とするトータル制動力が瞬間的に確保できなくなってしまう可能性がある。そうすると、車両の制動性能には影響がなくとも、車両ユーザに違和感を与える可能性がある。
【0074】
したがって、本実施の形態による車両では、Li析出抑制制御の適用を考慮したブレーキ協調制御における回生電力の制限を、以下のように設定する。
【0075】
図5は、図1に示したハイブリッド車5におけるブレーキ協調制御の制御処理手順を示すフローチャートである。
【0076】
図5に示すフローチャートによる制御処理は、一定の制御周期毎にHV−ECU302によって実行される。また、図5に示した各ステップは、HV−ECU302によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現されるものとする。
【0077】
図5を参照して、HV−ECU302は、ステップS100により、ハイブリッド車5の車両状態を入力する。車両状態には、ブレーキペダル22の操作量であるブレーキペダル操作量BPと、車速Vと、第1MG40の回転数Nm1と、第2MG60の回転数Nm2とが含まれる。
【0078】
ブレーキペダル操作量BPは、たとえば、図2の液圧センサ87によって検出されたレギュレータ圧Prgに基づいて検知される。車速Vは、車速センサ165の出力に基づいて検知される。回転数Nm1,Nm2は、第1MG40および第2MG60に取付けられた回転位置センサ41,61の出力に基づいて演算できる。
【0079】
HV−ECU302は、ステップS110により、ハイブリッド車5の車両状態に基づいて、車両全体での要求制動トルクTr*を設定する。要求制動トルクTr*は、図4に示したトータル制動力に対応する。
【0080】
代表的には、要求制動トルクTr*は、ステップS100で入力されたブレーキペダル操作量BPおよび車速Vに基づいて、リングギヤ軸102aに出力すべき制動トルクとして算出される。たとえば、ブレーキペダル操作量BPおよび車速Vと要求制動トルクTr*との関係を予め定めたマップを予め作成して、HV−ECU302内の図示しないメモリに記憶しておくことができる。そして、ステップS110では、ステップS100で入力されたブレーキペダル操作量BPおよび車速Vに基づいて当該マップを参照することによって、要求制動トルクTr*を設定することができる。
【0081】
続いて、HV−ECU302は、ステップS120により、バッテリ18のWinを読込む。Winを設定するための制御処理については、後ほど詳細に説明する。|Win|(Win≦0)は、現在(当該制御周期)における、バッテリ18の充電電力の大きさの最大値、すなわち「充電電力上限値」を示す。また、充電時(Ib<0)におけるバッテリ電流Ibの大きさ(|Ib|)について、以下では「充電電流」とも表記する。
【0082】
HV−ECU302は、ステップS130では、図4に示したブレーキ協調制御に従って、要求制動トルクTr*のうちの回生制動トルクの分担量を決定する。この分担量に基づいて、回生制動力を発生する第2MG60のトルク指令値(第2MGトルクTm2*)が設定される。
【0083】
回生制動の際に、第2MG60は、トルクおよび回転数の積に従った電力を発電する。したがって、バッテリ電力(Pb=Vb・Ib)が、ステップS120で読込まれたWinを超えないようにする必要がある。すなわち、|Pb|<|Win|とする必要がある。したがって、ステップS130では、|Pb|<|Win|となる範囲内に限定した上で、ブレーキ協調制御のための第2MGトルクTm2*が設定される。
【0084】
さらに、HV−ECU302は、ステップS140では、下記(1)式に従って液圧ブレーキトルクTbk*を設定する。なお、(1)式中のGrは、変速機200の減速比である。
【0085】
Tbk*=Tr*−Tm2*・Gr …(1)
このようにして、要求制動トルクTr*を、回生制動トルク(Tm2*)および液圧ブレーキトルク(Tbk*)によって分担するブレーキ協調制御が実現される。すなわち、ステップS100〜S140の処理によって、「制動制御手段」の機能が実現される。
【0086】
さらに、HV−ECU302は、ステップS150により、ステップS140で設定された液圧ブレーキトルクTbk*をブレーキECU300(図1)に出力する。
【0087】
ブレーキECU300は、液圧ブレーキトルクTbk*に基づいて、制動装置10に供給する目標液圧を算出する。そして、液圧センサ86によって検出されたホイールシリンダ圧(Pwc)がこの目標液圧に一致するように、図2に示した液圧制御回路85を制御する。
【0088】
次に、リチウムイオン二次電池によって構成されるバッテリ18に対するLi析出抑制制御について説明する。
【0089】
図6および図7は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車5で実行されるLi析出抑制制御を説明する波形図である。
【0090】
図6を参照して、時刻t0からバッテリ電流Ibが負方向に変化して、バッテリ18の充電が開始される。
【0091】
バッテリ18の充放電履歴に応じて、バッテリ18の許容入力電流値Ilimが設定される。特許文献4に記載されるように、許容入力電流値Ilimは、単位時間内に、バッテリ負極電位がリチウム基準電位まで低下することによってリチウム金属が析出しない最大電流値として求められる。許容入力電流値Ilimは、特許文献4と同様に設定することができる。すなわち、充放電履歴がない状態における許容入力電流値の初期値Ilim[0]から、充電継続による減少量、放電継続による回復量、または放置による回復量を制御周期毎に加減算することによって、時刻tにおけるIlim[t]が逐次求められる。
【0092】
さらに、許容入力電流値Ilimに対するマージン電流ΔImrを設定して、リチウム金属の析出を防止するための入力電流制限目標値Itagが設定される。特許文献4に記載されるように、許容入力電流値Ilimを正方向にオフセットさせることによって、入力電流制限目標値Itagを設定することができる。この場合には、オフセットさせた電流値が、マージン電流ΔImrとなる。
【0093】
図6に示されるように、継続的な充電によって、許容入力電流値Ilimおよび入力電流制限目標値Itagは、正方向に徐々に変化する。これによって、許容される充電電流(|Ib|)は減少することが理解される。そして、時刻t1において、IbがItagよりも低くなると(Ib<Itag)と、リチウム金属の析出を抑制するために充電電流を制限することが必要となる。
【0094】
このため、図7に示されるように、時刻t1からバッテリ18のWinを正方向に変化させることによって、充電電力(すなわち、回生電力)が制限される。たとえば、Winは、一定レート(時間変化率)によって正方向に変化される。これにより、|Win|、すなわち、「充電電力上限値」は減少する。この際のWinの変化レートを、以下では「回生制限レート」とも称する。回生制限レートは、Li析出抑制制御による充電電力制限(以下、「回生制限」とも称する)における制限度合の一例に相当する。
【0095】
再び図6を参照して、時刻t1からのWinの制限によって充電電流が減少して(すなわち、Ibが正方向に変化)、時刻t2では、再び、Ib>Itagとなる。これにより、図7に示されるように、時刻t2からは、回生制限が解除される。これにより、バッテリ18のWinは、通常値まで徐々に復帰することになる。
【0096】
このように、大きな充電電流が発生する回生制動時においては、リチウム金属の析出抑制のために、充電電流が入力電流制限目標値Itagに達すると、Winを一定の回生制限レートで変化させる回生制限が開始される。図6および図7から理解されるように、マージン電流ΔImrが大きくなるほど、回生制限の開始条件が厳しくなる。一方で、マージン電流ΔImrを小さくすると、回生制限の開始条件を緩和することによって、回生発電によって回収されるエネルギを増やすことができる。
【0097】
回生制動中に、回生制限によってWinが変化すると、図5のステップS120,S130の処理によって、回生制動トルクの分担(MG2トルクの絶対値)が減少するとともに、その減少分に対応して、液圧ブレーキトルクTbk*の分担が増加する。これに応じて、ブレーキECU300は、制動装置10への供給液圧Pwcを上昇させるように、ブレーキ液圧回路80を制御する。上述のように、この際には、指令値の上昇に対する供給液圧Pwcの上昇に一定の遅れが発生する。これにより、液圧ブレーキトルクが瞬間的に不足するため、瞬間的な車両制動力の変動が生じて、ユーザに違和感を与える虞がある。
【0098】
図8には、ブレーキ液圧回路における液圧制御の応答遅れを説明する概念的な波形図が示される。
【0099】
図8を参照して、制動装置10への供給液圧を上昇する際には、ホイールシリンダ圧の指令値が上昇される。そして、ブレーキECU300は、上昇された指令値にホイールシリンダ圧Pwcが一致するように、図2に示したリニアソレノイドバルブSLAを制御する。これにより、ホイールシリンダ圧Pwc(すなわち、制動装置10への供給油圧)の実績値が、指令値に追従して上昇する。
【0100】
この際にホイールシリンダ圧Pwcが指令値まで上昇するには、一定の所要時間(遅れ時間)ΔTが存在する。液圧変化量ΔPを遅れ時間ΔTで除算することによって、液圧応答レートが得られる。回生制限の際に、瞬間的な車両制動力の変動を生じさせることなく液圧ブレーキトルクを増加する際のレート(時間変化率)は、液圧応答レートに依存して決まることが理解される。
【0101】
上述のように、制動装置10へ供給される液圧(ホイールシリンダ圧)を制御するアクチュエータであるリニアソレノイドバルブSLA,SLRの動作回数(開閉回数)の累積値が過大になると、接点506(図3)におけるシール性能の経年劣化によって、液圧応答レートが低下する虞がある。このような場合に、液圧ブレーキトルクの上昇が想定よりも遅れることによって、瞬間的な車両制動力の変動する虞がある。
【0102】
このため、経年劣化による液圧の制御応答性の低下に対しても十分に余裕を有するように、回生制限レートを一律に低く設定する対応が考えられる。しかしながら、回生制限レートを低くしたときには、Ib<Itagから開始される充電電流の制限も緩やかなものとなる。このため、リチウム金属の析出を防ぐために、IbがIlimに達することを確実に回避する観点から、図6に示したマージン電流ΔImrを大きくする必要が生じる。すなわち、回生制限のための充電電力の制限度合を低くすると、回生制限を開始する条件を厳しくする必要がある。この結果、Winが過度に制限されることによって、回生発電による回収エネルギが減少する。
【0103】
したがって、本発明の実施の形態では、以下に説明するように、ブレーキ液圧回路80におけるアクチュエータ(リアソレノイドバルブ)の累積動作回数に基づいて、Li析出抑制制御の回生制限レートを可変に設定する。
【0104】
図9は、本発明の実施の形態による車両における、Li析出抑制制御と組み合わされたブレーキ協調制御を説明する機能ブロック図である。図9に示した各機能ブロックは、ブレーキECU300またはHV−ECU302による、ソフトウェア処理および/またはハードウェア処理により実現することができる。
【0105】
図9を参照して、ブレーキECU300は、液圧制御部315と、アクチュエータ動作回数カウント部320とを含む。HV−ECU302は、回生制限レート設定部330と、SOC算出部340と、電流判定部350と、Win設定部360とを有する。図9には、HV−ECU302による機能のうちの、Li析出抑制制御に係る「充電制御手段」に関連する部分の機能ブロックが示される。
【0106】
液圧制御部315は、HV−ECU302により図5のフローチャートに従って設定された液圧ブレーキトルクTbk*に基づいて、ホイールシリンダ圧の指令値Pwc*を発生する。さらに、液圧制御部315は、指令値Pwc*と、液圧センサ86によって検出されたホイールシリンダ圧Pwcの実績値とに基づいて、図2に示した液圧制御回路85(特に、リニアソレノイドバルブSLA,SLR)を制御するための制御信号Svlを発生する。制御信号Svlは、ブレーキ液圧回路80に送出される。
【0107】
アクチュエータ動作回数カウント部320は、ブレーキ液圧回路80における液圧制御のアクチュエータ(図2の例では、リニアソレノイドバルブSLA,SLR)の動作回数をカウントする。これにより、リニアソレノイドバルブ(アクチュエータ)の累積動作回数が求められる。動作回数は、リニアソレノイドバルブSLA,SLRの開閉を指示する制御信号(Slvの一部)、あるいは、リニアソレノイドバルブSLA,SLRの動作状態を示す実績信号に基づいて、カウントすることができる。すなわち、アクチュエータ動作回数カウント部320は、「計数手段」に対応する。
【0108】
図10は、リニアソレノイドバルブの動作回数の定義を説明するための概念的な動作波形図である。
【0109】
図10では、説明を簡略化するために、ブレーキペダルの操作に応じた要求制動トルクTr*が一定の下で、Li析出抑制制御による回生制限が、複数回実行された場合の波形が示されている。
【0110】
図10を参照して、時刻t1,t3,t4の各々において、回生制限がオンされる。回生制限がオンされる毎に、回生制動トルクを低下させる一方で、液圧制動トルクを上昇させる必要が生じる。すなわち、リニアソレノイドバルブが動作して、ホイールシリンダ圧Pwcが上昇することになる。このとき、リニアソレノイドバルブSLAは、閉状態から、圧力を上昇させるために開放される。圧力が指令値まで上昇すると、リニアソレノイドバルブSLAは、再び閉状態に復帰する。この一連の開閉動作によって、図3で説明した接点506での機械的な衝突が発生する。
【0111】
したがって、リニアソレノイドバルブが閉状態(開度=0)から開放される(すなわち、開度>0)となる毎に、動作回数を1増やすことにより、リニアソレノイドバルブの動作回数を計数できる。
【0112】
再び図9を参照して、アクチュエータ動作回数カウント部320によって検出された累積動作回数Csvは、回生制限レート設定部330へ送られる。なお、複数のリニアソレノイドバルブ(図2中のSLA,SLR)が存在する場合には、動作回数が最も多いリニアソレノイドバルブ、あるいは、液圧制御への影響性から予め指定された特定のリニアソレノイドバルブの動作回数を、累積動作回数Csvとすることができる。
【0113】
SOC算出部340は、バッテリセンサ19によって検出された状態値(バッテリ電流Ib,バッテリ電圧Vb,バッテリ温度Tb)に基づいて、バッテリ18のSOCの推定値を算出する。以下では、SOC推定値についても、単に「SOC」と表記する。
【0114】
電流判定部350は、バッテリ18の状態値およびSOCに基づいて、Li析出抑制制御による回生制限が必要な状態であるかどうかを判定する。後ほど詳細に説明するように、この判定には、バッテリ電流Ibの履歴が反映される。電流判定部350は、Li析出抑制制御による回生制限が必要なときにはフラグFLGをオンし、そうでないときにはフラグFLGをオフする。フラグFLGは、Win設定部360へ送出される。
【0115】
回生制限レート設定部330は、アクチュエータの累積動作回数Csvの上昇に応じて、回生制限レートPrが低下するように、回生制限レートPrを設定する。すなわち、回生制限レート設定部330は、「設定手段」に対応する。
【0116】
Win設定部360は、現在のバッテリ状態(SOC,状態値)と、電流判定部350からのフラグFLGと、回生制限レート設定部330によって設定された回生制限レートPrとに基づいて、バッテリ18のWinを設定する。
【0117】
図11には、図9に示したLi析出抑制制御を実現するための制御処理を示すフローチャートが示される。図12には、図11のステップS250での制御処理を詳細に説明するフローチャートが示される。
【0118】
図11に示すフローチャートによる制御処理は、一定の制御周期毎にHV−ECU302によって実行される。また、図11,12に示す各ステップは、HV−ECU302によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現することができる。
【0119】
図11を参照して、HV−ECU302は、ステップS210により、バッテリセンサ19の出力に基づいて、バッテリ18の状態値を入力する。上述のように、ステップS210で入力される状態値は、たとえば、バッテリ18の電圧Vb、電流Ibおよび温度Tbを含む。HV−ECU302は、ステップS220では、バッテリ18のSOCを算出する。すなわち、S210の処理は、図9のSOC算出部340の機能に対応する。
【0120】
さらに、HV−ECU302は、ステップS230により、バッテリ18のWin0を設定する。Win0は、回生制限レート処理を実行する前のWinであり、Li析出抑制制御を考慮することなく、現在のバッテリ状態(SOC、状態値等)に基づいて設定される。すなわち、このWin0が、公知の手法に基づいて通常設定されるバッテリ18のWinに相当する。たとえば、Win0は、SOCおよびバッテリ温度Tbに基づいて設定される。
【0121】
HV−ECU302は、ステップS240により、ブレーキECU300(アクチュエータ動作回数カウント部320)によって検出されたアクチュエータ(リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数Csvを入力する。そして、HV−ECU302は、ステップS250により、累積動作回数Csvに基づいて、回生制限レートPrを設定する。
【0122】
図12を参照して、ステップS250は、ステップS251〜S253を含む。HV−ECU302は、ステップS251により、累積動作回数Csvが、所定のしきい値Nthを超えているかどうかを判定する。しきい値Nthは、上述のように、接点506のシール構造の設計時に想定した、リニアソレノイドバルブの累積動作回数に従って定めることができる。すなわち、累積動作回数Csvがしきい値Nthを超えたときには、シール性能の劣化による液圧応答レートの低下が懸念される状態となっている。
【0123】
HV−ECU302は、累積動作回数Csvがしきい値Nthを超えるまで(S251のNO判定時)には、ステップS252に処理を進めて、回生制限レートPrを通常値に設定する。
【0124】
これに対して、累積動作回数Csvがしきい値Nthを超えると(S251のYES判定時)、HV−ECU302は、ステップS253に処理を進めて、回生制限レートPrを、S252によって設定される値(通常値)よりも低く設定する。
【0125】
図13には、本発明の実施の形態におけるアクチュエータ(リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数と回生制限レートの設定値との関係が示される。
【0126】
図13を参照して、累積動作回数Csvは、使用時間(年数)の経過に従って増加していく。累積動作回数Csvが、しきい値Nthに達するまでは、回生制限レートPrは、Pr=R1に設定される。この場合には、液圧応答レートに応じてR1をなるべく高く設定することにより、回生エネルギの回収を図ることができる。
【0127】
一方、累積動作回数Csvがしきい値Nthを超える時刻Y1以降では、ブレーキ液圧回路80における液圧制御応答レートの低下が懸念されるため、回生制限レートPrは、Pr=R2(R2<R1)に設定される。これに伴い、Li析出抑制制御におけるマージン電流ΔImgについても大きく設定することになる。
【0128】
これにより、アクチュエータ(リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数の増大に起因する液圧制御応答性の低下によって、ブレーキ協調制御中の回生制限によって、瞬間的な車両制動力の変動が生じることを防止できる。
【0129】
なお、図13中に点線で示されるように、回生制限レートは、複数段階に徐々に低下させてもよい。累積動作回数Csvの増加に応じて回生制限レートPrを低下させる態様については、ブレーキ液圧回路80での、アクチュエータの累積動作回数の増加に伴う液圧応答レートの低下特性に合せて、任意に設定することが可能である。
【0130】
再び図11を参照して、HV−ECU302は、ステップS255では、ステップS250で設定された回生制限レートPrに応じて、マージン電流ΔImrを設定する。
【0131】
上述のように、充電電力の制限度合を高めるために回生制限レートを高くすると、Ib<Itagとなったときに、充電電流を速やかに減少させることができる。このため、回生制限を開始する条件を緩和できるので、マージン電流ΔImrを小さくすることができる。この結果、回生制動によって回収されるエネルギ量を増加することができる。
【0132】
このように、Li析出抑制制御におけるマージン電流ΔImrは、回生制限レートと反対の特性で変化させる必要がある。すなわち、回生制限時における回生制限レートPrが高くなるほどマージン電流ΔImrを小さく設定する。反対に、回生制限時における回生制限レートPrが低くなるほどマージン電流ΔImrを大きく設定する。これにより、リチウム金属の析出抑制と、回生制動による回収エネルギ量の確保とを両立することができる。
【0133】
このような観点から、回生制限レートPrとマージン電流ΔImrとの間の関係を予め定めたマップを予め作成することができる。このマップは、HV−ECU302内の図示しないメモリに予め記憶される。そして、ステップS255では、ステップS250で設定された回生制限レートPrに基づいて当該マップを参照することによって、マージン電流ΔImrを設定することができる。
【0134】
さらに、HV−ECU302は、ステップS260では、Li析出抑制制御のための電流制御演算を実行する。すなわち、図6に説明したように、特許文献4に示す手法に基づいて、バッテリ18の充放電履歴に基づいて、今回の制御周期における許容入力電流値Ilim[t]が演算される。そして、許容入力電流値Ilimに対して、ステップS255によって設定されたマージン電流ΔImrを設けることによって、入力電流制限目標値Itagが算出される。
【0135】
さらに、HV−ECU302は、ステップS270により、ステップS210に入力されたバッテリ電流Ibと、ステップS260で算出された入力電流制限目標値Itagとを比較する。ステップS255〜S270の処理は、図9の電流判定部350の機能に対応する。
【0136】
HV−ECU302は、Ib>Itagのとき(S270のNO判定時)には、充電電流がItagに達していないため、図9に示したフラグFLGをオフする。このとき、HV−ECU302は、ステップS280によって、回生制限をオフする。この場合には、ステップS285により、ステップS230で設定されたWin0が、そのままバッテリ18のWinとなる(Win=Win0)。
【0137】
一方で、HV−ECU302は、Ib<Itagのとき(S270のYES判定時)には、充電電流がItagに達しているため、フラグFLGをオンする。このとき、HV−ECU302は、ステップS290により、回生制限をオンする。充電電流を現状よりも減少させなければ、Ibが許容入力電流値Ilimに達する虞があるからである。
【0138】
回生制限がオンされると、HV−ECU302は、ステップS295により、ステップS240で設定された回生制限レートに従ってWinを設定する。具体的には、前回の制御周期におけるWinから、当該回生制限レートに従って正方向に変化させるように、Winが設定される。回生制限レートに従ってバッテリ18の充電電力上限値(|Win|)が減少することによって、バッテリ18の充電電流が減少する。この結果、負極電位の低下が抑制されて、リチウム金属の析出が防止される。ステップS230,S280〜S295の処理は、図9のWin設定部360の機能に対応する。
【0139】
このように本実施の形態によれば、リチウムイオン二次電池を搭載した車両において、回生発電中にLi析出抑制制御のために充電電流を制限する際に、ブレーキ液圧回路80における液圧制御のアクチュエータ(たとえば、リニアソレノイドバルブ)の累積動作回数に基づいて、Li析出抑制制御での充電電力制限(回生制限)を実行する。
【0140】
したがって、アクチュエータの累積使用回数に応じて液圧制御の応答レートが低下しても、液圧制動力の遅れが発生しないように、Li析出抑制制御による充電電力制限(回生制限)を制限できる。この結果、Li析出抑制制御による充電電力制限(回生制限)により、ユーザに違和感を与えることを防止できる。また、アクチュエータの累積使用回数が少ないため、液圧制御の応答レート低下の可能性が低い状態では、充電電力制限を開始する条件を緩和(すなわち、マージン電流ΔImrを減少)することができる。これにより、回生エネルギを最大限確保することによって、車両のエネルギ効率(すなわち、燃費)を向上することができる。
【0141】
なお、本発明の実施の形態によるブレーキ協調制御が適用される車両は、図1に例示したハイブリッド車5に限定されるものではない。本発明は、電動機による回生制動力と、液圧の供給に応じた液圧制動力との組合せによって制動力を確保する構成を有するものであれば、搭載される電動機(モータジェネレータ)の個数や駆動系の構成に関らず、ハイブリッド車の他に、エンジンを搭載しない電気自動車および燃料電池自動車等を含む電動車両全般に共通に適用できる。特に、ハイブリッド車の構成についても、図1の例示に限定されることはなく、パラレル式のハイブリッド車を始めとして、任意の構成のものに、本願発明を適用可能である点について、確認的に記載する。また、走行用電動機を搭載していない車両であっても、回生制動力を発生する電動機を搭載していれば、本願発明を適用可能である。
【0142】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0143】
この発明は、リチウムイオン二次電池を搭載した車両における、回生制動力と液圧制動力とを協調させた電子制御式ブレーキシステムに適用することができる。
【符号の説明】
【0144】
5 ハイブリッド車、10 制動装置、12 駆動輪、14 リダクションギヤ、16 電力制御ユニット、18 バッテリ、19 バッテリセンサ、20 エンジン、22 ブレーキペダル、34 エンジン回転数センサ、36 IGスイッチ、40 第1MG、41,61 回転位置センサ、60 第2MG、80 ブレーキ液圧回路、81 液圧ブースタ、82 ポンプモータ、83 アキュムレータ、84 リザーバ、85 液圧制御回路、86〜88 液圧センサ、89 ストロークシミュレータ、90,91 流体路、100 動力分割機構、102 第1リングギヤ、102a リングギヤ軸、104 第1ピニオンギヤ、106 第1キャリア、108 第1サンギヤ、160 ブレーキキャリパ、161 ホイールシリンダ、162 ブレーキディスク、164 ドライブシャフト、165 車速センサ、200 変速機、202 第2リングギヤ、204 第2ピニオンギヤ、206 第2キャリア、208 第2サンギヤ、300 ブレーキECU、302 HV−ECU、304 エンジンECU、306 電源ECU、310 通信バス、315 液圧制御部、320 アクチュエータ動作回数カウント部、330 回生制限レート設定部、340 SOC算出部、350 電流判定部、360 Win設定部、501 ソレノイドコア、502 プランジャ、505 付勢手段、506 接点、Csv 累積動作回数(アクチュエータ)、Fe 電磁力、FLG フラグ(回生制限)、FLH,FRH,RLH,RRH 制御ソレノイドバルブ(保持バルブ)、FLR,FRR,RLR,RRR 制御ソレノイドバルブ(減圧バルブ)、Fs 付勢力、Ib バッテリ電流、ΔImr マージン電流、Ilim 許容入力電流値、Ilim[0] 初期値(許容入力電流値)、Itag 入力電流制限目標値、Nm1,Nm2 回転数(MG)、Nth しきい値(アクチュエータ累積動作回数)、Pac アキュムレータ圧、Pr 回生制限レート、Prg レギュレータ圧、Prt 液圧応答レート、Pwc* 指令値(ホイールシリンダ圧)、Pwc 検出値(ホイールシリンダ圧)、SCC,SMC,SRC,SSC 切換ソレノイドバルブ、SLA,SLR リニアソレノイドバルブ(アクチュエータ)、Svl 制御信号(ブレーキ液圧回路)、Tb バッテリ温度、Tbk* 液圧ブレーキトルク、Tr* 要求制動トルク、V 車速、Vb バッテリ電圧。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池からなるバッテリと、供給される液圧に応じた制動力を車輪に作用させるように構成された制動装置と、前記車輪との間で回転力を相互に伝達可能に構成されたモータジェネレータと、前記モータジェネレータの出力トルクを制御するように前記バッテリと前記モータジェネレータとの間で双方向の電力変換を実行するための電力制御器とを搭載した車両の制御装置であって、
前記バッテリの充放電履歴に基づいて、前記バッテリの負極電位がリチウム基準電位まで低下することを防止するように前記バッテリの充電電力上限値を調整するための充電制御手段と、
調整された前記充電電力上限値の範囲内で前記モータジェネレータが回生制動力を発生するように、ブレーキペダル操作に対応した要求制動力に対する、前記制動装置による液圧制動力と前記回生制動力との分担を決定するための制動制御手段と、
前記制動装置へ供給される液圧を制御するためのアクチュエータの累積動作回数をカウントするための計数手段とを備え、
前記充電制御手段は、
前記負極電位の低下を防止するために前記充電電力上限値を制限する際における前記充電電力上限値の制限度合を、前記計数手段によって検出された前記累積動作回数に応じて低下させるための設定手段を含む、車両の制御装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記累積動作回数が所定の閾値を超えた場合には、前記充電電力上限値を低下させる際の時間変化率を示す制限レートを、前記累積動作回数が前記閾値よりも少ない場合よりも低い値に設定し、
前記充電制御手段は、
前記充放電履歴に基づいて前記バッテリの負極にリチウム金属が析出しない最大電流として入力許容電流値を逐次設定するとともに、当該入力許容電流値に対して、前記制限レートが高いほど小さい値に設定されるマージンを有するように入力電流制限目標値を決定するための手段と、
前記バッテリの充電電流が前記入力電流制限目標値を超えたときに、前記充電電力上限値を前記制限レートに従って減少させるための手段とをさらに含む、請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、前記液圧を変化させる場合に開閉されるように構成されたソレノイドバルブである、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記充電電力上限値の制限を開始する条件は、前記制限度合が高いほど緩和される、請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項1】
リチウムイオン二次電池からなるバッテリと、供給される液圧に応じた制動力を車輪に作用させるように構成された制動装置と、前記車輪との間で回転力を相互に伝達可能に構成されたモータジェネレータと、前記モータジェネレータの出力トルクを制御するように前記バッテリと前記モータジェネレータとの間で双方向の電力変換を実行するための電力制御器とを搭載した車両の制御装置であって、
前記バッテリの充放電履歴に基づいて、前記バッテリの負極電位がリチウム基準電位まで低下することを防止するように前記バッテリの充電電力上限値を調整するための充電制御手段と、
調整された前記充電電力上限値の範囲内で前記モータジェネレータが回生制動力を発生するように、ブレーキペダル操作に対応した要求制動力に対する、前記制動装置による液圧制動力と前記回生制動力との分担を決定するための制動制御手段と、
前記制動装置へ供給される液圧を制御するためのアクチュエータの累積動作回数をカウントするための計数手段とを備え、
前記充電制御手段は、
前記負極電位の低下を防止するために前記充電電力上限値を制限する際における前記充電電力上限値の制限度合を、前記計数手段によって検出された前記累積動作回数に応じて低下させるための設定手段を含む、車両の制御装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記累積動作回数が所定の閾値を超えた場合には、前記充電電力上限値を低下させる際の時間変化率を示す制限レートを、前記累積動作回数が前記閾値よりも少ない場合よりも低い値に設定し、
前記充電制御手段は、
前記充放電履歴に基づいて前記バッテリの負極にリチウム金属が析出しない最大電流として入力許容電流値を逐次設定するとともに、当該入力許容電流値に対して、前記制限レートが高いほど小さい値に設定されるマージンを有するように入力電流制限目標値を決定するための手段と、
前記バッテリの充電電流が前記入力電流制限目標値を超えたときに、前記充電電力上限値を前記制限レートに従って減少させるための手段とをさらに含む、請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、前記液圧を変化させる場合に開閉されるように構成されたソレノイドバルブである、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記充電電力上限値の制限を開始する条件は、前記制限度合が高いほど緩和される、請求項1記載の車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−182935(P2012−182935A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45081(P2011−45081)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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