説明

車両の前部構造

【課題】 ロワーインパクトバーのチューニングを安価且つ容易に行うことができ、時間と費用のコストを低減できるようにした、車両の前部構造を提供する。
【解決手段】 車両前部において車幅方向に配設されるフレーム部材3に接続されるとともに該フレーム部材3よりも下方に配設されるロワーインパクトバー4を有する車両1の前部構造であって、該ロワーインパクトバー4が、管状の部材により形成されるロワーインパクトバー本体4aと、該ロワーインパクトバー本体4aの両端にそれぞれ一体形成され、該ロワーインパクトバー4と該フレーム部材3とを接続するブラケット部11とをそなえて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は前突時における歩行者の下肢障害値を極力抑制するための車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両と歩行者とが前突(前面衝突)した際に歩行者に与える障害の度合い(以下、障害値という)を軽減する目的で車両の前部にロワーインパクトバー(あるいは下側バンパビーム)と呼ばれる部材が取付けられている。このロワーインパクトバーを設けることにより、歩行者の下肢にかかる応力を低減して障害値を軽減することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図3,4は従来技術における車両の前部構造を模式的に示す図である。図3に示すように、車両100の前部にはフロントエンドクロスメンバ101,ブラケット102及びロワーインパクトバー103が備えられている。
フロントエンドクロスメンバ101は、車両100に必要な強度を得るためのフレーム部材であって車両100の前部を車幅方向(左右方向)に延び、両端が図示しないサイドメンバに接合されている。また、フロントエンドクロスメンバ101の両端付近の下面にはブラケット102がそれぞれ溶接されている。
【0004】
また、一般にロワーインパクトバー103は下方に向かって開いたハット形の断面形状をなしており板金をプレス成形することにより形成されている。そして、このようなハット形の断面形状とすることにより、前方からの荷重に対して高い強度を持たせることができる。
ロワーインパクトバー103は車両の左右方向に延びており両端付近の上面がそれぞれブラケット102の下面に溶接されている。
【0005】
また、これらのフロントエンドクロスメンバ101及びロワーインパクトバー103よりも前方側には、図4に示すように、フロントエンドクロスメンバ101,ロワーインパクトバー103を覆うように車両100の外面を形成する樹脂製のバンパフェイス105が取り付けられている。
バンパフェイス105には、フロントエンドクロスメンバ101と略同じ上下方向位置に、車両100の前端をなす前端面105Aが形成され、前端面105Aとフロントエンドクロスメンバ101との間には前端面105Aとフロントエンドクロスメンバ101との隙間を埋めるようにウレタン等で形成されたエネルギ吸収部材(EA材)104Aが取り付けられている。
【0006】
また、バンパフェイス105には、ロワーインパクトバー103と略同じ上下方向位置に、車両100の前方に向かって凸曲面をなす曲面部105Bが形成され、曲面部105Bとロワーインパクトバー103との間には曲面部105Bとロワーインパクトバー103との隙間を埋めるようにエネルギ吸収部材104Bが取り付けられている。なお、曲面部105Bの前端位置は前端面105Aよりも後方に位置している。
【0007】
以下、車両100と歩行者とが前突した場合のロワーインパクトバー103の作用について説明する。
図4に示すように、走行する車両100のバンパフェイス105の前端面105Aに歩行者の下肢107が接触すると、バンパフェイス105は前端面105Aを中心にフロントエンドクロスメンバ101に対して相対的に車両後方側に凹むように変形する。
【0008】
このとき、バンパフェイス105の変形により前端面105Aとフロントエンドクロスメンバ101との間でエネルギ吸収部材104Aが押しつぶされる。これにより衝突によるエネルギがエネルギ吸収部材104Aの変形にかかるエネルギとして吸収される。
その後、バンパフェイス105の変形がさらに進み、バンパフェイス105の前端面105Aと曲面部105Bとの前後方向位置が等しくなると、バンパフェイス105の曲面部105Bが下肢107と接触し、前端面105Aと曲面部105Bとの上下2点で下肢107と接触することになる。
【0009】
下肢107と曲面部105Bとが接触するとバンパフェイス105は曲面部105Bを中心にロワーインパクトバー103に対して相対的に車両後方側に凹むように変形する。このとき、曲面部105Bとロワーインパクトバー103との間でエネルギ吸収部材104Bが押しつぶされ、これにより衝突によるエネルギがエネルギ吸収部材104Bの変形にかかるエネルギとして吸収される。
【0010】
また、バンパフェイス105及びエネルギ吸収部材104Bはロワーインパクトバー103のフランジ部103Aと下肢107との接触を防止して下肢107をフランジ部103Aから保護する機能も有している。
このように、フロントエンドクロスメンバ101の下方にロワーインパクトバー103を設けることにより、車両100と歩行者とが前突した時には、フロントエンドクロスメンバ101の前方とロワーインパクトバー103の前方との上下2箇所で下肢107と接触して下肢107にかかる応力集中を抑制することができる。
【0011】
また、前突時に下肢107には、歩行者の自重による慣性力(静止状態を維持しようとする力)がかかる。これと同時に、下肢107の下端(つまり足下)には地面との摩擦力がかかる。このため、下肢107と車両100との接触箇所が1箇所のみである場合には、接触部が車両前方に押し込まれるのに対し、接触部の上下は静止状態を維持しようとするため、接触箇所が1箇所のみの場合には接触部付近に下肢107に曲げ応力が集中することになる。
【0012】
これに対し、ロワーインパクトバー103を設けることにより、車両100と下肢107とが上下2箇所で接触し、ともに押し込むことにより、下肢107にかかる曲げ応力を分散させることができる。
また、上下2点で接触することにより、下肢107と地面との摩擦力に対抗して歩行者を車両100進行方向に移動させることができ、歩行者の移動によっても下肢107にかかる応力を低減して、歩行者の下肢障害値を軽減することができる。
【特許文献1】特開2003−11750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、ロワーインパクトバー103により歩行者の下肢障害値を効果的に軽減できるようにするためには、予め実験等によりロワーインパクトバー103の剛性,強度及び高さ位置等を最適にチューニングしておく必要がある。
しかしながら、上述した従来技術のものは、ロワーインパクトバー103が板金をプレス加工することにより形成されているため、ロワーインパクトバー103の剛性及び強度のチューニングのためにロワーインパクトバー103の板厚や形状を変更する場合には板金のプレス加工のための金型までも変更する必要があり、金型の変更に大幅な時間を要するだけでなくコスト増大の一因となる。
【0014】
また、ロワーインパクトバー103がブラケット102を介してフロントエンドクロスメンバ101に取り付けられる構造となっているため、ロワーインパクトバー103の高さ位置等のチューニングを行う場合には、ブラケット102の形状を変更する必要があるためブラケット102を新たに設計する必要が生じる。この場合、ブラケット102を形成するための金型も変更する必要があり、チューニングにかかる時間及び費用が増大する。
【0015】
また、従来技術ではロアーインパクトバー103を取り付けるためにブラケット102が必要であり、部品点数が増えるためこの点でも大きなコストとなっていた。
本発明はこのような課題に鑑み創案されたもので、ロワーインパクトバーのチューニングを安価且つ容易に行うことができ、時間及び費用のコストを低減できるようにした、車両の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するために、請求項1記載の本発明の車両の前部構造は、車両前部において車幅方向に配設されるフレーム部材に接続されるとともに該フレーム部材よりも下方に配設されるロワーインパクトバーを有する車両の前部構造であって、該ロワーインパクトバーが、管状の部材により形成されるロワーインパクトバー本体と、該ロワーインパクトバー本体の両端にそれぞれ一体形成され、該ロワーインパクトバーと該フレーム部材とを接続するブラケット部とをそなえていることを特徴としている。
【0017】
該ブラケット部は、該ロワーインパクトバー本体の両端部の管状断面を扁平にプレス成形した扁平部と、該扁平部に形成されるボルト穴とを有していることが好ましい(請求項2)。
該ロワーインパクトバー本体は少なくとも車幅方向中央部では該フレーム部材よりも前方に位置していることが好ましい(請求項3)。
【0018】
該フレーム部材及び該ロワーインパクトバーよりも前方には、該フレーム部材及び該ロワーインパクトバーを覆うバンパフェイスが設けられ、該ロワーインパクトバー本体は、少なくとも車幅方向中央部では、該フレーム部材の高さ位置での該バンパフェイスよりも後方に位置していることが好ましい(請求項4)。
該フレーム部材と該バンパフェイスとの間にはエネルギ吸収部材が設けられていることが好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両の前部構造(請求項1)によれば、例えば鋼管等の管状の部材を曲げ成形することにより、金型を用いることなくロワーインパクトバーを容易に形成することができる。また、ロワーインパクトバーの両端にブラケット部が一体形成されているので、別体のブラケットを用いることなくロワーインパクトバーをフレーム部材に取り付けることができる。
【0020】
このため、ロワーインパクトバーの剛性,強度及び高さ位置のチューニングのためにロワーインパクトバーの仕様を変更する場合には、使用する管状部材の仕様(例えば、外径,肉厚,材質)を変更したり、曲げ加工の位置や曲げ角度等を変更したりするだけでよく、部品の新規設計及び金型の変更に伴うコスト増及び作業時間の増大を抑制することができる。
【0021】
さらに、ロワーインパクトバーとは別体のブラケットを必要としないため、部品点数を減らすことができ、この点でもコストを低減することができるとともに軽量化を図ることができる。
また、本発明の車両の前部構造(請求項2)によれば、ロワーインパクトバー本体の両端をプレス加工することでブラケット部を容易に形成することができる。
【0022】
また、本発明の車両の前部構造(請求項3)によれば、歩行者との前突時に歩行者に対して、先にロワーインパクトバーが接し、ロワーインパクトバーの変形により衝撃が吸収される。そして、その後フレーム部材の変形により衝撃が吸収されて下肢への障害値が抑制される。
また、本発明の車両の前部構造(請求項4)によれば、車両と歩行者との衝突が軽度である場合に歩行者に対して、ロワーインパクトバー接するよりも前に歩行者の下肢とバンパフェイスとが接し、バンパフェイスが変形することで衝撃が吸収されて下肢への障害値がさらに抑制される。
【0023】
また、本発明の車両の前部構造(請求項5)によれば、車両が前突した際のエネルギがさらに効率よく吸収されて下肢障害値を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1,図2はいずれも本発明の一実施形態に係る車両の前部構造を説明するためのものであって、図1はロワーインパクトバーを含む車両の前部構造を模式的に示す図、図2は車両の前部構造を示す模式的な断面図である。
図1に示すように、車両1の前側には左右一対のサイドメンバ2が車長方向に延在している。また、車幅方向(左右方向)にはフロントエンドクロスメンバ(フレーム部材)3が水平に延びており、フロントエンドクロスメンバ3の両端部はそれぞれサイドメンバ2の前端部に接合されている。また、フロントエンドクロスメンバ3の両端付近の前面にはそれぞれ上下2つのボルト穴17A,17Bが穿設されている。
【0025】
なお、サイドメンバ2及びフロントエンドクロスメンバ3はいずれも車両1に必要な強度を得るためのフレーム部材であって鋼板を加工してアッセンブリ化することにより形成されている。
また、フロントエンドクロスメンバ3の下方にはロワーインパクトバー4が配設されている。このロワーインパクトバー4は主にロワーインパクトバー本体4aと、ロワーインパクトバー本体4aをフロントエンドクロスメンバ3に取り付けるためのブラケット部11とから構成されている。
【0026】
このうち、ロワーインパクトバー本体4aは、両端が、上方且つ車幅方向外側にそれぞれ傾斜した方向に延び、左右の折曲部19A,19Bの間は水平部14により水平に連結されている。
即ち、ロワーインパクトバー本体4aは車両1の中心に延びる仮想線Xを中心に左右対称に上方が広がるような形状をなしており、管状断面の鋼管を曲げ加工及びプレス加工することによって形成されている。
【0027】
一方、ブラケット部11は、ロワーインパクトバー本体4aの左右両端にそれぞれ設けられている。ブラケット部11は、ロワーインパクトバー本体4aの端部から所定の長さ分だけ管状の断面を扁平にプレスすることにより成形された扁平部11aを有しており、左右のブラケット部11には、フロントエンドクロスメンバ3の各ボルト穴17A,17Bにそれぞれ対応した2つのボルト穴16A,16Bがロワーインパクトバー4の延在方向に沿って穿設されている。
【0028】
ボルト15A,15Bはそれぞれボルト穴16A,16B及びボルト穴17A,17Bを貫通してフロントエンドクロスメンバ3のパネルに溶接されたウェルトナット18A,18B(図2参照)に螺合し、これにより、ロワーインパクトバー4がフロントエンドクロスメンバ3にボルト接合されるようになっている。なお、符号12は、扁平状断面のブラケット部11と管状断面の連結部13とを滑らかに連続して接続する斜面部である。
【0029】
また、図2に示すように、ロワーインパクトバー4はブラケット部11と斜面部12との境界部12Aで僅かに前方に屈曲している。これにより、ロワーインパクトバー本体4aの中央部分はフロントエンドクロスメンバ3よりも前方に位置するようになっている。
左右の連結部13は、それぞれ折曲部19A,19Bにおいてそれぞれ車幅中央方向に向けて折り曲げられている。左右の連結部13及び左右の折曲部19A,19Bは水平部14を介して管状の断面で連続している。
【0030】
即ち、水平部14はロワーインパクトバー本体4aの車幅方向中央部を水平に延在しており、水平部14の前端部位置は図2に示すように、フロントエンドクロスメンバ3の前側面よりも前側に位置している。
さらに、図2に示すように、フロントエンドクロスメンバ3及びロワーインパクトバー4よりも前側にはフロントエンドクロスメンバ3及びロワーインパクトバー4を覆うように、車両1の外面を形成する樹脂製のバンパフェイス6が取り付けられている。
【0031】
バンパフェイス6には、フロントエンドクロスメンバ3と略同じ上下方向位置に、車両1の前端部をなす前端面6Aが形成され、前端面6Aとロワーインパクトバー4のブラケット部11との間には前端面6Bとフロントエンドクロスメンバ3との隙間を埋めるようにウレタン等により形成されるエネルギ吸収部材(EA材)5Aが取り付けられている。
また、バンパフェイス6には、ロワーインパクトバー4の水平部14と略同じ上下方向位置に車両1の前側に向けて凸曲面をなす曲面部6Bが形成され、曲面部6Bと水平部14との間にはエネルギ吸収剤5Bが曲面部6Bと水平部14との隙間を埋めるように取り付けられている。なお、曲面部6Bの前端位置は前端面6Aよりも後方側に位置している。
【0032】
本発明の一実施形態にかかる車両の前部構造はこのように構成されているので、シンプルな構成でありながら従来技術のものと少なくとも同等の歩行者の障害値軽減効果を得ることができる。
即ち、歩行者の下肢20と走行する車両1のバンパフェイス6の前端面6Aとが接触すると、車両1の進行に伴って、バンパフェイス6が前端面6A付近ではフロントエンドクロスメンバ3に対して相対的に後方側に凹むように変形する。
【0033】
バンパフェイス6の変形により前端面6Aとフロントエンドクロスメンバ3との間でエネルギ吸収部材5Aが押しつぶされ、衝突によるエネルギがエネルギ吸収部材5Aの変形にかかるエネルギとして吸収される。
その後、バンパフェイス6の変形がさらに進み、前端面6Aと曲面部6Bとが鉛直線上に並ぶと、曲面部6Bが下肢20と接触し、前端面6Aと曲面部6Bとの上下2点で下肢20と接触する。
【0034】
下肢20と曲面部6Bとの接触により、車両1の進行に伴って、バンパフェイス6が曲面部6B付近では水平部14に対して相対的に後方側に凹むように変形する。このとき、曲面部6Bとロワーインパクトバー4の水平部14との間でエネルギ吸収部材5Bが押しつぶされ、これにより衝突によるエネルギがエネルギ吸収部材5Bの変形にかかるエネルギとして吸収される。
また、バンパフェイス6及びエネルギ吸収部材5Bは水平部14と下肢20との接触を防止して下肢20を保護する機能も有している。
【0035】
したがって、車両1と歩行者とが前突した時には、車両1と下肢20との接触面積が大きくなることにより下肢20へかかる圧力を低減して下肢20にかかる応力集中を抑制して歩行者の下肢障害値を軽減することができる。
【0036】
また、前突時には、下肢20と車両1との接触部の上下に両方に歩行者の自重による慣性力(静止状態を維持しようとする力)がかかる。同時に、下肢20の下端(つまり足下)には地面との摩擦力がかかる。このため、下肢20と車両1との接触箇所が1箇所のみである場合には、接触部が車両前方に押し込まれるのに対し、接触部の上下は静止状態を維持しようとするため、接触部を中心に曲げ応力が集中することになる。
【0037】
これに対し、車両1と下肢20とが上下2箇所で接触し、衝撃エネルギを吸収するとともに押し込むことにより、下肢20にかかる曲げモーメントを分散されることができる。
また、上下2点で接触することにより、地面との摩擦力に対抗して歩行者を車両1進行方向に移動させることができ、歩行者の移動によっても下肢20にかかる応力を低減して、歩行者の下肢障害値を軽減することができる。
【0038】
このように、本発明の車両の前部構造によれば、鋼管に曲げ加工を施すことにより、ロワーインパクトバー4を容易に形成することができる。また、ロワーインパクトバー4の両端部にプレス加工を施して扁平部11aを形成し、この扁平部11aにボルト穴16A,16Bを設けることによりブラケット部11を容易に形成することができる。
また、ロワーインパクトバー4とブラケット部11とが一体形成されロワーインパクトバー4がブラケットとしての機能を有しているので、ロワーインパクトバー4とは別体のブラケットを用いることなくロワーインパクトバー4をフロントエンドクロスメンバ3に取り付けることができる。即ち、従来技術ではロワーインパクトバーを設置するために3部品(両端のブラケット及びロワーインパクトバー)必要であったが、本車両の前部構造ではロワーインパクトバー4のみで同等以上の作用効果を得ることができ、コストを削減することができるとともに車両の前部構造全体としての重量を低減するという効果もある。
【0039】
さらに、ロワーインパクトバー4の剛性,強度及び水平部14の高さ位置等のチューニングのためにロワーインパクトバーの仕様を変更する場合には、ロワーインパクトバー4を形成する鋼管の外径,板厚や材質の変更や、折曲部19A,19Bの位置及び曲げ角度等を変更するだけでよく、ロワーインパクトバー4及びブラケットをプレス成形するための金型を必要としないため、ロワーインパクトバー4のチューニングにかかる費用を大幅に削減することができるとともに、ロワーインパクトバー4の仕様変更に要する時間を大幅に圧縮することができる。特に鋼管は種々の仕様のものが多量に市場に流通しているので、簡単且つ安価で入手することができるという利点もある。
【0040】
なお、従来技術のものでは、ロワーインパクトバーが板金のプレス加工により形成されているため、断面形状がハット型となり前方にフランジ部が延出してしまうため、ロワーインパクトバーの前方にエネルギ吸収部材を設け、バンパフェイスに曲面部を形成する等して歩行者の下肢20と鋭利なフランジ部との接触を防止することは歩行者の下肢障害値軽減のために重要である。
【0041】
これに対して、本実施形態においては、水平部14が管状断面のためフランジ部が形成されない。このため、歩行者の下肢20と前方に突出したフランジ部との接触を防止するという意味合いではエネルギ吸収部材5Bを省略してもよい。このように、エネルギ吸収部材5Bを省略しても十分に衝突のエネルギを吸収できる場合にはエネルギ吸収部材5Bを省略してコストを圧縮することができる。
【0042】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、上述の実施形態では、ロワーインパクトバー4の両端部の管状断面を扁平に押しつぶした扁平部11aにボルト穴16A,16Bを設けることによりブラケット部11が形成されているが、ブラケット部11の形状はこれに限定されるものではない。例えば、扁平部を形成することを省略してロワーインパクトバーの両端部にボルト穴を設けるのみとしてもよく、ロワーインパクトバーの両端部に扁平部を形成してボルト穴を省略し、扁平部とフレーム部材とを溶接により接合するようにしてもよい。
【0043】
また、実施形態ではロワーインパクトバーを鋼管で形成するようにしているが、適度な剛性と強度が得られるものであればロワーインパクトバーの材質は金属でなくてもよい。
また、フレーム部材としてのフロントエンドクロスメンバの両端がサイドメンバに接合されているが、これに限らず、フロントエンドクロスメンバが車両のモノコックボディの一部を形成するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の前部構造を説明するためのものであって、ロワーインパクトバーを含む車両の前部構造を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両の前部構造を説明するためのものであって、車両の前部構造を示す模式的な断面図である。
【図3】従来技術における車両の前部構造を模式的に示す斜視図である。
【図4】従来技術における車両の前部構造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 車両
3 フロントエンドクロスメンバ(フレーム部材)
4 ロワーインパクトバー
4a ロワーインパクトバー本体
5A,5B エネルギ吸収部材
6 バンパフェイス
6A 前端面
6B 曲面部
11 ブラケット部
11a 扁平部
14 水平部
15A,15B ボルト
16A,16B,17A,17B ボルト穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部において車幅方向に配設されるフレーム部材に接続されるとともに該フレーム部材よりも下方に配設されるロワーインパクトバーを有する車両の前部構造であって、
該ロワーインパクトバーが、
管状の部材により形成されるロワーインパクトバー本体と、
該ロワーインパクトバー本体の両端にそれぞれ一体形成され、該ロワーインパクトバーと該フレーム部材とを接続するブラケット部とをそなえている
ことを特徴とする、車両の前部構造。
【請求項2】
該ブラケット部は、
該ロワーインパクトバー本体の両端部の管状断面を扁平にプレス成形した扁平部と、
該扁平部に形成されるボルト穴とを有している
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の前部構造。
【請求項3】
該ロワーインパクトバー本体は少なくとも車幅方向中央部では該フレーム部材よりも前方に位置している
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の車両の前部構造。
【請求項4】
該フレーム部材及び該ロワーインパクトバーよりも前方には、該フレーム部材及び該ロワーインパクトバーを覆うバンパフェイスが設けられ、
該ロワーインパクトバー本体は、少なくとも車幅方向中央部では、該フレーム部材の高さ位置での該バンパフェイスよりも後方に位置している
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
該フレーム部材と該バンパフェイスとの間にはエネルギ吸収部材が設けられている
ことを特徴とする、請求項4記載の車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−132935(P2008−132935A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322085(P2006−322085)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】