説明

車両の変速制御装置

【課題】 半断線やパルス抜けフェール時における急激なダウンシフトの発生を防止できる車両の変速制御装置を提供する。
【解決手段】 変速機コントローラ111は、車速センサ112により検出された車速と、ABSコントローラ122により各車輪速に基づいて演算された擬似車体速とのうち、値の高い方を制御用車速として選択し、当該制御用車速に基づいてツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2の変速段を切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の変速制御装置では、車速検出手段である車速センサのセンサ値の低下率が断線判定用閾値を超えた場合、フェールと判定してセンサ値の前回値を保持し、センサ値がゼロとなることに伴う急激なダウンシフトの発生を防止している。上記説明の技術に関係する一例は、例えば、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平08−093912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術にあっては、半断線やパルス抜けフェール時のように、センサ値の低下率が断線判定用閾値を超えないフェールが発生した場合、フェールとは判定されず、センサ値の低下に応じて意図しないダウンシフトが行われる。
【0004】
本発明の目的は、半断線やパルス抜けフェール時における急激なダウンシフトの発生を防止できる車両の変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明では、車速検出手段により検出した車速検出値と、車速演算手段により演算した車速演算値から所定のオフセット値を減算したオフセット後車速演算値とのうち値の高い方を制御用車速として選択し、当該制御用車速に基づいて変速機の変速比を設定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、半断線やパルス抜けフェール時における急激なダウンシフトの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
図1は、実施例1の自動マニュアルトランスミッションを含む車両用パワートレインをその制御系と共に示すシステム図である。また、図2は、実施例1のツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの骨子図である。
図1の車両用パワートレインは、車両の駆動源であるエンジン1およびツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション(変速機)2を主たる構成要素とする。
【0009】
エンジン1の出力軸(図2のクランクシャフト1a)は、クラッチハウジング3内における奇数変速段(第1速、第3速、第5速、後退)用の自動湿式回転クラッチC1、および偶数変速段(第2速、第4速、第6速)用の自動湿式回転クラッチC2を介して、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2の奇数変速段(第1速、第3速、第5速、後退)用第1入力軸4(図2参照)、および偶数変速段(第2速、第4速、第6速)用第2入力軸5(図2参照)に結合可能とする。
ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2の出力軸6(図2参照)は、図外のプロペラシャフトおよびディファレンシャルギヤ装置を介して左右駆動輪に結合する。
【0010】
図2に基づきツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2を詳述する。
エンジン1の出力軸(クランクシャフト1a)は、奇数変速段(第1速、第3速、第5速、後退)用の自動湿式回転クラッチC1、および偶数変速段(第2速、第4速、第6速)用の自動湿式回転クラッチC2に共通な自動クラッチドラムC/Dに駆動結合する。
【0011】
ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションは上記したように、奇数変速段(第1速、第3速、第5速、後退)用の第1入力軸4、および偶数変速段(第2速、第4速、第6速)用の第2入力軸5を備え、これら第1入力軸4および第2入力軸5をそれぞれ、個々の自動クラッチC1,C2のクラッチハブ7,8に結合する。
エンジン出力軸1aの回転は、奇数変速段クラッチC1および偶数変速段クラッチC2を介して第1入力軸4および第2入力軸5へ選択的に入力できる。
【0012】
以下、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの歯車変速機構を詳述する。
奇数変速段クラッチC1および偶数変速段クラッチC2を介してエンジン回転が選択的に入力される第1入力軸4および第2入力軸5のうち、第2入力軸5は中空とし、これを第1入力軸4上に嵌合するが、内側の第1入力軸4および外側の第2入力軸5を相互に同心状態で回転自在とする。
【0013】
上記のように相互に回転自在に嵌合した第1入力軸4および第2入力軸5のうち、第1入力軸4は、クラッチハブ7から遠い後端を第2入力軸5の後端から突出させ、第1入力軸4に後端延長部4aを設定する。
これら第1入力軸4および第2入力軸5、並びに出力軸6に平行に配してカウンターシャフト10を設ける。
【0014】
カウンターシャフト10の後端にはカウンターギヤ11を一体回転可能に設け、これと同じ軸直角面内に配して出力歯車12を設け、出力歯車12を出力軸6に結合する。
これらカウンターギヤ11および出力歯車12を相互に噛合させてカウンターシャフト10を出力軸6に駆動結合する。
【0015】
第1入力軸4の後端延長部4aとカウンターシャフト10との間に奇数変速段(第1速、第3速、第5速)グループの歯車組G1,G3,G5、および後退変速段の歯車組GRを設け、これらをエンジン1に近いフロント側から、第1速歯車組G1、後退歯車組GR、第5速歯車組G5および第3速歯車組G3の順に配置する。
【0016】
第1速歯車組G1は、第1入力軸4の後端延長部4aに一体成形した第1速入力歯車13と、カウンターシャフト10上に回転自在に設けた第1速出力歯車14とを相互に噛合させて構成する。
後退歯車組GRは、第1入力軸4の後端延長部4aに一体成形した後退入力歯車15と、カウンターシャフト10上に回転自在に設けた後退出力歯車16と、これら歯車15、16に噛合してこれら歯車15,16間を逆転下に駆動結合するリバースアイドラギヤ17とで構成する。
リバースアイドラギヤ17は、変速機ケースに植設したリバースアイドラ軸18により回転自在に支持する。
【0017】
第3速歯車組G3は、第1入力軸4の後端延長部4aに回転自在に設けた第3速入力歯車19と、カウンターシャフト10に駆動結合して設けた第3速出力歯車20とを相互に噛合させて構成する。
第5速歯車組G5は、第1入力軸4の後端延長部4aに回転自在に設けた第5速入力歯車31と、カウンターシャフト10に駆動結合して設けた第5速出力歯車32とを相互に噛合させて構成する。
【0018】
カウンターシャフト10にはさらに、第1速出力歯車14および後退出力歯車16間に配して1速−後退用同期噛合機構21を設ける。
この1速−後退用同期噛合機構21は、カウンターシャフト10と共に回転するカップリングスリーブ21aを図示の中立位置から左行させて自動クラッチギヤ21bに噛合させるとき、第1速出力歯車14がカウンターシャフト10に駆動結合されて第1速を実現可能なものとする。カップリングスリーブ21aを図示の中立位置から右行させて自動クラッチギヤ21cに噛合させるとき、後退出力歯車16がカウンターシャフト10に駆動結合されて後退を実現可能なものとする。
【0019】
第1入力軸4の後端延長部4aにはさらに、第3速入力歯車19および第5速入力歯車31間に配して3速−5速用同期噛合機構22を設ける。
この3速−5速用同期噛合機構22は、第1入力軸4(その後端延長部4a)と共に回転するカップリングスリーブ22aを図示の中立位置から右行させて自動クラッチギヤ22bに噛合させるとき、第3速入力歯車19が第1入力軸4に駆動結合されて第3速を実現可能なものとする。カップリングスリーブ22aを図示の中立位置から左行させて自動クラッチギヤ22cに噛合させるとき、第5速入力歯車31が第1入力軸4に駆動結合されて第5速を実現可能なものとする。
【0020】
中空の第2入力軸5とカウンターシャフト10との間には、偶数変速段(第2速、第4速、第6速)グループの歯車組、つまり、エンジンに近いフロント側から順次、第6速歯車組G6、第2速歯車組G2、および第4速歯車組G4を配して設ける。
第6速歯車組G6は第2入力軸5の比較的前部に配置し、第4速歯車組G4は第2入力軸5の後端に配置し、第2速歯車組G2は第2入力軸5のこれら前部および後端間中央部に配置する。
【0021】
第6速歯車組G6は、第2入力軸5の外周に一体成形した第6速入力歯車23と、カウンターシャフト10上に回転自在に設けた第6速出力歯車24とを相互に噛合させて構成する。
第2速歯車組G2は、第2入力軸5の外周に一体成形した第2速入力歯車25と、カウンターシャフト10上に回転自在に設けた第2速出力歯車26とを相互に噛合させて構成する。
第4速歯車組G4は、第2入力軸5の外周に一体成形した第4速入力歯車27と、カウンターシャフト10上に回転自在に設けた第4速出力歯車28とを相互に噛合させて構成する。
【0022】
カウンターシャフト10にはさらに、第6速出力歯車24および第2速出力歯車26間に配して6速専用の同期噛合機構29を設ける。
この6速専用同期噛合機構29は、カウンターシャフト10と共に回転するカップリングスリーブ29aを図示の中立位置から左行させて自動クラッチギヤ29bに噛合させるとき、第6速出力歯車24がカウンターシャフト10に駆動結合されて第6速を実現可能なものとする。
【0023】
またカウンターシャフト10には、第2速出力歯車26および第4速出力歯車28間に配して2速−4速用同期噛合機構30を設ける。
この2速−4速用同期噛合機構30は、カウンターシャフト10と共に回転するカップリングスリーブ30aを図示の中立位置から左行させて自動クラッチギヤ30bに噛合させるとき、第2速出力歯車26がカウンターシャフト10に駆動結合されて第2速を実現可能なものとする。カップリングスリーブ30aを図示の中立位置から右行させて自動クラッチギヤ30cに噛合させるとき、第4速出力歯車28がカウンターシャフト10に駆動結合されて第4速を実現可能なものとする。
【0024】
上記構成のツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの自動変速動作を次に説明する。
(非走行レンジ)
動力伝達を希望しない中立(N)レンジや駐車(P)レンジのような非走行レンジにおいては、自動湿式回転クラッチC1,C2の双方を解放しておき、また、同期噛合機構21,22,29,30のカップリングスリーブ21a,22a,29a,30aを全て図示の中立位置にして、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションを動力伝達が行われない中立状態にする。
なお駐車(P)レンジにあってはさらに、パークロック装置により変速機出力軸6を機械的に回転不能にロックする。
【0025】
(走行レンジ)
前進動力伝達を希望するDレンジや、後退動力伝達を希望するRレンジのような走行レンジにおいては、エンジン1で駆動されるオイルポンプO/P(図2参照)からの作動油を媒体とし、以下のごとくに同期噛合機構21,22,29,30のカップリングスリーブ21a,21b,29a,30aをシフト動作させると共に、自動クラッチC1,C2を締結・解放制御することにより、各前進変速段や、後退変速段を実現することができる。
【0026】
(Dレンジ、第1速)
Dレンジのような前進走行レンジで第1速を希望する場合、同期噛合機構21のカップリングスリーブ21aを左行させて歯車14をカウンターシャフト10に駆動結合し、これによる奇数変速段グループの第1速へのプリシフト後、非走行レンジで解放状態だった自動湿式回転クラッチC1を締結する。
これにより自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、第1速歯車組G1、カウンターシャフト10、および出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力され、第1速での動力伝達を行うことができる。
【0027】
なお、上記第1速の実現が発進用のものである時は、それ用に自動クラッチC1を締結進行させるスリップ締結制御により、発進ショックのない滑らかな前発進を行わせることとする。
またNレンジからDレンジへのセレクト操作に呼応して上記第1速を実現する場合は、上記奇数変速段グループの第1速へのプリシフトと同時に、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを左行させて歯車26をカウンターシャフト10に駆動結合し、これにより偶数変速段グループの第2速へのプリシフトも済ませておく。
しかして、自動クラッチC2が非走行レンジでの解放状態を継続するため、第2速が実現されることはない。
【0028】
(Dレンジ、第2速)
第1速から第2速へのアップシフトに際しては、N→Dセレクト時に上記のごとく偶数変速段グループが第2速へプリシフトされているため、自動クラッチC1を解放させつつ、非走行レンジで解放状態だった自動クラッチC2を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチC1,C2の掛け替えにより第1速から第2速へのアップシフトを行わせることができる。
これにより自動クラッチC2からのエンジン回転が第2入力軸5、第2速歯車組G2、カウンターシャフト10、および出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力され、第2速での動力伝達を行うことができる。
なお上記の1→2変速が終わったら、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを右行させて歯車19を第1入力軸4に駆動結合し、奇数変速段グループの1→3プリシフトを行わせておく。
【0029】
(Dレンジ、第3速)
第2速から第3速へのアップシフトに際しては、1→2アップシフト時に上記のごとく奇数変速段グループが第3速へプリシフトされているため、自動クラッチC2を解放させつつ、第2速で解放状態だった自動クラッチC1を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えにより第2速から第3速へのアップシフトを行わせることができる。
これにより自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、第3速歯車組G3、カウンターシャフト10、および出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力され、第3速での動力伝達を行うことができる。
なお上記の2→3変速が終わったら、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを中立位置に戻して歯車26をカウンターシャフト10から切り離すと共に、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを右行させて歯車28をカウンターシャフト10に駆動結合し、これによる偶数変速段グループの2→4プリシフトを行わせておく。
【0030】
(Dレンジ、第4速)
第3速から第4速へのアップシフトに際しては、2→3アップシフト時に上記のごとく偶数変速段グループが第4速へプリシフトされているため、自動クラッチC1を解放させつつ、第3速で解放状態だった自動クラッチC2を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えにより第3速から第4速へのアップシフトを行わせることができる。
これにより自動クラッチC2からのエンジン回転が第2入力軸5、第4速歯車組G4、カウンターシャフト10、および出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力され、第4速での動力伝達を行うことができる。
なお上記の3→4変速が終わったら、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを中立位置に戻して歯車19を第1入力軸4から切り離すと共に、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを左行させて歯車31を第1入力軸4に結合し、これによる奇数変速段グループの3→5プリシフトを行わせておく。
【0031】
(Dレンジ、第5速)
第4速から第5速へのアップシフトに際しては、3→4アップシフト時に上記のごとく奇数変速段グループが第5速へプリシフトされているため、自動クラッチC2を解放させつつ、第4速で解放状態だった自動クラッチC1を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えにより第4速から第5速へのアップシフトを行わせる。
これにより自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、第5速歯車組G5、カウンターシャフト10、および出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力され、第5速での動力伝達を行うことができる。
なお上記の4→5変速が終わったら、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを中立位置に戻して歯車28をカウンターシャフト10から切り離すと共に、同期噛合機構29のカップリングスリーブ29aを左行させて歯車24をカウンターシャフト10に駆動結合し、これによる偶数変速段グループの4→6プリシフトを行わせておく。
【0032】
(Dレンジ、第6速)
第5速から第6速へのアップシフトに際しては、4→5アップシフト時に上記のごとく偶数変速段グループが第6速へプリシフトされているため、自動クラッチC1を解放させつつ、第5速で解放状態だった自動クラッチC2を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えにより第5速から第6速へのアップシフトを行わせる。
これにより自動クラッチC2からのエンジン回転が第2入力軸5、第6速歯車組G6、カウンターシャフト10、および出力歯車組11,12を経て出力軸6より軸線方向に出力され、第6速での動力伝達を行うことができる。
5→6変速後の変速はダウンシフトしか存在せず、奇数変速段グループを直下の第5速へプリシフトされた状態にすべきであるから、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを第5速実現時と同じ左行位置に保って歯車31を第1入力軸4に結合させたままとする。
【0033】
なお、第6速から順次第1速へとダウンシフトさせるに際しても、上記アップシフトと逆の変速制御、つまり前述したと逆方向の順次プリシフト制御および自動クラッチC1,C2の締結・解放制御を介して所定のダウンシフトを行わせることができる。
【0034】
(Rレンジ)
後退走行を希望して非走行レンジからRレンジに切り替えた場合においては、同期噛合機構21のカップリングスリーブ21aを中立位置から右行させて歯車16をカウンターシャフト10に駆動結合し、これによる奇数変速段グループの後退変速段へのプリシフト後、非走行レンジで解放状態であった自動湿式回転クラッチC1を締結する。
これにより自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、後退歯車組GR、カウンターシャフト10、および出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力され、この際、後退歯車組GRにより回転方向を逆にされることから、後退変速段での動力伝達を行うことができる。
なお、後退変速段での発進時は、それ用に自動クラッチC1を締結進行させるスリップ締結制御により、発進ショックのない滑らかな後発進を行わせることとする。
【0035】
上記したツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2における自動クラッチC1,C2の締結・解放制御はそれぞれ、図1における第1クラッチソレノイド63および第2クラッチソレノイド64によりこれを遂行する。
【0036】
また、同期噛合機構21,22,29,30を成すカップリングスリーブ21a,21b,29a,30aのストローク制御(シフト制御)は、図1に示さなかったが、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2内におけるシフトアクチュエータによりこれを行うこととする。
【0037】
クラッチソレノイド63,64およびシフトアクチュエータ45,46,47,48を介したツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2の変速制御は、変速機コントローラ(変速制御手段)111によりこれを実行する。
【0038】
このため、変速機コントローラ111には、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2の出力軸6の回転数から車速VSPを検出する車速センサ(車速検出手段)112の信号と、ドライバがP,R,N,Dレンジを選択するために操作するシフトレバー113からのインヒビタ信号(選択レンジ信号)と、自動クラッチC1,C2のうち、解放状態となっている解放側自動クラッチ内のオイル量Qを検出する油量センサ114の信号と、擬似車体速(車速演算値)Vxを演算するABSコントローラ(車速演算手段)122の信号とを入力する。
【0039】
エンジン1は、エンジンコントローラ115がインジェクタ116を介した燃料噴射量制御およびスロットル弁117を介した吸気量制御を行うことにより出力を決定され、このためエンジンコントローラ115には、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ118の信号と、アクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)APOを検出するアクセル開度センサ119の信号とを入力する。
【0040】
エンジンコントローラ115および変速機コントローラ111は、それぞれCAN(Controller Area Network)通信線121と接続しており、両者間で入力信号を含め、情報を交換し合ってそれぞれの制御に用いるものとする。
【0041】
ABSコントローラ122は、各車輪の車輪速を検出する車輪速センサ(不図示)からの各車輪速に基づいて、擬似車体速Vxを算出し、各車輪速と擬似車体速Vxとの偏差に応じて、各車輪のスリップ率が所望の値となるように、各車輪の制動力を調整する。ここで、擬似車体速Vxの算出方法は任意であり、例えば、各車輪速のうち最も高い車輪速を擬似車体速とする方法や、左右駆動輪(左右後輪)の車輪速の平均値を擬似車体速Vxとする方法を用いることができる。ABSコントローラ122は、擬似車体速VxをCAN通信線121に出力する。
【0042】
変速機コントローラ111は、車速センサ112からの車速VSPと、ABSコントローラ122からの擬似車体速Vxから所定のオフセット値Voを減算したオフセット後CAN車速(オフセット後車速演算値)Vx-oとのうち、値の高い方を制御用車速Vとして選択し、制御用車速Vとアクセル開度APOに基づき、あらかじめ設定された変速マップから目標変速段を選択し、上述した変速制御を行う。ここで、変速マップは、横軸を車速V、縦軸をアクセル開度APOとし、制御用車速が高いほど高速側変速段を選択する設定とする。
【0043】
[変速制御処理]
図3は、実施例1の変速機コントローラ111で実行されるDレンジ選択時の変速制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、以下の説明では、車速センサ112からの車速VSPを「センサ値」、ABSコントローラ122からCAN通信線121を介して得られる擬似車体速Vxを「CAN車速」という。
【0044】
ステップS1では、センサ値VSP、CAN車速Vxおよびアクセル開度APOを入力し、ステップS2へ移行する。
【0045】
ステップS2では、センサ値VSPと、前回制御周期に入力、保存したセンサ値の前回値VSPn-1との差分ΔVSPを算出し、ステップS3へ移行する。
【0046】
ステップS3では、差分ΔVSPが所定の断線判定用閾値ΔVSPthよりも大きいか否かを判定する。YESの場合にはステップS4へ移行し、NOの場合にはステップS5へ移行する(断線判定手段に相当)。ここで、断線判定用閾値ΔVSPthは、車速センサ112の断線と判定可能な値とする。
【0047】
ステップS4では、センサ値の前回値VSPn-1を制御用車速Vとし、ステップS9へ移行する。
V=VSPn-1
【0048】
ステップS5では、CAN車速Vxから所定のオフセット値Voを減算したオフセット後CAN車速Vx-oを算出し、ステップS6へ移行する。
Vx-o=Vx−Vo
【0049】
ここで、オフセット値Voは、センサ値VSPの正常時、常にオフセット後CAN車速Vx-oがセンサ値VSPを下回るような値、かつ、制御用車速Vがセンサ値VSPからオフセット後CAN車速Vx-oへ切り替わったとき、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2の変速段が二段以上のダウンシフトを発生しない値とする。
【0050】
ステップS6では、センサ値VSPがオフセット後CAN車速Vx-o以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS7へ移行し、NOの場合にはステップS8へ移行する。
【0051】
ステップS7では、センサ値VSPを制御用車速Vとし、ステップS9へ移行する。
V=VSP
【0052】
ステップS8では、オフセット後CAN車速Vx-oを制御用車速Vとし、ステップS9へ移行する。
V=Vx-o
【0053】
ステップS9では、制御用車速Vとアクセル開度APOとに基づき、上述した変速マップを参照して変速段を決定し、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2に変速指令を出力し、リターンへ移行する。
【0054】
次に、作用を説明する。
実施例1のツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションを含む自動変速機では、出力軸回転数を検出する車速センサにより検出したセンサ値VSPを用いて、適切な変速比を選択している。このため、車速センサの断線等によりパルスが検出不能となり、センサ値VSPが低下した場合、意図しないダウンシフトが発生する。例えば、100km/hで走行中に断線が発生すると、センサ値を0km/hと判断して高変速段(第5速、第6速変速段)から第1速変速段への変速が行われ、意図しないダウンシフトが発生する。
【0055】
上記のような意図しないダウンシフトの発生を防ぐためのフェールセーフとして、パルスが検出不能となった場合、CAN車速Vx(CAN通信線を介して得られる擬似車体速)を用い、センサ値VSPとCAN車速Vxとのセレクトハイにより制御用車速Vを決定する方法や、センサ値VSPの今回値と前回値との差分が過大である場合、断線と判定して前回値を保持する方法が知られている。
【0056】
上記従来のフェールセーフの問題点を以下に示す。
まず、前者のセンサ値と擬似車体速とのセレクトハイを行う方法では、CAN車速Vxは各車輪速に基づいてABSコントローラで演算された後、CAN通信線を介して得られる値であるため、車速センサのセンサ値VSPに対して遅れが生じる。この遅れは、演算やCANの通信周期等に起因するものである。
【0057】
よって、車速センサの正常時にドライバが車両を急減速させた場合、図4に示すように、CAN車速Vxがセンサ値VSPよりも大きくなる状態が発生し、セレクトハイによりCAN車速Vxに基づいて変速比が決定される。このため、変速タイミングにずれ(遅れ)が生じ、エンジンおよび変速機の過回転や変速ショックの悪化を招く可能性がある。
【0058】
本来、車速センサのセンサ値VSPが正常である場合には、図5のように、センサ値VSPに基づいて変速比を決定することが望まれる。これは、変速機の出力軸回転数を直接検出する車速センサの検出値は、演算や通信による遅れのない値であり、変速タイミングに遅れが生じないからである。
【0059】
一方、後者のセンサ値の前回値を保持する方法では、図6のように、半断線やパルス抜けの拡大に伴い、車速センサのセンサ値VSPが徐々に低下する故障が発生した場合、センサ値VSPの今回値と前回値との差分が小さいため、断線と判定されない。このため、前回値の保持は行われず、センサ値VSPの急減に伴う意図しないダウンシフトが発生する可能性がある。
【0060】
これに対し、実施例1では、センサ値VSPとオフセット後CAN車速Vx-oとを比較し(ステップS6)、センサ値VSPがオフセット後CAN車速Vx-o以上である場合には、センサ値VSPを制御用車速Vとする(ステップS7)。一方、センサ値VSPがオフセット後CAN車速Vx-oを下回る場合には、オフセット後CAN車速Vx-oを制御用車速Vとする(ステップS8)。つまり、センサ値VSPとオフセット後CAN車速Vx-oとのセレクトハイにより制御用車速Vを決定している。
【0061】
(半断線発生時)
図7は、実施例1の半断線発生時における制御用車速選択作用を示すタイムチャートであり、車両は一定速度で走行している。
【0062】
時点t1までの区間では、センサ値VSP≧オフセット後CAN車速Vx-oであるため、制御用車速Vとしてセンサ値VSPが選択される。ここで、VSP>Vx-oとなるのは、センサ値VSPの正常時、常にオフセット後CAN車速Vx-oがセンサ値VSPを下回るような値にオフセット値Voを設定しているからである。
【0063】
上述したように、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2の出力軸6の回転数を直接検出する車速センサ112の検出値であるセンサ値VSPは、CAN車速Vxと比較して、演算や通信による遅れのない値であるため、車速センサ112の正常時にはセンサ値VSPに基づいて変速段を決定することで、車速に応じて最適なタイミングで変速を行うことができる。
【0064】
時点t1では、半断線が発生し、時点t1以降の区間では、車両は一定速度で走行しているにもかかわらず、センサ値VSPは徐々に低下する。よって、センサ値VSPの低下に伴い制御用車速Vも低下している。
【0065】
時点t2では、センサ値<オフセット後CAN車速Vx-oとなるため、制御用車速Vはセンサ値VSPからオフセット後CAN車速Vx-oに切り替わり、時点t1以降は、オフセット後CAN車速Vx-oに基づいて変速段を決定する。このとき、各車輪速から演算されるCAN車速Vxは、実際の車速に応じた適正値を示しているため、センサ値VSPが急にゼロとなることに伴う急激なダウンシフトの発生を防止できる。
【0066】
ここで、制御用車速Vはセンサ値VSPからオフセット後CAN車速Vx-oの値まで急減するが、オフセット値Voは、制御用車速Vがセンサ値VSPからオフセット後CAN車速Vx-oへ切り替わったとき、変速段が二段以上のダウンシフトを発生しない値としている。このため、二段以上のダウンシフトによる減速に伴い、ドライバに与える違和感を抑制できる。
【0067】
(急減速時)
図8は、実施例1の急減速時における制御用車速選択作用を示すタイムチャートであり、車速センサ112は正常に動作している。
【0068】
時点t10までの区間では、図7の時点t1までの区間と同様であるため、説明を省略する。
時点t10では、ドライバがブレーキペダルの踏み込みを開始したため、時点t10以降の区間では、車両の急減速に伴い、センサ値VSPおよびオフセット後CAN車速Vx-oお低下する。このとき、センサ値VSPは、オフセット後CAN車速Vx-oよりも常に高い値であるため、制御用車速Vはセンサ値VSPに維持される。
【0069】
実施例1の変速機コントローラ111では、ABSコントローラ122から車内通信であるCAN通信線121を介してABSコントローラ122で演算されたCAN車速Vxを入力している。ここで、CAN通信は、あらかじめ決められた通信周期で各信号の授受を行っているため、ABSコントローラ122がCAN車速Vxを演算してから変速機コントローラ111へ入力されるまでの間のタイムロスが大きい。
これに対し、車速センサ112の正常時には、制御用車速Vとして常にセンサ値VSPを選択することで、変速タイミングにずれ(遅れ)が生じるのを防止できる。
【0070】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の変速制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 変速機コントローラ111は、センサ値VSPとオフセット後CAN車速Vx-oとのうち値の高い方を制御用車速Vとして選択し、当該制御用車速Vに基づいてツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2の変速段を切り替える。これにより、半断線やパルス抜けフェール時における急激なダウンシフトの発生を防止できると。また、車両の急減速時、実際の車速に対して変速タイミングがずれる(遅れる)のを防止できる。
【0071】
(2) オフセット値Voを、制御用車速Vがセンサ値VSPからオフセット後CAN車速Vx-oへ切り替わったとき、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2が二段以上のダウンシフトを発生しない値に設定した。これにより、二段以上のダウンシフトによる減速に伴い、ドライバに違和感を与えるのを抑制できる。
【0072】
(3) オフセット値Voを、車速センサ112が正常に動作しているとき、常にオフセット後CAN車速Vx-oがセンサ値VSPを下回る値に設定した。これにより、車速センサ112の正常時には、制御用車速Vとして常にセンサ値VSPを選択でき、実際の車速に対して変速タイミングにずれ(遅れ)が生じ、駆動伝達経路の各要素の過回転や変速ショックの悪化が発生するのを防止できる。つまり、車速に対して最適なタイミングで変速を行うことができる。
【0073】
(4) ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2の出力軸回転数を検出し、センサ値VSPとして出力する車速センサ112と、各車輪速に基づいて車速に応じた擬似車体速Vxを出力するABSコントローラ122と、ABSコントローラ122からCAN通信線121を介して入力したCAN車速(擬似車体速)Vxから所定のオフセット値Voを減算してオフセット後CAN車速Vx-oを算出し、センサ値VSPとオフセット後CAN車速Vx-oとのうち値の高い方を制御用車速Vとして選択し、当該制御用車速Vに基づいてツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション2の変速段を設定する変速機コントローラ111と、を備えた。これにより、半断線やパルス抜けフェール時における急激なダウンシフトの発生を防止できると。また、車両の急減速時、実際の車速に対して変速タイミングがずれる(遅れる)のを防止できる。
【0074】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づく実施例により説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に示したものに限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない程度の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0075】
例えば、実施例では、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションを有する車両を例に示したが、車速に応じて変速機の変速比を設定する(変速段を切り替える)構成であれば、本発明を適用でき、実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1の自動マニュアルトランスミッションを含む車両用パワートレインをその制御系と共に示すシステム図である。
【図2】実施例1のツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの骨子図である。
【図3】実施例1の変速機コントローラ111で実行されるDレンジ選択時の変速制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】センサ値とCAN車速とのセレクトハイにより制御用車速を選択する場合の、車両急減速時における変速タイミングの遅れを示すタイムチャートである。
【図5】車速センサ正常時に理想的な制御用車速の選択方法を示すタイムチャートである。
【図6】車速センサ故障時にセンサ値の前回値を維持する場合の、半断線等によるフェール時における意図しないダウンシフトの発生を示すタイムチャートである。
【図7】実施例1の半断線発生時における制御用車速選択作用を示すタイムチャートである。
【図8】実施例1の急減速時における制御用車速選択作用を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0077】
2 ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッション
6 出力軸
111 変速機コントローラ(変速制御手段)
112 車速センサ(車速検出手段)
122 ABSコントローラ(車速演算手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源と駆動輪との間の駆動伝達経路上の任意位置の回転数を検出し、車速に応じた車速検出値を出力する車速検出手段と、
前記駆動伝達経路上であって前記車速検出手段とは異なる位置の回転数に基づいて、車速に応じた車速演算値を出力する車速演算手段と、
前記車速検出値と、前記車速演算値から所定のオフセット値を減算したオフセット後車速演算値とのうち値の高い方を制御用車速として選択し、当該制御用車速に基づいて変速機の変速比を設定する変速制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の変速制御装置において、
前記オフセット値を、前記制御用車速が前記車速検出値から前記オフセット後車速演算値へ切り替わったとき、前記変速機が二段以上のダウンシフトを発生しない値に設定したことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両の変速制御装置において、
前記オフセット値を、前記車速検出手段が正常に動作しているとき、常に前記オフセット後車速演算値が前記車速検出値を下回る値に設定したことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項4】
変速機の出力軸回転数を検出し、車速検出値として出力する車速検出手段と、
各車輪速に基づいて車速に応じた車速演算値を出力する車速演算手段と、
前記車速演算手段から通信線を介して入力した前記車速演算値から所定のオフセット値を減算してオフセット後車速演算値を算出し、算出したオフセット後車速演算値と前記車速検出値とのうち値の高い方を制御用車速として選択し、当該制御用車速に基づいて変速機の変速比を設定する変速制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の変速制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−116978(P2010−116978A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290432(P2008−290432)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】