説明

車両の状態量計測用制御システム

【課題】駆動輪のみを回転させる台上試験において、従動輪を備える車両の状態量を治具を用いずに簡易に計測することが可能な車両の状態量計測用制御システムを提供する。
【解決手段】備えた車両の状態量計測用制御システム30は、駆動輪である左右前輪の車輪速度を検出する左右前輪速度センサ31a,31b及び従動輪である左右後輪の車輪速度を検出する左右後輪速度センサ31c,31dによって検出された左右前輪の車輪速度及び左右後輪の車輪速度に基づいて、車両を制御するENG−ECU33a,VSA−ECU33b,AHB−ECU33cを備え、ENG−ECU33a,VSA−ECU33b,AHB−ECU33cは、外部端末装置40から台上試験中である旨の信号が入力された場合には、左右後輪の擬似車輪速度を生成し、検出された左右後輪の車輪速度に代えて、生成された左右後輪の擬似車輪速度を左右後輪の車輪速度とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台上試験において用いられる車両の状態量計測用制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の状態量を計測するために、台上試験が行われている(特許文献1参照)。駆動輪及び従動輪を備える車両に対する台上試験では、台に設置されたローラ上に駆動輪を載置した状態で車両を運転することによって走行状態を屋内で実現して車両の状態量を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−52815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
台上試験では、従動輪が回転していないことによって、車両のECU(Electrical Control Unit)が故障を誤検知したり、CAS(Creep Aid System)制御が作動しなかったり、TCS(Traction Control System)制御が誤作動したり、回生協調制御が作動しなくなったりすることを防ぐため、駆動輪の車輪速度センサの検出結果を従動輪の車輪速度としてECUに入力するためのケーブルのような治具(車輪速度生成モジュール)を用いて車輪速センサとECUとを接続することが行われる。なお、CAS制御は、ブレーキペダルの踏み込み開放後もしばらくブレーキ液圧を保持して坂道発進を容易にする制御である。また、TCS制御は、発進時、加速時等における駆動輪の空転を防止する制御である。また、回生協調制御は、回生制動時にブレーキ液圧を調整等する制御である。
【0005】
制動力を利用することで車両の挙動を安定化する制御、すなわち、VSA(登録商標)制御を行うVSA−ECUと、回生協調制御を行うAHB(Active Hydro Booster)−ECUと、を備えている従来の車両では、図3(a)に示すように、駆動輪及び従動輪の車輪速度センサ131a〜131dは、VSA−ECU133bと接続されている。VSA−ECU133bは、車輪速度センサ131a〜131dの検出結果を取得し、これをCAN(Controller Area Network)を介してエンジンの制御を行うENG−ECU133a及びAHB−ECU133cへ出力する。
【0006】
かかる車両において台上試験を行う際には、図3(b)に示すように、車輪速度センサ131a〜131d及び電源137側のコネクタと、VSA−ECU133b側のコネクタと、の接続が解除され、治具である車輪速度生成モジュール200の入力側のコネクタが車輪速度センサ131a〜131d及び電源137側のコネクタと新たに接続され、車輪速度生成モジュール200の出力側がCANと接続される。かかる接続状態において台上試験を行うと、VSA−ECU133bには電力が供給されないため、車輪速度生成モジュール200から出力された駆動輪の車輪速度及び従動輪の模擬車輪速度は、AHB−ECU133cには送信されるが、VSA−ECU133bには送信されない。
【0007】
かかる車両では、回生協調制御及びCAS制御がVSA−ECU133bとは別のAHB−ECU133cによって行われているため、VSA−ECU133bが起動していなくても、台上試験において燃費計測に問題は無かった。ところで、回生協調制御を適用せずにCAS制御のみを車両に適用しようとした場合、CAS制御を行うためにAHB−ECU133cが必要となり、コストアップの要因となるため、AHB−ECU133cではなくVSA−ECU133bにCAS制御を行わせることが考えられる。
【0008】
しかし、VSA−ECU133bがCAS制御を行う車両において、前記した車輪速度生成モジュール200を用いて台上試験を行うと、VSA−ECU133bが起動していないため、CAS制御を行うことができず、燃費計測に影響が出てしまうおそれがある。また、かかる台上試験において、VSA−ECU133bに電力を供給したとしても、当該VSA−ECU133bに車輪速度センサ131a〜131dが接続されていないため、VSA−ECU133bは故障を誤検知してしまう。
【0009】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みて創案されたものであり、駆動輪のみを回転させて行う台上試験において、従動輪を備える車両の状態量を治具を用いずに簡易に計測することが可能な車両の状態量計測用制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するため、本発明は、駆動輪及び従動輪を備えた車両の状態量計測用制御システムであって、前記駆動輪及び前記従動輪の車輪速度をそれぞれ検出する車輪速度センサによって検出された前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度に基づいて、当該車両を制御する制御部を備え、前記制御部は、台上試験中である旨の設定がなされた場合には、前記駆動輪の車輪速度センサによって検出された前記駆動輪の車輪速度に基づいて、前記従動輪の擬似車輪速度を生成し、検出された前記従動輪の車輪速度に代えて、生成された前記従動輪の擬似車輪速度を前記従動輪の車輪速度とすることを特徴とする。
【0011】
前記車両は、前記駆動輪としての左前輪及び右前輪と、前記従動輪としての左後輪及び右後輪と、を備え、前記制御部は、検出された前記左前輪の車輪速度を前記左後輪の擬似車輪速度とし、検出された前記右前輪の車輪速度を前記右後輪の擬似車輪速度とする構成であってもよい。
【0012】
前記車両の状態量計測用制御システムは、前記制御部として、前記車輪速度センサと接続されており、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度に基づいて制動力を保持する制動力保持制御を行う制動力保持制御部と、前記制動力制御部と接続されており、車両の動力源を制御する動力源制御部と、前記制動力制御部と接続されており、回生制動時に前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度に基づいて制動力を制御する回生協調制御を行う回生協調制御部と、を備え、前記動力源制御部は、台上試験中である旨の設定がなされた場合には、当該設定を通知する信号を前記制動力保持制御部へ出力し、前記制動力保持制御部は、前記信号を取得すると、前記駆動輪の車輪速度センサによって検出された前記駆動輪の車輪速度に基づいて、前記従動輪の擬似車輪速度を生成し、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の擬似車輪速度に基づいて制動力保持制御を行うとともに、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の擬似車輪速度を前記回生協調制御部へ出力し、前記回生協調制御部は、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の擬似車輪速度を取得し、取得された前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の擬似車輪速度に基づいて回生協調制御を行う構成であってもよい。
【0013】
また、前記車両の状態量計測用制御システムは、前記制御部として、前記車輪速度センサと接続されており、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度に基づいて制動力を保持する制動力保持制御を行う制動力保持制御部と、前記制動力制御部と接続されており、車両の動力源を制御する動力源制御部と、前記制動力制御部と接続されており、回生制動時に前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度に基づいて制動力を制御する回生協調制御を行う回生協調制御部と、を備え、前記動力源制御部は、台上試験中である旨の設定がなされた場合には、当該設定を通知する信号を前記制動力保持制御部及び前記回生協調制御部へ出力し、前記制動力保持制御部は、前記信号を取得すると、前記駆動輪の車輪速度センサによって検出された前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度センサによって検出された前記従動輪の車輪速度に基づいて制動力保持制御を行うとともに、前記駆動輪の車輪速度を前記回生協調制御部へ出力し、前記回生協調制御部は、前記信号、前記駆動輪の車輪速度を取得し、取得された前記駆動輪の車輪速度に基づいて、前記従動輪の擬似車輪速度を生成し、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の擬似車輪速度に基づいて回生協調制御を行う構成であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、台上試験において、従動輪を備える車両の状態量を治具を用いずに簡易に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る車両及び台上試験装置を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両の状態量計測用制御システムを模式的に示すブロック図である。
【図3】従来の台上試験を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<車両及び台上試験装置>
図1に示すように、本発明の実施形態に係る車両10は、前輪である左右の駆動輪11(左前輪のみを図示)と、後輪である左右の従動輪12(左後輪のみを図示)と、を備える前輪駆動のハイブリッド車である。
【0017】
台上試験装置20は、車両10が載置される台21と、台21から露出するように左右にそれぞれ設けれた二組のローラ22,22(左側の一組のみを図示)と、ローラ22,22の回転を用いて、車両の動力(トルク、馬力)を計測するセンサである動力計測部23と、車両10のエミッション(排出物)を計測・分析するエミッション計測部24と、動力計測部23による計測結果及び計測部24による計測結果を取得する制御部25と、制御部25による制御によって、動力計測部23による計測結果及びエミッション計測部24による計測結果を試験者に通知するためのディスプレイ、スピーカ等からなる出力部26と、を備える。
【0018】
台上試験を行う際には、車両10の左右の駆動輪11がそれぞれ一組のローラ22,22上に載置されるとともに左右の従動輪12が台21上に載置されて車両10のイグニッションスイッチがONにされた状態で、試験者が車両10を運転することによって、車両10の左右の駆動輪11を回転させて仮想的な走行状態を実現し、車両10の状態量を車両10に設けられた各種計器によって表示するとともに、車両10の状態量としての動力を動力計測部23によって計測したり、車両10の状態量としてのエミッション(排気)をエミッション計測部24によって計測及び分析したりして、制御部25が各計測部23,24による計測結果を出力部26に出力させて試験者に通知する。
【0019】
<車両の状態量計測用制御システム>
図2に示すように、本発明の実施形態に係る車両の状態量計測用制御システム30は、前記した車両10に搭載されたシステムであり、駆動輪速度センサとしての左前輪速度センサ31a及び右前輪速度センサ31bと、従動輪速度センサとしての左後輪速度センサ31c及び右後輪速度センサ31dと、超音波センサ32と、制御部としてのENG−ECU(ENGine - Electrical Control Unit)33a、VSA−ECU(Vehicle Stability Assist - Electrical Control Unit)33b及びAHB−ECU(Active Hydro Booster - Electrical Control Unit)33cと、制御対象としてのエンジン34a1、電気モータ34a2、VSA装置34b、左前輪ブレーキ装置35b1、右前輪ブレーキ装置35b2、左後輪ブレーキ装置35b3、右後輪ブレーキ装置35b4、AHB装置34c及び回生ブレーキ装置35cと、警告灯36b,36cと、を備える。ENG−ECU33a、VSA−ECU33b及びAHB−ECU33cは、例えば車内LAN(CAN:Controller Area Network)によって互いに通信可能に接続されている。
【0020】
≪駆動輪速度センサ及び従動輪速度センサ≫
車輪速度センサ31a〜31dは、VSA−ECU33bとコネクタを介して接続されている。左前輪速度センサ31aは、駆動輪11としての左前輪の車輪速度(左前輪速度)を検出してVSA−ECU33bへ出力する。右前輪速度センサ31bは、駆動輪11としての右前輪の車輪速度(右前輪速度)を検出してVSA−ECU33bへ出力する。左後輪速度センサ31cは、従動輪12としての左後輪の車輪速度(左後輪速度)を検出してVSA−ECU33bへ出力する。右後輪速度センサ31dは、従動輪12としての右後輪の車輪速度(右後輪速度)を検出してVSA−ECU33bへ出力する。
【0021】
≪ENG−ECU≫
ENG−ECU33aは、車両10の動力源であるエンジン34a1及び電気モータ34a2の駆動をハイブリッド制御する動力源制御部である。また、ENG−ECU33aには、外部端末装置40から台上試験中である旨の信号が入力される。ENG−ECU33aは、入力された信号をVSA−ECU33b及びAHB−ECU33cへ転送する。
【0022】
≪VSA−ECU≫
VSA−ECU33bは、VSA装置34bの駆動を制御することによって、各車輪に設けられた各ブレーキ装置35b1〜35b4に付与されるブレーキ液圧を調整し、各ブレーキ装置35b1〜35b4によって各車輪11,12に所望の制動力を付与する制動力制御部である。VSA−ECU33bは、制動力制御であるVSA制御(車両挙動安定化制御)を実施する際には、車室内に設けられた警告灯36bを点灯又は点滅させて乗員へ通知するとともに、警告灯情報をENG−ECU33a及びAHB−ECU33cへ出力する。VSA−ECU33bは、VSA制御として、TCS(Traction Control System)制御と、ABS(Antilock Brake System)制御と、CAS(Creep Aid System)制御と、を実行することができる。TCS制御は、発進時、加速時等における駆動輪の空転を防止する制御である。VSA−ECU33bは、各車輪速度センサ31a〜31dによって検出された各車輪速度に基づいて、VSA装置34bの駆動を制御し、各車輪11,12に設けられた各ブレーキ装置35b1〜35b4に付与されるブレーキ液圧を調整することによって、各車輪11,12の空転を防止する。
【0023】
CAS制御は、ペダルセンサ32によって検出されたブレーキペダルの操作状態等と、各車輪速度センサ31a〜31dによって検出された各車輪速度と、に基づいて、車両10の発進時において制動力を保持する制動力保持制御である。すなわち、VSA−ECU33bは、車両10が停止した状態、すなわち、各車輪速度センサ31a〜31dによって検出された各車輪速度に基づいて算出された車体速度がゼロである場合において制動力を保持し、ブレーキペダルの操作解除から所定時間経過後等に制動力を解除するようにVSA装置34bを制御する制動力保持制御を行う制動力保持制御部である。
【0024】
また、VSA−ECU33bは、当該VSA−ECU33bの故障を自己診断し、自己診断結果をENG−ECU33a及びAHB−ECU33cへ出力する。
【0025】
また、VSA−ECU33bは、各車輪速度センサ31a〜31dによって検出された駆動輪11の車輪速度及び従動輪12の車輪速度を取得し、他のECU33a,33bへ出力する。
【0026】
≪AHB−ECU≫
AHB−ECU33cは、AHB装置34cの駆動を制御することによって、回生ブレーキ装置35cを作動させて回生エネルギを回収し、電気モータ34a2用のバッテリ(図示せず)に蓄電する回生制御を行うとともに、かかる回生制動時にVSA装置34bの駆動を制御することによって、ブレーキ液圧を調整等する回生協調制御を行う回生協調制御部である。AHB−ECU33cは、回生協調制御を実施する際には、車室内に設けられた警告灯36cを点灯又は点滅させて乗員へ通知するとともに、警告灯情報をENG−ECU33a及びVSA−ECU33bへ出力する。
【0027】
また、AHB−ECU33cは、当該AHB−ECU33cの故障を自己診断し、自己診断結果をENG−ECU33a及びVSA−ECU33bへ出力する。
【0028】
<第一の動作例>
本発明の実施形態に係る車両の状態量計測用制御システム30の第一の動作例について、図1及び図2を参照して説明する。第一の動作例は、VSA−ECU33bが擬似左後輪速度及び擬似右後輪速度を生成する動作例である。
【0029】
車両10の台上試験を行うに際して、外部端末装置40は、試験者の操作に応じて台上試験中である旨の信号をENG−ECU33aへ出力する。ENG−ECU33aは、前記信号を取得すると、当該信号をVSA−ECU33bへ転送する。ENG−ECU33a及びVSA−ECU33bは、前記信号に応じて台上試験中である旨の設定がなされ、通常モードから台上試験モードへ移行する。VSA−ECU33bは、前記信号を取得すると、左前輪速度及び右前輪速度に基づいて擬似左後輪速度及び擬似右後輪速度を生成し、検出された左前輪速度及び右前輪速度と、生成された擬似左後輪速度及び擬似右後輪速度と、ブレーキ信号等と、に基づいて、CAS制御を行う。すなわち、VSA−ECU33bは、擬似左後輪速度を左後輪速度とみなすとともに擬似右後輪速度を右後輪速度とみなしてCAS制御を行う。ここで、VSA−ECU33bは、TCS制御を禁止する。
【0030】
また、VSA−ECU33bは、前記信号に応じて、警告灯36bを点灯又は点滅させるとともに、警告灯情報をENG−ECU33aへ出力する。さらに、VSA−ECU33bは、前記信号に応じて、TCS制御を禁止する。さらに、VSA−ECU33bは、自己診断の結果を常に正常としてENG−ECU33a及びAHB−ECU33cへ出力する。さらに、VSA−ECU33bは、検出された左前輪速度及び右前輪速度と、生成された擬似左後輪速度及び擬似右後輪速度と、をAHB−ECU33cへ出力する。
【0031】
AHB−ECU33cは、左前輪速度、右前輪速度、擬似左後輪速度及び擬似右後輪速度を取得し、これらの速度及び擬似速度に基づいて回生協調制御を行う。すなわち、AHB−ECU33cは、擬似左後輪速度を左後輪速度とみなすとともに擬似右後輪速度を右後輪速度とみなして回生協調制御を行う。
【0032】
ENG−ECU33aは、VSA−ECU33bから出力された警告灯情報を無視してハイブリッド制御を行う。
【0033】
なお、車両10の台上試験を終了する際には、外部端末装置40は、試験者の操作に応じて台上試験終了である旨の信号をENG−ECU33aへ出力する。ENG−ECU33aは、前記信号を取得すると、当該信号をVSA−ECU33bへ出力し、ENG−ECU33a及びVSA−ECU33bは、前記信号に応じて台上試験モードから通常モードへと復帰する。
【0034】
<第二の動作例>
本発明の実施形態に係る車両の状態量計測用制御システム30の第二の動作例について、図1及び図2を参照して説明する。第二の動作例は、AHB−ECU33cが擬似左後輪速度及び擬似右後輪速度を生成する動作例である。
【0035】
車両10の台上試験を行うに際して、外部端末装置40は、試験者の操作に応じて台上試験中である旨の信号をENG−ECU33aへ出力する。ENG−ECU33aは、前記信号を取得すると、当該信号をVSA−ECU33b及びAHB−ECU33cへ転送する。ENG−ECU33a、VSA−ECU33b及びAHB−ECU33cは、前記信号に応じて台上試験中である旨の設定がなされ、通常モードから台上試験モードへ移行する。VSA−ECU33bは、前記信号を取得すると、検出された左前輪速度、右前輪速度、左後輪速度及び右後輪速度に基づいて、CAS制御を行う。ここで、VSA−ECU33bは、TCS制御を禁止する。ここで、本発明の台上試験において後輪は回転しないため、VSA−ECU33bは、検出された左後輪速度及び右後輪速度の値として、ゼロを用いる。
【0036】
また、VSA−ECU33bは、前記信号に応じて、警告灯36bを点灯又は点滅させるとともに、警告灯情報をENG−ECU33aへ出力する。さらに、VSA−ECU33bは、前記信号に応じて、TCS制御を禁止する。さらに、VSA−ECU33bは、自己診断の結果をENG−ECU33a及びAHB−ECU33cへ出力する。さらに、VSA−ECU33bは、検出された左前輪速度、右前輪速度、左後輪速度及び右後輪速度をAHB−ECU33cへ出力する。ここで、本発明の台上試験において後輪は回転しないため、検出された左後輪速度及び右後輪速度の値として、ゼロがAHB−ECU33cへ出力される。
【0037】
AHB−ECU33cは、前記信号と、左前輪速度、右前輪速度、左後輪速度及び右後輪速度と、を取得すると、左前輪速度及び右前輪速度に基づいて擬似左後輪速度及び擬似右後輪速度を生成し、検出された左前輪速度及び右前輪速度と、生成された擬似左後輪速度及び擬似右後輪速度と、に基づいて、回生協調制御を行う。すなわち、AHB−ECU33cは、擬似左後輪速度を左後輪速度とみなすとともに擬似右後輪速度を右後輪速度とみなして回生協調制御を行う。
【0038】
また、AHB−ECU33cは、前記信号に応じて、警告灯36cを点灯又は点滅させるとともに、警告灯情報をENG−ECU33aへ出力する。さらに、AHB−ECU33cは、VSA−ECU33bから出力された自己診断の結果が故障を示す場合には、それを無視する。
【0039】
ENG−ECU33aは、VSA−ECU33bから出力された警告灯情報を無視してハイブリッド制御を行う。
【0040】
なお、車両10の台上試験を終了する際には、外部端末装置40は、試験者の操作に応じて台上試験終了である旨の信号をENG−ECU33aへ出力する。ENG−ECU33aは、前記信号を取得すると、当該信号をVSA−ECU33b及びAHB−ECU33cへ出力し、ENG−ECU33a、VSA−ECU33b及びAHB−ECU33cは、前記信号に応じて台上試験モードから通常モードへと復帰する。
【0041】
≪擬似車輪速度の生成手法≫
前記した第一の動作例及び第二の動作例において、VSA−ECU33b及びAHB−ECU33cは、検出された左前輪速度を擬似左後輪速度とし、検出された右前輪速度を擬似右後輪速度とすることができる。
【0042】
本発明の実施形態に係る車両の状態量計測用制御システム30は、駆動輪11のみを回転させて行う台上試験において、従動輪12を備える車両10の状態量を治具を用いずに簡易に計測することができる。すなわち、治具が不要となるため、コネクタの付け替え等の作業を省略することができる。
【0043】
また、本発明の実施形態に係る車両の状態量計測用制御システム30は、台上試験の実施後かつ出荷前におけるDTC(Diagnostic Trouble Code)消去作業を削減することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。例えば、本発明が適用される車両は、前輪が従動輪で後輪が駆動輪の後輪駆動車であってもよく、また、回生協調制御を行わない車両であってもよい。また、本発明の車両の状態量計測用制御システム30は、外部端末装置40からの信号ではなく、ENG−ECU33aに設けられたディップスイッチ等の操作によって台上試験中である旨の設定がなされる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 車両
11 駆動輪(左前輪及び右前輪)
12 従動輪(左後輪及び右後輪)
30 車両の状態量計測用制御システム
31a 左前輪速度センサ(駆動輪速度センサ)
31b 右前輪速度センサ(従動輪速度センサ)
31c 左後輪速度センサ(従動輪速度センサ)
31d 右後輪速度センサ(従動輪速度センサ)
33a ENG−ECU(制御部、動力源制御部)
33b VSA−ECU(制御部、制動力保持制御部)
33c AHB−ECU(制御部、回生協調制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪及び従動輪を備えた車両の状態量計測用制御システムであって、
前記駆動輪及び前記従動輪の車輪速度をそれぞれ検出する車輪速度センサによって検出された前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度に基づいて、当該車両を制御する制御部を備え、
前記制御部は、台上試験中である旨の設定がなされた場合には、前記駆動輪の車輪速度センサによって検出された前記駆動輪の車輪速度に基づいて、前記従動輪の擬似車輪速度を生成し、検出された前記従動輪の車輪速度に代えて、生成された前記従動輪の擬似車輪速度を前記従動輪の車輪速度とする
ことを特徴とする車両の状態量計測用制御システム。
【請求項2】
前記車両は、前記駆動輪としての左前輪及び右前輪と、前記従動輪としての左後輪及び右後輪と、を備え、
前記制御部は、検出された前記左前輪の車輪速度を前記左後輪の擬似車輪速度とし、検出された前記右前輪の車輪速度を前記右後輪の擬似車輪速度とする
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の状態量計測用制御システム。
【請求項3】
前記制御部として、
前記車輪速度センサと接続されており、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度に基づいて制動力を保持する制動力保持制御を行う制動力保持制御部と、
前記制動力制御部と接続されており、車両の動力源を制御する動力源制御部と、
前記制動力制御部と接続されており、回生制動時に前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度に基づいて制動力を制御する回生協調制御を行う回生協調制御部と、
を備え、
前記動力源制御部は、台上試験中である旨の設定がなされた場合には、当該設定を通知する信号を前記制動力保持制御部へ出力し、
前記制動力保持制御部は、前記信号を取得すると、前記駆動輪の車輪速度センサによって検出された前記駆動輪の車輪速度に基づいて、前記従動輪の擬似車輪速度を生成し、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の擬似車輪速度に基づいて制動力保持制御を行うとともに、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の擬似車輪速度を前記回生協調制御部へ出力し、
前記回生協調制御部は、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の擬似車輪速度を取得し、取得された前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の擬似車輪速度に基づいて回生協調制御を行う
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両の状態量計測用制御システム。
【請求項4】
前記制御部として、
前記車輪速度センサと接続されており、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度に基づいて制動力を保持する制動力保持制御を行う制動力保持制御部と、
前記制動力制御部と接続されており、車両の動力源を制御する動力源制御部と、
前記制動力制御部と接続されており、回生制動時に前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度に基づいて制動力を制御する回生協調制御を行う回生協調制御部と、
を備え、
前記動力源制御部は、台上試験中である旨の設定がなされた場合には、当該設定を通知する信号を前記制動力保持制御部及び前記回生協調制御部へ出力し、
前記制動力保持制御部は、前記信号を取得すると、前記駆動輪の車輪速度センサによって検出された前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の車輪速度センサによって検出された前記従動輪の車輪速度に基づいて制動力保持制御を行うとともに、前記駆動輪の車輪速度を前記回生協調制御部へ出力し、
前記回生協調制御部は、前記信号、前記駆動輪の車輪速度を取得し、取得された前記駆動輪の車輪速度に基づいて、前記従動輪の擬似車輪速度を生成し、前記駆動輪の車輪速度及び前記従動輪の擬似車輪速度に基づいて回生協調制御を行う
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両の状態量計測用制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−140084(P2012−140084A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293889(P2010−293889)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】