説明

車両の衝撃吸収構造

【課題】繊維強化プラスチックの衝撃吸収特性を活かして、優れた衝撃吸収効果を発揮できる車両の衝撃吸収構造を提供する。
【解決手段】炭素繊維帯7bを周方向に複数層巻きつけたクラッシュボックス7を、その軸線方向が衝突荷重の作用方向に対して略直交するように車両1の衝撃吸収部材5の内部に配置する。このクラッシュボックス7は、所定の許容範囲を超える衝撃荷重の入力に対して、衝撃荷重の作用方向及び軸線方向の両者と略直交する方向の領域に層間剥離が生じるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝撃吸収構造として、炭素繊維強化プラスチックにて構成された円筒部材を、その軸線が車両前後方向へ向くようにしてフロントサイドメンバの前方に配置したものが知られている(例えば特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2及び3が存在する。
【0003】
【特許文献1】特開2005−47387号公報
【特許文献2】特許第3362502号公報
【特許文献3】特開2001−208119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の衝撃吸収構造は、円筒部材がフロントサイドメンバ前方に車両前後方向へ軸線を向けて配置されているため、繊維強化プラスチックの衝撃吸収特性を十分に活かしきれていない。
【0005】
そこで、本発明は、繊維強化プラスチックの衝撃吸収特性を活かして、優れた衝撃吸収効果を発揮できる車両の衝撃吸収構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の衝撃吸収構造は、強化繊維を周方向に複数層巻きつけた繊維強化プラスチックにて構成された筒状部材を、その軸線方向が衝突荷重の作用方向に対して略直交するように配置することにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
本発明の車両の衝撃吸収構造によれば、衝撃荷重が作用すると、その作用方向に筒状部材に圧縮応力が作用する一方で、衝撃荷重及び筒状部材との軸線方向の両者と略直交する方向には、筒状部材を半径方向内外に拡大させるような応力が発生する。その応力で強化繊維層に層間剥離が生じ易くなり、この効果で衝撃荷重が吸収される。
【0008】
本発明の一形態において、車両の衝撃吸収部材の内部に前記筒状部材が配置されていてもよい(請求項2)。この形態によれば、衝撃荷重によって衝撃吸収部材が圧縮される過程で、衝撃荷重の少なくとも一部を筒状部材にて吸収することができる。これにより、車両の衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0009】
上記の形態においては、前記衝撃吸収部材が、車両の前後方向に延びかつ前記筒状部材の軸線方向が車幅方向に向けられていてもよい(請求項3)。この形態によれば、前後方向の衝撃荷重に対して優れた衝撃吸収効果を発揮させることができる。
【0010】
さらに上記の形態においては、前記衝撃吸収部材が車両のフロントサイドメンバであってもよい(請求項4)。この形態によれば、フロントサイドメンバの衝撃吸収効果を高めることができる。
【0011】
本発明の車両の衝撃吸収構造においては、所定の許容範囲を超える衝撃荷重の入力に対して、前記衝撃荷重の作用方向及び前記軸線方向の両者と略直交する方向の領域に層間剥離が生じるように前記筒状部材が構成されていてもよい(請求項5)。車両に許容される限度を超える衝撃荷重が入力された時、その衝撃荷重を筒状部材で確実に吸収することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、衝撃荷重の入力によって層間剥離が生じ易くなるように筒状部材の向きを設定したため、繊維強化プラスチックの衝撃吸収特性を活かして、優れた衝撃吸収効果を発揮できる車両の衝撃吸収構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の一形態に係る衝撃吸収構造を備えた車両の前部構造を示す。図中のUPは車両上方を、FRは車両前方を、INは車幅方向内側をそれぞれ示す。車両1は、車両前後方向に延びる一対のエプロンアッパメンバ2が車幅方向の両側に設けられ、前方には、ラジエータ(不図示)を両側から支持するラジエータサポートサイド3と、ラジエータの上側を支持するラジエータサポートアッパ4とが設けられた構造を備えている。エプロンアッパメンバ2よりも車幅方向内側には、衝撃吸収部材である一対のフロントサイドメンバ5が設けられ、それらの前端にはバンパリインホースメント6が設けられている。
【0014】
図2に示すように、各フロントサイドメンバ5の内部には、筒状部材として、円筒状のクラッシュボックス7が車両前後方向に複数個並べられている。各クラッシュボックス7は、その軸線方向を車幅方向に向けた状態でフロントサイドメンバ5に収容されている。
【0015】
クラッシュボックス7の形成方法の一例を図3及び図4に示す。図3に示すように円筒状のプラスチック筒7aに対して周方向に強化繊維としての炭素繊維帯7bを複数層巻きつける。このとき、プラスチック筒7aと炭素繊維帯7bのどちらを回転させてもよい。巻き付けられた炭素繊維帯7bの層に熱硬化性樹脂を含浸させ、これを焼成することにより、図4に示したように周方向に炭素繊維帯7bが巻き付けられたクラッシュボックス7が得られる。但し、プリプレグシートをその繊維方向が周方向と一致するように巻き付けてクラッシュボックス7を形成してもよい。
【0016】
以上の構造を有する車両において、車両1の前方から衝撃荷重が入力されると、その衝撃荷重は車両後方にバンパリインホースメント6を伝わりフロントサイドメンバ5まで達する。フロントサイドメンバ5に達した衝撃荷重は、フロントサイドメンバ5の内側のクラッシュボックス7に伝播する。そのためクラッシュボックス7には、衝撃荷重と隣接するクラッシュボックス7からの反発力とにより図5に示すように車両前後方向に沿って圧縮力が働く。この圧縮力を受けて、クラッシュボックス7の上下方向、つまり衝撃荷重の作用方向及びクラッシュボックス7の軸線方向の両者と直交する方向の領域7cの肉厚には、その肉厚が拡大するような力が作用する。これにより、図6に示すようにクラッシュボックス7に積層されている炭素繊維帯7bに層間剥離が生じる。この場合、クラッシュボックス7の塑性変形に要したエネルギーと炭素繊維帯7bの層間剥離に要したエネルギーの総和が衝撃吸収エネルギーとなる。複数のクラッシュボックス7のそれぞれで上述したように衝撃エネルギーが吸収されるために、クラッシュボックス7の個数により衝撃吸収効果を容易に制御することができる。
【0017】
クラッシュボックス7の強度は、吸収すべき衝撃荷重の大きさに応じて定めればよい。車両に衝突安全基準等に従って衝突荷重の許容範囲が予め規定されている場合には、その許容範囲を超える衝撃荷重の入力に対して層間剥離が生じるようにクラッシュボックス7を構成することにより、許容限度を超える衝撃荷重の車室への伝播を抑えることができる。
【0018】
図7に示すように、炭素繊維強化プラスチックは金属に比べて時間に対しての反力が平均化される。つまり、炭素繊維強化プラスチックは金属に比べて衝撃荷重を分散させる特性を有している。これは、衝撃吸収部材として有効な材料の一つであることを示している。
【0019】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々の形態で実施してよい。例えば、クラッシュボックス7は円筒状に限らず角筒状等の各種の筒状に形成してよい。強化繊維は炭素繊維に限らずガラス繊維等の各種の強化繊維を使用してよい。筒状部材が収容される衝撃吸収部材は、車両のフロントサイドメンバ5に限らず、フロントフォロアクロスメンバ、リヤフォロアクロスメンバ等の各種の衝撃吸収部材を対象としてよい。本発明は、車両の前後方向に作用する衝撃を吸収する構造に限らず、前後方向以外の方向からの衝撃荷重に対して本発明が適用されてもよい。例えば、車両の側方からの衝撃荷重を吸収するためには、筒状部材をその軸線方向が車幅方向と略直交する方向を向くようにして設ければよい。本発明は、筒状部材を衝撃吸収部材の内部に収容する例に限らず、車両の適宜の位置に本発明の筒状部材を配置してよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一形態に係る衝撃吸収構造を備えた車両の前部構造を示す図。
【図2】フロントサイドメンバ内部の拡大図。
【図3】クラッシュボックスの製造工程を示す図。
【図4】クラッシュボックスの完成状態を示す斜視図。
【図5】衝撃荷重を受けて変形したクラッシュボックスを示す斜視図との関係を示す図。
【図6】クラッシュボックスが衝撃荷重を受けて変形する様子を示す図。
【図7】金属及び炭素繊維強化プラスチックの時間と反力との関係を示す図。
【符号の説明】
【0021】
5 フロントサイドメンバ(衝撃吸収部材)
7 クラッシュボックス(筒状部材)
7b 炭素繊維帯(強化繊維)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維を周方向に複数層巻きつけた繊維強化プラスチックにて構成された筒状部材を、その軸線方向が衝突荷重の作用方向に対して略直交するように配置したことを特徴とする車両の衝撃吸収構造。
【請求項2】
車両の衝撃吸収部材の内部に前記筒状部材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の衝撃吸収構造。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材が、車両の前後方向に延びかつ前記筒状部材の軸線方向が車幅方向に向けられていることを特徴とする請求項2に記載の車両の衝撃吸収構造。
【請求項4】
前記衝撃吸収部材が車両のフロントサイドメンバであることを特徴とする請求項3に記載の車両の衝撃吸収構造。
【請求項5】
所定の許容範囲を超える衝撃荷重の入力に対して、前記衝撃荷重の作用方向及び前記軸線方向の両者と略直交する方向の領域に層間剥離が生じるように、前記筒状部材が構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両の衝撃吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−267393(P2008−267393A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106821(P2007−106821)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】