説明

車両の運転支援装置

【課題】旋回時に車両が障害物にどの程度まで接近したのか運転者に容易に確認させ、よって旋回時の運転技能の向上に資することができるようにした車両の運転支援装置を提供する。
【解決手段】車両の後側方を撮像するカメラを備え、車両が旋回するとき、旋回方向内側に存在する障害物までの距離(内輪余裕)を計測し(S104,S120)、計測された距離(内輪余裕)の最小値が所定値以下である場合、撮像された車両の後側方の映像を記憶する(S110からS114,S126からS130)。次いで車両の停止が検知されると共に、運転者の再生操作に応じ、記憶された映像を再生してディスプレイに表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両の運転支援装置に関し、より具体的には旋回するときの障害物の接触を回避するようにした装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の旋回時には、内輪差から車体の後部側面が建造物などの障害物と接触しやすい。そのため、旋回方向内側に存在する障害物までの距離を計測し、計測された距離から車体が障害物に接近したと判断されるとき、運転者に警告を行う技術が知られている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特公平8−23587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1記載の技術によれば、車両が障害物に接近したとき、運転者に警告が行われるが、警告が行われなかった場合、即ち、車両旋回時のほとんどの場合、運転者はどのように自車が旋回し、どの程度まで障害物に接近したのか判断することができなかった。従って、運転者は旋回時の運転技能を向上させるのが困難であった。
【0004】
この発明の目的は上記した課題を解決し、旋回時に車両が障害物にどの程度まで接近したのか運転者に容易に確認させ、よって旋回時の運転技能の向上に資することができるようにした車両の運転支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を解決するために、請求項1に係る車両の運転支援装置にあっては、車両の後側方を撮像する撮像手段と、前記車両の運転者による方向指示器の作動を検知する方向指示器作動検知手段と、前記方向指示器の作動に基づいて前記車両が旋回するとき、旋回方向内側に存在する障害物までの距離を計測する距離計測手段と、前記計測された距離が所定値以下である場合、前記撮像された映像を記憶する記憶手段と、前記車両の停止を検知する車両停止検知手段と、前記車両の停止が検知されたとき、前記記憶された映像を再生して表示する表示手段とを備える如く構成した。
【0006】
請求項2に係る車両の運転支援装置にあっては、前記記憶手段は、前記計測された距離と前記映像とを記憶すると共に、前記表示手段は、前記計測された距離が小さい順に前記映像を再生して表示する如く構成した。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る車両の運転支援装置にあっては、車両の後側方を撮像し、運転者による方向指示器の作動を検知し、それに基づいて車両が旋回するとき、旋回方向内側に存在する障害物までの距離を計測し、計測された距離が所定値以下である場合、撮像された映像を記憶し、車両の停止を検知すると共に、車両の停止が検知されたとき、記憶された映像を再生して表示する如く構成したので、運転者は旋回時に車両が障害物にどの程度まで接近したのかを容易に確認することができ、旋回時の運転技能を向上させることができる。
【0008】
請求項2に係る車両の運転支援装置にあっては、計測された距離と映像とを記憶すると共に、計測された距離が小さい順に映像を再生して表示する如く構成したので、上記した効果に加え、構成を簡易にすることができると共に、再生時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面に即してこの発明に係る車両の運転支援装置を実施するための最良の形態について説明する。
【実施例】
【0010】
図1はこの発明の実施例に係る運転支援装置を備える車両の運転席の説明図、図2はその車両の旋回時の側面図である。
【0011】
図1と図2において符号10は車両を示し、車両10は原動機(図示せず)を備える。原動機は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、電動機、それらのハイブリッドなどのいずれであっても良い。
【0012】
車両10の運転席12には、ステアリングホイール14と、図示しないアクセルペダル、ブレーキペダルなどの運転用機器が設けられ、運転者Pはそれらを操作して車両10を前進、後退あるいは旋回させる。
【0013】
運転席12のインストルメントパネル16にはナビゲーション装置20が配置され、車両10の現在地を測位し、測位された現在地から運転者によって入力された目的地までの推奨経路をディスプレイ20aに地図と共に表示する。ナビゲーション装置20には再生スイッチ(SW)20bが設けられる。
【0014】
左右のドアミラー22l,22rにはカメラ24、具体的には左後側方カメラ24lと右後側方カメラ24rが車両10の後方に向けて取り付けられ、車両10の左右の後側方、即ち、図2において矢印A,Bで示す方向を撮像する。カメラ24はCCDカメラからなる。
【0015】
図2に示す如く、車両10の車輪26aから26dのうち左右の後輪26c,26dの付近には、距離センサ30、即ち、左の距離センサ30lと右の距離センサ30rが配置される。距離センサ30は超音波センサからなり、後輪26cあるいは26dの側方に超音波を発信すると共に、その方向に存在する図2に示す障害物(建造物)100などから反射された反射波を受信する。
【0016】
車両10が、例えば矢印で示す如く、左に旋回するとき、後方の内輪26cから障害物100までの距離が内輪余裕を示す。
【0017】
ステアリングホイール14の付近に配置されたウィンカ(方向指示器。図示せず)の付近にはウィンカスイッチ32が配置され、運転者Pによるウィンカの作動、即ち、ウィンカが左にON(左ウィンカON。左折指示)あるいは右にON(右ウィンカON。右折指示)されるとき、その動作に応じた出力を生じる。
【0018】
車両10のドライブシャフト(図示せず)の付近には車速センサ34が配置され、車両10の走行速度(車速)に応じた出力を生じる。
【0019】
車両10のインストルメントパネル16の内部などの適宜位置には電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)40が格納される。
【0020】
図3はECU40の構成を機能的に示すブロック図である。図示の如く、ECU40はCPU40a,ROM40b,RAM40c、入力回路40d、出力回路40eなどを有するマイクロコンピュータからなる。
【0021】
左後側方カメラ24lと右後側方カメラ24rの出力は画像処理回路(図示せず)に入力され、そこで得られた車両10の左右の後側方の映像は入力回路40dからECU40に入力される。
【0022】
左右の距離センサ30l,30rの出力は距離計測部(図示せず)に入力され、そこで超音波を発信してから反射波を受信するまでの時間が計測され、計測された時間に基づいて障害物までの距離が計測される。計測された距離は入力回路40dからECU40に入力される。その他のセンサあるいはスイッチの出力も入力回路40dを介してECU40に入力される。
【0023】
ECU40は、ROM40bに格納されている命令に従い、後述する如く、カメラ24によって撮像された車両10の後側方の映像を録画すると共に、ナビゲーション装置20のECU(図示せず)と通信し、運転者Pによって再生スイッチ20bがオンされたとき、録画された映像を再生し、出力回路40eからナビゲーション装置20のディスプレイ(再生手段)20aに出力して表示する。
【0024】
図4はそのECU40の動作を示すフロー・チャートである。
【0025】
以下説明すると、S10で車速センサ34から得られた車両10の車速が2km/h未満か、換言すれば車両10が実質的に停止しているか否か判断し、否定されるときはS12に進み、上記した再生処理を停止し、S14に進み、録画処理を実行する。
【0026】
図5はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0027】
以下説明すると、S100において車両10のウィンカスイッチ32の出力から運転者Pによってウィンカが左にONされたか(左折指示されたか)、即ち、車両10が旋回しようとしているか否か判断する。
【0028】
S100で肯定されるときはS102に進み、左後側方カメラ24lを動作させ、撮像させてその映像を記憶(記録)する録画を開始し、S104に進み、左の内輪余裕を計測する。
【0029】
即ち、車両10の運転者Pによるウィンカの作動に基づいて車両10が旋回するとき、図2に示すように、旋回方向内側に存在する障害物100までの距離(内輪余裕)を計測する。計測された距離は、録画と共に記録(記憶)される。
【0030】
次いでS106に進み、ウィンカが左にOFF(左折指示が終了)されたか否か判断し、否定されるときは104に戻る一方、肯定されるときはS108に進み、左後側方カメラ24lの動作を中止させて録画を中止する。
【0031】
次いでS110に進み、内輪余裕の最小値、即ち、計測された旋回方向内側に存在する障害物100までの距離のうちの最小値を記録(記憶)する。次いでS112に進み、記録された最小値が所定値(適宜設定)を超えるか否か判断する。
【0032】
S112で肯定されるときはS114に進み、左後側方カメラ24lの録画を消去する一方、否定されるときはS114の処理をスキップする(換言すれば記録された距離(最小値)が所定値以下である場合のみ、映像を記録(記憶)する)。次いでS100に戻り、上記した処理を繰り返す。
【0033】
他方、S100で否定されるときはS116に進み、ウィンカが右にONされたか(右折指示されたか)、即ち、車両10が旋回しようとしているか否か判断する。
【0034】
S116で否定されるときはS100に戻る一方、肯定されるときはS118からS130に進み、車両10の右後側方についてS102からS114までと同様の処理を行う。
【0035】
図4フロー・チャートの説明に戻ると、S10で肯定されるときはS16に進み、録画処理を停止し、S18に進み、再生処理を実行する。即ち、車両10の停止を検知し、車両10の停止が検知されたとき、録画を再生して表示する。
【0036】
図6はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0037】
以下説明すると、S200において記録された全ての録画された映像を読み出し、S202に進み、内輪余裕が小さい順に録画された映像をソートする。
【0038】
次いでS204に進み、再生操作されたか、即ち、ナビゲーション装置20のECUと通信し、運転者Pによって再生スイッチ20bがONされたか否か判断し、否定されるときはS204の処理を繰り返して待機する。
【0039】
S204で肯定されるときはS206に進み、映像をソート順、即ち、内輪余裕が小さい順に再生してナビゲーション装置20のディスプレイ20aに表示する。次いでS208に進み、再生済みの映像を消去する。
【0040】
次いでS210に進み、停止操作されたか、即ち、運転者Pによって再生スイッチ20bがOFFされたか否か判断し、否定されるときはS206に戻る一方、肯定されるときはS212に進み、映像再生を停止し、S204に戻る。
【0041】
このように、この実施例においては、車両10が左あるいは右に旋回するごとに車両10の左右の後側方を撮像して映像を記録(録画)すると共に、そのときの障害物100までの距離(内輪余裕)を計測してその最小値のみを映像と一緒に記録する。
【0042】
次いで最小値が所定値を超えるか否か判断し、否定されて最小値が所定値以下と判断される場合のみ、記録された映像を保持する。このように、障害物100までの距離が所定値以下の旋回の場合のみ、映像が消去されず、保持(記録)される。
【0043】
次いで、例えば信号などで車両10が停止したとき、運転者Pの再生スイッチ20bの操作に応じ、保持(記録)された映像が内輪余裕の最小値が小さい順に再生されてナビゲーション装置20のディスプレイ20aに表示される。
【0044】
上記した如く、この実施例に係る車両の運転支援装置にあっては、車両10の後側方を撮像するカメラ(撮像手段)24と、前記車両10の運転者Pによるウィンカ(方向指示器)の作動を検知する方向指示器作動検知手段(ウィンカスイッチ32,ECU40,S14,S100,S116)と、前記ウィンカ(方向指示器)の作動に基づいて前記車両10が旋回するとき、旋回方向内側に存在する障害物100までの距離(内輪余裕)を計測する距離計測手段(ECU40,S14,S104,S120)と、前記計測された距離、より具体的には内輪余裕の最小値が所定値以下である場合、前記撮像された映像を記憶する記憶手段(ECU40,S14,S110からS114,S126からS130)と、前記車両10の停止を検知する車両停止検知手段(車速センサ34,ECU40,S10)と、前記車両10の停止が検知されたとき、より具体的には前記車両10の停止が検知されると共に、運転者Pの再生スイッチ20bの再生操作が検知されるとき、それに応じ、前記記憶された映像を再生して表示する表示手段(ナビゲーション装置20のディスプレイ20a、ECU40,S18,S200からS212)とを備える如く構成したので、運転者Pは旋回時に車両100が障害物100にどの程度まで接近したのかを容易に確認することができ、旋回時の運転技能を向上させることができる。
【0045】
また、車両10が停止したときに記憶された映像を再生して表示することで、運転者Pは、旋回中は左右のドアミラーに視線を移すことなく、停車した時点で安全に右左折時の内輪余裕を確認することができる。
【0046】
また、数値ではなく、映像で表示することで、運転者は直感的あるいは主観的に内輪余裕を認識することができ、旋回時の運転技能を良く向上させることができる。
【0047】
また、前記記憶手段は、前記計測された距離(内輪余裕、より具体的にはその最小値)と前記映像とを記憶すると共に(ECU40,S14,S110からS114,S126からS130)、前記表示手段は、前記計測された距離が小さい順に前記映像を再生して表示する(ECU40,S18,S206)如く構成したので、上記した効果に加え、構成を簡易にすることができると共に、再生時間を短縮することができる。
【0048】
尚、上記において建造物などの静止物を対象に説明したが、車線変更などで他車と接近した場合の映像を保持するようにしても良い。
【0049】
また、再生スイッチ20bをナビゲーション装置20にハードウエアとして設けるようにしたが、ナビゲーション装置20のディスプレイ20aにタッチパネルを貼り付け、その操作を介してディスプレイ20a上に再生スイッチが表示されるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の実施例に係る運転支援装置を備える車両の運転席の説明図である。
【図2】図1に示す車両の旋回時の側面図である。
【図3】図1に示す装置の電子制御ユニット(ECU)の構成を機能的に示すブロック図である。
【図4】図3に示すECUの動作を示すフロー・チャートである。
【図5】図4の録画処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図6】図4の再生処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【符号の説明】
【0051】
10 車両、12 運転席、14 ステアリングホィール、16 インストルメントパネル、20 ナビゲーション装置、20a ディスプレイ、20b再生スイッチ、24 カメラ、24l 左後側方カメラ、24r 右後側方カメラ、30 距離センサ、30l 左の距離センサ、30r 右の距離センサ、32 ウィンカスイッチ、34 車速センサ、40 ECU(電子制御ユニット)、100 障害物、P 運転者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後側方を撮像する撮像手段と、前記車両の運転者による方向指示器の作動を検知する方向指示器作動検知手段と、前記方向指示器の作動に基づいて前記車両が旋回するとき、旋回方向内側に存在する障害物までの距離を計測する距離計測手段と、前記計測された距離が所定値以下である場合、前記撮像された映像を記憶する記憶手段と、前記車両の停止を検知する車両停止検知手段と、前記車両の停止が検知されたとき、前記記憶された映像を再生して表示する表示手段とを備えることを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記計測された距離と前記映像とを記憶すると共に、前記表示手段は、前記計測された距離が小さい順に前記映像を再生して表示することを特徴とする請求項1記載の車両の運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−143442(P2010−143442A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323285(P2008−323285)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】