説明

車両の運転支援装置

【課題】制動のみによる障害物回避も精度良く確実に行うことができ、制動力に加えてドライバが操舵により旋回回避する際においても、ドライバが意図する十分な旋回運動により障害物を回避することができる信頼性の高い衝突防止制御を行う。
【解決手段】走行制御ユニットは、自車両と障害物との衝突可能性を判定し、自車両と障害物との衝突可能性が高いと判定された場合、障害物との衝突を防止する制動力を予め設定し、自動ブレーキ制御装置に信号出力して減速度を発生させるが、この際、ドライバの操舵を検出した場合には、発生させる制動力を低下補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が先行車等の障害物に衝突する可能性が高いとき、ドライバのブレーキ操作とは独立した自動ブレーキの介入による制動制御を行うことで、衝突防止を図る車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自車両が車両等の障害物に衝突する可能性が高いときに、ドライバのブレーキ操作とは独立した自動ブレーキ制御を行うことで、衝突防止を図る様々な自動ブレーキ制御装置が提案され、実用化されている。例えば、特開平8−91190号公報(以下、特許文献1)では、先行車との相対速度と車間距離に応じて追突回避に最小限必要な車両制動力を求めると共に、ドライバによる人為的な車両制動力を求め、これら2つの車両制動力を比較して大きな方の値に基づいて自動ブレーキ制御を実行する車両の追突防止装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−91190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、障害物との衝突を回避するシーンでは、制動力により減速して障害物との衝突を回避することに加え、ドライバが転舵して障害物との衝突を旋回回避しようとする場合も多い。上述の特許文献1のような最大制動力で障害物との衝突を回避している際に、ドライバが操舵を行った場合には、制動力にグリップ力の多くを割かれたタイヤでは十分なコーナリングフォースを発生することができず、ドライバが意図する十分な旋回により障害物を回避することが困難となってしまう虞がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、制動のみによる障害物回避も精度良く確実に行うことができ、制動力に加えてドライバが操舵により旋回回避する際においても、ドライバが意図する十分な旋回運動により障害物を回避することができる信頼性の高い衝突防止制御を行うことができる車両の運転支援装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の運転支援装置の一態様は、前方障害物情報を検出する前方障害物情報検出手段と、自車両と上記前方障害物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定手段と、上記自車両と上記前方障害物との衝突可能性が高いと判定された場合、上記前方障害物との衝突を防止する制動力を予め設定して発生させる衝突防止制御手段と、ドライバの操舵を検出した場合に、上記衝突防止制御手段が発生させる制動力を低下補正する制動力補正手段とを備えた。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両の運転支援装置によれば、制動のみによる障害物回避も精度良く確実に行うことができ、制動力に加えてドライバが操舵により旋回回避する際においても、ドライバが意図する十分な旋回運動により障害物を回避することができる信頼性の高い衝突防止制御を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態に係る、車両運転支援装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る、車両運転支援装置における衝突防止制御プログラムのフローチャートである。
【図3】本発明の実施の一形態に係る、路面μに応じて設定される初期付加制動力の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は自動車等の車両(自車両)を示し、この車両1には、障害物や先行車等の制御対象に衝突する可能性が高いとき、ドライバのブレーキ操作とは独立した自動ブレーキの介入によって制動制御を行うことで衝突防止を図る衝突防止機能を備えた車両運転支援装置2が搭載されている。
【0010】
この自動制動制御装置2は、ステレオカメラ3、ステレオ画像認識装置4、走行制御ユニット5等を有して主要部が構成されている。
【0011】
ステレオカメラ3は、例えば、電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた左右1組のCCDカメラで構成されている。これら1組のCCDカメラは、ぞれぞれ車室内の天井前方に一定の間隔を持って取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、撮像した画像情報をステレオ画像認識装置4に出力する。
【0012】
ステレオ画像認識装置4には、ステレオカメラ3から画像情報が入力されるとともに車速センサ10から自車速V等が入力される。これらの情報に基づき、ステレオ画像認識装置4は、ステレオカメラ3からの画像情報に基づいて自車両1前方の立体物データや白線データ等の前方情報を認識し、これら認識情報等に基づいて自車走行路を推定する。更に、ステレオ画像認識装置4は、自車走行路上に立体物が存在するか否かを調べ、存在する場合には、直近のものを制動による衝突防止制御の制御対象の障害物として認識する。
【0013】
ここで、ステレオ画像認識装置4は、ステレオカメラ3からの画像情報の処理を、例えば以下のように行う。先ず、ステレオカメラ3で自車進行方向を撮像した1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって距離情報を生成する。そして、この距離情報に対して周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め設定しておいた三次元的な道路形状データや立体物データ等と比較することにより、白線データ、道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁データ、車両等の立体物データ等を抽出する。更に、ステレオ画像認識装置4は、白線データや側壁データ、推定される自車進行路等に基づいて自車走行路を推定し、自車走行路前方に存在する直近の立体物を衝突防止制御の制御対象の障害物として抽出(検出)する。そして、障害物を検出した場合には、その障害物情報として、自車両1と障害物との相対距離d、障害物の移動速度Vf(=(相対距離dの変化の割合)+自車速V))、障害物の減速度af(=障害物の移動速度Vfの微分値)、障害物と自車両1との幅方向のラップ率Rr(=自車両1の幅が障害物の幅に重なっている自車両1の幅に対する割合)等を演算する。このように、本実施形態において、ステレオ画像認識装置4は、ステレオカメラ3とともに、前方障害物情報検出手段としての機能を実現する。
【0014】
走行制御ユニット5には、ステレオ画像認識装置4で認識された障害物の各種制情報が入力される。また、走行制御ユニット5には、車速センサ6から自車速Vが入力され、ハンドル角センサ7からハンドル角θHが入力され、路面摩擦係数推定装置8から推定した路面摩擦係数μが入力され、ブレーキペダルスイッチ9からブレーキペダルのON−OFF信号が入力される。尚、路面摩擦係数推定装置8としては、本出願人が、特開平8−2274号公報で開示した適応制御理論を用いた路面摩擦係数μの推定方法、また、特開2000−71968号公報等で開示するオブザーバを用いた路面摩擦係数μの推定方法、或いは、ステレオ画像認識装置4による撮像画像から走行路面の状況(ドライ路、ウェット路、雪路等)を認識して路面摩擦係数μを推定する推定方法の何れを用いたものであっても良い。
【0015】
そして、走行制御ユニット5は、上述の各入力信号に基づき、後述する衝突防止制御プログラムに従って、自車両1と障害物との衝突可能性を判定し、自車両1と障害物との衝突可能性が高いと判定された場合、障害物との衝突を防止する制動力を予め設定し、自動ブレーキ制御装置10に信号出力して減速度を発生させるが、この際、ドライバの操舵を検出した場合には、発生させる制動力を低下補正するようになっている。このドライバの操舵検出で実行する制動力の低下補正は、自車両1と前方障害物とのラップ率Rrが予め設定した閾値Rrc(例えば50%)を超える場合は、障害物との衝突可能性が高いと判断して禁止される。
【0016】
尚、本発明の実施の形態では、自車両1と障害物との衝突可能性を、例えば、自車両1が障害物に対して衝突するまでの衝突予測時間TTC(Time To Collision:自車両1と障害物との相対距離dを相対速度で除した値)と予め設定しておいた閾値Tcとを比較して判定するようになっており、衝突予測時間TTCが予め設定しておいた閾値Tcより短くなった場合に、自車両1と障害物との衝突可能性が高いと判定される。このように、走行制御ユニット5は、衝突可能性判定手段、衝突防止制御手段、制動力補正手段としての機能を有して構成されている。
【0017】
次に、上述の走行制御ユニット5で実行される衝突防止制御を、図2のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、必要パラメータ、すなわち、障害物情報(車両1と障害物との相対距離d、障害物の移動速度Vf、障害物の減速度af、障害物と自車両1とのラップ率Rr等)、自車速V、ハンドル角θH、路面摩擦係数μ、ブレーキペダルのON−OFF信号を読み込む。
【0018】
次に、S102に進み、ブレーキペダルスイッチ9がONか否か判定され、ブレーキペダルスイッチ9がONの場合は、ドライバが既に制動回避を行っていると判断できるので、S103に進み、走行制御ユニット5が発生する障害物との衝突を防止する制動力FBを0に設定(FB=0)し、S104に進んで、自動ブレーキ発生フラグFlfをクリア(Flf=0)して、プログラムを抜ける。尚、この自動ブレーキ発生フラグFlfは、走行制御ユニット5から自動ブレーキ制御装置10に対し、障害物との衝突を防止する制動力FBの信号が出力されている場合にセット(Flf=1)されるフラグとなっている。
【0019】
一方、上述のS102で、ブレーキペダルスイッチ9がOFFの場合は、S105に進み、衝突予測時間TTCを算出する。
【0020】
そして、衝突予測時間TTCと予め設定しておいた閾値Tcとを比較して、衝突予測時間TTCが予め設定しておいた閾値Tc以上の場合(TTC≧Tcの場合)は、障害物と自車両1とが衝突する可能性が低いと判断して、S103に進み、走行制御ユニット5が発生する障害物との衝突を防止する制動力FBを0に設定(FB=0)し、S104に進んで、自動ブレーキ発生フラグFlfをクリア(Flf=0)して、プログラムを抜ける。
【0021】
逆に、衝突予測時間TTCが予め設定しておいた閾値Tcより短い場合(TTC<Tcの場合)は、障害物と自車両1とが衝突する可能性が高いと判断して、S107に進み、自動ブレーキ発生フラグFlfがクリア(Flf=0)されているか否か判定される。
【0022】
S107の判定の結果、Flf=0の場合は、今回が走行制御ユニット5が障害物との衝突を防止する制動力FBを設定して発生する初期状態と判定してS108に進み、予め実験、計算等によって設定しておいた、例えば、図3に示すような、路面状況(路面摩擦係数μ)に応じた初期付加制動力の特性図を参照して、初期付加制動力FB0を設定し、S109に進んで、走行制御ユニット5が発生する障害物との衝突を防止する制動力FBを初期付加制動力FB0としてS110へと進む。
【0023】
図3に示すように、初期付加制動力FB0は、路面摩擦係数μが高くなるほど大きな値に設定されている。これは路面摩擦係数μが大きな路面ほどタイヤの摩擦円が大きくなり最大グリップ力が高くなるためである。本発明の実施の形態では、このことに鑑み、制動力を発生して衝突防止を図る際、予め実験、計算等により設定した、路面状況に応じた最大グリップ力に近い制動力で減速を図り、精度良く、安定した、信頼性の高い制御ができるようになっている。尚、初期付加制動力FB0は、走行中のデータ(例えば、ABS(Anti-lock Brake System)の作動タイミング等)を解析する事で求め、記憶させるようにして、学習により設定するようにしても良い。
【0024】
一方、S107の判定の結果、Flf=1の場合(既に、走行制御ユニット5が障害物との衝突を防止する制動力FBを発生している場合は、そのままS110にジャンプする。
【0025】
S109、或いは、S107からS110に進むと、ドライバが操舵したか否か、すなわち、ハンドル角の絶対値|θH|が予め設定した閾値(θc:正の値の小さな角度値)を越えている(|θH|>θc)か否か判定され、|θH|>θcであり、ドライバが操舵したと判定できる場合は、S111に進む。
【0026】
そして、ドライバが操舵したと判定してS111に進むと、自車両1と前方障害物とのラップ率Rrが予め設定した閾値Rrc(例えば50%)と比較され、自車両1と前方障害物とのラップ率Rrが予め設定した閾値Rrc以下の場合(Rr≦Rrcの場合)は、障害物との衝突可能性が低いと判断してS112に進み、現在設定されている障害物との衝突を防止する制動力FBを低下補正する(FB=FB−ΔFB:ΔFBは設定値)。
【0027】
そして、S113に進み、設定した障害物との衝突を防止する制動力FBを自動ブレーキ制御装置10に信号出力して減速度を発生させ、S114に進んで、自動ブレーキ発生フラグFlfをセット(Flf=1)して、プログラムを抜ける。
【0028】
また、S110でハンドル角の絶対値|θH|が予め設定した閾値θc以下(|θH|≦θc)であり、ドライバによる操舵が無い場合、或いは、S111で自車両1と前方障害物とのラップ率Rrが予め設定した閾値Rrcを越えており(Rr>Rrc)、障害物との衝突可能性が高い場合は、S112による制動力FBの低下補正は行わず、S113に進み、設定した障害物との衝突を防止する制動力FBを自動ブレーキ制御装置10に信号出力して減速度を発生させ、S114に進んで、自動ブレーキ発生フラグFlfをセット(Flf=1)して、プログラムを抜ける。
【0029】
このように、本発明の実施の形態によれば、走行制御ユニット5は、自車両1と障害物との衝突可能性を判定し、自車両1と障害物との衝突可能性が高いと判定された場合、障害物との衝突を防止する制動力を予め設定し、自動ブレーキ制御装置10に信号出力して減速度を発生させるが、この際、ドライバの操舵を検出した場合には、発生させる制動力を低下補正するようになっている。このため、衝突を回避する際に、ドライバが転舵して障害物との衝突を旋回回避しようとした場合においてもタイヤは十分なコーナリングフォースを発生して、ドライバが意図する十分な旋回により障害物を回避することが可能となっている。また、ドライバが操舵しない場合や、障害物との衝突可能性が高い場合には、障害物との衝突を防止する制動力FBの低下補正は行わないので、走行制御ユニット5が設定する障害物との衝突を防止する制動力FBで十分な制動回避が実現される。更に、走行制御ユニット5が設定する障害物との衝突を防止する制動力FBは、路面状況(路面摩擦係数μ)を考慮して最大グリップ力に近い値が設定されるので確実な制動回避が実現される。このように、本発明の実施の形態によれば、制動のみによる障害物回避も精度良く確実に行うことができ、制動力に加えてドライバが操舵により旋回回避する際においても、ドライバが意図する十分な旋回運動により障害物を回避することができる信頼性の高い衝突防止制御を行うことが可能となる。
【0030】
尚、本実施の形態では、自車両1の前方環境を、ステレオカメラ3からの画像情報を基に認識するようになっているが、他に、単眼カメラからの画像情報を基に認識する車両運転支援装置に対しても適用できることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0031】
1 自車両
2 車両運転支援装置
3 ステレオカメラ(前方障害物情報検出手段)
4 ステレオ画像認識装置(前方障害物情報検出手段)
5 走行制御ユニット(衝突可能性判定手段、衝突防止制御手段、制動力補正手段)
6 車速センサ
7 ハンドル角センサ
8 路面摩擦係数推定装置
9 ブレーキペダルスイッチ
10 自動ブレーキ制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方障害物情報を検出する前方障害物情報検出手段と、
自車両と上記前方障害物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定手段と、
上記自車両と上記前方障害物との衝突可能性が高いと判定された場合、上記前方障害物との衝突を防止する制動力を予め設定して発生させる衝突防止制御手段と、
ドライバの操舵を検出した場合に、上記衝突防止制御手段が発生させる制動力を低下補正する制動力補正手段と、
を備えたことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
上記制動力補正手段は、上記前方障害物との衝突可能性が所定に高い場合は、上記制動力の低下補正を禁止することを特徴とする請求項1記載の車両の運転支援装置。
【請求項3】
上記制動力補正手段は、自車両と上記前方障害物とのラップ率が予め設定した閾値を超える場合に上記障害物との衝突可能性が所定に高いと判断することを特徴とする請求項2記載の車両の運転支援装置。
【請求項4】
上記衝突防止制御手段が設定する上記前方障害物との衝突を防止する制動力は自車両の走行環境に応じて可変設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の車両の運転支援装置。
【請求項5】
上記衝突防止制御手段が設定する上記前方障害物との衝突を防止する制動力は路面摩擦係数が高いと推定される路面の走行時ほど高い値に設定することを特徴とする請求項4記載の車両の運転支援装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−183867(P2012−183867A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46746(P2011−46746)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】