説明

車両の長手方向の移動を制御する方法

本発明は、特に長手方向移動制御システムを用いて、車両(3)の長手方向の移動を制御する方法に関する。閾値速度を超える車速については、前方走行車両(8)が検出されない場合は、車速はより高い選択された設定速度に調整され、前方走行車両(8)が検出された場合は、この前方走行車両(8)からの距離が調整される。車両が閾値速度未満の速度で走行している場合は、前方走行車両(8)が検出された場合にのみ、車両(3)の長手方向の移動が制御される。この結果、車間距離制御システムが、比較的大きい速度範囲に渡って実施され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に長手方向移動制御システムを用いて、車両の長手方向の移動(進行方向の移動)を制御する方法に関する。この方法によれば、閾値速度を超える車速について、前方走行車両が検出されない場合は、車速はより高い選択された設定速度に調整され、前方走行車両が検出された場合は、この前方走行車両からの距離が調整される。
【背景技術】
【0002】
このような方法が、特許文献1に開示されている。
【0003】
現在市場において提供されている車間距離制御システム(ACC: Adaptive Cruise Control)は、限定された速度範囲内でのみ、たとえば30〜180キロメートル/時の範囲内で動作する。公知の車間距離制御システムにおいては、前方走行車両からの距離が十分大きい場合又は前方走行車両がない場合、速度が選択され、車両はこの速度に調整される。前方走行車両からの距離がより短い場合又は別の車両が制御されるべき車両の前方に割り込んできて、距離が安全距離より短くなった場合は、車間距離制御システムは、現在前方を走行している車両からの安全距離に回復するまで、車両に自動的にブレーキをかける。長手方向の移動を制御するこのような方法は、自由目標物選択と呼ばれる。この場合、ACCシステムは、検出されたどの物体が制御されるべき車両に関わりを持つか、またどの物体が関わりを持たないかを自動的に決定する。このコンセプトにより、運転者には非常に高度な快適性が提供される。このコンセプトは、制御されるべき車両の短い側方移動が予想されない高速の場合に特に好適である。このため、ACCシステムは、一般に30キロメートル/時での、オンへの切換閾値を有する。より低い速度については、運転者は、ACCシステムからどのようなサポートも受けない。知られているACCシステムは、制御されるべき車両の速度がオンへの切換閾値未満に低下すると、自動的にオフに切り換わる。このような場合、ACCシステムは、車両の運転を引き継ぐよう音声で運転者に要請する。
【0004】
新しく感知された物体については、運転者の運転機能との関連性が明らかにされなければならない。その物体が、車両制御機能の対象であるかどうかを決定する必要がある。この場合、基本的に2種類の関連物体が区別される。即ち、種類1の物体は、制御されるべき車両の車線の方に横方向の速度で動く隣接車線上の物体であり、したがって、制御されるべき車両に関わりを持つ。種類2の物体は、制御されるべき車両の前方の区域内で静止している又は動いている物体であり、この物体は、経路によっては衝突する進路上にある。
【0005】
短距離の区域内においては、しばしば、新しい物体が検出された時間とそれに反応(回避運転、制動)する時間との間には、通常距離が短いために、殆ど時間がない。したがって、往々にして、新しく感知された物体が関わりを持つかどうかを確実な方法で決定することができない。このため、現在のところ、とりわけ低速において短距離区域内で運転者に提供されるサポートがない。
【0006】
さらに、前方走行車両を感知するために現在使用されているビームセンサは、大きい距離で非常に小さい角度の開口を有する。したがって、周囲の非常に狭い部分のみを感知する。特に、車両の直近の短距離区域内においては、車両の運転に関わりを持つ周囲を観察することが十分でない。たとえば、割り込もうとしている車両を良いタイミングで感知することができない。
【0007】
特許文献1では、特定の最小速度(v1)から開始した車両の速度を調整するだけでなく、車両が静止状態となるまで、予め定義された制限速度(v2)未満の前記速度を調整する、速度制御装置について開示している。この速度制御装置を用いると、追加の「ストップアンドゴー装置」により、都市交通において非常に頻繁に発生する低速においても、静止状態から第2の制限速度(v2)までの速度範囲で調整することもできる。このストップアンドゴーモードは、運転者がシステムをオフに切り換えずに、自分自身で前方走行車両からの距離及び自分の走行速度を調整する場合に、第2の速度(v2)未満において効果的である。車両がv1とv2との間の速度範囲内で走行しており、特にv1がv2より小さい場合は、運転者は、比較的高速での運転モードとストップアンドゴーモードとの間で選択できる。しかし、速度制御装置に決定をまかせることもできる。2つの状態の間には滑らかな移行段階があり、運転者は、現在の状況が常に通知されるので、状態変更の時間を自分自身で判断することができる。したがって、知られている速度制御装置においては、運転者が行動を起す必要がある。しかし、人間との相互作用が発生する場合はいつでも、誤った制御が起こる可能性を排除することはできない。
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第19958520A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、自動速度設定を有する車両において、運転の快適性及び運転の安全性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、本発明に従って、閾値速度未満においては、前方走行車両が検出された場合にのみ、車両の長手方向の移動が制御される、冒頭で説明した種類の方法により達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この方法により、運転者は、低速においても、たとえばストップアンドゴーモードにおいて又はのろのろの交通事情においても、長手方向の調整(前方のヒトからの距離の維持)中のサポートを受けることができる。この場合、ACCシステムの機能が拡張されるが、他の運転モードは使用されない。つまり、ACCシステムは、前方走行車両があるという条件において、閾値速度未満でも活動状態となる。運転者は、サポートされる全速度範囲、たとえば0〜200キロメートル/時内において、コンセプトを変更せずにシステムから連続的にサポートを受ける。運転者は、1つの運転モードから別の運転モードへの切り換えを承認する又は起動する必要がない。運転者は、運転モードの切り換えにいらいらすることがない。既存システムが、本発明による方法によって拡張され得るので、運転制御及び表示機能又は警告コンセプトの切り換えもない。閾値速度は、車両の運転者によって予め定義されるか、又は工場で設定され得る。閾値速度はまた、30キロメートル/時に設定されることが好ましい。本方法が作動された場合には、閾値速度に対応する又はこれを超える設定速度が、運転者によって選択される。システムは、いつでも閾値速度を超えて作動され得るが、閾値速度を超えると、長手方向の移動制御は、自由目標物選択のコンセプトに従って行われる。制御されるべき車両の前方に何もない場合、即ち前方走行車両がない場合、該車両は案内車両とも呼ばれ、運転者の車両の速度は、設定速度に調整される。したがって、本方法が作動された場合には、前方走行車両が閾値速度未満の速度で走行すると、車両は、閾値速度よりゆっくりと走行する。同時に、閾値速度未満の長手方向の移動制御は、案内車両からの距離を調整することによって行われる。閾値速度未満の車速においては、案内車両がない場合、速度は調整されない。
【0012】
したがって、閾値速度未満においては、案内車両がある場合にのみ、車間距離制御システムは作動され得る。これはつまり、低速においては多数の物体が、とりわけ前方走行車両がない場合には種類2の物体がまた関わりを持ち得るということである。これらの物体がまた閾値速度未満の低い車速において考慮されるならば、調整は自由目標物選択のコンセプトに従って行われなければならない。しかし、これは、閾値速度を超える車速においてのみで行われる。このため、本発明は、閾値速度未満の車両制御用の案内車両があることを想定しており、したがって、割り込もうとしている車両がある場合には、種類1の車両及び前方走行車両のみが、新しい物体として関わりを持ち得る。したがって、運転者は、言わば、常に自由目標物選択のコンセプトを経験する。
【0013】
閾値速度未満の長手方向の移動の制御は、追跡機能のコンセプトに従ってのみ行われることが好ましい。つまり、長手方向の自動制御は、関わりを持つとして検出された物体としての、確実に追跡される前方走行車両についてのみのサポートである。したがって、前方走行車両と制御されるべき車両との間に割り込もうとしている車両、又は車線から外れようとしている車両の前方走行車両のみが、目標物の変更のために考慮される。追跡される物体については、運転者がはっきりと確認する必要がない。閾値速度を超える自由目標物選択のコンセプトから閾値速度を超える追跡走行のコンセプトへの切り換え、及びその逆が、運転者がこれに気づくことなく自動的に行われる。
【0014】
センサ信号から「追跡走行」機能にとって重要な物体をふるいわける、物体検出手段が設けられる。検出論理には、走行速度及び距離、多くの測定による測定信号の検証、感知された物体の信頼性確認、及び検出された物体が所定の時間に渡って追跡される、物体の追跡に応じて、データをふるいわけることが含まれる。
【0015】
車両の運転者には、長手方向移動制御システムが、予め定義された速度未満で活動状態でない及び/又は作動され得ない場合に、信号、特に聴覚及び/又は視覚信号が提供されることが好ましい。この場合、長手方向移動制御システムは、オフに切り換えられる。このことは、運転者に表示される。
【0016】
一変形方法においては、車両が静止状態となった後、前方走行車両に自動的に追従できるようにするよう、運転者が要請されることが実現され得る。つまり、車両は、静止状態となった後に自動的に発進しない。運転者が、たとえば自動速度制御装置レバーを引っ張る(メモリを作動させる)ことにより又はアクセルペダルを押すことにより、承認(確認)するまでは、案内車両の自動追従が行われない。代替形態として、運転者は、手動で車を出発させ、その後システムをオンにすることも考えられる。つまり、運転者は、本方法又は長手方向移動制御システムをオンにしなければならないが、目標物を確認する必要はない。
【0017】
車両自体の速度が低下するにつれて最大減速能力が増加する変形方法が、特に好ましい。つまり、特に運転者がのろのろの交通事情において前方走行車両から短い距離で走行している場合は、前方走行車両が減速又は停止すると、素早い車両の減速が可能となる。このような対策により、追突が回避され得る。特に、減速能力を瞬時速度に応じて徐々に変更することができる。代替形態として、たとえば、予め定義された速度より低速での4m/s及び比較的高速での約2m/sの減速能力が、流動的な移行で実現され得る。
【0018】
車両の周囲は、前方の区域内で感知される、特に隙間なく感知されることが好ましい。この対策によれば、短距離区域用の追加センサシステムにより、特に低速において、割り込もうとしている車両の検出を向上することが可能となる。この対策によれば、特に、車両が低速において及び短い車間距離で走行することが可能となる。
【0019】
本方法のさらなる発展形態においては、3車線を感知する手段が講じられる。この対策によれば、3車線の道路上での交通渋滞中に又はのろのろの交通事情において走行している場合にも、長手方向移動制御システムが、容易に機能することが確実となり、左側の車線から及び右側の車線から割り込もうとしている車両が感知され得る。
【0020】
本発明はまた、車両の長手方向の移動を制御するための制御ユニットと前方走行車両用の検出装置とを備えた、車両の長手方向移動制御システム、特に車間距離制御システムに関し、このシステムは、前方走行車両が検出された場合に、閾値未満で活動状態となる及び/又は作動され得る。閾値速度を超えて、前方に何もなく車両が走行している場合、つまり前方走行車両がない場合には、車両の速度は設定速度に調整される。長手方向移動制御システムが閾値速度を超えてオンとなっている場合に、設定速度より遅い前方走行車両がある場合、前方走行車両からの距離が調整される。運転者の車両が比較的遅い車両に近づいている場合、又は制御されるべき車両の前方に割り込もうとしている車両がある場合には、速度が減少され、前方走行車両からの距離は、速度に依存する安全距離に調整される。前方走行車両が閾値速度未満の速度まで遅くなった場合は、維持されるべき安全距離のために、制御されるべき車両も遅くなる。前方走行車両がわき道に逸れて、案内車両がいなくなった場合は、車両が閾値速度を超える速度に到達する、又は検出装置により案内車両が再び検出されるまで、長手方向移動制御システムが作動停止され、システムは運転者により再び作動され得る。
【0021】
本発明の一実施形態においては、検出装置は、車両の前方の短距離区域を隙間なく感知するためのセンサを備える。したがって、車両の移動方向において前方の区域内の車両の周囲を隙間なく感知するために、先行技術によるACCシステムにおいて既に考慮されている物体だけでなく、少なくとも短距離区域(たとえば30メートルまで)内においても、その車両の車線及び2つの隣接車線内の追加物体も検出し、それらの移動行動を記述することができる。長手方向の移動の制御のための関連物体は、これから、たとえばセンサデータを統合することによって判断される。
【0022】
1つの好ましい実施形態においては、分散された複数のビームセンサが設けられる。これによれば、車両の前方の区域内で3車線を感知することが可能となる。特に、2つの24GHzレーダ短距離センサ及び77GHzレーダ長距離センサを設け、バンパーにこれらを取り付けることができる。車両の周囲の画像がセンサデータから生成され(合成され)、システムがこれに反応し得る。代替形態として、大きい角度の開口を有する高解像度センサが、たとえば40°以上の走査範囲を有する走査赤外線センサとして、使用され具現化され得る。さらに、立体画像処理システムが使用され得る。
【0023】
図面を参照しながら、本発明の例示的実施形態についてより詳細に説明する。
【0024】
図1は、移動方向1における3車線の道路2を示す平面図である。長手方向移動制御システムが使用される車両3の前方の区域内において、車両7〜9が、それぞれの車線4〜6上に置かれている。予め定義された閾値速度を超える速度範囲内において、長手方向移動制御システムは、自由目標物選択のコンセプトに従って動作する。システムは、距離が安全距離より短くなると、車両8からの距離を調整する。案内車両8がない場合は、車両3の速度は、閾値速度を超える設定速度に調整される。長手方向移動制御システムが作動されている場合に、運転者自身の車線5上に前方走行車両8がない場合、車両8が車両3のセンサの捕捉範囲内に現れるか又は車両が運転者自身の車線3に変更し感知されるまで、速度は設定速度に調整される。次いで、車間距離制御プロセスが行われる。長手方向移動制御システムが設定速度を超えて作動されている場合に、前方走行車両8がある場合、距離は直ちに調整される。自由目標物選択のコンセプトにおいては、車線5に変更した場合の物体10及び車両7、9などの、種類1の物体、及び種類2の物体(車両8)が、考慮される。
【0025】
閾値速度未満の速度範囲内においては、長手方向移動制御システムは、前方走行車両8が検出された場合にのみ活動状態となる。次いで、長手方向移動制御システムは、追跡走行のコンセプトに従って動作し、車両10などの種類1の物体を、及び車両8が車線から外れようとする場合に運転者自身の車線上の車両の前方走行車両8を考慮する。車両10は、車両3の短距離区域内にあり、隣接車線6上で感知される。まず、長手方向移動制御システムは、短い距離にある前方走行車両8に従って位置を測定する。車両10が車線5に動くと直ぐに、異なる案内車両が利用可能となるので、車両10を用いて位置の測定が行われる。長手方向移動制御システムは車両10を観察するので、割り込もうとしている車両10に素早く反応し、車両3の減速を起動し得る。運転制御コンセプトは均一に構成されているので、運転者は、自由目標物選択と追跡走行との間のコンセプトの変更に全く気づくことはない。前方走行車両8がない場合は、長手方向移動制御システムは、閾値速度未満では作動され得ない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に長手方向移動制御システムを用いて、車両(3)の長手方向の移動を制御する方法であり、
閾値速度を超える車速については、前方走行車両(8)が検出されない場合は、前記車速がより高い選択された設定速度に調整され、前方走行車両(8)が検出された場合は、該前方走行車両(8)からの距離が調整される方法であって、
前記閾値速度未満においては、前方走行車両(8)が検出された場合にのみ、前記車両(3)の長手方向の移動が制御されることを特徴とする方法。
【請求項2】
一様な運転制御コンセプトが、全速度範囲に渡って長手方向の移動を制御するのに使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記閾値速度未満の制御が、前記前方走行車両(8)からの距離を調整することによって行われることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の方法。
【請求項4】
前記閾値速度未満の長手方向の移動の制御が、追跡機能のコンセプトに従って行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記長手方向移動制御システムが、前記閾値速度未満で活動状態でない及び/又は作動され得ない場合は、前記車両の運転者に、信号、特に聴覚及び/又は視覚信号が提供されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記車両(3)が静止状態となった後に、前記運転者が、案内車両(8)の自動追従を可能にするよう要請されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記車両自体の速度が低下するにつれて、最大減速能力が増加することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記車両(3)の周囲が、前方の区域内で、特に隙間なく感知されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
3車線(4,5,6)が感知されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
特に請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法を行うための、車両(3)の長手方向移動制御システムであり、
前記車両(3)の長手方向の移動を制御するための制御ユニットと、前方走行車両(8)用の検出装置とを備えるシステムであって、
前方走行車両(8)が検出された場合にのみ、前記システムが、閾値速度未満で活動状態となる及び/又は作動され得ることを特徴とするシステム。
【請求項11】
前記検出装置が、前記車両(3)の前方の短距離区域を隙間なく感知するためのセンサを有することを特徴とする請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
分散された複数のビームセンサが設けられることを特徴とする請求項11に記載のシステム。

【図1】
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【公表番号】特表2007−512171(P2007−512171A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540245(P2006−540245)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012651
【国際公開番号】WO2005/049362
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(598051819)ダイムラークライスラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【Fターム(参考)】