説明

車両の駆動制御装置

【課題】遠心式の発進クラッチを備えた構成でクリープ機能を持たせることができる車両の駆動制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン34を制御する制御ユニット26が、電子スロットル部23により吸気絞り弁21の開度を制御して、発進クラッチ40の引きずりトルクを発生させるエンジン回転数であるクリープ力発生回転数に保持するクリープ制御を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心式の発進クラッチを備える車両の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、湿式多板タイプの発進クラッチを備え、発進時にクリープ制御する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。この車両では、クリープ力を制御するために発進クラッチを締結する油圧を可変制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−298263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の発進、停止などの操作性向上のため、小型二輪車やATV(不整地走行車両)等の鞍乗り型車両では遠心式の発進クラッチを採用している機種がある。特にATV等は、作業性向上のためにクリープ機能を持たせたい場合が考えられる。
しかしながら、従来のクリープ機能は、発進クラッチを油圧制御する構成が必要であり、遠心式の発進クラッチを採用する車両には適用することが困難である。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、遠心式の発進クラッチを備えた構成でクリープ機能を持たせることができる車両の駆動制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明は、エンジン(34)と変速機(42)との間に設けられる発進クラッチ(40)と、エンジン(34)の吸気通路(34K)に設けられた吸気絞り弁(21)を開閉する電子スロットル部(23)と、前記エンジン(34)を制御するエンジン制御部(26)とを備える車両の駆動制御装置において、前記発進クラッチ(40)は、所定回転数以上でエンジン動力を変速機(42)に伝達する遠心式であり、前記エンジン制御部(26)は、前記電子スロットル部(23)により前記吸気絞り弁(21)の開度を制御して、前記発進クラッチ(40)の引きずりトルクを発生させるエンジン回転数(NB)に保持することを特徴とする。この構成によれば、遠心式の発進クラッチの引きずりトルクを発生させるエンジン回転数に保持するので、遠心式の発進クラッチを備えた構成でクリープ機能を持たせることができる。
【0006】
上記構成において、前記エンジン制御部(26)は、エンジン回転数を、停止状態から走行開始可能な設定回転数(NC)まで上昇させ、その後に回転数を下げて前記発進クラッチ(40)の引きずりトルクを発生させるクリープ力発生回転数(NB)に制御するようにしても良い。この構成によれば、確実に発進させた後に効率良くクリープ走行させることができる。
また、上記構成において、前記車両の車速を検知する車速検知部(120)を有し、前記エンジン制御部(26)は、前記車速に応じたスロットル制御を行うようにしても良い。この構成によれば、簡易な制御によってクリープ走行することができる。
【0007】
また、上記構成において、クリープ走行を指示する指示部(29)を備え、前記クリープ走行が指示された場合に、前記エンジン制御部(26)は、前記電子スロットル部(23)によって前記エンジン回転数(NB)に制御するようにしても良い。この構成によれば、ユーザーの指示に応じてクリープ走行することができる。
また、上記構成において、前記エンジン回転数(NB)に保持する使用制限を設定し、この使用制限を超える場合に、その旨を外部に報知する報知部(140)を備えるようにしても良い。この構成によれば、発進クラッチを保護することができる。
【0008】
また、上記構成において、前記エンジン制御部(26)は、前記発進クラッチ(40)の滑り量に関する情報(NCR,TL)を取得し、この情報(NCR,TL)に基づいて前記発進クラッチ(40)の滑り量が許容範囲内か否かを判定し、許容範囲内でない場合にエンジン回転数を下げるようにしても良い。この構成によれば、発進クラッチの滑りを抑えることができ、発進クラッチを保護することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、エンジンと変速機との間に設けられる発進クラッチは、所定回転数以上でエンジン動力を変速機に伝達する遠心式であり、エンジン制御部は、電子スロットル部により吸気絞り弁の開度を制御して、発進クラッチの引きずりトルクを発生させるエンジン回転数に保持するので、遠心式の発進クラッチを備えた構成でクリープ機能を持たせることができる。
また、エンジン制御部は、エンジン回転数を、停止状態から走行開始可能な設定回転数まで上昇させ、その後に回転数を下げて発進クラッチの引きずりトルクを発生させるクリープ力発生回転数に制御するので、確実に発進させた後に効率良くクリープ走行させることができる。
また、車両の車速を検知する車速検知部を有し、車速に応じたスロットル制御を行うようにしても良い。この構成によれば、簡易な制御によってクリープ走行することができる。
【0010】
また、クリープ走行を指示する指示部を備え、クリープ走行が指示された場合に、エンジン制御部は、電子スロットル部によって上記エンジン回転数に制御するので、ユーザーの指示に応じてクリープ走行することができる。
また、エンジン回転数に保持する使用制限を設定し、この使用制限を超える場合に、その旨を外部に報知する報知部を備えるので、発進クラッチを保護することができる。
また、エンジン制御部は、発進クラッチの滑り量に関する情報を取得し、この情報に基づいて発進クラッチの滑り量が許容範囲内か否かを判定し、許容範囲内でない場合にエンジン回転数を下げるので、発進クラッチの滑りを抑えることができ、発進クラッチを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態を適用した自動二輪車を示す図である。
【図2】パワーユニットの断面図である。
【図3】シフトスピンドルを周辺構成と共に示す図である。
【図4】自動二輪車の制御システムを示す図である。
【図5】エンジン回転数NEとクラッチ伝達容量との関係を模式的に示す図である。
【図6】クリープ制御時のスロットル制御を示す図である。
【図7】クリープ走行モード時の制御を示すフローチャートである。
【図8】第2実施形態のクリープ制御を示す図である。
【図9】変形例に係る制御システムを示す図である。
【図10】変形例に係るクラッチ滑り監視処理を示すフローチャートである。
【図11】変形例に係るクラッチ滑り監視処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態を適用した自動二輪車を示している。
この自動二輪車10は、ヘッドパイプ13に回転自在に軸支されたハンドル14と、該ハンドル14により操舵される前輪16と、駆動輪である後輪18と、運転者が搭乗するシート20と、後輪18にチェーン19を介して駆動力を供給するパワーユニット24と、パワーユニット24の制御を行う制御ユニット(エンジン制御部(エンジンコントロールユニット(ECU))とも言う)26と、制御ユニット26を含む各部に電力を供給するバッテリー28と、車体を覆うカバー30とを有している。
パワーユニット24が具備するエンジン34の吸気通路34Kには、吸気絞り弁(スロットルバルブとも称する)21を有するスロットルボディ22が設けられる。スロットルボディ22には、吸気絞り弁21を電動で開閉駆動する電子スロットル部23及び燃料噴射装置(不図示)が設けられ、電子スロットル部23及び燃料噴射装置は制御ユニット26によって制御される。
【0013】
また、この自動二輪車10には、ユーザー(運転者)が右手で操作するスロットルグリップ(スロットル操作子)の開度を検出するスロットルグリップ開度検出部27と、ユーザーがクリープ走行モードを指示する操作スイッチ(指示部)29とが設けられ、これらの出力が制御ユニット26に入力される。
制御ユニット26は、操作スイッチ29がオフ、つまり、通常スロットルモードが指示されている場合には、予め記憶されたスロットル制御用基準マップデータに基づき、電子スロットル部23の吸気絞り弁21の開度を、スロットルグリップのスロットルグリップ開度に応じた開度に制御すると共に、エンジン吸気量等に基づいて燃料噴射量を制御する。この制御によって、ユーザー(運転者)はスロットル操作にリニアなエンジン出力を得ることができる。なお、この制御には、公知のスロットル制御を広く適用可能である。
【0014】
また、自動二輪車10の左側でパワーユニット24の近傍には、ステップ32及びシーソー形式のシフトペダル33が設けられている。この自動二輪車10の変速方式はいわゆる4速ロータリー式であって、シフトペダル33の前部を踏み込む毎にシフトポジション値がニュートラル→1→2→3→4とシフトアップされ、逆にシフトペダル33の後部を踏み込む毎に4→3→2→1→ニュートラルとシフトダウンされる。なお、この4速ロータリー式では、変速時のクラッチ操作がシフトペダル33の操作によりシーケンス的、且つ自動的に行われ、クラッチレバー等は省略されている。
【0015】
次に、パワーユニット24の構成について説明する。
図2はパワーユニット24の断面図であり、左右方向が車幅方向、上方向が車両前方、下方向が車両後方に相当する。パワーユニット24は、走行駆動力を発生するエンジン34及び交流発電機36と、エンジン34のクランク軸(駆動軸)38に設けられた発進クラッチ40と、該発進クラッチ40を介してクランク軸38の回転を有段変速する変速機42と、発進クラッチ40と変速機42との間に設けられた変速クラッチ44とを有する。パワーユニット24は、シリンダヘッド46a、シリンダ46b及びクランクケース46cが一体的に結合されて外延部を構成している。クランク軸38は複数のベアリング48a、48b、48cによって回転自在に軸支されている。
エンジン34は、クランク軸38に連結されたコンロッド50と、コンロッド50の先端に設けられ、シリンダ46b内を往復運動するピストン52と、シリンダ46b内端部の燃焼室34aに火花を供給する点火プラグ54と、不図示の吸排気バルブを開閉動作させて燃焼室34aに対する吸排気を行うカム機構56とを有する。カム機構56はクランク軸38からタイミングチェーン56aを介して駆動される。
【0016】
交流発電機36は、エンジン動力で発電し、この発電電力によってバッテリー28が充電される。この交流発電機36は、クランク軸38の左端部に配置されており、クランクケース46cに設けられてクランク軸38と同軸状に構成されたステータ58と、クランク軸38の端部に固定されてステータ58を覆うように設けられたアウターロータ60とを有する。ステータ58には環状配置された複数のコイル61が設けられている。アウターロータ60にはコイル61に対して狭い隙間を形成するように配置された複数のマグネット62が固定されている。
【0017】
発進クラッチ40は、発進時、停止時にクランク軸38とプライマリギア67との間を接続、遮断(以下、断接ともいう。)するものであり、クランク軸38の右端部に配置されている。この発進クラッチ40は、クランク軸38上でクランク軸38と一体に回転するインナープレート66と、クランク軸38上で相対回転自在に設けられるカップ形状のアウタープレート68と、インナープレート66の回転による遠心力によってインナープレート66とアウタープレート68とを接続するクラッチシュー70とを有する遠心式メカ発進クラッチである。
クラッチシュー70は、インナープレート66の外端部にピン部材72を介して遠心方向に回動自在に取り付けられており、クラッチスプリング74によって遠心方向と反対側(半径方向内側)に付勢されている。
【0018】
このため、インナープレート66と一体に回転するクランク軸38が回転停止、或いは、アイドリング回転数N0(例えば、1500rpm前後の回転数)等の極低回転数で回転している場合には、クラッチシュー70とアウタープレート68とが離間しており、クランク軸38と変速機軸51との間が切断状態(動力が伝達されない切り離し状態)となる。なお、クランク軸38の回転数は、エンジン回転数NEと一致する。
この遮断状態からエンジン回転数NEが上昇し、発進回転数NS(アイドリング回転数N0以上の回転数であり、例えば、2500rpm〜3000rpm内の回転数)以上になると、遠心力によりクラッチシュー70がアウタープレート68に押圧され、クランク軸38と変速機軸51との間が接続状態(動力が伝達される動力伝達状態(締結状態とも言う))となる。これにより、エンジン回転数NEが発進回転数NSを超えると、クランク軸38と変速機軸51とが一体に回転する。
【0019】
変速クラッチ44は、プライマリギア67とメイン軸76とを断接するものであり、メイン軸76の右端部に配置されている。この変速クラッチ44は、プライマリギア67に噛合するカップ形状のアウターハウジング(アウタークラッチとも言う)78と、アウターハウジング78の内側に設けられたボス(インナークラッチとも言う)80と、アウターハウジング78とボス80との間に交互に積層状に設けられた複数のフリクションディスク82及びクラッチディスク84と、プレッシャープレート86と、プレッシャープレート86をボス80に密着させるように弾性付勢するクラッチスプリング88と、深溝玉型のベアリング90を介してボス80を軸方向に押圧操作するクラッチ操作機構92とを有する。クラッチ操作機構92はシフトペダル33の操作に連動して動作する連動部材である。
【0020】
複数のフリクションディスク82及びクラッチディスク84は、軸方向の一方がプレッシャープレート86に対面しており、他方がボス80の一部であるサポート面80aと対面している。クラッチ操作機構92がシフトペダル33によって操作されていないときには、フリクションディスク82及びクラッチディスク84はプレッシャープレート86とサポート面80aにより強く挟持されており、プライマリギア67から入力されたトルクはボス80に伝達され、さらにボス80のスプライン構成よってメイン軸76に伝達され、接続状態となる。ボス80がクラッチ操作機構92によって押圧されるとき、ボス80はクラッチスプリング88を圧縮しながら軸方向に移動し、フリクションディスク82及びクラッチディスク84から離間する。従って、プライマリギア67のトルクはメイン軸76に伝達されず、遮断状態となる。
【0021】
変速機42は、変速クラッチ44から供給される回転を、シフトペダル33の操作に基づいて有段変速して後輪18に伝達する。この変速機42は、入力軸としてのメイン軸76と、メイン軸76に対して平行配置されたカウンタ軸100と、メイン軸76に設けられた駆動ギア102a、102b、102c及び102dと、カウンタ軸100に設けられた従動ギア104a、104b、104c及び104dと、駆動ギア102aに係合するシフトフォーク106aと、従動ギア104cに係合するシフトフォーク106bと、シフトフォーク106a、106bを軸方向にライド自在に保持する支持軸108と、シフトフォーク106a、106bの端部を溝110a、110bに沿わせながらスライドさせるシフトドラム112とを有する。
駆動ギア102a、102b、102c及び102dは、この順に従動ギア104a、104b、104c及び104dと噛合している。駆動ギア102bは左右にスライドしたとき、隣接する駆動ギア102a又は102cに側面のダボが係合し、従動ギア104cは左右にスライドしたとき、隣接する従動ギア104b又は104dに側面のダボが係合する。
【0022】
駆動ギア102a及び102cはメイン軸76に対して回転自在に保持され、従動ギア104b、104dはカウンタ軸100に対して回転自在に保持されている。駆動ギア102b及び従動ギア104cはメイン軸76及びカウンタ軸100に対してスプライン結合され軸方向にスライド可能である。駆動ギア102d及び従動ギア104aはメイン軸76及びカウンタ軸100に固定されている。
【0023】
シフトドラム112の端部には回転機構122が設けられており、回転機構122によってシフトペダル33の操作がシフトスピンドル124(図3参照)を介してシフトドラム112を回転駆動する。これにより、シフトフォーク106a、106bは溝110a、110bに沿って軸方向に移動し、駆動ギア102b及び従動ギア104cを変速段に応じてスライドさせる。
駆動ギア102bが左方向にスライドしたとき、メイン軸76のトルクは駆動ギア102b、102a及び従動ギア104aを介してカウンタ軸100に伝達される。駆動ギア102bが中立位置で従動ギア104cが左方向にスライドしたときには、メイン軸76のトルクは駆動ギア102b、従動ギア104b及び従動ギア104cを介してカウンタ軸100に伝達される。従動ギア104cが中立位置で駆動ギア102bが右方向にスライドしたときには、メイン軸76のトルクは駆動ギア102b、102c及び従動ギア104cを介してカウンタ軸100に伝達される。駆動ギア102bが中立位置で従動ギア104cが右方向に移動したときには、メイン軸76のトルクは駆動ギア102d、従動ギア104d及び従動ギア104cを介してカウンタ軸100に伝達される。このようにして、メイン軸76の回転は4段階に変速されてカウンタ軸100に伝達され、又はニュートラル状態となる。
【0024】
メイン軸76及びカウンタ軸100は、ベアリング114a、114b、116a、116bによって回転自在に保持されている。カウンタ軸100の端部にはスプロケット118が設けられ、該スプロケット118はチェーン19を介して後輪18に回転を伝達する。
また、カウンタ軸100の近傍には、非接触でカウンタ軸100の回転速度を検出する車速センサ(車速検知部)120が設けられており、検出した回転速度を制御ユニット26に出力している。車速センサ120が検出するカウンタ軸100の回転速度は車速Vを示すことになる。
【0025】
図3に示すように、シフトペダル33は、シフトスピンドル124の一端に設けられている。シフトスピンドル124の他端にはシフトスピンドル角度センサ130が設けられており、シフトスピンドル124の回転角度であるシフトスピンドル角度を検出可能である。また、シフトスピンドル124には、シフトペダル33を中立位置に弾性的に保持するトーションスプリング132と、前記の回転機構122に接続されるレバー134と、前記のクラッチ操作機構92を駆動する操作指示機構部136とが設けられている。運転者が左足でシフトペダル33を操作する場合、先ず、所定の小さい角度だけ一方向に回動したときに操作指示機構部136がクラッチ操作機構92を駆動し、変速クラッチ44を遮断する。シフトペダル33がさらに一方向に回動したときにレバー134が回転機構122をシフトアップ(シフトペダル33の後方の踏み込み)又はシフトダウン(シフトペダル33の前方の踏み込み)に応じた方向に駆動し、シフトドラム112が回動して変速がなされる。変速クラッチ44の遮断と、シフトドラム112の回動による変速とが、シフトペダル33の一方向に向かう一の操作によりなされる。
【0026】
この後、トーションスプリング132の作用下にシフトペダル33が中立位置に復帰(これが他の操作となる。)したときには、操作指示機構部136及びクラッチ操作機構92の動作が解除され、変速クラッチ44は接続状態に復帰し、一連の変速処理が終了する。シフトスピンドル124によればクラッチ操作と変速操作を1つの動作で行うことができる。シフトスピンドル角度センサ130はシフトスピンドル124の角度から、変速の検知手段と、変速クラッチ44の断接の検知手段として共通に用いられる。
【0027】
図4は、本自動二輪車10の制御システムを示している。図4に示すように、このエンジン34には、クランク軸38の回転数、つまり、エンジン回転数NEを検出する回転センサ200が取り付けられると共に、シフトドラム112の回転角度(シフトドラム角度)を検出するシフトドラム角度センサ201が取り付けられており、これらセンサ200,201は上記制御ユニット26に接続されている。また、上述したシフトスピンドル角度センサ130と、車速Vを検出する車速センサ120と、スロットルグリップ開度を検出するスロットルグリップ開度検出部27と、クリープ走行を指示する操作スイッチ29についても制御ユニット26に接続されている。そして、これらの検出結果に基づいて、制御ユニット26は、電子スロットル部23の制御(スロットル制御)、点火プラグ54の制御(点火制御)、燃料噴射量の制御及び変速機42の制御(変速制御)を行うようになっている。
【0028】
ところで、遠心式の発進クラッチ40を備える本自動二輪車10では、ユーザーがスロットルを開けてエンジン回転数NEを上げれば、発進クラッチ40がクランク軸38と変速機軸51との間を接続し、その後、ユーザーがスロットルを戻してエンジン回転数NEを下げれば、発進クラッチ40がクランク軸38と変速機軸51との間を切断するので、スロットル操作だけで発進、停止を容易かつスムーズに行うことができ、操作性に優れる。また、スロットルを戻した状態ではクランク軸38と変速機軸51との間が完全に切断されるので、燃費向上にも有利である。
ところが、この種の自動二輪車10においてもクリープ機能が望まれる場合が考えられる。例えば、不整地や雪道等の低摩擦の路面、或いは坂道を走行する場合、また、微速走行したい場合に、クリープ機能があれば便利である。
そこで、本実施形態では、クリープ走行モードを指示する操作スイッチ29がオンにされると、制御ユニット26が、電子スロットル部23によって発進クラッチの引きずりトルクを発生させるエンジン回転数に保持するクリープ制御を行うようにしている。
【0029】
ここで、図5はエンジン回転数NE(クラッチ回転数と一致)とクラッチ伝達容量との関係を模式的に示す図である。なお、この図5は、発進回転数NSよりも低い回転領域を示している。
図5中、符号NAで示すクラッチIN回転数は、発進クラッチ40が締結し始めるエンジン回転数NEであり、具体的には、エンジン回転数NEを徐々に上げた場合にクラッチシュー70とアウタープレート68とが接触し始める回転数である。つまり、このクラッチIN回転数よりも低いエンジン回転数NEでは、発進クラッチ40が切断状態(非締結状態)であり、このクラッチIN回転数NAよりも高いエンジン回転数NE、且つ、発進回転数NS未満では、発進クラッチ40が半クラッチ状態となる。
発進クラッチ40が半クラッチ状態では、発進クラッチ40の入力側(クランク軸38)と出力側(変速機軸51)とで滑りが発生するものの、発進クラッチ40のクラッチシュー70とアウタープレート68とが接触しているため、引きずりトルクが発生し、この引きずりトルクによりクラッチ伝達容量が確保される。
【0030】
本実施形態では、発進クラッチ40の引きずりトルクによって得られるクラッチ伝達容量が、所定速度(本構成では時速2km)のクリープ走行を可能にするクリープ力となるエンジン回転数NE(以下、クリープ力発生回転数NBと言う)を予め実験或いはシミュレーションによって求めておき、このクリープ力発生回転数NB及びクリープ速度VC(上記の時速2km)等の情報を、制御ユニット26のメモリ(不図示)に予め記憶している。
【0031】
次に、制御ユニット26のクリープ制御について説明する。
図6は、この場合のスロットル制御を示す図であり、図6中、縦軸がエンジン回転数NEを示し、横軸が時間tを示しており、符号f1で示す実線がクリープ制御時の特性曲線を示している。また、符号f2で示す一点鎖線は、通常スロットルモード(スロットル操作にリニアなエンジン出力を得る制御)の一例を示している。なお、前提として、自動二輪車10が停止状態であり、かつ、変速機42が1速段(ロー段)のときに操作スイッチ29がオンにされるものとする。
図6に示すように、時間t1で操作スイッチ29がオンにされると、制御ユニット26は、電子スロットル部23により吸気絞り弁21を開けて、エンジン回転数NEを、アイドリング回転数N0から、上記クリープ力発生回転数NBよりも高い設定回転数NCまで上昇させ、所定期間経過したタイミング(時間t2)で、エンジン回転数NEをクリープ力発生回転数NBに制御し、その状態を保持する。
【0032】
ここで、停止状態からの走り始めは大きな慣性抵抗があるため、上記設定回転数NCは、この慣性抵抗に対向し得る車両駆動力及びクラッチ伝達容量を得る回転数、つまり、停止状態から走行開始可能な回転数に設定されている。この設定回転数NCは、少なくともクリープ力発生回転数NBよりも高く、発進回転数NSと同一或いはその前後の回転数範囲とされる。
この設定回転数NCの情報は、制御ユニット26のメモリ(不図示)に予め記憶され、制御ユニット26がこの設定回転数NCの情報を参照し、回転センサ200によって検出されるエンジン回転数NEが設定回転数NCになるようにフィードバック制御する。これによって、エンジン回転数NEが設定回転数NCに迅速かつ高精度に制御される。
図6に示す時間t1,t2間は、自動二輪車10が走行開始する期間(走行開始期間)TAであり、この走行開始期間TA内に自動二輪車10を走行開始、つまり、発進させることができる。そして、時間t2以降、制御ユニット26は、回転センサ200によって検出されるエンジン回転数NEをクリープ力発生回転数NBになるようにフィードバック制御することにより、クリープ力発生回転数NBに高精度で一定保持される。
【0033】
本構成の発進クラッチ40は遠心式であるため、クリープ力発生回転数NBが一定に保持されると、発進クラッチ40の引きずりトルクが一定となる。このため、この引きずりトルクに対応する車両駆動力で後輪18が駆動され、自動二輪車10を一定の駆動力で微速走行させることができる。これによって、ユーザーがスロットル操作を行うことなく微速走行可能なクリープ状態を実現することができる。
なお、ユーザーが操作スイッチ29をオフにすると、上記のクリープ走行モードは解除され、通常スロットルモード(スロットル操作にリニアなエンジン出力を得る制御)に復帰する。また、上記のクリープ走行モード時において、スロットルグリップ開度検出部27によってユーザーによるスロットル操作が検出された場合、制御ユニット26は、直ちにクリープ走行モードを解除し、通常スロットルモードに戻すようにしてもよい。この制御を行えば、ユーザーのスロットル操作を最優先にすることができ、例えば、クリープ走行状態から直ちに加速状態に移行することが可能になる。以上がクリープ制御である。
【0034】
また、本実施形態では、上記クリープ走行モードの間、自動二輪車10の乗員によるブレーキ操作に伴うブレーキランプ入力に基づき、エンジン回転数NEをアイドリング回転数N0に強制的に戻すブレーキ時スロットル制御を行う。図7は、この制御を示すフローチャートであり、クリープ走行モードの間、所定周期で繰り返し実行される。
制御ユニット26は、ブレーキランプ入力があったか否かを判定し(ステップS1)、ブレーキランプ入力がない場合は当該制御を一旦終了する一方、ブレーキランプ入力があった場合は、電子スロットル部23により吸気絞り弁21を閉じて、エンジン回転数NEをクリープ力発生回転数NBからアイドリング回転数N0に下げる(ステップS2)。
アイドリング回転数N0に下げた場合、制御ユニット26は、ブレーキランプ入力がなくなったか否か、つまり、ブレーキランプ消灯か否かを監視し(ステップS3)、ブレーキランプ消灯になると、電子スロットル部23により吸気絞り弁21を開けて、エンジン回転数NEをクリープ力発生回転数NBに戻す(ステップS4)。
【0035】
一般に、ブレーキ操作(本実施形態ではブレーキレバーの操作)があった場合、ブレーキが効き始める前(つまり、制動力の発生前)のタイミングでブレーキランプが点灯し、ブレーキレバーが戻されてブレーキの作動が停止した後にブレーキランプが消灯する。
このため、上記ステップS1〜S4の制御によれば、ブレーキが効き始める前に、エンジン回転数NEがクリープ力発生回転数NBからアイドリング回転数N0に下がり、上記のクリープ走行状態が解除される。これにより、クラッチ保護と従来と同様のブレーキフィーリングとが得られる。また、ブレーキが解除された後、迅速にクリープ走行状態に復帰することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態では、制御ユニット26が、電子スロットル部23によって、発進クラッチ40の引きずりトルクを発生させるエンジン回転数であるクリープ力発生回転数NBに保持するクリープ制御を行うので、遠心式の発進クラッチ40を備えた構成でクリープ機能を持たせることができる。この場合、スロットル制御だけでクリープ機能を実現するので、発進クラッチ40を油圧等で制御する複雑な構成を搭載する必要がなく、簡易に構成することができ、且つ、クリープ機能の実行/実行停止を容易に切替可能である。
また、本構成では、エンジン回転数NEを、停止状態から走行開始可能な設定回転数NCまで上昇させ、その後に回転数を下げて発進クラッチ40の引きずりトルクを発生させるクリープ力発生回転数NBに制御するので、確実に発進させた後に発進クラッチ40を半クラッチ状態にして効率良くクリープ走行させることができる。
また、クリープ走行を指示する操作スイッチ29を備えるので、ユーザーの指示に応じてクリープ走行することができる。
【0037】
<第2実施形態>
図8は第2実施形態のクリープ制御を示す。第2実施形態では、クリープ走行モードの場合、制御ユニット26は、車速センサ120によって検出される車速Vが予め記憶されたクリープ速度VCになるように吸気絞り弁21をフィードバック制御する。
より具体的には、図8に示すように、操作スイッチ29がオンされてクリープ走行モードが指示されると、制御ユニット26は、吸気絞り弁21を開けて、エンジン回転数NEを設定回転数NCまで上昇させる(ステップS11)。
【0038】
次に、制御ユニット26は、所定期間経過したタイミング(第1実施形態の時間t2に相当)で、車速センサ120によって検出される車速Vがクリープ速度VCになるように吸気絞り弁21をフィードバック制御する(ステップS12)。ここで、クリープ速度VCは、クリープ走行に適した所定速度以下の速度であり、本実施形態では時速2kmに設定される。このように、車速Vに基づいて吸気絞り弁21をフィードバック制御するので、発進クラッチ40の引きずりトルクを発生させて確実にクリープ速度VCで微速走行させることができる。
このとき、制御ユニット26は、操作スイッチ29がオフされたか否かを判定すると共に(ステップS13)、スロットルグリップ開度検出部27によってユーザーによるスロットル操作が検出されたか否かを判定し(ステップS14)、いずれも否定結果の場合には、上記ステップS12の処理を継続する。そして、ステップS13又はS14のいずれかが肯定結果になると、クリープ走行モードを解除し、通常スロットルモード(スロットル操作にリニアなエンジン出力を得る制御)に復帰する。
【0039】
本実施形態では、車速センサ120によって検出される車速Vが予め記憶されたクリープ速度VCになるように車速Vに応じたスロットル制御を行うので、遠心式の発進クラッチ40を備えた構成で、簡易にクリープ走行することができる。
【0040】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
例えば、上記各実施形態において、クリープ走行モードにおいては、発進クラッチ40の滑りが継続して発生してしまうため、このクリープ走行モードの使用制限時間を設定しても良い。
この場合、図9に示すように、制御ユニット26の制御化で動作する報知装置(報知部)140を設け、制御ユニット26がクリープ走行モードの継続時間を計測し、この継続時間が予め定めた使用制限時間を超える場合に、報知装置を駆動して、その旨を外部に報知するようにしてもよい。ここで、報知装置としては、ブザー等の放音装置、或いは、液晶表示装置等の表示装置を適用すれば良い。これによれば、発進クラッチ40を保護することができる。
【0041】
また、上記各実施形態において、クリープ走行モードにおいては、発進クラッチ40の滑りが許容範囲内か否かを判定するクラッチ滑り監視処理を行うようにしてもよい。ここで、図10及び図11は、クラッチ滑り監視処理の一例を示している。
まず、図10に示すクラッチ滑り監視処理を説明する。制御ユニット26は、クリープ走行モードの間、車速Vとエンジン回転数NEとに基づいてクラッチ滑り量NCRを計算する(ステップS21)。より具体的には、制御ユニット26は、車速Vから発進クラッチ40の出力側(変速機軸51)の回転数を特定し、この回転数と、発進クラッチ40の入力側の回転数であるエンジン回転数NEとの差分を求めることにより、クラッチ滑り量NCRを算出する。
そして、制御ユニット26は、算出したクラッチ滑り量NCRが予め定めた上限値NXを超えたか否かを判定し(ステップS22)、超えた場合、電子スロットル部23によりエンジン回転数NEを強制的に下げる(ステップS23)。このステップS21〜S23の処理を繰り返し実行することにより、クラッチ滑り量NCRを許容範囲内に抑えることができる。従って、発進クラッチ40を保護することができる。
【0042】
次に、図11に示すクラッチ滑り監視処理を説明する。制御ユニット26は、クリープ走行モードの間、エンジン34に設けられた油温センサによって検出されるエンジン潤滑用のオイルの油温TLを取得し、この油温TLが、予め定めたクラッチ滑り許容温度TXを超えたか否かを判定する(ステップS31)。そして、制御ユニット26は、油温TLがクラッチ滑り許容温度TXを超えた場合、電子スロットル部23によりエンジン回転数NEを強制的に下げる(ステップS32)。このステップS31〜S32の処理を繰り返し実行することにより、油温TLの上昇を抑えることができる。つまり、図11では、油温TLに基づいてクラッチ滑り量が上限値を超えたか否かを間接的に判定しており、クラッチ滑り量を計算で求めなくてもクラッチ滑り量を許容範囲内に抑えることが可能である。
【0043】
このように、発進クラッチ40の滑り量に関する情報(クラッチ滑り量NCR、又は、油温TL)を取得し、この情報に基づいて発進クラッチ40の滑り量が許容範囲内か否かを判定し、許容範囲内でない場合にエンジン回転数を下げるので、発進クラッチ40の滑り量を許容範囲内に抑えることができる。なお、上記ステップS23及びS32のエンジン回転数NEを下げる制御に代えて、クリープ走行モードを強制解除し、通常スロットルモードに復帰するようにしてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、図1に示す自動二輪車の駆動制御装置に本発明を適用する場合を説明したが、これに限らず、遠心式の発進クラッチを備える車両の駆動制御装置に本発明を適用できる。この車両には、車体に跨って乗車する鞍乗り型車両が含まれ、自動二輪車(原動機付き自転車も含む)のみならず、ATV(不整地走行車両)に分類される三輪車両や四輪車両でもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 自動二輪車(車両)
21 吸気絞り弁
23 電子スロットル部
26 制御ユニット(エンジン制御部)
29 操作スイッチ(指示部)
34 エンジン
34K 吸気通路
40 発進クラッチ
120 車速センサ(車速検知部)
140 報知装置(報知部)
N0 アイドリング回転数
NA クラッチIN回転数
NB クリープ力発生回転数
NC 設定回転数
NCR クラッチ滑り量
VC クリープ速度
TL 油温

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(34)と変速機(42)との間に設けられる発進クラッチ(40)と、エンジン(34)の吸気通路(34K)に設けられた吸気絞り弁(21)を開閉する電子スロットル部(23)と、前記エンジン(34)を制御するエンジン制御部(26)とを備える車両の駆動制御装置において、
前記発進クラッチ(40)は、所定回転数以上でエンジン動力を変速機(42)に伝達する遠心式であり、
前記エンジン制御部(26)は、前記電子スロットル部(23)により前記吸気絞り弁(21)の開度を制御して、前記発進クラッチ(40)の引きずりトルクを発生させるエンジン回転数(NB)に保持することを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記エンジン制御部(26)は、エンジン回転数を、停止状態から走行開始可能な設定回転数(NC)まで上昇させ、その後に回転数を下げて前記発進クラッチ(40)の引きずりトルクを発生させるクリープ力発生回転数(NB)に制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記車両の車速を検知する車速検知部(120)を有し、前記エンジン制御部(26)は、前記車速に応じたスロットル制御を行うことを特徴とする請求項12に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項4】
クリープ走行を指示する指示部(29)を備え、
前記クリープ走行が指示された場合に、前記エンジン制御部(26)は、前記電子スロットル部(23)によって前記エンジン回転数(NB)に制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項5】
前記エンジン回転数(NB)に保持する使用制限を設定し、この使用制限を超える場合に、その旨を外部に報知する報知部(140)を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項6】
前記エンジン制御部(26)は、前記発進クラッチ(40)の滑り量に関する情報(NCR,TL)を取得し、この情報(NCR,TL)に基づいて前記発進クラッチ(40)の滑り量が許容範囲内か否かを判定し、許容範囲内でない場合にエンジン回転数を下げることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−237206(P2012−237206A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105523(P2011−105523)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】