説明

車両制御システムおよび車両制御方法

【課題】複数の演算制御装置による車両制御において、異常状態から正常状態への復帰を適切に行うことができる車両制御システムおよび車両制御方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置と第2演算制御装置とを備える車両制御システムであって、第2演算制御装置は、第1演算制御装置により演算された第1の目標制御量と、第2演算制御装置により演算された第2の目標制御量との差が、第1閾値以下である場合は、通信状態が正常であることを示す監視結果を、第1演算制御装置へ送信し、第1演算制御装置は、第2演算制御装置により送信された監視結果が正常であり、かつ、第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合、第2演算制御装置に転舵制御を実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムおよび車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の演算制御装置により車両を制御する技術が開発されている。
【0003】
一般に、複数の演算制御装置の間で信号を送受信する場合、各演算制御装置の演算エラーに加えて送受信バッファのRAMの固着等に起因する通信エラーが生じることがある。そのため、互いに他の演算結果を監視するだけでなく、複数の演算制御装置の間で通信手段の通信異常が生じているか否かを監視し、通信異常が生じた場合にもそれに対処する必要がある。
【0004】
特に、一方の演算制御装置により車両状態量に基づいて目標制御量が演算され、他方の演算制御装置により目標制御量に基づいて所定の車両制御が行われる場合、目標制御量が一方の演算制御装置より他方の演算制御装置へ正常に送信されているか否かを監視し、通信異常が生じた場合に所定の車両制御を禁止するなどの処置が必要である。
【0005】
このように、異なる2つ以上の演算制御装置間で通信して車両制御を行う複合電子制御システムにおいては、自演算制御装置および他演算制御装置の正常または異常を示す情報だけでなく、互いを結ぶ通信の正常または異常を示す情報もフェールセーフ設定として重要となる。
【0006】
そこで、近年、複数の演算制御装置間で比較監視を行って通信状態の異常を判定し、転舵制御を禁止する技術が報告されている。
【0007】
例えば、特許文献1では、目標制御量を受信する側の演算制御装置において、通信または目標制御量の値を比較することで異常を検出し、転舵制御の禁止または異常時の出力切り替えを行っている。このように、特許文献1では、目標制御量を受信する側の演算制御装置で異常を判定することで、通信もしくは目標制御量の異常を迅速に判定し、異常に対する処置を迅速に行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−111211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、複数の演算制御装置による車両制御を行う従来技術(特許文献1等)では、異常状態から正常状態に復帰する際の処理については考慮されていなかった。つまり、従来技術では、通信間で発生した異常に対して、比較監視によって異常であることを検出し、転舵制御を禁止しているものの、その後の比較監視の結果、正常であると判定された場合に対しての処理については考慮されていなかった。
【0010】
したがって、従来技術においては、制御装置の復帰の仕方によって車両挙動をより良くできる可能性があった。また、通信間で検出した異常については、故障部位が特定できない場合が多いため、異常と判定されなかった場合の復帰の仕方に改善の余地があった。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、複数の演算制御装置による車両制御において、異常状態から正常状態への復帰を適切に行うことができる車両制御システムおよび車両制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置と第2演算制御装置とを備える車両制御システムであって、前記第2演算制御装置は、前記第2演算制御装置による転舵制御が禁止されている状態で、前記第1演算制御装置により演算された第1の目標制御量と、前記第2演算制御装置により演算された第2の目標制御量との差が、第1閾値以下である場合は、通信状態が正常であることを示す監視結果を、前記第1演算制御装置へ送信する監視結果送信手段、を備え、前記第1演算制御装置は、前記監視結果が正常であり、かつ、前記第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合、前記第2演算制御装置に転舵制御を実行させる制御実行手段、を備えたことを特徴とする。
【0013】
前記制御実行手段は、前記監視結果が正常である場合であっても、前記第1の目標制御量が前記第2閾値よりも大きい場合は、前記第2演算制御装置に転舵制御の禁止を維持させることが好ましい。
【0014】
前記制御実行手段は、前記監視結果が正常である場合、前記第1演算制御装置の制御実行量を増加させることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置と第2演算制御装置と第3演算制御装置とを備える車両制御システムであって、前記第3演算制御装置は、前記第2演算制御装置および前記第3演算制御装置による転舵制御が禁止されている状態で、前記第1演算制御装置により演算された第1の目標制御量を、前記通信手段内の第1通信経路および第2通信経路を介して受信し、当該第1通信経路を介して受信した前記第1の目標制御量と当該第2通信経路を介して受信した前記第1の目標制御量とが一致する状態が所定時間以上継続する場合、通信状態が正常であることを示す監視結果を前記第1演算制御装置へ送信する監視結果送信手段、を備え、前記第1演算制御装置は、前記監視結果が正常であり、かつ、前記第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合、前記第2演算制御装置および前記第2演算制御装置に転舵制御を実行させる制御実行手段、を備えたことを特徴とする。
【0016】
前記制御実行手段は、前記監視結果が正常である場合であっても、前記第1の目標制御量が前記第2閾値よりも大きい場合は、前記第2演算制御装置および前記第3演算制御装置に転舵制御の禁止を維持させることが好ましい。
【0017】
前記制御実行手段は、前記監視結果が正常である場合、前記第1演算制御装置の制御実行量を増加させることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置と第2演算制御装置とを備える車両制御システムにおいて実行される車両制御方法であって、当該車両制御方法は、前記第2演算制御装置において実行される、前記第2演算制御装置による転舵制御が禁止されている状態で、前記第1演算制御装置により演算された第1の目標制御量と、前記第2演算制御装置により演算された第2の目標制御量との差が、第1閾値以下である場合は、通信状態が正常であることを示す監視結果を、前記第1演算制御装置へ送信する監視結果送信ステップと、前記第1演算制御装置において実行される、前記監視結果が正常であり、かつ、前記第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合、前記第2演算制御装置に転舵制御を実行させる制御実行ステップと、を含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置と第2演算制御装置と第3演算制御装置とを備える車両制御システムにおいて実行される車両制御方法であって、当該車両制御方法は、前記第3演算制御装置において実行される、前記第2演算制御装置および前記第3演算制御装置による転舵制御が禁止されている状態で、前記第1演算制御装置により演算された第1の目標制御量を、前記通信手段内の第1通信経路および第2通信経路を介して受信し、当該第1通信経路を介して受信した前記第1の目標制御量と当該第2通信経路を介して受信した前記第1の目標制御量とが一致する状態が所定時間以上継続する場合、通信状態が正常であることを示す監視結果を前記第1演算制御装置へ送信する監視結果送信ステップと、前記第1演算制御装置において実行される、前記監視結果が正常であり、かつ、前記第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合、前記第2演算制御装置および前記第2演算制御装置に転舵制御を実行させる制御実行ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、複数の演算制御装置による車両制御において、異常状態から正常状態への復帰を適切に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明にかかる車両制御システムの構成の一例を示す概略構成図である。
【図2】図2は、本発明にかかる車両制御システムの制御系の一例を示すブロック図である。
【図3】図3は、本発明にかかる車両制御システムの第1演算制御装置において実行される車両の挙動制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明にかかる車両制御システムの第2演算制御装置において実行される左右前輪の転舵制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、車速Vと判定基準値αとの関係を示す図である。
【図6】図6は、本発明にかかる車両制御システムの第2演算制御装置および第3演算制御装置において実行される復帰条件判定処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】図7は、本発明にかかる車両制御システムの第1演算制御装置において実行される転舵制御の復帰制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】図8は、本発明にかかる車両制御システムにおける目標制御量の増減を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明にかかる車両制御システムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0023】
本発明にかかる車両制御システムの構成について図1および図2を参照しながら説明する。図1は、本発明にかかる車両制御システムの構成の一例を示す概略構成図である。図2は、本発明にかかる車両制御システムの制御系の一例を示すブロック図である。
【0024】
図1に示す車両制御システムは、各車輪の制駆動力の制御および左右前輪の舵角の制御により車両の挙動を制御するシステムとして構成されている。図1において、10FLおよび10FRは、それぞれ車両の従動操舵輪としての左右の前輪を示し、10RLおよび10RRは、それぞれ車両の駆動輪としての左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪10FLおよび10FRは、運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置16により、ラックバー18およびタイロッド20Lおよび20Rを介して転舵される。
【0025】
ステアリングホイール14は、第一のステアリングシャフトとしてのアッパステアリングシャフト22、転舵角可変装置24、第二のステアリングシャフトとしてのロアステアリングシャフト26、ユニバーサルジョイント28を介して、パワーステアリング装置16のピニオンシャフト30に駆動接続されている。図1において、転舵角可変装置24は、ハウジング24Aの側にてアッパステアリングシャフト22の下端に連結され、回転子24Bの側にてロアステアリングシャフト26の上端に連結された、補助転舵駆動用の電動機32を含んでいる。
【0026】
転舵角可変装置24は、アッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転駆動することにより、挙動制御の目的で左右の前輪10FLおよび10FRをステアリングホイール14に対し相対的に補助転舵駆動する自動転舵装置として機能し、第2演算制御装置34により制御される。ここで、第2演算制御装置34は、転舵制御用電子制御装置として機能する。つまり、第2演算制御装置34は、ギヤ比可変ステアリング「VGRS(Variable Gear Ratio Steering)」の機能を有する。
【0027】
なお、アッパステアリングシャフト22に対し相対的にロアステアリングシャフト26を回転駆動することができない異常が転舵角可変装置24に発生すると、所定のロック装置(図示せず)が作動し、アッパステアリングシャフト22に対するロアステアリングシャフト26の相対回転角度が変化しないよう、ハウジング24Aおよび回転子24Bの相対回転が機械的に阻止される。
【0028】
図1において、電動式パワーステアリング装置16は、ラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機36と、電動機36の回転トルクをラックバー18の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構38とを有する。電動式パワーステアリング装置16は、第3演算制御装置40によって制御され、ハウジング24Aに対し相対的にラックバー18を駆動する補助操舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する補助操舵力発生装置として機能する。なお、補助操舵力発生装置は、当該技術分野において公知の任意の構成のものであってよい。ここで、第3演算制御装置40は、電動式パワーステアリング装置(EPS)制御用電子制御装置として機能する。つまり、第3演算制御装置40は、電動パワーステアリング「EPS(Electric Power Stering)」の機能を有する。
【0029】
各車輪の制動力は、制動装置42の油圧回路44によりホイールシリンダ46FL、46FR、46RL、46RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、すなわち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。なお、図示しないが、油圧回路44は、オイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含む。各ホイールシリンダの制動圧は、通常時には運転者によるブレーキペダル48の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ50により制御され、また必要に応じて第1演算制御装置52により個別に制御される。ここで、第1演算制御装置52は、挙動制御用電子制御装置として機能する。つまり、第1演算制御装置52は、横滑り抑制のための「VSC(Vehicle Stability Control)」の機能を有する。
【0030】
図1において、アッパステアリングシャフト22には、当該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ60が設けられている。操舵角θを示す信号は、CAN62を経て第1演算制御装置52および第2演算制御装置34へ入力される。
【0031】
また、第1演算制御装置52および第2演算制御装置34には、横加速度センサ64により検出された車両の横加速度Gyを示す信号、ヨーレートセンサ66により検出された車両のヨーレートγを示す信号、車速センサ68により検出された車速Vを示す信号がCAN62を経て入力される。また、圧力センサ70により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号および圧力センサ72FL〜72RRにより検出された各車輪の制動圧Piを示す信号が、第1演算制御装置52へ入力される。
【0032】
なお、第1演算制御装置52、第2演算制御装置34、第3演算制御装置40は、それぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバス(通信手段)により互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また、操舵角センサ60、横加速度センサ64、ヨーレートセンサ66は、それぞれ車両の左旋回方向への操舵または転舵または旋回の場合を正として操舵角θ、横加速度Gy、ヨーレートγを検出する。
【0033】
図2に示すように、挙動制御用電子制御装置としての第1演算制御装置52は、車両の走行に伴い変化する操舵角θ等の運転操作量および車両の横加速度Gy等の車両状態量に基づき車両のスピンの程度を示すスピン状態量SSおよび車両のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算し、スピン状態量SSおよびドリフトアウト状態量DSに基づき車両の挙動を安定化させるための車両の目標ヨーモーメントMtおよび車両の目標減速度Gxbtを演算する。
【0034】
そして、第1演算制御装置52は、目標ヨーモーメントMtを所定の比率にて左右前輪の転舵制御による目標ヨーモーメントMtsと各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbとに配分し、目標ヨーモーメントMtsに基づき第1の目標制御量としての左右前輪の目標転舵角Δδtを演算すると共に目標転舵角Δδtを示す信号をCAN62を経て第2演算制御装置34へ出力する。また、第1演算制御装置52は、目標減速度Gxbtおよび目標ヨーモーメントMtbに基づき各車輪の目標制動圧Ptiを演算し、各車輪の制動圧Piがそれぞれ対応する目標制動圧Ptiになるよう油圧回路44を制御する。
【0035】
また、転舵制御用電子制御装置として第2演算制御装置34は、第1演算制御装置52における演算方法と実質的に同一の方法またはそれよりも簡易な方法により車両の挙動を安定化させるための第2の目標制御量としての左右前輪の推定目標転舵角Δδthを演算する。なお、第1演算制御装置52と第2演算制御装置34との間の通信が正常であるときには、推定目標転舵角Δδthは、目標転舵角Δδtと実質的に同一の値になる。
【0036】
また、第2演算制御装置34は、第1演算制御装置52より入力される目標転舵角Δδtと推定目標転舵角Δδthとを比較し、例えばその差の大きさが異常判定基準値α以下であるときには目標転舵角Δδtが正常な値であると判定し、左右前輪の転舵角が目標転舵角Δδtになるよう目標転舵角Δδtに基づき転舵角可変装置24を制御する。つまり、第2演算制御装置34は、第1演算制御装置52により演算された第1の目標制御量(すなわち、左右前輪の目標転舵角Δδt)と、第2演算制御装置34により演算された第2の目標制御量(すなわち、左右前輪の推定目標転舵角Δδth)との差が、第1閾値(すなわち、異常判定基準値α)以下である場合は、当該第1演算制御装置52と当該第2演算制御装置34間の通信状態が正常であると判定する。そして、第2演算制御装置は、左右前輪の転舵制御を実行する。
【0037】
一方、第2演算制御装置34は、目標転舵角Δδtと推定目標転舵角Δδthとの差の大きさが異常判定基準値αよりも大きいときには目標転舵角Δδtが異常な値であると判定し、左右前輪の転舵制御を禁止する。つまり、第2演算制御装置34は、第1演算制御装置52により演算された第1の目標制御量と、第2演算制御装置34により演算された第2の目標制御量との差が、第1閾値よりも大きい場合は、当該第1演算制御装置52と当該第2演算制御装置34間の通信状態が異常であると判定する。そして、第2演算制御装置は、左右前輪の転舵制御を禁止する。
【0038】
なお、第2演算制御装置34は、左右前輪の転舵制御の途中において転舵制御を禁止する場合には、推定目標転舵角Δδthを漸減しつつ推定目標転舵角Δδthに基づき転舵角可変装置24の制御を継続し、推定目標転舵角Δδthが0になった段階で転舵角可変装置24の制御を終了する。
【0039】
また、第2演算制御装置34は、目標転舵角Δδtの正常または異常の監視結果をCAN62を経て第1演算制御装置52へ出力し、第1演算制御装置52は、目標転舵角Δδtの監視結果が異常であるときには、目標ヨーモーメントMtを所定の比率にて左右前輪の転舵制御による目標ヨーモーメントMtsに対する目標ヨーモーメントMtの配分比率を漸次低下させ、最終的には目標減速度Gxbtおよび目標ヨーモーメントMtに基づき各車輪の目標制動圧Ptiを演算する。
【0040】
更に、本発明におけるEPS制御用電子制御装置としての第3演算制御装置40は、第2演算制御装置34により左右前輪の転舵角が制御されるときには、当該制御による操舵反力の変動を低減するよう電動式パワーステアリング装置16を制御する。
【0041】
また、第3演算制御装置40は、CAN62中の複数の通信経路を介して第1演算制御装置52から受信した目標転舵角Δδtを用いて正常または異常の判定を行う機能を有する。具体的には、第3演算制御装置40は、第1通信経路を介して第1演算制御装置52から受信した目標転舵角Δδtと、第2通信経路を介して第1演算制御装置52から受信した目標転舵角Δδtとが一致する状態が所定時間以上継続されるか否かを判定することで、正常または異常の判定を行う。ここで、第1通信経路と第2通視経路とは、異なる通信経路であり、少なくとも一部が互いに異なっている。そして、第3演算制御装置40は、第1通信経路および第2通信経路それぞれを介して受信した目標転舵角Δδtが一致する状態が所定時間以上続く場合は、通信状態は正常であると判定し、正常を示す監視結果を第1演算制御装置52へ送信する。一方、第3演算制御装置40は、第1通信経路および第2通信経路それぞれを介して受信した目標転舵角Δδtが一致する状態が所定時間以上続かない場合は、通信状態に異常があると判定し、異常を示す監視結果を第1演算制御装置52へ送信する。
【0042】
なお、上述の操舵輪の舵角の制御(転舵制御)、制動力の制御による挙動制御、操舵反力の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、これらの制御は、当該技術分野において公知の任意の方法により実行されてよい。
【0043】
続いて、図3〜図8を参照して、上述した車両制御システムにおいて実行される各種処理について説明する。
【0044】
以下、まず、図3〜図5を参照し、複数の演算制御装置間で比較監視を行って通信状態の異常を判定し、転舵制御を禁止させるまでの処理について説明する。
【0045】
図3は、本発明にかかる車両制御システムの第1演算制御装置52において実行される車両の挙動制御処理の一例を示すフローチャートである。なお、図3に示す挙動制御処理は、イグニッションスイッチ(図示せず)の閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行されるものとする。
【0046】
図3に示すように、まず、第1演算制御装置52は、CAN62から操舵角θを示す信号等の読み込みを行う(ステップSA−1)。そして、第1演算制御装置52は、車両のスピンの程度を示すスピン状態量SSおよび車両のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算する(ステップSA−2)。そして、第1演算制御装置52は、スピン状態量SSおよびドリフトアウト状態量DSに基づいて、車両の挙動を安定化させるための車両の目標ヨーモーメントMtおよび車両の目標減速度Gxbtを演算する(ステップSA−3)。なお、ステップSA−2およびステップSA−3の演算方法は、当該技術分野において公知の方法を用いるものとする。
【0047】
そして、第1演算制御装置52は、転舵制御を禁止するか否かの判別を行う(ステップSA−4)。具体的には、ステップSA−4において、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34において実行される転舵制御処理の結果に基づいて、転舵制御を禁止するか否かの判別を行う。つまり、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34により転舵制御が禁止されており車輪の制駆動力のみの制御による代替の挙動制御が実行されるべきことを示す指令信号を受信したか否かを確認する(後述する図4のステップSB−7参照)。なお、第2演算制御装置34において実行される転舵制御処理の詳細については後述する。
【0048】
そして、第1演算制御装置52は、ステップSA−4で転舵制御を禁止すると判別した場合(ステップSA−4:Yes)、各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbに対する目標ヨーモーメントMtの配分比Rbを、標準値Rbo(0よりも大きく1よりも小さい正の定数)に設定する(ステップSA−5)。
【0049】
そして、第1演算制御装置52は、目標ヨーモーメントMtおよび配分比Rbに基づき下記の式1および2に従って左右前輪の転舵制御による目標ヨーモーメントMtsおよび各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbを演算する(ステップSA−6)。
Mts=(1−Rb)Mt ……(1)
Mts=Rb・Mt ……(2)
【0050】
そして、第1演算制御装置52は、目標ヨーモーメントMtsを達成するための第1の目標制御量としての左右前輪の目標転舵角Δδtを演算すると共に、目標転舵角Δδtを示す信号を第2演算制御装置34へ送信する(ステップSA−7)。なお、ステップSA−7の演算方法は、当該技術分野において公知の方法を用いるものとする。その後、ステップSA−10の処理へ進む。
【0051】
ここで、再度ステップSA−4の処理へ戻り、第1演算制御装置52は、ステップSA−4で転舵制御を禁止しないと判別した場合(ステップSA−4:No)、各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbに対する目標ヨーモーメントMtの配分比Rbを1に設定する(ステップSA−8)。そして、第1演算制御装置52は、各車輪の制動力の制御による目標ヨーモーメントMtbを目標ヨーモーメントMtに設定する(ステップSA−9)。その後、ステップSA−10の処理へ進む。
【0052】
そして、第1演算制御装置52は、目標ヨーモーメントMtbおよび車両の目標減速度Gxbtを達成するための各車輪の目標制動力を演算すると共に、目標制動力に基づき各車輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)を演算する(ステップSA−10)。なお、ステップSA−10の演算方法は、当該技術分野において公知の方法を用いるものとする。そして、第1演算制御装置52は、各車輪の制動圧Piがそれぞれ対応する目標制動圧Ptiになるよう制御する(ステップSA−11)。
【0053】
図4は、本発明にかかる車両制御システムの第2演算制御装置34において実行される左右前輪の転舵制御処理の一例を示すフローチャートである。なお、図3に示す転舵制御処理は、イグニッションスイッチ(図示せず)の閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行されるものとする。
【0054】
図4に示すように、まず、第2演算制御装置34は、転舵角可変装置24等の初期化を行う(ステップSB−1)。そして、第2演算制御装置34は、転舵制御の許可条件が成立しているか否かの判別を行う(ステップSB−2)。具体的には、ステップSB−2において、第2演算制御装置34は、例えば転舵角可変装置24や電動式パワーステアリング装置16が正常に作動するか否かの判別を行う。
【0055】
そして、第2演算制御装置34は、ステップSB−2で転舵制御の許可条件が成立していないと判定した場合(ステップSB−2:No)、ステップSB−1の処理へ戻る。
【0056】
一方、第2演算制御装置34は、ステップSB−2で転舵制御の許可条件が成立していると判定した場合(ステップSB−2:Yes)、第1演算制御装置52よりCAN62を経て送信される目標転舵角Δδtを示す信号を受信する(ステップSB−3)。つまり、ステップSB−3において、第2演算制御装置34は、上述の図3のステップSA−7において第1演算制御装置52により送信される目標転舵角Δδtを示す信号を受信する。
【0057】
そして、第2演算制御装置34は、第1演算制御装置52における上述の目標転舵角Δδtの演算方法と実質的に同一の方法またはそれよりも簡易な方法により車両の挙動を安定化させるための第2の目標制御量としての左右前輪の推定目標転舵角Δδthを演算する(ステップSB−4)。
【0058】
そして、第2演算制御装置34は、図5に示すようなグラフに対応するマップに基づいて異常判定基準値αを演算する(ステップSB−5)。ここで、図5は、車速Vと判定基準値αとの関係を示す図である。ステップSB−5において、第2演算制御装置34は、図5に示すように車速Vが高いほど小さくなるよう異常判定基準値αを演算する。そして、第2演算制御装置34は、下記の式3または4の不等式が成立しているか否かを判別することで、転舵制御の禁止条件が成立しているか否かの判別を行う(ステップSB−6)。
Δδt>Δδth+α ……(3)
Δδt<Δδth−α ……(4)
【0059】
そして、第2演算制御装置34は、ステップSB−6で転舵制御の禁止条件が成立していると判別した場合(ステップSB−6:Yes)、転舵制御を禁止して車輪の制駆動力のみの制御による代替の挙動制御を実行することを示す指令信号を、CAN62を経て第1演算制御装置52へ送信する(ステップSB−7)。つまり、ステップSB−7において、第2演算制御装置34は、上述の図3のステップSA−4において第1演算制御装置52が転舵制御を禁止するか否かの判別を行うために必要な転舵制御処理の結果として、上述の転舵制御の禁止を示す指令信号を送信する。その後、ステップSB−2の処理へ戻る。
【0060】
一方、第2演算制御装置34は、ステップSB−6で転舵制御の禁止条件が成立していないと判別した場合(ステップSB−6:No)、左右前輪の転舵角が目標転舵角Δδtとなるよう左右前輪の転舵制御を実行する(ステップSB−8)。その後、ステップSB−2の処理へ戻る。
【0061】
このように、第2演算制御装置34は、第1演算制御装置52により演算された第1の目標制御量と、第2演算制御装置34により演算された第2の目標制御量との差が、第1閾値よりも大きい場合は、当該第1演算制御装置52と当該第2演算制御装置34間の通信状態が異常であると判定する(上記ステップSB−6:Yesに対応)。そして、第2演算制御装置は、左右前輪の転舵制御を禁止する(上記ステップSB−7に対応)。一方、第2演算制御装置34は、第1演算制御装置52により演算された第1の目標制御量と、第2演算制御装置34により演算された第2の目標制御量との差が、第1閾値以下である場合は、当該第1演算制御装置52と当該第2演算制御装置34間の通信状態が正常であると判定する(上記ステップSB−6:Noに対応)。そして、第2演算制御装置34は、左右前輪の転舵制御を実行する(上記ステップSB−8に対応)。
【0062】
続いて、図6〜図8を参照して、複数の演算制御装置間で比較監視を行って通信状態の異常を判定して転舵制御を禁止した後(上述の図3〜図5参照)、異常状態から正常状態に復帰する際の転舵制御の復帰処理について説明する。以下、本発明における車両制御システムにおいて実行される転舵制御の復帰処理について、実施形態1と実施形態2とに分けて説明する。
【0063】
〔実施形態1〕
まず、実施形態1では、通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置52と第2演算制御装置34とを備える車両制御システムにおいて実行される、転舵制御の復帰処理について、図6〜図8を参照して説明する。
【0064】
実施形態1において、第2演算制御装置34は、上述の図4に示したように第1演算制御装置52の目標制御量と第2演算制御装置34の目標制御量とを比較して、通信状態が正常か否かを監視する機能を有する。また、第2演算制御装置34は、この比較監視により異常と判定した時に第2演算制御装置34の転舵制御を禁止する機能を有する。
【0065】
更に、第2演算制御装置34は、比較監視により異常と判定した後に(すなわち、上述の図4のステップSB−6:Yes)、比較監視結果が正常となった場合に、第1演算制御装置52へ比較監視結果が正常であること示す信号を送信する機能を有する。つまり、第2演算制御装置34は、第2演算制御装置34による転舵制御が禁止されている状態で、第1演算制御装置52へ異常状態から正常状態へ移行したことを告知する機能を有する。
【0066】
ここで、第2演算制御装置34において実行される復帰条件判定処理について、図6を参照して説明する。図6は、本発明にかかる車両制御システムの第2演算制御装置34において実行される復帰条件判定処理の一例を示すフローチャートである。なお、実施形態1では、図6に示す復帰条件判定処理は、第2演算制御装置34による転舵制御が予め禁止されている状態において、所定の時間毎に繰返し実行されるものとする。
【0067】
図6に示すように、第2演算制御装置34は、上述の図4のステップSB−6の処理と同様に、第1演算制御装置52により演算された第1の目標制御量と、第2演算制御装置34により演算された第2の目標制御量との差が、第1閾値以下であるか否かを判定することで、転舵制御を禁止状態から復帰させる復帰条件が成立しているか否かを判定する(ステップSC−1)。
【0068】
そして、第2演算制御装置34は、ステップSC−1で復帰条件が成立していると判定した場合(ステップSC−1:Yes)、第1演算制御装置52へ比較監視結果が正常であることを示す正常状態信号を出力する(ステップSC−2)。その後、ステップSC−1へ戻り処理を繰り返す。
【0069】
一方、第2演算制御装置34は、ステップSC−1で復帰条件が成立してないと判定した場合(ステップSC−1:No)、第1演算制御装置52へ比較監視結果が異常であることを示す異常状態信号を出力する(ステップSC−3)。その後、ステップSC−1へ戻り処理を繰り返す。
【0070】
続いて、図7を参照し、目標制御量を受信する側の第2演算制御装置34が転舵制御を禁止している状態で、復帰条件が成立していると判定した場合に(上述の図6のステップSC−1:Yes、ステップSC−2に対応)、目標制御量を送信する側の第1演算制御装置52が、正常状態を監視してから転舵制御を復帰させるか否かを判定する復帰制御処理について説明する。
【0071】
実施形態1において、図7のフローチャートに示す処理は、上述の図6に示した第2演算制御装置34による復帰条件判定処理後に実行されるものとする。ここで、図7は、本発明にかかる車両制御システムの第1演算制御装置52において実行される転舵制御の復帰制御処理の一例を示すフローチャートである。なお、図7に示す転舵制御の復帰制御処理は、第2演算制御装置34が予め転舵制御を禁止している状態において、所定の時間毎に繰返し実行されるものとする。
【0072】
図7に示すように、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34から受信した信号に基づいて復帰条件が成立するか否かを判定する(ステップSD−1)。具体的には、第1演算制御装置52は、上述の図6のステップSC−2にて第2演算制御装置34から出力された信号が正常状態信号である場合、復帰条件が成立していると判定する。また、第1演算制御装置52は、上述の図6のステップSC−3にて第2演算制御装置34から出力された信号が異常状態信号である場合、復帰条件が成立していないと判定する。
【0073】
そして、第1演算制御装置52は、ステップSD−1で復帰条件が成立していないと判定した場合(ステップSD−1:No)、第2演算制御装置34へ転舵制御の禁止の指令信号を出力して、第2演算制御装置34に転舵制御の禁止状態を維持させる(ステップSD−2)。その後、ステップSD−1の処理へ戻る。
【0074】
一方、第1演算制御装置52は、ステップSD−1で復帰条件が成立していると判定した場合(ステップSD−1:Yes)、正常状態監視モードに移行する(ステップSD−3)。そして、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34へ正常状態復帰を監視中であることを示す正常状態復帰監視信号を出力する(ステップSD−4)。
【0075】
そして、第1演算制御装置52は、ステップSD−4で正常状態復帰監視信号を出力後、第1演算制御装置52により演算された左右前輪の目標転舵角Δδtが、正常状態復帰許可舵角δth以下であるか否かを判定する(ステップSD−5)。つまり、ステップSD−5において、第1演算制御装置52は、第1の目標制御量が第2閾値(すなわち、正常状態復帰許可舵角δth)以下であるか否かを判定する。
【0076】
そして、第1演算制御装置52は、ステップSD−5で第1の目標制御量が第2閾値よりも大きいと判定した場合(ステップSD−5:No)、ステップSD−2の処理へ進み、第2演算制御装置34に転舵制御の禁止状態を維持させる。その後、ステップSD−1の処理へ戻る。
【0077】
一方、第1演算制御装置52は、ステップSD−5で第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合(ステップSD−5:Yes)、正常状態監視モードを解除し(ステップSD−6)、第2演算制御装置34へ転舵制御の復帰を許可する指令信号を出力して、第2演算制御装置34に転舵制御を実行させる(ステップSD−7)。その後、ステップSD−1の処理へ戻る。
【0078】
このように、実施形態1によれば、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34から受信した監視結果が正常であり(上記ステップSD−1:Yesに対応)、かつ、第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合のみ(上記ステップSD−5:Yesに対応)、第2演算制御装置34に転舵制御を実行させることができる(上記ステップSD−7に対応)。また、実施形態1によれば、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34から受信した監視結果が正常である場合であっても(上記ステップSD−1:Yesに対応)、第1の目標制御量が第2閾値よりも大きい場合には(上記ステップSD−5:Noに対応)、第2演算制御装置34に転舵制御の禁止を維持させることができる(上記ステップSD−2に対応)。したがって、実施形態1によれば、第1演算制御装置52内で、通信状態について確実な正常判定を行うことができるので、異常状態から正常状態への復帰を適切に行うことができる。
【0079】
なお、実施形態1において、第2演算制御装置34は、上記ステップSD−4で第1演算制御装置52から出力される正常状態復帰監視信号を受信した後、更に、第1算制御装置52より演算される第1の目標制御量を受信する。そして、第2演算制御装置34は、第1演算制御装置52が正常状態復帰監視信号を出力中に受信した第1の目標制御量が第2閾値よりも大きいと判定した場合には、通信異常と判定し、転舵制御の禁止状態を維持する。したがって、実施形態1によれば、第2演算制御装置34内でも、通信状態についてより確実な正常判定を行うことができるので、異常状態から正常状態への復帰をより適切に行うことができる。
【0080】
更に、実施形態1において、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34から受信した監視結果が正常である場合(上記ステップSD−1:Yesに対応)、当該第1演算制御装置52の制御実行量を増加させる。具体的には、図8に示すように、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34へ正常状態復帰監視信号を出力中に、第1演算制御装置52内で目標制御量を一旦「0」にした後、所定の変化率勾配をもって当該目標制御量を漸増して、目標制御量が当初の値に達したときに、正常状態信号を第2演算制御装置34へ出力する。したがって、実施形態1によれば、転舵制御再実行時の制御量の急変を抑制できるので、異常状態から正常状態への復帰をより一層適切に行うことができる。
【0081】
〔実施形態2〕
次に、実施形態2では、通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置52と第2演算制御装置34と第3演算制御装置40とを備える車両制御システムにおいて実行される転舵制御の復帰処理について、再度図6〜図8を参照して説明する。
【0082】
実施形態2において、第3演算制御装置40は、第1演算制御装置52および第2演算制御装置34の通信経路が正常か否かを監視する機能を有する。また、第3演算制御装置40は、この比較監視により異常と判定した時に第3演算制御装置40の制御を禁止する機能を有する。
【0083】
更に、第3演算制御装置40は、比較監視により異常判定した後に、比較監視結果が正常となった場合に、第1演算制御装置52へ比較監視結果が正常であること示す信号を送信する機能を有する。つまり、第3演算制御装置は、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40による転舵制御が禁止されている状態で、第1演算制御装置52へ異常状態から正常状態へ移行したことを告知する機能を有する。
【0084】
ここで、第3演算制御装置40において実行される復帰条件判定処理について、再度図6を参照して説明する。図6は、本発明にかかる車両制御システムの第3演算制御装置40において実行される復帰条件判定処理の一例を示すフローチャートである。なお、実施形態2では、図6に示す復帰条件判定処理は、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40による転舵制御が予め禁止されている状態において、所定の時間毎に繰返し実行されるものとする。
【0085】
図6に示すように、第3演算制御装置40は、複数の通信経路を用いて受信した目標転舵角を用いて、第1通信経路で受信した目標転舵角と、第2通信経路で受信した目標転舵角とが一致しない状態が所定時間以上継続するか否かを判定することで、復帰条件が成立したか否かを判定する(ステップSC−1)。
【0086】
そして、第3演算制御装置40は、ステップSC−1で復帰条件が成立していると判定した場合(ステップSC−1:Yes)、第1演算制御装置52へ比較監視結果が正常であることを示す正常状態信号を出力する(ステップSC−2)。その後、ステップSC−1へ戻り処理を繰り返す。
【0087】
一方、第3演算制御装置40は、ステップSC−1で復帰条件が成立していないと判定した場合(ステップSC−1:No)、第1演算制御装置52へ比較監視結果が異常であることを示す異常状態信号を出力する(ステップSC−3)。その後、ステップSC−1へ戻り処理を繰り返す。
【0088】
続いて、再度図7を参照し、目標制御量を受信する側の第2演算制御装置34および第3演算制御装置40が転舵制御を禁止している状態で、第3演算制御装置40が復帰条件が成立していると判定した場合に(上述の図6のステップSC−1:Yes、ステップSC−2に対応)、目標制御量を送信する側の第1演算制御装置52が、正常状態を監視してから転舵制御を復帰させるか否かを判定する復帰制御処理について説明する。なお、図7に示す転舵制御の復帰制御処理は、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40が予め転舵制御を禁止している状態において、所定の時間毎に繰返し実行されるものとする。
【0089】
図7に示すように、第1演算制御装置52は、第3演算制御装置40から受信した信号に基づいて復帰条件が成立するか否かを判定する(ステップSD−1)。具体的には、第1演算制御装置52は、上述の図6のステップSC−2にて第3演算制御装置40から出力された信号が正常状態信号である場合、復帰条件が成立していると判定する。また、第1演算制御装置52は、上述の図6のステップSC−3にて第3演算制御装置40から出力された信号が異常状態信号である場合、復帰条件が成立していないと判定する。
【0090】
そして、第1演算制御装置52は、ステップSD−1で復帰条件が成立していないと判定した場合(ステップSD−1:No)、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40へ転舵制御の禁止の指令信号を出力して、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40に転舵制御の禁止状態を維持させる(ステップSD−2)。その後、ステップSD−1の処理へ戻る。
【0091】
一方、第1演算制御装置52は、ステップSD−1で復帰条件が成立していると判定した場合(ステップSD−1:Yes)、正常状態監視モードに移行する(ステップSD−3)。そして、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40へ正常状態復帰を監視中であることを示す正常状態復帰監視信号を出力する(ステップSD−4)。
【0092】
そして、第1演算制御装置52は、ステップSD−4で正常状態復帰監視信号を出力後、第1演算制御装置52により演算された左右前輪の目標転舵角Δδtが、正常状態復帰許可舵角δth以下であるか否かを判定する(ステップSD−5)。つまり、ステップSD−5において、第1演算制御装置52は、第1の目標制御量が第2閾値以下であるか否かを判定する。
【0093】
そして、第1演算制御装置52は、ステップSD−5で第1の目標制御量が第2閾値よりも大きいと判定した場合(ステップSD−5:No)、ステップSD−2の処理へ進み、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40に転舵制御の禁止状態を維持させる。その後、ステップSD−1の処理へ戻る。
【0094】
一方、第1演算制御装置52は、ステップSD−5で第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合(ステップSD−5:Yes)、正常状態監視モードを解除する(ステップSD−6)。そして、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40へ転舵制御の復帰を許可する指令信号を出力して、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40に転舵制御を実行させる(ステップSD−7)。その後、ステップSD−1の処理へ戻る。
【0095】
このように、実施形態2によれば、第1演算制御装置52は、第3演算制御装置40から受信した監視結果が正常であり(上記ステップSD−1:Yesに対応)、かつ、第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合のみ(上記ステップSD−5:Yesに対応)、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40に転舵制御を実行させることができる(上記ステップSD−7に対応)。また、実施形態2によれば、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置40から受信した監視結果が正常である場合であっても(上記ステップSD−1:Yesに対応)、第1の目標制御量が第2閾値よりも大きい場合には(上記ステップSD−5:Noに対応)、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40に転舵制御の禁止を維持させることができる(上記ステップSD−2に対応)。したがって、実施形態2によれば、第1演算制御装置52内で通信状態について確実な正常判定を行うことができるので、異常状態から正常状態への復帰を適切に行うことができる。
【0096】
なお、実施形態2において、第3演算制御装置40は、上記ステップSD−4で第1演算制御装置52から出力される正常状態復帰監視信号を受信した後、更に、第1算制御装置52より演算される第1の目標制御量を、複数の通信経路を介して受信する。そして、第3演算制御装置40は、第1演算制御装置52が正常状態復帰監視信号を出力中に第1通信経路を介して受信した第1の目標制御量と、第2通信経路を介して受信した第1の目標制御量とが一致しない場合には、通信異常と判定し、転舵制御の禁止状態を維持する。また、第3演算制御装置40は、第1演算制御装置52が正常状態復帰監視信号を出力中に第1通信経路または第2通信経路を介して受信した第1の目標制御量が第2閾値よりも大きいと判定した場合には、通信異常と判定し、転舵制御の禁止状態を維持する。したがって、実施形態2によれば、第3演算制御装置40内でも、通信状態についてより確実な正常判定を行うことができるので、異常状態から正常状態への復帰をより適切に行うことができる。
【0097】
更に、実施形態2において、第1演算制御装置52は、第3演算制御装置40から受信した監視結果が正常である場合(上記ステップSD−1:Yesに対応)、当該第1演算制御装置52の制御実行量を増加させる。具体的には、図8に示すように、第1演算制御装置52は、第2演算制御装置34および第3演算制御装置40へ正常状態復帰監視信号を出力中に、第1演算制御装置52内で目標制御量を一旦「0」にした後、所定の変化率勾配をもって当該目標制御量を漸増して、目標制御量が当初の値に達したときに、正常状態信号を第2演算制御装置34および第3演算制御装置40へ出力する。したがって、実施形態2によれば、転舵制御再実行時の制御量の急変を抑制できるので、異常状態から正常状態への復帰をより一層適切に行うことができる。
【0098】
なお、上述の実施形態2では、第3演算制御装置40が、第1通信経路を介して受信した第1の目標制御量と第2通信経路を介して受信した第1の目標制御量とが一致する状態が所定時間以上継続する場合、通信状態が正常であると判断する例を説明したが、これに限定されない。第3演算制御装置40は、第1の目標制御量と第2の目標制御量との差が所定値以下である場合、通信状態が正常であると判断してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上のように、本発明にかかる運転支援装置および運転支援方法は、自動車製造産業において有用であり、特に、複数の演算制御装置による車両制御において、異常状態から正常状態への復帰を適切に行うための利用に適している。
【符号の説明】
【0100】
14 ステアリングホイール
16 電動式パワーステアリング装置
24 転舵角可変装置
34 第2演算制御装置(転舵制御用電子制御装置)
40 第3演算制御装置(EPS制御用電子制御装置)
42 制動装置
52 第1演算制御装置(挙動制御用電子制御装置)
60 操舵角センサ
62 CAN
64 横加速度センサ
66 ヨーレートセンサ
68 車速センサ
70 圧力センサ
72FL〜72RR 圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置と第2演算制御装置とを備える車両制御システムであって、
前記第2演算制御装置は、
前記第2演算制御装置による転舵制御が禁止されている状態で、前記第1演算制御装置により演算された第1の目標制御量と、前記第2演算制御装置により演算された第2の目標制御量との差が、第1閾値以下である場合は、通信状態が正常であることを示す監視結果を、前記第1演算制御装置へ送信する監視結果送信手段、
を備え、
前記第1演算制御装置は、
前記監視結果が正常であり、かつ、前記第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合、前記第2演算制御装置に転舵制御を実行させる制御実行手段、
を備えたことを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記制御実行手段は、
前記監視結果が正常である場合であっても、前記第1の目標制御量が前記第2閾値よりも大きい場合は、前記第2演算制御装置に転舵制御の禁止を維持させることを特徴とする車両制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
前記制御実行手段は、
前記監視結果が正常である場合、前記第1演算制御装置の制御実行量を増加させることを特徴とする車両制御システム。
【請求項4】
通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置と第2演算制御装置と第3演算制御装置とを備える車両制御システムであって、
前記第3演算制御装置は、
前記第2演算制御装置および前記第3演算制御装置による転舵制御が禁止されている状態で、前記第1演算制御装置により演算された第1の目標制御量を、前記通信手段内の第1通信経路および第2通信経路を介して受信し、当該第1通信経路を介して受信した前記第1の目標制御量と当該第2通信経路を介して受信した前記第1の目標制御量とが一致する状態が所定時間以上継続する場合、通信状態が正常であることを示す監視結果を前記第1演算制御装置へ送信する監視結果送信手段、
を備え、
前記第1演算制御装置は、
前記監視結果が正常であり、かつ、前記第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合、前記第2演算制御装置および前記第2演算制御装置に転舵制御を実行させる制御実行手段、
を備えたことを特徴とする車両制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の車両制御システムにおいて、
前記制御実行手段は、
前記監視結果が正常である場合であっても、前記第1の目標制御量が前記第2閾値よりも大きい場合は、前記第2演算制御装置および前記第3演算制御装置に転舵制御の禁止を維持させることを特徴とする車両制御システム。
【請求項6】
請求項4に記載の車両制御システムにおいて、
前記制御実行手段は、
前記監視結果が正常である場合、前記第1演算制御装置の制御実行量を増加させることを特徴とする車両制御システム。
【請求項7】
通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置と第2演算制御装置とを備える車両制御システムにおいて実行される車両制御方法であって、
当該車両制御方法は、
前記第2演算制御装置において実行される、前記第2演算制御装置による転舵制御が禁止されている状態で、前記第1演算制御装置により演算された第1の目標制御量と、前記第2演算制御装置により演算された第2の目標制御量との差が、第1閾値以下である場合は、通信状態が正常であることを示す監視結果を、前記第1演算制御装置へ送信する監視結果送信ステップと、
前記第1演算制御装置において実行される、前記監視結果が正常であり、かつ、前記第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合、前記第2演算制御装置に転舵制御を実行させる制御実行ステップと、
を含むことを特徴とする車両制御方法。
【請求項8】
通信手段により互いに通信可能に接続された第1演算制御装置と第2演算制御装置と第3演算制御装置とを備える車両制御システムにおいて実行される車両制御方法であって、
当該車両制御方法は、
前記第3演算制御装置において実行される、前記第2演算制御装置および前記第3演算制御装置による転舵制御が禁止されている状態で、前記第1演算制御装置により演算された第1の目標制御量を、前記通信手段内の第1通信経路および第2通信経路を介して受信し、当該第1通信経路を介して受信した前記第1の目標制御量と当該第2通信経路を介して受信した前記第1の目標制御量とが一致する状態が所定時間以上継続する場合、通信状態が正常であることを示す監視結果を前記第1演算制御装置へ送信する監視結果送信ステップと、
前記第1演算制御装置において実行される、前記監視結果が正常であり、かつ、前記第1の目標制御量が第2閾値以下であると判定した場合、前記第2演算制御装置および前記第2演算制御装置に転舵制御を実行させる制御実行ステップと、
を含むことを特徴とする車両制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−35510(P2013−35510A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175311(P2011−175311)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】