説明

車両制御システム

【課題】自車両と他車両との通信性能が低下した場合であっても、自車両と他車両との相対位置関係を制御することが可能な車両制御システムを提供する。
【解決手段】自車両と他車両との間の通信障害の有無を判定し、通信障害が発生していない通常時には自車両の加減速プロファイルを送信し、通信障害が発生している場合には自車両の位置情報のみを送信する構成とする。これにより、通信性能が低下した場合にあっても通信量を減らして通信性能を確保することができる。そのため、受信側の制御車両は、受信した情報に基づいて自車両と他車両との相対位置関係を制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車車間通信可能な他車両と自車両との相対位置関係を制御することで、自車両と他車両との間の交通流を制御する車両制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、個々の車両の走行を制御することにより、道路の交通量を改善し、渋滞を緩和する試みがなされている。例えば、特許文献1では、走行道路前方の勾配の変化を検出し、サグ(上り坂への変化点)付近等で、走行道路前方に勾配の変化が検出されたら、車間距離制御から車速制御へ切り換えることで、車速変動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−137652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、自車両と当該自車両と通信可能な他車両との間で連携を取りながら互いの車間距離や車速を制御しようとした場合、一方の車両の加減速等によって通信性能が低下し通信による連携が取れなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、自車両と他車両との通信性能が低下した場合であっても、自車両と他車両との相対位置関係を制御することが可能な車両制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による車両制御システムは、自車両と、当該自車両と通信可能な先行車又は後続車である他車両との相対位置関係を制御して交通流を制御する車両制御システムにおいて、自車両の加減速制御に関する情報である加減速プロファイルを他車両に送信する情報送信手段と、自車両と他車両との間の通信障害の有無を判定する通信状態判定手段と、を備え、情報送信手段は、通常時に加減速プロファイルを送信し、通信状態判定手段によって通信障害有りと判定された場合に自車両の位置情報のみを送信することを特徴としている。
【0007】
このような車両制御システムによれば、自車両と他車両との間の通信障害の有無を判定し、通信障害が発生していない通常時に自車両の加減速プロファイルを送信し、通信障害が発生している場合に自車両の位置情報のみを送信するので、通信性能が低下した場合にあっても通信量を減らして通信性能を確保し、受信した情報に基づいて自車両と他車両との相対位置関係を制御することができる。
【0008】
また、他車両の加減速制御に関する情報である加減速プロファイルを受信する情報受信手段と、複数の他車両から位置情報を受信した場合に、受信した他車両の位置情報に基づいて、自車線前方の最も自車に近い他車両を制御対象車両として認識する制御対象車両認識手段と、制御対象車両である他車両と自車両との間に存在する車両の減速伝播の予測情報に基づいて、制御対象車両である他車両と自車両との相対位置関係を制御する走行制御手段とを備えることが好ましい。
【0009】
また、他車両の位置情報のみを受信した場合に、受信した他車両の位置情報、過去に受信した加減速プロファイル、及び当該加減速プロファイルの受信時刻からの経過時間に基づいて、他車両の加減速プロファイルを推定する加減速プロファイル推定手段を備えることが好ましい。
【0010】
また、通信障害有りと判定された場合に、送信可能であった加減速プロファイルに基づいて自車両の走行を制御することが好適である。
【0011】
また、加減速プロファイルとして、自車両の現在位置、現在の速度、目標地点の位置、当該目標地点における制御目標速度、速度制御を開始する位置、速度変化勾配に関する情報を算出する加減速プロファイル算出手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両制御システムによれば、自車両と他車両との通信性能が低下した場合であっても、自車両と他車両との相対位置関係を制御することが可能な車両制御システム
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る車両制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】サグ渋滞を模式的に示す図である。
【図3】ECUで実行される制御処理を示すフローチャートである。
【図4】交通流率及び平均速度の関係を示すグラフである。
【図5】速度及び車頭距離の関係を示すグラフである。
【図6】システム搭載車両及び非システム搭載車両を含む交通流を示す模式図である。
【図7】実施例に係る制御処理を示すフローチャートである。
【図8】他の実施例に係る制御を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る車両制御システムを説明する。本実施形態の車両制御システムは、本システムが適用される車両制御装置を搭載した複数の車両同士の相対位置関係を制御することで、交通流の改善するためのシステムである。図1に示すように、本実施形態の車両制御装置10は、車車間通信機12、路車間通信機14、ナビゲーションシステム16、各種センサー18、ECU(Electronic Control Unit)20及びACC(Adaptive Cruise Control)30を備えている。以下、車両制御装置10を搭載した車両を「システム搭載車両」ともいう。また、図2、図6及び図8に示すシステム搭載車両100Bを自車両として説明する。
【0015】
車車間通信機12は、車車間通信により自車両100B以外のシステム搭載車両100A,100Bの位置、速度あるいは渋滞を防止する車両制御をONあるいはOFFにしているか否かといった情報を相互に送受信するためのものである。
【0016】
路車間通信機14は、光ビーコン通信機等の路側施設から道路の交通量や道路を走行する車両の車速等の情報を受信するためのものである。本実施形態においては、路車間通信機14は必ずしも必須の構成ではない。
【0017】
ナビゲーションシステム16は、複数のGPS(Global Positioning System)衛星からの信号をGPS受信機で受信し、各々の信号の相違から自車両の位置を測位するGPSと、自車両内の地図情報を記憶させた地図情報DB(Data Base)とから構成されている。ナビゲーションシステム16は、自車両の経路案内を行う他、自車両前方のサグ520(図2参照)等の車速の低下が誘発されている地点に関する情報を取得するためのものである。例えば、ナビゲーションシステム16は、自車両のサグに対する相対位置を検出して、ECU20に出力する。
【0018】
各種センサー18は、例えば、自車速を検出するための車輪速センサー、自車両の加速度を検出するための加速度センサー(Gセンサー)、自車両が走行する車線を検出するための白線認識カメラ(前方撮像カメラ)などである。
【0019】
ECU20は、ナビゲーションシステム16からの自車両100Bのサグ520に対する相対位置に関する情報、及びACC30のレーダ32からの自車両100B周辺の他車両の相対位置と相対速度とに関する情報を入力する。また、ECUは、ナビゲーションシステム16及びACC30から入力された情報に基づいて、ACC30に対し、目標車速、加減速G及び目標車間距離といった走行制御指令値を出力する。
【0020】
ECU20は、演算処理を行うCPU、記憶部21となるROM及びRAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などにより構成されている。ECU20では、記憶部に記憶されたプログラムを実行することで、制御対象車両認識部22、通信制御部23、走行制御部24などが構成される。
【0021】
制御対象車両認識部22は、例えば車車間通信機12によって受信した他車両の位置情報に基づいて、自車両前方の同一車線上の最も近いシステム搭載車100Aを、制御対象車両として認識する。なお、制御対象車両は、その他の条件によって選定してもよい。
【0022】
車両制御装置10では、制御対象車両100Aから出力された各種情報を受信する。制御対象車両から出力された各種情報としては、制御対象車両100Aの現在位置/速度に関する情報、制御上の目標地点の位置(以下、「目標位置」ともいう。例えば、サグ520など)/制御対象車両100Aの目標位置における制御目標速度(以下、「目標速度」ともいう。)に関する情報、制御対象車両100Aが減速を開始する位置(以下、「減速開始位置」ともいう。)に関する情報、減速開始位置から目標位置までの減速勾配(減速度)に関する情報などを受信する。なお、車両の現在位置/速度、目標位置/速度、減速開始位置、減速度に関する情報を、「減速プロファイル」という。減速プロファイルは、車両の減速制御に関する情報であり、車両の挙動などに関する情報などその他の情報を含んでいてもよい。受信した制御対象車両の減速プロファイルは、記憶部21に記憶される。
【0023】
走行制御部24では、制御対象車両から出力された減速プロファイルに基づいて、制御対象車両の現在位置/速度、目標位置/速度、減速開始位置、減速度などを認識する。走行制御部24では、これらの情報に基づいて、自車両100Bの減速度、減速開始位置などを設定する。例えば、走行制御部24では、サグ520手前から減速制御を開始して、サグ520に至った時点で、速度、制御対象車両100Aとの車間距離L2が目標値となり、かつ、自車両100Bの直前を走行する前車200Bとの車間距離R2が目標値まで広がっているように自車両100Bの走行を制御する。
【0024】
走行制御部24では、制御対象車両100Aからのデータ受信状態が悪化した場合には、それまでに得られた制御対象車両100Aの各種情報(位置、速度、減速度情報)から制御対象車両の現在位置を推測する推測制御モードに移行し、減速制御を続行する。走行制御部24は、推測制御モードに移行した場合(他車両の位置情報のみを受信した場合)に、受信した他車両の位置情報、過去に受信した他車両の加減速プロファイル、及び当該加減速プロファイルの受信時刻からの経過時間に基づいて、他車両の加減速プロファイルを推定する加減速プロファイル推定手段として機能する。
【0025】
推測制御モードに移行した場合、制御対象車両100Aでは、減速開始位置、減速度、目標速度といった減速プロファイルを現状のまま固定して、制御対象車両100A自身の制御を続行する。制御対象車両100Aでは、過去の減速プロファイルを維持する一方で、新たな減速プロファイルの算出を継続し、制御車両100Bに対して減速プロファイルを送信する。
【0026】
制御車両の走行制御部24では、通信状態が改善された時点で、新たに受信した減速プロファイルに基づいて、推測された制御対象車両の位置に関する情報を補正する。一方、制御対象車両の走行制御部では、減速プロファイルの送信が成功した時点で新たな減速プロファイルに基づいて、制御対象車両自身の制御を続行する。
【0027】
通信制御部23は、自車両と他車両との間の通信障害の有無を判定する通信状態判定手段として機能する。また、通信制御部23は、自車両と他車両との間の通信を制御する通信制御手段として機能する。通信制御部23は、制御対象車両100Aから出力された減速プロファイルを受信したときの受信状態に関する情報を制御対象車両100Aに対して返信する。通信制御部23は、通常制御モード/推測制御モードのどちらで制御を実行しているかなどのモニタ値を制御対象車両に対して返信する。
【0028】
通信制御部23は、通常時(通常制御モード実行時)に自車両の減速プロファイルを送信する。通信制御部23は、通信障害が発生している場合に、自車両の位置情報のみを送信する。制御対象車両100Aでは、制御車両100Bの推測制御モードへの移行を確認したときに、自車両と他車両との間で通信障害がある(通信性能が低下している)と判定し、制御車両100Bに対して、現在の位置情報のみを繰り返し送信する。
【0029】
以下、本実施形態の車両制御システム(車両制御装置)の動作について説明する。まず、前提として、サグ520等で渋滞が発生する原因について説明する。例えば、先行する一般車両の減速で車間距離が詰まると、後続の一般車両も先行車両との車間距離を維持するため減速する。この場合、後続車両は先行車両よりも低い速度までの減速が必要であるため、減速が先行車両から後続車両に増幅しつつ伝播する減速伝播が生じ渋滞となる。
【0030】
図2では、制御対象となるサグ渋滞を模式的に示している。図2では、車両100A,100Bが、車両制御装置10を搭載したシステム搭載車両であり、車両200A〜200Cが車両制御装置10を搭載していない一般車両である。図2に示す状態では、先頭からシステム搭載車両100A、一般車両200A,200B、システム搭載車両100B、一般車両200Cが順に走行している。図2(a)では、サグ520手前を走行している状態、図2(b)では、サグ通過後の状態を示している。
【0031】
図3は、車両制御装置のECUで実行される制御処理を示すフローチャートである。車両制御装置10では、まず、路上の交通監視システムなどの情報から、交通流量を把握し、交通量が少ないときには、渋滞回避制御を行わないようにする。以下、システム搭載車両100Bを制御車両(自車両)、システム搭載車両100Aを制御対象車両(他車両)として説明する。
【0032】
まず、車両制御装置10では、自車両100Bが走行する道路の交通流量に関する情報、自車位置からサグ520までの距離に関する情報を取得する(S1)。ここでは、例えば、路上の交通監視システムから出力された情報を、路車間通信機14を用いて受信し、交通流量、サグ520までの距離を取得する。
【0033】
続くステップ2では、ECU20は、自車両100Bが走行する道路(車線)の交通流量が判定閾値より大きいか否かを判定する。交通量が判定閾値より大きいと判定された場合には、ステップ3に進み、交通量が判定閾値より大きいと判定されなかった場合には、処理を終了する。
【0034】
ステップ3では、車両制御装置10は、GPS測位センサー、車輪速センサー、前方撮像カメラなどの計測装置によって、自車両100Bの位置、車線、速度を検出する。
【0035】
次に、システム搭載車両100A,100Bは、検出したデータ(自車位置、自車線、自車速に関する情報)を、車車間通信機12を用いて送信、受信する(S4)。
【0036】
そして、自車両100BのECU20では、受信したデータに基づいて、自車両100Bと同一車線上の前方に存在するシステム搭載車両100Aを制御対象車両として認識する(S5)。
【0037】
次に、制御対象車両100A及び制御車両100B間に存在する一般車両(非システム搭載車両)200A,200Bの台数X(2台)と、平均車間距離D1を推定する。ここでは、路上の交通監視システムによって直接測定された値を用いることができる。また、現在の自車速V1でもっとも車間距離つまっていると仮定し、速度と車間距離との関係の統計データ(図5参照)に基づいて、その速度での最も車間がつまった値を平均車間距離D1として推定しても良い。また、台数Xは、車車間通信によって取得した車両100A,100B間の車間距離を平均車間距離D1で割ること推定することができる。
【0038】
次に、走行制御部24では、目標位置であるサグ520における目標速度V2、前車200Bとの車間距離の目標値R2を算出する。目標速度V2は、速度と交通流量との関係の統計データ(図4参照)に基づいて、交通流量が最大となる速度を算出する。ここでは、例えば、約60km/hとなる。目標車間距離R2は、減速が伝播しない距離とすることが好ましく、時速60km/hの場合、一般的に約60mの車間距離が必要とされている。
【0039】
目標位置であるサグ520におけるシステム搭載車両100A,100Bの車間距離L2は、車間距離(L2)=一般車両台数(X)×平均車間距離(D2)+目標車間距離(R2)…(1)によって算出することができる。
【0040】
次に、制御車両100Bの車両制御装置10は、制御対象車両100Aの現在位置/速度、目標位置/速度、減速G(減速度)などの減速プロファイルを受信する。走行制御部24は、受信した減速プロファイルに基づいて、目標位置であるサグ520において、システム搭載車両100A,Bの車間距離が目標車間距離L2となるように、減速開始位置、減速Gを決定する(S6)。
【0041】
次に、ECU20では、自車両100Bの現在の車速−目標車速が閾値より小さいか否かを判定する(S7)。自車両100Bの現在の車速−目標車速が閾値より小さいと判定された場合には、ステップ8に進み、自車両100Bの現在の車速−目標車速が閾値より小さいと判定されなかった場合には、処理を終了する。
【0042】
ステップ8では、減速開始位置更新処理(例えば図7に示す制御目標値更新処理)を行う。詳しくは後述する。
【0043】
続くステップ9では、自車両100Bが減速開始位置に到達したか否かを判定する。例えば、GPS測位センサーからの情報に基づいて、自車位置を認識し、減速開始位置に到達したか否かを判定する。減速開始位置に到達していない場合には、ステップ8に戻り、減速開始位置に到達した場合には、ステップ10に進み、所定の減速Gで減速制御を開始する。車両制御装置10は、目標サグ位置520で目標速度(V2)となり制御対象車両100Aとの車間距離L2となるように減速制御を実行する。
【0044】
次に、ステップ11では、目標速度更新処理(例えば図7に示す制御目標値更新処理)を行う。詳しくは後述する。
【0045】
続くステップ12では現在の自車速が目標速度であるか否かを判定する。現在の自車速が目標速度ではない場合には、ステップ11に戻り走行制御を継続する。現在の自車速が目標速度である場合に処理を終了する。現在の速度が目標速度以下だった場合には、減速不可となり制御を中止する。
【0046】
また、上記手順で算出した制御車両100Bの減速プロファイルは、さらに後方のシステム搭載車両に送信される。このような制御処理を行うことによって、システム搭載車両同士の車間距離を順次調整し、交通流を改善して渋滞発生を抑制することができる。
【0047】
次に、図7を参照して、制御目標値更新処理(減速開始位置更新処理、目標速度更新処理)について説明する。図6では、制御対象となる複数の車両を含む交通流を模式的に示している。図6では、車両100A〜100Cが、車両制御装置10を搭載したシステム搭載車両であり、車両200A〜200Cが車両制御装置10を搭載していない一般車両である。図6に示す状態では、先頭からシステム搭載車両100A、一般車両200A,システム搭載車両100B、一般車両200B,200C、システム搭載車両100Cが順に走行している。システム搭載車両100Cは、その前方のシステム搭載車両100Bに対して相対位置関係を制御し、システム搭載車両100Bは、その前方のシステム搭載車両100Aに対して相対位置関係を制御する。ここでは、システム搭載車両100Cを自車両とし、システム搭載車両100Bを制御対象車両とする。
【0048】
システム搭載車両100Cは、前方のシステム搭載車両100Bの現在位置/速度、目標位置/速度、減速Gなどの減速プロファイルを、車車間通信機12を用いて受信する。車両100Cの車両制御装置10では、受信した減速プロファイルに基づいて自車両100Cの減速プロファイルを算出し、減速制御を実行する。
【0049】
自車両100Cが減速中に制御対象車両100Bは、その前方のシステム搭載車両100Aに対して制御を実行しており、車両100Bの減速プロファイルは、システム搭載車両100Aの挙動によって変化する場合があり、この場合には、自車両100Cは、車両100Bの減速プロファイルが変化するたびに、車両100Bの減速プロファイルを受信して、自車両100Cの減速プロファイルを更新することになる
【0050】
アドホック型の車車間通信システムでは一般的に通信可能距離が数百mと言われている。今回対象としているアプリケーションでは、減速制御により前方車両との車間距離を開けていく制御を行うため、制御中に通信可能距離以上の車間距離となってしまい、途中から減速プロファイルを受信できなくなってしまうおそれがある。
【0051】
図7は、制御目標値更新処理(減速開始位置更新処理、目標速度更新処理)のフローチャートである。まず、車両100Cの車両制御装置10は、自車両の位置/速度を検出する(S21)。次に、前方の制御対象車両100Bから出力された減速プロファイルを受信する(S22)。
【0052】
次に、通信制御部23は、受信エラー率>閾値が成立するか否かを判定する(S23)。制御対象車両100Bからの受信エラー率が閾値より大きい場合、走行制御部24は、推測制御モードに移行し、過去に受信済みの減速プロファイルと受信時刻からの経過時間に基づいて、制御対象車両100Bの位置/速度を推定して、自車両100Cの減速開始位置、減速Gを更新して制御を続行する(S24)。ただし、通信状態が改善し、制御対象車両100Bの新たな減速プロファイルを受信できた場合には推測値を補正する(S25)。
【0053】
一方、制御対象車両100Bは、さらに前方のシステム搭載車両100Aから出力された減速プロファイルを受信し、受信したシステム搭載車両100Aの減速プロファイルに基づいて、制御対象車両100Bの減速プロファイルを算出し(S26)、減速制御を実行している。
【0054】
しかし、上述したように、車両100Cと車両100Bとの通信状態が悪化した場合、車両100Bの車両制御装置10は、新たに算出した減速プロファイルを用いずに、それまでの減速プロファイルで自車両100Bの走行制御を続行する。
【0055】
そして、車両100Bの車両制御装置10は、車両100Cとの通信状態が改善し、減速プロファイルの送信の成功を確認(S27)した時点で、送信可能となった新しい減速プロファイルに基づいて制御目標値(減速開始位置、目標速度、減速G)を更新する。
【0056】
通信状態が改善しなかった場合は、車両100Bは、車両100Aに対する柔軟な制御ができないが、車両100A,100B間で通信可能で、車両100B,100C間で通信範囲外となる場合は、車両100A,100B間に存在する一般車両200Aの台数よりも車両100B,100C間に存在する一般車両200B,200Cの方が多いと考えられるので、車両100A,100B間での減速伝播よりも車両100B,100C間の減速伝播の方が、減速度が大きくなり、車両100B,100C間の制御を優先した方がより効果的に渋滞を防止することができる。
【0057】
このような車両制御システムでは、システム搭載車両間の通信障害の有無を判定し、通信障害が発生していない通常時に加減速プロファイルを送信し、通信障害が発生している場合に位置情報のみを送信するので、通信性能が低下した場合にあっても通信量を減らして通信性能を確保し、受信した情報に基づいてシステム搭載車両同士の相対位置関係を制御することができる。これにより、交通流を改善して、渋滞の発生を防止することができる。
【0058】
次に、他の実施例に係る制御処理について説明する。ここでの制御処理は基本的に図7に示すフローチャートに従う。しかし、上述した実施例に係る制御では、制御車両と制御対象車両との双方が同時に通信状態の悪化を判断する必要がある。これは通信方式がRequest-Ack型の半二重通信であれば、パケットの再送要求回数などで、双方が通信チャネルの状態を同時に把握することができる。しかし、全二重通信の場合では、上りチャネルと下りチャネルの通信状態が異なる場合もあり、また不特定多数にパケットを送付するフラッディング型のパケット通信を行った場合には、減速プロファイルを送信した制御対象車両は、制御車両との受信状態を把握できない。さらに、上述の実施例に係る制御では、受信状態が悪化した時に、時々受信できる情報で推測位置を補正しているが、現在位置/速度、目標位置/速度、減速開始位置/減速度といった減速プロファイルを送信した場合、たまたま受信できたパケットに現在位置の情報が含まれているとは限らない。
【0059】
そこで、他の実施例に係る制御処理では、図8に示すように通信を行う。通常制御モードでは、制御対象車両100Aは、制御車両100Bに減速プロファイルを送信し、一方、制御車両100Bは、制御対象車両100Aに受信パケットエラー率もしくは受信ビットエラー率もしくは通常制御モード実行中であることを示すモードフラグを送信する。
【0060】
制御対象車両100Aは、制御車両100Bから出力された情報に基づいて通信性能が低下しているか否か(通信障害の有無)を判定する。受信した受信エラー率が閾値を超えた場合、もしくは、モードフラグに基づいて推測制御モードに移行したことを確信した場合には、制御対象車両100Aは、上述した実施例と同様に制御目標値の更新を停止し、かつ、制御車両100Bへの減速プロファイルの送信を停止する。また、通信制御部23は、低速通信モードとして自車両の現在位置情報のみを全パケットに挿入して制御車両100Bに送信する。
【0061】
また、車両100Aから車両100Bへの通信チャネルの状態が悪化する前に、車両100Bから車両100Aへの通信チャネルの状態が悪化してしまい、受信エラー率やモードフラグの変化を受信できない場合もある。そこで、車両100Aの通信制御部23は、車両100Bから車両100Aへの通信チャネルのパケットエラー率もしくはビットエラー率も監視しており、この値が閾値以上になった場合も車両制御装置10は推測制御モードへ移行する。この場合には、車両100Bは車両100Aからの減速プロファイルが現在位置情報のみに変更されたことを検知することで、同時に推測制御モードへ移行することができる。
【0062】
このような通信制御を行う車両制御システムでは、車両100A,100Bが同時に制御モードを移行することができ、また、車両100Aから車両100Bへの全パケットに、現在位置情報を挿入することで、たまにしかパケットを受信できないような状態であっても車両Bは、減速プロファイルの補正回数を多くすることができる。その結果、自車両と他車両との通信性能が低下した場合であっても、自車両及び他車両の相対位置関係を制御することができ、交通流を改善することができる。
【0063】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、自車両の前方を走行する先行車を制御対象車両と設定し、当該先行車と自車両との相対位置関係を制御しているが、自車両の後方を走行する後続車を制御対象車両と設定して、当該後続車と自車両との相対位置関係を制御する構成でもよい。また、加速制御を行うことで、相対位置関係を制御してもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…車両制御装置、12…車車間通信機、14…路車間通信機、16…ナビゲーションシステム、20…ECU、21…記憶部、22…制御対象車両認識部、23…通信制御部、24…走行制御部(走行制御手段、加減速プロファイル算出手段、加減速プロファイル推定手段)、30…ACC、32…レーダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両と、当該自車両と通信可能な先行車又は後続車である他車両との相対位置関係を制御して交通流を制御する車両制御システムにおいて、
自車両の加減速制御に関する情報である加減速プロファイルを前記他車両に送信する情報送信手段と、
自車両と前記他車両との間の通信障害の有無を判定する通信状態判定手段と、を備え、
前記情報送信手段は、通常時に前記加減速プロファイルを送信し、前記通信状態判定手段によって通信障害有りと判定された場合に自車両の位置情報のみを送信することを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
複数の他車両から位置情報を受信した場合に、受信した他車両の前記位置情報に基づいて、自車線前方の最も自車に近い他車両を制御対象車両として認識する制御対象車両認識手段と、
前記制御対象車両から出力された加減速プロファイルに基づいて、自車両と当該制御対象車両である他車両との相対位置関係を制御する走行制御手段と、を備えることを特徴とする請求項1記載の車両制御システム。
【請求項3】
他車両の位置情報のみを受信した場合に、受信した他車両の位置情報、過去に受信した加減速プロファイル、及び当該加減速プロファイルの受信時刻からの経過時間に基づいて、前記他車両の加減速プロファイルを推定する加減速プロファイル推定手段を備える請求項1又は2記載の車両制御システム。
【請求項4】
通信障害有りと判定された場合に、送信可能であった加減速プロファイルに基づいて自車両の走行を制御する請求項1〜3の何れか一項に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記加減速プロファイルとして、自車両の現在位置、現在の速度、目標地点の位置、当該目標地点における制御目標速度、速度制御を開始する位置、速度変化勾配に関する情報を算出する加減速プロファイル算出手段を備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−28639(P2011−28639A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175538(P2009−175538)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】