説明

車両制御装置

【課題】電力が確保されている状態であるエンジン停止前までに左右車輪についての中立復帰を行う車両制御装置を提供する。
【解決手段】車両制御装置は、左右後輪RW1、RW2を転舵するための電動モータ21を備えている。電動モータ21は、後輪転舵制御回路34により制御され、左右後輪RW1、RW2を目標舵角に転舵する。後輪転舵制御回路34は、イグニッションスイッチ37がオン状態からオフ状態へ切換られたことに応答して、電動モータ21を駆動して左右後輪RW1、RW2を中立位置に復帰させ、中立位置に復帰が完了した後にエンジンEを停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の停止時に左右車輪を中立位置に復帰させる車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の停止時に、左右車輪を中立位置に復帰させる車両制御装置に関しては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。この車両制御装置は、左右前輪を転舵するための電動モータを備え、イグニッションキーがオン状態からオフ状態に切換えられた後に、イグニッションキーセンサ、シフト位置センサ及びドア開閉センサを用いて車両に乗員が乗っていない状態(非乗車状態)か否かを判定し、非乗車状態と判定したとき、電動モータを駆動して左右前輪の中立復帰制御を行う。このため、この装置では、車両に乗員が乗っていない状態で中立復帰制御を行うため、乗員に違和感を与えることなく左右前輪の中立復帰を行うことができる。
【特許文献1】特開2004−90837号公報
【発明の開示】
【0003】
ところで、上記した特許文献1に記載されている車両制御装置では、イグニッションスイッチがオフ状態に切換えられてからドアの開閉が確認された後に、バッテリの電力を用いて左右前輪の中立復帰制御を行うため、バッテリの残存電力の如何によっては左右前輪を中立位置に復帰できない場合がある。また、中立位置に復帰できるだけの電力がバッテリに確保されていたとしても、中立復帰制御に電力が消費された結果、次回エンジンを始動するときに、エンジンの始動に必要とする電力が不足する恐れがある。
【0004】
本発明は、上記課題に対処するためになされたものであり、電力が確保されている状態であるエンジン停止前までに左右車輪を中立位置に復帰させる車両制御装置を提供することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するために本発明では、左右車輪を転舵するためのアクチュエータと、前記アクチュエータを駆動制御して前記左右車輪を目標舵角に転舵する転舵制御手段と、エンジンの作動を制御するエンジン制御手段とを備えた車両制御装置において、イグニッションスイッチがオン状態からオフ状態に切換えられたことに応答して、前記アクチュエータを駆動して前記左右車輪を中立位置に復帰させる中立復帰手段と、前記中立復帰手段によって前記左右車輪が中立位置に復帰した後、前記エンジン制御手段にエンジン停止信号を出力してエンジンを停止させるエンジン停止手段と、を設けたことに特徴がある。
【0006】
上記発明では、イグニッションスイッチがオン状態からオフ状態に切換えられたことに応答して、左右車輪を中立位置に復帰させる中立復帰制御が行われた後に、エンジン制御手段にエンジン停止信号が出力されてエンジンが停止する。このため、本発明では、エンジンが回転していて電力が確保されているときに中立復帰制御が行われるため、バッテリの残存電力に左右されずに左右車輪の中立復帰を必ず行うことができる。また、エンジンを次回に始動するときにも、左右車輪の中立復帰制御によってバッテリの残存電力が消費されていないので、エンジンの始動に要する電力が不足する事態を回避することができる。
【0007】
また、本発明の実施に際して、前記中立復帰手段は左右後輪を中立に復帰させるとよい。これにより、イグニッションスイッチがオン状態からオフ状態に切換えられた際に、左右車輪としての左右後輪が中立位置に復帰する。その結果、運転者が車両を発進させる際に確認を怠る可能性が高い後輪が、イグニッションスイッチをオフ状態に切換えたときに中立位置に必ず復帰するので、車両を発進させる際に、後輪が据え切り状態のままにされていて予期せぬ方向に車両が移動する事態を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明による車両制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態による車両制御装置の全体構成を概略的に示している。この車両制御装置は、左右前輪FW1、FW2を転舵する前輪転舵機構10と、左右後輪RW1、RW2を転舵する後輪転舵機構20と、後輪転舵機構20を電気的に制御するとともにエンジンEの作動を制御する電子制御装置30とを備えている。
【0009】
前輪転舵機構10は、回動操作により左右前輪FW1、FW2を転舵する操舵ハンドル11を備え、同ハンドル11には操舵軸12の上端が固定されている。操舵軸12の下端部はステアリングギヤボックス13内にてラックバー14に噛合している。ラックバー14はステアリングギヤボックス13内に軸方向に変位可能に支持されるとともに、両端にてタイロッド15a、15b及びナックルアーム16a、16bを介して左右前輪FW1、FW2を転舵可能に連結している。
【0010】
後輪転舵機構20は、後輪を転舵するための電動モータ21を備えている。電動モータ21の回転軸は、ステアリングギヤボックス22内にて減速機構を介して軸方向に変位可能に支持されたリレーロッド23に接続されており、同ロッド23は電動モータ21の回転に応じて軸方向に変位する。リレーロッド23の両端にはタイロッド24a、24b及びナックルアーム25a、25bを介して左右後輪RW1、RW2が転舵可能に接続されていて、左右後輪RW1、RW2はリレーロッド23の軸方向の変位に応じて転舵される。
【0011】
電子制御装置30は、車速センサ31、前輪舵角センサ32及び後輪舵角センサ33を備えている。車速センサ31は、変速機(図示しない)の出力軸の回転を測定することにより車速Vを検出して、同車速Vを表す検出信号を出力する。前輪舵角センサ32は、操舵軸12の回転角を測定することより左右前輪FW1、FW2の舵角θfを検出して、同舵角θfを表す検出信号を出力する。後輪舵角センサ33は、電動モータ21の回転軸の回転角を測定することにより左右後輪RW1、RW2の舵角θrを検出して、同舵角θrを表す検出信号を出力する。なお、前輪舵角θf及び後輪舵角θrは左回転方向を正とし、右回転方向を負とする。
【0012】
これらのセンサ31〜33は、後輪転舵制御回路34に接続されている。後輪転舵制御回路34は、CPU、ROM、RAM、I/Fなどからなるマイクロコンピュータによって構成されている。CPUは、ROM内に記憶した後輪転舵制御プログラム(図2のフローチャートに対応したプログラム)を実行することにより、左右後輪RW1、RW2を転舵制御する。なお、後輪転舵制御回路34(CPU)は、イグニッションスイッチ37がオン状態に切換えられると、イグニッションスイッチ37からの信号を受けて作動を開始する。
【0013】
また、電子制御装置30は、駆動回路35と電源回路36を備えている。駆動回路35は、電源回路36を介してバッテリ40から電力の供給を受け、後輪転舵制御回路34からの制御信号に応じて駆動電流を電動モータ21に流して、電動モータ21の回転を制御する。電源回路36は、バッテリ40からの電力の供給を受けて、後輪転舵制御回路34、駆動回路35及びエンジン制御装置38に電力を供給する。なお、バッテリ40は、エンジンEの作動中にオルタネータ41によって充電される。
【0014】
また、電子制御装置30は、エンジン制御装置38を備えている。エンジン制御装置38は、イグニッションスイッチ37がオン状態に切換えられると、イグニッションスイッチ37の信号を受けて、エンジンEの作動を開始させる。また、エンジン制御装置38は、後輪転舵制御回路34からエンジン停止信号を受け、エンジンEの作動を停止させる。
【0015】
また、エンジン制御装置38は、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルポジションセンサ、スロットルバルブの開度を検出するスロットルポジションセンサ、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサなどを備えていて、これらの検出結果に応じて、エンジンEの回転を制御する。なお、エンジンが作動していない状態においては、オルタネータ41による発電電力が得られていないため、各種回路にはバッテリ40のみから電力が供給されることになる。したがって、エンジンEの始動時においては、バッテリ40のみから大量の電流が引き出されてバッテリ40の電圧が大きく低下する。
【0016】
次に、上記のように構成した実施例の動作を説明する。イグニッションスイッチ37がオン状態に切換えられると、エンジン制御装置38は、エンジンEの作動を開始する。その後、エンジン制御装置38は、図示しないプログラムの実行により、前述した各種センサからの検出信号を用いてエンジンEの回転を制御する。
【0017】
一方、上記イグニッションスイッチ37のオン状態への切換えにより、後輪転舵制御回路34内のマイクロコンピュータは、図2に示した後輪転舵制御プログラムの実行を開始し、ステップ110にて各センサ31〜33から車速V、前輪舵角θf及び後輪舵角θrを表す各検出信号をそれぞれ入力する。
【0018】
次に、ステップ120にて、イグニッションスイッチ37がオン状態であるか否かを判定する。この場合、イグニッションスイッチ37がオン状態であれば、「YES」と判定してプログラムをステップ130に進める。ステップ130においては、舵角比例係数Kと前輪舵角θfを用いて、下記式1の演算の実行によって左右後輪RW1、RW2の目標舵角θr*を計算する。舵角比例係数Kは、ROMに設けたテーブルに記憶されていて、車速Vが低い場合は負の値となり、車速Vが高い場合は正の値となる変数である。このため、左右後輪RW1,RW2は、図3に示すように、車速Vが低い場合は左右前輪FW1、FW2に対して逆相となるように転舵され、車速Vが高い場合は左右前輪FW1、FW2に対して同相となるように転舵される。
θr*=K・θf・・・式1
【0019】
この目標舵角θr*の計算後、ステップ130にて計算した目標舵角θr*と後輪舵角θrの偏差θr*−θrを表す制御信号を駆動回路35に出力する。駆動回路35は、上記制御信号に応じた駆動電流を電動モータ21に流して上記偏差θr*−θrが「0」となるように、電動モータ21の回転を制御する。電動モータ21の回転は、リレーロッド23に伝達されて同ロッド23は前記回転に応じて軸方向に変位する。このリレーロッド23の軸方向の変位はタイロッド24a、24b及びナックルアーム25a、25bを介して左右後輪RW1、RW2に伝達されて、同後輪RW1、RW2は目標舵角θr*に転舵される。
【0020】
ステップ140の処理後、プログラムをステップ110に戻して、車速V、前輪舵角θf及び後輪舵角θrを表す各検出信号をそれぞれ入力した後、ステップ120にて、イグニッションスイッチ37がオン状態であるか否かを再び判定する。そして、イグニッションスイッチ37がオン状態である限り、ステップ120における「YES」との判定を基に、ステップ110〜140からなる循環処理を繰り返し実行して、左右後輪RW1、RW2を目標舵角θr*に転舵する。
【0021】
次に、イグニッションスイッチ37がオン状態からオフ状態に切換えられた場合について説明する。この場合、上記したステップ110〜140からなる循環処理中に、ステップ120にて「NO」と判定して、プログラムをステップ150に進める。ステップ150においては、後輪舵角センサ33から入力された後輪舵角θrの絶対値|θr|が所定値θr0より大きいか否かを判定する。所定値θr0は、後輪舵角θrの絶対値|θr|がほぼ「0」、すなわち、左右後輪RW1、RW2が中立位置に復帰したとみなせる程度に小さな値である。
【0022】
後輪舵角θrの絶対値|θr|が所定値θr0より大きい場合は、ステップ150にて「YES」と判定して、プログラムをステップ160に進める。ステップ160においては、左右後輪RW1、RW2を中立位置に復帰させるために上記式1を用いずに、目標舵角θr*を「0」に設定して後輪舵角θrとの偏差θr*−θr(すなわち、−θr)を表す制御信号を駆動回路35に出力する。駆動回路35は、上記制御信号に応じた駆動電流を電動モータ21に流して、上記偏差θr*−θr(すなわち、−θr)が「0」となるように電動モータ21の回転を制御する。これにより、後輪RW1、RW2は、中立位置に向かってに転舵される。
【0023】
ステップ160の処理後、プログラムをステップ110に戻して、ステップ110、120を経由して、ステップ150にて、後輪舵角θrの絶対値|θr|が所定値θr0より大きいか否かを再び判定する。左右後輪RW1、RW2が中立位置に復帰されていなければ、「YES」と判定して、上記絶対値|θr|が所定値θr0以下になるまでステップ110、120、150、160からなる循環処理を繰り返し実行して、左右後輪RW1、RW2を中立位置に復帰制御する。この左右後輪RW1、RW2の中立位置への復帰制御により、上記絶対値|θr|が所定値θr0以下になると、プログラムをステップ170に進める。
【0024】
ステップ170では、エンジン停止信号をエンジン制御装置38に出力する。これにより、エンジン制御装置38は、上記制御信号に応じてエンジンEを停止し、本実施形態における後輪転舵制御の一連の作動は終了する。
【0025】
以上説明したように、本実施形態では、イグニッションスイッチ37がオン状態からオフ状態へ切換えられると、中立復帰制御が行われて左右後輪RW1、RW2が中立位置に復帰した後に、エンジン制御装置38にエンジン停止信号が出力されてエンジンEが停止する。このため、本実施形態では、エンジンEが回転していて電力が確保されているときに中立復帰制御が行われるため、バッテリ40の残存電力に左右されずに左右後輪RW1、RW2を必ず中立位置に復帰させることができる。また、エンジンEを次回に始動するときにも、上記中立復帰制御によってバッテリ40の残存電力が消費されていないので、この中立復帰制御によりエンジンEの始動に必要な電力が不足するという事態を回避することができる。
【0026】
以上、本発明の車両制御装置に係る一実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0027】
例えば、上記実施形態では、イグニッションスイッチ37がオフ状態に切換えられた後に、後輪舵角θrの絶対値|θr|が所定値θr0より大きいか否かを判定し、後輪舵角θrの絶対値|θr|が所定値θr0以下となったらエンジン停止信号をエンジン制御回路に出力してエンジンEを停止するようにした。しかし、これに代えて、イグニッションスイッチ37がオフ状態に切換えられてから中立復帰制御にかかる時間を予め設定しておいて、イグニッションスイッチ37がオフ状態に切換えられて上記設定時間を経過した後に、エンジン停止信号をエンジン制御装置38に出力し、エンジンEを停止するようにしてもよい。
【0028】
また、上記実施形態においては、左右後輪RW1、RW2のみを中立復帰制御するようにしたが、左右前輪FW1、FW2も中立復帰制御するようにしてもよい。この場合は、左右前輪FW1、FW2も電動式のアクチュエータで転舵可能にしておき、イグニッションスイッチ37のオン状態からオフ状態へ切換えに応答して、上記アクチュエータを駆動制御して、左右前輪FW1、FW2を中立位置に復帰させるようにするとよい。そして、この場合も、左右前輪FW1、FW2の中立位置への復帰後に、エンジンEを停止する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による車両制御装置に係る実施形態を概略的に示した全体概略図である。
【図2】図1の後輪転舵制御回路によって実行される後輪転舵制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】車速に対する舵角比例係数の変化特性図である。
【符号の説明】
【0030】
FW1、FW2…前輪、RW1,RW2…後輪、E…エンジン、10…前輪転舵機構、20…後輪転舵機構、21…電動モータ、30…電子制御装置、34…後輪転舵制御回路、35…駆動回路、37…イグニッションスイッチ、38…エンジン制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右車輪を転舵するためのアクチュエータと、前記アクチュエータを駆動制御して前記左右車輪を目標舵角に転舵する転舵制御手段と、エンジンの作動を制御するエンジン制御手段とを備えた車両制御装置において、
イグニッションスイッチがオン状態からオフ状態に切換えられたことに応答して、前記アクチュエータを駆動して前記左右車輪を中立位置に復帰させる中立復帰手段と、
前記中立復帰手段によって前記左右車輪が中立位置に復帰した後、前記エンジン制御手段にエンジン停止信号を出力してエンジンを停止させるエンジン停止手段と、
を設けたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記中立復帰手段は左右後輪を中立に復帰させることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−18177(P2010−18177A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180994(P2008−180994)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】