車両制御装置
【課題】制振制御を行う場合に走行用駆動源の制御モードが切替わるのを抑制して乗り心地を向上させる。
【解決手段】ドライバの要求するドライバ要求駆動力を推定するドライバ要求駆動力推定装置10と、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求駆動力に基づいてエンジン制御する実現系20と、制御対象車両30と、ばね上制振要求駆動力を出力して制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御を行うばね上制振制御装置40とを備える。そして、バネ上制振制御装置40は、制御対象車両30からのフィードバック入力に基づいてばね上制振要求駆動力を算出し、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域では、バネ上制振要求駆動力の出力を禁止する。これにより、バネ上制振フィードバック制御に起因する燃焼モード及びマルチ噴射モードの頻繁な切替わりを抑制することができる。
【解決手段】ドライバの要求するドライバ要求駆動力を推定するドライバ要求駆動力推定装置10と、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求駆動力に基づいてエンジン制御する実現系20と、制御対象車両30と、ばね上制振要求駆動力を出力して制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御を行うばね上制振制御装置40とを備える。そして、バネ上制振制御装置40は、制御対象車両30からのフィードバック入力に基づいてばね上制振要求駆動力を算出し、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域では、バネ上制振要求駆動力の出力を禁止する。これにより、バネ上制振フィードバック制御に起因する燃焼モード及びマルチ噴射モードの頻繁な切替わりを抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両制御装置は、エンジンの燃料噴射制御を行うことで、路面から入力されるばね上振動を抑制するばね上制振制御を行っている。このばね上制振制御は、例えば、駆動輪変化からピッチングを推定し、この推定したピッチングを抑制するように燃料噴射量を調整してエンジントルクを制御するものである。
【0003】
ディーゼルエンジンの場合、エンジントルクは燃料噴射量で決まり、エンジントルクと燃料噴射量とは互いに換算可能となる。このため、ディーゼルエンジンでは、アクセル開度、車速、ギア段などから算出されたドライバ要求トルクにばね上制振制御の制御量を加算し、この要求トルクを燃料噴射量に換算することでエンジンの燃料噴射制御を行っている。
【0004】
一方、ディーゼルエンジンの場合、触媒やEGRなどを用いて排気対策を行っているが、触媒にパティキュレートや硫黄が触媒に堆積して触媒の性能が低下しないように、再生制御も行っている。この再生制御は、EGR量を制御するとともに、触媒の昇温制御、触媒に入る空燃比を制御する主噴射の量、噴射時期、パイロット噴射やアフター噴射などのマルチ噴射を制御する。また、ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物を抑制するためにも、EGR量の制御や、マルチ噴射の制御を行う。これらは、エンジンの燃焼モード及びマルチ噴射モードなどの制御モードとして、主に、アクセル開度やギア段などのドライバ要求から算出される噴射量と、エンジン回転数によって組合せが決められ、最適化されている。
【0005】
ところで、このような制御モードが切替わると、噴射量や噴射時期などが変わって急激なトルク変動が生じる。このため、特許文献1では、これらの制御モードが頻繁に切替わるのを抑制するために、パイロット噴射を行うパイロット領域とパイロット噴射を行わない通常領域との間の遷移領域にヒステリシスを設けている。更に、特許文献1では、この遷移領域において、パイロット噴射の燃料噴射量、パイロット噴射と主噴射との時間間隔、主噴射の燃料噴射量、燃料噴射時期を連続的に変化させることで、急激なトルク変動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−173186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したばね上制振制御を反映させることで燃料噴射量が変わるため、制御モードの切替え領域にヒステリシスを設けたとしても、頻繁に制御モードが変化する場合がある。制御モードが変わると、ドライバの要求トルクに対する実トルクの位相ずれやゲイン(要求トルクに対する実トルクの大きさ)の変化が生じる。すなわち、制御モードが変わると、EGRの有無やマルチ噴射の形態が短い時間の中で変化することで、EGRガスの応答性やマルチ噴射の違いにより実トルクが要求トルクと異なった場合に、制御モードの切替え前後でトルク差が生じ、位相のずれやゲインが変化する。そして、位相がずれると、ピッチング周波数からずれた制振制御となってピッチングの抑制が不十分となり、ゲインが変化すると、過剰な制振制御のために所謂ゴツゴツ感が発生したり、制振制御の不足のためにピッチングの抑制が不十分になったりする。このように、従来の車両制御装置では、ばね上制振制御を行ったとしても、制御モードの頻繁な変化によって乗り心地や操縦安定性の改善の効果が十分に期待できないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、制振制御を行う場合に走行用駆動源の制御モードが切替わるのを抑制して乗り心地を向上させることができる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両制御装置は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、走行用駆動源の状況に応じて選択される走行用駆動源の制御モードの状況に応じて制振制御の制御態様を変更することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る車両制御装置によれば、走行用駆動減の制御モードの状況に応じて制振制御の制御態様を変更することで、走行用駆動減の制御モードに適した制振制御を行うことができる。
【0011】
本発明に係る車両制御装置は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、走行用駆動源の状況に応じて選択される走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では、制御モードが切替わらない領域に比べて制振制御の作用状態(制御量)を小さくすることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る車両制御装置によれば、走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では、この制御モードが切替わらない領域に比べて制振制御の作用状態(制御量)を小さくすることで、制御モードが切替わる際に生じる制振制御の急激な変化を小さくすることができるため、トルク変動が抑制されて乗り心地を向上させることができる。
【0013】
本発明に係る車両制御装置は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、走行用駆動源の状況に応じて選択される走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では、制振制御を禁止することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る車両制御装置によれば、走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では制振制御を禁止することで、制振制御の影響によって制御モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0015】
本発明に係る車両制御装置は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、走行用駆動源の状況に応じて選択される走行用駆動源の制御モードが切替わらない範囲で制振制御の実行が継続されるように、制振制御の制御態様を変更することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る車両制御装置によれば、走行用駆動源の制御モードが切替わらない範囲で制振制御の実行が継続されるように、制振制御の制御態様を変更することで、制振制御を行いつつ、制御モードが切替わるのを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりによって制振制御の効果が低減するのを防止でき、しかも、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0017】
この場合、制御モードが切替わるまでの制御量を条件として制振制御の実行態様を決定することが好ましい。このように、制御モードが切替わるまでの制御量を条件として制振制御の実行態様を決定することで、制御モードの切替わりによって制振制御の効果が低減されるのを防止することができる。
【0018】
また、制御モードが切替わらないことを条件として制振制御の実行態様を決定することが好ましい。このように、制御モードが切替わらないことを条件として制振制御の実行態様を決定することで、制御モードの切替わりによって制振制御の効果が低減されるのを防止することができる。
【0019】
この場合、制振制御のゲインを補正することが好ましい。このように、制振制御のゲインを補正することで、制振制御の制御量を滑らかに変化させることができるため、乗り心地を向上させることができる。
【0020】
本発明に係る車両制御装置は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、走行用駆動源の状況に応じて選択される走行用駆動源の制御モードを選択するための制御量は、制振制御の制御量を減算した値であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る車両制御装置によれば、走行用駆動源の制御モードを選択するための制御量を、制振制御の制御量を減算した値とすることで、制振制御を行いつつ、制御モードが切替わるのを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0022】
なお、走行用駆動源は、ディーゼルエンジンであり、走行用駆動源の制御モードは、燃料燃焼に係るものとしてもよい。このように、ディーゼルエンジンの燃料燃焼に係る制御モードの切替わりを抑制することで、ディーゼルエンジンを備える車両において、効果的に乗り心地を向上させることができる。
【0023】
本発明に係る車両制御装置は、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、エンジンの使用領域に応じて選択されるエンジンの制御モードが切替わる領域では、エンジンから逆位相のトルクの出力を禁止することを特徴とする。
【0024】
本発明に係る車両制御装置によれば、エンジンの制御モードが切替わる領域では、エンジンから逆位相のトルクの出力を禁止することで、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に逆位相のトルクが出力されることよって制御モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0025】
本発明に係る車両制御装置は、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、エンジンの使用領域に応じて選択されるエンジンの制御モードが切替わらない範囲でエンジンから逆位相のトルクを出力することを特徴とする。
【0026】
本発明に係る車両制御装置によれば、エンジンの制御モードが切替わらない範囲でエンジンから逆位相のトルクを出力することで、車両の振動を抑制しつつ、制御モードが切替わるのを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりによって振動の抑制効果が低減されるのを防止することができ、しかも、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0027】
本発明に係る車両制御装置は、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、エンジンの使用領域に応じて選択されるエンジンの制御モードが切替わらない範囲でエンジンから出力される逆位相のトルクのゲインを補正することを特徴とする。
【0028】
本発明に係る車両制御装置によれば、エンジンの制御モードが切替わらない範囲でエンジンから出力される逆位相のトルクのゲインが補正されるため、トルク変動を滑らかにしつつ、エンジンの制御モードの切替わりを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりによって振動の抑制効果が低減されるのを防止することができ、しかも、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0029】
本発明に係る車両制御装置は、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、エンジンの使用領域に応じて選択されるエンジンの制御モードが切替わる領域では、制振制御によりエンジンから出力される逆位相のトルクを除外して、エンジンの制御モードを選択することを特徴とする。
【0030】
本発明に係る車両制御装置によれば、エンジンの制御モードが切替わる領域では、制振制御によりエンジンから出力される逆位相のトルクを除外して、エンジンの制御モードを選択することで、制御モードを選択する際に、振動制御によりエンジンから出力される逆位相のトルクによって制御モードが切替わるのを防止することができる。これにより、エンジンの制御モードが切替わる領域において、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合は、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行いつつ、制御モードの切替わりを防止することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、制振制御を行う場合に走行用駆動源の制御モードが切替わるのを抑制して乗り心地を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。
【図2】エンジンの制御モードを説明するための図である。
【図3】触媒制御モードが通常制御モードの場合の燃焼モードマップを示している。
【図4】触媒制御モードがNOx還元モードの場合の燃焼モードマップを示している。
【図5】触媒制御モードが硫黄被毒回復モードの場合の燃焼モードマップを示している。
【図6】触媒制御モードがPM再生モードの場合の燃焼モードマップを示している。
【図7】燃焼モードマップの一部拡大図である。
【図8】燃料の噴射タイミングを示す図である。
【図9】マルチ噴射モードマップを示した図である。
【図10】ばね上制振要求駆動力出力部のばね上制振フィードバック実行条件判定処理を示すフローチャートである。
【図11】第2の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。
【図12】モード切替わり直前噴射量の算出を説明するための図である。
【図13】ばね上制振要求駆動力出力部のばね上制振制御要求噴射量補正処理動作を示すフローチャートである。
【図14】第3の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。
【図15】ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を説明するための図である。
【図16】ばね上制振要求駆動力出力部のばね上制振要求噴射量補正処理動作を示すフローチャートである。
【図17】第4の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。
【図18】ばね上制振要求駆動力出力部の処理動作を示すプロセスチャートである。
【図19】第5の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。
【図20】ばね上制振要求駆動力出力部のモード算出を示すフローチャートである。
【図21】モードXとモードYとの切替えを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両制御装置の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態は、ディーゼルエンジンを搭載した車両制御装置を例として説明する。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0034】
[第1実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。図1に示すように、本実施形態の車両制御装置1は、ドライバ要求駆動力推定装置10と、実現系20と、制御対象車両30と、ばね上制振制御装置40とを備えている。
【0035】
ドライバ要求駆動力推定装置10は、ドライバの要求するドライバ要求駆動力を推定するものである。すなわち、ドライバ要求駆動力推定装置10は、アクセル開度、車速、ギア段などの入力に基づいて、ドライバ要求駆動力を推定する。そして、ドライバ要求駆動力推定装置10は、推定したドライバ要求駆動力を実現系20に出力する。
【0036】
実現系20は、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求駆動力に基づいて、エンジンに噴射する燃料の噴射量、噴射時期などを制御するエンジン制御部である。また、実現系20は、図2に示すように、エンジンを制御するための制御モードに基づいてエンジンに噴射する燃料の噴射量、噴射時期などを制御している。この制御モードは、触媒制御モード、燃焼モード、マルチ噴射モードの3種類ある。
【0037】
触媒制御モードは、排気浄化を行うために、冷却水温、触媒温度、触媒に堆積したNOx、PM(微粒子)、硫黄(S)の堆積量などに基づいて選択されるモードである。この触媒制御モードは、表1に示すように、0:通常制御モード、1:NOx還元モード、2:硫黄被毒回復モード、3:PM再生モード、の4種類がある。そして、実現系20は、これらのモードを適宜選択することで、エンジンから排出される排気ガスの浄化を行う。
【表1】
【0038】
燃焼モードは、触媒制御モードで設定されたモードとなるように、空燃比の異なるストイキ燃焼やリーン燃焼等を行わせるために選択されるモードである。この燃焼モードは、表2に示すように、1:通常燃焼モード、2:EGRカット昇温燃焼モード、3:昇温マルチ噴射燃焼モード、4:低温燃焼リーン燃焼モード、5:硫黄回復燃焼モード、の5種類がある。そして、実現系20は、上述した触媒制御モード毎に、これらの燃焼モード1〜5を選択するための1又は複数の燃焼モードマップを保有している。
【表2】
【0039】
図3は、触媒制御モードが通常制御モードの場合の燃焼モードマップを示しており、図4は、触媒制御モードがNOx還元モードの場合の燃焼モードマップを示しており、図5は、触媒制御モードが硫黄被毒回復モードの場合の燃焼モードマップを示しており、図6は、触媒制御モードがPM再生モードの場合の燃焼モードマップを示している。
【0040】
図3〜図6に示すように、各燃焼モードマップは、エンジン回転数と噴射量との2次元のテーブル形式で示されている。そして、実現系20は、通常制御モードに対応して、1種類の燃焼モードマップを保有している。また、実現系20は、NOx還元モードに対応して、触媒温度に応じた複数種類の燃焼モードマップ(図5(a)、図5(b))を保有している。また、実現系20は、硫黄被毒回復モードに対応して、触媒温度や硫黄堆積量に応じた複数種類の燃焼モードマップ(図6(a)、図6(b)、図6(c))を保有している。また、実現系20は、PM再生モードに対応して、1種類の燃焼モードマップを保有している。
【0041】
図7は、燃焼モードマップの一部拡大図である。図7に示すように、燃焼モードマップは、エンジン回転数と噴射量との関係で、燃焼モード1〜燃焼モード5が一意に定まるように設定されているが、燃焼モードの頻繁な切替わりを抑制するために、燃焼モードが切替わる切替領域にヒステリシスを設けている。図7において、“1”は燃焼モード1を示しており、“4”は燃焼モード4を示しており、“14”は、燃焼モード1と燃焼モード4とが切替わる切替領域を示しており、この切替領域がヒステリシス領域となっている。
【0042】
図8は、燃料の噴射タイミングを示す図である。図8に示すように、燃料の噴射として、メイン(主)噴射と、メイン(主)噴射の前に微小の燃料を噴射するパイロット噴射1及びパイロット噴射2と、メイン(主)噴射の後に微小の燃料を噴射するアフター噴射と、アフター噴射の後に噴射するポスト噴射とを行うことができる。
【0043】
そして、マルチ噴射モードは、図8に示すメイン(主)噴射、パイロット噴射1、パイロット噴射2及びアフター噴射の組合せを設定する行わせるためのモードである。
【0044】
このようなマルチ噴射モードは、表3に示すように、0:無噴射、1:メイン噴射のみ、2:パイロット噴射2+メイン噴射、3:パイロット噴射1+パイロット噴射2+メイン噴射、4:パイロット噴射1+パイロット噴射2+メイン噴射+アフター噴射、5:パイロット噴射2+メイン噴射+アフター噴射、の6種類がある。
【表3】
【0045】
そして、表4に示すように、マルチ噴射モードは、燃焼モード及び水温に応じて、マルチ噴射モード0〜5が選択される。すなわち、燃焼モード2のEGRカット昇温燃焼モードである場合は、マルチ噴射モード4が選択される。燃焼モード3の昇温マルチ噴射燃焼モードである場合は、マルチ噴射モード2が選択される。燃焼モード4の低温燃焼リーン燃焼モードである場合は、マルチ噴射モード2が選択される。燃焼モード5の硫黄回復燃焼モードである場合は、マルチ噴射モード2が選択される。
【0046】
一方、燃焼モード1の通常燃焼モードである場合は、マルチ噴射モード1,2,4,5の何れかが選択される。燃焼モード1の通常燃焼モードである場合について具体的に説明すると、実現系20は、マルチ噴射モードを選択するためのマルチ噴射モードマップを保有している。図9は、マルチ噴射モードマップを示した図である。図9に示すように、マルチ噴射モードマップは、エンジン回転数と噴射量との2次元のテーブル形式で示されている。そして、実現系20は、低水温、中水温、高水温のそれぞれに対応したマルチ噴射モードマップを保有している。図9(a)に示すように、低水温に対応したマルチ噴射モードマップは、マルチ噴射モード1、マルチ噴射モード2、マルチ噴射モード3を択一的に選択するマップである。図9(b)に示すように、中水温に対応したマルチ噴射モードマップは、マルチ噴射モード1、マルチ噴射モード2、マルチ噴射モード3、マルチ噴射モード5を択一的に選択するマップである。図9(c)に示すように、高水温に対応したマルチ噴射モードマップは、マルチ噴射モード1、マルチ噴射モード2、マルチ噴射モード3、マルチ噴射モード5を択一的に選択するマップである。
【表4】
【0047】
制御対象車両30は、実現系20で制御されるエンジンが搭載された車両である。制御対象車両30は、ばね上振動、アクセル開度、ギア段、ばね上振動、EGRの有無、排気温度、冷却水温、触媒温度、PM堆積量、硫黄堆積量などの情報が検出可能となっている。
【0048】
ばね上制振制御装置40は、ばね上の振動を抑制するためのばね上制振要求駆動力を出力して、制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御を行うものである。すなわち、ばね上制振制御装置40は、制御対象車両30において検出された各種情報のフィードバック入力に基づいて、ばね上の振動を抑制するためのばね上制振要求駆動力を算出する。そして、ばね上制振制御装置40は、この算出したばね上制振要求駆動力をドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求駆動力に加算することで、制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御するものである。このため、ばね上制振制御装置40には、ばね上制振要求駆動力算出部41と、ばね上制振要求駆動力出力部42と、が設けられている。
【0049】
ばね上制振要求駆動力算出部41は、所定の制振モデルに基づいてばね上制振要求駆動力を算出するものである。この制振モデルの一例を説明すると、まず、制御対象車両30からのフィードバック入力に基づいて車速の変化を検出する。次に、この車速変化を引き起こす駆動力変化分を算出する。次に、車体姿勢の変化を推定する。ここで、車体姿勢の変化を推定するための推定状態変数として、バウンスの変位や速度、ピッチの角度や角速度などが用いられる。次に、姿勢変化の抑止に必要な駆動力補正量を算出する。次に、駆動力補正量に所定のフィードバック定数Ksを掛け合わせて、ばね上制振要求駆動力を算出する。
【0050】
ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力を出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行するものである。このばね上制振要求駆動力出力部42は、異常判定部421と、キャンセル判定部422と、モード切替領域判定部423と、切替領域制御禁止部424と、を備えている。
【0051】
異常判定部421は、ばね上制振要求駆動力出力部42に異常が発生したか否かを判定するものである。
【0052】
キャンセル判定部422は、異常判定部421においてばね上制振要求駆動力出力部42に異常が発生したと判定した場合に、ばね上制振制御装置40によるばね上制振フィードバック制御をキャンセルするものである。
【0053】
モード切替領域判定部423は、アクセル開度、車速、ギア段などの変化により燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わるかを判定するものである。
【0054】
切替領域制御禁止部424は、所定の場合に、燃焼モード及びマルチ噴射モードの各モードの切替領域においてばね上制振フィードバック制御を禁止するものである。切替領域制御禁止部424は、ばね上制振フィードバック制御実行フラグを備えている。そして、切替領域制御禁止部424がばね上制振フィードバック制御実行フラグをセットすると、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力を出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行する。一方、切替領域制御禁止部424がばね上制振フィードバック制御実行フラグをリセットすると、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力を禁止して、ばね上制振フィードバック制御の実行を禁止する。
【0055】
次に、図10を参照しながら、本実施形態に係る車両制御装置1の処理動作について説明する。図10は、ばね上制振要求駆動力出力部のおけるばね上制振フィードバック実行条件判定処理を示すフローチャートである。
【0056】
図10に示すように、まず、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力出力部42は、制御対象車両30からのフィードバック入力に基づいて、車速が所定値未満であるか否かを判定する(ステップS1)。
【0057】
そして、車速が所定値未満であると判定すると(ステップS1:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御を実行する速度域に至っていないと判断して、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをクリアする(ステップS6)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力が禁止され、ばね上制振フィードバック制御の実行が禁止される。
【0058】
一方、車速が所定値以上であると判定すると(ステップS1:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、次に、ギア段が1速未満であるか否かを判定する(ステップS2)。このとき、ギア段がニュートラル、後退、パーキングなどのシフトポジションである場合は、ギア段が1速未満であると判定する。
【0059】
そして、ギア段が1速未満であると判定すると(ステップS2:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御を実行する必要が無いと判断して、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをクリアする(ステップS6)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力が禁止され、ばね上制振フィードバック制御の実行が禁止される。
【0060】
一方、ギア段が1速以上であると判定すると(ステップS2:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、次に、ドライバがシフト操作中であるか否かを判定する(ステップS3)。
【0061】
そして、ドライバがシフト操作中であると判定すると(ステップS3:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御を実行する必要が無いと判断して、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをクリアする(ステップS6)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力が禁止され、ばね上制振フィードバック制御の実行が禁止される。
【0062】
一方、ドライバがシフト操作中ではないと判定すると(ステップS3:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、次に、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択される燃焼モードが燃焼モードマップの切替領域にあるか否かを判定する(ステップS4)。すなわち、ばね上制振要求駆動力出力部42は、まず、エンジン回転数に基づいて実現系20で実現される燃料の噴射量を算出する。次に、ばね上制振要求駆動力出力部42は、冷却水温や触媒の状態に基づいて選択された燃焼モードマップを参照して、この噴射量とエンジン回転数とに合致する燃焼モードを検出する。そして、ばね上制振要求駆動力出力部42は、この検出した燃焼モードが切替領域にあるか否かを判定する。
【0063】
そして、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択される燃焼モードが燃焼モードマップの切替領域にあると判定すると(ステップS4:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをクリアする(ステップS6)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力が禁止され、ばね上制振フィードバック制御の実行が禁止される。
【0064】
一方、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択される燃焼モードが燃焼モードマップの切替領域にはないと判定すると(ステップS4:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、次に、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択されるマルチ噴射モードがマルチ噴射モードマップの切替領域にあるか否かを判定する(ステップS45)。すなわち、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ステップS4と同様に、エンジン回転数に基づいて実現系20で実現される燃料の噴射量を算出する。次に、ばね上制振要求駆動力出力部42は、燃焼モード及び冷却水温に基づいて選択されたマルチ噴射モードマップを参照して、この噴射量とエンジン回転数とに合致するマルチ噴射モードを検出する。そして、ばね上制振要求駆動力出力部42は、この検出したマルチ噴射モードが切替領域にあるか否かを判定する。
【0065】
そして、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択される燃焼モードがマルチ噴射モードマップの切替領域にあると判定すると(ステップS5:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをクリアする(ステップS6)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力が禁止され、ばね上制振フィードバック制御の実行が禁止される。
【0066】
一方、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択される燃焼モードがマルチ噴射モードマップの切替領域にはないと判定すると(ステップS5:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをセットする(ステップS7)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力が出力されるため、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求駆動力にこのばね上制振要求駆動力が加算されて、制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御が実行される。
【0067】
次に、本実施形態に係る車両制御装置1の処理動作について更に具体的に説明する。
【0068】
まず、制御対象車両30に上下方向に略1.5Hz前後の変動成分が生じた場合を考える。このとき、制御対象車両30から車速や振動などの情報がばね上制振制御装置40にフィードバックされるため、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力算出部41において、このフィードバック入力に基づくばね上制振要求駆動力が算出される。
【0069】
そして、燃焼モード及びマルチ噴射モードの何れも切替領域にない場合は、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求駆動力にこのばね上制振要求駆動力が加算されて、エンジンから逆位相のトルクが出力される。
【0070】
一方、燃焼モード及びマルチ噴射モードの何れか一方が切替領域にある場合は、ドライバ要求駆動力推定装置10からばね上制振要求駆動力の出力が禁止されるため、エンジンから逆位相のトルクが出力されない。
【0071】
このように、第1の実施形態に係る車両制御装置1によれば、エンジンの燃焼モード又はマルチ噴射モードの切替領域ではばね上制振フィードバック制御を禁止するため、ばね上制振フィードバック制御の影響によって燃焼モード又はマルチ噴射モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モード又はマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0072】
また、エンジンの燃焼モード又はマルチ噴射モードの切替領域では、エンジンから逆位相のトルクの出力を禁止することで、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、逆位相のトルクが出力されることによって燃焼モード又はマルチ噴射モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モード又はマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0073】
[第2実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係る車両制御装置は、第1の実施形態に係る車両制御装置と基本的に同様であり、ばね上制振要求駆動力出力部のみが異なる。このため、以下では、第1の実施形態と異なる部分のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分の説明を省略する。
【0074】
図11は、第2の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。図11に示すように、第2の実施形態に係る車両制御装置2は、ばね上制振制御装置40にばね上制振要求駆動力出力部52を備えている。
【0075】
ばね上制振要求駆動力出力部52は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力をばね上制振制御装置40から出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行するものである。また、ばね上制振要求駆動力出力部52は、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらない範囲でばね上制振フィードバック制御の実行が継続されるように、ばね上制振フィードバック制御の制御量を変更するものである。このため、ばね上制振要求駆動力出力部52には、第1の実施形態と同様の異常判定部421及びキャンセル判定部422が設けられており、更に第2の実施形態では、切替わり直前噴射量算出部525と、最小値選択反映部526とが設けられている。
【0076】
切替わり直前噴射量算出部525は、ドライバ要求駆動力などの変化によってエンジン回転数が変わり、エンジンの燃焼モード又はマルチ噴射モードが切替わる場合、これらのモードが切替わる直前のモード切替わり直前噴射量を算出するものである。
【0077】
図12は、モード切替わり直前噴射量の算出を説明するための図であって、燃焼モードマップの一部拡大図である。図12において、Q_mapは、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算しない場合の燃料の噴射量を示している。また、Q_map2は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算した場合の燃料の噴射量を示している。そして、切替わり直前噴射量算出部525は、この燃焼モードマップを参照して、噴射量がQ_map2からQ_mapに変わる場合に、燃焼モードが切替わる直前のモード切替わり直前噴射量Qmを算出する。なお、切替わり直前噴射量算出部525は、マルチ噴射モードマップを参照することで、マルチ噴射モードが切替わる直前のモード切替わり直前噴射量Qmも算出することができる。
【0078】
最小値選択反映部526は、燃焼モードが切替わるまでの噴射量とマルチ噴射モードが切替わるまでの噴射量とのうち、何れか小さい方の噴射量を選択するものである。
【0079】
ここで、駆動力と噴射量との関係について簡単に説明する。ディーゼルエンジンの場合、エンジントルクは燃料の噴射量でほぼ決まるため、エンジン回転数と噴射量、エンジントルクのマップを参照することで、エンジントルクと噴射量とを換算することができる。そして、要求駆動力をタイヤ径で割ってトルクに換算し、このトルクをギア比で割ってエンジントルクに換算し、このエンジントルクから噴射量を算出することで、要求駆動力を要求噴射量に換算することができる。このため、エンジン制御する際、実現系20に要求駆動力を渡して実現系20にて要求噴射量を算出してもよく、要求駆動力から換算された要求噴射量を実現系20に渡してもよい。なお、上述したように、要求駆動力と要求噴射量とは互いに換算することができるため、以下の説明では、便宜上、要求駆動力の代わりに要求噴射量を用いる場合がある。この場合、ドライバ要求駆動力推定装置10からは、ドライバ要求噴射量が出力され、ばね上制振要求駆動力出力部42からは、ばね上制振要求噴射量が出力され、ドライバ要求噴射量にばね上制振要求噴射量が加算されたばね上制振補正後要求噴射量が実現系20に出力される。
【0080】
次に、図13を参照しながら、本実施形態に係る車両制御装置2の処理動作について説明する。図13は、ばね上制振要求駆動力出力部のばね上制振制御要求噴射量補正処理動作を示すフローチャートである。
【0081】
まず、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力出力部52は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapから、燃焼モードMODE_Aと、マルチ噴射モードMODE_Bとを算出する(ステップS11)。
【0082】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算しない場合の燃料の噴射量Q_map2から、燃焼モードt_MODE_Aと、マルチ噴射モードt_MODE_Bとを算出する(ステップS12)。
【0083】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ステップS11で算出したMODE_AとステップS12で算出したt_MODE_Aとが同じであるか否かを判定する(ステップS13)。
【0084】
そして、MODE_Aとt_MODE_Aとが異なると判定すると(ステップS13:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部52は、燃焼モードマップを参照して、モード切替わり直前噴射量Qmを算出する(ステップS14)。
【0085】
また、ばね上制振要求駆動力出力部52は、燃焼モードマップを参照して、噴射量Q_map2からモード切替わり直前噴射量Qmまでの噴射量の差分であるΔ噴射量dQm_Aを算出する(ステップS15)。
【0086】
一方、MODE_Aとt_MODE_Aとが同じであると判定すると(ステップS13:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力に基づくばね上制振要求噴射量Qpを、Δ噴射量dQm_Aとする(ステップS16)。
【0087】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ステップS11で算出したMODE_BとステップS12で算出したt_MODE_Bとが同じであるか否かを判定する(ステップS17)。
【0088】
そして、MODE_Bとt_MODE_Bとが異なると判定すると(ステップS17:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部52は、マルチ噴射モードマップを参照して、モード切替わり直前噴射量Qmを算出する(ステップS18)。
【0089】
また、ばね上制振要求駆動力出力部52は、マルチ噴射モードマップを参照して、噴射量Q_map2からモード切替わり直前噴射量Qmまでの噴射量の差分であるΔ噴射量dQm_Bを算出する(ステップS19)。
【0090】
一方、MODE_Bとt_MODE_Bとが同じであると判定すると(ステップS17:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力に基づいて実現系20により実現される制振要求噴射量Qpを、Δ噴射量dQm_Bとする(ステップS20)。
【0091】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ステップS15またはステップS16で算出したΔ噴射量dZQm_Aと、ステップS19またはステップS20で算出したΔ噴射量dZQm_Bとのうち、小さい方のΔ噴射量を制振要求噴射量Qpとする(ステップS21)。
【0092】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ステップS21で算出された制振要求噴射量Qpをばね上制振要求駆動力に換算して出力する。
【0093】
これにより、ばね上制振制御装置40から制振要求噴射量Qpが出力され、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求噴射量にこのばね上制振要求噴射量が加算されることで、制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御が実行される。
【0094】
次に、本実施形態に係る車両制御装置2の処理動作について更に具体的に説明する。
【0095】
まず、制御対象車両30に上下方向に略1.5Hz前後の変動成分が生じた場合を考える。このとき、制御対象車両30から車速や振動などの情報がばね上制振制御装置40にフィードバックされるため、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力算出部41において、このフィードバック入力に基づいてばね上制振要求駆動力が算出される。
【0096】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部52により、ばね上制振要求駆動力が小さくなるため、エンジンからは、要求駆動力よりも小さくなった逆位相のトルクが出力される。これにより、ばね上振動の抑制効果が小さくなって僅かにばね上振動が残り、また、モードが切替わるまでの噴射量よりも大きな噴射量分は頭切りされるため位相のずれが生じるが、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりが抑制されるため、トルク変動が抑制される。
【0097】
このように、第2の実施形態に係る車両制御装置2によれば、Δ噴射量dZQm_AとΔ噴射量dZQm_Bとのうち何れか小さい方のΔ噴射量を制振要求噴射量Qpとすることで、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらない範囲でばね上制振フィードバック制御の実行を継続することができる。そして、このようにすることで、ばね上制振フィードバック制御を行いつつ、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わるのを防止することができるため、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりによってばね上制振フィードバック制御の効果が低減するのを防止でき、しかも、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0098】
また、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらない範囲でエンジンから逆位相のトルクを出力することで、車両の振動を抑制しつつ、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりによって振動の抑制効果が低減されるのを防止することができ、しかも、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0099】
[第3実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態に係る車両制御装置は、第1及び第2の実施形態に係る車両制御装置と基本的に同様であり、ばね上制振要求駆動力出力部のみが異なる。このため、以下では、第1及び第2の実施形態と異なる部分のみを説明し、第1及び第2の実施形態と同じ部分の説明を省略する。
【0100】
図14は、第3の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。図14に示すように、第3の実施形態に係る車両制御装置3は、ばね上制振制御装置40にばね上制振要求駆動力出力部62を備えている。
【0101】
ばね上制振要求駆動力出力部62は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力をばね上制振制御装置40から出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行するものである。また、ばね上制振要求駆動力出力部62は、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらないことを条件として、出力するばね上制振要求駆動力(制振要求噴射量)のゲインを変更する(補正する)ものである。このため、ばね上制振要求駆動力出力部62には、第1及び第2の実施形態と同様の異常判定部421、キャンセル判定部422及び切替わり直前噴射量算出部525が設けられており、更に、補正ゲイン制御部627が設けられている。
【0102】
補正ゲイン制御部627は、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらないことを条件として、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求噴射量の補正ゲインを変更するものである。具体的に説明すると、補正ゲイン制御部627は、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域では、ばね上制振要求噴射量の補正ゲインを1.0から0までの間で連続的または段階的に減少させる。また、補正ゲイン制御部627は、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域以外の領域では、ばね上制振要求噴射量の補正ゲインを連続的または段階的に増加させて1.0(元の状態)に戻す。
【0103】
ここで、図15を参照して、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正について説明する。図15は、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を説明するための図であり、図15(a)は、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を行わない場合を示しており、図15(b)は、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を行う場合を示している。図15において、細線a1は、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求噴射量を示しており、破線a2は、ドライバ要求噴射量a1にばね上制振要求噴射量を加算したばね上制振補正後要求噴射量を示している。そして、太線a3は、第1の実施形態における要求噴射量であって、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域ではばね上制振フィードバック制御を禁止する場合のばね上制振補正後要求噴射量を示している。
【0104】
図15(a)に示すように、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を行わない場合は、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域においてばね上制振フィードバック制御が禁止されるため、当該切替領域においてばね上制振補正後要求噴射量a3の頭切りが生じる。これに対して、図15(b)に示すように、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を行う場合は、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域に入ると、ばね上制振要求噴射量a2の補正ゲインを段階的に1.0から減少させていき、その後、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域から外れると、ばね上制振要求噴射量a2の補正ゲインを連続的に増加させていく。そして、このような補正ゲインの減少と増加とを繰り返すことで、徐々にばね上制振補正後要求噴射量a3の振幅が小さくなり、ばね上制振補正後要求噴射量a3の頭切れが無くなる。
【0105】
次に、図16を参照しながら、本実施形態に係る車両制御装置3の処理動作について説明する。図16は、ばね上制振要求駆動力出力部のばね上制振要求噴射量補正処理動作を示すフローチャートである。
【0106】
まず、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力出力部62は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapから、燃焼モードMODE_Aと、マルチ噴射モードMODE_Bとを算出する(ステップS31)。
【0107】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算しない場合の燃料の噴射量Q_map2から、燃焼モードt_MODE_Aと、マルチ噴射モードt_MODE_Bとを算出する(ステップS32)。
【0108】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、ステップS11で算出したMODE_AとステップS12で算出したt_MODE_Aとが同じであるか否かを判定する(ステップS33)。
【0109】
そして、MODE_Aとt_MODE_Aとが異なると判定すると(ステップS33:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、燃焼モードマップを参照して、モード切替わり直前噴射量Qmを算出する(ステップS34)。
【0110】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、噴射量Q_map2からモード切替わり直前噴射量Qmまでの噴射量の差分であるΔ噴射量dQmを算出する(ステップS35)。
【0111】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、ステップS35で算出したΔ噴射量dQmを制振要求噴射量Qpとする(ステップS36)。
【0112】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、補正ゲインを減算する(ステップS37)。ここで、補正ゲインを減算する減算値は、補正ゲインを徐々に小さくすることができる値であって、後述するステップS41で補正ゲインを加算する値よりも大きい値となる。
【0113】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、補正ゲインがmin値以下であるか否かを判定する(ステップS38)。ここで、min値は、1.0〜0の範囲の値であって、事前に設定されている。
【0114】
そして、補正ゲインがmin値以下であると判定すると(ステップS38:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、このmin値を補正ゲインとして更新する(ステップS39)。
【0115】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部62は、制振要求噴射量QpにステップS39で更新した補正ゲインを積算して、制振要求噴射量Qpを更新する(ステップS40)。
【0116】
一方、補正ゲインがmin値よりも大きいと判定すると(ステップS38:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、制振要求噴射量QpにステップS37で減算した補正ゲインを積算して、制振要求噴射量Qpを更新する(ステップS40)。
【0117】
一方、上述したステップS33において、MODE_Aとt_MODE_Aとが同じであると判定すると(ステップS33:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、補正ゲインを加算する(ステップS341)。ここで、補正ゲインを加算する加算値は、補正ゲインを徐々に大きくすることができる値であって、前述したステップS37で補正ゲインを減算する減算値よりも小さい値となる。
【0118】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、補正ゲインが1.0以上であるか否かを判定する(ステップS42)。
【0119】
そして、補正ゲインが1.0以上であると判定すると(ステップS42:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、補正ゲインを1.0に更新する(ステップS43)。
【0120】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部62は、制振要求噴射量QpにステップS43で更新した補正ゲインを積算して、制振要求噴射量Qpを更新する(ステップS40)。
【0121】
一方、補正ゲインが1.0未満であると判定すると(ステップS42:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、制振要求噴射量QpにステップS41で加算した補正ゲインを積算して、制振要求噴射量Qpを更新する(ステップS40)。
【0122】
これにより、ばね上制振制御装置40から制振要求噴射量Qpが出力され、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求噴射量にこのばね上制振要求噴射量Qpが加算されることで、制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御が実行される。
【0123】
次に、本実施形態に係る車両制御装置3の処理動作について更に具体的に説明する。
【0124】
まず、制御対象車両30に上下方向に略1.5Hz前後の変動成分が生じた場合を考える。このとき、制御対象車両30から車速や振動などの情報がばね上制振制御装置40にフィードバックされるため、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力算出部41において、このフィードバック入力に基づいてばね上制振要求駆動力(ばね上制振要求噴射量)が算出される。
【0125】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部62により、ばね上制振要求駆動力のゲインが小さくなるため、エンジンからは、要求駆動力よりも小さくなった逆位相のトルクが出力される。これにより、ばね上振動の抑制効果が小さくなって僅かにばね上振動が残るが、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりが抑制されるため、トルク変動が抑制される。そして、最初はモードが切替わるまでの噴射量よりも大きな噴射量分は頭切りされるが、ゲインを下げることで位相のずれも無くなる。
【0126】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部62において、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらない範囲で、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力(ばね上制振要求噴射量)の補正ゲインが変更される。これにより、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらずに、エンジンから逆位相のトルクが出力される。
【0127】
このように、本発明に係る車両制御装置3によれば、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらないことを条件として、ばね上制振要求噴射量の補正ゲインを変更することで、ばね上制振補正後要求噴射量a3の頭切りを防止して、ばね上制振フィードバック制御の制御量を滑らかに変化させることができるため、乗り心地を向上させることができる。
【0128】
また、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらない範囲で、エンジンから出力される逆位相のトルクのゲインが補正されるため、トルク変動を滑らかにしつつ、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりを防止することができる。これにより、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりによって振動の抑制効果が低減されるのを防止することができ、しかも燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0129】
[第4実施形態]
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態に係る車両制御装置は、第1の実施形態に係る車両制御装置と基本的に同様であり、ばね上制振要求駆動力出力部のみが異なる。このため、以下では、第1の実施形態と異なる部分のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分の説明を省略する。
【0130】
図17は、第4の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。図17に示すように、第4の実施形態に係る車両制御装置4は、ばね上制振制御装置40にばね上制振要求駆動力出力部72を備えている。
【0131】
ばね上制振要求駆動力出力部72は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力をばね上制振制御装置40から出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行するものである。また、ばね上制振要求駆動力出力部72は、各燃焼モードと各マルチ噴射モードとの何れの組み合わせにおいてもモードの切替え時に影響が出る場合に、燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのモード算出用噴射量から、ばね上制振要求噴射量を減算するものである。すなわち、車両制御装置4は、ばね上制振要求噴射量を加算せずに、実現系20において燃焼モードマップ及びマルチ噴射モードマップから燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択する際に用いるマップ算出用噴射量を算出するものである。
【0132】
このため、ばね上制振要求駆動力出力部72には、第1の実施形態と同様の異常判定部421及びキャンセル判定部422が設けられており、更に、マップ算出用噴射量選択部728が設けられている。
【0133】
ここで、モードの切替え時に発生する影響について説明する。この影響は、燃焼モードでは、EGR有無のモードで過渡的にガスの応答遅れにより精度が確保できないケース、噴射量とエンジントルクの関係に誤差が生じるケース、噴射便の流量特性(小流量時の精度)、などがある。マルチ噴射モードでは、噴射量を分割してメイン噴射・パイロット噴射・アフター噴射にするが、噴射時期を変えて噴射することによる供給エネルギーが仕事に変わる効率の差が発生する。なお、通常は、このような影響のあるものは補正を行っているが、ばね上制振フィードバック制御で制御するトルクの範囲は小さく、また、制振周波数で噴射量を変化させたときに補正の精度が必ずしも確保できていない場合がある。
【0134】
マップ算出用噴射量選択部728は、実現系20において燃焼モードマップ及びマルチ噴射モードマップから燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択する際に用いるマップ算出用噴射量を算出するものである。実現系20は、ドライバ要求噴射量にばね上制振要求噴射量を加算したばね上制振補正後要求駆動力をマップ算出用噴射量とする。そして、実現系20は、燃焼モードマップ及びマルチ噴射モードマップを参照して、このマップ算出用噴射量とエンジン回転数に基づいて燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択し、エンジン制御を行う。そこで、マップ算出用噴射量選択部728は、この実現系20においてモード選択に用いられるマップ算出用噴射量からばね上制振要求噴射量を減算することで、燃焼モード及びマルチ噴射モードが頻繁に切替わるのを抑制するものである。具体的には、ばね上制振要求噴射量を加算せずにマップ算出用噴射量を算出し、この算出したマップ算出用噴射量に基づいて、燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択する。
【0135】
次に、図18を参照しながら、本実施形態に係る車両制御装置4の処理動作について説明する。図18は、ばね上制振要求駆動力出力部の処理動作を示すプロセスチャートである。
【0136】
図18に示すように、まず、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力出力部72は、アクセル開度とエンジン回転数とから定まる基本噴射量を算出する(ステップS51)。
【0137】
また、ばね上制振要求駆動力出力部72は、駆動系共振を抑制するトルク分を噴射量に換算した駆動系制振FF要求噴射量を算出する(ステップS52)。
【0138】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS51で算出した基本噴射量に、ステップS2で算出した駆動系制振FF要求噴射量を加算する(ステップS53)。
【0139】
また、ばね上制振要求駆動力出力部72は、種々の制約により定まる制約噴射量を算出する(ステップS54)。この制約噴射量は、スモークの発生限界となる噴射量など、適切にエンジン制御するために制約される噴射量である。
【0140】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS53で算出した噴射量と、ステップS54で算出した制約噴射量とを比較し、少ない方の噴射量を選択する(ステップS55)。
【0141】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS55で選択した噴射量を燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのマップ算出用噴射量とし、このマップ算出用噴射量を上述した噴射量Q_map2とする(ステップS56)。この噴射量Q_map2は、燃焼モードマップ及びマルチ噴射モードマップを参照して燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するときにのみ専用的に用いられる噴射量である。
【0142】
一方、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求噴射量を取得する(ステップS57)。
【0143】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS55で選択した噴射量に、ステップS57で取得したばね上制振要求噴射量を加算する(ステップS58)。
【0144】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS54で算出した制約噴射量を取得する(ステップS54)。
【0145】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS58で算出した噴射量と、ステップS54で取得した制約噴射量とを比較し、少ない方の噴射量を選択する(ステップS60)。
【0146】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS60で選択した噴射量を燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのマップ算出用噴射量とし、このマップ算出用噴射量を上述した噴射量Q_mapとする(ステップS61)。この噴射量Q_mapは、種々の引数を噴射量としているマップ用の噴射量となる。
【0147】
これにより、実現系20では、ステップS56で求めた噴射量Q_map2を用いて、燃焼モード及びマルチ噴射モードが選択され、エンジン制御が行われる。
【0148】
次に、本実施形態に係る車両制御装置4の処理動作について更に具体的に説明する。
【0149】
まず、制御対象車両30に上下方向に略1.5Hz前後の変動成分が生じた場合を考える。このとき、制御対象車両30から車速や振動などの情報がばね上制振制御装置40にフィードバックされるため、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力算出部41において、このフィードバック入力に基づいてばね上制振要求駆動力(ばね上制振要求噴射量)が算出される。
【0150】
そして、ばね上制振制御装置40では、燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのモード算出用噴射量を変更するのみで、ばね上制振要求駆動力を変えないため、要求駆動力に対応する逆位相のトルクがエンジンから出力される。
【0151】
このように、第4の実施形態に係る車両制御装置4によれば、モード算出用噴射量からばね上制振要求噴射量を減算した噴射量Q_map2を用いて燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択することで、ばね上制振フィードバック制御を行いつつ、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0152】
また、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わる領域では、ばね上制振要求噴射量が減算された噴射量に基づいて燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択することで、ばね上制振フィードバック制御によりエンジンから出力される逆位相のトルクによって燃焼モード及びマルチ噴射モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わる領域において、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合は、エンジンから逆位相のトルクを出力してばね上制振フィードバック制御を行いつつ、燃焼モード及びマルチ噴射モードの頻繁な切替わりを防止することができる。
【0153】
[第5実施形態]
次に、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態に係る車両制御装置は、第4の実施形態に係る車両制御装置と基本的に同様であり、ばね上制振要求駆動力出力部のみが異なる。このため、以下では、第4の実施形態と異なる部分のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分の説明を省略する。
【0154】
図19は、第5の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。図19に示すように、第5の実施形態に係る車両制御装置5は、ばね上制振制御装置40にばね上制振要求駆動力出力部92を備えている。
【0155】
ばね上制振要求駆動力出力部72は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力をばね上制振制御装置40から出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行するものである。また、ばね上制振要求駆動力出力部72は、各燃焼モードと各マルチ噴射モードとの何れの組み合わせにおいてもモードの切替え時に影響が出る場合に、燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのモード算出用噴射量から、ばね上制振要求噴射量を減算するものである。すなわち、車両制御装置5は、ばね上制振要求噴射量を加算せずに、実現系20において燃焼モードマップ及びマルチ噴射モードマップから燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択する際に用いるマップ算出用噴射量を算出するものである。なお、特定のモードの切替え時に発生する影響は、第4の実施形態で説明した影響と同様である。このため、ばね上制振要求駆動力出力部72には、第1の実施形態と同様の異常判定部421、キャンセル判定部422及びマップ算出用噴射量選択部728が設けられており、更に、特定モード切替判定部829が設けられている。
【0156】
特定モード切替判定部829は、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替えにより上述した所定の影響が発生する特定の組合せを判定するものである。特定モード切替判定部829には、予め、切替えにより所定の影響が発生する特定の燃焼モードとマルチ噴射モードモードとの組合せが登録されている。そして、特定モード切替判定部829は、実現系20で切替えられる燃焼モード及びマルチ噴射モードが、予め登録されている特定の組合せであるか否かを判定する。
【0157】
次に、図20を参照しながら、本実施形態に係る車両制御装置5の処理動作について説明する。図20は、ばね上制振要求駆動力出力部のモード算出を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、モードXとモードYとの組合せの切替えによって所定の影響が発生するものとし、それ以外の組合せの切替えによっては所定の影響が発生しないものとする。
【0158】
図20に示すように、まず、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力出力部82は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求噴射量に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求噴射量を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapから、燃焼モードt_MODEを算出する(ステップS71)。
【0159】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部82は、ステップS71において算出した燃焼モードt_MODEを、テンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納する(ステップS72)。
【0160】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部82は、ステップS71で算出したt_MODEがモードX及びモードYの何れかであるか否かを判定する(ステップS73)。
【0161】
そして、t_MODEがモードX及びモードYの何れでもないと判定すると(ステップS73:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、切替えにより影響が生じないモードの組合せであると判断して、モード算出処理を終了する。これにより、実現系20は、ステップS72でテンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納された燃焼モード、すなわち、ばね上制振要求噴射量を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapに基づいて選択されたモードでエンジン制御を行う。
【0162】
一方、t_MODEがモードX又はモードYの何れかであると判定すると(ステップS73:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、t_MODEがモードXであるか否かを判定する(ステップS74)。
【0163】
そして、t_MODEがモードXであると判定すると(ステップS74:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、モードが切替わる前の燃焼モード(前回の燃焼モード)がモードYであるか否かを判定する(ステップS75)。
【0164】
そして、前回の燃焼モードがモードYではないと判定すると(ステップS75:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、切替えにより影響が生じないモードの組合せであると判断して、モード算出処理を終了する。これにより、実現系20は、ステップS72でテンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納された燃焼モード、すなわち、ばね上制振要求噴射量を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapに基づいて選択されたモードでエンジン制御を行う。
【0165】
一方、前回の燃焼モードがモードYであると判定すると(ステップS75:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、切替えにより影響が生じるモードの組合せであると判断して、ステップS76に進む。
【0166】
また、上述したステップS74において、t_MODEがモードXではないと判定すると(ステップS74:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、前回の燃焼モードがモードXであるか否かを判定する(ステップS78)。
【0167】
そして、前回の燃焼モードがモードXではないと判定すると(ステップS78:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、切替えにより影響が生じないモードの組合せであると判断して、モード算出処理を終了する。これにより、実現系20は、ステップS72でテンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納された燃焼モード、すなわち、ばね上制振要求噴射量を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapに基づいて選択されたモードでエンジン制御を行う。
【0168】
一方、前回の燃焼モードがモードXであると判定すると(ステップS78:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、切替えにより影響が生じるモードの組合せであると判断して、ステップS76に進む。
【0169】
ステップS76に進むと、ばね上制振要求駆動力出力部82は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求噴射量に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求噴射量を加算しない場合の燃料の噴射量Q_map2から、燃焼モードt_MODEを算出する(ステップS76)。
【0170】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部82は、ステップS76において算出した燃焼モードt_MODEを、テンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納する(ステップS72)。これにより、実現系20は、ステップS72でテンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納された燃焼モード、すなわち、ばね上制振要求噴射量を加算しない場合の燃料の噴射量Q_map2に基づいて選択されたモードでエンジン制御を行う。
【0171】
図21は、モードXとモードYとの切替えを説明するための図である。図21に示すように、モードXとモードYとの間で切替わる場合は、ばね上制振要求噴射量を加算しない場合の燃料の噴射量に基づいて燃焼モードが選択される。このため、ステップS76で算出した燃焼モードt_MODEが反映モード格納RAM“MODE_A”に格納されると、噴射量Q_mapが変化して燃焼モードが切替わる噴射量となるまで、燃焼モードが固定される。
【0172】
次に、本実施形態に係る車両制御装置5の処理動作について更に具体的に説明する。
【0173】
まず、制御対象車両30に上下方向に略1.5Hz前後の変動成分が生じた場合を考える。このとき、制御対象車両30から車速や振動などの情報がばね上制振制御装置40にフィードバックされるため、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力算出部41において、このフィードバック入力に基づいてばね上制振要求駆動力(ばね上制振要求噴射量)が算出される。
【0174】
そして、ばね上制振制御装置40では、燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのモード算出用噴射量を変更するのみで、ばね上制振要求駆動力を変えないため、要求駆動力に対応する逆位相のトルクがエンジンから出力される。
【0175】
このように、第5の実施形態に係る車両制御装置5によれば、特定のモードの組合せに切替えられる際は、ばね上制振要求噴射量を加算しない場合の燃料の噴射量に基づいて燃焼モードを選択することで、ばね上制振フィードバック制御を行いつつ、燃焼モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0176】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態において、マップ算出用噴射量選択部728及び特定モード切替判定部829は、ばね上制振制御装置40の機能として説明したが、例えば、実現系20の機能としてもよい。
【0177】
また、上記実施形態において、エンジンの制御モードとして、燃焼モード1〜燃焼モード5、マルチ噴射モード1〜マルチ噴射モード5を用いて説明したが、燃料の噴射や点火時期などエンジンに関連する様々なモードを用いてもよい。
【0178】
また、上記実施形態において、制振制御は、バネ上に入力される上下方向の振動を制振するものとして説明したが、振動する対象は車両全体であってもよく、また、車両前後方向の振動を制振するものであってもよい。
【符号の説明】
【0179】
1…車両制御装置、2…車両制御装置、3…車両制御装置、4…車両制御装置、5…車両制御装置、10…ドライバ要求駆動力推定装置、20…実現系、30…制御対象車両、40…上制振制御装置、41…上制振要求駆動力算出部、42…上制振要求駆動力出力部、52…上制振要求駆動力出力部、62…上制振要求駆動力出力部、72…上制振要求駆動力出力部、82…上制振要求駆動力出力部、92…上制振要求駆動力出力部、421…異常判定部、422…キャンセル判定部、423…モード切替領域判定部、424…切替領域制御禁止部、525…直前噴射量算出部、526…最小値選択反映部、627…補正ゲイン制御部、728…マップ算出用噴射量選択部、829…特定モード切替判定部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両制御装置は、エンジンの燃料噴射制御を行うことで、路面から入力されるばね上振動を抑制するばね上制振制御を行っている。このばね上制振制御は、例えば、駆動輪変化からピッチングを推定し、この推定したピッチングを抑制するように燃料噴射量を調整してエンジントルクを制御するものである。
【0003】
ディーゼルエンジンの場合、エンジントルクは燃料噴射量で決まり、エンジントルクと燃料噴射量とは互いに換算可能となる。このため、ディーゼルエンジンでは、アクセル開度、車速、ギア段などから算出されたドライバ要求トルクにばね上制振制御の制御量を加算し、この要求トルクを燃料噴射量に換算することでエンジンの燃料噴射制御を行っている。
【0004】
一方、ディーゼルエンジンの場合、触媒やEGRなどを用いて排気対策を行っているが、触媒にパティキュレートや硫黄が触媒に堆積して触媒の性能が低下しないように、再生制御も行っている。この再生制御は、EGR量を制御するとともに、触媒の昇温制御、触媒に入る空燃比を制御する主噴射の量、噴射時期、パイロット噴射やアフター噴射などのマルチ噴射を制御する。また、ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物を抑制するためにも、EGR量の制御や、マルチ噴射の制御を行う。これらは、エンジンの燃焼モード及びマルチ噴射モードなどの制御モードとして、主に、アクセル開度やギア段などのドライバ要求から算出される噴射量と、エンジン回転数によって組合せが決められ、最適化されている。
【0005】
ところで、このような制御モードが切替わると、噴射量や噴射時期などが変わって急激なトルク変動が生じる。このため、特許文献1では、これらの制御モードが頻繁に切替わるのを抑制するために、パイロット噴射を行うパイロット領域とパイロット噴射を行わない通常領域との間の遷移領域にヒステリシスを設けている。更に、特許文献1では、この遷移領域において、パイロット噴射の燃料噴射量、パイロット噴射と主噴射との時間間隔、主噴射の燃料噴射量、燃料噴射時期を連続的に変化させることで、急激なトルク変動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−173186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したばね上制振制御を反映させることで燃料噴射量が変わるため、制御モードの切替え領域にヒステリシスを設けたとしても、頻繁に制御モードが変化する場合がある。制御モードが変わると、ドライバの要求トルクに対する実トルクの位相ずれやゲイン(要求トルクに対する実トルクの大きさ)の変化が生じる。すなわち、制御モードが変わると、EGRの有無やマルチ噴射の形態が短い時間の中で変化することで、EGRガスの応答性やマルチ噴射の違いにより実トルクが要求トルクと異なった場合に、制御モードの切替え前後でトルク差が生じ、位相のずれやゲインが変化する。そして、位相がずれると、ピッチング周波数からずれた制振制御となってピッチングの抑制が不十分となり、ゲインが変化すると、過剰な制振制御のために所謂ゴツゴツ感が発生したり、制振制御の不足のためにピッチングの抑制が不十分になったりする。このように、従来の車両制御装置では、ばね上制振制御を行ったとしても、制御モードの頻繁な変化によって乗り心地や操縦安定性の改善の効果が十分に期待できないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、制振制御を行う場合に走行用駆動源の制御モードが切替わるのを抑制して乗り心地を向上させることができる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両制御装置は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、走行用駆動源の状況に応じて選択される走行用駆動源の制御モードの状況に応じて制振制御の制御態様を変更することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る車両制御装置によれば、走行用駆動減の制御モードの状況に応じて制振制御の制御態様を変更することで、走行用駆動減の制御モードに適した制振制御を行うことができる。
【0011】
本発明に係る車両制御装置は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、走行用駆動源の状況に応じて選択される走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では、制御モードが切替わらない領域に比べて制振制御の作用状態(制御量)を小さくすることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る車両制御装置によれば、走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では、この制御モードが切替わらない領域に比べて制振制御の作用状態(制御量)を小さくすることで、制御モードが切替わる際に生じる制振制御の急激な変化を小さくすることができるため、トルク変動が抑制されて乗り心地を向上させることができる。
【0013】
本発明に係る車両制御装置は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、走行用駆動源の状況に応じて選択される走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では、制振制御を禁止することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る車両制御装置によれば、走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では制振制御を禁止することで、制振制御の影響によって制御モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0015】
本発明に係る車両制御装置は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、走行用駆動源の状況に応じて選択される走行用駆動源の制御モードが切替わらない範囲で制振制御の実行が継続されるように、制振制御の制御態様を変更することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る車両制御装置によれば、走行用駆動源の制御モードが切替わらない範囲で制振制御の実行が継続されるように、制振制御の制御態様を変更することで、制振制御を行いつつ、制御モードが切替わるのを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりによって制振制御の効果が低減するのを防止でき、しかも、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0017】
この場合、制御モードが切替わるまでの制御量を条件として制振制御の実行態様を決定することが好ましい。このように、制御モードが切替わるまでの制御量を条件として制振制御の実行態様を決定することで、制御モードの切替わりによって制振制御の効果が低減されるのを防止することができる。
【0018】
また、制御モードが切替わらないことを条件として制振制御の実行態様を決定することが好ましい。このように、制御モードが切替わらないことを条件として制振制御の実行態様を決定することで、制御モードの切替わりによって制振制御の効果が低減されるのを防止することができる。
【0019】
この場合、制振制御のゲインを補正することが好ましい。このように、制振制御のゲインを補正することで、制振制御の制御量を滑らかに変化させることができるため、乗り心地を向上させることができる。
【0020】
本発明に係る車両制御装置は、走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、走行用駆動源の状況に応じて選択される走行用駆動源の制御モードを選択するための制御量は、制振制御の制御量を減算した値であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る車両制御装置によれば、走行用駆動源の制御モードを選択するための制御量を、制振制御の制御量を減算した値とすることで、制振制御を行いつつ、制御モードが切替わるのを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0022】
なお、走行用駆動源は、ディーゼルエンジンであり、走行用駆動源の制御モードは、燃料燃焼に係るものとしてもよい。このように、ディーゼルエンジンの燃料燃焼に係る制御モードの切替わりを抑制することで、ディーゼルエンジンを備える車両において、効果的に乗り心地を向上させることができる。
【0023】
本発明に係る車両制御装置は、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、エンジンの使用領域に応じて選択されるエンジンの制御モードが切替わる領域では、エンジンから逆位相のトルクの出力を禁止することを特徴とする。
【0024】
本発明に係る車両制御装置によれば、エンジンの制御モードが切替わる領域では、エンジンから逆位相のトルクの出力を禁止することで、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に逆位相のトルクが出力されることよって制御モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0025】
本発明に係る車両制御装置は、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、エンジンの使用領域に応じて選択されるエンジンの制御モードが切替わらない範囲でエンジンから逆位相のトルクを出力することを特徴とする。
【0026】
本発明に係る車両制御装置によれば、エンジンの制御モードが切替わらない範囲でエンジンから逆位相のトルクを出力することで、車両の振動を抑制しつつ、制御モードが切替わるのを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりによって振動の抑制効果が低減されるのを防止することができ、しかも、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0027】
本発明に係る車両制御装置は、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、エンジンの使用領域に応じて選択されるエンジンの制御モードが切替わらない範囲でエンジンから出力される逆位相のトルクのゲインを補正することを特徴とする。
【0028】
本発明に係る車両制御装置によれば、エンジンの制御モードが切替わらない範囲でエンジンから出力される逆位相のトルクのゲインが補正されるため、トルク変動を滑らかにしつつ、エンジンの制御モードの切替わりを防止することができる。これにより、制御モードの切替わりによって振動の抑制効果が低減されるのを防止することができ、しかも、制御モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0029】
本発明に係る車両制御装置は、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、エンジンの使用領域に応じて選択されるエンジンの制御モードが切替わる領域では、制振制御によりエンジンから出力される逆位相のトルクを除外して、エンジンの制御モードを選択することを特徴とする。
【0030】
本発明に係る車両制御装置によれば、エンジンの制御モードが切替わる領域では、制振制御によりエンジンから出力される逆位相のトルクを除外して、エンジンの制御モードを選択することで、制御モードを選択する際に、振動制御によりエンジンから出力される逆位相のトルクによって制御モードが切替わるのを防止することができる。これにより、エンジンの制御モードが切替わる領域において、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合は、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行いつつ、制御モードの切替わりを防止することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、制振制御を行う場合に走行用駆動源の制御モードが切替わるのを抑制して乗り心地を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。
【図2】エンジンの制御モードを説明するための図である。
【図3】触媒制御モードが通常制御モードの場合の燃焼モードマップを示している。
【図4】触媒制御モードがNOx還元モードの場合の燃焼モードマップを示している。
【図5】触媒制御モードが硫黄被毒回復モードの場合の燃焼モードマップを示している。
【図6】触媒制御モードがPM再生モードの場合の燃焼モードマップを示している。
【図7】燃焼モードマップの一部拡大図である。
【図8】燃料の噴射タイミングを示す図である。
【図9】マルチ噴射モードマップを示した図である。
【図10】ばね上制振要求駆動力出力部のばね上制振フィードバック実行条件判定処理を示すフローチャートである。
【図11】第2の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。
【図12】モード切替わり直前噴射量の算出を説明するための図である。
【図13】ばね上制振要求駆動力出力部のばね上制振制御要求噴射量補正処理動作を示すフローチャートである。
【図14】第3の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。
【図15】ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を説明するための図である。
【図16】ばね上制振要求駆動力出力部のばね上制振要求噴射量補正処理動作を示すフローチャートである。
【図17】第4の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。
【図18】ばね上制振要求駆動力出力部の処理動作を示すプロセスチャートである。
【図19】第5の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。
【図20】ばね上制振要求駆動力出力部のモード算出を示すフローチャートである。
【図21】モードXとモードYとの切替えを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両制御装置の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態は、ディーゼルエンジンを搭載した車両制御装置を例として説明する。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0034】
[第1実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。図1に示すように、本実施形態の車両制御装置1は、ドライバ要求駆動力推定装置10と、実現系20と、制御対象車両30と、ばね上制振制御装置40とを備えている。
【0035】
ドライバ要求駆動力推定装置10は、ドライバの要求するドライバ要求駆動力を推定するものである。すなわち、ドライバ要求駆動力推定装置10は、アクセル開度、車速、ギア段などの入力に基づいて、ドライバ要求駆動力を推定する。そして、ドライバ要求駆動力推定装置10は、推定したドライバ要求駆動力を実現系20に出力する。
【0036】
実現系20は、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求駆動力に基づいて、エンジンに噴射する燃料の噴射量、噴射時期などを制御するエンジン制御部である。また、実現系20は、図2に示すように、エンジンを制御するための制御モードに基づいてエンジンに噴射する燃料の噴射量、噴射時期などを制御している。この制御モードは、触媒制御モード、燃焼モード、マルチ噴射モードの3種類ある。
【0037】
触媒制御モードは、排気浄化を行うために、冷却水温、触媒温度、触媒に堆積したNOx、PM(微粒子)、硫黄(S)の堆積量などに基づいて選択されるモードである。この触媒制御モードは、表1に示すように、0:通常制御モード、1:NOx還元モード、2:硫黄被毒回復モード、3:PM再生モード、の4種類がある。そして、実現系20は、これらのモードを適宜選択することで、エンジンから排出される排気ガスの浄化を行う。
【表1】
【0038】
燃焼モードは、触媒制御モードで設定されたモードとなるように、空燃比の異なるストイキ燃焼やリーン燃焼等を行わせるために選択されるモードである。この燃焼モードは、表2に示すように、1:通常燃焼モード、2:EGRカット昇温燃焼モード、3:昇温マルチ噴射燃焼モード、4:低温燃焼リーン燃焼モード、5:硫黄回復燃焼モード、の5種類がある。そして、実現系20は、上述した触媒制御モード毎に、これらの燃焼モード1〜5を選択するための1又は複数の燃焼モードマップを保有している。
【表2】
【0039】
図3は、触媒制御モードが通常制御モードの場合の燃焼モードマップを示しており、図4は、触媒制御モードがNOx還元モードの場合の燃焼モードマップを示しており、図5は、触媒制御モードが硫黄被毒回復モードの場合の燃焼モードマップを示しており、図6は、触媒制御モードがPM再生モードの場合の燃焼モードマップを示している。
【0040】
図3〜図6に示すように、各燃焼モードマップは、エンジン回転数と噴射量との2次元のテーブル形式で示されている。そして、実現系20は、通常制御モードに対応して、1種類の燃焼モードマップを保有している。また、実現系20は、NOx還元モードに対応して、触媒温度に応じた複数種類の燃焼モードマップ(図5(a)、図5(b))を保有している。また、実現系20は、硫黄被毒回復モードに対応して、触媒温度や硫黄堆積量に応じた複数種類の燃焼モードマップ(図6(a)、図6(b)、図6(c))を保有している。また、実現系20は、PM再生モードに対応して、1種類の燃焼モードマップを保有している。
【0041】
図7は、燃焼モードマップの一部拡大図である。図7に示すように、燃焼モードマップは、エンジン回転数と噴射量との関係で、燃焼モード1〜燃焼モード5が一意に定まるように設定されているが、燃焼モードの頻繁な切替わりを抑制するために、燃焼モードが切替わる切替領域にヒステリシスを設けている。図7において、“1”は燃焼モード1を示しており、“4”は燃焼モード4を示しており、“14”は、燃焼モード1と燃焼モード4とが切替わる切替領域を示しており、この切替領域がヒステリシス領域となっている。
【0042】
図8は、燃料の噴射タイミングを示す図である。図8に示すように、燃料の噴射として、メイン(主)噴射と、メイン(主)噴射の前に微小の燃料を噴射するパイロット噴射1及びパイロット噴射2と、メイン(主)噴射の後に微小の燃料を噴射するアフター噴射と、アフター噴射の後に噴射するポスト噴射とを行うことができる。
【0043】
そして、マルチ噴射モードは、図8に示すメイン(主)噴射、パイロット噴射1、パイロット噴射2及びアフター噴射の組合せを設定する行わせるためのモードである。
【0044】
このようなマルチ噴射モードは、表3に示すように、0:無噴射、1:メイン噴射のみ、2:パイロット噴射2+メイン噴射、3:パイロット噴射1+パイロット噴射2+メイン噴射、4:パイロット噴射1+パイロット噴射2+メイン噴射+アフター噴射、5:パイロット噴射2+メイン噴射+アフター噴射、の6種類がある。
【表3】
【0045】
そして、表4に示すように、マルチ噴射モードは、燃焼モード及び水温に応じて、マルチ噴射モード0〜5が選択される。すなわち、燃焼モード2のEGRカット昇温燃焼モードである場合は、マルチ噴射モード4が選択される。燃焼モード3の昇温マルチ噴射燃焼モードである場合は、マルチ噴射モード2が選択される。燃焼モード4の低温燃焼リーン燃焼モードである場合は、マルチ噴射モード2が選択される。燃焼モード5の硫黄回復燃焼モードである場合は、マルチ噴射モード2が選択される。
【0046】
一方、燃焼モード1の通常燃焼モードである場合は、マルチ噴射モード1,2,4,5の何れかが選択される。燃焼モード1の通常燃焼モードである場合について具体的に説明すると、実現系20は、マルチ噴射モードを選択するためのマルチ噴射モードマップを保有している。図9は、マルチ噴射モードマップを示した図である。図9に示すように、マルチ噴射モードマップは、エンジン回転数と噴射量との2次元のテーブル形式で示されている。そして、実現系20は、低水温、中水温、高水温のそれぞれに対応したマルチ噴射モードマップを保有している。図9(a)に示すように、低水温に対応したマルチ噴射モードマップは、マルチ噴射モード1、マルチ噴射モード2、マルチ噴射モード3を択一的に選択するマップである。図9(b)に示すように、中水温に対応したマルチ噴射モードマップは、マルチ噴射モード1、マルチ噴射モード2、マルチ噴射モード3、マルチ噴射モード5を択一的に選択するマップである。図9(c)に示すように、高水温に対応したマルチ噴射モードマップは、マルチ噴射モード1、マルチ噴射モード2、マルチ噴射モード3、マルチ噴射モード5を択一的に選択するマップである。
【表4】
【0047】
制御対象車両30は、実現系20で制御されるエンジンが搭載された車両である。制御対象車両30は、ばね上振動、アクセル開度、ギア段、ばね上振動、EGRの有無、排気温度、冷却水温、触媒温度、PM堆積量、硫黄堆積量などの情報が検出可能となっている。
【0048】
ばね上制振制御装置40は、ばね上の振動を抑制するためのばね上制振要求駆動力を出力して、制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御を行うものである。すなわち、ばね上制振制御装置40は、制御対象車両30において検出された各種情報のフィードバック入力に基づいて、ばね上の振動を抑制するためのばね上制振要求駆動力を算出する。そして、ばね上制振制御装置40は、この算出したばね上制振要求駆動力をドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求駆動力に加算することで、制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御するものである。このため、ばね上制振制御装置40には、ばね上制振要求駆動力算出部41と、ばね上制振要求駆動力出力部42と、が設けられている。
【0049】
ばね上制振要求駆動力算出部41は、所定の制振モデルに基づいてばね上制振要求駆動力を算出するものである。この制振モデルの一例を説明すると、まず、制御対象車両30からのフィードバック入力に基づいて車速の変化を検出する。次に、この車速変化を引き起こす駆動力変化分を算出する。次に、車体姿勢の変化を推定する。ここで、車体姿勢の変化を推定するための推定状態変数として、バウンスの変位や速度、ピッチの角度や角速度などが用いられる。次に、姿勢変化の抑止に必要な駆動力補正量を算出する。次に、駆動力補正量に所定のフィードバック定数Ksを掛け合わせて、ばね上制振要求駆動力を算出する。
【0050】
ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力を出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行するものである。このばね上制振要求駆動力出力部42は、異常判定部421と、キャンセル判定部422と、モード切替領域判定部423と、切替領域制御禁止部424と、を備えている。
【0051】
異常判定部421は、ばね上制振要求駆動力出力部42に異常が発生したか否かを判定するものである。
【0052】
キャンセル判定部422は、異常判定部421においてばね上制振要求駆動力出力部42に異常が発生したと判定した場合に、ばね上制振制御装置40によるばね上制振フィードバック制御をキャンセルするものである。
【0053】
モード切替領域判定部423は、アクセル開度、車速、ギア段などの変化により燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わるかを判定するものである。
【0054】
切替領域制御禁止部424は、所定の場合に、燃焼モード及びマルチ噴射モードの各モードの切替領域においてばね上制振フィードバック制御を禁止するものである。切替領域制御禁止部424は、ばね上制振フィードバック制御実行フラグを備えている。そして、切替領域制御禁止部424がばね上制振フィードバック制御実行フラグをセットすると、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力を出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行する。一方、切替領域制御禁止部424がばね上制振フィードバック制御実行フラグをリセットすると、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力を禁止して、ばね上制振フィードバック制御の実行を禁止する。
【0055】
次に、図10を参照しながら、本実施形態に係る車両制御装置1の処理動作について説明する。図10は、ばね上制振要求駆動力出力部のおけるばね上制振フィードバック実行条件判定処理を示すフローチャートである。
【0056】
図10に示すように、まず、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力出力部42は、制御対象車両30からのフィードバック入力に基づいて、車速が所定値未満であるか否かを判定する(ステップS1)。
【0057】
そして、車速が所定値未満であると判定すると(ステップS1:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御を実行する速度域に至っていないと判断して、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをクリアする(ステップS6)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力が禁止され、ばね上制振フィードバック制御の実行が禁止される。
【0058】
一方、車速が所定値以上であると判定すると(ステップS1:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、次に、ギア段が1速未満であるか否かを判定する(ステップS2)。このとき、ギア段がニュートラル、後退、パーキングなどのシフトポジションである場合は、ギア段が1速未満であると判定する。
【0059】
そして、ギア段が1速未満であると判定すると(ステップS2:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御を実行する必要が無いと判断して、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをクリアする(ステップS6)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力が禁止され、ばね上制振フィードバック制御の実行が禁止される。
【0060】
一方、ギア段が1速以上であると判定すると(ステップS2:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、次に、ドライバがシフト操作中であるか否かを判定する(ステップS3)。
【0061】
そして、ドライバがシフト操作中であると判定すると(ステップS3:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御を実行する必要が無いと判断して、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをクリアする(ステップS6)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力が禁止され、ばね上制振フィードバック制御の実行が禁止される。
【0062】
一方、ドライバがシフト操作中ではないと判定すると(ステップS3:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、次に、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択される燃焼モードが燃焼モードマップの切替領域にあるか否かを判定する(ステップS4)。すなわち、ばね上制振要求駆動力出力部42は、まず、エンジン回転数に基づいて実現系20で実現される燃料の噴射量を算出する。次に、ばね上制振要求駆動力出力部42は、冷却水温や触媒の状態に基づいて選択された燃焼モードマップを参照して、この噴射量とエンジン回転数とに合致する燃焼モードを検出する。そして、ばね上制振要求駆動力出力部42は、この検出した燃焼モードが切替領域にあるか否かを判定する。
【0063】
そして、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択される燃焼モードが燃焼モードマップの切替領域にあると判定すると(ステップS4:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをクリアする(ステップS6)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力が禁止され、ばね上制振フィードバック制御の実行が禁止される。
【0064】
一方、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択される燃焼モードが燃焼モードマップの切替領域にはないと判定すると(ステップS4:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、次に、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択されるマルチ噴射モードがマルチ噴射モードマップの切替領域にあるか否かを判定する(ステップS45)。すなわち、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ステップS4と同様に、エンジン回転数に基づいて実現系20で実現される燃料の噴射量を算出する。次に、ばね上制振要求駆動力出力部42は、燃焼モード及び冷却水温に基づいて選択されたマルチ噴射モードマップを参照して、この噴射量とエンジン回転数とに合致するマルチ噴射モードを検出する。そして、ばね上制振要求駆動力出力部42は、この検出したマルチ噴射モードが切替領域にあるか否かを判定する。
【0065】
そして、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択される燃焼モードがマルチ噴射モードマップの切替領域にあると判定すると(ステップS5:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをクリアする(ステップS6)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力の出力が禁止され、ばね上制振フィードバック制御の実行が禁止される。
【0066】
一方、エンジン回転数と燃料の噴射量とに基づいて選択される燃焼モードがマルチ噴射モードマップの切替領域にはないと判定すると(ステップS5:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部42は、ばね上制振フィードバック制御実行フラグをセットする(ステップS7)。これにより、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力が出力されるため、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求駆動力にこのばね上制振要求駆動力が加算されて、制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御が実行される。
【0067】
次に、本実施形態に係る車両制御装置1の処理動作について更に具体的に説明する。
【0068】
まず、制御対象車両30に上下方向に略1.5Hz前後の変動成分が生じた場合を考える。このとき、制御対象車両30から車速や振動などの情報がばね上制振制御装置40にフィードバックされるため、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力算出部41において、このフィードバック入力に基づくばね上制振要求駆動力が算出される。
【0069】
そして、燃焼モード及びマルチ噴射モードの何れも切替領域にない場合は、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求駆動力にこのばね上制振要求駆動力が加算されて、エンジンから逆位相のトルクが出力される。
【0070】
一方、燃焼モード及びマルチ噴射モードの何れか一方が切替領域にある場合は、ドライバ要求駆動力推定装置10からばね上制振要求駆動力の出力が禁止されるため、エンジンから逆位相のトルクが出力されない。
【0071】
このように、第1の実施形態に係る車両制御装置1によれば、エンジンの燃焼モード又はマルチ噴射モードの切替領域ではばね上制振フィードバック制御を禁止するため、ばね上制振フィードバック制御の影響によって燃焼モード又はマルチ噴射モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モード又はマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0072】
また、エンジンの燃焼モード又はマルチ噴射モードの切替領域では、エンジンから逆位相のトルクの出力を禁止することで、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、逆位相のトルクが出力されることによって燃焼モード又はマルチ噴射モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モード又はマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0073】
[第2実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係る車両制御装置は、第1の実施形態に係る車両制御装置と基本的に同様であり、ばね上制振要求駆動力出力部のみが異なる。このため、以下では、第1の実施形態と異なる部分のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分の説明を省略する。
【0074】
図11は、第2の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。図11に示すように、第2の実施形態に係る車両制御装置2は、ばね上制振制御装置40にばね上制振要求駆動力出力部52を備えている。
【0075】
ばね上制振要求駆動力出力部52は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力をばね上制振制御装置40から出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行するものである。また、ばね上制振要求駆動力出力部52は、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらない範囲でばね上制振フィードバック制御の実行が継続されるように、ばね上制振フィードバック制御の制御量を変更するものである。このため、ばね上制振要求駆動力出力部52には、第1の実施形態と同様の異常判定部421及びキャンセル判定部422が設けられており、更に第2の実施形態では、切替わり直前噴射量算出部525と、最小値選択反映部526とが設けられている。
【0076】
切替わり直前噴射量算出部525は、ドライバ要求駆動力などの変化によってエンジン回転数が変わり、エンジンの燃焼モード又はマルチ噴射モードが切替わる場合、これらのモードが切替わる直前のモード切替わり直前噴射量を算出するものである。
【0077】
図12は、モード切替わり直前噴射量の算出を説明するための図であって、燃焼モードマップの一部拡大図である。図12において、Q_mapは、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算しない場合の燃料の噴射量を示している。また、Q_map2は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算した場合の燃料の噴射量を示している。そして、切替わり直前噴射量算出部525は、この燃焼モードマップを参照して、噴射量がQ_map2からQ_mapに変わる場合に、燃焼モードが切替わる直前のモード切替わり直前噴射量Qmを算出する。なお、切替わり直前噴射量算出部525は、マルチ噴射モードマップを参照することで、マルチ噴射モードが切替わる直前のモード切替わり直前噴射量Qmも算出することができる。
【0078】
最小値選択反映部526は、燃焼モードが切替わるまでの噴射量とマルチ噴射モードが切替わるまでの噴射量とのうち、何れか小さい方の噴射量を選択するものである。
【0079】
ここで、駆動力と噴射量との関係について簡単に説明する。ディーゼルエンジンの場合、エンジントルクは燃料の噴射量でほぼ決まるため、エンジン回転数と噴射量、エンジントルクのマップを参照することで、エンジントルクと噴射量とを換算することができる。そして、要求駆動力をタイヤ径で割ってトルクに換算し、このトルクをギア比で割ってエンジントルクに換算し、このエンジントルクから噴射量を算出することで、要求駆動力を要求噴射量に換算することができる。このため、エンジン制御する際、実現系20に要求駆動力を渡して実現系20にて要求噴射量を算出してもよく、要求駆動力から換算された要求噴射量を実現系20に渡してもよい。なお、上述したように、要求駆動力と要求噴射量とは互いに換算することができるため、以下の説明では、便宜上、要求駆動力の代わりに要求噴射量を用いる場合がある。この場合、ドライバ要求駆動力推定装置10からは、ドライバ要求噴射量が出力され、ばね上制振要求駆動力出力部42からは、ばね上制振要求噴射量が出力され、ドライバ要求噴射量にばね上制振要求噴射量が加算されたばね上制振補正後要求噴射量が実現系20に出力される。
【0080】
次に、図13を参照しながら、本実施形態に係る車両制御装置2の処理動作について説明する。図13は、ばね上制振要求駆動力出力部のばね上制振制御要求噴射量補正処理動作を示すフローチャートである。
【0081】
まず、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力出力部52は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapから、燃焼モードMODE_Aと、マルチ噴射モードMODE_Bとを算出する(ステップS11)。
【0082】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算しない場合の燃料の噴射量Q_map2から、燃焼モードt_MODE_Aと、マルチ噴射モードt_MODE_Bとを算出する(ステップS12)。
【0083】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ステップS11で算出したMODE_AとステップS12で算出したt_MODE_Aとが同じであるか否かを判定する(ステップS13)。
【0084】
そして、MODE_Aとt_MODE_Aとが異なると判定すると(ステップS13:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部52は、燃焼モードマップを参照して、モード切替わり直前噴射量Qmを算出する(ステップS14)。
【0085】
また、ばね上制振要求駆動力出力部52は、燃焼モードマップを参照して、噴射量Q_map2からモード切替わり直前噴射量Qmまでの噴射量の差分であるΔ噴射量dQm_Aを算出する(ステップS15)。
【0086】
一方、MODE_Aとt_MODE_Aとが同じであると判定すると(ステップS13:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力に基づくばね上制振要求噴射量Qpを、Δ噴射量dQm_Aとする(ステップS16)。
【0087】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ステップS11で算出したMODE_BとステップS12で算出したt_MODE_Bとが同じであるか否かを判定する(ステップS17)。
【0088】
そして、MODE_Bとt_MODE_Bとが異なると判定すると(ステップS17:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部52は、マルチ噴射モードマップを参照して、モード切替わり直前噴射量Qmを算出する(ステップS18)。
【0089】
また、ばね上制振要求駆動力出力部52は、マルチ噴射モードマップを参照して、噴射量Q_map2からモード切替わり直前噴射量Qmまでの噴射量の差分であるΔ噴射量dQm_Bを算出する(ステップS19)。
【0090】
一方、MODE_Bとt_MODE_Bとが同じであると判定すると(ステップS17:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力に基づいて実現系20により実現される制振要求噴射量Qpを、Δ噴射量dQm_Bとする(ステップS20)。
【0091】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ステップS15またはステップS16で算出したΔ噴射量dZQm_Aと、ステップS19またはステップS20で算出したΔ噴射量dZQm_Bとのうち、小さい方のΔ噴射量を制振要求噴射量Qpとする(ステップS21)。
【0092】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部52は、ステップS21で算出された制振要求噴射量Qpをばね上制振要求駆動力に換算して出力する。
【0093】
これにより、ばね上制振制御装置40から制振要求噴射量Qpが出力され、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求噴射量にこのばね上制振要求噴射量が加算されることで、制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御が実行される。
【0094】
次に、本実施形態に係る車両制御装置2の処理動作について更に具体的に説明する。
【0095】
まず、制御対象車両30に上下方向に略1.5Hz前後の変動成分が生じた場合を考える。このとき、制御対象車両30から車速や振動などの情報がばね上制振制御装置40にフィードバックされるため、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力算出部41において、このフィードバック入力に基づいてばね上制振要求駆動力が算出される。
【0096】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部52により、ばね上制振要求駆動力が小さくなるため、エンジンからは、要求駆動力よりも小さくなった逆位相のトルクが出力される。これにより、ばね上振動の抑制効果が小さくなって僅かにばね上振動が残り、また、モードが切替わるまでの噴射量よりも大きな噴射量分は頭切りされるため位相のずれが生じるが、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりが抑制されるため、トルク変動が抑制される。
【0097】
このように、第2の実施形態に係る車両制御装置2によれば、Δ噴射量dZQm_AとΔ噴射量dZQm_Bとのうち何れか小さい方のΔ噴射量を制振要求噴射量Qpとすることで、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらない範囲でばね上制振フィードバック制御の実行を継続することができる。そして、このようにすることで、ばね上制振フィードバック制御を行いつつ、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わるのを防止することができるため、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりによってばね上制振フィードバック制御の効果が低減するのを防止でき、しかも、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0098】
また、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらない範囲でエンジンから逆位相のトルクを出力することで、車両の振動を抑制しつつ、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりによって振動の抑制効果が低減されるのを防止することができ、しかも、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0099】
[第3実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態に係る車両制御装置は、第1及び第2の実施形態に係る車両制御装置と基本的に同様であり、ばね上制振要求駆動力出力部のみが異なる。このため、以下では、第1及び第2の実施形態と異なる部分のみを説明し、第1及び第2の実施形態と同じ部分の説明を省略する。
【0100】
図14は、第3の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。図14に示すように、第3の実施形態に係る車両制御装置3は、ばね上制振制御装置40にばね上制振要求駆動力出力部62を備えている。
【0101】
ばね上制振要求駆動力出力部62は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力をばね上制振制御装置40から出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行するものである。また、ばね上制振要求駆動力出力部62は、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらないことを条件として、出力するばね上制振要求駆動力(制振要求噴射量)のゲインを変更する(補正する)ものである。このため、ばね上制振要求駆動力出力部62には、第1及び第2の実施形態と同様の異常判定部421、キャンセル判定部422及び切替わり直前噴射量算出部525が設けられており、更に、補正ゲイン制御部627が設けられている。
【0102】
補正ゲイン制御部627は、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらないことを条件として、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求噴射量の補正ゲインを変更するものである。具体的に説明すると、補正ゲイン制御部627は、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域では、ばね上制振要求噴射量の補正ゲインを1.0から0までの間で連続的または段階的に減少させる。また、補正ゲイン制御部627は、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域以外の領域では、ばね上制振要求噴射量の補正ゲインを連続的または段階的に増加させて1.0(元の状態)に戻す。
【0103】
ここで、図15を参照して、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正について説明する。図15は、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を説明するための図であり、図15(a)は、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を行わない場合を示しており、図15(b)は、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を行う場合を示している。図15において、細線a1は、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求噴射量を示しており、破線a2は、ドライバ要求噴射量a1にばね上制振要求噴射量を加算したばね上制振補正後要求噴射量を示している。そして、太線a3は、第1の実施形態における要求噴射量であって、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域ではばね上制振フィードバック制御を禁止する場合のばね上制振補正後要求噴射量を示している。
【0104】
図15(a)に示すように、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を行わない場合は、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域においてばね上制振フィードバック制御が禁止されるため、当該切替領域においてばね上制振補正後要求噴射量a3の頭切りが生じる。これに対して、図15(b)に示すように、ばね上制振要求噴射量のゲイン補正を行う場合は、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域に入ると、ばね上制振要求噴射量a2の補正ゲインを段階的に1.0から減少させていき、その後、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替領域から外れると、ばね上制振要求噴射量a2の補正ゲインを連続的に増加させていく。そして、このような補正ゲインの減少と増加とを繰り返すことで、徐々にばね上制振補正後要求噴射量a3の振幅が小さくなり、ばね上制振補正後要求噴射量a3の頭切れが無くなる。
【0105】
次に、図16を参照しながら、本実施形態に係る車両制御装置3の処理動作について説明する。図16は、ばね上制振要求駆動力出力部のばね上制振要求噴射量補正処理動作を示すフローチャートである。
【0106】
まず、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力出力部62は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapから、燃焼モードMODE_Aと、マルチ噴射モードMODE_Bとを算出する(ステップS31)。
【0107】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求駆動力に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求駆動力を加算しない場合の燃料の噴射量Q_map2から、燃焼モードt_MODE_Aと、マルチ噴射モードt_MODE_Bとを算出する(ステップS32)。
【0108】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、ステップS11で算出したMODE_AとステップS12で算出したt_MODE_Aとが同じであるか否かを判定する(ステップS33)。
【0109】
そして、MODE_Aとt_MODE_Aとが異なると判定すると(ステップS33:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、燃焼モードマップを参照して、モード切替わり直前噴射量Qmを算出する(ステップS34)。
【0110】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、噴射量Q_map2からモード切替わり直前噴射量Qmまでの噴射量の差分であるΔ噴射量dQmを算出する(ステップS35)。
【0111】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、ステップS35で算出したΔ噴射量dQmを制振要求噴射量Qpとする(ステップS36)。
【0112】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、補正ゲインを減算する(ステップS37)。ここで、補正ゲインを減算する減算値は、補正ゲインを徐々に小さくすることができる値であって、後述するステップS41で補正ゲインを加算する値よりも大きい値となる。
【0113】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、補正ゲインがmin値以下であるか否かを判定する(ステップS38)。ここで、min値は、1.0〜0の範囲の値であって、事前に設定されている。
【0114】
そして、補正ゲインがmin値以下であると判定すると(ステップS38:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、このmin値を補正ゲインとして更新する(ステップS39)。
【0115】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部62は、制振要求噴射量QpにステップS39で更新した補正ゲインを積算して、制振要求噴射量Qpを更新する(ステップS40)。
【0116】
一方、補正ゲインがmin値よりも大きいと判定すると(ステップS38:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、制振要求噴射量QpにステップS37で減算した補正ゲインを積算して、制振要求噴射量Qpを更新する(ステップS40)。
【0117】
一方、上述したステップS33において、MODE_Aとt_MODE_Aとが同じであると判定すると(ステップS33:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、補正ゲインを加算する(ステップS341)。ここで、補正ゲインを加算する加算値は、補正ゲインを徐々に大きくすることができる値であって、前述したステップS37で補正ゲインを減算する減算値よりも小さい値となる。
【0118】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部62は、補正ゲインが1.0以上であるか否かを判定する(ステップS42)。
【0119】
そして、補正ゲインが1.0以上であると判定すると(ステップS42:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、補正ゲインを1.0に更新する(ステップS43)。
【0120】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部62は、制振要求噴射量QpにステップS43で更新した補正ゲインを積算して、制振要求噴射量Qpを更新する(ステップS40)。
【0121】
一方、補正ゲインが1.0未満であると判定すると(ステップS42:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部62は、制振要求噴射量QpにステップS41で加算した補正ゲインを積算して、制振要求噴射量Qpを更新する(ステップS40)。
【0122】
これにより、ばね上制振制御装置40から制振要求噴射量Qpが出力され、ドライバ要求駆動力推定装置10から出力されたドライバ要求噴射量にこのばね上制振要求噴射量Qpが加算されることで、制御対象車両30のばね上制振フィードバック制御が実行される。
【0123】
次に、本実施形態に係る車両制御装置3の処理動作について更に具体的に説明する。
【0124】
まず、制御対象車両30に上下方向に略1.5Hz前後の変動成分が生じた場合を考える。このとき、制御対象車両30から車速や振動などの情報がばね上制振制御装置40にフィードバックされるため、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力算出部41において、このフィードバック入力に基づいてばね上制振要求駆動力(ばね上制振要求噴射量)が算出される。
【0125】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部62により、ばね上制振要求駆動力のゲインが小さくなるため、エンジンからは、要求駆動力よりも小さくなった逆位相のトルクが出力される。これにより、ばね上振動の抑制効果が小さくなって僅かにばね上振動が残るが、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりが抑制されるため、トルク変動が抑制される。そして、最初はモードが切替わるまでの噴射量よりも大きな噴射量分は頭切りされるが、ゲインを下げることで位相のずれも無くなる。
【0126】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部62において、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらない範囲で、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力(ばね上制振要求噴射量)の補正ゲインが変更される。これにより、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらずに、エンジンから逆位相のトルクが出力される。
【0127】
このように、本発明に係る車両制御装置3によれば、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらないことを条件として、ばね上制振要求噴射量の補正ゲインを変更することで、ばね上制振補正後要求噴射量a3の頭切りを防止して、ばね上制振フィードバック制御の制御量を滑らかに変化させることができるため、乗り心地を向上させることができる。
【0128】
また、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わらない範囲で、エンジンから出力される逆位相のトルクのゲインが補正されるため、トルク変動を滑らかにしつつ、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりを防止することができる。これにより、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりによって振動の抑制効果が低減されるのを防止することができ、しかも燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0129】
[第4実施形態]
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態に係る車両制御装置は、第1の実施形態に係る車両制御装置と基本的に同様であり、ばね上制振要求駆動力出力部のみが異なる。このため、以下では、第1の実施形態と異なる部分のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分の説明を省略する。
【0130】
図17は、第4の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。図17に示すように、第4の実施形態に係る車両制御装置4は、ばね上制振制御装置40にばね上制振要求駆動力出力部72を備えている。
【0131】
ばね上制振要求駆動力出力部72は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力をばね上制振制御装置40から出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行するものである。また、ばね上制振要求駆動力出力部72は、各燃焼モードと各マルチ噴射モードとの何れの組み合わせにおいてもモードの切替え時に影響が出る場合に、燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのモード算出用噴射量から、ばね上制振要求噴射量を減算するものである。すなわち、車両制御装置4は、ばね上制振要求噴射量を加算せずに、実現系20において燃焼モードマップ及びマルチ噴射モードマップから燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択する際に用いるマップ算出用噴射量を算出するものである。
【0132】
このため、ばね上制振要求駆動力出力部72には、第1の実施形態と同様の異常判定部421及びキャンセル判定部422が設けられており、更に、マップ算出用噴射量選択部728が設けられている。
【0133】
ここで、モードの切替え時に発生する影響について説明する。この影響は、燃焼モードでは、EGR有無のモードで過渡的にガスの応答遅れにより精度が確保できないケース、噴射量とエンジントルクの関係に誤差が生じるケース、噴射便の流量特性(小流量時の精度)、などがある。マルチ噴射モードでは、噴射量を分割してメイン噴射・パイロット噴射・アフター噴射にするが、噴射時期を変えて噴射することによる供給エネルギーが仕事に変わる効率の差が発生する。なお、通常は、このような影響のあるものは補正を行っているが、ばね上制振フィードバック制御で制御するトルクの範囲は小さく、また、制振周波数で噴射量を変化させたときに補正の精度が必ずしも確保できていない場合がある。
【0134】
マップ算出用噴射量選択部728は、実現系20において燃焼モードマップ及びマルチ噴射モードマップから燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択する際に用いるマップ算出用噴射量を算出するものである。実現系20は、ドライバ要求噴射量にばね上制振要求噴射量を加算したばね上制振補正後要求駆動力をマップ算出用噴射量とする。そして、実現系20は、燃焼モードマップ及びマルチ噴射モードマップを参照して、このマップ算出用噴射量とエンジン回転数に基づいて燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択し、エンジン制御を行う。そこで、マップ算出用噴射量選択部728は、この実現系20においてモード選択に用いられるマップ算出用噴射量からばね上制振要求噴射量を減算することで、燃焼モード及びマルチ噴射モードが頻繁に切替わるのを抑制するものである。具体的には、ばね上制振要求噴射量を加算せずにマップ算出用噴射量を算出し、この算出したマップ算出用噴射量に基づいて、燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択する。
【0135】
次に、図18を参照しながら、本実施形態に係る車両制御装置4の処理動作について説明する。図18は、ばね上制振要求駆動力出力部の処理動作を示すプロセスチャートである。
【0136】
図18に示すように、まず、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力出力部72は、アクセル開度とエンジン回転数とから定まる基本噴射量を算出する(ステップS51)。
【0137】
また、ばね上制振要求駆動力出力部72は、駆動系共振を抑制するトルク分を噴射量に換算した駆動系制振FF要求噴射量を算出する(ステップS52)。
【0138】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS51で算出した基本噴射量に、ステップS2で算出した駆動系制振FF要求噴射量を加算する(ステップS53)。
【0139】
また、ばね上制振要求駆動力出力部72は、種々の制約により定まる制約噴射量を算出する(ステップS54)。この制約噴射量は、スモークの発生限界となる噴射量など、適切にエンジン制御するために制約される噴射量である。
【0140】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS53で算出した噴射量と、ステップS54で算出した制約噴射量とを比較し、少ない方の噴射量を選択する(ステップS55)。
【0141】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS55で選択した噴射量を燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのマップ算出用噴射量とし、このマップ算出用噴射量を上述した噴射量Q_map2とする(ステップS56)。この噴射量Q_map2は、燃焼モードマップ及びマルチ噴射モードマップを参照して燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するときにのみ専用的に用いられる噴射量である。
【0142】
一方、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求噴射量を取得する(ステップS57)。
【0143】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS55で選択した噴射量に、ステップS57で取得したばね上制振要求噴射量を加算する(ステップS58)。
【0144】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS54で算出した制約噴射量を取得する(ステップS54)。
【0145】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS58で算出した噴射量と、ステップS54で取得した制約噴射量とを比較し、少ない方の噴射量を選択する(ステップS60)。
【0146】
そして、ばね上制振要求駆動力出力部72は、ステップS60で選択した噴射量を燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのマップ算出用噴射量とし、このマップ算出用噴射量を上述した噴射量Q_mapとする(ステップS61)。この噴射量Q_mapは、種々の引数を噴射量としているマップ用の噴射量となる。
【0147】
これにより、実現系20では、ステップS56で求めた噴射量Q_map2を用いて、燃焼モード及びマルチ噴射モードが選択され、エンジン制御が行われる。
【0148】
次に、本実施形態に係る車両制御装置4の処理動作について更に具体的に説明する。
【0149】
まず、制御対象車両30に上下方向に略1.5Hz前後の変動成分が生じた場合を考える。このとき、制御対象車両30から車速や振動などの情報がばね上制振制御装置40にフィードバックされるため、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力算出部41において、このフィードバック入力に基づいてばね上制振要求駆動力(ばね上制振要求噴射量)が算出される。
【0150】
そして、ばね上制振制御装置40では、燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのモード算出用噴射量を変更するのみで、ばね上制振要求駆動力を変えないため、要求駆動力に対応する逆位相のトルクがエンジンから出力される。
【0151】
このように、第4の実施形態に係る車両制御装置4によれば、モード算出用噴射量からばね上制振要求噴射量を減算した噴射量Q_map2を用いて燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択することで、ばね上制振フィードバック制御を行いつつ、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0152】
また、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わる領域では、ばね上制振要求噴射量が減算された噴射量に基づいて燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択することで、ばね上制振フィードバック制御によりエンジンから出力される逆位相のトルクによって燃焼モード及びマルチ噴射モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モード及びマルチ噴射モードが切替わる領域において、車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合は、エンジンから逆位相のトルクを出力してばね上制振フィードバック制御を行いつつ、燃焼モード及びマルチ噴射モードの頻繁な切替わりを防止することができる。
【0153】
[第5実施形態]
次に、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態に係る車両制御装置は、第4の実施形態に係る車両制御装置と基本的に同様であり、ばね上制振要求駆動力出力部のみが異なる。このため、以下では、第4の実施形態と異なる部分のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分の説明を省略する。
【0154】
図19は、第5の実施形態に係る車両制御装置を示した概念図である。図19に示すように、第5の実施形態に係る車両制御装置5は、ばね上制振制御装置40にばね上制振要求駆動力出力部92を備えている。
【0155】
ばね上制振要求駆動力出力部72は、ばね上制振要求駆動力算出部41で算出されたばね上制振要求駆動力をばね上制振制御装置40から出力して、ばね上制振フィードバック制御を実行するものである。また、ばね上制振要求駆動力出力部72は、各燃焼モードと各マルチ噴射モードとの何れの組み合わせにおいてもモードの切替え時に影響が出る場合に、燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのモード算出用噴射量から、ばね上制振要求噴射量を減算するものである。すなわち、車両制御装置5は、ばね上制振要求噴射量を加算せずに、実現系20において燃焼モードマップ及びマルチ噴射モードマップから燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択する際に用いるマップ算出用噴射量を算出するものである。なお、特定のモードの切替え時に発生する影響は、第4の実施形態で説明した影響と同様である。このため、ばね上制振要求駆動力出力部72には、第1の実施形態と同様の異常判定部421、キャンセル判定部422及びマップ算出用噴射量選択部728が設けられており、更に、特定モード切替判定部829が設けられている。
【0156】
特定モード切替判定部829は、燃焼モード及びマルチ噴射モードの切替えにより上述した所定の影響が発生する特定の組合せを判定するものである。特定モード切替判定部829には、予め、切替えにより所定の影響が発生する特定の燃焼モードとマルチ噴射モードモードとの組合せが登録されている。そして、特定モード切替判定部829は、実現系20で切替えられる燃焼モード及びマルチ噴射モードが、予め登録されている特定の組合せであるか否かを判定する。
【0157】
次に、図20を参照しながら、本実施形態に係る車両制御装置5の処理動作について説明する。図20は、ばね上制振要求駆動力出力部のモード算出を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、モードXとモードYとの組合せの切替えによって所定の影響が発生するものとし、それ以外の組合せの切替えによっては所定の影響が発生しないものとする。
【0158】
図20に示すように、まず、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力出力部82は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求噴射量に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求噴射量を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapから、燃焼モードt_MODEを算出する(ステップS71)。
【0159】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部82は、ステップS71において算出した燃焼モードt_MODEを、テンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納する(ステップS72)。
【0160】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部82は、ステップS71で算出したt_MODEがモードX及びモードYの何れかであるか否かを判定する(ステップS73)。
【0161】
そして、t_MODEがモードX及びモードYの何れでもないと判定すると(ステップS73:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、切替えにより影響が生じないモードの組合せであると判断して、モード算出処理を終了する。これにより、実現系20は、ステップS72でテンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納された燃焼モード、すなわち、ばね上制振要求噴射量を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapに基づいて選択されたモードでエンジン制御を行う。
【0162】
一方、t_MODEがモードX又はモードYの何れかであると判定すると(ステップS73:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、t_MODEがモードXであるか否かを判定する(ステップS74)。
【0163】
そして、t_MODEがモードXであると判定すると(ステップS74:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、モードが切替わる前の燃焼モード(前回の燃焼モード)がモードYであるか否かを判定する(ステップS75)。
【0164】
そして、前回の燃焼モードがモードYではないと判定すると(ステップS75:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、切替えにより影響が生じないモードの組合せであると判断して、モード算出処理を終了する。これにより、実現系20は、ステップS72でテンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納された燃焼モード、すなわち、ばね上制振要求噴射量を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapに基づいて選択されたモードでエンジン制御を行う。
【0165】
一方、前回の燃焼モードがモードYであると判定すると(ステップS75:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、切替えにより影響が生じるモードの組合せであると判断して、ステップS76に進む。
【0166】
また、上述したステップS74において、t_MODEがモードXではないと判定すると(ステップS74:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、前回の燃焼モードがモードXであるか否かを判定する(ステップS78)。
【0167】
そして、前回の燃焼モードがモードXではないと判定すると(ステップS78:NO)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、切替えにより影響が生じないモードの組合せであると判断して、モード算出処理を終了する。これにより、実現系20は、ステップS72でテンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納された燃焼モード、すなわち、ばね上制振要求噴射量を加算した場合の燃料の噴射量Q_mapに基づいて選択されたモードでエンジン制御を行う。
【0168】
一方、前回の燃焼モードがモードXであると判定すると(ステップS78:YES)、ばね上制振要求駆動力出力部82は、切替えにより影響が生じるモードの組合せであると判断して、ステップS76に進む。
【0169】
ステップS76に進むと、ばね上制振要求駆動力出力部82は、ドライバ要求駆動力推定装置10が推定したドライバ要求噴射量に、ばね上制振要求駆動力算出部41が算出したばね上制振要求噴射量を加算しない場合の燃料の噴射量Q_map2から、燃焼モードt_MODEを算出する(ステップS76)。
【0170】
次に、ばね上制振要求駆動力出力部82は、ステップS76において算出した燃焼モードt_MODEを、テンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納する(ステップS72)。これにより、実現系20は、ステップS72でテンポラリーの反映モード格納RAM“MODE_A”に格納された燃焼モード、すなわち、ばね上制振要求噴射量を加算しない場合の燃料の噴射量Q_map2に基づいて選択されたモードでエンジン制御を行う。
【0171】
図21は、モードXとモードYとの切替えを説明するための図である。図21に示すように、モードXとモードYとの間で切替わる場合は、ばね上制振要求噴射量を加算しない場合の燃料の噴射量に基づいて燃焼モードが選択される。このため、ステップS76で算出した燃焼モードt_MODEが反映モード格納RAM“MODE_A”に格納されると、噴射量Q_mapが変化して燃焼モードが切替わる噴射量となるまで、燃焼モードが固定される。
【0172】
次に、本実施形態に係る車両制御装置5の処理動作について更に具体的に説明する。
【0173】
まず、制御対象車両30に上下方向に略1.5Hz前後の変動成分が生じた場合を考える。このとき、制御対象車両30から車速や振動などの情報がばね上制振制御装置40にフィードバックされるため、ばね上制振制御装置40のばね上制振要求駆動力算出部41において、このフィードバック入力に基づいてばね上制振要求駆動力(ばね上制振要求噴射量)が算出される。
【0174】
そして、ばね上制振制御装置40では、燃焼モード及びマルチ噴射モードを選択するためのモード算出用噴射量を変更するのみで、ばね上制振要求駆動力を変えないため、要求駆動力に対応する逆位相のトルクがエンジンから出力される。
【0175】
このように、第5の実施形態に係る車両制御装置5によれば、特定のモードの組合せに切替えられる際は、ばね上制振要求噴射量を加算しない場合の燃料の噴射量に基づいて燃焼モードを選択することで、ばね上制振フィードバック制御を行いつつ、燃焼モードが頻繁に切替わるのを防止することができる。これにより、燃焼モードの切替わりにより発生するトルク変動が抑制されるため、乗り心地を向上させることができる。
【0176】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態において、マップ算出用噴射量選択部728及び特定モード切替判定部829は、ばね上制振制御装置40の機能として説明したが、例えば、実現系20の機能としてもよい。
【0177】
また、上記実施形態において、エンジンの制御モードとして、燃焼モード1〜燃焼モード5、マルチ噴射モード1〜マルチ噴射モード5を用いて説明したが、燃料の噴射や点火時期などエンジンに関連する様々なモードを用いてもよい。
【0178】
また、上記実施形態において、制振制御は、バネ上に入力される上下方向の振動を制振するものとして説明したが、振動する対象は車両全体であってもよく、また、車両前後方向の振動を制振するものであってもよい。
【符号の説明】
【0179】
1…車両制御装置、2…車両制御装置、3…車両制御装置、4…車両制御装置、5…車両制御装置、10…ドライバ要求駆動力推定装置、20…実現系、30…制御対象車両、40…上制振制御装置、41…上制振要求駆動力算出部、42…上制振要求駆動力出力部、52…上制振要求駆動力出力部、62…上制振要求駆動力出力部、72…上制振要求駆動力出力部、82…上制振要求駆動力出力部、92…上制振要求駆動力出力部、421…異常判定部、422…キャンセル判定部、423…モード切替領域判定部、424…切替領域制御禁止部、525…直前噴射量算出部、526…最小値選択反映部、627…補正ゲイン制御部、728…マップ算出用噴射量選択部、829…特定モード切替判定部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、
前記走行用駆動源の状況に応じて選択される前記走行用駆動源の制御モードの状況に応じて前記制振制御の制御態様を変更することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、
前記走行用駆動源の状況に応じて選択される前記走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では、前記制御モードが切替わらない領域に比べて前記制振制御の作用状態(制御量)を小さくすることを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、
前記走行用駆動源の状況に応じて選択される前記走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では、前記制振制御を禁止することを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、
前記走行用駆動源の状況に応じて選択される前記走行用駆動源の制御モードが切替わらない範囲で前記制振制御の実行が継続されるように、前記制振制御の制御態様を変更することを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
前記制御モードが切替わるまでの制御量を条件として前記制振制御の実行態様を決定することを特徴とする請求項4に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記制御モードが切替わらないことを条件として前記制振制御の実行態様を決定することを特徴とする請求項4に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記制振制御のゲインを補正することを特徴とする請求項6に記載の車両制御装置。
【請求項8】
走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、
前記走行用駆動源の状況に応じて選択される前記走行用駆動源の制御モードを選択するための制御量は、前記制振制御の制御量を減算した値であることを特徴とする車両制御装置。
【請求項9】
前記走行用駆動源は、ディーゼルエンジンであり、
前記走行用駆動源の制御モードは、燃料燃焼に係るものであることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載した車両制御装置。
【請求項10】
車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、
前記エンジンの使用領域に応じて選択される前記エンジンの制御モードが切替わる領域では、前記エンジンから逆位相のトルクの出力を禁止することを特徴とする車両制御装置。
【請求項11】
車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、
前記エンジンの使用領域に応じて選択される前記エンジンの制御モードが切替わらない範囲で前記エンジンから逆位相のトルクを出力することを特徴とする車両制御装置。
【請求項12】
車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、
前記エンジンの使用領域に応じて選択される前記エンジンの制御モードが切替わらない範囲で前記エンジンから出力される逆位相のトルクのゲインを補正することを特徴とする車両制御装置。
【請求項13】
車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、
前記エンジンの使用領域に応じて選択される前記エンジンの制御モードが切替わる領域では、前記制振制御により前記エンジンから出力される逆位相のトルクを除外して、前記エンジンの制御モードを選択することを特徴とする車両制御装置。
【請求項1】
走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、
前記走行用駆動源の状況に応じて選択される前記走行用駆動源の制御モードの状況に応じて前記制振制御の制御態様を変更することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、
前記走行用駆動源の状況に応じて選択される前記走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では、前記制御モードが切替わらない領域に比べて前記制振制御の作用状態(制御量)を小さくすることを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、
前記走行用駆動源の状況に応じて選択される前記走行用駆動源の制御モードが切替わる領域では、前記制振制御を禁止することを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、
前記走行用駆動源の状況に応じて選択される前記走行用駆動源の制御モードが切替わらない範囲で前記制振制御の実行が継続されるように、前記制振制御の制御態様を変更することを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
前記制御モードが切替わるまでの制御量を条件として前記制振制御の実行態様を決定することを特徴とする請求項4に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記制御モードが切替わらないことを条件として前記制振制御の実行態様を決定することを特徴とする請求項4に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記制振制御のゲインを補正することを特徴とする請求項6に記載の車両制御装置。
【請求項8】
走行用駆動源を制御して路面からの入力に対する車両振動を制御する制振制御を行う車両制御装置であって、
前記走行用駆動源の状況に応じて選択される前記走行用駆動源の制御モードを選択するための制御量は、前記制振制御の制御量を減算した値であることを特徴とする車両制御装置。
【請求項9】
前記走行用駆動源は、ディーゼルエンジンであり、
前記走行用駆動源の制御モードは、燃料燃焼に係るものであることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載した車両制御装置。
【請求項10】
車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、
前記エンジンの使用領域に応じて選択される前記エンジンの制御モードが切替わる領域では、前記エンジンから逆位相のトルクの出力を禁止することを特徴とする車両制御装置。
【請求項11】
車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、
前記エンジンの使用領域に応じて選択される前記エンジンの制御モードが切替わらない範囲で前記エンジンから逆位相のトルクを出力することを特徴とする車両制御装置。
【請求項12】
車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、
前記エンジンの使用領域に応じて選択される前記エンジンの制御モードが切替わらない範囲で前記エンジンから出力される逆位相のトルクのゲインを補正することを特徴とする車両制御装置。
【請求項13】
車両上下方向に略1.5Hzの変動成分が生じた場合に、エンジンから逆位相のトルクを出力して制振制御を行う車両制御装置であって、
前記エンジンの使用領域に応じて選択される前記エンジンの制御モードが切替わる領域では、前記制振制御により前記エンジンから出力される逆位相のトルクを除外して、前記エンジンの制御モードを選択することを特徴とする車両制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−17302(P2011−17302A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163063(P2009−163063)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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