説明

車両前部の遮音構造

【課題】優れた汎用性を有しつつ、車両前部の遮音性を向上させる。
【解決手段】補助サイレンサ120が弾性変形して撓んだ状態で上端120Tがカウル30の接合フランジ32の下面32Aに密着されている。よって、ダッシュインナサイレンサ110の上端110Tと接合フランジ32との間の隙間L2からの透過音が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部の遮音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部のエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルの車室内側をダッシュインナサイレンサで被覆することで、エンジン音の車室内への透過を防止する遮音構造が知られている。
【0003】
ここで、図4に示すように、特許文献1には、ダッシュパネル30にクリップ220が取り付けられていると共に、このクリップ220にインストルメントパネル40に形成されたピン230を押し込むことで、インストルメントパネル40が固定された構造が記載されている。
【0004】
そして、ダッシュインナサイレンサ210にカウル20の上面部20Aまで延長させた上端部212を形成すると共に、クリップ220に外周縁から上面部220Aに沿って延びる延出部222を形成し、このクリップ220の延出部222でダッシュインナサイレンサ210の上端部212を押付けている。このような構成とすることで、ダッシュパネル30に設けたダッシュインナサイレンサ210とは別に遮音材や吸音材を設けることなく、ダッシュインナサイレンサ210をカウル20の上面部20Aまで延長することを可能としている。つまり、ダッシュインナサイレンサ210とは別の遮音材や吸音材を設けることなく、遮音性を向上させている。
【特許文献1】特開平9−156431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにダッシュパネル30に設けたクリップ220でインストルパネル40を固定する固定方法以外で、インストルメントパネル40を固定する構造の場合、特許文献1を適用して遮音性を向上させることができない、或いは適用することが困難な場合がある。
【0006】
例えば、図5に示すように、カウル20とダッシュパネル30との接合部位33に、インストルメントパネル40に形成された断面略U字状の挟持部42を挿し込んで(くわえ込ませて)、インストルメントパネル40を固定する固定方法の場合、クリップ220(図4参照)を有しないので、特許文献1の構成を適用し遮音性を向上させることはできない。
【0007】
よって、幅広い(種々の)インストルメントパネルの固定構造に適用が可能な、汎用性に優れた車両前部の遮音構造が望まれている。
【0008】
本発明は、上記を考慮し、優れた汎用性を有しつつ、遮音性を向上させた車両前部の遮音構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、車両前部のエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、前記ダッシュパネルの上端部から車室内側に延出し、前記ダッシュパネルの上側に設けられたカウルに接合された接合フランジと、前記ダッシュパネルの車室内側面に、上端が前記接合フランジとの間に間隔をあけて取り付けられたダッシュインナサイレンサと、前記ダッシュインナサイレンサの上端部における車室内側面に下端部が取り付けられると共に、弾性変形した状態で上端部が前記接合フランジに密着した補助サイレンサと、を備えることを特徴としている。
【0010】
したがって、ダッシュパネルの車室内側面に取り付けられたダッシュインナサイレンサに取り付けられた補助サイレンサの上端部が接合フランジに密着されているので、ダッシュインナサイレンサの上端と接合フランジとの間の隙間からの透過音が低減する。よって、車両前部の遮音性が向上する。言い換えると、NV性能(ノイズバイブレーション性能)が向上する。
【0011】
また、例えば、ダッシュパネルの車室内側に設けられるインストルメントパネルの取り付け方法が、ダッシュパネルに設けたクリップにインストルメントパネルを固定する構造であっても、或いは、ダッシュパネルの接合フランジとカウルとの接合部位を挟持して固定する構造であっても、本遮音構造を適用することができる。言い換えると、本遮音構造は、幅広い(種々の)インストルメントパネルの固定構造に適用が可能である。つまり、本遮音構造は優れた汎用性を有している。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両前部の遮音構造において、前記補助サイレンサが、ゴム発泡体で構成されていることを特徴としている。
【0013】
したがって、補助サイレンサの上端部が接合フランジへの密着性が向上するので、車両前部の遮音性が更に向上する(NV性能が更に向上する)。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、優れた汎用性を有しつつ、車両前部の遮音性を向上させることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、車両前部の遮音性を更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1〜図3を用いて、本発明にかかる車両前部の遮音構造の実施形態の一例を詳細に説明する。図1は、本発明の車両前部の遮音構造を示す側面断面図(車両前後方向に沿った縦断面図)である。図2(A)は、図1の要部(補助サイレンサ)を拡大した側面断面図である。図2(B)は、補助サイレンサが接合フランジの下面に腹当り(面接触)した状態を示す側面断面図である。図3は、貼り付け前の遮音部材を示す正面図である。なお、図中の矢印UPは車両上方向を示し、矢印FRは車両前方向を示し、矢印OUTは車両幅方向外側方向を示す。
【0017】
図1に示すように、カウル20は、車両前方側に向かって下り勾配の傾斜面24が形成されており、この傾斜面24にフロントウインドシールドガラス18の前端下部が接着剤19等によって固定されている。
【0018】
カウル20の下側には、エンジンルーム12と車室14とを仕切るダッシュパネル30が配設されている。ダッシュパネル30の上端部には、車室内側(車両後方側)に屈曲され、且つ略水平に配置された接合フランジ32が形成されている。よって、ダッシュパネル30の上端部分の車両前後方向に沿った縦断面形状は、逆L字状とされている。
【0019】
そして、ダッシュパネル30は接合フランジ32とカウル20の車両後方側端部(車室内側端部)の接合部22とが、上下に重ね合わされて接合されている。なお、この重ね合わされて接合された部位を接合部位33とする。
【0020】
ダッシュパネル30の車室内側には、車室14の正面の内装を構成するインストルメントパネル40が設けられている。
【0021】
インストルメントパネル40の前部上端側には、車両前方側に向かって突出する挟持部42(図1参照)が形成されている。挟持部42は、上片部42Aと下片部42Bとで構成され車両幅方向前方側を開口側として配置された縦断面略U字状とされている。なお、この挟持部42は、車両幅方向に間隔をあけて複数形成されている。そして、挟持部42を構成する上片部42Aと下片部42Bとの間に接合部位33を差し込み挟み込むことで(くわえ込むことで)、インストルメントパネル40が固定されている(図5も参照)。
【0022】
インストルメントパネル40の上端部には、フロントウインドシールドガラス18とカウル20との間に延出する延出部44が形成されている。そして、インストルメントパネル40の延出部44の前端部44Aが、フロントウインドシールドガラス18とカウル20との間に設けられているシール部材17によって固定されている。
【0023】
また、空調装置(図示略)からの空調空気を車室14に導く断面略四角柱状のデフロスタノズル16が、ダッシュパネル30とインストルメントパネル40との間に配設されている。
【0024】
ダッシュパネル30の車室内側には、エンジンルーム12のエンジン音などを遮音する(車室14へのエンジン音の透過を低減させる)遮音部材100が設けられている。この遮音部材100は、ダッシュインナサイレンサ110と補助サイレンサ120とで構成されている(図3も参照)。
【0025】
ダッシュパネル30の車室内側面30Aには、フェルトや発泡ウレタン等からなり、遮音性及び吸音性を有するダッシュインナサイレンサ110が取り付けられている(ダッシュパネルの車室内側面30Aはダッシュインナサイレンサ110によって被覆されている)。ダッシュインナサイレンサ110の上端110Tは、ダッシュパネル30の接合フランジ32の下面32Aに対して若干隙間をあけて取り付けられている。
【0026】
言い換えると、ダッシュインナサイレンサ110の上端110Tとダッシュパネル30の接合フランジ32の下面32Aとが干渉しないように設計されている、すなわち、干渉設計ではなく、ダッシュインナサイレンサ110の上端110Tとダッシュパネル30の接合フランジ32の下面32Aとが近接配置される設計(構成)となっている。
【0027】
補助サイレンサ120は、板状の遮音性及び吸音性を有する弾性体とされている。補助サイレンサ120は、厚み方向が車両前後方向とされ、下端部120Kがダッシュインナサイレンサ110の上端部における車室内側面110Aに取り付けられている(接合されている)。補助サイレンサ120の上端部120Cは自由端とされ、この上端部120Cがダッシュパネル30の接合フランジ32の下面32Aに密着されている。正確には、補助サイレンサ120の上端120Tの車両前方側のエッジ120TEが、接合フランジ32の下面32Aに密着している。
【0028】
なお、補助サイレンサ120の自由端の長さL1(図3を参照)は、ダッシュインナサイレンサ110の上端110Tとダッシュパネル30の接合フランジ32の下面32Aとの間の隙間L2(図2(A)参照)よりも長い(L1>L2)。よって、補助サイレンサ120は、弾性変形して撓んだ状態で上端部120Cが接合フランジ32の下面32Aに密着している。言い換えると、補助サイレンサ120の上端部120Cとダッシュパネル30の接合フランジ32とが干渉するように干渉設計されている。
【0029】
また、図3に示すように、補助サイレンサ120は、車両幅方向に間隔をあけて複数設けられている。そして、補助サイレンサ120と補助サイレンサ120との間(図3の隙間S)に、前述したインストルメントパネル40の挟持部42(図1、図5参照)が配置されるようになっている。
【0030】
ここで、本実施形態の補助サイレンサ120は、EPDMゴムを主成分とした発泡ゴムを板状に加工して用いている。また、本実施形態では、補助サイレンサ(発泡ゴム)120は、数十〜数百Paの低応力で、厚みが数分の一から数十分の一に潰れる特性を有する。なお、本実施形態では、このような特性を有する発泡ゴムとして、日東電工株式会社製のエプトシーラ(登録商標)を使用している。
【0031】
つぎに本実施形態の作用について説明する。
【0032】
図1に示すように、ダッシュパネル30の車室内側には、遮音部材100が設けられているので、エンジンルーム12のエンジン音などが遮音される(エンジン音の車室14への透過が低減する)。
【0033】
また、図2(A)に示すように、補助サイレンサ120が弾性変形して撓んだ状態で上端部120Cがカウル30の接合フランジ32の下面32Aに密着されている。よって、補助サイレンサ120を設けていない構造と比較し、ダッシュインナサイレンサ110の上端110Tと接合フランジ32との間の隙間L2からの透過音が低減されるので、車両前部の遮音性が向上する。言い換えると、補助サイレンサ120を設けることによって、NV性能(ノイズバイブレーション性能)が向上する。
【0034】
ここで、ダッシュインナサイレンサ110の上端110Tを接合フランジ32の下面32Aに当接するように(下面32Aとの間に隙間をあけることなく)取り付けることは、製造上のバラツキや生産性を考慮すると難しい(干渉設計とすることは困難である)。よって、ダッシュインナサイレンサ110の上端110Tと接合フランジ32の下面32Aとが近接した(若干隙間があいた)状態となる。また、仮にダッシュインナサイレンサ110の上端110Tが接合フランジ32の下面32Aに当接しても、自重などにより密着性が低い。つまり、ダッシュインナサイレンサ110の上端110Tが接合フランジ32の下面32Aに密着させ、遮音性を向上させることは困難である。
【0035】
これに対して、本実施形態では、前述したように、補助サイレンサ120が弾性変形して撓んだ状態で、上端部120Cがカウル30の接合フランジ32の下面32Aに密着している。そして、製造バラツキを考慮しても、常にL1>L2となるように干渉設定することで(図2(A)、図3参照)、補助サイレンサ120の撓み量が変わることはあっても、補助サイレンサ120の上端部120Cはカウル30の接合フランジ32の下面32Aに常に密着する(密着性が高い)。
【0036】
よって、補助サイレンサ120が設けられていない(ダッシュインナサイレンサ110のみを設けた)遮音構造(本発明が適用されていない遮音構造)、と比較し、ダッシュインナサイレンサ110の上端110Tと接合フランジ32との間の隙間からの透過音が確実に低減され、遮音性が向上する。
【0037】
また、例えば、図4に示す特許文献1の遮音構造のように、ダッシュパネル30にクリップ220が取り付けられていると共に、このクリップ220にインストルメントパネル40に形成されたピン230を押し込むことでインストルメントパネル40を固定する構造であっても、本遮音構造を容易に適用することができる。例えば、本実施形態のように、ピン230とクリップ220に対応する箇所を補助サイレンサ120間の隙間S(図3を参照)とすることで、補助サイレンサ120を設けることが可能である。つまり、幅広いインストルメントパネル40の固定構造に適用が可能である。言い換えると、汎用性に優れた遮音構造となっている。
【0038】
なお、補助サイレンサ120は、数十〜数百Paの低応力で、厚みが数分の一から数十分の一に潰れる弾性体(本実施形態ではエプトシーラ(登録商標))で構成されている。よって、補助サイレンサ120の上端部120Cとカウル30の接合フランジ32の下面32Aとの密着性が向上する。つまり、このような特性の補助サイレンサ120を使用することによって遮音性が更に向上する。
【0039】
また、例えば、設計上の制約や意匠の関係からインストルメントパネル40と補助サイレンサ120のとの隙間が少なく、インストルメントパネル40の裏面に形成された突起やリブ、或いは、デフロスタノズル16等の周辺の部品が補助サイレンサ120に干渉(当接)しても、干渉部位(当接部位)の補助サイレンサ120が凹むだけで、問題は生じない。つまり、インストルメントパネル40の設計の自由度が大きく、又意匠の制限も少ない、汎用性に優れた遮音構造となっている。
【0040】
このように本実施形態の車両の遮音構造は、優れた汎用性を有しつつ、遮音性が向上されている。
【0041】
なお、上記実施形態では、図2(A)に示すように、補助サイレンサ120の上端120Tの車両前方側のエッジ120TEが、接合フランジ32の下面32Aに密着していたが、これに限定されない。図2(B)に示すように、補助サイレンサ120の上端部120Cにおける車両前方側面120Bが接合フランジ32の下面32Aに密着してもよい。つまり、図2(A)に示すように、エッジ120TE当りでなく、図2(B)に示すように、腹当り((車両前方側面120B接触(面接触))であってもよい。
【0042】
また、補助サイレンサ120は、発泡ゴム以外の材料で構成されていてもよい。弾性変形する弾性体であればどのような材質であってもよい。例えば、ウレタンスポンジであってもよい。また、インストルメントパネル40との隙間などに応じて最適なNV性能が得られるように、補助サイレンサの厚みや材質を調整してもよい。
【0043】
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の車両前部の遮音構造を示す側面断面図である。
【図2】(A)は、図1の要部(補助サイレンサ)を拡大した側面断面図であり、(B)は、補助サイレンサが腹当り(面接触)した状態を示す側面断面図である。
【図3】ダッシュパネルに取り付ける前の遮音部材を示す正面図である。
【図4】本発明以外の方法で遮音性が向上された車両前部の遮音構造を示す側面断面図である。
【図5】図4とは異なる固定方法でインストルメントパネルが固定され且つ遮音部材が備えられていない車両前部の側面断面図である。
【符号の説明】
【0045】
18 フロントウインドシールドガラス
20 カウル
30 ダッシュパネル
32 接合フランジ
110 ダッシュインナサイレンサ
110T 上端
120 補助サイレンサ
120C 上端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部のエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルと、
前記ダッシュパネルの上端部から車室内側に延出し、前記ダッシュパネルの上側に設けられたカウルに接合された接合フランジと、
前記ダッシュパネルの車室内側面に、上端が前記接合フランジとの間に間隔をあけて取り付けられたダッシュインナサイレンサと、
前記ダッシュインナサイレンサの上端部における車室内側面に下端部が取り付けられると共に、弾性変形した状態で上端部が前記接合フランジに密着した補助サイレンサと、
を備えることを特徴とする車両前部の遮音構造。
【請求項2】
前記補助サイレンサが、ゴム発泡体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両前部の遮音構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−95179(P2010−95179A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268630(P2008−268630)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】