説明

車両前部構造

【課題】大幅な構成の変更を伴うことなく、エンジンの後方移動を確実に抑制することのできる車両前部構造を提供する。
【解決手段】補強部材12とエンジン8とがエンジン取付部16で連結されていることにより、例えば、高い車高の車両と前面衝突した場合などのように、フロントサイドメンバ2を介さず荷重が直接エンジン8に入力されたときであっても、確実にエンジン8がショックアブソーバ11に支持される。更に、エンジン8に入力された衝突荷重が、エンジン取付部16、補強部材12、ショックアブソーバ11及び前輪9を介してロッカ6やフロントピラー4等の比較的強度の高い構造部材に伝達されるため、エンジン8の後方移動を確実に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前面衝突時における、エンジンの後方移動を抑制する車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両前部構造として、車両の前輪と一体に回転可能なストラットと、ストラットと一体に回転可能なアームと、エンジンよりも車両後側に配置され、操舵操作力をアーム及びストラットを介して車輪に伝えると共に、車両の前面衝突時においては、エンジンと干渉してエンジンの後方旋回を制限するタイロッドとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−62487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の車両前部構造にあっては、タイロッドと車輪の位置関係が通常の車両と比べて大きく異なるため、特にタイロッド、アーム及びストラット等の構成を大幅に変更しなくてはならなかった。
【0004】
また、例えば、車高の高い車両と前面衝突した場合などのように、フロントサイドメンバを介さず衝突荷重が直接エンジンに入力されたときのことを考慮し、より確実にエンジンの後方移動を抑制することのできる車両前部構造が要求されていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、大幅な構成の変更を伴うことなく、エンジンの後方移動を確実に抑制することのできる車両前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両前部構造は、エンジン後方で車幅方向に延在し、左右一対のショックアブソーバを連結する補強部材と、エンジンと補強部材とを連結するエンジン取付部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この車両前部構造によれば、エンジン後方に、左右一対のショックアブソーバを連結する補強部材が設けられており、この補強部材とエンジンとがエンジン取付部で連結されている。従って、例えば、高い車高の車両と前面衝突した場合などのように、フロントサイドメンバを介さず衝突荷重が直接エンジンに入力されたときであっても、補強部材及びエンジン取付部によって確実にエンジンがショックアブソーバに支持される。更に、エンジンに入力された衝突荷重が、エンジン取付部、補強部材、ショックアブソーバ及び前輪を介してロッカやフロントピラー等の比較的強度の高い構造部材に伝達されるため、エンジンの後方移動を確実に抑制することができる。また、補強部材をタイロッドやアーム及びストラット等からは全く独立に設けることによって、通常の車両構造を変更する必要がなくなる。以上によって、大幅な車両構造の変更を伴うことなく、確実にエンジンを車体に支持して当該エンジンの後方移動を確実に抑制することができる。
【0008】
また、本発明に係る車両前部構造は、補強部材は、エンジンの重心位置よりも高い位置に配置されることが好ましい。このような構造によれば、例えば、衝突荷重がエンジンの上部に入力された際の、エンジンの後方への回転を防止することができる。
【0009】
また、本発明に係る車両前部構造は、補強部材は、ショックアブソーバの車体側取付部と車輪側取付部との間に取り付けられることが好ましい。このような構造によれば、補強部材が、強度の高いショックアブソーバに直接取り付けられることとなるため、エンジンに入力された衝突荷重を、確実にロッカやフロントピラー等へ伝達することができる。
【0010】
また、本発明に係る車両前部構造は、補強部材は、ショックアブソーバに取り付けられる左右一対のアブソーバ取付部と、車幅方向に延在し、左右一対のアブソーバ取付部を連結する連結部と、を有することが好ましい。このような構造によれば、車幅方向に延在する連結部によってエンジンに入力された衝突荷重を受けることができる。また、連結部から伝達された荷重をアブソーバ取付部を介してショックアブソーバへ確実に伝達することができる。
【0011】
また、本発明に係る車両前部構造は、アブソーバ取付部と連結部とは取り外し可能とされていることが好ましい。このような構造によれば、補強部材の組み付け及び分解が容易になる。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明によれば、大幅な構成の変更を伴うことなく、エンジンの後方移動を確実に抑制することができる。これにより、車両の前面衝突による衝撃を大幅に軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る車体前部構造の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る車両前部構造1の概略構成図であり、(a)は平面図、(b)は車両左側から見た側面図である。図1に示すように、車両前部構造1は、強度部材を構成するフロントサイドメンバ2を一対備えており、各フロントサイドメンバ2は、車両の前部において車両前後方向に沿って延びるように配置されている。
【0015】
各フロントサイドメンバ2の車両前側端には、強度部材を構成するフロントバンパーリーンフォースメント3が接続されており、このフロントバンパーリーンフォースメント3は車幅方向に沿って延びるように配置されている。
【0016】
各フロントサイドメンバ2の車両後側端には、強度部材を構成する一対のロッカ4が接続されており、各ロッカ4は、車両前後方向に沿って延びるように配置されている。各ロッカ4の車両前側端部には、強度部材を構成するフロントピラー6が接続されており、各フロントピラー6は、各ロッカ4の車両前側端部から上側へ延びるように配置されている。
【0017】
各フロントピラー6には、強度部材を構成するエプロンアッパメンバ7が接続されている。このエプロンアッパメンバ7は、フロントサイドメンバ2よりも上方において車両前後方向に沿って延びるように配置されている。
【0018】
また、一対のフロントサイドメンバ2の間には、複数箇所で車体に支持されたエンジン8が配置されている。例えば、エンジン8は、各フロントサイドメンバ2に弾性マウント部材(図示せず)によって支持されるとともに、車幅方向中央部においてクロスメンバ(図示せず)に弾性マウントによって支持されている。なお、エンジン8の重心位置8aを図1中に示す。
【0019】
更に、車両前部構造1は、フロントサイドメンバ2の外側に配置された左右一対の前輪9と、当該前輪9に接続された左右一対のショックアブソーバ11と、エンジン8後方で車幅方向に延在し、左右一対のショックアブソーバ11を連結する補強部材12と、エンジン8と補強部材12とを連結するエンジン取付部16とを備えている。
【0020】
ここで、図2を用いて補強部材12とエンジン取付部16の構成及びそれらの周辺の構成を詳細に説明する。図2は、車両前部構造1の一部の構成を示す斜視図である。
【0021】
エンジン8には、後側の上端部に切溝部8bが形成されている。また、切溝部8bには、エンジン取付部16を取り付けるための取付軸8cが車幅方向に向かって設けられている。
【0022】
前輪9は、車軸9aを介して各々接続されており、エンジン8の車両前側面8dよりも後方に配置されている。
【0023】
ショックアブソーバ11は、走行中における前輪9の衝撃を吸収するものであり、その上端(車体側取付部)11aで車体に取り付けられる。また、ショックアブソーバ11の上端11a側にはコイルスプリング部11bが設けられ、下端側には前輪9とショックアブソーバ11とを接続するナックルアーム(車輪側取付部)11cが設けられている。
【0024】
補強部材12は、ショックアブソーバ11に取り付けられる左右一対のアブソーバ取付部13と、エンジン8の後方で車幅方向に延在し左右一対のアブソーバ取付部13を連結する連結部14とからなる。
【0025】
アブソーバ取付部13は、アブソーバ11の上端11a側のコイルスプリング部11bとナックルアーム11cとの間であってエンジン8の重心位置8aよりも高い位置で、ショックアブソーバ11に取り付けられる。アブソーバ取付部13は、図3に示すように、二股部材13a、取付部材13bとを有し、二股部材13aの端部同士を取付部材13bでネジ止めすることによって、二股部材13aに挟み込みまれたアブソーバ11を連結する構成となっている。また、二股部材13aの他端部には、連結部14と接続される接続部13cが設けられている。この接続部13cの先端にはネジ山13dが設けられている。
【0026】
連結部14は、両端にネジ穴が形成された円柱状の棒であり、当該ネジ穴にアブソーバ取付部13の接続部13cの先端がねじ込まれることによりアブソーバ取付部13と接続され、それによって左右一対のショックアブソーバ11を接続する。このように、アブソーバ取付部13と連結部14が取り外し可能とされているため、補強部材12の組み付けが容易になる。
【0027】
エンジン取付部16の一端には、エンジン8の取付軸8cを貫通させて保持するための貫通穴が形成された保持部16aが設けられる。また、エンジン取付部16の他端には、補強部材12の連結部14に回転可能に接続された接続部16bが設けられる。
【0028】
次に、上述のように構成された車体構造1の作用・効果について、図4〜7を用いて説明する。図4は、従来の車両前部構造21が衝突荷重を受けた際の様子を示す平面図であり、(a)にエンジン8が移動する前、(b)にエンジン8が移動した後の状態を示す。図5は、従来の車両前部構造21が衝突荷重を受けた際の様子を示す側面図であり、(a)にエンジン8が移動する前、(b)にエンジン8が移動した後の状態を示す。図6は、本実施形態に係る車両前部構造1が衝突荷重を受けた際の様子を示す平面図であり、(a)にエンジン8が移動する前、(b)にエンジン8が移動した後の状態を示す。図7は、本実施形態に係る車両前部構造1が衝突荷重を受けた際の様子を示す側面図であり、(a)にエンジン8が移動する前、(b)にエンジン8が移動した後の状態を示す。
【0029】
まず、本実施形態との比較のために従来の車両前部構造21が衝突荷重を受けた場合について説明する。図4(a)及び図5(a)に示すように、例えば、車高の高い車両と前面衝突した場合などのように、フロントサイドメンバ2を介さず荷重が直接エンジン8に入力されたとき、エンジン8に大きな衝突荷重が作用する。
【0030】
この衝突荷重が、弾性マウント部材(前述)によるエンジン8を支持する力を超えると、図4(b)及び図5(b)に示すように、ショックアブソーバ11、前輪9及びロッカ4に衝突荷重を流すことなく、エンジン8が後方へ移動してしまう。
【0031】
次に、本実施形態に係る車両前部構造1が衝突荷重を受けた場合について説明する。図6(a)及び図7(a)に示すように、上述と同様に、エンジン8に大きな荷重が作用し、この衝突荷重が弾性マウント部材によるエンジン8を支持する力を超えると、エンジン8は後方へ移動する。
【0032】
このとき、エンジン8はエンジン取付部16を介して補強部材12に連結されており、補強部材12は両端でショックアブソーバ11と接続されている。これによって、衝突荷重が入力されたときであっても、エンジン8は、強度の高いショックアブソーバ11に確実に支持される。また、エンジン8に入力された衝突荷重は、図6(b)及び図7(b)に示すように、エンジン取付部16及び補強部材12から、ショックアブソーバ11、前輪9を通じてロッカ4及びフロントピラー6へ流される。このように、衝突荷重は、ロッカ4やビラー6などの比較的強度の高い構造部材に伝達されるため、エンジン8の後方移動は確実に抑制される。
【0033】
また、補強部材12をタイロッドやアーム及びストラット等からは全く独立に設けることによって、通常の車両構造を変更する必要がなくなる。これによって、大幅構造の変更を伴うことなく、確実にエンジン8を車体に支持して当該エンジン8の後方移動を確実に抑制することができる。
【0034】
また、補強部材12は、エンジン8の重心位置8aよりも高い位置に配置されているため、衝突荷重がエンジン8の上部に入力された際の、エンジン8の上方後側への転がりを防止することができる。
【0035】
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではない。
【0036】
例えば、本実施形態では、補強部材12に関し、連結部14側にネジ穴を形成し、アブソーバ取付部13側にネジ山13dが設けられているが、図8(a)に示すように、連結部14の端部側にネジ山14dを設け、アブソーバ取付部13の接続部13c側にネジ穴を設けてもよい。
【0037】

また、アブソーバ取付部13と連結部14をネジ止めではなく、図8(b)に示すように、ピン17によって接続してもよい。
【0038】
また二股部材13aの端部同士を取付部材13bでネジ止めして取り付ける代わりに、図8(c)に示すように、二股部材13aと取付部材13eとを、接着材で取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施形態に係る車両前部構造の概略構成図であり、(a)は平面図、(b)は車両左側から見た側面図である。
【図2】車両前部構造の一部の構成を示す斜視図である。
【図3】補強部材(エンジン取付部を含む)の分解斜視図である。
【図4】従来の車両前部構造が衝突荷重を受けた際の様子を示す平面図であり、(a)にエンジンが移動する前、(b)にエンジンが移動した後の状態を示す。
【図5】従来の車両前部構造が衝突荷重を受けた際の様子を示す側面図であり、(a)にエンジンが移動する前、(b)にエンジンが移動した後の状態を示す。
【図6】本実施形態に係る車両前部構造が衝突荷重を受けた際の様子を示す平面図であり、(a)にエンジンが移動する前、(b)にエンジンが移動した後の状態を示す。
【図7】本実施形態に係る車両前部構造が衝突荷重を受けた際の様子を示す側面図であり、(a)にエンジンが移動する前、(b)にエンジンが移動した後の状態を示す。
【図8】補強部材の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1…車両前部構造、8…エンジン、8a…重心位置、11…ショックアブソーバ、11a…上端(車体側取付部)、11c…ナックルアーム(車輪側取付部)、12…補強部材、13…アブソーバ取付部、14…連結部、16…エンジン取付部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン後方で車幅方向に延在し、左右一対のショックアブソーバを連結する補強部材と、
前記エンジンと前記補強部材とを連結するエンジン取付部と、を備えることを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記補強部材は、前記エンジンの重心位置よりも高い位置に配置されることを特徴とする請求項1記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記補強部材は、前記ショックアブソーバの車体側取付部と車輪側取付部との間に取り付けられることを特徴とする請求項1または2記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記補強部材は、
前記ショックアブソーバに取り付けられる左右一対のアブソーバ取付部と、
車幅方向に延在し、前記左右一対のアブソーバ取付部を連結する連結部と、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記アブソーバ取付部と前記連結部とは取り外し可能とされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−155879(P2008−155879A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350073(P2006−350073)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】