説明

車両及び車両の故障検知方法

【課題】本発明は、原動機として電動機を有する車両においても、駆動輪や出力軸の回転を検出する回転センサの故障検知を頻繁に実施可能とすることによって、回転センサから得られる情報の信頼性を向上可能な車両及び車両の故障検知方法を提供する。
【解決手段】本発明において、車両1は、モータ7と、モータ7からの機械的動力を、モータ7と係合する第1主軸11で受け、複数の変速段のうちいずれかを係合状態にして第1主軸11と駆動輪DW,DWとを係合させることが可能な第1変速機構と、モータ7の回転を検出するレゾルバ112と、カウンタ軸14の回転を検出する出力軸回転センサ114と、を備える。駆動輪DW,DW側から伝達されるトルクによってモータ7が制動力を発生させているとき、出力軸回転センサ114により検出されたカウンタ軸14の回転がゼロ又は負である場合には、カウンタ軸14を故障と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動輪の回転を検出する回転センサの故障を検知可能な車両及び車両の故障検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載された原動機や変速機構の動作を制御するため、原動機の回転や入出力軸の回転を検出するための種々のセンサが車両に搭載されている。これらのセンサからの情報の信頼性を担保するため、従来、センサに発生した異常を検知する種々の手法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−50878号公報
【特許文献2】特開2007−22244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来、原動機として内燃機関を有する車両において、駆動輪や出力軸の回転を検出する回転センサ(以後、出力軸回転センサとも呼ぶ)の故障を検知する方法としては、まず車両の前進及び後退を判定し、車両が前進していると判定された場合に出力軸回転センサの故障を検知するといった手法が用いられている。この手法において、車両の前進判定は、外乱要因の影響を低減するために、例えば降坂走行時や惰性走行時等、車両の減速時に内燃機関が休止している場合に行なわれる。車両が前進していると判定された場合に、出力軸回転センサの検出値がゼロであれば、出力軸回転センサが故障と判定される。
【0005】
しかしながら、原動機として電動機を有する近年の車両においては、減速時に内燃機関を出力軸から切り離して回生発電を行ないながら走行可能であるため、従来の手法のみによっては出力軸回転センサの故障を検知可能な条件が少なくなり、情報の信頼性を担保できないおそれがある。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、原動機として電動機を有する車両においても、駆動輪や出力軸の回転を検出する回転センサの故障検知を頻繁に実施可能とすることによって、回転センサから得られる情報の信頼性を向上可能な車両及び車両の故障検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、
原動機(例えば、後述の実施形態におけるモータ7)と、
前記原動機からの機械的動力を、前記原動機と係合する第1入力軸(例えば、後述の実施形態の第1主軸11)で受け、第1同期装置(例えば、後述の実施形態のブレーキ機構61,第1、第2奇数段変速用シフター51a、51b)を介して複数の変速段のうちいずれかを係合状態にして前記第1入力軸と駆動輪(例えば、後述の実施形態の駆動輪DW)とを係合させることが可能な第1変速機構(例えば、後述の実施形態の遊星歯車機構30、第3速用駆動ギヤ23a、第5速用駆動ギヤ25a、第7速用駆動ギヤ97a)と、
前記原動機の回転および/または前記第1入力軸の回転を検出する第1回転センサ(例えば、後述の実施形態のレゾルバ112)と、
前記駆動輪の回転を検出する第2回転センサ(例えば、後述の実施形態の出力軸回転センサ114)と、を備える車両(例えば、後述の実施形態における車両1)であって、
前記駆動輪側から伝達されるトルクによって前記原動機が制動力を発生させているとき、前記第2回転センサにより検出された前記駆動輪の回転がゼロ又は負である場合には、前記第2回転センサが故障と判定されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両において、
前記第2回転センサが故障と判定された場合、車輪速センサ(例えば、後述の実施形態の車輪速センサ118)の値が前記第2回転センサの値に換算されて使用されることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の車両において、
前記原動機としての電動機と、
内燃機関(例えば、後述の実施形態におけるエンジン6)と、
前記内燃機関の出力軸と前記第1入力軸とを係合させることが可能な第1断接部(例えば、後述の実施形態の第1クラッチ41)と、
前記内燃機関の前記出力軸の回転を検出する内燃機関回転センサ(例えば、後述の実施形態のエンジン回転センサ122)と、を備え、
前記第1入力軸は、前記内燃機関の前記出力軸及び前記電動機からの機械的動力を受けることが可能であり、
前記第1断接部の係合中に前記内燃機関回転数センサにより検出された回転数が正である場合には、前記第2回転センサにより検出された前記駆動輪の回転がゼロであっても、前記第2回転センサが故障と判定されないことを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の車両において、
前記内燃機関の前記出力軸からの機械的動力を第2入力軸(例えば、後述の実施形態の第2中間軸16)で受け、第2同期装置(例えば、後述の実施形態の第1、第2偶数段変速用シフター52a、52b)を介して複数の変速段のいずれかを係合状態にして前記第2入力軸と前記駆動輪とを係合させることが可能な第2変速機構(例えば、後述の実施形態の第2速用駆動ギヤ22a、第4速用駆動ギヤ24a、第6速用駆動ギヤ96a)と、
前記内燃機関の出力軸と前記第2入力軸とを係合させることが可能な第2断接部(例えば、後述の実施形態の第2クラッチ42)と、
前記第2入力軸の回転を検出する第3回転センサ(例えば、後述の実施形態の偶数段回転センサ116)と、を備え、
前記第2回転センサが故障と判定された場合、前記第2断接部が前記内燃機関の前記出力軸と前記第2入力軸とを係合させ、前記第2変速機構が前記第2入力軸と前記駆動輪とを係合させ、前記第3回転センサの値が前記第2回転センサの値に換算されて使用されることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、
内燃機関と、
電動機と、
前記内燃機関の出力軸及び前記電動機からの機械的動力を、前記電動機と回転子と係合する第1入力軸で受け、第1同期装置を介して複数の変速段のいずれかを係合状態にして前記第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、
前記内燃機関の出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、第2同期装置を介して複数の変速段のいずれかを係合状態にして前記第2入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第2変速機構と、
前記内燃機関の出力軸と前記第1入力軸とを係合させることが可能な第1断接部と、
前記内燃機関の出力軸と前記第2入力軸とを係合させることが可能な第2断接部と、
前記電動機の回転および/または前記第1入力軸の回転を検出する第1回転センサと、
前記駆動輪の回転を検出する第2回転センサと、を備える車両であって、
前記駆動輪側から伝達されるトルクによって前記原動機が制動力を発生させているとき、前記第2回転センサにより検出された前記駆動輪の回転がゼロ又は負である場合には、前記第2回転センサが故障と判定されることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の車両において、
前記第2入力軸の回転を検出する第3回転センサを備え、
前記第2回転センサが故障と判定された場合、前記第2断接部が前記内燃機関の出力軸と前記第2入力軸とを係合させ、前記第2変速機構が前記第2入力軸と前記駆動輪とを係合させ、前記第3回転センサの値が前記第2回転センサの値に換算されて使用されることを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、
原動機と、
前記原動機からの機械的動力を、前記原動機と係合する第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれかを係合状態にして前記第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、
前記原動機の回転および/または前記第1入力軸の回転を検出する第1回転センサと、
前記駆動輪の回転を検出する第2回転センサと、を備える車両の故障検知方法であって、
前記駆動輪側から伝達されるトルクによって前記原動機が制動力を発生させているかどうかを判断するステップと、
前記駆動輪側から伝達されるトルクによって前記原動機が制動力を発生させていると判断された場合に、前記第2回転センサにより検出された前記駆動輪の回転がゼロ又は負である場合には、前記第2回転センサを故障と判定するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、5、7の発明によれば、駆動輪側から伝達されるトルクによって原動機が制動力を発生させている場合、すなわち例えば減速回生中に、第2回転センサの故障を検知可能であるため、第2回転センサの故障検知が頻繁に実施可能となり、第2回転センサからの情報の信頼性を向上することができる。また、駆動輪側から伝達されるトルクによって原動機が制動力を発生させている場合であれば、第1入力軸と駆動輪とは必ず係合状態となっているので、第1入力軸と駆動輪とを係合状態にする第1同期装置の係合状態を判断することなく、第2回転センサの故障検知を行なうことが可能となる。
【0015】
請求項2の発明によれば、例えばABS制御のために設けられている車輪速センサの値を換算して第2回転センサの値として使用することができるので、第2回転センサの故障時にも通常と同等の走行を行なうことが可能となる。
【0016】
請求項3の発明によれば、車両停止中に内燃機関の動力によって電動機が発電している場合を除外できるので、より精密な故障検知が可能となる。
【0017】
請求項4、6の発明によれば、第2回転センサが故障と判定された場合に、第2入力軸上の変速段によって走行することにより、第3回転センサの検出値を換算して第2回転センサの値として使用することができるので、第2回転センサの故障時にも最低限の走行を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態における車両の概略構成図である。
【図2】図1の変速機構の詳細を示す概略構成図である。
【図3】EV走行モード中のトルクの伝達状況の一例を示す図である。
【図4】ENG走行モード中のトルクの伝達状況の一例を示す図である。
【図5】回生モード中のトルクの伝達状況の一例を示す図である。
【図6】ENG+MOTアシスト走行モード中のトルクの伝達状況の一例を示す図である。
【図7】ENG走行+MOT充電モード中のトルクの伝達状況の一例を示す図である。
【図8】アイドル充電モード中のトルクの伝達状況の一例を示す図である。
【図9】出力軸回転センサの故障判定処理を示すフローチャートである。
【図10】エンジンによる充電判断処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る車両及び車両の故障検知方法の一実施形態について、図1〜図10を参照しながら説明する。
【0020】
図1、2に示されるように、本実施形態にかかる車両1は、駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DW(被駆動部)を駆動するためのものであり、駆動源である内燃機関(以下「エンジン」という)6と、PDU2を介して蓄電器(以下「バッテリ」という)3に接続された電動機(以下「モータ」という)7と、動力を駆動輪DW,DWに伝達するための変速機20と、を備えている。PDU2は、バッテリ3の直流電力を三相交流電力に変換してモータ7に供給する。また、PDU2は、減速走行時における駆動輪DW,DWの回転やエンジン6の動力によってモータ7で発電された三相交流電力を直流電力に変換して、バッテリ3を充電する。
【0021】
エンジン6は、例えばガソリンエンジン又はディーゼルエンジンである。図2に示されるように、エンジン6のクランク軸6aには、変速機20の第1クラッチ41と第2クラッチ42が配置されている。
【0022】
モータ7は、3相ブラシレスDCモータであり、ステータ71と、このステータ71に対向するように配置されたロータ72とを有し、後述する遊星歯車機構30のリングギヤ35の外周側に配置されている。ロータ72は、遊星歯車機構30のサンギヤ32に連結されて、遊星歯車機構30のサンギヤ32と一体に回転するように構成されている。
【0023】
遊星歯車機構30は、サンギヤ32と、このサンギヤ32と同軸上に配置され、かつ、このサンギヤ32の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ35と、サンギヤ32とリングギヤ35に噛合されたプラネタリギヤ34と、このプラネタリギヤ34を自転可能、かつ、公転可能に支持するキャリア36とを有し、サンギヤ32とリングギヤ35とキャリア36が、相互に差動回転自在に構成されている。
【0024】
リングギヤ35には、同期機構を有しリングギヤ35の回転を停止(ロック)可能に構成されたブレーキ機構61が設けられている。なお、ブレーキ機構61にかわって、ロック機構、シンクロ機構等が設けられてもよい。
【0025】
変速機20は、前述した第1クラッチ41と第2クラッチ42と、遊星歯車機構30と、後述する複数の変速ギヤ段を備えた、いわゆるデュアルクラッチ式変速機である。
【0026】
より具体的に、変速機20は、エンジン6のクランク軸6aと同軸(回転軸線A1)上に配置された第1主軸11、第2主軸12、連結軸13と、回転軸線A1と平行な回転軸線B1を中心として回転自在なカウンタ軸14と、回転軸線A1と平行な回転軸線C1を中心として回転自在な第1中間軸15と、回転軸線A1と平行な回転軸線D1を中心として回転自在な第2中間軸16と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線E1を中心として回転自在なリバース軸17と、を備えている。
【0027】
第1主軸11には、エンジン6側に第1クラッチ41が設けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のサンギヤ32とモータ7のロータ72が第1主軸11と一体で回転するように設けられている。従って、第1主軸11は、第1クラッチ41によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結されるとともにモータ7と直結され、エンジン6及び/又はモータ7の動力が入力されるように構成されている。
【0028】
第2主軸12は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、第2主軸12には、エンジン6側に第2クラッチ42が設けられ、エンジン6側とは反対側にアイドル駆動ギヤ27cが第2主軸12と一体で回転するように設けられている。従って、第2主軸12は、第2クラッチ42によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結され、エンジン6の動力がアイドル駆動ギヤ27cへ入力されるように構成されている。
【0029】
連結軸13は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側とは反対側の周囲を覆うように第1主軸11と相対回転自在に配置されている。また、連結軸13には、エンジン6側に第3速用駆動ギヤ23aが連結軸13と一体で回転するように設けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のキャリア36が連結軸13と一体で回転するように設けられている。従って、プラネタリギヤ34の公転により連結軸13に設けられたキャリア36と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するように構成されている。
【0030】
さらに、第1主軸11には、連結軸13に設けられた第3速用駆動ギヤ23aと第2主軸12に設けられたアイドル駆動ギヤ27cとの間に、第3速用駆動ギヤ23aとともに奇数段変速部を構成する第7速用駆動ギヤ97aと第5速用駆動ギヤ25aとが、第3速用駆動ギヤ23a側からこの順に第1主軸11と相対回転自在に設けられている。また、第5速用駆動ギヤ25aとアイドル駆動ギヤ27cとの間には、第1主軸11と一体に回転する後進用従動ギヤ28bが設けられている。
【0031】
第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aとの間には、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23a又は第7速用駆動ギヤ97aとを連結又は開放する第1奇数段変速用シフター51aが設けられ、第7速用駆動ギヤ97aと第5速用駆動ギヤ25aとの間には、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aとを連結又は開放する第2奇数段変速用シフター51bが設けられている。
【0032】
そして、第1奇数段変速用シフター51aが第3速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが連結して一体に回転し、3速相当の変速段で走行可能となる。第1奇数段変速用シフター51aが第7速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第7速用駆動ギヤ97aが連結して一体に回転し、7速相当の変速段で走行可能となる。第1奇数段変速用シフター51aがニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aに対し相対回転する。なお、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するとき、第1主軸11に設けられたサンギヤ32と第3速用駆動ギヤ23aに連結軸13で連結されたキャリア36が一体に回転するとともに、リングギヤ35も一体に回転し、遊星歯車機構30が一体となる。
【0033】
第2奇数段変速用シフター51bがインギヤするときには、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aが連結して一体に回転し、5速相当の変速段で走行可能となる。ニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第5速用駆動ギヤ25aに対し相対回転する。
【0034】
第1中間軸15には、第2主軸12に設けられたアイドル駆動ギヤ27cと噛合する第1アイドル従動ギヤ27dが第1中間軸15と一体で回転するように設けられている。
【0035】
第2中間軸16には、第1中間軸15に設けられた第1アイドル従動ギヤ27dと噛合する第2アイドル従動ギヤ27eが第2中間軸16と一体で回転するように設けられている。第2アイドル従動ギヤ27eは、前述したアイドル駆動ギヤ27cと第1アイドル従動ギヤ27dとともに第1アイドルギヤ列27aを構成し、エンジン6の動力が第2主軸12から第1アイドルギヤ列27aを介して第2中間軸16に伝達される。
【0036】
また、第2中間軸16には、第1主軸11に設けられた第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aと第5速用駆動ギヤ25aと対応する位置に、それぞれ偶数段変速部を構成する第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aと第4速用駆動ギヤ24aとが第2中間軸16と相対回転自在に設けられている。
【0037】
第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aとの間には、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22a又は第6速用駆動ギヤ96aとを連結又は開放する第1偶数段変速用シフター52aが設けられ、第6速用駆動ギヤ96aと第4速用駆動ギヤ24aとの間には、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aとを連結又は開放する第2偶数段変速用シフター52bが設けられている。
【0038】
そして、第1偶数段変速用シフター52aが第2速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22aが連結して一体に回転し、2速相当の変速段で走行可能となる。第1偶数段変速用シフター52aが第6速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第6速用駆動ギヤ96aが連結して一体に回転し、6速相当の変速段で走行可能となる。第1偶数段変速用シフター52aがニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aに対し相対回転する。
【0039】
第2偶数段変速用シフター52bがインギヤするときには、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aが連結して一体に回転し、4速相当の変速段で走行可能となる。第2偶数段変速用シフター52bがニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第4速用駆動ギヤ24aに対し相対回転する。
【0040】
カウンタ軸14には、エンジン6側とは反対側から順に第1共用従動ギヤ23bと、第2共用従動ギヤ96bと、第3共用従動ギヤ24bと、パーキングギヤ21と、ファイナルギヤ26aとが一体回転可能に設けられている。
【0041】
ここで、第1共用従動ギヤ23bは、連結軸13に設けられた第3速用駆動ギヤ23aと噛合して第3速用駆動ギヤ23aと共に第3速用ギヤ23を構成し、第2中間軸16に設けられた第2速用駆動ギヤ22aと噛合して第2速用駆動ギヤ22aと共に第2速用ギヤ22を構成する。
【0042】
第2共用従動ギヤ96bは、第1主軸11に設けられた第7速用駆動ギヤ97aと噛合して第7速用駆動ギヤ97aと共に第7速用ギヤ97を構成し、第2中間軸16に設けられた第6速用駆動ギヤ96aと噛合して第6速用駆動ギヤ96aと共に第6速用ギヤ96を構成する。
【0043】
第3共用従動ギヤ24bは、第1主軸11に設けられた第5速用駆動ギヤ25aと噛合して第5速用駆動ギヤ25aと共に第5速用ギヤ25を構成し、第2中間軸16に設けられた第4速用駆動ギヤ24aと噛合して第4速用駆動ギヤ24aと共に第4速用ギヤ24を構成する。
【0044】
ファイナルギヤ26aは差動ギヤ機構8と噛合して、差動ギヤ機構8は、駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに連結されている。従って、カウンタ軸14に伝達された動力はファイナルギヤ26aから差動ギヤ機構8、駆動軸9,9、駆動輪DW,DWへと出力される。
【0045】
リバース軸17には、第1中間軸15に設けられた第1アイドル従動ギヤ27dと噛合する第3アイドル従動ギヤ27fがリバース軸17と一体回転可能に設けられている。第3アイドル従動ギヤ27fは、前述したアイドル駆動ギヤ27cと第1アイドル従動ギヤ27dとともに第2アイドルギヤ列27bを構成し、エンジン6の動力が第2主軸12から第2アイドルギヤ列27bを介してリバース軸17に伝達される。また、リバース軸17には、第1主軸11に設けられた後進用従動ギヤ28bと噛合する後進用駆動ギヤ28aがリバース軸17と相対回転自在に設けられている。後進用駆動ギヤ28aは、後進用従動ギヤ28bとともに後進用ギヤ列28を構成している。さらに後進用駆動ギヤ28aのエンジン6側とは反対側にリバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとを連結又は開放する後進用シフター53が設けられている。
【0046】
そして、後進用シフター53が後進用接続位置でインギヤするときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが一体に回転し、後進用シフター53がニュートラル位置にあるときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが相対回転する。
【0047】
なお、第1,第2奇数段変速用シフター51a,51b、第1、第2偶数段変速用シフター52a、52b、後進用シフター53は、接続する軸とギヤの回転数を一致させる同期機構を有するクラッチ機構を用いている。第1,第2奇数段変速用シフター51a,51bはブレーキ機構61とともに奇数段切替手段を構成し、第1、第2偶数段変速用シフター52a、52bは偶数段切替手段を構成する。
【0048】
このように構成された変速機20には、2つの変速軸の一方の変速軸である第1主軸11上に第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aと第5速用駆動ギヤ25aからなる奇数段変速部が構成され、2つの変速軸の他方の変速軸である第2中間軸16上に第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aと第4速用駆動ギヤ24aからなる偶数段変速部が構成される。
【0049】
以上の構成により、本実施形態のハイブリッド車両1は、以下の第1〜第5の伝達経路を有している。
【0050】
(1)第1伝達経路は、エンジン6の動力が、第1主軸11、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される伝達経路である。ここで、遊星歯車機構30の減速比は、第1伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達されるエンジントルクが第1速相当となるように設定されている。即ち、遊星歯車機構30の減速比と第3速用ギヤ23の減速比をかけ合わせた減速比が第1速相当となるように設定されている。この第1伝達経路を介して、第1クラッチ41を締結し、ブレーキ機構61をロックするとともに第1、第2奇数段変速用シフター51a、51bをニュートラルにすることで、第1速走行がなされる。
【0051】
(2)第2伝達経路は、エンジン6の動力が、第2主軸12、第1アイドルギヤ列27a(アイドル駆動ギヤ27c、第1アイドル従動ギヤ27d、第2アイドル従動ギヤ27e)、第2中間軸16、第2速用ギヤ22(第2速用駆動ギヤ22a、第1共用従動ギヤ23b)又は第4速用ギヤ24(第4速用駆動ギヤ24a、第3共用従動ギヤ24b)又は第6速用ギヤ96(第6速用駆動ギヤ96a、第2共用従動ギヤ96b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される伝達経路である。この第2伝達経路を介して、第2クラッチ42を締結し、第1偶数段変速用シフター52aを第2速用接続位置でインギヤすることで第2速走行がなされ、第2偶数段変速用シフター52bをインギヤすることで第4速走行がなされ、第1偶数段変速用シフター52aを第6速用接続位置でインギヤすることで第6速走行がなされる。
【0052】
(3)第3伝達経路は、エンジン6の動力が、第1主軸11、第3速用ギヤ23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ25(第5速用駆動ギヤ25a、第3共用従動ギヤ24b)又は第7速用ギヤ97(第7速用駆動ギヤ97a、第2共用従動ギヤ96b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される伝達経路である。この第3伝達経路を介して、第1クラッチ41を締結し、第1奇数段変速用シフター51aを第3速用接続位置でインギヤすることで第3速走行がなされ、第2奇数段変速用シフター51bをインギヤすることで第5速走行がなされ、第1奇数段変速用シフター51aを第7速用接続位置でインギヤすることで第7速走行がなされる。
【0053】
(4)第4伝達経路は、モータ7の動力が、遊星歯車機構30、又は遊星歯車機構30および第3速用ギヤ23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、又は第5速用ギヤ25(第5速用駆動ギヤ25a、第3共用従動ギヤ24b)、又は第7速用ギヤ97(第7速用駆動ギヤ97a、第2共用従動ギヤ96b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される伝達経路である。この第4伝達経路を介して、第1及び第2クラッチ41、42を開放した状態で、ブレーキ機構61をロックするとともに第1、第2奇数段変速用シフター51a、51bをニュートラルにすることで第1速EV走行がなされ、ブレーキ機構61のロックを解除し第1奇数段変速用シフター51aを第3速用接続位置でインギヤすることで第3速EV走行がなされ、ブレーキ機構61のロックを解除し第2奇数段変速用シフター51bをインギヤすることで第5速EV走行がなされ、ブレーキ機構61のロックを解除し第1奇数段変速用シフター51aを第7速用接続位置でインギヤすることで第7速EV走行がなされる。
【0054】
(5)第5伝達経路は、エンジン6の動力が、第2主軸12、第2アイドルギヤ列27b(アイドル駆動ギヤ27c、第1アイドル従動ギヤ27d、第3アイドル従動ギヤ27f)、リバース軸17、後進用ギヤ列28(後進用駆動ギヤ28a、後進用従動ギヤ28b)、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。この第5伝達経路を介して、第2クラッチ42を締結し後進用シフター53を後進用接続位置でインギヤし且つブレーキ機構61をロックすることで後進走行がなされる。
【0055】
ECU5には加速要求、制動要求、レゾルバ112により検出されるモータ回転数、モータトルク、出力軸回転センサ114により検出されるカウンタ軸14の回転数、偶数段軸回転センサ116により検出されるリバース軸117(第2主軸12、第2中間軸16)の回転数、エンジン回転センサ122により検出されるエンジン回転数、車速、変速段、シフトポジション、バッテリ3の残容量(SOC:State of Charge)や温度情報などが入力される。一方、ECU5からは、エンジン6を制御する信号、モータ7を制御する信号、バッテリ3における充電状態・放電状態などを示す信号、第1、第2奇数段変速用シフター51a、51b、第1、第2偶数段変速用シフター52a、52bおよび後進用シフター53を制御する信号、ブレーキ機構61の締結(ロック)と開放(ニュートラル)を制御する信号などが出力される。
【0056】
このように構成されたハイブリッド車両1は、第1及び第2クラッチ41、42の断接を制御するとともにブレーキ機構61、第1、第2奇数段変速用シフター51a、51b、第1、第2偶数段変速用シフター52a、52b及び後進用シフター53の接続位置を制御することにより、エンジン6で第1〜第7速走行及び後進走行を行うことができる。
【0057】
第1速走行では、第1クラッチ41を締結してブレーキ機構61を接続することで第1伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。第2速走行では、第2クラッチ42を締結して第1偶数段変速用シフター52aを第2速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。第3速走行では、第1クラッチ41を締結して第1奇数段変速用シフター51aを第3速用接続位置でインギヤすることで第3伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。
【0058】
また、第4速走行では、第2クラッチ42を締結して第2偶数段変速用シフター52bをインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。第5速走行では、第1クラッチ41を締結して第2奇数段変速用シフター51bをインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。また、第6速走行では、第2クラッチ42を締結して第1偶数段変速用シフター52aを第6速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。第7速走行では、第1クラッチ41を締結して第1奇数段変速用シフター51aを第7速用接続位置でインギヤすることで第3伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。さらに、第2クラッチ42を締結して後進用シフター53を接続することで、第5伝達経路を介して後進走行がなされる。
【0059】
また、エンジン走行中にブレーキ機構61を接続したり、第1、第2奇数段変速用シフター51a、51b及び第1、第2偶数段変速用シフター52a、52bをプレシフトすることで、モータ7でアシストしたり回生したり、さらにアイドリング中であってもエンジン6をモータ7で始動したりバッテリ3を充電することもできる。さらに、第1及び第2クラッチ41、42を切断してモータ7でEV走行を行うこともできる。EV走行の走行モードとしては、第1及び第2クラッチ41、42を切断して、ブレーキ機構61を接続することで第4伝達経路を介して走行する第1速EVモードと、第1奇数段変速用シフター51aを第3速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第3速EVモードと、第2奇数段変速用シフター51bを第5速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第5速EVモードと、第1奇数段変速用シフター51aを第7速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第7速EVモードと、が存在する。また、これらEV走行の走行モードにおいて、モータ7を逆転方向に駆動して逆転方向にモータトルクを印加することで、後進走行を行なうことができる。
【0060】
図3〜図8は、車両1の種々の運転モードの一例を示す。図3は、第1及び第2クラッチ41、42を切断すると共に第1奇数段変速用シフター51aを第3速用接続位置でインギヤすることによりなされる第3速EVモード(EV走行)におけるトルクの伝達状況を示す。前述したように、第1奇数段変速用シフター51aを第3速用接続位置にインギヤすることで、遊星歯車機構31は一体となっている。この状態で、バッテリ3からPDU2を介して電力を供給してモータ7を駆動(正転方向にトルクを印加)すると、第1及び第2クラッチ41、42が切断されているため、サンギヤ32に伝達された動力は第1主軸11からエンジン6のクランク軸6aに伝達されることはない。そして、モータトルクが第3速用ギヤ対23を通る第4伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達される。
【0061】
図4は、第1クラッチ41を切断して第2クラッチ42を締結すると共に、第1奇数段変速用シフター51aをニュートラルにし、また第2偶数段変速用シフター52bを第4速用接続位置にインギヤすることによりなされる第4速走行(ENG走行)におけるトルクの伝達状況を示す。この第4速走行では、第1クラッチ41が切断されブレーキ機構61のロックが解除されているため、サンギヤ32及びリングギヤ35が空転しモータ7が切り離されている。エンジントルクは、第2伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達される。
【0062】
図5は、第1及び第2クラッチ41、42を切断すると共に第1奇数段変速用シフター51aを第3速用接続位置でインギヤして行われる回生モード(回生)におけるトルクの伝達状況を示している。前述したように第1奇数段変速用シフター51aを第3速用接続位置にインギヤすることで、遊星歯車機構31は一体となっている。この状態で、モータ7を駆動せずに、駆動輪DW,DW側から逆転方向にトルクを印加すると、モータ7は正回転しながら制動力を発生して発電し、PDU2を介してバッテリ3を充電する。
【0063】
図6は、第1クラッチ41を切断して第2クラッチ42を締結すると共に、第1奇数段変速用シフター51aを第3速用接続位置にインギヤし、且つ第2偶数段変速用シフター52bを第4速用接続位置にインギヤすることによりなされる、エンジン6の駆動力に加えてモータ7でアシストして走行する場合(ENG+MOTアシスト走行)におけるトルクの伝達状況を示している。エンジントルクは第2伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達され、また、モータトルクは第4伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達される。
【0064】
図7は、第1クラッチ41を切断して第2クラッチ42を締結すると共に、第1奇数段変速用シフター51aを第3速用接続位置にインギヤし、且つ第2偶数段変速用シフター52bを第4速用接続位置にインギヤすることによりなされる、モータ7で充電しながら、エンジン6の駆動力で走行する場合(ENG走行+MOT充電)におけるトルクの伝達状況を示している。エンジントルクは、第2伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達されると共に、モータ7へと逆転方向に印加される。これにより、エンジン6の駆動力により走行すると共に、逆転方向に印加されたトルクによってモータ7が正回転しながら発電し、PDU2を介してバッテリ3を充電する。
【0065】
ここで、図3、4、6、7に示された種々の運転モードにおいて、モータトルクやエンジントルクをカウンタ軸14へと出力させるためには、ブレーキ機構61、第1、第2奇数段変速用シフター51a、51b、第1、第2偶数段変速用シフター52a、52bのいずれかが、その対応する接続位置にインギヤしている必要がある。そのため、図3、4、6、7に示される運転モードにおいては、出力軸回転センサ114の検出値がゼロとなる要因として、出力軸回転センサ114の故障以外に、ブレーキ機構61、第1、第2奇数段変速用シフター51a、51b、および第1、第2偶数段変速用シフター52a、52bのいずれかの故障も考えられる。
【0066】
一方、図5に示された回生モードにおいても、ブレーキ機構61、第1、第2奇数段変速用シフター51a、51b、第1、第2偶数段変速用シフター52a、52bのいずれかが正常にインギヤしていなければ、駆動輪DW側からモータ7へとトルクを伝達することはできない。したがって、車両1が回生モードで走行中である場合には、ブレーキ機構61、第1、第2奇数段変速用シフター51a、51b、第1、第2偶数段変速用シフター52a、52bは必ず正常に作用しているということができ、これらの接続状態について判断する必要がない。
【0067】
回生モード中は駆動輪DWが正回転することにより車両1が前進しているため、回生モード中に出力軸回転センサ114の検出値がゼロである場合には、出力軸回転センサ114が故障しているものと考えられる。ここで、車両1が回生モード中であるかどうかは、レゾルバ112から取得されるモータ回転が正であると共に、モータトルクが負である場合に判断することができる。
【0068】
しかしながら、図7に示されるような、エンジン6の駆動力で走行しながら、エンジントルクを逆転方向にモータ7へと加えることによりモータ7で発電する場合(ENG走行+MOT充電)においても、レゾルバ112から取得したモータ回転は正であり、且つモータトルクが負である。また、図8に示されるような、車両の停止(アイドリング)中に、エンジントルクを逆転方向にモータ7へと加えることによりモータ7で発電する場合(アイドリング充電)においても、レゾルバ112から取得したモータ回転は正であり、且つモータトルクが負である。しかしながら、このようにエンジントルクによりモータ7が発電する場合には、第1クラッチ41または第2クラッチ42が係合し、且つエンジン回転数が必ず正となるため、前述した回生モードと区別することが可能である。したがって、本実施形態では、まず、車両1が回生モード中であるかどうかを判断し、回生モード中である場合に、出力軸回転センサ14の故障検知を行なうものとする。
【0069】
以下、本実施形態による出力軸回転センサ114の故障検知処理について、図9のフローチャートを参照して説明する。本実施形態においては、前述したように、車両1が回生モードで走行している場合の出力軸回転センサ114の検出値に基づき、出力軸回転センサ114の故障を検知する。
【0070】
図9に示されるように、まず、ECU5は、不図示のモータECUにより算出されたモータトルクが負の値であるかどうか、すなわちモータトルク<0であるかどうかを判断する(ステップS1)。モータトルク<0であると判断されなかった場合、すなわちモータトルク≧0である場合には、モータ7が例えばバッテリ3の電力によって駆動されているような場合であり、車両1が回生モードで走行している場合ではないので、処理が終了する。
【0071】
ステップS1でモータトルク<0であると判断された場合には、モータ7が発電を行っている場合であり、回生発電を行なっている可能性がある。そこで、次にECU5は、レゾルバ112により検出されたモータ回転数≧所定値であるかどうかを判断する(ステップS2)。ここで、所定値とは所定の正の値であり、モータ回転数≧所定値であると判断されなかった場合は、モータ7のロータ72が回転しておらず、車両1が回生モードで走行している場合ではないので、処理が終了する。
【0072】
ステップS2でモータ回転数≧所定値であると判断された場合には、モータトルクが負であると共にモータ7が正回転していることから、モータ7が回生発電を行なっており、車両1が前進していると考えられる。そこで、次にECU5は、エンジンによる充電判断を行なう(ステップS3)。
【0073】
エンジンによる充電判断の処理について、図10のフローチャートを参照して説明する。まず、ECU5は、第1クラッチ41が係合しているか、または第2クラッチ42が係合しているかどうかを判断する(ステップS21)。第1クラッチ41および第2クラッチ42のいずれも係合していないと判断された場合には、エンジン6の動力がモータ7へと伝達できないので、エンジン6により充電中でないと判断される(ステップS24)。
【0074】
ステップS21で第1クラッチ41または第2クラッチ42が係合していると判断された場合、次に、ECU5は、エンジン回転センサ122により検出されたエンジン回転数>0であるかどうかを判断する(ステップS22)。エンジン回転数>0であると判断されなかった場合、すなわちエンジン回転数≦0である場合には、エンジン6が駆動していないので、エンジン6により充電中でないと判断される(ステップS24)。
【0075】
ステップS22でエンジン回転数>0であると判断された場合には、第1クラッチ41または第2クラッチ42が係合していると共にエンジン6の駆動力がモータ7に伝達されていると判断される。したがって、ECU5は、エンジン6の駆動力によってモータ7が発電中である(エンジンにより充電中)可能性があるものと判断する(ステップS23)。
【0076】
図9に戻って、ECU5は、エンジン6により充電中の可能性があるかどうかを判定する(ステップS4)。エンジン6により充電中である可能性があると判断された場合には、処理が終了する。
【0077】
ステップS4で、エンジン6により充電中であると判定されなかった場合は、車両1の減速中にモータ7が回生している場合である。したがって、次に、ECU5は、出力軸回転センサ114の検出した値がゼロ(NOUTセンサ値=0)かどうかを判断する(ステップS5)。出力軸回転センサ114の検出値がゼロであると判断されない場合には、車両1が前進している状態が出力軸回転センサ114により検出されているといえるので、処理が終了する。ステップS5で出力軸回転センサ114の検出値がゼロであると判断された場合には、車両1の減速走行状態が出力軸回転センサ114によって検出されていないこととなるので、出力軸回転センサ114に何らかの不具合があると考えられる。したがって、ECU5は、出力軸回転センサ114を故障しているものと判定する(ステップS6)。
【0078】
ステップS6で、出力軸回転センサ114の故障を判定した後、ECU5は、ABS制御などに用いられる車輪速センサ118によって、駆動輪DWの回転を検出する。車輪速センサ118により検出された値は、ECU5がファイナルギヤ26aや差動ギヤ機構8のギヤ比で換算することによって、カウンタ軸14の回転数へと変換することができるので、出力軸回転センサ114の検出値に替えて使用することができる。これにより、出力軸回転センサ114が故障している場合であっても、通常と同等の走行を継続することが可能となる。
【0079】
以上説明したように、本実施形態に係る車両によれば、原動機としてモータ7を有する車両1において、車両1が必ず前進している減速回生中に、出力軸回転センサ114の故障を検知可能であるため、出力軸回転センサ114の故障検知が頻繁に実施可能となり、出力軸回転センサ114からの情報の信頼性を向上することができる。また、車両1が減速回生中であれば、第1主軸11と駆動輪DWとが必ず係合状態となっているので、ブレーキ機構61、第1、第2奇数段変速用シフター51a、51b、および第1、第2偶数段変速用シフター52a、52bの係合状態を判断することなく、出力軸回転センサ114の故障検知を行なうことが可能となる。
【0080】
(変形例)
ところで、出力軸回転センサ114を故障と判定した場合、ECU5は車輪速センサ118の検出値を用いずに、リンプホームモード(緊急停止モード)を実施することも可能である。このリンプホームモードにおいて、ECU5は、第1クラッチ41を解放し、第2クラッチ42を接続して第2中間軸16上の偶数段で走行するように制御すると共に、リバース軸17に設けられた偶数段軸回転センサ116の検出値を所定のギヤ比で換算することによって、カウンタ軸14の回転数へと変換することができる。これにより、出力軸回転センサ114が故障している場合であっても、偶数段軸回転センサ116の検出値を出力軸回転センサ114の検出値に替えて使用することができ、最低限の走行を継続することが可能となる。また、偶数段で走行することにより、出力軸回転センサ114の故障に影響し得る第1主軸11の影響を排除することができる。
【0081】
尚、本発明は、前述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。例えば、上述した実施形態においては、モータ7が接続された入力軸である第1主軸11に奇数段ギヤを配置し、モータ7が接続されていない入力軸である第2中間軸16に偶数段ギヤを配置したが、これに限定されず、モータ7が接続された入力軸である第1主軸11に偶数段ギヤを配置し、モータ7が接続されていない入力軸である第2中間軸16に奇数段ギヤを配置してもよい。
【0082】
また、奇数段の変速段として第1速用駆動ギヤとしての遊星歯車機構30と、第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aと第7速用駆動ギヤ27aに加えて、第9、11・・速用駆動ギヤを、偶数段の変速段として第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aと第6速用駆動ギヤ26aに加えて、第8、10・・速用駆動ギヤを設けてもよい。また、各実施形態では、本発明の制御装置がデュアルクラッチ式変速機を備えるハイブリッド車両に設けられる場合について説明したが、本発明の制御装置は、その他の方式の変速機を備えるハイブリッド車両や、電動車両に設けられてもよい。
【0083】
また、モータ7(ロータ72)の回転を検出するレゾルバ112に代わって、第1主軸11の回転を検出するセンサや、光学式の回転センサが設けられていてもよい。また、上述した実施形態では、車両1の回生中に出力軸回転センサ114の検出した値がゼロである場合に出力軸回転センサ114が故障であると判定したが、車両1の回生中に出力軸回転センサ114の検出した値が、負の値や、想定と異なるパルス、想定と異なる電圧値等の不正な値である場合に、出力軸回転センサ114が故障であると判定してもよい。また、エンジン6により充電中、出力軸回転センサ114の検出した値が、負の値や、想定と異なるパルス、想定と異なる電圧値等の不正な値である場合に、出力軸回転センサ114が故障であると判定してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 車両
5 ECU
6 エンジン(内燃機関)
7 モータ(電動機)
11 第1主軸(第1の入力軸)
14 カウンタ軸(出入力軸)
16 第2中間軸(第2の入力軸)
112 レゾルバ
114 出力軸回転センサ
116 偶数段軸回転センサ
118 車輪速センサ
122 エンジン回転センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、
前記原動機からの機械的動力を、前記原動機と係合する第1入力軸で受け、第1同期装置を介して複数の変速段のうちいずれかを係合状態にして前記第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、
前記原動機の回転および/または前記第1入力軸の回転を検出する第1回転センサと、
前記駆動輪の回転を検出する第2回転センサと、を備える車両であって、
前記駆動輪側から伝達されるトルクによって前記原動機が制動力を発生させているとき、前記第2回転センサにより検出された前記駆動輪の回転がゼロ又は負である場合には、前記第2回転センサが故障と判定されることを特徴とする車両。
【請求項2】
前記第2回転センサが故障と判定された場合、車輪速センサの値が前記第2回転センサの値に換算されて使用されることを特徴とする請求項1記載の車両。
【請求項3】
前記原動機としての電動機と、
内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸と前記第1入力軸とを係合させることが可能な第1断接部と、
前記内燃機関の前記出力軸の回転数を検出する内燃機関回転数センサと、を備え、
前記第1入力軸は、前記内燃機関の前記出力軸及び前記電動機からの機械的動力を受けることが可能であり、
前記第1断接部の係合中に前記内燃機関回転数センサにより検出された回転数が正である場合には、前記第2回転センサにより検出された前記駆動輪の回転がゼロであっても、前記第2回転センサが故障と判定されないことを特徴とする請求項1記載の車両。
【請求項4】
前記内燃機関の前記出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、第2同期装置を介して複数の変速段のうちいずれかを係合状態にして前記第2入力軸と前記駆動輪とを係合させることが可能な第2変速機構と、
前記内燃機関の出力軸と前記第2入力軸とを係合させることが可能な第2断接部と、
前記第2入力軸の回転を検出する第3回転センサと、を備え、
前記第2回転センサが故障と判定された場合、前記第2断接部が前記内燃機関の前記出力軸と前記第2入力軸とを係合させ、前記第2変速機構が前記第2入力軸と前記駆動輪とを係合させ、前記第3回転センサの値が前記第2回転センサの値に換算されて使用されることを特徴とする請求項3記載の車両。
【請求項5】
内燃機関と、
電動機と、
前記原動機からの機械的動力を、前記原動機と係合する第1入力軸で受け、第1同期装置を介して複数の変速段のうちいずれかを係合状態にして前記第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、
前記内燃機関の出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、第2同期装置を介して複数の変速段のいずれかを係合状態にして前記第2入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第2変速機構と、
前記内燃機関の出力軸と前記第1入力軸とを係合させることが可能な第1断接部と、
前記内燃機関の出力軸と前記第2入力軸とを係合させることが可能な第2断接部と、
前記電動機の回転および/または前記第1入力軸の回転を検出する第1回転センサと、
前記駆動輪の回転を検出する第2回転センサと、を備える車両であって、
前記駆動輪側から伝達されるトルクによって前記原動機が制動力を発生させているとき、前記第2回転センサにより検出された前記駆動輪の回転がゼロ又は負である場合には、前記第2回転センサが故障と判定されることを特徴とする車両。
【請求項6】
前記第2入力軸の回転を検出する第3回転センサを備え、
前記第2回転センサが故障と判定された場合、前記第2断接部が前記内燃機関の出力軸と前記第2入力軸とを係合させ、前記第2変速機構が前記第2入力軸と前記駆動輪とを係合させ、前記第3回転センサの値が前記第2回転センサの値に換算されて使用されることを特徴とする請求項5記載の車両。
【請求項7】
原動機と、
前記原動機からの機械的動力を、前記原動機と係合する第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれかを係合状態にして前記第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、
前記原動機の回転および/または前記第1入力軸の回転を検出する第1回転センサと、
前記駆動輪の回転を検出する第2回転センサと、を備える車両の故障検知方法であって、
前記駆動輪側から伝達されるトルクによって前記原動機が制動力を発生させているかどうかを判断するステップと、
前記駆動輪側から伝達されるトルクによって前記原動機が制動力を発生させていると判断された場合に、前記第2回転センサにより検出された前記駆動輪の回転がゼロ又は負である場合には、前記第2回転センサを故障と判定するステップと、を有することを特徴とする故障検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−49323(P2013−49323A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187663(P2011−187663)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】